韓国が自国を棚に上げて「福島原発」を目の敵にする理由
原発処理水の海洋放出に唯一反対、日本産水産物輸入を全面的に禁止をと息巻く
北朝鮮の核施設などに対する国際原子力機関(IAEA)の検証準備態勢と協力に関する韓国外交部とIAEAの高官級政策協議会が、11月3日にソウルで行われた。そこで韓国外交部は、東京電力福島第1原発処理水の海洋放出にIAEAが積極的な役割を果たすよう要請した。
一方、韓国でも原発のトラブルが露呈するなか、政府の「大本営発表」を鵜呑みにする韓国の消費者は、自国産食品を口にする恐怖に気づいていない。
日本政府が福島原発処理水の海洋放出を表明すると、韓国政府は過敏に反応した。日本産水産物輸入を全面的に禁止すると息巻いて、国際社会と連携して反対すると主張したのである。
一方、米国や欧州連合(EU)、太平洋島嶼国などは、海洋環境に与える影響を懸念しながらも日本政府の決定を尊重する立場を取っており、中国とロシアも反対を表明してはいない。
中国は、東海岸の原発から大量の汚染水を排出しており、日本の海洋放出に反対できる立場にない。
すべての日本産水産物が汚染されているなら日本海に面する韓国の東海岸も同様で、西海岸は中国によって汚染されているのだが。
2011年3月以降、損壊した福島第1原発の建物に雨水と地下水が流入。
東京電力は、その地下水などと核燃料の冷却水が混ざった汚染水を多核種除去設備(ALPS)で取り除いて貯蔵してきたが、2022年10月頃に満杯になるとみられており、法令で定められた基準値を下回る処理水を海洋に放出する方針を発表した。
11年4月、韓国政府は日本産食品の輸入制限を発表した。
原発事故から1か月の間に食品から放射線物質が検出された13都県の食品は、通関の際に日本政府が発行した放射性物質検査証明書の提出を義務付け、他の道府県は産地証明書の提出を義務付けた。
日本産食品はすべて放射能に汚染されているというデマに悩まされた
当時、日本の食品の放射能に関する検査や証明書の発行は米国の基準に併せて商工会議所が担っていた。
政府機関が検査や証明書を発行する制度はなく、韓国向け日本産食品の輸出は全面的に中断した。
韓国に到着した輸入食品は、1週間から3週間の食品検査を受けた後、通関手続きに入るが、発表から施行まで2週間程度しかなく、検査に着手していない食品の施行日前の通関は物理的に不可能だった。
食品の貿易取引は本船渡し(FOB)、すなわち輸出港での引き渡しが一般的で、日本を出港した食品の代金や輸送費などは輸入者の負担となる。
日本産食品の輸入各社は、すでに日本を出港した食品を例外とするなど、見直しを求めるロビー活動を行い、日本政府も商工会議所の証明書を認めるよう要請したが、韓国食品医薬品安全庁は頑として受け入れなかった。
韓国で加工食品を所管する食品医薬品安全庁のカウンターパートは、医薬品を所管する厚生労働省だが、日本の加工食品は主に農林水産省の所管である。
厚生労働省と農林水産省から在韓日本大使館に出向していた職員とジェトロソウル、食品を扱っていた在韓日系企業が連絡を取り合いながら対策を練り、同年6月、日本政府機関が証明書を発行するスキームが構築された。
私事で恐縮だが、筆者も当時は食品の輸入に携わっており、厚労省職員などと頻繁に連絡を取り合った。
食品輸出は再開したが、日本産食品はすべて放射能に汚染されているというデマに悩まされた。
「フクシマ」と似ているという理由から福岡県産の食品が不買に遭い、食品医薬品安全庁は沖縄産黒糖の輸入に難色を示した。
日本の原発は市町村名が多く、都道府県名を付している原発は福島と島根しかない。福島の場合は原発を建設した当時の県知事が「フクシマ」の名称を広めるため、県名を付したという。
日本以外から輸入した食品や国産食品の検査が行われることはない
原発事故から時間が経つにつれて、日本産食品の輸入規制を緩和する国が増えるなか、韓国だけ対応は違っていた。
19年7月、日本政府が韓国向け輸出管理を強化すると、韓国政府は過去に放射能が検出された品目の検査を2倍に増やすなど検査を強化し、ソウル市も翌8月から1か月かけて日本産農水産物や日本産の原料が含まれる加工食品の放射能検査を実施した。
食品に含まれる放射性物質は世界主要国のなかで日本が最も厳しく、大手スーパーなどは、日本政府よりはるかに厳しい基準を設けている。
そもそも韓国政府は輸入時に全品検査を実施している。
その検査に不備があるか、あるいは、非正規の輸入品でない限り、厳しい基準をクリアした日本製品から放射性物質が検出される可能性はない。
実際、セシウムやヨウ素などは一切検出されなかった。
日本の食品に放射能検査を義務付ける一方、日本以外から輸入した食品や国産食品の検査が行われることはない。
韓国大手商社が2014年、ソウルでスイーツの国際イベントを主催して、欧州などから食材を輸入したことがあった。
欧州産食材は、一部は直送、一部は日本の港を経由したが、日本を経由した食材だけが放射能検査の対象となった。
日本の港を経由した食材から韓国の基準を超える放射性物質が検出され、輸入は不許可となったが、欧州から直送した食材の検査が行われることはなく、イベントの参加者に供された。
スイーツ材料に含まれる放射性物質の基準は、日本と韓国は1キログラムあたり100ベクレルで、EUは1250ベクレルである。韓国は370ベクレルだったが、福島原発の事故後に、日本を模倣して引き下げた。
産業通商資源部の職員が証拠を隠滅していた
福島原発に目くじらを立てる韓国だが自国の原発には問題が少なくない。
19年7月、全羅南道霊光のハンビッ原発4号機の防護壁から157センチの隙間が見つかった。コンクリート壁の厚さは167.6センチで、10センチを残して空洞になっていた。
韓国水力原子力(韓水原)は2016~19年に国内の原発を調査し、8基の原発から295か所の隙間を発見、10基の原発で777か所の鉄板腐食を発見。
隙間の約94%に当たる278か所と鉄板腐食の約60%に当たる467か所がハンビッ原発から見つかった。韓水原は建設時のコンクリート打設が不十分だったと分析している。
10月には、韓国監査院が月城原子力発電所1号機の早期閉鎖に関する監査を実施した際、産業通商資源部の職員が証拠を隠滅していたことが明らかになった。
月城原子力発電所1号機は、韓国2番目の原子力発電所として、1982年に稼働を開始した。
設計寿命の30年が経過した12年に停止した後、7000億ウォン(約660億円)を投入して老朽化した部品を交換するなど安全性を強化し、15年6月から再開したが、文在寅大統領が脱原発を宣言し、早期閉鎖が決定した。
最大で基準値の157倍のウランが
早期閉鎖は、産業通商資源部が提出した資料をもとに原子力安全委員会が決定したが、同部が文政権の意向に沿い、過小な経済的評価を行っていた可能性が浮上した。
韓国監査院が監査を実施することになったのだが、監査前日の日曜午後11時、職員が事務所に入り込んで、資料など444件のコンピューターファイル名を変更、削除するなど「証拠隠滅」を図った疑惑が浮上した。
国土面積当たりの原発密集度が世界で最も高く、なかでも半径30キロメートル以内に380万人が居住する古里原発は「世界の原発団地のなかで、最も居住者が多い」と環境団体が懸念を表明している。
地下水もまた放射能に汚染されている。19年10月、韓国内で飲料用地下水76か所から基準値を超えるウランが検出され、最大で基準値の157倍にも達していた。
07年には環境部が世界保健機構(WHO)勧告値の109倍のウランが検出された地域に地下水の飲料を禁止する通告を出したが、汚染の可能性が浮上したのは03年で、4年間も放置していた。
もちろん、日本も100%安全だとは言い切れないが、少なくとも正規ルートで基準値を超える食品が消費者に届くことはない。
韓国でも日本の基準を超える日本産食品が流通することはないが、政府の発表を鵜呑みにし、韓国産の安全神話を信奉する韓国人は、安全が確認されていない食品を食べ続けている。
佐々木和義
広告プランナー兼ライター。商業写真・映像制作会社を経て広告会社に転職し、プランナー兼コピーライターとなる。韓国に進出する食品会社の立上げを請け負い、2009年に渡韓。日本企業のアイデンティティや日本文化を正しく伝える必要性を感じ、2012年、日系専門広告制作会社を設立し、現在に至る。日系企業の韓国ビジネスをサポートする傍ら日本人の視点でソウル市に改善提案を行っている。韓国ソウル市在住。
週刊新潮WEB取材班編集
2020年11月11日 掲載