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21世紀に入ってから流布された朝鮮人を巡るデマが混入している疑い

 当該ツイートが非難された理由は、1945年当時の13歳の少年の日記としながら、21世紀に入って日本社会で広く流布された朝鮮人を巡る偏見やデマが混入しているのではないかという疑いが濃いからだと考えている。私が当該ツイートを最初に読んだ印象で言えば、いったいどんな資料をもとにツイートを作ったのだろうという深い疑問だった。

 まず6月16日のツイートだが、ささいな言動で治安維持法違反などの容疑をかけられ拘引、勾留、有罪判決を受け服役、時には獄死することもあった戦争末期に、日本人の中学生の耳に入るような声で「日本は戦争に負ける」と朝鮮人労働者が言うだろうか? という疑問だった。もしそのような発言があったとして、その発言は何語でされたのだろうという疑問だ。当時の内地(広島)の中学生が朝鮮語を理解したのだろうか? 朝鮮人があるいは日本語で話したとしたら、なぜそんな危険を冒したのだろう? と首を傾げる。当該ツイートには「言葉から朝鮮人と分かる」という表記もある。前述のようにモデルの日記の6月16日には朝鮮人に関する記述はない。思い出の中で、あの時朝鮮人は日本の敗戦についてもう話をしていたに違いないと、想像が付け加えられる可能性はないとは限らない。だとしても、なぜ6月16日という日付に朝鮮人労働者の姿を付け加える必要があったのかはNHKの説明なしには理解することができない。

 6月16日のツイート以上に、多くの人の怒りをかったのは8月20日のツイートだ。率直に言えば、ここ数年、ヘイトスピーチに抗議してきた人々にとってはあまりにも見慣れた、戦後の朝鮮人に関するデマにそっくりだったのである。デマのさいたるものは

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筆者

中沢けい

中沢けい(なかざわ・けい) 小説家、法政大学文学部日本文学科教授

1959年神奈川県横浜市生まれ。明治大学政治経済学部政治学科卒業。1978年「海を感じる時」で第21回群像新人賞を受賞。1985年「水平線上にて」で第7回野間文芸新人賞を受賞。代表作に「女ともだち」「楽隊のうさぎ」などがある。近著は「麹町二婆二娘孫一人」(新潮社刊)、対談集「アンチ・ヘイトダイアローグ」(人文書院)など。2006年より法政大学文学部日本文学科教授。文芸創作を担当。

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