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日本のスポーツを世界へ。国際貢献におけるスポーツの可能性。
posted2020/12/17 13:00
text by
福田剛Tsuyoshi Fukuda
photograph by
Takuya Sugiyama
北岡 私が理事長を務めていますJICA(国際協力機構)は、日本の政府開発援助(ODA)の実施機関として、開発途上国への協力を行っている機関です。
開発途上国でスポーツというと、ちょっと意外に感じられるかもしれません。もちろん、スポーツを楽しむためには、一定の余暇や栄養が必要ですが、スポーツは特定の人達だけが楽しむものから、様々なモチベーションを持つ人達の間の社会形成の機能をもつものとの認識が広まりつつあります。JICAは、相手国のスポーツを通じた開発を後押しするために、様々な形で協力しています。その一環がJICA海外協力隊の派遣です。隊員は現地で暮らしながら、持っている技術や知識、経験を使って開発途上国の発展に貢献します。農業、医療など、多様な分野で隊員を派遣していますが、スポーツ分野でも1960年代から草の根レベルでの活動を続けてきました。さらにその取り組みを強化するために、今年7月にJOC(日本オリンピック委員会)と連携協定を締結させていただきました。山下会長にはJICAの活動に賛同いただき、とても感謝しています。
山下 私自身、以前からNPOを立ち上げ、柔道を通じて様々な形で国際的な活動を行ってきました。昨年JOCの会長になったことで、スポーツを通じての国際貢献を日本スポーツ界全体に広げていきたいと考えていたところに、北岡理事長からお話をいただき協定を締結させていただきました。記者会見の席でも話しましたが調印して終わりではなく、これからがスタートだと思っています。ここにいらっしゃるJPC(日本パラリンピック委員会)の河合委員長も巻き込んで様々な形で国際貢献ができればいいですね。
北岡 山下会長はNPOではどんな活動をされていたのですか?
山下 柔道を通じて世界と交流し、開発途上の国々を支援しながら相互理解を深めていくということを目的に、2006年から会長職に就く19年まで活動していました。70以上の国や地域に柔道着や畳の寄贈、柔道後進国への指導者の派遣や海外からの選手、指導者の受け入れなどが主な活動になります。特に相互理解という点では、イスラエルとパレスチナ両国の交流に力を入れてきました。
北岡 紛争している国同士の交流というのはとても難しいと思いますが、どういった形で進めていたのでしょうか?
山下 両国から指導者を招いて、同じ畳の上に立って柔道を学んでもらう。これだけのことですが、彼らの母国では絶対にできないことです。子ども達を日本に招いて1カ月くらい一緒に学んでもらった年もありました。同じバスで移動するのですが、最初は前と後ろに分かれて座る。まるでお互い人間じゃないようなものを見るような感じなんです。でも1カ月も一緒に生活しているとお互いに分かり合えるんでしょうね、最後に福岡で開催される国際柔道大会に出場した頃にはお互いを応援しあうようになっていました。スポーツには人々の心を動かし、平和をもたらす力があると実感しました。