|
■メーカー:ファルコン ■メディア:アーケード ■ジャンル:アクション ■発売年 :1981年 |
『ドンキーコング』のコピーゲームとして、非常に知られた作品(と言っていいものか?)である。 違法商品なのは確かなんだけれど、何か憎めないのよね~、コレ…。 |
発売メーカーはファルコン。残念ながら(!?)会社概要などについては全く情報が得られなかったが、 とにかくこの素性の知れないメーカーが、任天堂に無断で『ドンキーコング(以下『DK』)』を改造。 そうして名コピーゲーム(!?)『クレイジーコング(以下『CK』)』は世に放たれたのである。 |
||
|
ファルコンは『CK』製造後、任天堂から正式にライセンスを 受諾。つまり、事後承諾ではあるものの、『CK』は一応任天堂 公認のコピーゲームなのであった。サブタイトルで「できちゃっ た婚」と例えた由縁はここにある。ルールを多少逸脱しても、後 で正直に申し出れば情状酌量ってあるもんやね~。ハナからルー ルに則って行動するに越したことはないけれど。 が、北米を除いた海外のみでの販売許可であったものが、ひょ んなことから日本国内でも大量に流出。このためにファルコンは 任天堂から民事訴訟を起こされ、『CK』は正式に違法コピー商 品の烙印が押されることとなった。 そうして次なるコピーゲーム『クレイジーコングJr(もちろん 『ドンキーコングJr』の改造)』の無断製造事件において、任天 堂はついにファルコンを刑事告発――社長が逮捕される運びと相 成った。ゲームの違法コピーによる逮捕例は実はこれが史上初。 ゲームが立派な文化・芸術であることを示す意味でも大変意義が あったと思う。 それにしても「『ドンキーコング』は『キングコング』のパク リだ!裁判」と言い、「任天堂vsテンゲンの『テトリス』権利裁 判」と言い、任天堂って裁判においては常勝無敗だよな~。 |
|
そんなわけで、晴れて違法コピー商品にノミネート
される運びと相成った『CK』だが、これがもう国内 のあちらこちらで大盛況であった。 出荷数の多さもさることながら、基板の作りの簡素 さが何よりの利点であったという。オリジナルである 『DK』よりも配線が遥かにシンプルであったため、 手軽に汎用筐体で稼動させられたらしい。おかげで、 |
ゲーセンやデパートのゲームコーナーはもちろんのこ
と、駄菓子屋やボーリング場といった場末的な遊戯場 でもしょっちゅう目にすることができた。当時はこれ をオリジナルの『DK』と思っていた人も多かったろ うなあ。かく言う筆者も、小学校低学年の頃に目にし て「変な色の『DK』だな~」なんて思っていたし。 今となってはいい思い出だけれど^^ |
ちなみに、この『CK』を更にコピーした品というのが数多く存在するらしい。単に社名の 「ファルコン」を削除したものから、タイトルを『ビッグコング』だの『モンキードンキー』 だの挿げ換えたものまで…。ゲーム内容そのものにほとんど違いは無いにせよ、無節操極まり ないよな~、本当。そんな小細工で小金を得るよりも、真面目に働いた方がよっぽど安全かつ 堅実に収入が得られるんじゃないの? 当時これらのコピー事業に携わった人々に訊いてみた いものである。 |
|||||
|
|
まあ、コピー基板としての誕生経緯はそんなところ。そして肝心要のゲーム内容の方だけれど… これはさすがにオリジナルの『DK』ほぼそのまま。4方向レバーとジャンプボタンひとつでマリ オを操るという、ゲームシステムそのものには何の改変も無い。それだけ、オリジナルの時点での 完成度がいかに高かったかということが伺えるよなあ。 |
それではどんな点でオリジナルとの差別化を図って
いるのかと言うと、ズバリ「演出」。こういう風に言 うと聞こえはいいけれど、要するにグラフィックやサ ウンドをいじくって元と違うっぽく見せているという こと。解り易く言えば「『ストⅡ』→『ストⅡ’』」 みたいなもの。違いは、他社のゲームでやるか自分と このゲームでやるかという点かねえ。 |
まあでも姑息な手段ながら、これによって『DK』 とは違うという印象を与えることには成功していると 思う。しかし「差別化」には成功していても、「出来 映え」が良かったかと言うと全くそんなことはない。 はっきり言って、オリジナルの看板に泥を塗るかの様 な「改悪」なんだよねえ。ここではそれらをより詳し く検証してみよう。 |
1面のグラフィックを見て判る様に、『DK』では赤紫だっ
た鉄骨が緑に変更。他の面も何か目に優しくない色合いに変え られているのである。そこで動くキャラなんかも、妙~に白っ ぽい感じになっているのが判るかと思う。もうこれだけで、言 い様の無い安っぽさが伝わってくるよなあ。よそからパクって きたものをガチャガチャ作り変えただけって感じの。 しかし、この毒々しいカラーリングによって『CK』の印象 がユーザーの心に焼き付けられたのも事実ではある。「水清け れば魚住まず」の格言通り、多少荒っぽい方が人に受け入れら れる場合ってあるんだよねえ。本当、何が幸いするか判ったも んじゃない? ちなみに、マリオの色使いは後の『スーパーマリオブラザー
ズ(FC)』っぽい感じで、ミスするとルイージカラー(白と 緑)になるのは予言かも!? |
|
これの最たる例が、敵ボスであるコング。
1面でタルを転がしている姿はオリジナルの ままだけれど、2面以降のドラミング(ゴリ ラが胸を叩く威嚇行為)している絵があまり にもカッコ悪い! オニギリ頭と妙に引き締 まった体格で、まるで昭和30年代のガキ大将 みたいなイメージなの。子供心にも「これは 偽者なんじゃないか」と思わされたものであ った。『DK』では、丸っこくディフォルメ されたコングに愛嬌すら覚えたもんだけれど な~。無理にいじくらない方が明らかに良か ったんじゃないかと思うんだけれど。 他、些細なことだけれど、4面で床から抜 くボルトもグラフィックが荒いものに変わっ ている。そんな細部にまでわざわざ手を加え て逆にダメにしているなんて、忙しいのか暇 なのか…。 |
|
|
これこそは実際にゲームに触れなければ判らないだろうけ
れど(You Tubeで見られるけれど)、順番に挙げていこう。 まずゲームスタート時の、コングがレディを抱えてハシゴ を登ってゆくシーン。『DK』が「デ~デデ~デ~デレレレ レレレレ~レ~」という重々しい感じだったのが、『CK』 では「ビン、ビビン、ビン、ビン」という耳をつんざく様な 響きになっているんだよねえ。 いきなりがこれだから、以降のサウンドの乱れっぷりも推 して知るべし。タルを跳び越えたら「キョロン!」、ハンマ ーで壊したら「トン、トロロン!」っていう風に、ことごと く別サウンドに変えてあるの。ミスやクリアした時のBGM も然り。パクリ商品とは言え、何とかオリジナルとの差別化 を図ろうという歪んだ努力にはちょっと頭が下がるかねえ。 |
それくらいはまあ「これはこれで…」で容認でき
なくもないけれど、個人的にどうにも抵抗感がある のが3面のスプリングの音。 『DK』では「ピョコ、ピョコ、ピョッコーン」と いったテンポのいいリズムを刻んでいたのに、『C K』では「ノン、ノン、ノン、ノ~ン」なんていうメチ ャ気だるいのになっているんだよねえ。はっきり言 って聞いていて虫唾が走る! まるで地の底から伸 びてきた手に心臓を鷲掴みにされるかの様で…。あ んまり長時間聞いているとノイローゼに陥りそうな クソサウンドである。また録音して嫌な奴の枕元に 忍ばせてやろう。 ちなみに、ジャンプの際に叫ばれる「ホヤッ!」 というボイスは、『クレイジークライマー』のゴリ ラからの流用。ベースとした基板自体もまた別メー カーのなんだから、本当リサイクル精神に溢れてい ること^^ |
|
コピー商品と言うと、一見オリジナルのバージョンアップ版
みたいなものを製造するのが一般的である。オリジナルには無 いアイテムやフューチャーがあったり、キャラクターやグラフ ィックを全く違うものに描き換えたりとか。ところがこの『C K』は、「質を落とした『DK』」というイメージがあるんだ な~。実際その通りなんだけれど。 単にタイトル画面やカラーリングを変えただけに止まらず、 グラフィックやサウンドをわざわざ「改悪」してまで元との違 いを出そうとしているって感じである。やっている人らは違法 行為ながら一生懸命だったのかも知れないけれど、こんな「洋 式トイレをわざわざ和式便器に付け替える」様な行為(そのま まにしときゃいいものを、わざわざ手を加えてダメにしちゃう こと)に空しさを覚えなかったのかなあ…。 このおかげで『CK』は、「廉価版『DK』」というイメー ジで世間に広まることとなってしまった。こんなもん大々的に バラ撒かれたら、任天堂が憤怒するのも無理なかろうて…。 |
|
|
それでも、その扱い易さ故に日本全国津々浦々 にまで出回った『CK』。下手すれば、任天堂公 式じゃない分こちらの普及率がオリジナルを凌い でいた可能性すらあるんじゃなかろうか? 実際、子供の頃は『CK』を見た覚えの方が多 かったと思う。世の汚れやしがらみを知らない頃 は、見た目や実情に捕らわれずに純粋にプレイに 親しんでいたよ。外見のハリボテ感はともかく、 肝心のゲーム性自体は『DK』と何ら違わないわ けだったし。 大人の視点から見たら、まさに「ユーザーだま し」だったわけだけれど、今じゃ幼少時のいい思 い出である。違法コピー商法の撲滅はもちろんと して、純粋にゲームに熱中していた頃の記憶まで は汚さずに残しておきたいなあ…。 |
そしてこの『CK』、コピー商品でありながらパートⅡなるものが製造されていたからビックリである。 筆者も2006年くらいに知って驚かされたところ。よそのパクリでシリーズものを展開するとはつくづくいい 度胸しているよなあ、ファルコン。 |
これがパートⅡのタイトル画面。 一応、前バージョンの「続編」だそうで…。 |
まあシリーズとは言っても、単純なバージョンア ップ版である。グラフィックやステージ構成をほん のちょっといじくってある程度の。解り易く言うな ら「『ストⅡ’』→『ストⅡ’ターボ』」みたいな もの。こんなこと、ゲームを「作品」じゃなく「商 |
品」としてしか見ていなけりゃできない所業だよ な~。ま、所詮よその子だからどう引っ掻き回し ても心は痛まないんだろうけれど。自らの子を引 っ掻き回して呵責が無い様ならメーカーとしてお 終いとも言えるが。 |
|
前バージョンが全般に渡って毒々しい色付けであった
のに対し、パートⅡではご覧の通り。けっこう親しみ易 い感じの配色となっている。1面なんかは鉄骨がオレン ジに変わったおかげで、オリジナルの『DK』により近 い感覚でプレイできると思う。 人間は情報の大部分を「視覚」に依存するだけに、そ の視覚的不快が解消されたのは大きいと言えよう。全般 的に白っぽかったキャラクター達にも手が加えられ、活 き活きした感じのする色合いになったし。「暖色・寒色 による体感温度の差」の例の如く、色使いが人間の感覚 に与える影響ってのは大きいってわけかねえ。 なお、マリオの配色もオリジナルとほぼ同色となった
が、死んだ時に色が変わるのは相変わらず。しかも、前 バージョンではルイージカラーだったのが、今バージョ ンではワリオっぽい色に…。 |
2周目以降、地形に若干の変化が加えられ
て難度に影響が出る。1面で床に穴が空いて いる、3面で一部の足場が狭くなっている等 些細なものであるが、延々ループを繰り返す ゲームにおいては気のたるみを引き締めるス パイスとして悪くない。無理矢理変化をつけ ようとして盛り込んだのは明白だけれど、ど うやらプラスに向いたみたいで良かったね、 ファルコン。 だが、1面でしょっぱなから「床が消滅し ている」ために、上の方のハンマーが取り様 が無くなっているのはどうだか…。 |
|
|
何気に快挙なのがコレ。まずはコイン投入前の画面だが、前回捕獲し
たコングが檻を破って脱走するというデモシーンが追加されている。コ ングが何回かステップを踏んだら、鉄格子がパタン!と倒れて檻が開い ちゃうというもの。ゲームプレイ自体に影響は無くとも、こういうのが あるだけで気分が格段に盛り上がるんだよねえ。「何べんでもとっ捕ま えてやるぜ!」とか無意味に燃えちゃったり^^ 他、4面クリアの際に落っことされたコングが「GIVE UP!」 と叫んだり等、雰囲気の盛り上げ要素にやたら力が入っていたりする。 こういう余計な所に注ぐ情熱を、なぜ自社ゲー開発とかの真っ当な道に 向けられなかったかな~。他人のマワシを豪華仕様にして相撲をとるみ たいなもんじゃん。シナよりは全然マシだけれど、返すがえすも惜しい ぞ、ファルコン! |
「コングが檻を破って脱走…」のデモシーンだが、小3の頃 に見た記憶がある。デパートの屋上ゲーセンで、20数台並ん だテーブル筐体のひとつに。 コングが重々しく「デン、デン、デン」と小ジャンプした と思ったら、鉄格子が倒壊して檻開放。そしてコミカルにも 不気味なBGMが鳴り渡る…っていうの。子供心に、このデ モシーンが非常に印象的であった。 オリジナルの『DK』には無いものだし、一体どういうも のだったのか長年の疑問であったが、それがやっと最近氷解 した。『CK』の、しかもパートⅡなんてもののデモだった とはねえ。モノが違法商品だったにせよ、幼少時のピュアな 思い出としては大切にしておきたいと思う。今でもコング脱 走シーンを見るたびに、あのちょっと薄暗くてゴチャゴチャ していた屋上ゲーセンが記憶にありありと…。 |
|
|
筆者は詐欺・詐称行為が大嫌いである。本物を騙って、その名 誉や財産に損害を与える輩の存在を済ませないタチなのである。 単純な話、人間に犯せる最も重い罪は「裏切り」だもの。人間 社会はお互いの信頼によって成り立つものだから、裏切り行為は それと真逆のポジションに位置するわけ。嘘をつく、人を騙す、 約束を破る…まさしく最低の所業に他ならん。実際、そんなもの が蔓延している大陸の国々は国内ガタガタだもんな~。 しかも、「殺人」ならものの弾みや自己防衛のケースもあるけ れど、「裏切り」は間違いなく故意で悪意! 許されない悪事を 悪心をもってわざとやったんだから、情状酌量の余地など一切無 い! そういった腐れ外道どもは、未遂の同類に対する警告も含 めて極刑に処すべしである。そのため、見せしめや公開処刑の復 活を切望する! 刑が嫌だったら最初から悪さしなけりゃよかっ たんだし。この「ケジメ」の厳しさがあったからこそ、昔の日本 はみんな真面目で治安ももっと良かったんだよなあ。 |
などと言うくらい「まがい物」というものの存在に容赦無い筆者であるが、この『CK』だけは どうにも例外的に甘いんだよな~。冒頭でも書いた通り、違法商品には違い無いけれど何か憎めな いのよねえ。故に、最近でもエミュレーターでちょいちょいプレイしてしまう。まったく、私とし たことが…(自嘲)。 |
恐らくは、何も判らなかった幼少時に「思い出」をもら ってしまったからなんだろうなあ。本物・偽者とかいうこ とを知らずに、純粋にそのゲームプレイに親しんでしまっ たが故に。あの頃は何の色メガネも無く、ただ心からゲー ムに熱中するのみだったから――。 これって、ドラマとかでよくあるアレに近い感覚かもね え。「無医村にやって来た医者が、数十年後に無免許医だ ったことが判明。しかしその数十年間で、数多くの村人が その偽医者によって救われてきた…」という様な。根本的 にルールを逸脱した存在とは言え、良くしてもらっちゃう とどうにも情が移ってしまうなあ。この「情」と「守るべ きルール」との板挟みに合い、人は時としてジレンマに苛 まれる…。 |
|
任天堂から公式に違法コピー商品として認定を受け ているだけに、その後は徐々にその数を減らしていっ たであろう『CK』。筆者も純正(!?)のを最後に見 たのは小3の頃が最後である。格闘ゲームの狂気的ブ ーム、そしてその後のアーケード業界の斜陽を経た現 在では尚更であろう。 それでも、もし古い駄菓子屋や遊園地のゲームコー ナー、あるいは観光施設やドライブインなんかで『C |
K』が生き残っていれば、今後も細々と生き永らえて くれればと思う。ユダヤ人からの報復から逃避行を続 けるナチの残党を応援するみたいで心中複雑だが、昔 は随分遊ばせてもらった「恩」があるしなあ。 任天堂だって今更そんなに突っつかないだろうし、 まあこの件は時効と思っていいっしょ。だから改めて 『CK』にこの言葉を贈りたいと思う。 |
クリアシーン。色使いがメチャクチャ、コングの頭が逆さま…。 ここまでサイケデリックだと逆に感服つかまつるなあ。 |
で、パートⅡ。コングもとうとう降参表明! しかしゲームオーバーまでは延々バトルの繰り返し…。 |
(C)FALCON 1981