新型コロナの扱いをインフルと同じ5類まで下げるべきと医師が主張 保健所からも悲鳴
2021年01月08日 09時04分 デイリー新潮
2021年01月08日 09時04分 デイリー新潮
2021年01月08日 05時59分 デイリー新潮
医療の逼迫(ひっぱく)を理由に「緊急事態宣言を」と安易に叫ぶ輩(やから)もいるが、社会に決定的ダメージを与える前に打つべき手は山とある。その決定打たる指定感染症2類相当の解除をテレビで訴えた医師に、どうやら圧力がかかった。その正体こそが、国民の命の敵であろう。
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フジテレビ系の朝のワイドショー「とくダネ!」で12月21日、小倉智昭キャスターは「経済優先を考える人は、報道が緊急事態を煽りすぎるとか、医療崩壊はあり得ないって言うんですが、その根拠っていうのは、まったく僕にはわからない」と発言。そして「実際に京都では病院が逼迫している」とつけ足した。
残念ながら、不勉強と言わざるを得ない。いま新型コロナウイルス患者を受け入れている病院の多くが逼迫しているのは、事実である。だからといって、立憲民主党の枝野幸男代表が叫ぶように、緊急事態宣言を出すしか道がない、というわけではあるまい。
本誌(「週刊新潮」)は繰り返し主張してきたが、問題は、医療機関や医療従事者の間に生じている負担の偏りである。
日本の医療法では、都道府県知事は病院の医療内容に口を出せない。それでも公的医療機関にはそれなりに指示できるが、民間に対してはお手上げだ。しかも、日本は欧州諸国とは真逆で、8割超が民間病院。その多くがコロナ患者を受け入れないから、一部の医療機関に負担が集中している。
それでも民間病院が悪いとは言えない。指定感染症第1、2類相当とされている新型コロナには、致死率5割超のエボラ出血熱並みの対応を求められる。近年の医療費削減もあり、余裕がない民間病院には負担が重く、受け入れれば風評被害も避けられないからだ。
逆に言えば、この不均衡が是正されれば、医療の逼迫が深刻に語られることもなくなるのではないか。感染者数、死者数ともに桁違いに多い欧米でも、医療は逼迫しこそすれ崩壊しない。一方、日本の医療は世界トップレベルで、人口当たりのベッド数も世界一といわれているのである。
ところが、なぜかこの弱点を是正しないのが現政権であり、コロナ禍で経営が逼迫した多くの企業や店に引導を渡し、倒産や失業を生む、という選択肢を選ぼうとしているのが、枝野代表たちである。
そんななか、日ごろ感染拡大の恐怖を煽るばかりの民放のニュース番組が、コロナ治療の最前線に立つ医師の、悲鳴にも似た提言を紹介した。12月17日、テレビ朝日系「報道ステーション」に、日本赤十字社医療センター呼吸器内科部長の出雲雄大(たけひろ)医師が出演し、新型コロナは「指定感染症から外すべき」であり、インフルエンザと同じ「5類まで下げるべき」だと主張したのである。それは概ねこんな内容であった。
「濃厚接触者に認定されますと、基本的には2週間自宅待機しなければならないんです。当院では、1度53人が濃厚接触者になったことがあり、全員にPCR検査をしたら陽性者は1人だけでした。つまり52人は特に症状がなく、感染もしていないのに、2週間働けない状況でした。当然人員が足りなくなり、病棟を閉鎖したり、外来や救急、手術を止めたりしなければいけなくなりまして」
「入院は重症の患者さんを中心とするべきだと思います。濃厚接触者の洗い出しなどの作業を、保健所等でしていただいていますけど、そのようなマンパワーをほかに割いていくべきだと私は思います。たとえば5類の季節性インフルエンザは、例年日本では1千万人くらいの方がかかるわけです。約1万人が亡くなって、明らかにコロナより多いわけですけれども、現在言われている医療逼迫が、たとえば去年、起こっていたかというと、そういうことはなかったと思います」
富川悠太キャスターが、新型コロナにはワクチンも特効薬もなく、感染者の容体が自宅で急変したらどうするか、と問うと、
「インフルエンザや心筋梗塞の人が自宅で急変しないのかというと、そんなことはないと思います」
と言い、血中酸素濃度を測るパルスオキシメーターを配り、93%を下回ったら入院、という方法もとれると提案。現場は「コロナに対するゼロリスクをとるのかどうか」という問題になっており、このままでは、救急患者の治療ができない事態すら招くとして、
「多くの国民の健康と命を守るという意味でも、すぐ具体的な方策をとりたいというのが思いです」
と締め括ったのである。
同様の声は、出雲医師も言及した保健所からも上がっていた。12月8日、全国保健所長会が「緊急提言」を厚労大臣に提出。保健所では〈危機的な状況が継続している〉と訴え、〈感染症法上の運用をより柔軟に対応すること〉などを提案したのである。全国保健所長会会長で大分県東部保健所長の内田勝彦氏が言う。
「私が勤める保健所では、感染症法上で2類に分類される結核の報告数は、年に30件ほどですが、新型コロナの報告は、ここ2週間で約80件。結核でいうと3年弱の業務量が2週間で押し寄せたのです。東京や大阪は、一気に通常の100倍以上の負担です。土日出勤は当然で、深夜までの長時間労働で回していますが追いつきません。しかし、濃厚接触者の健康観察期間である2週間、毎日連絡して体調を確認しているのを最初と中間と最終日に確認し、あとは具合が悪くなったときに連絡をいただくことにできれば、業務量はかなり変わると思います。また入院病床が逼迫した地域では、最初から原則入院ではなく、本当に入院が必要な人にのみ入院を勧告する、という形にすることを提案します。2類相当という方針を、感染が拡大した地域だけでも変えるなど、柔軟に対応していただきたいのです」
保健所や一部の医療現場の逼迫をもって、メディアも野党も「緊急事態宣言しかない」と煽る。だが、現場が切実に望んでいるのは社会や経済を閉じることではなく、医療および周辺の体制整備だ。東京脳神経センター整形外科・脊椎外科部長の川口浩氏が指摘する。
「新型コロナウイルスは2020年1月28日、閣議決定で“指定感染症(2類感染症相当)”とされました。しかし、政府はすぐに当初の政令を“無症状陽性者にも入院勧告を行う”と変更した。これは1類感染症相当の対応です。こうして1類のエボラ出血熱と同等の、極めて厳しい措置が新型コロナに適用され、国民と医療現場に過度の負担を強いています。ところが政府は、科学的根拠がないまま1、2類相当を外そうとしません。田村厚労相は21年1月が期限の指定感染症としての扱いを“延長する”と表明し、医療現場へのメッセージは、いまも20年1月のままです。しかし、5類と明言しないまでも“類型は1、2類より低い”というメッセージを出し、現場の誤解を解くべきです」
逼迫する現場の改善につなげるためだけではない。
「民間病院に勤める知人は“入院患者が陽性だったから、急いで指定病院に送った”と言っていました。1、2類相当のままでは、こうして忌避する民間病院が多いと思います」
と川口氏。逆に1、2類相当を見直せば、受け入れる病院も増えるというのである。元厚労省医系技官で医師の木村盛世氏も言う。
「知人の救急医は、感染徹底制御のため、バイオテロさながらの装備で臨まないといけない、と話していました。そして一人の患者の治療が終わったら、15分かけてその場を消毒するそうです。その間、救急現場にほかの患者は入れられないのだから、命にかかわります。しかし、指定感染症の2類相当を外せば、現場の精神的なストレスはかなり減るはず。いまは病原体の実態とかけ離れて隔離させていますが、ストレスとしてもコストとしても、大変な負担だと思います」
そして、こうつなぐ。
「国が2類相当のままにしているのは、たとえば5類に引き下げてなにかあったときに、責任をとりたくないのでしょう。しかし、2類相当のままにすべき理由があるなら、政府がきちんと説明すべきです」
公的医療機関に勤めるある医師も言う。
「2類から5類に引き下げれば、医療の逼迫はかなり抑えられます。しかし、ゼロを目指して感染を抑えようとはしなくなり、感染者は増えると思う。そのとき責められるのが専門家も政府も嫌なのでしょう。医療の逼迫を抑えられれば、ほかの疾患の患者を救えるようになりますが、それは数字に表れませんから」
責任を負いたくない人たちの思惑で、社会や経済を痛めつける方向にばかり向かい、医療現場の悲鳴も無視されるなら、それほど愚かしいことはあるまい。
欧米が「ミラクル」と呼んでうらやむ日本の感染状況だが、それでも医療が逼迫するという。新型コロナの感染者数が欧米並みに膨らんでいたら、どうなっていたことか。日本病院会の相澤孝夫会長が指摘する。
「日本の医療は効率化の名の下、医療の提供体制もお金のかけ方も、ギリギリのところで回るように仕組みが作られています。だから非常時に、すぐに病院の経営が危ないとか、感染症にきちんと対応できないといった事態になる。平時から余裕とゆとりをもたないと、非常時にもすぐ対応できないと思います」
緊急事態宣言云々と騒ぐ前に目を向けるべきは、是正すべき日本の医療体制だ。その点でも、影響が大きいニュース番組で5類に下げるべきだと訴えた出雲医師を讃えたい。あらためて話を聞くべく日赤医療センターに申し込んだが、「その件に関して取材は受けていない」との回答。テレビからはメッセージを届けたいという強い意志が感じられたが、なぜか。直接本人と接触すると、やはり、
「本件に関しての取材は病院からの許可が出ない」
というのである。医療と人の命を守ろうという勇気ある発言者を、孤立無援にしようというなんらかの圧力がかかったのか。一般論としてではあるが、
「大きな病院や専門家の先生は、学問的な立場や背負っている組織があり、ご自分の意見を言いづらい面があるのかもしれません」
と読むのは、東京都医師会の角田(かくた)徹副会長である。
「以前から現場の医師のなかには、2類相当から下げたほうがいいのではないか、という意見があった。私も2020年4月ごろから厚労省の担当官に“新型コロナは2類相当で扱うのに適していないのではないか”と話していました。致死率を考えると高齢者にはインフルエンザ以上でも、若い人にとってはインフル相当かそれ以下。SARSやMERSと同レベルに扱うのは違うと思う。2類相当は原則入院も強制ですが、それが必要な疾患ではないし、現実問題として重症者が増え、入院は重症化リスクが高い人に絞る必要がある点からも、2類相当とするのは違うでしょう」
東京大学名誉教授で食の安全・安心財団理事長の唐木英明氏も言う。
「出雲先生の主張はすべてその通りだと思います。先生の主張は、感染者をゼロにするという理想論はすでに破綻しており、感染者ではなく、死者を減らす方向に転換すべきだということ。まさにその通りで、現状がおかしいのはコロナだけ特別視していることです。ほかの病気で死ぬ人はどうなるのでしょうか。ところが、分科会の専門家や医師会は理想論にしがみつき、感染者を減らすために医療崩壊の危機を喧伝し、みなさんを恐れさせなければいけない、というわけです。私のもとにも数名の臨床医から、2類は辛すぎるから5類にしないといけない、という意見が届いています。しかし、少数の厳しい現場で苦労している医師が、外に向かって大きな声で言えないのは、分科会や医師会に遠慮しているからです」
8月28日、当時の安倍晋三総理は2類相当を見直すと明言した。実現していれば、逼迫する医療にこれほど慌てなかっただろう。だが、感染者数という数字が増え、批判されるのを恐れたか、菅義偉総理は前総理の約束を反故にした。そして、やはり感染者数が増えると「人命軽視だ」と非難される専門家と歩調を合わせ、「2類を見直す」という声をタブー視し、悲痛な正論を述べる医師を孤立無援に追い込む。政治家も専門家も、総理の著書にあるように「覚悟」をもって、多くの国民の命を守るために、本当に必要なことに目を向けてほしいが、現に見えるのは、ウイルスより醜い人間のエゴイズムである。
「週刊新潮」2020年12月31日・2021年1月7日号 掲載