仕事ができるかできないかわかる「3つの質問」とは(写真:YUJI/PIXTA)

数学的思考ができるビジネスパーソンを育成する「ビジネス数学」を提唱し、延べ1万人以上を指導してきた深沢真太郎氏。最新刊『数学的思考トレーニング』では、数学的思考法を「定義」「分解」「比較」「構造化」「モデル化」の5つの思考法に整理し、その頭の使い方(動かし方)を楽しくトレーニングできるようにしている。ここでは、「定義」の重要性について、例題をもとに解説してもらった。

まずは3つの質問に答えてみよう

私はさまざまな企業の研修に登壇しています。昨今は管理職向けのものも増えました。そんな場で、私が頻繁に使う3つの質問があります。もちろん後で解説しますので、まずはあなたも考えてみてください。そして、この3つの質問に対するあなた自身の答えも用意してください。

【問題】

成果が出るビジネスパーソンとそうでないビジネスパーソンでは、次の問いの答え方がそもそも違います。さていったいどんな違いがあると思いますか?

Q1「あなたの仕事はなんですか?」
Q2「それはできていますか?」
Q3「なぜそう言えるのですか?」

成果を問われるこのような質問。働く者にとってあまりいい気分がしないものかもしれません。実際、研修の場でこの3つの質問でワークをすると、参加者の皆さんはとても苦しそうな表情をなさいます。私も十数年間ほどビジネスパーソンを経験しましたから、その気持ちは痛いほどわかります。

しかし私は教育者であり、このような問いをすることによってビジネスパーソンに気づきを与え、行動を変えてもらうことが仕事でもあります。心を鬼にして、参加者に答えを発言していただいています。

さて本題。この問いの答えで何がわかるのか、さっそく解説しましょう。次ページの事例をご覧ください。ある企業の管理職の方がした回答です。結論から申し上げると、成果が出せず伸び悩んでいるビジネスパーソンの典型的な回答例です。

Q1「あなたの仕事はなんですか?」
→総務部長。メインテーマは部員の働き方を効率的にすること。
Q2「それはできていますか?」
→まあなんとなく、概ねできたと思う。
Q3「なぜそう言えるのですか?」
→(未回答)

Q1の回答が決定的に重要な理由

実はこのワークの本質はQ1の回答内容にあります。質問は3つありますが、私は企業研修で参加者がQ1にどう答えるかしか見ていません。具体的に説明します。

私はまずこの総務部長に、「総務部長という名詞は仕事ではなくただの肩書き(役職名)ですので答えになっていませんよ」と指導をしました。細かいことと思われるかもしれませんが、こういうところにその人物の仕事に対する価値観が端的に表現されます。

この方は残念ながら「総務部長でいること」が仕事だと思っています。「あなたの仕事はなんですか?」という極めてシンプルなこの問いに、迷わず役職名を書いてしまうことがその証明です。

大ヒットするような映画を制作している人たちは、おそらく自分たちの仕事を「映画制作」とは定義していないのではないでしょうか。「映画を通じて人に感動や社会性あるメッセージを届けることが仕事」だと思っているはずです。

続いて「効率的」という表現にも、私はある指導をしました。それは「効率的」とは具体的になんなのかを定義していただくというものです。何をもって効率的とするのか、何がどうなれば効率的と言えるのか。「そうであるとき」と「そうでないとき」がはっきりするような定義をしてほしいと考えたからです。

実際、この総務部長はQ2の回答で曖昧な表現しかできていませんでした。Q3には何も答えられていません。その理由はたったひとつ。Q1での定義の仕方が甘いからです。

私のアドバイスにより、この総務部長は3つの問いに対する答えをこのように変更してくれました。

Q1「あなたの仕事はなんですか?」
→部員の各タスクを難易度と重要度でスコアリング(X)し、それに所要した時間(Y)で割り算した結果(X÷Y)を仕事の効率と定義する。上半期と下半期でこの数値を比較し、改善度合いを明らかにする。つまり、できるだけ短時間で難易度の高い仕事を処理できるようになったことが明確に数値で測れる。
Q2「それはできていますか?」
→今年度の上半期と下半期で比較することで評価できる。
Q3「なぜそう言えるのですか?」
→(X÷Y)の値が増加しているから(あくまで予定)。

効率化という極めて曖昧な概念が具体的になり、できたかどうかがはっきりわかるような内容になりました。すべきことが明確になれば実際の行動の質も良くなりますし、無駄なことをしなくて済みます。効率化されたこともはっきり数値で示せます。仕事で成果が出せる人、その成果をはっきり周囲に示して認めてもらえる人の回答は私の指導前と指導後のどちらか、もはや言うまでもないでしょう。

加えて申し上げるなら、最初の回答でこの総務部長が「なんとなく」という表現を使っていることにも注目してください。正しい定義をせずになんとなく始めた仕事は、なんとなく終わる。例えば「なんとなく」で始めた会議が何も成果を得られずに終わる。誰しも一度は経験があるでしょう。

「定義しない」ことで起こること

この事例から、私があなたにお伝えしたいことはたったひとつです。

自分の仕事をどう定義するかが、その人の仕事の成果を決めている(物事をどう定義するかが、その行方を決めている)。


定義とは、「そうであるもの」と「そうでないもの」をはっきりさせることです。定義をしないと何が起こるか。共通認識が欠如することで、うまくいかないことが生じます。物事はたいてい、最初に何をするかで決まっています。何かを劇的に変えたいとき、根本から考え直す思考法が役に立ちます。根本を変えるとは、定義を変えることです。

これらの内容すべて、先ほどの3つの質問のワークに当てはまることにお気づきでしょうか。だから先ほどの3つの質問の答え、厳密に言えばQ1の答えを見れば、その人物が成果を出せるビジネスパーソンかどうかがはっきりわかるのです。それは裏を返せば、Q1の答えが変われば、あなたに劇的な変化が訪れる可能性が生まれることも意味します。