第一章 トニー隊長 編
5.最大手ギルドの転職試験
転職ギルドを訪れた翌日、アトラスは早速、最大手ギルドである<ホワイト・ナイツ>の実地試験に挑むことになった。
実際のダンジョン攻略に同行して、転職者の適性を見るのは冒険者の転職では一般的だった。
――約束のダンジョン前へやって来たアトラスを、一人の男が出迎える。
男はいかにも屈強そうな冒険者だった。
年齢は30代から40代というところか。
「あの、アトラスと申します……」
「よくきてくれた。私はエドワードだ。<ホワイト・ナイツ>のギルドマスターをしている」
<ホワイト・ナイツ>のギルドマスター。
元Fランク冒険者からすればあまりに遠い存在だ。
「今日はなにやら尖った人間がいると聞いて来たんだ。楽しみにしてるぞ」
「は、はい! 頑張ります!」
「それじゃぁ、早速行こうか」
そう言ってエドワードはダンジョンに入っていく。
試験会場となるのはAランクのダンジョンだった。
……Aランクダンジョンはいつも攻略しているから特に問題はないけど、気は抜かないようにしないとな。
「君の担当は前衛だと聞いているから、今日は私が後衛を担当する」
「わかりました!」
「それでは早速、
ダンジョン攻略では、後衛メンバーが他のメンバーに強化をかけるのがセオリーだった。
「――“防御力アップ”!」
エドワードが強化スキルを使う。
「……す、すごい」
アトラスはギルマスの放った強化スキルの強さに驚く。
力がみなぎってくる。
前にいた<ブラック・バインド>のメンバーのそれとは桁が違う。
これが、トップギルドのギルマスの力なのか……!!
――だが、驚いていたのはアトラスだけではなかった。
「こ、これは!? どういうことだ、私の力も強化されたぞ!?」
それまでどっしりと構えていたエドワードが、打って変わって驚きの声をあげた。
「あの、それは“倍返し”のスキルのおかげです。バフをかけられたら、かけた人に2倍にして返すんです」
そう説明すると、エドワードはさらに驚愕した。
「なんだって!? 2倍!?」
エドワードが驚くのも無理はない。
まずもって強化魔法を倍にして返すなどというスキルは、長年冒険者をやっているエドワードでも聞いたことがないものだった。
そして、強化系のスキルはたくさんあるが、その強化の係数はトップ冒険者のそれでもせいぜい多くて1.3倍くらいというのが通常だった。それなのに、目の前の冒険者の使う<倍返し>は、その名の通り強化係数が2倍だという。これはとんでもなく破格なスキルだった。
「すべての強化スキルの効果が2倍になったら――それこそ、凡庸な冒険者たちでもSランクパーティになれてしまうではないか!」
「そ、そんなにすごいですか……?」
アトラスは、ギルマスの高評価に逆に驚いてしまう。
「あたりまえだ……。ステータスが高いと聞いていたが、まさかこれほどのスキルも持つとは……」
――とんでもない逸材を見つけてしまった。
エドワードはなるべく興奮を抑えようとしたが、それが難しいほどの出来事だった。
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