第一章 トニー隊長 編
4.転職ギルドのお姉さん、アトラスの規格外のHPに驚く。
「それじゃぁ、お兄ちゃんの失業に乾杯〜!」
妹ちゃんがそう言って陽気にグラスを突き出した。
兄であるアトラスは複雑な気持ちでそれに答える。
「か、乾杯……? って、絶対違うよね?」
「合ってるよ! お兄ちゃんの新しい門出なんだから! お兄ちゃんの実力なら、絶対いいギルドに転職できるから♪」
あまりの陽気さに困惑するアトラスだったが、妹ちゃんはあえて陽気に振舞ってくれているのだと受け取った。
「そうだね……。うん、転職か」
アトラスはそう言いながら酒を一気に飲み干す。
そうだ、グズグズしても仕方がない。
「よし、明日から転職活動頑張るぞ」
「せっかくだから、最大手のギルドがいいよ。例えば、<ホワイト・ナイツ>とかさ」
妹ちゃんの言葉に仰け反る兄。
「ほ、ホワイト・ナイツ!? 無理だよ、そんなの」
<ホワイト・ナイツ>は王国最大のギルドだった。
今まで勤めていた<ブラック・バインド>も、ギルドとしては最高ランクの<王国公認>なのは同じだが、所詮は新興ギルドなので、規模も歴史も<ホワイト・ナイツ>の足元にも及ばない。
トップオブザトップ。それが<ホワイト・ナイツ>なのだ。
そんな場所に自分が行けるわけがないと、アトラスは本気で思い込んでいた。
だが、妹は違った。
「ぜーったい、お兄ちゃんならいけるよ!」
と妹ちゃんの強烈な押しにアトラスは「う、うん……」と引き気味に頷くのだった。
†
翌日。
アトラスは勇気を出して転職ギルドへと向かった。
「いらっしゃいませ。当転職ギルドのご利用は初めてですか?」
受付のお姉さんはアトラスに眩しい笑みを浮かべて話しかけてきた。
「は、はい」
「それでは、まずステータス検査を受けていただくことになります。すぐに済みますから」
「わかりました」
アトラスはお姉さんに、検査用の個室に案内される。
と、お姉さんは引き出しから短い杖を取り出す。
……確か、ステータスを計る魔道具だったかな。
「それでは、失礼しますね……」
お姉さんはそう言って、杖をアトラスの胸に当てた。
「結果はすぐ出ますからね……」
少しすると、杖の先端が光り、お姉さんの手を離れて、空中で文字を描き始めた。
アトラスのステータスが書き出されていく。
HP Sランク
MP Fランク
攻撃力 Fランク
防御力 Fランク
素早さ Fランク
「えぇえっ!? HPがSランク!?」
個室にお姉さんの悲鳴が響き渡る。
「そ、そんなに驚くことなんですか?」
確かにアトラスはHPにだけは自信があった。
なにせ、持っているスキルは“倍返し”。
敵から受けた攻撃を倍にして返すというスキルの性質上、相手に攻撃を食らわなければ始まらない。
そのため、攻撃を受ける頻度が多く自然とHPが鍛えられてきたのだ。
だが、他の主要スキルは全て最低評価のFランク。その辺の町人と変わらない。
だからこそ、アトラスの冒険者ランクは5年もの間ずっとFランクのままだったのだ。
一芸はあるが、平均すると農民程度のポンコツ冒険者。それがアトラスの自分への評価だった。
だが、長年転職者たちを見てきたお姉さんは全く違う評価だった。
「そりゃ驚きますよ!」
お姉さんはアトラスのステータスをみて驚愕していた。
彼女は今までアトラスの存在を、まったく知らなかった。
完璧に無名と言っていい存在。
そんな彼が一項目だけとはいえ、Sランクのステータスを持っているのだ。
Sランクのステータスを持つ人間はそうそういない。
「これなら、どんなギルドへも推薦を出せますよ!」
お姉さんは興奮気味に言った。
「え、ほんとですか?」
アトラスは驚いて聞き返す。
「もちろんですよ!」
まさかアトラスは自分がそんなに評価してもらえるとは思ってもみなかったのだ。
「……どんなギルドでもって、例えば<ホワイト・ナイツ>とかも?」
アトラスは半分冗談のつもりでそう聞いた。
だが、お姉さんは即答する。
「もちろんです! ぜひご紹介させてください!! 早速。実地試験のセッティングをします!!」
「ま、まじですか……」
急展開に嬉しいというより、困惑するアトラスだった。
†