「先のこと? ここで死ぬよ」上野公園のホームレスの厳しい環境 コロナ禍で20代も路頭に

野村昌二AERA
上野公園の一角の周りに置かれた、カラーコーンとバー。近くで寝泊まりしているホームレスの男性(50代)は、「いやがらせだよ」と吐き捨てた(撮影/野村昌二)

上野公園の一角の周りに置かれた、カラーコーンとバー。近くで寝泊まりしているホームレスの男性(50代)は、「いやがらせだよ」と吐き捨てた(撮影/野村昌二)

夜回りで、ホームレスの人たちに弁当を配る「ひとさじの会」の吉水岳彦さん。台東区にある浄土宗光照院の住職でもある(撮影/野村昌二)

夜回りで、ホームレスの人たちに弁当を配る「ひとさじの会」の吉水岳彦さん。台東区にある浄土宗光照院の住職でもある(撮影/野村昌二)

 上野公園にホームレスとして暮らす男性・カズさんを描いた、柳美里(ゆう みり)さんの小説『JR上野駅公園口』が、全米図書賞を受賞した。同書は2014年刊行だが、現在の上野公園のホームレスを取り巻く環境は当時より厳しいものになっているようだ。AERA 2020年12月28日-2021年1月4日合併号では、上野公園のホームレスの人々に話を聞いた。

【写真】夜回りで、ホームレスの人たちに弁当を配る「ひとさじの会」の吉水岳彦さん

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 ホームレスとは「家がないのではなく、人との絆が切れた状態」といわれる。話を聞いたホームレスの人たちは、何らかの「帰れない事情」を抱え、家族とも絆が切れ、孤立していた。

 新潟県出身のホームレスの男性(50代)もそんな一人だ。

 さまざまな事情を抱え、20年ほど前に故郷を出た。都内を転々としたが、気がつくと上野公園に戻っているという。

「家族に迷惑かけるでしょう」

 生活保護を受けない理由を聞くと、そう答えた。男性は3人きょうだいの長男。きょうだいは地元にいて家庭を持って暮らしている。生活保護を受けるとなると、きょうだいに連絡がいく。小さな町なので噂(うわさ)はすぐに広がるだろう。兄貴がまだ生きていて、上野でホームレスをやっていたとわかると、きょうだいの肩身が狭くなるので生活保護の申請はしないという。東京に来てから一度も故郷に帰っていない。帰りたくないと話す。

「先のこと? ここ(上野)で死ぬよ」

 上野公園を中心にホームレスの支援を続ける「ひとさじの会」事務局長の吉水岳彦(がくげん)さん(41)によると、上野公園のホームレスの数は増えているという。原因はコロナだ。

「60人近くだった上野公園のホームレス状態の人の数は、コロナが始まった2月から一気に100人近くになりました。年齢層も下がり、20代の若者も見ることがあります」

■寒さは何より堪える

 コロナ禍で仕事を失い、上野公園でホームレスをしている男性(40代)に会った。数日前から寝泊まりしているという。

「どうしようもなかったけど、奈落の底に落ちた感じです」

 上野に来るまでは、千葉県の工場で派遣社員として働いていた。しかし会社の業績が悪くなると10月に雇い止めを告げられ、「退寮」も言い渡された。


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