もう10年以上も前のことだが、新入社員の採用面接でお会いした、忘れられない一人の女子学生がいる。
彼女はノックもせずいきなり部屋に入ると、何も言わず席に座り、下を向いてそのまま固まってしまった。
最終の役員面接となると、やはり緊張で上手く話せなくなってしまう学生もいるので、その事自体は珍しいことではない。
しかし彼女は余りにも極端だった。
「こんにちは。今日は面接に来てくださってありがとうございます。よろしくお願いします。」
「・・・」
「緊張する必要なんか、全くありません。少しお話をお聞きすることはできそうですか?」
「・・・」
わずかに見える鼻の頭や耳まで真っ赤になってしまっていて、今にも泣き出しそうだ。
顔を上げられず、小さく固まってしまった肩が震えている。
もはや面接どこではない空気感だ。
とはいえ彼女もここまで試験を進み、しかも履歴書からもとても優秀な学生であることは十分わかる。
たかだか「あがり症」であることだけを理由に面接を打ち切る必要はないので、言葉を続けた。
「面接ってやっぱり、緊張するものだと思います。無理に話さなくてもいいので、では私の話を聞いて下さい。なにか話せるようになったら、話すということで大丈夫です。」
彼女は下を向いたまま、小さく二度ほど頷いた。