老朽化する東京都庁舎、迫られる大規模改修


東京第2の高さの243m、全国で第7位の超高層ビル、個性的な外観でランドマークとなっている新宿副都心の東京都庁舎が、完成から

15年で、雨漏りなどの不具合に悩むなど建物の傷みが目立ってきた。補修しようにも独特なデザインのため余計な手間がかかり、全面改

修には庁舎を造り直せるほどの金がかかるという。バブル期にたてられた「昭和期バブルの塔」は、首都東京の未来に大きな負の遺産とな

りつつある。バブル期に約1500億円を投資して建設した東京都庁舎は、しばしばメディアにこう揶揄(やゆ)される。そのバブル期の象徴

が今、巨額な投資を伴う大改修を迫られつつある。

丹下健三氏が指名コンペを勝ち抜いて設計を手掛けた都庁舎は、1990年12月に完成した。完成から約18年が経過し、老朽化が進んで

きた。その一例が漏水だ。2006年ごろから散見され始めた。これまでに展望室や、議会棟の地下1階にあるパスポートセンター奥の執務室

、第1庁舎1階の出入り口付近などで、風雨の強い日に漏水が生じた。

漏水の原因は十分に把握できていないものの、都は、外装材の継ぎ目に設けた目地材の劣化によって生じたすき間が一因だと分析して

いる。そこで都は、目地材の補修を始めた。補修する目地材の長さは、都庁舎全体で約148kmに達する。06年度に試験的に始めた補修は

、12年度まで続ける予定だ。ゴンドラなどを用いた地道な交換作業に要する費用は、約10億円に達する見込みだ。

 08年10月には、議会棟4階のトイレで水道管が破裂した。腐食による劣化が進んだためだ。継ぎ目など管厚が薄い部分を中心に管が

劣化しているものとみられる。

 窓部に設けた電動ブラインドの故障も目立ち始めた。庁舎の保全などを手掛ける庁舎管理課がある第1庁舎18階の電動ブラインドを手動

ブラインドに交換し、撤去した電動ブラインドの部品を故障したブラインドに用いるなどしてしのいでいる。既存の電動ブラインドは、将来は

手動の製品に置き換える考えだ。
 

漏水などが生じている実態を受け、計画段階で維持管理に十分に配慮できていたのかを問う指摘もある。この際に持ち上がる代表的な

項目が外観だ。都庁舎はいわゆる四角い箱のような単純な形状でない。その分、補修や清掃などに要する手間が増すと想定されるからだ。

 例えば、都庁舎では維持管理に用いるゴンドラを数多く抱える。第1庁舎と第2庁舎、議会棟の3棟の合計で18台。第1庁舎だけでも10台を

数える。こうしたゴンドラには、定期的な補修が必要だ。既に、都はゴンドラの補修を進めている。

 しかし、補修作業は一筋縄では終わらない。ゴンドラは一気に補修できるような設備ではない。部品を少しずつ持ち上げて、既存のゴン

ドラの部品と交換しながら作業する必要がある。作業は土日が中心なので、時間もかかる。

 都庁舎に求められる改修の中で、最も費用を要するとみられるのが、空調や衛生関連の設備だ。約20年前に配備された設備機器は、更

新時期を迎えている。2003年に都が民間委託して試算した改修費は、30年で約1000億円。都庁舎の建設費に迫る金額である。

 都は改修の必要性などを整理したうえで、概算工事費を含めた都庁舎の改修方針を、09年2月に開く議会に提出する予定である。

 改修計画の難しさは、工程調整にあるという。第1庁舎のような超高層ビルの庁舎では、一つの建物に数多くの部署を抱えている。改修

工事を実施する部署は、一時的に執務室を移動してもらう必要がある。しかも、「部署によって忙しい時期など工事を避けるべき時期が異

なる。

 さらに、工事の際に、ハード面だけに着目して、下層や上層から順番に単純に作業を進めていけばいいというものではない。一つの建物

に入っている部署が多い分、工程調整に手間が掛かるという訳だ。庁舎の機能を多棟に分散せず、超高層ビルに集約した都庁舎ならでは

の悩みが浮き彫りになってきた。

さらに、その奇抜な形が、メンテナンス・修理や維持管理の作業にはネックになっている。都の担当者は「都がランニングコストを考えず、デザ

イン優先で決めた結果」と断言する。一般の設計には、意匠(デザイン)設計・構造設計・設備設計があるが、東京都はデザインを重視し、

他の設計は十分な考慮がされていない。一般の建築物の建設費用の裏には、膨大なランニングコストが隠されている。建築費用は氷山の

一角で、その水面下には、膨大なメンテナンス・修理費用を含む管理コストがある。建築の修理を始め、電気・給排水・空調・防災設備など

の維持・更新、防犯・清掃などのメンテナンスには膨大な費用がかかるのである。まして、建築物の形状を複雑にするほど、その費用は

累積的に増加する。

したがって、建築物の形状を複雑にすれば、その緻密なメンテナンス対策が必要となるのである。


また、東京都庁舎は、その複雑な形状の為、実は場所によって風量や温度に大きなバラつきがあるという空調についてのクレームが、そこ

で働く職員から多くでている結論からいえば、複雑なデザインの建築物になるほど完壁な空調が難しくなる。したがって、その形状に配慮

されていいない、都庁の空調設備は、設計ミスなのである。

そういう意味からいうと、崩壊したニューヨークのワールド・トレードセンターは単純な形態を追求した究極のビルが、設備にとって最適なの

である。

いずれにしても、空調設備に限らず設備の維持保全管理においてトラブをきたすことはよくあるが、その原因として設備の設計・施工不

良によることが意外と多い。そして、いわゆる省エネビルにその傾向が著しい。このような事態に至った背景は単純ではないが、要約すると

、合理化で狭い空間にできるだけ.多くの設備を配置しようとする時代的背景がある。次に、建築会社の設計担当者の設備に関する知識が

不十分で設備の専門家でも設備の運用保全に関しての経験がなくその技術知識が不十分なため、保全管理のことをあまり考慮せず

図面上だけで配置する設計をされることが多い。さらに、施工を担当する設備関連会社は建築全社の下請けといった形態のためあと

の保全管理が困難・不能とわかっていても図面通りに設置施工されることが多い

以前は、設備業者の現場監督が保全管理に支障をきたすような設計図の場合、元請企業(建築全社)の設計担当者に交渉したが、現在は

今後の受注・コストの面で、設計変更を交渉しない場合が多い。現場工事担当者はサラリーマン化したため不備とわかっても図面通り施

工されてしまうことが多い。しかし、長期的に見ると、メンテナンス費用が多くかかり、悪循環に陥っている側面がある。理想的なことをいば

保全管理施工工事現場で十分な経験をつんだ建築設備士が設備設計をする必要がある。超高層ビルの空調の制御は難しく、例えば、

冬でも、日射が強い高層部では、温室効果により冷房が必要な場合がある。一つの超高層ビル内では、階数・方角により冷房・暖房・送風

が入り混じる場合がよくあるのである。最近の超高層ビルは、緻密な個別空調が主流であるが、テナントが最適な環境を求めるのであれば

、新宿の超高層ビルは、もう時代遅れなのである。リニューアル・更新という手法があるが、多額の費用・技術面など限界がある。

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