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無職の最強賢者 〜ノービスだけどゲームの知識で異世界最強に〜 作者:可換 環

第一章

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第十三話 最初の発注

「あ、あの……これは一体どうやって?」


 シルビアさんは、おそるおそる俺にそう聞いてくる。


 ……もしかしてシルビアさん、ファントムコアを天変地異の予兆とでも思っているのだろうか。

 確かに、普段獲れない魔物が自然発生した際は、そういう予兆である確率は低くはないのだが……。


「あ、心配しなくて大丈夫ですよ。これ、自分で召喚して自分で倒しただけですので」


 俺はその心配を払拭できるよう、そう端的に説明した。


「なので、天変地異とかは起きないです」


 そして、そう念押ししておく。


「……なんでファントムを召喚できちゃうんですかね。幻を召喚するって、控えめにいって訳分からないのですが……」


 するとシルビアさんは、呆れたような口調でそう言った。

 ……よかった。とりあえず、安心はしてもらえたみたいだ。


「これを買い取るのは、全然問題ありませんよ」


 それからシルビアさんは、俺の最初の質問に対しそう答える。


「ファントムコアは特に解体作業なんかもありませんし、査定額も一律ですので、この場で買い取り額をお支払いできます。こちらです」


 そしてシルビアさんはそう続けつつ、俺の前に金貨の山を並べた。


「一個あたり20万パースで、合計300万パースになります。まったく……国内の年間捕獲量の3分の1をたった一日で持ってくるなんて、どうかしてますよ」


 ため息交じりにそう呟くシルビアさんをよそに、俺は300万パース分の金貨を「ストレージ」に収納した。

 ……すみません、あとしばらくは、もっとファントムコアを持ってくることになると思います。

 具体的には、スキルポイント単価の高い魔物を「チェンジ」無しで狩れるくらいまでは。


「ありがとうございます」


 などと内心思いつつも、ここではそれは口にせず、俺は買取所を後にすることにした。



「あの……今の戦利品って、何日分貯めてたんですか?」


 買取所から、盗賊のことを報告しにギルドの受付に行く道中、後ろをついてきていたジーナがそう質問してくる。


「もちろん今日一日ですよ」


「い……一日? それで300万パースって、稼ぎえげつな過ぎません!?」


「そう思ってくれるなら幸いです。……給料の支払い能力に不満を持たれるのだけは、避けたかったですから」


「いやあの、月給が今日の稼ぎの10分の1程度だったとしても、不満どころかありがたいくらいなんですが……」


 ……よっぽど苦労してきたんだな。

 今のジーナの発言から、俺にはそう読み取れた。



 ◇



 そして、受付にて。


「西の森で討伐を行ってたら、盗賊に出くわしたのですが……」


「……ちょっ! それ、どこから出したんですか!」


 話を切り出しつつ、収納してきた分の盗賊の死体を「ストレージ」から出すと……ここの受付が、そう叫んだ。


 ……なんか毎回このやり取りするの面倒くさくなってきたな。

 そろそろ「袋の中から取り出すふりをする」などして、マジックバッグを持ってる程にでもするか?


 などとすこしばかり辟易していると……ちょうどそこに、ラモンが通りかかった。


「おう、ジェイドか。……メイカ、コイツが異常な能力を持っているのはいつものことだから、スルーして差し上げろ」


 かと思うと、ラモンはメイカ——ここの受付嬢のことだろう——にそう言って去っていった。

 ……「異常な能力」って、もっと良い言い方なかったんかい。


「な、なんでラモンさん、今の光景を見てあんなに慣れた感じでいられるんでしょうね……」


「あの人、冒険者登録試験の時の、担当教官だったんですよ」


 まだ若干引き気味のメイカさんに、俺はそう経緯を伝えた。



「ところで……盗賊でしたっけ。遭遇したのは、これで全員ですか?」


「いえ。収納しきれなかった死体が数人分と、あと事情があって気絶にとどめたのが一人います」


「なるほど……。ちなみにそれはどこでの出来事ですか?」


「西の森です」


 盗賊について聞かれた質問に対し、そんな感じで答えていると……メイカさんが地図を持ちだして西の森の具体的な位置を聞いてきたので、俺は記憶をもとにその場所を示した。


「なるほど、分かりました。実は今日、尾行が得意な冒険者がこの街に帰ってきたばかりなので……その『気絶させた奴』がまだその場にいるようなら、尾行を頼んでみますね」


 するとメイカさんは、そう言って新規指名依頼の書類を作成しだした。


 ……確かに言われてみれば、あれは大規模な組織の一部だったって可能性も、無きにしも非ずだしな。

 あまりそっち関連のいざこざに深入りはしたくないところだったので、そこが得意な冒険者がいて任せられるならありがたい。


「報酬は、また追ってお伝えしますね。……盗賊の正体次第で変わってくる部分もあるので」


「了解です」


 そして俺は、死体や盗賊の所持品の受け渡しが済むと、ギルドを後にした。

 それから俺はジーナと一緒に追加のスライムを取りに行った後、宿に戻った。



 ◇



 宿にて……まず俺は、二部屋を追加で借りた。

 一つはジーナ用、もう一つは打ち合わせやジーナが作業で使う用だ。


 そのうちの一つ、打ち合わせ用の部屋に二人で集まると……早速俺は紙に二つの魔法陣を描き、その紙をジーナに渡した。


「こっちをスライムの魔石全部に一つずつ、こっちはパワーイーグルの魔石に刻んでください」


 俺はそう言って、それぞれの紙をそれぞれの魔石の上に置いた。


 ちなみに今渡した魔法陣は……スライムの魔石に刻んでもらう方は、もちろん「チェンジ」。

 そしてパワーイーグルの魔石に刻んでもらうのは、「エリアメナス」という魔法陣だ。


「エリアメナス」は、広範囲威嚇ようの魔道具なのだが……これがまた、手に入りにくい魔道具なのだ。

 魔道具師のジョブを持つ者が簡単に刻めるものではあるのだが、「初心者が扱いを間違えると、疑似スタンピードのような大惨事になりかねない」という理由で、彼らがあまり売りたがらないからだ。

 普通は上級冒険者の限られたルートでしか入手できないので、今の俺が手に入れるには魔法陣を物理的に刻むしかない。


 ……これがあれば、今日以上に効率的にファントムを召喚し、スキルポイントを集められる。


「これを明日朝までに……できそうですか?」


「これくらいなら、3時間もあれば余裕です!」


「なら良かった。まあ、言ってもスピードより正確さ重視で頼むよ。


 ……さすが本職芸術家は、彫るスピードが段違いみたいだな。

 などと思いつつ、俺はジーナに作業に集中してもらえるよう、打ち合わせの部屋を退出した。




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