今年で2回目を迎えたこのコンテストは、日本IBMと同社のパートナーコミュニティーである愛徳会の主催だが、今回からはNTTデータとダイワボウ情報システムも共催社に。法人向けIT市場のビッグプレイヤー3社が、日本のIT業界の“デジタルトランスフォーメーション(DX)ビジネス対応力”を底上げするために、企業の枠を超えて手を組むというユニークな企画に発展した。参加企業は、3社のさまざまな支援を受けてDXビジネスの「いろは」を学び、習得することができる枠組みになっている。
多くのITベンダーが、顧客のDXを何らかの形で支援するビジネスを始めたいと考えているが、そのために必要なスキル、ノウハウを独力で獲得するのは簡単ではない。DXビジネスに一歩踏み出したい、多くのITベンダーが注目すべきこのイベントの意義について、3社のキーパーソンに話を聞いた。
NTTデータ、DISの参画で事業化をより強く意識
――IBM DXチャレンジ 2020の概要をお聞かせください。
三浦 2017年、18年と実施した「Watson Build Challenge」の後継にあたる企画で、IBMテクノロジーを活用して、業界や地域社会の課題を解決する全く新しいアイデアを創出していただき、事業化を目指していくことを目的としたコンテストです。参加企業に対しては、DX支援の提案に求められる共創型営業スキルやアジャイル開発手法の習得を支援します。
――参加資格や応募条件は?
三浦 どなたでも参加いただけますが、各種支援プログラムを活用していただくために、無料の「IBM PartnerWorldプログラム」に加入していただきます。
――現在の形になってからは2回目の開催ですが、初回から大きく進化したとか。
三浦 当社と愛徳会の主催に加えて、NTTデータ様、さらには昨年もスポンサーとして協賛いただいたダイワボウ情報システム(DIS)様との共催という体制になりました。IBMの既存パートナーだけでなく、市場の多くのデベロッパー、SIer、ISVなどの参加を促し、そうした方々が事業化をより強く意識したビジネス創出に取り組む環境や支援メニューを整えることができたと考えています。
また、COVID-19の影響もあり、コンテスト運営自体のデジタル化も進めています。デザイン思考型のワークショップなども、昨年は参加チームが全国7会場に集合し、DIS様に運営のご協力もいただきながらオンサイトで行いましたが、今年はいくつものデジタルツールを利用し、オンラインワークショップにて実施しています。結果的に、一層きめ細かく参加者を支援できるようになったと感じると共に、参加いただいたチームの皆様はデジタルツールを活用するスキルも身についたと思っています。
全国60チーム600人が9カ月かけて取り組む
――こうしたビジネスコンテストを複数の大手ITベンダーが共催するのは珍しいですね。
三浦 DIS様にはこれまでもご支援いただいていましたが、今年は日本IBM自身が直接声をかけられる範囲外にも参加対象を拡大したいと考えていました。全国のITベンダーに広く参加していただくためにもDIS様のお力を借りたいと相談し、趣旨にご賛同いただきました。開発環境やIoTデバイスなどを一体で提供できる体制も、DIS様の参画があってこそ実現できました。
小峰 IBM様とは近年、当社がクラウドビジネスへの取り組み方針を検討してきた中で、協業を加速してきました。レッドハットを傘下に入れ、オープンなマルチクラウドを推進するという方針を鮮明にされたのも、マルチベンダー対応という当社の強みと方向性に合致しています。DXチャレンジを通じて「IBM Cloud」のエコシステムは拡大していくでしょうし、そこに当社もしっかり参画して、クラウドビジネスを拡大したいという思いがあります。
また、DXチャレンジには全国からさまざまな企業が参加されていますが、全国に拠点を持つディストリビューターである当社だからこそできる支援があると考えました。素晴らしいソリューションを創出された参加企業とも、今後ぜひ協業させていただきたいですし、クラウドビジネス拡大に向けた当社自身の意識改革やスキルの習得にもつながる取り組みだと捉えています。
――NTTデータに関してはIBMと競合する部分も大きいのではと思いますが……。
三浦 NTTデータ様は、自社でDXにチャレンジする組織「Tangity」を立ち上げたり、六本木に「AQUAIR」というデザインスタジオをつくられたりという取り組みをされていたわけですが、ちょうど同じ頃に当社の取り組みについてご説明する機会があり、関心を持っていただきました。
冨安 今回、DXチャレンジに当社が参画した理由としては、そのアイデアの面白さに惹かれたというのが大きいです。従来型のパートナーシップにこだわるのではなく、IBM様のパートナーの皆様をDXさせようという強い意気込みを感じました。当社も同じような課題を感じていたので、ここに参画させていただくことで相当勉強になるのではないかという期待がありました。
また、60チーム、600人以上の参加、というだけなら同じような規模のイベントがあるかもしれませんが、日本全国から参加されているのもこのイベントの大きな特徴です。地域に根付いたニーズに応じたDXをどう実現するかはNTTデータ、NTTグループにとっても重要な課題であり、そういうアイデアを目にすることができる機会は非常に有意義だと考えています。
また、期間が9カ月にわたるイベントであるというのもユニークですね。DX支援に必要なスキルの断片的かつ単発の研修などはよくありますが、デザイン思考型ワークショップでのアイデアの具体化からビジネスプラン作成、MVP(Minimum Viable Product/価値を検証するための実用最小限の製品)開発までの一連の流れを全て経験できる構成というのも、単なるアイデアではなく、「本物」のDXビジネスが出てくる可能性を高めていると思います。
DX人材育成に役立つイベント
――参加企業に対する支援については、3社でどのような役割分担をしているのでしょうか。三浦 日本IBMが提供しているのは、デザイン思考ワークショップとデベロッパー道場というオンライン教育サービスです。デザイン思考ワークショップは、市場でサービスを提供する上で代表的なお客様像をペルソナとして設定し、お客様の視点に立って課題を掘り下げ、優先順位を付けてソリューションを構築します。デベロッパー道場は、最新のクラウド開発に関する体系だった講義を受講できます。いずれもリモートで完結するメニューです。
冨安 NTTデータはユーザーエクスペリエンスを意識したデジタルビジネスの実現を目指し、技術・マーケティング・空間デザインなどの複合的・専門的な検討を行う拠点として、海外子会社も含めて世界16拠点のデザインスタジオを持っています。先ほど三浦さんからもお話があったAQUAIRもその一つで、そこに常駐しているデザイナーが、デザイン思考ワークショップのお手伝いをしています。
また、参加チームのファシリテートの支援も行っていますし、出来上がったソリューションのマネタイズや市場開拓のための事業化支援も担当しています。新規事業の事業化経験やビジネスコンサルティングの経験を持つメンバーが対応しました。
小峰 現在準備を進めていますが、DISとしてはコンテナプラットフォームであるRed Hat OpenShiftに最適化したIBMのミドルウェア製品群をベースに、「DXアプリ開発環境」を独自開発して参加者に提供します。「一度つくれば、どこでも動く」をコンセプトにしたクラウドネイティブなアプリ開発環境です。
今回のDXチャレンジは事業化を目的としたコンテストですので、事業化を手助けできるような活動も展開していきます。当社が主催するDISわぁるど、各地域で開催しているICTExpoといった実イベントに参加していただくほか、PC-Webzineや韋駄天など当社メディアでのプロモーション支援も行う予定です。
――最後に、DXチャレンジの参加者や全国のITベンダーへのメッセージを。
三浦 IBM DXチャレンジは、真の意味でDXビジネスのための人材育成に役立つイベントだと考えています。というのも、試してみるだけでは身につかないスキルも、本当に事業化しようと考えて、9カ月という時間を割いてプロジェクトに取り組むことで実になるのです。昨年のコンテストで発表され、すでに事業化されたソリューションも出てきていますし、今年は若い人たちが積極的に参加しています。大学や企業から、DXチャレンジのスキームを自分たちでも実行してみたいという引き合いもいただいていますので、こういう動きがさらに世の中に広がっていくといいなと思っています。
冨安 多くの企業の新規ビジネスのアイデアを拝見し、大変貴重な経験をさせていただいたことに感謝申し上げます。NTTデータグループからもDXチャレンジに参加しているチームがあり、彼らが地域に根差したビジネスをつくってくれることにも大いに期待していますが(笑)。また、今回のイベントでIBM様やDIS様、両社のパートナーと触れ合う機会もいただき、当社のスタッフがSIビジネスのみに従事するよりも広がりのある視点を持てるようになったことも大きな成果だと考えています。
ビジネスや技術、働き方などの変化が絶えない中で、今回のように企業の枠を越えて、地域社会やさまざまな場面で働く人たちの課題を解決しようとする視点は非常に重要です。当社も、より複雑化するビジネスと技術を使う人にとって意味あるものに仕立てていく一連の活動を、皆さんと一緒に盛り上げていきたいと考えています。COVID-19の影響、そしてデジタル庁の動きなどが象徴的ですが、ITの力を最大限活用して現状を変えていかなければならないと多くの人が考えるようになりました。IT業界への期待は大きいです。この機を逃してはいけないという意識を、多くのITベンダーと共有したいですね。
小峰 9カ月という長い期間をかけて参加者がつくられた価値あるソリューションを、一緒に世の中に広める活動ができるのが本当に楽しみです。このイベントに参加・参画している皆様とは、日本のITを変革していくという思いを共有していると思っています。
NTTデータ様と同じく、当社からもDXチャレンジに参加しているメンバーもいます。本来、社内システムを検討するチームですが、今回は事業化に向けて外販するものをつくるわけですから、開発手法やアプローチ手法の面で、学ぶことが多かったと聞いています。クラウドの可能性について学ぶ入り口としてもいい機会になったのではないでしょうか。
IBM様とPCの取引を積極的にしていた頃、「新しいテクノロジーを活用することで新しい市場が生まれて、そこに新しいビジネスができる」とよく聞かされました。これは今でも同じだと思います。COVID-19はこれまででは考えられないスピードで社会環境を変えてしまいましたが、新しいテクノロジーを活用して課題を解決できる領域はたくさんあります。都市部だけではなく中小企業も含めてDXを実現するための役割に、われわれも変わっていく必要がある。DXチャレンジはそのきっかけになり得るイベントであると考えています。
現在地区大会中のDXチャレンジ、優勝者を決める全国大会は1月22日に開催予定だ。
詳細はウェブサイトでチェック。
https://www.ibm.com/jp-ja/partnerworld/resources/dxchallenge2020
次回の参加などの相談は問い合わせ窓口まで。
DXチャレンジIBM事務局: DXDOJO@jp.ibm.com
詳細はウェブサイトでチェック。
https://www.ibm.com/jp-ja/partnerworld/resources/dxchallenge2020
次回の参加などの相談は問い合わせ窓口まで。
DXチャレンジIBM事務局: DXDOJO@jp.ibm.com