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無職の最強賢者 〜ノービスだけどゲームの知識で異世界最強に〜 作者:可換 環

第一章

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第六話 手ごろな凶暴な魔物に遭遇した

 貼り紙があった建物に戻り、手続き用のカウンターへ。

 そこで俺は、登録試験申請書に必要事項を記入し、シルビアさんに渡した。


 シルビアさんは、その申請書に目を通すと……途端に表情を曇らせる。


「これ……間違いじゃないですよね? 本当にノービスなんですか?」


 どうやら彼女は、俺がジョブの欄に書き間違いをしたと思ったようだった。


 だが、ジョブの欄の記入は間違いではない。


「間違いではないです」


 すると……シルビアさんは落胆した表情で、俺にこう言った。


「……すみません、さっきは登録を強く勧めてしまいましたが、やはりやめた方がいいと思います。ノービスとなると、試験の突破方法がございませんので……」


 申し訳なさそうな表情を浮かべるシルビアさん。

 だが俺はその様子を見て、少し不思議に感じた。


 彼女が俺に冒険者登録を勧めた根拠は、ラッシュボアやギガントホーネットの巣などの、俺の戦利品だったはずだ。

 つまり彼女は、俺がそれらの魔物を倒せることは知っている。

 なら……突破できる試験方法が一つあることも、分かっているはずなのだが。


「……職員同伴の魔物討伐じゃダメなんですか?」


 疑問を解消するため、俺はそう質問してみた。


 もしかしたら、ここの冒険者ギルドのシステムはNSOとは微妙に違い、そんな試験方法は無いのかもしれない。

 だとしたら、確かに今の俺には突破方法は無い。

 そこは確認しておこうと思ったのだ。


 だが……シルビアさんが「突破方法がない」と言った理由は、俺が予想していたものとは全く違った。


「あのラッシュボアを本当に倒したなら、それで突破も可能でしょう。しかし、ノービスとなると……失礼ですが、あれ本当はあなたが倒した魔物じゃないんじゃないですか?」


 なんとシルビアさんは……そもそも、あの二つの素材を獲得したのは俺自身ではないと考え始めていたのだ。

 その様子は表情にもありありと出ていて、さっきまでの輝かしい表情はどこへやら、今の彼女は俺に哀れむような目を向けていた。


 しかし……とりあえず、職員同伴の魔物討伐という試験方法があるのは確実なようだ。

 であれば、あとは受けさせてもらえさえすれば、結果で示すだけの話だ。


「いえ、あれを俺が倒したのは事実です」


 とりあえず俺は、試験申請自体が抹消されないよう、そう説得してみた。

 するとシルビアさんは、諦めたような表情でこう続ける。


「そこまで言うなら仕方ありませんね。試験希望者を拒否はできないので、受けてもらうのは可能ですが……落ちても受験料は返ってきませんよ?」


 どうやら、試験を受けさせてすらもらえないかもというのは、杞憂だったようだ。


「ありがとうございます」


 俺はそれだけ言い残し、カウンターを離れ待合所の席に座った。



 ……ま、ノービスが受験しに来たなんて前例がないことだろうし、今は不合格確実と思われるのも仕方ないな。

 とりあえず今は何を言われても気にせず、「チェンジ」で確実の合格をもぎ取ることだけを考えるとしよう。



 ◇



 30分ほど待合室で待っていると……試験担当のギルド職員がやってきた。


「俺はラモン、今回の登録試験の監督者だ。ノービスなのに冒険者登録しようとかいう命知らずはお前か?」


 ラモンと名乗る職員は、「やれやれ」という声が聞こえてきそうな表情でそう言った。


「ま、お前が恐怖で足が竦んだ頃に俺がサクッと倒してやるよ。それで現実見てから諦めな」


 そして、はなから後始末は自分がやる前提だと言わんばかりにそう続けた。



「いえいえ、この試験には合格しますよ」


 口で反論する気はあまりないのだが……とりあえず俺は、そう言っておいた。

「はい」などと言おうもんなら、逆に馬鹿にしてるように聞こえるだろうからな。

 まだこの方が心証がマシだろうと思ってのことだ。


「……まあいい。行き先はお前が決めな。どうせ大した魔物がいる場所には行かないだろうし、どこへでも同行してやる」


 ラモンはフスンと鼻を鳴らしつつ、試験の実施方法を説明した。


「ありがとうございます。西の森でいいですか?」


「どこでもいいっつってんだろうが」


 一応確認をとると、ラモンはそう繰り返す。

 そんなこんなで、早速俺はラモンと共に、西の森に向かうことになった。



 ◇



 西の森の入り口にて。


「サーチ」


 朝来た時と同じく探知魔法を発動すると、早速俺は森の中へ足を踏み入れた。

 そしてそのまましばらく歩いていると、ラモンがこう声をかけてくる。


「随分と自信ありげな足取りだな。魔物がどこにいるか、分かってでもいるのか?」


 どうやらラモンは、俺の進み方に何らかの意図があるように感じたみたいだった。


「分かってますよ」


「……探知魔法が使えるとでも? シーカーでもないのに?」


 一応「分かっている」と答えると、ラモンは半信半疑……というか9割疑っているかのように聞き返してきたが、この際そんなことはどうでもいい。

 特にそれ以上会話はせず、俺は手ごろな魔物探しだけに全神経を注いだ。


 そうしていると……「サーチ」の効果範囲の端っこに、良さげな反応が見つかった。


 ……随分と大きな力を持つ魔物の反応だ。

 これは、討伐し甲斐がありそうだな。


「あっちです」


「……まあ好きに進め」


 その魔物のいる方向を指差すと、ラモンはダルそうに受け答える。

 行ってみると……そこには、ラモンの倍くらいの背丈があるゴリラの魔物が鎮座していた。



 ……お、なかなかいい魔物じゃないか。

 俺はそう思ったのだが……後ろからは、震えたような声が聞こえてきた。


「……おいお前、引き返すぞ」


 ラモンの方を振り返ると……ラモンは足をガタガタ震わせながら、少しずつ後ずさっていた。


「……行き先は自由に決めろとおっしゃいませんでした?」


「いや、そうは言ったが……お前、あれが何だか分かっているのか?」


 どこへでも同行すると言われていたのに、急に引き返すぞとか言いだしたので、質問すると……ラモンはガタガタ震える指でゴリラを指しつつ、質問で返してきた。


「……アースクェイクですよね」


 分かっていたら、なぜ引き返さなければならないのか。

 そう思いつつ、俺はゴリラの魔物の名称を口にした。



 ——アースクェイク。

 それがこの、目の前のゴリラの魔物の名称だ。

 なぜそんな名前がついたかというと……この魔物はとにかく重く、そして底知れない筋力を持っている。

 一歩踏み込むたびに地震のような地響きが起こることから、そんな名前がつけられたのである。


 この魔物は別名「タンク殺し」と言われるほど、近接戦闘では無類の強さを誇る。

 身体強化を重点的に鍛えた戦士が十人いようとも、象が蟻を蹴とばすが如く軽々と吹き飛ばしてしまうような、異常な破壊力の持ち主なのだ。


 倒すには拘束魔法が使える者が十数人がかりで抑えた上で、遠距離から袋叩きにするしかない、とても初〜中級者向けとは言えない魔物。

 ——であると同時に、スライムの魔石での「チェンジ」が効く中では最強の魔物でもあるのが、この「アースクェイク」なのである。


 まあ要は、俺からすれば格好の餌食ということだ。



「な、なぜそれを知っていて立ち向かおうとする——!? 流石に俺でも、あれ相手だと死んじまうぞ……」


 ラモンは、完全に動揺しきってしまっていた。


 ……そんなに大声を出したら、気づかれてしまうと思うのだが。

 というか実際、目の前のアースクェイクは、いつでも俺たちを捕食できるからのんびりしているだけで既に俺たちをロックオン済みだ。


 なので、今から逃げたとて手遅れである。


「無謀だ、勝てっこない。今逃げないと、俺たち共々一巻の終わりだ!」


 それでも尚、そのことを分かっているのかいないのか、今にも逃げ出しそうなラモン。

 そんなラモンに対し——俺はこう言った。


「俺の戦い方は、ちょっと特殊なんです。……この魔道具だけ起動させてもらってもいいですか?」


 そう言いつつ、俺は残り一個の「チェンジ」を取り出す。


「……? まあ、そのくらいなら好きにすればいいが……」


 聞いてみると、ラモンは「今更そんなもんが何の役に立つ」と言わんばかりの表情でそう答えた。

 とりあえず許可は得たので、魔道具を起動しよう。


「分かりました。チェンジ」


 唱えると、魔石が光り……かわりに俺の手には、メロンサイズの魔石が出現した。

 そしてそれと同時に、アースクェイクはふらついて転倒し……轟音とともに地響きが鳴り響いた。


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本当にありがとうございます。

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