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収斂と放散の進化を読み解く - 四足動物の起源を見直す

宮田 隆(JT生命誌研究館顧問)

 科学では、これまでの定説を揺るがす発見がしばしばなされる。進化学も例外ではない。動物の陸上への進出は、生物の歴史における大事件であり、ヒトへつながる四足動物の起源が肉鰭類の「シーラカンス」なのか「肺魚」なのか、長い間議論されてきた。近年、肺魚の発生上の特徴から肺魚起源説が浮上し、さらにDNAによる分子系統樹が大方肺魚起源説を支持していたため、それがほぼ定説となっていた。
 ところが、肺魚起源説には大きな見落としがある。四足動物の祖先がシーラカンスか肺魚かを議論しているだけで、それ以外の動物から分岐した可能性を考慮していないのだ。私たちは、条鰭類(普通に見かける魚)と軟骨魚類を加えた上で、遺伝子の分岐と生物の分岐が一致するオーソログの遺伝子のみを使い、そうでない、遺伝子重複で作られたパラログの遺伝子を除いて系統関係の推定を試みた。その結果、四足動物はシーラカンスと肺魚の共通の祖先に最も近縁である可能性を示した。ただし、まだ統計的に十分信頼性の高い結果は得られておらず、シーラカンス起源も肺魚起源も否定は出来ず、条鰭類起源さえも捨てきれない。
 この興味ある問題は、改めて定説のない、一筋縄では解けない困難な問題として浮かび上がってきた。ゴールまでにはかなりの努力が要求されそうだ。

宮田 隆(JT生命誌研究館顧問)
生物の進化と遺伝子の進化はどんな関連があるのか。動物と植物の上陸などの生物進化の足跡を分子系統樹に求め、日々研究中。手前にいるのは、オーストラリア肺魚のアボガドくん。研究館にて展示中。
宮田隆の進化の話
※BRHカード59号より掲載