ポスト臭化メチルの有力候補
安定した土壌消毒効果に特徴
土壌のリフレッシュ効果もあわせもつ
今、熱水土壌消毒が注目されています。鹿児島県では年間栽培面積3haにのぼるメロン農家が全面採用に踏み切り、「サツマイモネコブセンチュウの被害を未然に防止し、おいしいメロン作りが続けられます」と高い評価を受けています。熊本県の栽培面積1haのピーマン農家からも、「土壌病害の心配がなく、ピーマンの生育はよく、おいしい実がたくさんとれるようになった」と好評です。千葉県の青枯病に苦しみ土耕栽培をあきらめかけていた農家からも、「これでトマトの生産を続けられる」と、大歓迎されています。臭化メチルに代わる新しい土壌消毒技術を模索していた農家から、今熱水土壌消毒に熱い期待が寄せられています。
熱水土壌消毒の原理と特徴
熱水土壌消毒は、わが国で開発された新しい土壌消毒技術です。そのルーツは、私たち野菜茶業研究所の前身である野菜試験場と、神奈川県園芸試験場(現神奈川県農業総合研究所)にあります。野菜試験場に発した流れは農業研究センター(現中央農業総合研究所)、九州農業試験場(現九州沖縄農業研究センター)へと受け継がれ、全国へ広がってゆきました。神奈川県園芸試験場に発した流れは、「神奈川方式」とよばれる独自の消毒法式を完成させ、神奈川県のバラ農家から全国へ広がりました。今、2つの流れが合わさって、施設栽培農家を中心に広く受け入れられようとしています。
熱水土壌消毒の原理は、極めて簡単です。ボイラーで調製した熱水(通常80~98°C)を、圃場に注入(散布)するだけです。注入(散布)された熱水は、地面に浸透してゆき、地温を上げます。左の図は実際に熱水土壌消毒を実施した圃場の地温変化の一例です。土壌表面から深さ10cmごとに測定していますが、地温は表層では注入した熱水の温度とほぼ等しい高温になり、下層にゆくにしたがって段階的に低くなっていきます。しかし、いったん上昇した温度は、下層ほど長時間にわたって維持されます。土壌中に生息している病原菌や有害線虫、害虫、雑草種子などは、熱の力で死滅してしまいます。短時間に死滅させるためにはかなりの高温が必要なのですが、比較的低温でも長時間接触させれば、有害微生物は駆除できます。土壌は保温性に優れているため、比較的低温でも長時間維持することが可能です。駆除対象とする有害微生物の種類によって必要な処理温度は異なってきますが、一般的には地温が 55°C以上に達した層で有害微生物の駆除がはかれます。
熱水土壌消毒の特徴は、透水性に恵まれた平坦な圃場では安定した防除効果を示すことです。透水性の劣る圃場や傾斜している圃場では、効果がやや劣ります。有効範囲は各種土壌病害、線虫、土壌害虫、雑草等、広い範囲におよんでいます。土壌伝染性のウイルス病に対する防除効果はあまり期待できないといわれていたのですが、メロンえそ斑点病などのように糸状菌媒介性のウイルス病については防除効果がある事例もあります。また、「熱水土壌消毒を続けていたら、モザイク病がなくなった」という声が、高知県のピーマン農家から寄せられており、熱水土壌消毒を繰り返すことで土壌伝染性ウイルス病に対しても有効ではないかという声も出てきています。この点に関しては科学的な実証試験が必要です。防除効果と並んで特筆すべきことは、熱水土壌消毒を実施した圃場で作物の生育が旺盛となり、果実や花器の大型化、収量の増加、生育の斉一化などがしばしば観察されることです。「土壌のリフレッシュ 効果」とよばれています。熱水土壌消毒は、実施時期の制限があまりなく、作物が生育できるような時期であればいつでも実施可能です。ただし、地温が低い時期の消毒は、コスト面および効果面で若干のリスクがあります。防除効果が比較的長続きする事例が出てきていることも、熱水土壌消毒の特徴の一つです。防除効果が3年間持続したという事例もありますが、この点は対象病害の違いや圃場条件により大きく変わってきます。土壌を熱処理したときにしばしば発生するマンガン過剰症による生育障害発生の可能性は、熱水土壌消毒では極めて小さく、マンガンが多量に存在するような特殊な土壌や、消毒の2日後に播種といった極端な事例でごく少数観察されているだけです。作業者に対する危険性という面では、高温の液体を扱うという点での一般的な注意事項を守っていただければ、事故の心配はほとんどありません。熱水土壌消毒は、これ自体で高い防除効果を示しますが、太陽熱消毒、土壌還元消毒、土中加温消毒などといった他の物理的防除法との組み合わせ、抵抗性品種・台木の導入、微生物資材との組み合わせも容易で、それによりより更に安定した防除効果を示します。熱水土壌消毒は、作物が生育しているすぐそばでも実施可能です。
熱水土壌消毒の実施事例
それでは、熱水土壌消毒を実施して土壌病害の防除に成功した事例を紹介しましょう。
事例1 ダイズ黒根腐病
右の写真は、熱水土壌消毒の開発初期に実施されたダイズ黒根腐病を対象とした防除試験事例です。この病害はCalonectria ilicicollaという糸状菌によって根や地際部が侵され、ダイズは早期に黄化したり枯死します。写真に示すように無処理区はすでにほとんどの株が黄化しているのに対し、熱
水土壌消毒区の葉はまだ緑色を保っています。処理量は1m2あたり100リットル、試験場所は茨城県つくば市、供試品種は「エンレイ」、1989年7月22、日熱水土壌消毒、7月26日播種、10月9日収穫です。
事例2 メロンつる割病
左の写真は、メロンつる割病を対象とした試験事例です。左列が熱水土壌消毒区、右列が無処理区となっています。この病害はFusarium oxysporum f. sp. melonisという糸状菌がメロンの導管組織の中で増殖して黄化、萎凋、枯死などの症状を引き起こします。熱水土壌消毒区では発病株が少なく、収穫果率は80%、無処理区では早くから黄化が始まり収穫果率は32%でした。試験は熊本県西合志町、1m2あたりの処理量は150リットル、供試品種は「アムス」、1999年4月14日熱水土壌消毒、4月25日定植、7月28日収穫です。無処理区と熱水土壌消毒区では、糖度に違いは生じませんでした。
事例3 メロン根こぶ線虫病
右の写真は、メロン根こぶ線虫病を対象とした試験事例で、右が熱水土壌消毒区、左が微生物資材処理区の状況を示したものです。この病害は土壌中に生息するサツマイモネコブセンチュウ(Meloidogyne incognita)によって引き起こされ、根が奇形化(コブができる)するとともに葉が黄化します。メロンの果実はある程度まで肥大しますが、収穫に至らず枯死することが多い病気です。試験場所は鹿児島県有明町の農家圃場、1m2あたりの熱水注入量は150リットル、供試品種は「アールスセイヌ」、2000年8月26~27日熱水土壌消毒、10月22日定植、1月16日収穫です。収穫可能株率は、100%でした。無処理区は設けませんでしたが同時期に実施した3種類の微生物資材を処理したハウスでは1株も収穫できなかったことから、熱水土壌消毒の効果は明らかです。熱水土壌消毒によりメロンの生育は良好となり、臭化メチルで処理した場合よりも、果実は大型化しました。試験を実施していただいた農家は、このあと熱水土壌消毒の全面的な導入に踏み切っています。
事例4 メロン黒点根腐病
右の写真は、ホウレンソウ萎凋病に対する防除効果を示したものです。この病害は、Fusarium oxysporum f. sp. spinaciaeという糸状菌によって引き起こされます。罹病株は黄化・萎凋して枯れてしまい、圃場には欠株が目立つようになります。熱水土壌消毒区(右)では生育が順調ですが、無処理区(左)では欠株が目立ち、生育もそろっていません。試験場所は熊本県矢部町の農家圃場、1m2あたりの熱水注入量は200リットルです。熱水土壌消毒は2002年6月10日に実施しました。
事例6 トマト青枯病
左の写真は、トマト青枯病に対する防除効果を示したものです。この病害は、Ralstonia solanacearumという細菌によって引き起こされる病害で、トマト病害の中でも最も防除困難な病害の一つです。罹病株は急速に萎凋し、青枯れ症状を呈して枯死します。試験を
実施した圃場は、前年(写真右)は青枯病による枯死株が多く平年比61%の出荷量しか確保できず、隔離ベッド栽培への移行が考慮された圃場でしたが、熱水土壌消毒を実施した後(写真左)では、発病株率が0.8%に抑えられ、出荷量も平年比114%(前年比185%)となりました。試験場所は千葉県長生村の農家圃場、1m2あたりの熱水注入量は250リットル、処理面積は2,000m2です。熱水土壌消毒は2003年6月16~23日に実施しました。試験を実施していただいた農家は、この効果に自信を持ち、同じ地域のトマト栽培農家とともに「長生熱水組合」をつくって、熱水土壌消毒を全面的に導入しています。
事例7
右の写真は、雑草防除を目的として実施した試験事例です。作畦後に熱水土壌消毒を行い、耕起せずにオクラを播種して栽培していますが、左側の畦の無処理区では、メヒシバやタデ類などの雑草に埋もれてオクラは見えなくなっています。熱水土壌消毒区(右側の畦)には、雑草の生育はほとんどありません(通路部分は除草してあります)。試験場所は熊本県西合志町、1m2あたりの熱水注入量は150リットル、2000年4月12日熱水土壌消毒、6月5日雑草調査です。
以上6事例を紹介しましたが、防除効果があったと報告されているものは、次の表に示すように27作物58病害に及んでいます。
1.熱水土壌消毒により良好な防除効果が得られた試験例 | |
---|---|
ホウレンソウ | 萎凋病 |
ダイコン | 萎黄病、根腐線虫病 |
ハクサイ | 根こぶ病 |
チンゲンサイ | 根こぶ病 |
コマツナ | キスジノミハムシ |
パセリー | 根こぶ線虫病 |
イチゴ | 根腐線虫病 |
トマト | 青枯病、萎凋病、褐色根腐病、根腐萎凋病、根こぶ線虫病 |
スイカ | 黒点根腐病、根こぶ線虫病 |
メロン | 黒点根腐病、つる割病、根こぶ線虫病 |
ダイズ | 黒根腐病、シスト線虫病 |
コムギ | 立枯病、から黒穂病 |
サツマイモ | 立枯病 |
ガーベラ | 根腐病 |
トルコギキョウ | 根腐病、青かび根腐病、根こぶ線虫病 |
2.熱水土壌消毒により土壌中の病害虫密度が顕著に減少した試験例* | |
ダイズ | 白絹病 |
ゴボウ | 白絹病 |
メロン | 菌核病 |
キュウリ | 緑斑モザイク病**、苗立枯病、ホモプシス根腐病 |
トマト | モザイク病**、半身萎凋病 |
3.熱水土壌消毒により前作よりも発病が大きく軽減された例* | |
ホウレンソウ | 株腐病、立枯病 |
ナス | 青枯病 |
トマト | 半身萎凋病 |
セルリー | 萎黄病、根こぶ線虫病 |
ピーマン | 疫病、黒点根腐病 |
スイカ | つる割病、ホモプシス根腐病、根こぶ線虫病 |
メロン | 毛根病 |
キュウリ | つる割病、ホモプシス根腐病 |
シソ | 根こぶ線虫病 |
ネギ | 萎凋病、黒穂病 |
ミョウガ | 根茎腐敗病 |
キク | 立枯病 |
ガーベラ | 根こぶ線虫病 |
バラ | 根頭がんしゅ病、線虫類 |
トルコギキョウ | 青枯病 |
カーネーション | 萎凋細菌病、萎凋病 |
スイートピー | 腰折病 |
*1にあげたものは除く
**不活化は土壌浅部でのみ認められた
熱水土壌消毒のもつ土壌のリフレッシュ効果
熱水土壌消毒を実施した圃場では、生育が旺盛となり収量も増加する事例の多いことが、最近の研究からわかってきました。私たちはこれを「土壌のリフレッシュ効果」とよんでいます。リフレッシュ効果の生ずる原因についてはまだ充分にわかっておりませんが、有害微生物の除去、作物の生育に有害な物質や過剰塩類の除去、作物の利用可能な窒素量の増加などの要因が考えられます。一般に熱水土壌消毒後の圃場に播種または定植された作物では、根の活性が高まり、初期生育が旺盛となり、果実が大型化したりします。収量も一般的に増加する傾向にあります。
図に、メロンの果実が大型化した事例、スイカの花(花弁、雄蕊など)が大型化した例、ピーマンで収量が増加した事例を示しました。また、表にピーマンの試験を実施していただいた農家の感想ということでお聞きした結果をまとめています。メロンの試験は鹿児島県有明町の農家圃場の事例で、熱水土壌消毒が2000年8月26~27日、熱水注入量は1m2当たり150リットル、供試品種はアールスセイヌ、10月22日定植、2001年1月16日収穫です。慣行栽培区は臭化メチルを用いた土壌消毒を行っています。スイカの試験は熊本県益城町の農家圃場の例で、左が熱水土壌消毒区、右が慣行栽培区(D-D処理)です。熱水土壌消毒は2002年8月実施、熱水注入量は1m2当たり150リットルです。ピーマンの試験は熊本県益城町の事例で、熱水土壌消毒が2001年8月1日、熱水注入量は1m2当たり150リットル、供試品種は土佐光D、10月5日定植です。
収量は株あたりの累積収量(kg)で、調査期間は2~4月です。慣行栽培区は、クロルピクリンを用いた土壌消毒を行っています。熱水土壌消毒により発芽や 活着が促進されこそすれ、阻害された事例はありません。蒸気消毒の場合には、土壌中に作物が吸収可能なマンガンが増えてマンガン過剰による生育障害がしば しば観察されます。熱水土壌消毒においても作物が吸収可能なマンガン量の増加が観察されますが、増加量は全般に低く、しかも急速に低下してしまうので、極 端にマンガンの多い圃場や熱水土壌消毒直後に無理矢理栽培にかかるような極端な場合を除くと、マンガン過剰症出現の心配はほとんどないと考えられます。
質問内容 | 熱水土壌消毒 | クロルピクリン消毒 |
---|---|---|
定植後の根の活着 | ◎ | ○ |
追肥の肥効 | ◎ | ○ |
果実の生育 | ◎ | ○ |
果実の色つや | ◎ | △ |
株の初期生育 | 生育がよくそろう | 生育が不揃い |
8ヵ月後の草勢 | ◎ | ○ |
土壌断面に現れる細根量 | ◎ | ○ |
8ヵ月後の細根の色調 | 白色味が強い | やや褐色味を帯びる |
◎:非常に良い(非常に多い)、○:良い(多い)、△:普通
熱水土壌消毒の手順と留意点
熱水土壌消毒をうまく活用して安定生産を上げるためには、日常的な圃場管理、直前準備、実際の消毒、そして事後管理のいずれの局面においても慎重な栽培管理が要求されます。熱水土壌消毒は、(1)圃場の準備、(2)ボイラーと熱水注入装置の準備、(3)保温シートによる被覆、(4)熱水の注入、(5)後かたづけという手順で実施します。熱水土壌消毒システムの種類によって、細部の手順に多少の違いが生じます。
圃場の準備
1.熱水土壌消毒の最初は、何といっても圃場の準備です。膨軟性に富み透水性の優れた圃場ほど熱水土壌消毒の効果が顕著に示されます。この点では、日頃からの土づくりがものをいってきます。耕土層が浅く堅く締まった圃場では、熱水が浸透しません。耕盤があると、熱水の浸透はそこで遮られて、横に移動してしまいます。特別の水みちができていると、熱水はその部分に集中して、極端な場合はそのまま圃場外へと流れ出てしまいます。下図は堆肥を連用してきた圃場と、化学肥料のみで栽培してきた圃場で、同量の熱水を注入して、土壌中の白絹病菌(Sclerotium rolfsii)の生死をみてみたものです。堆肥を連用してきて土壌が膨軟性に富んでいる圃場では、白絹病菌の菌核はより深い層まで死滅しています。土壌のリフレッシュ効果も、土づくりの進んでいる土壌ほど出やすいと考えられています。
2.圃場はできるだけ深くまで耕起し、均平にしておきましょう。周辺への熱水の流出を防ぐための仕切板や土留めなどの設置が必要な場合もあります。熱水土壌消毒では、熱水をどこまで浸透させることができるかによって、その良否が決まってきます。右図は、トラクターであらかじめ踏み固めておいた圃場で耕起深度(深耕区:耕深約40cm、浅耕区:耕深約15cm)を変えて熱水土壌消毒を実施した場合に、熱水の圃場への浸透速度が熱水の注入速度を下回るようになり、圃場表面を流れて注入区画外に流れ出すまでに注入可能であった熱水の量(連続注入可能量)を比較してみたものです。より深くまで耕起した後に熱水土壌消毒を実施した方が、熱水の浸透が良好になっていることがわかります。透水性の劣る圃場の場合は、深耕しておかないと、熱水は土壌に浸透するよりも圃場外に流れ去ってしまうことが多くなり、目標とする熱水量が注入できません。
3.熱水の地下への浸透を良好にするため、土はあらかじめ乾燥させておきましょう。土壌水分が多い場合には、土のみかけの比熱が高くなるほか、熱水の深部への浸透が妨げられます。
4.施肥や作畦は消毒後に実施するのが普通ですが、作畦後の消毒や、前作の畦をそのまま生かして不耕起状態での消毒なども、技術的には可能です(土壌によっては困難な場合もあります)。
5.冬期などのように地温が低い時期に実施する場合には、事前にハウス密閉処理などを行って、少しでも地温を上げておきましょう。
ボイラーと熱水注入装置の準備
1.熱水調製用のボイラーを準備し、電源と水源を接続し、燃料が供給されるようにします。ボイラーの所定位置への移動は、長距離の場合はトラックなどに積載しての移動となりますが、圃場内あるいはごく近距離の移動は、台車を利用しての移動、トラクターでの牽引、自走など、システムによって選択します。電源は100V単相仕様のものと200V三相仕様のものがあります。使用するボイラーに必要な電圧、電流がえられるようにしてください。燃料は灯油、A重油、LPガスなど、ボイラーごとに指定されている燃料を準備します。ボイラーに供給する水は、特に汚れや藻類の繁殖が著しいもの以外は、通常使用可能です。ボイラーは熱容量の異なる各種タイプのものが市販されています。消毒目的にあった能力を持つものを選択してください。ボイラーの能力により一定時間内に調製可能な熱水の量が決まります。原水の温度が極端に低い場合には、熱容量の大きなボイラーが必要です。設置が完了したら、熱水注入装置と接続しておきます。
2.熱水注入装置を設置します。熱水注入装置は、大別してチューブ式と牽引式に分けられます。メーカーによっては両方の方式を備えている場合と、片方の方式のみの場合とがあります。
3.チューブ式の熱水注入装置の場合は、準備を終えた圃場に、耐熱性の灌水チューブ(または塩ビパイプ)を敷き並べます(右図)。チューブの設置間隔は、通常30~50cmですが、使用するチューブの種類と土質により間隔を調整する必要があります。間隔が広すぎると、熱水が浸透しない部分が生ずることがあります。
4.牽引式の熱水注入装置の場合には、散湯装置を圃場の一端に設置し、反対側の端にウインチを設置して、ワイヤーで連結します(左図)。熱水の注入は、散湯装置から熱水を散布しつつ、ウインチのワイヤーを巻き上げて散湯装置を圃場の端から端まで移動させ、熱水の注入を行います。ウインチは、きちんと固定してください。
5.透水性に優れ均平度の高い圃場では、チューブ式と牽引式の間で、消毒効果に違いはありません。作業性は牽引式が優ります。装置の耐久性は、牽引式が圧倒的に優ります。傾斜のある圃場や透水性がやや劣る圃場では、チューブ式が優ります。作畦後の消毒や追加給水(Q&Aの項参照)を意図する場合には、チューブ式を選択します。作物が生育しているすぐそばで実施する場合には、消毒を意図する区画の幅によっては、チューブ式のみが利用可能という場合もあります。
6.熱水注入装置の設置が終わったところで、圃場全体を保温シートで覆います。保温性の優れたシートほど防除効果は安定しますが、通常の農業用ビニールでも充分の効果があります。しかもすでに使用実績のある中古品で充分です。大きな穴の部分は、別のビニールをその上にかぶせておくとよいでしょう。圃場全体を1枚のシートで覆えない場合は、途中で別のシートを継ぎ足します。ポリエチレンフィルムは、消毒システムの種類と消毒のやり方によっては、耐熱性の関係で使用できない場合があります。熱水注入用の灌水チューブと保温シートを一体化させた熱水注入装置を使用する場合には、別のシートで被覆する必要はありません。
熱水の注入
1.諸準備が整ったらボイラーに点火します。所定温度に達したら注入装置に熱水を流し、圃場への注入を始めます(右図)。注入する熱水の温度は通常80~95°Cですが、耐熱性の高い病原菌の場合や、深部までの消毒が必要な場合には、高温の熱水を注入するのが有利です。
2.熱水の注入量は、深さ20cmまでの消毒を目標とする場合には100リットル/m2、30cmまでの消毒を目標とする場 合には150リットル/m2、40cmまでの消毒を目標とする場合には200リットル/m2をベースに、対象病原菌の耐熱性、土質、地温などによって調整しま す。ホウレンソウなどの軟弱野菜類は20cmまでの消毒、果菜類では30cm以上の深さまでの消毒というのがひとつの目安です。ウリ類の黒点根腐病菌は耐 熱性が高いので、200リットル/m2が最低ラインと考えられます。
3.熱水の注入量は、チューブ式では注入時間、牽引式ではウインチの巻き取り速度を調整することで実施します。
4.熱水の注入終了後も、保温用の被覆シートは少なくとも2日間程度はそのままにしておき、残熱効果を充分に活用します。
後かたづけ
熱水注入の終了後、使用した機材の回収と洗浄を行います。注入終了直後は、機材の一部がまだ高温ですので、取り扱いに注意してください。