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コロナ「全国民検査」は無意味である

検査結果は曖昧、それでも知りたい必然性がある人だけ受けるべきもの

高橋真理子 朝日新聞科学コーディネーター

原理的にも「事前に発見」は無理

 それに、「感染させる人を事前に見つける」ことは原理的にもきわめて難しい。感染させる可能性は発症の2~3日前から高くなり始め、発症前後にピークを迎えるというのが今や世界的なコンセンサスになっている。典型的な発症パターンは、感染から1週間程度で症状が出始めるとされる。感染する前に体内にウイルスはいないわけで、感染してから4~5日間(もちろん本人に感染の自覚はなく、この間は無症状)という短い期間に見つけ出さないと「事前に見つける」ことにならない。

 無症状感染者は「発症」というイベントがないわけだが、体内のウイルス量が感染時から徐々に増えていき、それがどこかで減っていくことはおそらく変わらないだろう。その増え始めのときに検査に行かないと、感染予防につながらないわけだ。しかも、その検査でちゃんと陽性にならなければだめだ。ところが、感染してもウイルス量が少ないうちは陽性になる可能性が低い。陽性となる可能性が高くなるころにはすでに感染させうる状態になっているというわけで、「事前に発見」は原理的にも無理ということになる。

 実際、米国ジョンズ・ホプキンス大のチームが7つの研究のPCR検査データ(1330人分)を分析したところ(米内科学会誌5月13日公開の論文)、発症4日前だと陰性の確率が100%(95%信頼区間が100%-100%)で、前日だと67%(同27%-94%)、当日になってやっと38%(同18-65%)だった。95%信頼区間とは、ばらつきのあるデータ集団のうち95%がはいっている区間という意味で、これが「100%-100%」ということは、み~んな陰性だったということだ。4日前以前に見つけるは絶望的である。前日だって過半数は陰性なのだ。

「どこかに無症状感染者がいる」ことを前提に対策を考えるべき

 要するに、全国民検査にメリットはない。逆にコロナ感染に対する忌避感情を増大させるという大きなデメリットがあることを私は恐れる。感染者に対し「検査に行かないのが悪い」という、まったくいわれのない自己責任論が広がることが容易に想像できる。

 「どこかに無症状感染者がいる」という状態は、残念ながらなくせない。それを前提とすることこそ、経済再開後の対策を考える一丁目一番地である。

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筆者

高橋真理子

高橋真理子(たかはし・まりこ) 朝日新聞科学コーディネーター

朝日新聞 科学コーディネーター。1979年朝日新聞入社、「科学朝日」編集部員や論説委員(科学技術、医療担当)、科学部次長、科学エディター(部長)などを務める。著書に『重力波 発見!』『最新 子宮頸がん予防――ワクチンと検診の正しい受け方』、共著書に『村山さん、宇宙はどこまでわかったんですか?』『独創技術たちの苦闘』『生かされなかった教訓-巨大地震が原発を襲った』など、訳書に『ノーベル賞を獲った男』(共訳)、『量子力学の基本原理 なぜ常識と相容れないのか』。

 

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