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 近隣国同士、利害が絡みあう3カ国の政治リーダーが一堂に会し、地域の協力を話しあう。そんな貴重な場をあえて見送るのが賢明な判断だろうか。

 定例化している中国、韓国との首脳会合(サミット)出席に菅首相が難色を示している。

 今回の開催地は韓国である。日韓の政府間では、戦時中の徴用工問題が、最大の懸案となっている。

 日本政府は、具体的な解決策を韓国側が示さない限り、首相は訪韓できないとしている。

 両国間に横たわる徴用工問題を速やかに解決し、関係の改善をはかる必要があることは論をまたない。政治の事情で、経済や市民の交流をこれ以上、滞らせるわけにはいかない。

 そのためには韓国政府が、政府間協議の土台となりうる解決案を早急に示す必要がある。

 しかし、それをサミット参加の条件にすえるのは筋が違うと言わざるをえない。

 そもそも日中韓サミットは1990年代末、中国を巻き込んだ東アジアの枠組みをつくろうという日本の提唱で始まった。国際会議を利用しての朝食会が前身である。

 それが12年前から、日中韓が回り持ちで原則、年に1度開く定例会へと発展した。

 尖閣諸島をめぐる日中の対立などでこれまでにも、サミットは延期されたことがある。

 だが、そんな際にも、懸案があるからこそむしろ開くべきだと呼びかけてきたのは、ほかならぬ日本である。今の政府の態度はその主張とも矛盾する。

 日韓双方は、国交正常化以来の取り決めを守っていかねばならないのは当然のことだ。

 他方、歴史問題だけが両国関係のすべてではない。日韓には長年積み上げてきた互恵の実績がある。それを発展させていくべきパートナーの関係にあることもまた事実だろう。

 いきづまる関係を打開するのも政治指導者の大きな役割だ。菅首相は就任後、初めて文在寅(ムンジェイン)大統領と直接向きあい、懸案を語りあってみてはどうか。

 韓国では、福島第一原発にたまった処理済み汚染水の問題にも世論の関心が高いが、これを説明する機会にもなりうる。

 中国の李克強(リーコーチアン)首相との間でも、通商や尖閣問題をはじめ議論すべき課題は多い。

 何より、新型コロナ対策での連携を確認する好機となろう。日中韓ではビジネス関係者の往来も再開し、地域内の経済の活性化が期待されている。

 年内開催が見送られても、議長国は変わらない見通しだ。韓国であれば日帰りでの参加も可能だ。菅首相は前提条件なしにサミットに出席すべきである。

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