「ジェンダー炎上」が注目された2020年。「失敗する企業」に足りないものとは

治部 れんげ プロフィール

三浦さんは良い例として、美容室向けのシャンプー等を製造販売するミルボンのCMを挙げた。美容院で髪を切った後のちょっと嬉しく照れ臭い気分を様々な女性の姿から描く日常シーンが素敵な動画だ。登場する女性たちが、実は母親だったり、同性カップルだったりすることを、さり気なく、織り込んでいる。「半歩先にある、実現したらいいなという未来を描いているところがいい」と三浦さんは評価する。

この他にも、王子様駅員に扮したアイドルの中島健人さんが、男性客をお姫様抱っこする京成電鉄のポスターや、5人の若手人気俳優が楽しそうに洗濯をする花王のCMなど、楽しい雰囲気の中で、さりげなくジェンダー規範をずらして見せる広告を紹介してもらった。

 

とかく炎上ばかりが注目されがちなジェンダーと広告の分野だが、日本にもジェンダー視点で人をエンパワーする広告が実はたくさんある。

今年5月、UN Women日本支部が日本経済新聞社と日本アドバタイザーズ協会と共に「アンステレオタイプアライアンス」を設立した。ジェンダーに基づく偏見を取り除き、広告を通じたジェンダー平等を推進する取り組みで、私もアドバイザーを務めている。11月には、こうした観点から優れた広告を表彰した。

冒頭に記したように、2020年後半にジェンダー炎上に関する報道が目立ったのは、日本社会のジェンダーに対する関心が高まったことの表れと言える。2021年は、ジェンダー炎上だけでなく、良い事例についても「何が良かったのか」を言語化する作業が増えていくことを期待している。