「ジェンダー炎上」が注目された2020年。「失敗する企業」に足りないものとは

治部 れんげ プロフィール

企業にこれまで以上に「教養」が求められている

ところで、このイベントは書店で開いたもので、三浦さんと私がそれぞれ、最近出した本の紹介を兼ねたものだ。三浦さんは『超クリエイティブ』と題した仕事の思考法と実装術の本を、私は日本のジェンダー格差に関する本を共に10月に出版している。イベントでは、お互い本の感想を述べ合った。

三浦さんの新刊で私が特に惹かれたのは「第3章 モラルと教養という基礎力」だ。この章ではジェンダー炎上事例にも触れており、「モラルと教養をベースにしっかりと判断すれば避けられたものがほとんどだったと思う」という。ここで三浦さんは「教養」を「総合的に社会を俯瞰できる『知性』」と定義している。私もまさに、ビジネスパーソンにもジェンダーの知識が必要であり、それは教養だと思っている。

そして、教養としてのジェンダー視点をもった広告クリエイターは、はっとするような素敵な作品を作っている。イベント後半では、ジェンダー視点で良い広告を紹介しつつ、今後の展望について話し合った。

ジェンダー視点でも優れた広告たち

村山さんが見せてくれたのは、駅ビル「ルミネ」の広告だ。「MERRY GOOD JOB! ほめよう。わたしたちを」と題したクリスマスのキャンペーンで、様々な性別、人種、顔立ちの人々の笑顔が並ぶポスターが印象的だ。生き生きした、かつ普段着の表情からは、コロナで様々な制限がある中、頑張って働いてきた人々を勇気づけるパワーを感じる。

〔PHOTO〕ルミネの公式インスタグラムより
 

実はルミネは5年前、「働く女性を応援する」趣旨で制作した動画がジェンダー炎上している。この時は、仕事を頑張っているカジュアルな服装の女性を馬鹿にしつつ、女性らしいお洒落をしている別の女性社員を褒める上司が登場した。ハラスメント発言を無批判に描いてしまったことで、この動画は女性だけでなく、男性からも「不快だ」という声が集まった。

ただ「ルミネはもともと、良い広告をいっぱい作ってきた企業です」と村山さんは解説する。炎上した広告のほうが例外であり、多くの共感を呼んだ今年のクリスマスキャンペーン広告は、良い意味でルミネらしかった、ということだ。この事例から分かるのは、一度炎上を経験した企業やブランドでも、新たに良い発信をすれば挽回の可能性がある、ということだ。