※注意
レミリア×咲夜 咲夜×レミリア
毎度のことながら捏造・独自解釈あり
毎度のことながらネチョまで遠くネチョ薄の不親切設計、申し訳ないです
別離ネタにつき、苦手な方は要注意
※注意終了
幻想郷に来る以前、よく館を抜け出してはヨーロッパ中を放浪していた。
隣り合っているくせに言語も価値観もまるで違う国々を、当時は一介のメイドだった美鈴を世話役にして、気の向くままに渡り歩いたものだ。
国境線を飛び越えるたびに、違う常識に従う人間たちを面白おかしく見てきたけれど、どこから見ても同じように見える存在は常に私の視界のなかに入り込んできた。
山。
ヨーロッパ――特にスイスあたりでは、アルピニストというやつは歓迎されるものだった。シャモニのガイドはもちろん、イギリス人も、ドイツ人も、フランス人も、イタリア人も、オーストリア人も――戦後には日本人もいたけれど、とにかくいろんな人種が、山屋という共通項だけで同じ谷に集まっていた。
人間なんぞお話にならないくらいの身体能力持ちのうえ、空まで飛べる私にとっては、そういうやつらの心情は理解できなかったけれど、彼らはなんの報酬にも期待せず、アルプス中の壁を登っていったものだ。
アルプスの麓でそういう連中を見ることが、ろくに娯楽のなかった私にとって、数少ないお気に入りの時間だった。登ってる最中は空を飛んで、壁にへばりついて攀じ登るしかない人間の弱さを見下ろしてやるのだ。
モンブラン、ドリュ、マッターホルン、チマ・グランデ、モンテローザ、ビッツ・バティレ、アイガー、とか。目を瞑れば今でもそれらの山々が瞼の裏に浮かぶ気がする。妖怪の山なんて可愛く思えるくらい険しく、美しい世界。
特にグランドジョラスの北壁――ウォーカー・バットレスとか中央バットレスとか――に登ろうとした、愛すべきばかどもは、半分くらいは帰ってこなかったと思う。
幻想郷に来て、少し後悔したのは、そういう山々や、そこに登ろうとする者たちを見れなくなってしまったことだ。
彼らはまだ幻想入りしていないから。
彼らを見て学んだのは、人間というやつは、手に入らないものほど必死になって求めようとするということ。
手を伸ばして届いてしまうものになんか目もくれず、境界の向こう側にあるものばかり欲する。
届いたら届いたですぐそれを潔く手放して、また新しい山を探して地の果てまで歩いてゆく。
そういうタイプの人間を愚か者だと嘲笑うのは簡単だ。私、レミリア・スカーレットが生まれながらにして与えられた環境には、望めば全てが手に入る、権力も身体能力もあったのだから。
そういう欲求を手に入れられないという一点において、吸血鬼の貴族というのも良し悪しだったかもしれない、とたまに思ったりもする。
今にも手が届きそうなほど大きく見える月を見ながら、そういうことを考えた。
永夜の異変の際に見た偽りの月ほどではないけれど、真冬だから空気は澄んで、空は高い。
紅魔館のテラス。
先日降ったばかりの雪が、其処彼処について、月明かりを反射している。
光の弾ける音さえ聴こえてきそうなほど、辺りは静寂そのものだ。
白く凍る吐息越しに、白く雪化粧をつけた遠い山脈を見やる。
日本のなだらかな山容は、あまり好きじゃない。
富士山は完全すぎるくらい整った形をしているけれど、幻想郷からじゃ見ることはできない。
どこかの暑苦しい蓬莱人が、その名を冠したスペルを使うくらいだ。
幻想郷に来て平穏を手に入れたはいいけど、代わりに失ったものもある。
「咲夜」
と、私は蚊の鳴くような声で名を呼ぶ。
その声が彼女の耳に届けば、あらゆる時間を越えてすぐ、私の隣に現れる。
けれども声が届かなければ、どんなに時間が捻じ曲がったとしても、彼女は姿を消したままだ。
五百年の時間を前にすればほんの一瞬、霞のような合間だけれども、それは確かに現実なのだ。
「咲夜」
呼びかける声は凍りついてしまう。
妖精メイドは皆寝入り、フランもパチェも美鈴も、それぞれの部屋に篭もっている。
昼間は野良妖精の溜まり場になっている湖も、今は鏡面のように凪いでいる。
風さえじっと息を潜めている。
まるで全てが静止しているような、銀色の時間帯。
途方に暮れるような心地がする。
テーブルに肘をつき、額に組んだ手を当てる。
「咲夜。寒いし喉が渇いたわ。温かい紅茶を入れて頂戴。苔桃のジャムもつけて」
早口で言い切って、しばらく待つ。
きいん、と、耳が痛くなってくるような静寂が返ってくる。
鼻先も耳も、すっかり冷たくなってしまった。
「咲夜」
もう一度口にしてから苦笑する。
私はそのことばが無駄なものであるとわかっているのに、それでも口に出さずにはいられないのだ。
震える声で彼女を呼ぶ。
おかしな話。彼女はもう紅魔館から姿を消してしまったというのに。
ゆっくりと目を閉じる。
意識を手放す。
私の身を覆うのは薄っぺらいシルクのネグリジェ一枚。
吸血鬼でも寒いものは寒いし、辛い。
そのうえ明日の朝になって太陽が出れば、この体は気化してしまうかもしれない。
――知ったことか。くそくらえだ、なにもかも……
吸血鬼と人間として生まれ出でた瞬間から、こうなることは決まりきっていた。
運命を視るまでもなく、逃れようもない結果としてこの結末は用意されていた。
もし彼女が妖怪であったのなら。もし私が人間であったのなら。
違う場所で、違う状況で、違う世界で、違う時間で、違う者として出会っていたのなら。
なにひとつ拘束されることのない自由な少女であったなら、私とおまえはどうなっていただろう。
よくある話だ。
FREAK ON A LEASH
1
一ヶ月前、博麗神社を訪れたときのこと。
秋から冬に変わる時節で、石畳の上にはたくさんの枯葉が風に舞い、午前中に焼き芋でもやったのか、黒ずんだ燃え滓のなかからいい匂いが漂ってきていた。
霊夢はちょうど炬燵を引っ張り出している最中で、声をかけて居間に上がると、同行していた咲夜を連れて行かれた。
出したはいいが豆炭が切れていて、「買出しに行くから適当に待ってなさい」と放っておかれた。
咲夜は慣れた様子で台所を漁って、冷たい炬燵のなかに入り込んだ私の前に、二番煎じらしいほうじ茶を出した。
「神社に来るようになってからすっかり舌が安くなったわ」
恨みがましく咲夜を見上げると、咲夜はいつもの調子で微笑んでみせる。
「人里に行くついでになにか甘いものでも買ってきますわ」
「おまえも霊夢についていくの?」
「霊夢ひとりでは豆炭を一袋持って精一杯でしょう。彼女のことですから気の利いたものを買ってくるとも思えないですし」
「私はお茶一杯で何時間も待たされるわけ」
「すぐに戻ってきますから」
ふん、と鼻を鳴らして、手をひらひらさせて促した。
咲夜は微笑んだまま頭を下げて、ふっと姿を消す。
先に出た霊夢を追っていったのだろう。
思わず溜息をついてしまったけれど、気がつくと私の前にはお茶の他に焼き立てのラングドシャが用意されていて、お腹のところに温かいものまで置いてあった。
湯たんぽかと思ってそっと身を引くと、尾が二本あってお腹が赤い黒猫だった。
猫自身なにがなんだかわかっていないようで、にゃあと短く一声鳴いたが、私は咲夜のもてなしを甘んじて受けるつもりで、猫に両手を回してぎゅっと押さえ込んだ。
その日博麗神社にはただ遊びに来たのではなくて、霊夢にちょっとした相談事があったからだったのだけれど、実際には話し相手は霊夢じゃなくても、幻想郷に詳しい者なら誰でも良かった。
だから目の前で空間にすっと一筋切れ込みが入って、ひとの眼の形に広がった黒い断裂から八雲紫が顔を覗かせたとき、私はこれは都合のいい話だとにっこり笑った。
「あら……」
「ご機嫌よう、紫」
紫はしばらくスキマから顔を出したままきょろきょろしてたけれど、神社に私以外の人気がないのを見て取ったのか、手にした扇子で口許を覆って溜息をついたようだった。
「ご機嫌よう、レミリア。ではさようなら」
「待ちなさい、こら」
そのままスキマを閉じて帰っていこうとしたので、私は炬燵から飛び出て、紫の頭を鷲掴みしてやろうと手を伸ばした。
「にゃぶっ」
飛び出た拍子に炬燵の上に落ちた黒猫が情けない声を出す。
紫はスキマのなかで、ダッキングの要領でひょいと私の手をかわし、とん、と突っ込んでいった私の額を押してスキマから遠ざける。
させるか。
スキマの上と下に手をかけて、閉じるスキマを膂力で強引に押し広げた。
「あらやだ。ちょっと。手を離してくれないかしら」
「私の顔を見るなり逃げ帰ろうとしないでよ」
「別にあなたから逃げようとしたわけではありませんわ。ただ霊夢に用事があったのに、肝心の霊夢がいないものだから」
「すぐ帰ってくるわよ。ここで待ってればいいじゃない」
「首輪もついていない犬の前に自分からお腹を見せようとも思いませんわ」
「あんたなんか噛んだりしないわよ。変な病気でも移ったら困る。それに犬は私のほうじゃない」
「霧にも蝙蝠にもなれる吸血鬼が狼にだけはなれませんなんて、信じると思う?」
話してる最中にも、紫は万力のような力でスキマを閉じようとしてくるので、私の腕はぎしぎし鳴りっぱなしだった。
これが普段通りであれば、この体勢のまま頭突きの一発でもくれてやるところだけれど、今は相談事があるのであまり機嫌を悪くさせるわけにもいかない。
紫は面白そうに眼を細めて私を見ている。
いちいちむかつく女ね。
「ちょっと話したいことがあるのよ。できれば出てきて欲しいのだけれど」
「このまま聴いてもいいですわ」
「出てきなさい」
「お断り」
「……わかった、このままで話すわ。でもちょっと恥ずかしい内容だから、ねえ、耳を貸してくれないかしら。それくらいの譲歩だったらいいでしょ?」
「そうね……」
紫は逡巡したあと、そっと顔を傾けて私の口許に耳を寄せる。
かかったなアホがッ。
渾身の力を篭めてスキマに身を乗り出し、咄嗟に後退しようとした紫の耳に噛み付く。
「ひゃうっ!?」
そのまま体を捻じ曲げて、スキマから紫の体を引き摺り出した。
隙間妖怪一本釣り。
「にゃがっ」
炬燵の上に放ったら、まだそこにいた猫が押し潰されてひどい声をあげた。
温かくないとわかっているのに炬燵に入ってしまうのは、生きとし生ける者の宿命のようなものだろう。
咲夜の用意したラングドシャはすぐになくなってしまった。
私の向かい側に八雲紫。右手側には人化して、お燐と名乗った化け猫。
冬眠の季節が徐々に近づいてきているせいか、先程のようなことをしても、紫は比較的穏やかなままだった。
「で、話したいことってなにかしら? 普段は気位ばかり高いあなたがそんな殊勝な態度になってしまうほどのこと?」
紫がそう言うと、
「えっ、どこら辺が殊勝……?」
と、燐が首を傾げた。
「養子縁組のね、手続きとかどうすればいいのかしら、って」
「……ん、ん?」
紫が扇子を口に当てたまま固まるのが見えた。
「幻想郷に来てから戸籍証明とかどういうシステムになってるのかいまいち曖昧で、色々と有耶無耶になってる気がするのよ。あんたって要はここの管理者なわけでしょ。お役所的な雑事もやってるの? それともこういう相談って人里か妖怪の山辺りに別に受け付けてるとこがあるわけ?」
私の問いに紫は少し戸惑っていたけれど、やがて扇子を降ろして、
「……まあ、幻想郷全体でそんなお堅い管理をしてるわけじゃなくて、人里には人里の、山には山の社会があって、そこに一任してるのだけれど。紅魔館がどこに属してるかって言えばそれは、紅魔館っていうひとつの国のようなものになってるわけだから、主人であるあなたがそうしたいって言えばそうなるわ」
と答える。
「ああ、やっぱりそうなの? なんとなくそんな感じなんだろうなって思ってはいたけど、とりあえず確認しておきたかったものだから」
「でもどうして今更そんなことを訊くのかしら。養子縁組って、あなた誰かの養女にでもなるつもり?」
「なんで私が子供側なのよ。私のほうが養親だから」
「へええ。さとり様よりちっちゃいのに、お母さんになるひともいるんだね」
「紅魔館の跡継ぎ問題?」
「これから先何千年も生きるってのに、そんなの必要ないでしょうが」
「話が見えないのだけれど。誰を娘にするっていうの? まさか霊夢じゃないでしょうね」
「幻想郷全部を敵に回すようなものじゃない、そんな妙な真似はしないわよ。咲夜よ、咲夜」
「……十六夜咲夜を?」
私は頷いた。
「それって意味があるの?」と紫は訊く。「もともとあなたの従者じゃない。そりゃあ、今のままじゃどう引っくり返っても親子には見えないけれど」
「要は公的な確認があればいいのよ。確かに大した違いじゃないかもしれないけど、『悪魔の館のメイド長』よりは『貴族の一人娘』のほうが有利でしょう?」
「有利? なにが」
「結婚」
「おめでとうっ!」
燐がほとんど反射的に炬燵から飛び上がって、殺傷力のない弾幕をぱらぱらと散らせた。
紫はぽかんとしていた。
「っと、私の言い方が悪かったかしら。相手もなにも決まっちゃいないわ。婚活よ婚活。これから咲夜に相応しい相手を探すの」
「なんだつまんない」
燐はまた炬燵に入り直した。
「探すって、あなたが?」
紫が疑わしそうに言う。
「従者は主人の世話をする。主人は従者の面倒を見る。どこかおかしいところがあるかしら」
「おかしくは……ないけど。あなたからそういう話を聴かされるとは思わなかった。でもちょっと時期尚早じゃない? 霊夢も魔理沙も、そういうことにはまだ全然無頓着よ?」
「咲夜の正確な歳ってよくわからないのよ。十代後半だって本人は言ってるけど、十五にも十九にも見えるし。もしかしたら童顔なだけでとっくに二十歳すぎてるかもしれない」
「まあ……確かに……言われてみれば」
「咲夜自身が人里辺りで男を囲ってるってんなら私の手間も省けるんだけど、ちょっとした時間に買い出しに行く以外は大体私に付きっ切りだし、そういう浮ついた話も聞かないし。このままこういう生活を続けて、気が付いたら行き遅れになってましたって前に、ね」
「そうねえ、従者が人間だとそういう心配もしなくちゃならないのか」
「あんたんとこの狐や、お燐みたいに、ずっと生きてるってわけじゃないからね。人間ってのは」
空間が捻じ曲がったような違和感が一瞬あって、気がつくと炬燵の上に、新しく淹れ直されたお茶とラングドシャの追加が置かれていた。
「ただいま帰りました、お嬢様」
「あー、もう、すっかり寒くなっちゃったわね。また人里まで出向くのが面倒な季節に……って紫、あんたまで来てたの」
私の横には咲夜がいて、霊夢が縁側から上がってきた。
買い出しに行ったという割りには、ふたりは手ぶらだ。食材どころか、豆炭さえ持っていない。
荷物はどうしたの、と訊こうとすると、霊夢の後ろからたくさんの荷物を括り付けた背負子を担いだ、美鈴が現れた。
「どうもです、お嬢様! こんにちは紫さん、お燐さん!」
「美鈴あんた門番はどうしたの」
「えへへ、ちょっと門番隊の皆に代わってもらいました。咲夜さんと人里でデートなんて貴重な機会を逃すわけにはいかなかったものですから!」
「紅符『不夜城……』」
「あ、あ、いやですね、その、咲夜さんや霊夢さんにこんな重いもの持たせるわけにもいかないでしょう! ええ!」
「ふん、門番の仕事以外には熱心なんだから。荷物置いたらすぐ帰んなさい」
「そりゃないっすよお嬢様! 折角腕によりをかけた渾身の中華料理をご馳走しようと、数少ないお給料から出たポケットマネーでこんなにたくさん食材を買い込んできたのに!」
美鈴の言葉を聴いて、紫と燐の顔がぱっと明るくなった。
「中華料理!? あたいそれ食べてみたい!」
「藍と橙も呼んでいいかしら」
「レミリア。残念だけど今に限ってはあんたの家の安全より私の食欲を満たすことのほうが重要なの。魔理沙やアリスがしょっちゅうたかりに来て、最近は本当にかつかつだったんだから」
「そういうわけですお嬢様。残念ですが幻想郷は民主主義のようですから」
「ちっ……」
少数意見はいつだって圧殺される側だ。まったく。
咲夜と霊夢と美鈴が台所について、真っ赤になった豆炭が炬燵のなかに投入されたので、多少は暖まってきた。
日はすっかり暮れてしまい、外は余計に寒くなってるけれど。
紫と燐は先程にも増して上機嫌で、にやつく顔を隠そうともしない。
「で、咲夜があっちにいるうちに本題に入ろうと思うんだけど」
と私が言っても、さっきの会話なんかすっかり忘れてしまっていたのか、顔を見合わせてなにがなんだかという表情をした。
「人里で咲夜と釣り合いそうな男を紹介してほしいのだけれど」
私は紫に言う。
紫はラングドシャをひとつ口に含みながら、明後日の方角に視線を飛ばして、少し考えた後、
「……あなたの希望は?」
と訊く。
「やっぱりある程度の身分は要るわ。咲夜は貴族の娘ってことになるわけだから」
「そう。それだけで結構絞られてくるわね。最もここは日本だし、欧州の貴族のような華やかさは期待しないで」
「年齢は同年代か、私の理想としては年下がいいわ。咲夜より先に死ななさそうな。うん、それだと健康的な人間がいいわね。もちろん人望がなければ許せないし、元『悪魔の館のメイド長』なんて肩書きも気にしないくらいおおらかで、寛容な性質。我儘を言えばメイド長は続けて欲しいけれど、どうしてもって言うなら、目を瞑りましょう」
「……き、きつくなってきたわね」
「何より咲夜自身が気に入るかどうかよ。ええ、それに……最低でもフランやパチェを納得させられるくらいの男でないと。なにせ紅魔館全部、実質的に咲夜の庇護下にあるわけだから。もちろん私だってそう簡単に有能な従者を手放す気もないわ」
「たぶん、無理」
「だろうと思ったわ」
私は溜息をついた。
「この際妖怪でもいいわよ。ただでさえ幻想郷じゃ人間が少ないわけだし。でもそれだと少なくとも咲夜レベルの実力は欲しいわ。いざというとき、咲夜のことを身を呈して守ってくれるくらいの」
「あの娘レベルって」
紫は額に手を当てた。
「それって下手すれば霊夢クラスってことよ? 能力の汎用性まで考えればそれ以上かも。実際、春雪異変のときには幽々子ほどの実力者さえ退けてるわけだし。人間ってすぐ変な具合に成長するから、こういう言い方も悪いけど、もしかしたら主人たるあなたさえ食われかねなくなるかもしれない」
「じゃあ旧都の鬼なんてどう?」
燐が話に乗ってくる。
「男だと勇儀の姐さんほどの使い手もいないけどさ、種族が鬼なわけだから皆それなりにやるよ。妖怪としての格も高いし、大体気のいいやつばっかりだし」
「冗談じゃないわ。鬼なんて粗野で粗暴で乱雑で乱暴な連中に咲夜を任せられるものか」
「レミリア。ちょっと鏡を見てきなさい」
「んー、それだと天狗もだめだねえ。旦那と一緒に鬼にへいこらしなけりゃならなくなるから」
私はお茶に手を伸ばして、一口啜った。
人間相手だと厳しいだろうとは思ったけど、妖怪まで食指を広げてみても、意外と厳しいようだ。
まったく、幻想郷にはろくな男がいないのか。
ただここで妥協するわけにもいかない。メイド長がひどい男とくっつくとなると紅魔館全体のメンツに関わるし、何より咲夜自身が可愛そうだ。
「白玉楼。あそこに男は住んでないの?」
「以前はいたけれど、妖夢が幽々子の世話をするようになってから出奔したわ。若い頃はそりゃ美男子だったけど、もうお爺さんよ」
「永遠亭」
「主要なメンバーはみんな女。一介の兎と結婚したいっていうなら話は別だけど」
「山の上の神社に神主は?」
「早苗が風祝兼神主みたいなものよ」
「お燐。地霊殿は?」
「あたいもお空もお姉さんには敵わなかったし、それはつまるとこ、他のペットもみんな敵わないってことだよ」
「最近、人里に霊験あらたかな寺ができたそうじゃないか」
「ドキッ、女だらけの命蓮寺! ポロリもあるよ(落し物的な意味で)! って評判だけど」
「くそっ、どこかにいい男はいないのか!?」
「私の知る限り一番手頃なのは香霖堂の店主ね。身分はともかく相手としては申し分ないかと」
「あいつは店のなかじゃいつも褌一丁だって、幻想郷中にひどい噂が出回ってるじゃないか……!」
台所からいい匂いが漂ってくる。
美鈴の鼻歌と、霊夢と咲夜の話し声。
いつの間にスキマから出てきたのか、紫の式と式の式の声も聴こえる。
炬燵も心地よく暖まって、紫も燐も、すっかりふにゃけた顔をしていた。
「まあなんにせよ、急にそんな話を振られてもなかなか決まんないよ、って話だよねえ。そういう大事なことをすぐになんとかしようってこと自体、私の舌より甘い考えだよ」
ラングドシャを頬張りながら燐が言うと、紫も頷いた。
「気が向いたときにでもついでに探してあげるわ、っていいたいけど、私ももう冬眠の時期だし。春が来てまだこの話を覚えてたら、時間をつくってまた話し合いましょ」
私はむう、と唸って頬を膨らませた。
「前途多難ね。早めに話しておいて良かった」
「っていうかさあ」
燐が片肘をついて顎を乗せ、私の方に向く。
「そこまで注文つけるんだったら、いっそ、レミリアさんが貰っちゃえばいいのに」
「はあ?」
「あら、いいわねえ」
紫もだらしなく目尻を下げたまま言う。
「主人とメイドの恋物語って鉄板よ。ものの見事なシンデレラストーリー。愛は身分も年齢も越えて、って。あざとすぎて涙まで出てくるわ」
「いいなあ、いいなあ。あたいもまだ小っちゃかった頃は、そういう夢を毎晩見てたもんさ。そんときはお空もまだ気弱で可愛らしい乙女でひとりで寝れなくてさ、一緒の寝床で色んな物語をつくってはきゃーきゃーはしゃいでて」
「なにを言ってんの、おまえら」
呆れて、思わず溜息が出てくる。
「身分とか年齢とか以前に、私も咲夜も女でしょうが。そりゃあ、咲夜がメイドじゃなくて執事だったら、私が貰ってやってもいいって気にもなったかもしれないけど……」
私がそう言うと、紫も燐も黙りこくって、
「……」
「……」
急にそわそわしだした。
「――? 私今なんか変なこと言った?」
紫は扇子で口許を隠し、そっぽを向く。
なにか小声でぼそぼそ言ってるけれど、うまく聴き取れない。
「……いやいや……うんでもまったくその通り……いえ、けど、あの場合は仕方ないって言うか、うん……おかしくないおかしくない……だって藍ったらあんなツンデレ……」
燐は燐で炬燵に突っ伏して、腕で頭を覆い隠している。
やっぱり何事か呟いて、時折にゃあにゃあ素の声が出ている。
「発情期……発情期のせい……今までずっと弱気だったお空が急に強気……迫られて思わずキュンキュンしちゃっ……あれよあれよと流れ流され……悪くない私悪くない全部発情期のせい……」
「紫? お燐?」
心なしかふたりとも顔が赤い。
今まで普通に話してたのに、急にそんな態度を取られると困る。
なにか変な地雷でも踏んでしまったのかと不安になる。
「ねえ、ちょっとふたりとも」
「霊夢!」
声をかけた瞬間、紫がばっと立ち上がった。
「料理はまだかしら!? なにか手伝うことない!?」
「うっさい! 大人しくしてろババァ!」
「じゃあ先温泉入ってくる! お燐! 一緒に入らない!?」
「うん! お供するよお姉さん! あたいも丁度そうしようかなって思ってたとこ!」
「私をお姉さんなんて呼んでくれるのはもう世界にあなたひとりよ! 来なさい! 背中流してあげる!」
「あ、じゃあ私も……」
「残念ねレミリア、このスキマは二人用なの! あなたは大人しく炬燵で丸くなってなさい!」
「炬燵で丸くなるのはむしろお燐かおまえの式の式のほう……」
私がそう言い切る前に、紫と燐はスキマに呑まれていった。
「なんなのよ、もう」
あとには私だけが残された。
大体予想できたことだけど、料理が運ばれてくると修羅場になった。
人数は全部で八人。炬燵の定員は四人。
血で血を洗い、弾幕で弾幕を掻き消す闘争が行われたのは言うまでもない。
酒が入るとますます混沌が増していき、ひとり、またひとりと畳の上に倒れ伏していく。
最終的には即興スペル・神槍『スピア・ザ・ビースト』を発動させた私と、式と衣服という制御術式を全解放した八雲藍の一騎打ちを、霊夢が横から引っ叩いて終息した。
雑魚寝の体勢に入る私たち六人の上に、咲夜と霊夢が羽毛布団をかけて回った。
私は力尽きた振りをして目を閉じ、闇のなかでふたりの動きを追っていた。
全員にかけ終わると、ふたりは隣の部屋に行き、改めて飲み直すようだった。
ほんの少し開かれた襖の間から、わずかな光と、抑え目の笑い声が漏れてくる。
そっと動いて襖の間を覗くと、私の前で普段張りつけている瀟洒な表情を剥がした、穏やかにリラックスした咲夜の顔が見えた。
なにを話しているのかは聴こえてこない。ただそういうときの咲夜はきっと敬語も使ってないだろうし、同じ人間同士、霊夢相手にしかできない会話を楽しんでいるのだろう。
メイド服も脱いで、霊夢から借りたラフな寝巻き姿。
ナイフもなければ、三つ編みも解いて、まるで別人のように見える。
「――……」
私の前では、決して見せることのない姿だ……
襖から離れて、布団のなかに入り込む。
いつの間にか美鈴の足が侵入していたので、美鈴の体を蹴飛ばして転がした。
ぐーすか、間抜けな寝息が聴こえてくる。闇のなかでさえ、そういう美鈴がどんな表情をしているのかわかってしまう。
こいつは咲夜と違って、私の前でも常に素だ。敬語さえときどき怪しい。
天井を見上げて、そっと呟く。
「霊夢が男だったら安心して咲夜をやれるのに」
「ないものねだりしても仕方ないですわ」
紫の声が聴こえた。起きてたのか。
畳をずずずと這って、布団ごとこちらに寄ってくる。
「悪魔の娘さんが巫女のお嫁さんかあ。いいねえ、背徳感たっぷりだ」
燐の声まで聴こえてきた。
寝そべったまま頭を突き合わせるようにして、また私と紫と燐の会話が始まる。
光源は隣の部屋から漏れる光だけということもあって、なかなか新鮮な気分だ。
紫はいつになく楽しそうに微笑んでいる。普段の胡散臭さをどこに忘れてきた。
「ありがとね、レミリア、お燐」
思わず耳を疑ってしまいそうなことばさえ聴こえる。
「私はもうすぐ冬眠するけど、その間ずっと、今日のことを夢に見てそう」
紫の纏う雰囲気はなんだかふわふわしていて、奇妙な息苦しさを感じる。
「眠ってるだけって、結構淋しいものよ。もう細かい年も忘れるくらい生きて、その長さに比べたらほんと点みたいな時間だけど、やっぱり三ヶ月って長い。この一年間、思い返すだけで楽しくなってくるくらい色んなことがあったけど、今日はその締めとしてきっと良いものだった」
「なに言ってんのよ。今生の別れじゃあるまいし」
「人生、なにが起こるかわからないもの」紫はそう言ってますます笑みを深める。「吸血鬼異変の頃には、レミリアから咲夜の結婚について相談されるなんて思いもしなかったわ。変な話だけど、なんか嬉しくなっちゃった。これはあれね……娘が孫のことを話してくれたみたいな――」
紫は心底嬉しそうにことばを続け、燐が時折、相槌を打つ。
私はそっと部屋を見渡す。
布団より暖かそうな主人の尻尾に包まる黒猫。
この寒いのに布団も被ろうとしない美鈴。
隣の部屋で穏やかな時間を過ごしている霊夢と咲夜。
なんだか妙な組み合わせだ。こういう光景は二度と見られないかもしれない。
そう思うとなんかしんみりしてきた。
冬眠するからって、紫が変な話をするせいだ。
たった三ヶ月の、ちょっとした別離。
普段は何ヶ月も会わなくたって平気なのに、その間確実に会えないと言うだけで、妙な心地がする。
モヤモヤしたものが振り払えない。
この連中とは、これから先、怖ろしく長い年月を付き合うことになる。
多少、私の運命視も交えた、言わずもがなの確信。
千年でも二千年でも、近づいたり離れたりを繰り返しながら、時折、またこういう機会を得ることもできるだろう。
私は咲夜と霊夢が飲み交わしている隣の部屋を見やる。
でもその機会に、咲夜たちは……
咲夜。
私の従者。
「ねえ」
と、私は会話が一段落したときを見計らって、ふたりに言う。
「この際だからちょっと訊きたいんだけど」
紫と燐がこちらを向く。
「紫、おまえはどうやって藍を手懐けたの? あいつがおまえに向ける信頼って相当のものだけど、最初っからそうだったわけじゃないでしょ。九尾狐って言ったら日本最強の妖怪じゃない。お燐も、さとりのペットっていうか、ほとんど従者みたいなものでしょ。どういう風にそうなるに至ったわけ?」
「んー? 従順なメイドと一緒にいるご主人様らしからぬ質問だねえ」
「それはもちろん、見返りを求めない優しく広大な無償の愛によって」
「おまえが言うとものすごく胡散臭い」
「ひどっ……」
「本当にそうなの? 力で屈服させたわけじゃなく?」
「レミリアさん、力に屈したら女に生まれた意味がないよ。あたいがさとり様についてくのだって、あたい自身がそう望んでるからであって、無理矢理そうされてるんじゃないんだ。抱え切れないくらいに貰い受けたたくさんの恩を返すためさ。それは一生続くんだ、だってこうしてる間にもあたいはさとり様の存在を心で感じてるわけだから」
「お燐、あなたは全ての主がこうあって欲しいと思う従者の鑑だわ。私の藍には及ばないけれど」
無償の愛か。
陳腐なことばだ。
そういえばアルピニストというやつも、無償の征服者と呼ばれることがあったっけ。
骨折り損のくたびれもうけに命丸ごと費やすことへの、皮肉みたいなものだったけど。
「どうして急にそんなことを?」
と、紫が訊く。
「あなただって、充分すぎるくらい自慢できる従者を持ってるじゃない。結婚相手を都合してやりたいと思うくらい、あの娘のことを気に入ってるんでしょう? 咲夜だって、あなたに心からの忠誠を誓ってるように見えるし……」
私は一度口を噤み、鼻で数度呼吸をする。
「咲夜は」
少し、答えるのが辛い。
「違うんだよ」
2
後日、異変で知り合った数少ないツテを頼って、天界まで行ってみたりしたけれど、やはり結果は芳しくなかった。
咲夜の婿探しは、やはり腰を据えてじっくり取り掛からなければならないようだ。
年がら年中異変が起こり、新参者が幻想入りしてきたり長年の封印が解かれたりする幻想郷だから、時間が解決してくれるかもしれない。
人事尽くして天命を待つ、果報は寝て待て、ということなのか。
紫を訪ねてみたりしたけれど、もうとっくに冬眠していた。
私をもてなした藍は一見いつも通りの表情だったけれど、一度だけ、不意に体の芯まで寒々とするような顔をした。
「毎年こういうことがあるともうすっかり慣れたんじゃない?」
と私が言った直後だった。
昨晩に降った雪は一夜にして世界を銀色に変えた。
凍りついた紅魔湖の上にうっすらと白が積もり、流水を渡れない私でも、もうその上を飛べるようになった。
八雲邸からひとり帰ると、美鈴は珍しく眠っておらず、頭の上でぶんぶん手を振って私を出迎えた。
首には見慣れない赤いマフラーが巻かれており、私がそれに気がつくと、「咲夜さんがくれたんですよ」と心底嬉しそうに言った。
「今日も咲夜さんの婿探しですか?」
「そうよ。と言っても丸っきり成果なしだけど。将来的に見込みのありそうな男さえいやしない」
「あーそうですかそれは残念ですねー」
「顔をにやつかせながら言うなよ。そんなに咲夜が嫁に行くのが厭?」
「いやいやそんなことは」
美鈴はそう言いながらも後ろを向いて、自分の両頬をぱんぱんと叩いて表情を消そうとする。
振り向いた美鈴はどうにか真剣そうな顔を保とうとしてるようだったけれど、とても成功しているとは言い難い、なんとも言えない表情をしていた。
「言っときますけどお嬢様、私はそんじょそこらの人妖に咲夜さんを譲る気はありませんよ。咲夜さんが欲しいのならこの私を倒してから行けっ! って結婚式のときには乱入する心積もりですから」
「おまえの意志なんかはどーでもいいよ……」
溜息が出てきた。
「男がいないんだったら女にすればいいじゃない、って昔の偉いひとが言ってました」
「美鈴、おまえはなにを言ってるんだ」
「いやでもお嬢様、幻想郷の実力者とか権力者って全員女性じゃないっすか。ここは下手に常識に縛られるよりも、そういうひとに咲夜さんを任せたほうが道理じゃないですか? それに私たちが幻想郷に来たあとのことらしいんですけど、フランスじゃあパックスって言う、結婚できないカップルでも結婚とほぼ同じ法的優遇を得ることができる制度ができてですね……」
「あのねえ」
「ものは試しっすよ。ちょっと考えてみませんか? もし仮に咲夜さんの相手条件に性別の制約をカットしたら、結構うまくいくと思いません?」
美鈴は両手を胸前で合わせて、軽く頭を傾げて言った。
「……む、例えば?」
「人里だと慧音さんが鉄板ですかねえ。人々からの信頼篤く、寺子屋の先生っていうしっかりした職も持ってますし、咲夜さんのことも大事にしてくれそうじゃないですか? 満月の日以外」
「白玉楼」
「妖夢さんと気が合いそうですよね、従者同士。あ、でも幽々子さんのほうがいいのかなあ、咲夜さんがお嬢様の養女になるっていうなら」
「……永遠亭」
「鈴仙さんでも永琳さんでもいいですし、てゐさんなら幸福間違いなし、輝夜さんに至っては日本じゃ超有名なお姫様らしいですよ」
「地霊――いややっぱりもういいなんか訊くの怖くなってきた」
「人間に限定したとしても霊夢さんに魔理沙さんに早苗さんに選り取り見取り……」
「お願いもうやめて頭ぐるぐるしてきた!」
「もういっそ私なんかどうっすか! お母さん! 咲夜さんを私に下さい絶対幸せにしてみせます!」
「そんなに咲夜が欲しいんだったらこの私を倒してから行け――ッ!」
「がぶっふぁッ」
「お嬢様、なんか変に焦ってませんか?」
体中ぼろぼろになって、苦笑しながら立ち上がった美鈴が言う。
「そりゃ結婚するんだったら早いほうがいいかもしれないですけど、別に行き遅れたって構うことないじゃないですか。気にするような世間体もありませんし、咲夜さんきっと四十とか五十とかになってもすっごい美人ですよ。それにまだ咲夜さん自身に言ってないんでしょう? まああのひとのことだから、とっくに気づいてるかもしれないですけど……」
「……ん」
私は美鈴の隣に立ち、壁にもたれて空を見上げる。
日傘は要らない。雪の降る寸前の、灰色の重い雲に覆われている。
湖から吹き抜ける強い風が、壁に跳ね返って渦巻いた。
身じろぎすると、美鈴が自分のマフラーの端を差し出してくる。
彼女の背丈に対して長めだから、一緒に巻ける。
「お嬢様が従者に気を遣うのって、初めてですよね」
「咲夜は人間だからね。おまえみたいなやつなら余計な気も回さずに済むのだけれど」
「幻想郷に来る以前はヨーロッパ中引き摺りまわされましたね」
「友人も妹も引き篭もりな分、私がバランスを取ってたのよ」
「咲夜さんは?」
「まあ……ね」
軽く首を反らして、頭の後ろで壁をこんこんと叩く。
空っぽのせいか良い音がする。
まあ実際自分の頭のなかを覗いたことなんてないのだけれど。
「突き詰めて考えれば、咲夜と私が一緒にいる時間なんて、私の人生に比べたらほんの一瞬なんだから、どうでもいいって言えばどうでもいいのだけど」
少し、寒い。
「でもどちらかと言えば、まあ、そりゃ……幸せじゃないよりは幸せだって感じてくれるほうがいいし、折角だからちょっとばかり力になってやりたいな、ってのもある。何年も一緒にいれば愛着も少しくらいは湧くから」
息が白く凍って、マフラーの隙間から登っていく。
「人間の幸せっていまいちよくわからないんだけど、ね」
「私たちと大して変わりませんよ」
「人間を食うことかしら」
「私はどちらかと言えば全力で抵抗してくる人間の姿勢そのものが好きなんですけどね」
「それでよく退治されてたわね」
「あはは。ちょっとした黒歴史ってやつですよ」
「咲夜がここに来たときのこと、覚えてる?」
「えーと」美鈴は少し視線を彷徨わせて、「……はは、今の今まで忘れてました」と言う。
「あれはびっくりしたわね。私とほとんど背丈の変わらないくらいの人間の女の子が、吸血鬼ハンター、とか」
「時間を止めることよりそっちのほうがぶったまげましたよ」
「子宮から顔を出したとき以来の衝撃だったわ。美鈴なんてすぐハリネズミになってたわね」
「昔っから幼女には弱いもんで……」
――全てが終わったあと、私は勝者の位置から少女を見下ろしていた。
姿形だけなら、私とまるで変わらないくらいの、ひどく幼い娘だった。
自らが流す血と泥で汚れている今でさえ、彼女は鏡のような青い瞳で、私のことを真っ直ぐに見上げていた。
その眼は全てを受け容れていながら全てを拒絶していた。
棺に横たわるミイラみたいな色調をしていた。
『殺して……犯して……嬲って……貫いて』私の声には蒼氷を穿つような響きがあった。『試してみるか? ええ? 天国のドアをノックしてみるか?』
少女の眼が一瞬だけ紅くなり、戻る。
『それとも』私は少女の首筋に口許を近づける。『私のものになってみるか?』
『私の体を得ることができても、残りは永遠に得られない。あなたには』
少女はそう言って私の肩口に歯を立てた。
「お嬢様?」
美鈴の声で我に還る。
「……ん、ごめん、なんか白昼夢が」
一瞬、身を覆う寒ささえ忘れるほど生々しい光景だった。
「咲夜さあ、私が血を吸おうとしたらどうしたと思う? よりにもよって逆吸血を試そうとしたのよ? そりゃ、吸血鬼になった瞬間に主人の血を奪えば隷属化から逃れることもできるかもしれないけどさ、滅茶苦茶な決断よ。それで萎えちゃってね……」
少女に十六夜咲夜という名を与え、寝る場所を与え、仕事を与え、食事を与え。
なにか強迫観念めいた想いとともに、こうして共に同じ時間を過ごしてはいるけれども。
たぶん私は、未だに、彼女の言う『残り』を手に入れることはできていないのだと思う。
咲夜は、同じ従者でも藍や燐とは違う。
それは主人である私と完全な異種族であるというだけではなくて、私は、咲夜に首輪をつけているだけだという認識から来るものだ。
力で屈服させた代償。
「なんかね、躍起になってるってのもあるかな。咲夜の気を引きたくて足掻いてるような」
「咲夜さんはもともとお嬢様にべったりじゃないですか」
「……おまえにはわかんないよ」
「あ、ひどいなあ。私蚊帳の外ですか?」
「どんなに似ているように見えても、私たちと咲夜は決定的に違うってこと」
「そりゃそうですよ。当然じゃないっすか。でも違うってことは、私たちにとってすごく良い事だって思わないですか?」
「昔から気楽でいいな、おまえは」
私は溜息をついた。
私は咲夜に首輪をつけた。
けれども咲夜は、きっと、その首輪を自分で引き千切ることができる。
そういう事実が首輪そのものとなって、私の喉を圧迫する。
縄に繋がれたフリークみたいな気分だった。
……咲夜は私とふたりきりでいるときには、常に、太腿に仕込んだナイフを手放すことはない。
先日霊夢とふたりで呑んでいたときのように、髪を解き、メイド服を脱ぎ、心の底からリラックスした表情でいることはない。
微笑も真摯さも、全ては瀟洒の仮面の上に貼り付けられた張りぼてだ。
本質的には彼女は、私の従者なんかじゃない。
手を伸ばしても届かない。
手に入らないまま時間は流れ、私はきっと、去っていく咲夜に置き去りにされる。
3
焦っている……そうだ、焦っている。
なんとなく察していたのかもしれない。
運命を操る能力と言っても、その発現は不安定だ。もちろん自分である程度操作できる部分もあるけれど、それは氷山の一角のようなもので、気がつくと発動しているということが大半だ。
無意識に、先の運命を見通していたのかもしれない。
(咲夜が消える夢を見た)
目を見開けば青い闇。
それが夢だと気づかぬように、それが現だと気づけない。
いつもの目覚めとなんら変わることのない、私のベッドの天蓋だけが視界を覆い尽くしている。
自分の息が聞こえた。首を絞められた赤子のように早い、切羽詰った情けない呼吸。
背中の汗が気持ち悪い。
上半身を起こして、ビロードの布を引く。
ベッドから降りると、素足に伝わるひんやりした温度で背筋が震えた。
カーテンの隙間から注がれる幕のような光のなかを、羽毛のように埃が舞っている。
寝起きの潤んだ視界のなかで、世界全体が揺らめいているように見える。
ぐらぐらと意識が傾く。私と世界の境界が薄らぐ、夜が終わり、朝が始まる合間の時間。
(咲夜が消える夢を見た)
「咲夜」
喉の奥から絞り出すようにして名を呼ぶ。
それが彼女の耳に届けば、その時点で彼女の姿は私の隣に現れる。
けれども声が届かなければ……
私が未だに夢のなかにいるのでなければ。
「咲夜」
情緒不安定の子供か私は。
「くそ」
素足のまま扉の前まで歩き、額を叩きつける。
「くそ……くそっ」
しばらくそのままでいる。朝方の凍てついた外気が頭を冷やしてくれるまで。
けれども厭な火照りは静まらない。
扉を開き、廊下に出る。
全てのカーテンが締められ、妖精メイドのひとりも見当たらない、寒々とした空間。
歩くたびに足の裏がぺたぺたと鳴る。
カーテン越しに届く朝の光はどこまでも明るい。
夜が掻き消されていく。
歩いて、歩いて、
気がつくと走り出していた。
飛ぶことも忘れ、裸足を地面に叩きつけるようにして。
叫びださないよう喉を潰すのが精一杯で、肉体の全てが感情と化してしまったように。
咲夜の部屋の扉に拳を叩きつけた。
呼吸が荒れて、直立していられず、体をくの字に折り曲げる。
腋の下に汗が溜まっているのを感じる。
前髪から垂れ落ち、床にぽたぽたと汗が落ちるのが見えた。
もう一度拳を振るおうとして、今度は扉を壊してしまいそうだったので、深呼吸して二度叩いた。
「お嬢様……?」
咲夜の顔を見た瞬間、頭が冷えた。
「……はぁああ――……」
大きく溜息をつくと、その奥から自己嫌悪が這い上がってくる。
自分が間抜けに、一人相撲を延々と続けていたような気分。
自分の格好を顧みると、薄いシルクのネグリジェ一枚に素足。
咲夜も似たようなものだ。私のと違って余計な装飾のない、ただ寝るためだけのゆったりしたシルエットだけど。
「お嬢様? どうかなさったのですか」
「とりあえず部屋のなかに入れてくれないかしら」
「ですが……」
咲夜は廊下を見渡す。妖精メイドの視線でも気にしているのか。
朝早いので、誰もいない。せいぜい食堂で朝食の係が下ごしらえをしているくらいだろう。
誰もいないとわかっても、咲夜は戸惑っている。
「私の部屋は……」
「いいから。主人の私が入れろって言ってんの。つべこべ言わずに入れなさい」
「……」
「寒いのよ」
有無を言わせず、無理矢理押し入る。
咲夜は諦めたのか、軽く息をついて体をどかした。
もう何年もここで暮らしているというのに、生活感のない部屋。
女の子らしい小物も、家具も、なにもない。
ほとんど、私が彼女にこの部屋を与えたときのままだった。
息の詰まるような思いで、なにも言えなかった。
「お布団借りるわ」
ベッドに腰掛け、咲夜の布団を体に巻きつける。
まだ彼女の体温が残っている。かすかに甘く感じる匂いも。
「こっちに来なさい、咲夜」
私がそう言うと、咲夜はベッドの横に立ち、いつものように直立不動の姿勢を取る。
従者の距離。
私は布団から手を伸ばし、隣を叩く。
敷布団がぼふぼふと音を立てる。
咲夜が戸惑った表情をする。
「ここに座んなさい」と私は言う。
「ですが」と咲夜は言う。
「いいからっ!」
自分でも驚くくらい、荒々しい声が出た。
咲夜は口を噤み、しばらく考える仕草をする。
従者としての分を越えるか否かというより、今の私が危険か否かを考えているように、私には思われた。
自分で言うのもあれだけど、はっきり言って、機嫌の悪いときの私はフランより手がつけられない。
近頃はそういうこともなくなっているのだけど。
「……今ナイフ持ってないの?」
と私は訊く。
「……」
沈黙が帰ってくる。
長い躊躇のあと、咲夜は私の隣に座った。
私は咲夜の腕にもたれかかり、頭を預ける。
「咲夜。おまえはもし私が冬眠したら、私を守るためにずっと傍についていてくれるかしら」
「お嬢様がそう望むのであれば」
「おまえ自身がどう望んでいるのかを訊きたいの」
「私の望みはなにもありません。ただお嬢様に従うだけです」
「じゃあ例えば、私が、霊夢を殺してきてと言ったらそうしてくれる?」
「殺しません」
「おまえに死んでと言えば死んでくれる?」
「死にません」
「私に従ってないじゃない。どういうこと?」
「お嬢様がそう望んでいらっしゃらないから」
「私はことば遊びをしたいわけじゃないのよ」
私は咲夜の顎を掴み、自分のほうに引き寄せる。
至近距離から見上げる咲夜の顔は澄み切っている。
凶器めいて尖った爪が柔い皮膚に食い込み、わずかに血が滲む。
咲夜は私の手首を掴み、ゆっくりと力を篭める。
私はわずかに唇を曲げてみせる。
「主人に反抗するわけ?」
「お嬢様がそう望んでいるのなら」
「おまえいつから覚妖怪になったの? 私が望んでいる?」
「自分で気づいていらっしゃらないのですか?」
「なにを……」
咲夜の眼を覗きこんだ瞬間、なにもかも馬鹿馬鹿しくなった。
手から力を抜くと、咲夜もまた手を離した。
私は私のことならなんでもわかっているつもりだけど、従者から見る私というのは、完全に私の外側にあるものだ。
よくわからない。
疲れ切って息をついて、咲夜の肩に額を押し付けた。
「おまえのね、婿探しをやってたのよ。ここ数週間ほど」
「はい」
「まあ結局、なにもかも無駄になりそうな予感はしてるんだけどね」笑おうとして、それが自嘲以外のなにものでもないことに気がついて、やめた。「で、人妖問わず、今は幻想郷にろくな男がいなさそうだ、って結論になりそうなの」
「はい」
「そういうことを美鈴に言ったら、じゃあ女でいいじゃないですかって言われた」
「そうですか」
「で、だ」
投げやりな感じがする。
色々と飽和状態になってるような。
「おまえ、今ここで私を抱ける?」
「……」
「そういう性癖はある?」
瀟洒の仮面が揺らぐ。
「別に抱けって言ってるわけじゃないのよ。例えばの話。もしおまえにそういう気があるんだったら、選択肢が一気に広がるわけだから。どこに嫁に出してもいいわ。人里でも冥界でも地底でも天界でも、好きなところに行かせてあげる。なんにも迷うことはないのよ。仮に相手がなんと言おうが、無理矢理にでも捻じ込んであげるから」
「なぜ?」
「おまえが紅魔館のメイド長だから。おまえの意志は紅魔館全体の総意と考えていい」
「お嬢様は私をどのようにお考えなのですか」
「なに、それ。どういう質問?」
「お嬢様――」
「その問いはもう従者の領分を越えてるんじゃないかしら」
「それは答えがそういう領域に属するものだからですか?」
「咲夜」
と、私は彼女を呼ぶ。
「おまえにわかるかしら。私が求めてるものが。私が欲するものが」
どんなに必死に手を伸ばしても届かない。
望んでも決して手に入らないものこそ、人間たちは欲する。
幻想郷に来て私が手に入れたのは、彼らの願いに対する共感。
私は咲夜の首に手をかける。
誰の眼にも見えない、ただ私のイメージのなかにあるだけの首輪に。
そっと引き剥がす。
咲夜の表情が変わる。
わずかな戸惑いが徐々に深まり、何事かを言おうとして、舌が絡んで口が閉じる。自分自身を信じられないような表情をして、額に手を当てる。手で目元を覆い隠し、強く押さえつける。頬がひくつく。少しだけ紅く染まり、すぐに元に戻る。
「……お嬢――」
「咲夜」
私はその声を途中で遮る。
私を見下ろして、少しずつ決意の色が表に出てくる。
私の両肩をしっかり掴んで、体を遠ざける。
しばらく俯いたままだったけれど、やがて、わたしを真正面から見据えた。
「……レミリア」
「私にとっておまえはあのときのままよ、咲夜。幼いくせして私を狩りに来た無謀で勇敢なちっちゃい女の子。衣食住を与えて従者として完全になるまで仕立て上げても、『残り』は永遠に私の手のひらの外側。そうして自分の世界で自分を守って、私と違う時間を駆け抜けて去っていく」
私は咲夜と名づけた名も無い少女の頬に触れる。
その表情は霊夢を相手に見せていた穏やかさではなく、一番最初に私を狩りに来たときの張り詰めた顔だった。
「こんなに近くにいるのに、決して私のものにならない女。与えて、与えて、与え尽くして、それでも……」
ことばは半端に途切れる。
「……もしおまえが誰かと結婚したら、おまえは自分の全てを相手に捧げる? 体だけでなく、残りも」
「そうするだけの価値がある相手であれば」
「ふふ」
自然に笑いが零れた。
「もしおまえと違う形で出会っていたとしたら、私はそれだけの価値があるとみなされることができたかしら。『お嬢様』と従者じゃなくて、レミリアと咲夜と呼び合えるような……形であれば……」
どういう運命を選び取っても、結局はないものねだりね、と私は口のなかで転がすように言った。
あのとき私が掴んだものは、咲夜という完全な従者をすぐ傍に置いておく権利。
代わりに零れ落ちていったものは、咲夜という気の置けない友人と付き合っていく未来。
隣り合っているようで果てしなく遠い、絶対に手に入れることのできない……
「……レミリア、私は」
「いいのよ」
私は咲夜の手を払う。
「ごめんなさいね、変な我儘言っちゃって。もうすぐ年が変わるからナーバスになってるのよ。いやな運命も視ちゃったし、おまえの婿探しも一向にうまくいかないし。おまえにもっと甲斐性があれば私も余計な心配もせずに済むのだけど」
布団を肩から落として、ベッドから立ち上がる。
「久し振りに『おまえ』に会えて嬉しかったわ。朝からちょっかい出したことは謝る。すぐに出てくから――」
「っ」
咲夜が歯を噛み締めるわずかな音が聴こえた。
手を強く引かれ、バランスを崩した。
足を引っ掛けられてぐるんと身体が回転し、ベッドにうつ伏せにダイブする。
「んぅ――?」
羽の付け根と後頭部に咲夜の手が押し付けられている。
「レミリア」
「……ぁ、咲夜……?」
「あなたはさっき、今ここで私を抱けるか、と訊いたわね。まだその問いに答えてなかった」
「……」
「答えはイエスよ」
「……そう。じゃあこれであなたの伴侶を探すのもだいぶ楽になるわね」
「もうその必要はないの。今、ここで全部お終いになるから」
「なに言って――」
うなじに歯を立てられた。
「……っく、ぁ……?」
ざらついた舌の滑った感触がわずかに触れる。
湿り気のある吐息の生温かい感触。
一瞬、腹から胸にかけて内側が重苦しく波打った。
それ以上特になにをするわけでもなく咲夜の口が離れた。
黙りこくっていると咲夜の額が背中に押し付けられるのを感じた。
無理に首を捻って後ろを向くと、視界の端にどうにか、舌を噛み潰しているような咲夜の表情が見えた。
咲夜の手を振り払う。
指先はなにかを求めるように宙を彷徨い、やがて咲夜自身の頭を抱えた。
「……何年、お世話になりましたか」咲夜が絞り出すように訊く。
「さあ。うろ覚えで五年以上。下手すれば七、八年は」
「もしかしたら、人生の半分以上をここで過ごしているのかもしれませんね」
「また敬語に戻ってるわよ。咲夜」
「もういいでしょう、お嬢様。赦してください」
「ふん……」
咲夜の手が伸び、私の頬に触れる。
覆い被さるように、仰向けになった私の上に這ってくる。
「私を抱くの?」
「……」
「犯すの?」
「……っ」
どうしてそんなに辛そうな顔をするの、咲夜。
主従ごっこが終わってしまうのがそんなに苦しい?
耐え切れなくなったように、咲夜が私の肩口に顔を埋める。
荒い呼吸は嗚咽との境界線上を行ったり来たりしている。
分厚いカーテン越しに徐々に明かりが強くなるのがわかるけど、部屋のなかはあくまで薄暗い。
思えばこうして咲夜に抱きすくめられるのも初めてだわ、とひどく冷静に考えてしまう。
特別な感慨は湧いてこなかった。
ただ疲れていた。
今はなにか、あまり物事を深く考えたくない。
シルクの布地越しに強く歯を立てられ、吸われる。
歯跡をつけるというよりは、皮膚を破ろうとしているかのように。
傷つけるように。
咲夜の腕を見ていた。
決して美しいものではない。頻繁に館の外と内を行き来するので、中途半端に日焼けして、袖の痕がついている。
朝昼晩の食事をつくる際にできた火傷の痕が、ほんのり赤く残っている。
弾幕でつけられた傷も、私とは違い、治るのが遅い。
生傷の数なら魔理沙にも負けないんじゃないだろうか。
メイドの腕だ。
芸事は十年目からと言うけれど、静止した時間のなかで動いた分も勘定に入れれば、きっと十年なんてとっくに越えている。
指先はがさがさに荒れ果て、クリームを塗っても誤魔化しきれない。
ひどい手触り。
けれども何故か、実際に触れてみるとびっくりするくらいふわふわなのだ。
彼女は私にキスをしなかった。
腕と首に唇で触れただけで、目を合わせるのも厭だという風に顔を上げなかった。
ネグリジェも脱がされなかった。
下着さえそのままだった。
「気持ち悪いから脱がして」
そういうと咲夜は首を振って否定した。
自分で脱ぐのはなんか厭だった。
「ん」
抵抗しようと思えばいくらでもできた。
例え私が吸血鬼でなくても、なにも持たないただの少女だったとしても。
それくらい咲夜の指先は弱々しかった。
逆に私のほうが気を遣ってしまうくらい。
衣服越しに触れてくる感覚はどこまでも淡くて、集中しなければ触れているとさえ気づかないほどのものだった。
咲夜の手がゆるゆると腰の線をなぞる。
身じろぎひとつすればすぐ跳ね除けてしまいそうなほどの弱さ。
咲夜の思い詰めた表情が辛くて、やめて欲しくなくて、動かないように耐えなければならなかった。
すっと持ち上がった手が、濡れた和紙のように私の胸に触れる。
「……はあ」
「――っ!」
微かな吐息をつくと、びくりと手が離れた。
「……怯えすぎでしょう、咲夜」
「っ……ッ」
「私を抱くのがそんなに辛い? 女を抱くのはやっぱり厭?」
「私は……っ」
「私に気を遣ってできもしないことを言ったのならやめましょう。別に伴侶を探すのだって、暇潰しみたいなものだし。どちらでも――」
くしゃりと咲夜の顔が崩れた。
「違いますよ」
「なにが?」
水浸しの犬のように頭を振る。
「違うんですよ」
「だからなにが」
私には彼女の言いたいことがわからない。
「ずっと、勘違いしててください」
咲夜が私の腕を引く。
ちょっとでも抵抗すれば傷つけてしまいそうで、私はなすがままに動いた。
後ろから抱きすくめられる。
咲夜のほうが一回りも二回りも大きいものだから、全身を覆われる形になった。
「咲夜」
「ちゃんと抱きますから。全然経験がないので、今はこれで精一杯ですけど」
咲夜の両手が私の下腹部に伸びる。
下着越しにゆっくりとさする。
咲夜は私の肩口に唇を埋め、目をしっかりと閉じている。
「……んっ」
唇を閉じるだけで漏れ出る声を抑えることができるくらい、穏やかな刺激。
背中が全部咲夜の体に包まれて、むしろそっちの方が心地よいくらい。
胸の柔い感触が二重の布地越しに伝わる。
ああ、眠るときにはブラを外すわよね、と頭の隅で思う。
「――っう、ん、ふぅ……」
むしろ咲夜の声のほうが大きい。
湿っぽい吐息は唇から漏れ出て頬まで達してくる。
そこで不意に気がついた。
この体勢って、要は咲夜の自慰のトレースだ。
ふたつの指先がショーツの上から私の秘所をさする。
少女の初めての行為のように恐る恐る触れ、確かめるように上下に行き来する。
ふたりの体温に暖められたベッドの上は特別寒くも感じないのに、咲夜の腕は震えている。
私は嫌がるでもなく善がるでもなくただ沈黙している。
咲夜の匂いがする。血でも銀でもなく、私には形容できない甘い……
「――っは、ぁ、ぅう……」
必死で抑えられる声は私のものではなく、咲夜のもの。
意識してか無意識なのかはわからないけれど、体の色んな部分を私の背に擦りつけてくる。
腕、胸、腹、下腹部、足の付け根。
恐怖の裏返しなのか。
横目で咲夜の顔を見ると、ただもう縋るべきものを失った独りきりの少女のようにしか見えない。
「……っ」
座っている体勢が保てなくなったのか、私を抱きすくめたまま、横向きに倒れる。
雫が首筋に垂れ、なにかと思えば咲夜の涙だった。
指は、時折目的を失ったように止まる。
じわり、染み出したものにわずかに触れると、咲夜はそれとわかるほど怯えたようだった。
もどかしい。
「……こんな弱々しくされるのって初めてよ」
「すみません……」
「怒ってるわけじゃないわ。別に」
「すみません、すみません」
「謝んないでよ。こっちが情けなくなる」
なんだっていい。
「咲夜」私は彼女を呼ぶ。「好きにしてくれて、いいから」
ショーツのなかに咲夜の指が入り込む。
染み出た愛液をなぞり、濡らし、ゆるゆると侵入する。
指一本でも充分きつい。
もう片方の手は裾を捲ってあばらを登り、ないに等しい胸に当てられる。
ただそうまでしても、喘いでいるのは私ではなく咲夜のほうだった。
「……お嬢様」
私は返事をしない。
「お嬢様……ぁ、お嬢さ、ぁ、ぅ……」
まるで自慰そのもの。
「は――ァ! ……は、あ……お嬢様、お嬢様、お嬢様……」
貪るように指が蠢く。
乳首とクリトリスが摘み上げられ、捏ねられ、剥かれ、潰される。
私の息が熱くなる。
けれども思考はひどく冷静で、染み出した甘い痺れを抱きかかえたまま身を縮める。
達するよりはこの曖昧な状態のままでずっといたい。
この時間を止めてしまいたい。
「レミリア……」
私はベッドに顔を伏せ、その声を聴くまいとした。
「レミリア、レミリア、レミリア、は……っ、ん、レミ……っ、レミ、リア……」
肩から骨を伝って耳に入り込む空気の振動が鼓膜を揺さぶる。
体に直に喘ぎ声を注がれているような感覚がする。
一瞬、咲夜を押し退け、逆に組み伏せ、泣き叫んで気が狂うまで犯し尽くしたい衝動が胸より遥か奥底から染み出してくる。
首輪で喉を押し潰し、喰らいついて従順なだけの盲目の眷属に作り変え、なにも考えずにただ欲求のまま動く人形にしてしまいたい。
私の指先は暴力的に鋭く、愛撫は皮膚を切り裂くだろう。
私の歯は肉を破り、血を啜るためのものであり、甘噛みひとつできやしない。
――虚しい。
「お嬢様ぁ……」
甘えるような声に終わりが近いことを悟った。
衣服越しでは彼女がどういう状態にあるか感じることもできない。
濡れた布地の湿り気が汗なのか愛液なのかもわかりはしない。
もどかしさばかりが募る。
私はなにひとつ発散できていないまま。
「お嬢様、っあ、アア、ひぁ、アアああ、ふぁ、ぁ……! ――ッ……、っくあああ、ぁア」
「おかしな子ね。どうしておまえのほうが先に終わるの? 私は指先ひとつ触れてないのに」
「すみませっ……ぁ、ふぁああアあ、おじょ、ぁ、ぅ様、ッい、あ」
「これがおまえのオナニーだから? いつもの行為を思い出して、それで感じてるの? 私を抱くことができなくてもオナニーだったら気持ちいいわよね、そりゃ……体中、やらしく私に擦りつけて、そうやって自分だけ気持ちよくなってさあ……」
「……っ、――! ……」
「……冗談よ。ごめんなさい。悔しくってね、なんか」
「私、は……!」
咲夜は何事かを言った。
ただそれは私の耳には届かず、咲夜自身の喉の奥底に消えた。
「……っ! っっッ、あ、ン――!」
そうして咲夜だけが達した。
涙が私の首を濡らした。
主人にそういう真似をすれば、従者としてはもう生きていけない。
まして完全で瀟洒などと肩書きを修飾されている彼女であれば。
吸血鬼ハンターだった彼女は、一度、吸血鬼にメイドとして使役されることで自分を全否定している。
そうして今、主人を抱くことで従者としての自分を再度全否定しようとする。
ひどい構図だ。
それでもそうせざるを得ない域へと煽ったのは、他でもない私だ。
けれど私にそうさせたのは、夢のなかで私が視た運命、今日を最後にこの館から姿を消す咲夜自身の姿だった。
従者が自分の下を去っていくということは、主人にとっては自分という存在の全否定に等しい。
結局のところ、どう転んでも同じだ。
もし私が吸血鬼でなかったら。彼女が人間でなかったら。私が人間だったら。彼女が妖怪だったら。
全てが……正しかったら。
「……いいじゃない、どうだって。どうせいずれ訪れる離別が少しばかり早く訪れたってだけなんだから」
所詮、咲夜は人間だ。百年も経てば私より先に死ぬ。
咲夜の体を押し返して、体勢を入れ替えた。
人間だから簡単に組み伏せられる。
「ねえ、やっぱりおまえ、私のものになりなさい。つまらないわよ、ぐだぐだと物事を考えても。全部なかったことにしてあげるから。また完全で瀟洒な従者にしてあげるから」
「……お嬢様」咲夜はどこまでも穏やかに微笑んだ。「そうして私を得ることができても、残りはやっぱり、永遠にあげられないのですよ」
ばかな娘。
4
レミリアは咲夜が出て行くのを見ていた。静止した時間のなかで衣服を整え、全てを片付けて去っていくのを感じていた。メイド服がテーブルの上に折り畳まれており、その上に白い羽根のように頼りなく封筒が置かれていた。
レミリアは立ち上がってその封筒を手に取り、ふたつに裂いた。泣き別れになったふたつの紙を重ねてもう一度引き裂いた。何度もその行為を繰り返し、やがて手紙の跡形もなくなると、流れ出る膨大な感情に任せて床に叩き付けた。
そうして日が暮れるのを待ち、紅魔館のテラスに向かった。
紅魔館門前。夕暮れの強い茜色が西から注ぎ、降り積もったばかりの雪の白を染めている。咲夜は徒歩で門の敷居を跨ぎ、そこでマフラーに包まれるようにして眠り込んでいる美鈴を見つける。
「美鈴」
跪き、そっと声をかけると、美鈴は飛び跳ねるように起きる。
「はいっ、すみません咲夜さん、眠ってませんほんの少し休憩してただけですッ!」
反射的に額を腕で覆ってガードの態勢を取り、そこで、自分にナイフが飛んでこないことに気がつく。
「……あれ?」
「おはよう、美鈴」
美鈴は咲夜を見る。咲夜は常のメイド服ではなく、人里で見かけるような、ラフな私服姿だった。三つ編みはいつも通りだが、後ろ髪を纏めてアップにして、普段とはまるで違う印象を受ける。
「どうしたんですか、咲夜さん、その格好」
「ちょっとね、お暇を頂いて」
「え、休暇ですか? 珍しい」
「ええ、しばらくどこかでゆっくり休もうと思って」
マフラーの端っこいいかしら、と咲夜は訊き、美鈴は慌てて咲夜を引き寄せる。数日前にレミリアと話したときと同じ位置を取る。
美鈴は横目で咲夜を見る。その頬が微かに赤いのは冷え込む寒さのせいだろう、と見当をつけた。
「寒いのね」と咲夜は言う。「こんな寒さのなかで一日中立ってるのって辛いでしょう?」
美鈴は首を振る。「そんなことないですよ。丈夫さだけが取り柄ですし、咲夜さんのくれたマフラーもありますし」
「お嬢様に言って内勤に替えてもらったら?」
「あはは。実は幻想郷に来る前はずっと内勤で、飽きたから門番に替えてもらったんです。メイド長だったんですよ、私。言ったことありましたっけ」
「初耳」咲夜は微笑む。「じゃあ私がいなくなっても、あなたがいれば紅魔館はちゃんと回るのね」
「いやあ、私は結構適当でしたから。咲夜さんがいなくなるとか、考えただけでぞっとしますよ」
そこでしばらく会話が途切れる。奇妙な空気がふたりの間に湧き立ち、美鈴は居心地悪くなって身をゆする。
「咲夜さん?」
呼びかけても返事はない。どこか遠くを見つめているようにも、なにも見えていないようにも美鈴には思える。
しばらく経って咲夜は呟くように言う。
「……お嬢様って、あれで結構考えてることがわかり辛いって言うか、望んでいることがひねくれてるって言うか、複雑でしょう?」
「……そうですか?」
「それこそ子供みたいに我儘かと思ったら、五百年分ややこしかったり。霊夢に退治されたがってるみたいに霧を出したり、月に行こうかとか言ってみたり」
美鈴は咲夜を見る。どこか憑き物が落ちたような表情をしている。
「手の届く範囲のものにはあんまり興味なくて、高嶺の花に必死に背伸びして手に入れようと頑張ってるっていうか、そんな感じ。ちょっとわかり辛かったかしら……なんていうか、天邪鬼なのよね。昔から思ってたけど、吸血鬼ってそういう傾向が多いわ。黙ってればつつがなく暮らせるのに、そうやって自滅してくの」
「咲夜さん」
「私自身がそういう存在になれば、お嬢様の気を引けるかもって、そう思ってた。私にあらゆる苦悩と幸福を与えてくれたあのひとの。もう本当はとっくに全部を全部あげちゃってるのに、そうでない振りをして」
咲夜は泣くように笑っている。
「首輪なんていつでも引き千切れると思ってた。でもそうじゃなかった。気がついたら私自身の心に、このままでもいいなって感情が湧いてくるのよ。そういう心そのものが敵なの。だから首輪を引き千切れなくなる前に、私はお嬢様から離れるわ。堕落した私なんか、お嬢様は見向きもしないだろうし、ね」
美鈴は呆然として咲夜を見ている。抗いようもない哀しみの滲み出た、胸の張り裂けそうなほど美しい笑顔を。
「主人に恋焦がれる愚かな従者の物語はここでお終い」咲夜はマフラーに手をかける。「今までありがとう、美鈴。楽しかったわ」
かちり、と空間がずれる感覚がして、一瞬後には、咲夜の姿は跡形もなく消えていた。
「咲夜さん?」
強い風が吹き抜け、門前に溜まる枯葉を一気に散らしていった。
夜が明け、レミリアは目覚める。全身が自分の体でないような感覚とともに、抗い難い震えが来る。上空は白く重い雲に覆われ、陽光はかけらも見当たらない。気化していない自分の体を見つめ、昨日のことを思い出す。
「……はは」
一度滅茶苦茶に引っ掻き回された精神が浄化され、視界が透き通ったまま広がっているような気分だった。氷点下近い気温が思考を明晰にし、純化させる。そうした状況下にあるレミリアには、咲夜が紅魔館を去ったという事実も、枯れ落ちた哀しみの残骸がもたらすただの記憶でしかない。
自分がなにをすべきなのかではなく、なにをしたいかという衝動だけが胸のなかで渦巻いている。
不意にわかる。
意識の外側にあったものが手のひらのなかに飛び込んでくる。
「――はははははははは!!」
ひどく簡単なことだった。なにに迷い、なにを躊躇っていたのか、急に馬鹿馬鹿しくなる。
レミリアはテラスから身を乗り出し、翼を広げて柵を蹴った。
「美鈴」
「はいっ、すみませんお嬢様っ、眠ってません少し休憩してただけですッ!」
美鈴は反射的に跳ね起き、反射的に額を腕で覆ってガードの態勢を取り、そこで、自分にナイフが飛んでこないことに気がつく。
「……あれ?」
「おはよう、美鈴」
美鈴はレミリアを見下ろす。いつもの格好に日傘を担ぎ、なにか憑き物の落ちたような表情で自分を見上げている。
「咲夜が出てったことは知ってるわよね?」
「……あ、やっぱりあれって……」
「で、だ。今日からおまえがメイド長だから」
美鈴は目を伏せる。
「……はい」
なんとなく想像していたことだった。咲夜の思い詰めた表情を見た瞬間から。悪魔の館のただひとりの人間として、彼女がどれだけ無理をしていたのか考えれば。
このときが早く訪れて、咲夜にとっても自分たちにとっても良かったのかもしれない、と美鈴は思う。これから先何十年もともに生きて、別れが余計に辛くなるよりは。生きているうちに咲夜がああいう形で去ったというのは、これ以上哀しみが大きくなるよりは……
「それで当主代行がフランね」
「……は?」
「まあ色々と心配だけど、他でもないこの私の妹なんだし、どうにだってなるでしょ。なにかあったらおまえが体張ってでも止めなさいよ。フランに傷ひとつでもつけたら赦さないからね」
「いや、ちょ、あれ?」
レミリアはにやりと笑う。「私は咲夜を追っかけるから。まあ紫が冬眠から目覚める頃には帰ってくると思うわ」
「つ、連れ戻すんですか?」
「当然じゃない。今日は天気もいいし、ちょっとばかり旅立つには最高の日よ」
「咲夜さんの意志は……」
「子供が家出したら連れ戻すのは親の役割でしょう。首輪を外して逃げた飼い犬を追うのは主人の役目でしょう。なにかおかしいことがある?」
「そりゃ、まあ」
「伴侶探しももうやめ。だいたいそういうのって私のキャラじゃなかったわ。咲夜がどうしても結婚したいっていうなら私が嫁に貰ったほうが手っ取り早いし」
「……お嬢様」
美鈴は声を潜める。
「なに?」
レミリアは美鈴に向き直る。
美鈴はそっとマフラーの端を掴む。どうしても訊いておかなければならない、と思う。今ここでなんらかの答えを得ておかなければ、咲夜がここを去った決意も、レミリアが彼女を追う決意も、全て無駄になる。
「例えばお嬢様が咲夜さんの全てを手に入れることができたとしても」
声はわずかに震えている。
「お嬢様が吸血鬼で咲夜さんが人間である以上、いずれ来る別離の運命からは逃れられないじゃないですか。それでもお嬢様は咲夜さんを追うんですか?」
できればそっとしておいてあげて欲しい、と言外に篭める。
「運命なんかはくそくらえだ」レミリアは即答する。「そんなものより咲夜が大事だ」
レミリアは翼を広げ、ゆっくりと宙に浮く。
「この先何千年と味わうかもしれないあらゆる哀しみを先取りしたとしても、あの娘を前にすれば全部が全部色褪せるのよ。あの素晴らしい娘。私の可愛いひとり娘。決して私のものにならない、私の完全で瀟洒な従者」
――私のものにならないからこそ、追いかけるだけの価値がある。
美鈴に、紅魔館に背を向け、身を縮める。
その表情が次第にナイフの切っ先のような凄艶な笑みに変わる。
「絶対に逃さない。何年かかったとしても、必ず私のものにしてやる」
レミリアが羽ばたいた瞬間、強い旋風が辺りに吹き荒び、美鈴は反射的に顔を覆った。
次の瞬間には、もう、レミリアの姿は視界から消え失せていた。
「……は、はは」
レミリアが消えた後、美鈴は苦笑した。
腹の奥から温かいものが昇ってきて、全身を満たすような思いだった。
結局のところあのふたりは相思相愛なのだ。お互いに天邪鬼なせいで擦れ違っているだけで。だったら大丈夫だろう、と思う。運命が彼女たちを祝福するだろう。運命が彼女たちに仇為すようなら、自分があのふたりを守ってやろう。
「残念でしたね、咲夜さん」
美鈴はそっと呟く。
「お嬢様がいる限り、どうやらあなたは今後一生、静かにオフを過ごすなんてことはできないようですよ――」
そうして一度背伸びをすると、門の敷居を跨ぎ、紅魔館当主代行のもとに歩いていくのだった。
素晴らしい
のコンボを!!
れみぃのカリスマ素敵すぎた
楽しく読まさせていただきました。ありがとうございます。
ところで当主代行様のウフフなお話しはないのでしょうか?
気が向いたらお願いしたいところです。
バッドエンド覚悟で読んでたけど最後で気持ちが晴れた。
きっとレミリアも咲夜さんも幸せになってくれるはず
しかしポロリもあるよ(落とし物的な意味で)に吹いたwww誰うまwww
作者様の作品は毎回素敵ですな。
それにしても、ややこしいバカップルだなぁ。素直にいちゃつけよw
所で、ツンデレとか発情期とか、そのくわs(ry
咲夜?好きっていうか全然嫌いじゃないよ的な消極的好意が、咲夜さんの出奔ではっきりと形をとるという、こういう感情の動きがいいですね!
途中の婿探しが、いまだ形にならない咲夜さんへの好意の表し方なあたり、確かに500年分ひねくれてます!あるいは好きな子にいたづらしちゃう小学生に似てます!
もしかしたら無意識に外堀埋め+ライバル確認をしていたのでしょうか!
何にせよ、咲夜さんはどうあがいても最後にはお嬢様に捕まっちゃいそうなので、ゆっくり素直になっていってね!
さとりんが生暖かい目をしそうな二人で大変よかったです!!
このお嬢様ならきっと咲夜さんを幸せにしてくれるはず。
二人ともカッコいいし、もっと素直になったら上手くいくのにとやきもきもする。
お見事でした。
後味も爽やかで読んでよかったと思いました。
キャラクターがみんな素敵だった。
この紫凄く好きだ