真・東方夜伽話

GOT THE LIFE

2009/11/30 23:18:40
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GOT THE LIFE

夜麻産

 ※注意

 同作品集「HOLLOW LIFE」の続編となります。これひとつでは恐らくなにがなんだかわかりません

 さとり×パルスィ
 やっぱりネチョまで遠いです、申し訳ありません

 ※注意終了

















 全てを焼き尽くす必要があった。
 灼熱地獄に放り込まれる白い骨の山のように。
 キャパシティを遥かに越えて注ぎ込まれる心の残骸に耐え切るには、それらを残らず喰らい尽くしてなお、私自身の心を燃焼させていかなければならなかった。





 GOT THE LIFE





 1





 一時は妖精たちが行き交うせいで喧しかった橋の上も、今ではすっかり静かになった。
 本当になにもなかった異変の前とは違い、今では時折、何人かの人妖が行き来をするようにはなったけれど。
 番人なんて半ば形骸化した役割ではあるけれど、居心地はいいのでこの職を手放す気はない。
 今日も今日とてぼんやり縦穴を見上げていると、黒白の魔法使いが箒に乗ってすっ飛んでくるのが見えた。
 今ではあいつも顔パスだ。

 欄干にもたれて、影の覆う橋の下を見やる。
 薄暗いせいでわかりにくいけれど、そこに生える雑草の一部が、ほんのわずかにへこんだままになっている。
 鬼火の光に複雑に反射する、川の流れの銀色の傍。
 そこを見るたびに、指先に湿った熱の感触が蘇るような心地がする。
 半ば勢いで、得体の知れない熱情から、さとりのやつを抱かされた場所だった。

 あれ以来、彼女とは会っていない。
 ことが終わったあと、さとりは自分自身を信じられないような表情で顔を逸らして、全身を桜色に染めたまま立ち上がろうとした。
 すぐにでも倒れそうなくらいふらついていたけれど、私が手を貸すこともなく、走るように帰っていった。
 送るなりなんなりすればよかったと、今になって思うけど、そのときは私も頭がぼんやりしていてどうしようもなかった。
 地霊殿が建て直されたと聴いたのは、その数日後だった。ひとが住めるようになったというだけで、まだ細かい場所は直っていないらしいけれど。

 正直、どんな顔をして会えばいいんだかよくわからない。
 なにが彼女のスイッチを入れてしまったのかさえ、私には明白ではないのだ。
 彼女の昂ぶった善がり声が未だに耳に張り付いたまま離れない。
 聴きたいとも思ってなかったし、聴くこともないだろうと思っていたからこそ、なにか強烈なものとともに脳裏に残ってしまっている。
 気まずい。
 なにせさとりを前にすれば、そういう思考を隠すことさえできないのだ。





 ――あるいは、そう、いつから眼をつけられていたにしろ、それは私には全くわからないことだった。
 気がつけばその少女は隣にいた。影のようにひっそりと。足音さえ聴こえないままに。
 初対面のときはひたすらに気持ち悪かった、自分の間合いにそうと気づかれないまま入り込まれる厭な間も、今では慣れたものだ。
 視界の端に、この場所ではありえない明るい黄色の服がちらついて、それを認識するまでにひどいタイムラグがある。
 古明地こいしとは、彼女の姉と再会するその前からしばしば顔を合わせていた。

 初めて会ったときには、彼女がさとりの妹だなんてわからなかった。
 確かに第三の眼とそれに繋がるアクセサリーは似通っていたし、顔かたちもそっくりだったけれど。
 ただ、さとりとの出会い方があんまりなものだったからそう感じただけだったかもしれないけれど、受ける印象がまるで違っていた。
 火と水くらい差があったし、彼女との会話は、捉えどころのない霞のように私の意識の底に沈んで、思い返すことさえままならないのだ。

 いつからこうして話すようになったか明確でなければ、最初にどんな話題を交わしたかさえ、今ではもう思い出すこともできない。
 ただ、そこにいる。
 私が彼女に抱く印象としては、そんなものくらいだ。

 「あんたもいい加減に落ち着いたら? さとりも心配してるわよ」
 と、私は言う。
 そういう話題自体は何度も交わしていることなので、それについて今更、こいしがどうこう言い返してくることもない。
 挨拶の代わりのようなものだ。
 「心配させておくのがいいの」
 と、こいしは言う。

 「この前、久し振りに地霊殿に帰ったのよ」
 私は曖昧な吐息で相槌を打った。
 内心の好奇心が鎌首をもたげるのを感じた。
 「地霊殿が建て直されて、ちょうど、お姉ちゃんが帰ってくる日だったわ。お燐やお空が『おかえりなさいさとりさまパーティ』の準備をしていたの。知ってるかな。あの子たち結構料理上手なのよ。わざわざ旧都まで食材を買いに行って」
 こいしの眼には川の水飛沫だけが映っている。
 「それは良かったんだけど、笑っちゃうのは、私がお姉ちゃんからもらったペットたちまで、『おかえりなさいこいしさまパーティ』をする気だったのね。お燐やお空ほど綺麗に人化できる子なんていないから、結局はあのふたりが全部仕切ってたけど。私がきちんと帰ってくる保障なんてどこにもないのにね。それに飼い主って言ったって、私は全然それらしいこと……」

 とん、と音がして、見ると、こいしの姿が消えていた。
 消えているということに気がつくまで、少し時間がかかった。

 「ろくに話し相手にもならなかったし、忘れられてると思ってた」
 声は、私の真後ろから聞こえてきた。
 とん、とん、と橋の木板が響いて、右隣から左隣へ、こいしが移動したのがわかった。
 「ひとって、そう簡単に忘れられるものじゃないわよ。覚えるまでが大変なだけで。どんな些細なことにしろそうなんだから、あんただって……」
 こいしがなにを思い、なにを考えているのか、その表情からは窺うことができない。

 「私が帰ったのは朝だったんだけど、お姉ちゃんが帰ってきたのは昼前だったの。準備してる真っ最中に入っちゃったのね。なにしてるんだろうってきょろきょろしてたら、やっと気づかれて。あのときは傑作だったな。私がいるってわかった瞬間、みんながみんな全部ほったらかしにして、クラッカーをぱんぱん鳴らして……クラッカー持ってない子が弾幕撒き散らしたものだから、一発でまたそこらじゅうぐちゃぐちゃになったのよ」
 こいしはそのときのことを思い出したのか、喉を震わすようにしてくすくすと笑った。
 「そんなだから、お姉ちゃんが帰ってきたときも、いろいろと中途半端だったわ。でも仕方ないから心意気だけは見せようってことで、クラッカー代わりの弾幕をばーっと。お空なんて張り切りすぎて、お燐が頑張って相殺しなかったらまた地霊殿壊れてたかもしれない」

 私はその場面を想像して、なんとなく微笑ましいような気分になった。
 ペットは私に近づいてこない、というさとりの言葉を思い出す。
 ねえ、さとり、と心のなかで話しかける。
 あんたはあのとき、今にも崩れ落ちそうな顔をしていたけど、やっぱり充分、妬ましい家族を持ってるじゃない。

 「お姉ちゃん、そのときどういう反応をしたと思う?」
 こいしが私を見上げて訊いてくる。
 「そうねえ」
 と、私は言って、少し沈黙した。
 「――呆れて溜息でもついたんじゃないかしら」
 こいしは私をじっと見つめたまま、しばらく動かなかった。

 何秒経ったのか判然としなかったけれど、唐突に首を振って否定した。
 「泣いたわ」
 その言葉の意味を解するのに、間抜けなくらい時間が必要だった。
 「お姉ちゃんってああ見えて頑固で、たくさんのペットとか、私の前とかでは、今まで涙なんて見せたことなかったのに。膝をついて崩れ落ちて、真っ先に駆け寄ったお燐の服の裾を掴んで、ぐずぐずになって泣き喚いて。『ごめんなさい』『ありがとう』って言葉も、どんなに耳を澄ましても全然そう聴こえやしないくらい壊れてた」
 そうやって私たちに素直に自分の心を見せたのって、初めてのことよ、とこいしは続けた。
 
 「……そっか」
 私の心にまず浮かび上がってきたのは、吐息のような安堵だった。
 さとりがその状況で泣いたとしたら、それは、悔しさや哀しさとはまるで別のところで流された涙だ。
 自己嫌悪や否定に繋がらない、自分のなかのなにがしかを解き放てたことに対する感情の昂ぶり。
 そういうものを人前で流せることができたのだとしたら、それは決して悪いことじゃない。
 「妬ましいわね」

 「今日はそれを伝えたかったの。ありがとう、って」
 「……どうして私に?」
 こいしは私を見た。
 閉じたままの第三の眼も、こちらを見上げてきた。
 感情なんて全く読み取れない、無機質な珠のような表情だけど、それでも、その眼は全てを見透かすようにじっとこちらを見据えていた。
 私は溜息をつく。答えがわかってしまった。
 「見てたの?」
 こいしは頷いた。「最初から最後までずっと」

 「……ずっと、ね」
 羞恥心とか、怒りとか、そういうものは思っていたより浮かんでこなかった。
 こいしが相手なら仕方がない、という想いがあるのだろう。
 「妬ましいわ」
 と、こいしは言う。
 「私の言葉を盗んだわね。それは私に対して? さとりに対して?」

 「お姉ちゃんの心は」こいしの姿が消えて、またそれを認識できない。「地霊殿そのもの。ううん、地霊殿がお姉ちゃんの心そのものって言ったほうがいいのかな。どっちでもいいんだけど」一瞬、世界そのものが私に話しかけているような違和感が浮かんでくる。「核心を守る堅固で分厚い薄っぺらな防壁。地霊殿に来るまで、お姉ちゃんは剥き出しの廃墟そのものだった。それはパルスィもよく知ってることだと思うけど。生き延びるためならなんでもしたと思う」溜息をついたような一瞬。「実際、やってきた」
 私はこいしの存在を追うのをやめ、川面を見下ろす。
 「覚って、打擲みたいなものよ。打ち勝つには私みたいにギブアップするか、そうでなければ打擲なんてものともしないくらい強くなるか、その二択。でもお姉ちゃんは、地霊殿という盾を得てしまったから、そこで成長を止めてしまった。けどその盾にしたって、この前のことみたいに、ほんのちょっとしたことで簡単に壊れてしまうものなの。その奥にあるのは」

 川面の規則的な水飛沫が鬼火の淡い光にざらついた輝きを返している。
 「なんだと思う?」
 と、こいしは訊く。
 たぶん、私はその問いの答えを知っている。
 でも頭がぼんやりとして、物事をうまく考えられない。

 こいしの姿が突然目の前に現れる。
 川を後ろに背負い、宙に浮かんでこちらを見上げている。
 傍から見てもわかるくらい強く握り締めた拳で、自らの胸を殴打する。
 どん、と鼓動のような音がして、閉じた第三の眼がへこむ。
 「灼熱」

 集中しなければわからないほど微かなものだけど、こいしの言葉にはプロミネンスのような揺らめきがある。
 「よくあることでしょ? 普段大人しいひとのほうが、内に激しいものを秘めているなんてことは。お姉ちゃんはその典型みたいなものよ。でなければ巫女やら魔法使いやらに弾幕を吹っかけたりしないしね。パルスィは真逆みたいだけど」
 私の下で乱れるさとりの温度がフラッシュバックした。
 「……なにが言いたいのよ」

 「川の流れは灼熱の海に注がれて」唄うようにこいしは言う。「片っ端から蒸発していく。互いに互いの温度を緩めながら。尽きることなく触れ合い続けて、遂には同じ場所まで落ちる」
 こいしの身体が少しずつ川面に向かって落ちていく。
 「熱くなりすぎず、冷たくなりすぎず」
 もう一度自らの拳で第三の眼を殴打する。
 「これはその辺の使い古されたろくでなしアフォリズムとは違う。誰にも気づかれないまま熱いひとと冷たいひとの間で放浪し続けた女の、そつなく暮らしていくための経験則。ときには全てを相手に委ねて、引っ張られるのも悪くはないわ。お姉ちゃんにしろ、パルスィにしろ」
 こいしの身体が川面に着水する。
 水飛沫が私の目前まで跳ねる。
 「私の言いたいこと、わかるでしょ? 一度そこまで行き着いた縁だったら、これから先どうなるにしろ、大切にしなきゃ」
 宙ぶらりんの声だけが聴こえた。

 「どんなに無意識の底に沈めても、真実はそういつまでもお腹の底で大人しく眠っていてはくれない。どんなに深く抱え込んでいることも、いずれは押し流されて、心臓を登って喉を通る。そうなったとき、私は眼を閉じ、お姉ちゃんは心を開いた。あなたはどうするの?」

 「全部を全部見透かしたような言い方をしないで」
 私は虚空に向かって言い返す。
 「私にはできない」





 こいしは私の無意識になにを見たのか。
 私が意識できるものではないのだろう。
 彼女の領域に属するものは私には計り知れない。それが例え私自身のものだとしても。
 どうでもいい。
 私はなにもいらないのだ。なにも感じたくないのだ。
 ただ橋の上に立って、川の流れを見つめている。
 幻想郷がそうであるように、地底にも海はない。水はどこにも注がれないまま、いつかは痩せ細って消え失せる。





 2





 黒白魔法使いの行き来する機会がやたらと増えている。
 ここのところはほぼ毎日だ。なにか悪巧みでもしているんじゃないかと思って声をかけると、あっさりその理由を教えてくれた。
 先日、地霊殿倒壊の理由の一端となった吸血鬼姉妹。彼女たちが地霊殿の連中を、今度は自分の館に招こうとしているらしい。
 「でもそれだけじゃただの二番煎じにしかならないからって、レミリアのやつが意地を張って」と、魔理沙は笑いながら言う。「紅魔湖で花火大会みたいなのを同時開催しようって話になったんだ。たぶん紫あたりが吹き込んだんだと思うけど、フランが駄々こねてな。地上の人里と旧都から花火職人を呼んで、私らの弾幕も交えた一大イベントだ。レミリアが空の弾幕を気に入ってさ、直々に名指しで招待したわけだ。空のはほら、わかりやすく派手だから……」
 「あんたはその使いっ走り?」
 「ものは言い様だな。でも自分の好きなもののためにパシリをやるのはそんなに悪いものじゃないぜ。あんたも来るか? 人里まで届くど派手な花火にする予定だから、幻想郷中どこから見てもきっと綺麗だし、なんなら乱入だって歓迎だ」
 「冗談」

 魔理沙と別れた直後に、勇儀がやってきた。
 手になにやら鮮やかな色の布を携えて、いつも通り上機嫌な表情を浮かべている。
 魔理沙のことを言うと、勇儀はますます笑みを深めた。
 「行ってきなよ、パルスィ」
 「なにをまたそんな、姐さん」
 「番人だったらその日だけ私が代わっておいてやるからさ。まあちょっとこいつを見なよ」
 「なにこれ……帯?」

 差し出されたものを受け取ると、かっちり織れた重い手応え。
 抑え目で、緩やかに流れる清流のような柄。
 「このあたりが腹で、こっちのほうが太鼓だね。図案を描いたのがキスメで、織ったのはヤマメだよ。蜘蛛だから糸の扱いは長けてる。見事なもんだろう」
 「……私に?」
 「こいつに合いそうな着物を持ってただろう? きっと浮き出るようになると思って、彼女たちに頼んでみたんだ」
 「どうして?」
 「強いて言えば、縦穴の番人勤続数百年記念に」
 勇儀は嘯いた。

 「姐さんが着ればいいのに」
 「はは。私はほら、こんながたいだし、綺麗な着物とか似合わないからさ」
 勇儀はそう言って、苦笑しながら自分の頬をかいた。
 姐さんが着物似合わないのはどう考えても激しく自己主張してやまない胸のふたつの凶器のせいなわけで、長く怖ろしく艶のある金髪の前にどんな着物の柄も色褪せてしまうせいなわけで、そう考えるとただもうひたすら純然たる嫉妬心が私の胸中に浮かび上がってきたわけだけども、とりあえず私はなにも言わないことにした。

 「まあ正直に言うと、この前古明地こいしにばったり会ってね」
 勇儀は欄干にもたれて言う。
 「お姉ちゃんとパルスィの仲がぎくしゃくしてるから、ちょっと背中を押してくれって頼まれたのさ。なにがあったのかは教えてくれなかったけど」
 手に持った杯に酒を注いで、一口含んだ。
 真っ昼間から酒を飲めるなんて妬ましい。
 「だからこの機会にちょいとおめかしして、さとりを誘って出かけてみればいいんじゃないか、なんて思ったわけさ。花火大会とやら、魔理沙の話だと、さとりのペットも出るんだろう? ちょうどいい機会じゃないか、口実としてはさ……」

 「こいしが、ね」
 「なにがあったのか訊きたがるほどには野暮な女じゃないつもりだけどね」ふう、とひとつ溜息をつく。「なにがあったのか知りたがるくらいには野暮だ」
 「さとりと寝たのよ」
 「へえ。それはそれは」
 勇儀は何気なく言って、また酒を口に含んだ。
 そうして一呼吸おいてから、盛大にむせた。
 「なっ……んッだ――ってぇ?」

 別にさとりでなくても、今の勇儀の心を読むのは簡単だ。
 動揺とか気まずさとか、そういう類の思考がぐるぐる頭のなかを渦巻いている。
 顔を真っ赤にしたり、真っ青にしたり。
 弾幕勝負の最中に杯の酒を一滴も零さないことを自分に課しているらしいけれど、弾幕じゃなくても今にも酒は零れそうだ。
 旧都で寝泊りしていたさとりが頻繁にここに来るようになったことは、なんとなく勇儀の口添えがあったからじゃないかって思っていたけれど、この反応を見る限りその推測は正しいらしい。

 「そんなにね、深刻なことじゃないのよ」
 と、私は言う。
 「実際それ以来会ってないしね。一夜だけのアバンチュールってわけでもないけど、ちょっとした間違いってやつじゃないの、さとりにとっては」
 背中を反らして、縦穴の上を見やる。地上から吹き抜ける風はあのときと同じものだけれど、ただ私の周りの温度だけが違う。
 「それで……ほんの少しだけでも慰めになったっていうんならまあ、別に……私としてはいいんだけどさ。変に気遣いなんてされなくても。むしろ何事もなかったみたいにそっとしておくほうが、あいつ自身のためになると思うけどね……」

 一切合切忘れて、何事もなく過ごすこともできなくもない。
 ただそういう事実があったということだけで。
 さとりのやつがどう思うにしろ、この先彼女に出会って、いつも通り笑うことも妬むこともできるだろう、私には。
 さとりがどう考えているのか、彼女が会いに来ない以上、覚でない私にはわからないけれど。
 そういう意味では、別に仲違いしていたわけではないにしろ、確かにこの機会はいいチャンスなのかもしれない。

 でも、楽しむことはできない。
 一夜の間違いを恒常的な関係まで持っていくことまではできない。
 それは私の心情に起因するものではなく、もっと深いところから湧き出てくるものだ。
 さとりに触れた私の指先。
 それは私自身のトラウマをつくった指先と同じもの。





 勇儀は杯を欄干にそっと置いて、両手で自分の顔を覆い、深く息をついた。
 そうしていたのは一秒ちょっとの短い時間だったけれど、とりあえずはそれで落ち着いたらしい。
 「――そりゃますます、もう一度会わないとね。なるべく早いうちに」
 「こうなること、少しでも予測できた?」
 「私はおまえさんらじゃないんだから、そんなことはわからんよ。なあ、パルスィ。厭な想いをさせちまったかい?」
 「そんなことはないわよ。私のほうがさとりを抱いたようなものだし。まあ私自身、ずっと自分はストレートだって思ってたけれど……」

 私は抱えていた帯を持ち上げて、勇儀に示した。
 「ありがと、姐さん。一応受け取っておくわ。キスメとヤマメにもありがとうって伝えておいて」
 「さとりには私から伝えておこうか?」
 「うん、ありがと」
 「ああ……あとひとつ訊いておきたいんだが」
 「なに、改めて」
 「おまえさん自身は、さとりのことをどう思ってる?」

 ――私自身。

 「……まだ、考えがまとまってない」
 「そうか」勇儀はそこで少し考える仕草をして、「なあ、パルスィ」と続けた。
 ……勇儀のその声音は、鬼に似つかわしくないくらい優しいものだったけれど、なぜか私は、叱られているような居心地の悪さを感じた。
 なんだっけ。
 普段大人しいやつのほうが、内に激しいものを秘めているんだっけ。
 勇儀は大人しいわけじゃないけど、滅多に感情を露にしたりしない。
 私は、鞘に収められた白刃の冷たさを感じたのかもしれない。

 「言いたいことをなにひとつ言わなけりゃ、そりゃあ、嘘もなにもないだろうさ。けど違うだろう? そういうのは」
 勇儀は私を正面から見据えて言った。





 勇儀が帰っていった後、帯の絵柄を見つめながら、私は考えていた。
 私が言いたいことってなに?
 なにを言うにしろ、なにを考えるにしろ、さとりを前にすればそんなもの、全部曝け出さざるを得なくなるのに。
 手のひらを額に当てる。
 もうひととしての体温なんて削げ落ちてしまったかのように、不快なくらい冷たかった。





 3





 物置の隅に仕舞ってあった着物を引っ張り出して、久し振りに着てみる。
 着方なんてとうに忘れているとばかり思っていたけど、意外と身体が覚えていた。
 勇儀から貰った帯を巻いてみる。
 さすがにいくつになっても女なわけだから、こういうとき独特の高揚感は、腹の奥から身の内にじんわり染み込んでくるようだった。
 とはいえ、キスメ図案ヤマメ制作の帯はあんまりにも立派すぎて、逆に意識しすぎじゃないかと恥ずかしくなってくる。

 橋の上で待っていると、地底側から、さとりのペットの猫と烏が飛んでくるのが見えた。
 さとりの姿はない。一緒ではないらしい。
 また変に気を遣われてしまったのか。
 猫のほうが烏に何事か言うのが見えて、ふたりともこちらに向かって降りてきた。
 人を食ったような会釈をされたので、こっちも似合わない笑顔でにこりと笑いかけた。

 「さとりは?」
 「さとり様は後から来るよ。ひとりで」
 そう言って猫は、私を値踏みするように、下から上までじっと視線を巡らせた。
 仄かな嫉妬心が渦巻いているようだったので、なにか文句でも言われるのだろうかと思った。
 烏のほうはわずかに離れたところで腕を組んでいる。
 明確な敵対ではないけれど、それに準じる距離を置いて。
 全てを話したのではないにしろ、こいしからある程度は、事情が伝わっているのだろう。

 視線を合わせられる。
 猫の瞳に私の姿が紅く映る。
 どんなに着飾ったとしても、自分で自分の内面がわかる以上、その姿を綺麗だなんて夢にも思ったりしない。
 けれど猫の瞳は、もとが獣であるせいだからか、思わず笑いが込み上げてくるくらい綺麗だ。
 純粋な一途さと、力強いしなやかさを内包した、ルビーのような眼球。
 嫉妬するのは赤子の手をひねるより簡単だった。

 ……ふぅん。

 ばかなさとり。
 こんなにも純真なものが近くにあるのに、それに気がつかないなんて。
 この距離で一目見ればすぐにでもわかりそうなものなのに。
 心が読めても、そういう細やかな機微までには能力が回らないということなのか。
 わざわざ私のところにまで来なくてもよかったのに……

 「あたいもね、あんまりこういうこと言いたくないんだけど」
 と、猫が言う。
 声音は硬く刺々しいが、眼にはむしろ、申し訳なさに似たものさえ混じっている。
 心情的には、母親の恋人を見る娘のものに近いのかもしれない。
 一度寝たきりの関係とはいえ。
 「さとり様は大切なひとだから。相応しくないやつに渡したくない」

 言葉は直接的で、余計な飾り立てなんてない。
 本来なら明朗な、こういう空気に慣れていない娘なのだろう、体の節々にぎこちなさが出ている。
 相応しくない、か。
 たぶん、そうなんだろう。私自身、自分がさとりに――そういう感情に――値するだなんて露ほども思っちゃいない。
 「渡すもなにも、あんたのご主人様とそこまで深刻な関係ってわけじゃないけど。今、その勘違いを解こうとも思わないけどね。あんたがそう思うんなら、気が済むまでチェックしたらどう?」

 私の声には自分でも驚くくらい投げやりな響きがあった。
 やれやれ。
 疲れてるな、と思う。
 ずっと硬直していた関係が、油を注いでない機械のように、ぎしぎしと動き始めたからだろう。
 脳髄がぎこちなく絞られている気分だ。

 ……やめよう。
 自己嫌悪は嫉妬と似ているけれど、私の能力の範疇じゃない。

 猫は首を振る。
 辺りの空気を払うような重みがある。
 「それがどういう状況にしろ、気が済むなんて現象はどこにもないんだよ。ただ、適当なところで折り合いをつけるだけさ」
 「そう。それで?」
 「あんたはあたいから目を反らさなかった。とりあえずはそれで信じることにする」
 「信じるって、残酷な言葉ね」
 「さとり様を傷つけたら絶対に赦さないから」
 「赦してくれなくてもいい。そのときは」

 猫の唇が真一文字に結ばれる。
 地底からの風に赤いおさげがかすかに揺れている。
 真っ直ぐに私を見つめる眼には敵意なんてどこにもない。
 ただ、さとりのことをひたむきに心配しているだけだ。

 「勘違いしてるのはあんたのほうさ。さとり様があんたと寝たのは、遊びとか、いっときの淋しさからなんかじゃないよ。あたいはずっと見てきたからわかるんだ。見てなくったってわかる。あんたの存在はさとり様にとってものすごく大きな――」

 ……そこに立っているというだけなのに、なんと清らかで力強い姿なんだろう。
 例えば一枚の絵に集中し埋没していくときのような、吸い込まれ、飲み込まれていくような感覚がある。
 もとが獣であるせいで、そこまで純粋でいられるのか。
 それとも、主を想う従者の心根というものか。
 忠誠心というやつを、とことんまで突き詰めると、こういう形になるのかもしれない。
 あるいはもっと深いところで、私には計り知れない、別の概念があるのか。
 見知らぬ世界を垣間見てしまったような心地悪さがあった。心地悪ささえ飲み込まれて見惚れてしまうような心地悪さ。

 彼女と比べたとき、じゃあ、私はどうなのだろう。
 この私が嫉妬さえ抑え込まれてしまうほど静かで強い感情を前にして、それでも、私はなおもさとりに会おうとしている。
 こんな着物まで着ていることに、私の冷静な一部はばかなことだと喚いているけれど、それでも胸中に、恥ずかしさなんて浮かんでこないのだ。
 頭のなかで渦巻いている捉えがたい思考。
 これに言葉を与えないうちは、例えこの娘のこんな姿を目の当たりにしても、いそいそと尻尾を巻いて逃げ帰るわけにはいかない。

 「――お燐。そろそろ」
 烏が猫の肩に手を置いて言う。
 「ん、お空」

 張り詰めた空気がぱっと散って、猫の体がふわりと浮いた。
 橋の木板を蹴って、地上に向かっていく。
 烏が猫の後を追って、私の真横の欄干に足をかけて飛び立つ寸前、私の方を向いた。
 「さとり様は可愛いよ」
 突然なにを言い出すんだこの鳥。

 「私さ、お燐みたいに難しいこと考えてるわけじゃないけど」
 烏はそう言って邪気なく笑う。
 「私が今まで出会った連中のなかで、さとり様の可愛さに対抗できるのって、お燐かこいし様くらいのものだよ。そう言うとお燐はすぐ否定するけどさ。ものすごいもんよ。最近はしてくれなくなったけど、私の髪を梳いてくれてるときのさとり様なんかそりゃあもうにこにこしていい匂いで――」
 「お空!」
 「んー! ちょっと待ってて!」
 「なにが言いたいのよ」

 烏は欄干を蹴って宙に舞い、ばっと翼を広げてこっちを向いた。
 「あんたも充分きれいだよ。さとり様には敵わないけど、さとり様の隣にいて不自然にならないくらいには。お燐もあんたも、気にしてることってそれだよね?」
 私は溜息をついた。
 なんて短絡的な思考。
 「だからあんまり、物事を変に深く疑って考えないほうがいいよ。そういうときってみんな自分で気づかないみたいだけど、目がぼんやりして暗くなって、ひどい不っ細工な顔になるから。お燐はああ言ったけど、私は笑ってさえいれば、あんたはさとり様の隣にいても気にしなくていいんだって思うよ」
 「……そうね」私は言う。「そうだったらいいわね」





 さとりがなかなか来ないように感じたのは単に私が緊張しすぎていたせいかもしれない。
 自覚なんてなかったけれど。
 実際にはそれほど時間なんて経ってなかったかもしれなくて、ただ待ちくたびれたという感覚だけが胸の底に落ちていく。
 さとりはいつもの格好でいつもの様子のように見えたけれど、近寄ると仄かにシトラスの香りがした。

 「久し振り」
 「ええ」
 「行きましょうか」
 「はい」

 交わされる言葉はぶっきらぼうなくらい少ないし、表情は硬い。
 並んで飛び立つけれど、さとりとの間にはよそよそしいくらいの距離がある。
 覚悟はしていたけれど、やっぱり気まずい。
 ここまで頭が真っ白になるとは思ってなかった。

 なにか喋ろうかと思うけど、やっぱり言葉なんて浮かんでこないのだ。
 もともとそうだったし、ああいう時間を過ごしてしまったあとも、それは変わらない。
 ただ触れ辛くなった。
 あのときのことに関して話題を用意していなかったわけじゃないけど、実際に彼女を前にすると、そういうのはみんな馬鹿馬鹿しく思えてくる。

 途中、ヤマメとキスメが一緒にいるのを見つける。
 軽い会釈をしたら、私とさとりを交互に見て、そのあとその間の距離を見て、残念な子を見るような眼を向けられた。
 なんだその表情は。
 むっとしたので、帯の礼を言うのをやめた。





 縦穴を抜けると、茜色の強い光が、西の空で黒雲を刻んでいた。
 全てを打ち払うような強い風が吹く。
 さあさあと樹木の葉が擦れ合う音とともに、懐かしい匂いが鼻を抜ける。
 さとりが息を呑むのが聴こえる。
 ああ、……何百年振りだろう。
 地上の夕暮れ。

 しばらく呆然としていた。
 まるで予測しなかったことに、視界が潤んできた。
 そういう反応をした自分に――まだそんな機能が残っていたということに、少なからず驚いた。
 そのままでいると本当に打ちのめされそうだったので、無我夢中に手を伸ばして、さとりの手を掴んだ。
 掴んだあと後悔したけれど、地上の風に励まされるような思いで、そのまま握り締めた。
 「パルスィ――」
 「ほら。さっさと行くわよ」
 私の声がなんでもないように聴こえることを願ったけれど、たぶん、だめだったろう。

 「パルスィ」
 さとりの手を引っ張るようにして飛ぶと、さとりが後ろから声をかけてきた。
 「なに?」
 「その」
 沈黙が落ちる。
 遠くに見える山脈の圧倒するような黒が、私の眼に重い影を残す。
 「着物、似合ってます。とても綺麗」
 無様なくらいの早口だった。
 どう考えてもタイミングを逸していたけれど、私はなにも言わなかった。言えなかった。





 紅魔湖のほとりは、さながら縁日のような騒ぎだった。
 湖に住む妖精たちが住処を追われたことを愚痴りながらも、その声は期待に染まっている。
 何人かの妖怪が、花火が打ち上がる前だというのに既に興奮しきっていて、其処彼処で弾幕の光を散らしている。
 怖いもの見たさでか、人間も混じっているようだ。
 驚くべきことに子供までいて、明らかに普通じゃない気配の人間に引率されている。
 魔理沙のやつはどれだけ大きく宣伝したんだか。
 噂には聞いていたが、幻想郷ではすぐになんでもかんでもお祭り騒ぎになるらしい。

 さとりは紅魔館の当主に挨拶に行ったけれど、すぐに戻ってきた。
 なんでもないような顔をしているけど、これだけの人混みは彼女の能力には負担だろう。
 そう思って周りを見渡してみるけれど、土地鑑がない以上、どこに行けばいいのかわからない。
 ここまできてろくに花火の見れない場所に行くのも癪だし。
 途方に暮れかけると、上空から声をかけられた。

 「おーい!」
 見上げると、箒にまたがる黒白がこちらに降りてくるのが見えた。
 「なんだ、冗談とか言ってたのに結局来たのか? いつもと違う格好してるから近寄るまであんただってわかんなかったよ。さとりのペットの一匹かと思ったぜ」
 「さとりのお守りみたいなものよ。一番できのいいペットがふたりとも花火要員に取られたから」
 正直に言うのもなんだか癪だったので、でたらめを言った。
 魔理沙は特に気にする様子もなく、箒を肩に担いで私たちを交互に見て、微笑んだ。
 「よく来てくれたな。歓迎するぜ。花火以外はなにも出やしないけど」
 「お酒は?」
 「レミリアが今夜は紅魔館に泊まってけってさ。たぶん朝まで宴会コースだ。私はたぶん酒どころじゃなくなるけどな、興奮したフランの子守で……」

 魔理沙が溜息をついたとき、人混みから歓声が上がった。
 つられて湖のほうを見ると、蛇のような赤い線が上空に昇っていって、一瞬消えた後、弾けた。
 腹に響く轟音と閃光。
 ――続けざまに五発。
 「始まったな」

 「あんたはこんなところにいていいの?」
 「私の出番はもっと後のほうだ。それに私がいなくったって、誰も気にしないくらい豪華なメンツだしな」
 そう言うと魔理沙はさとりのほうに視線を向ける。
 「大丈夫か?」
 「なにがですか」
 「んー……」魔理沙が頬をかく。「なあ、パルスィ」
 魔理沙が私の首に腕を回してきて、無理矢理前屈みにする。
 「紅魔湖から出る支流があっちのほうにあってな、ちょっと下ると、古い橋が架かってるんだ」
 「それが?」
 「今じゃ誰も使ってないし、誰も通らない。けどちょっとした広場みたいになってるところで、見通しだけはいいから、花火もよく見える。色気なんかは足りないけど、ふたりっきりになるには丁度いいところだ」
 「……そう」
 「まあ余計なお世話だってんならいいんだけどさ、一応な」
 魔理沙はそう言って笑った。

 どん、どん、ぱらぱらぱら、花火は休む間もなく上がり続ける。
 とても新鮮な気分だった。
 私が妖怪になった頃には花火なんてなかったし、地底ではここまで大きなものは存在しなかったから。
 鬼たちは火薬を使うくらいなら自分たちでやってしまえというスタンスだったし、加減なんか知らないから全力で霊弾を散らしてはすぐにばててた。
 上空を見上げるさとりに目を向ける。
 閃光のつくる灯りと影が彼女の顔を照らしては隠し、照らしては隠し……

 「子供の頃はな、花火は大好きだったんだけど」
 誰に言うわけでもなく、魔理沙が独り言のように呟く。
 「魔法使いの修行をし始めたら、なんだか見れなくなっちまった。辛くて苦しくて、胸が沸き立つみたいな感覚が出てきてさ。嫌いになったんだ」
 不意に、識閾下で私の緑が蠢き始める。
 「嫉妬してたんだな。きっと。私より高く飛んで、私より強く大きく弾けて、そのくせ私より綺麗に輝くもんだから。なんにもしがらみがないみたいに、それが当然のことみたいにさ。なんでもないことのように思えてたのが、急にどれだけ得難いものか気づいて。我ながら現金だとは思うけど、同じ土俵に立った途端に遠ざけるなんて……」
 「――今は?」
 私の問いかけに、魔理沙は不敵な笑みで答えた。
 「私が花火だ」

 箒に乗って、魔理沙が飛び去る。
 「あと一時間くらいしたら私たちの出番だから! 乱入はいくらでも歓迎だからな! 全部見ないうちから帰らないでくれよなっ!」





 人混みのなかをさとりの手を引いて抜ける。
 飛ぶにしても、変に目立って好戦的な妖精の的になりたくはなかった。
 握ってみるとわかる、背徳的なほど小さなさとりの手。
 私とは違い、熱いくらいに体温が高い。
 血の流れが血管の内側を削る感触まで伝わってきそうなほど。

 魔理沙の言っていた支流はすぐに見つかった。
 闇夜のなかで黒い水が静かに流れている。
 花火の光がなければ見落としていたかもしれない。

 ざわめきは遠くに離れ、全くの静寂より無音が際立って耳のなかで渦巻く。
 手を離して振り向くと、さとりは俯いて前髪の奥に双眸を隠す。
 光が真横からその顔を照らし、またすぐに闇が覆う。
 「さとり」
 私は声をかける。
 返事はなく、さとりは私に先んじて支流を辿って橋に向かう。

 ほとんど不意打ちのように、頭のなかでさとりの乱れる姿がフラッシュバックする。
 私たちを覆う気まずさの原因。
 自分でも驚くほど、記憶は生々しかった。
 聴こえないはずの善がり声まで鼓膜の裏側でひっくり返った。
 あ、まずい。
 そう思ったときには、さとりの足が止まり、後姿がひくひく震えているのが見えた。
 闇のなかでさえわかるほど、かすかに垣間見えるさとりの耳は羞恥で真っ赤に染まっていた。

 「ご、めん」
 私の声はぎこちない。
 「い……いえ」
 深呼吸しながらさとりが言う。

 考えないようにするというのは考えるということと同義なわけで、そうなるともうどうしようもない。
 極力頭のなかを空にしようと、歩くことに集中しようとする。
 でもどうやっても思考はろくでもない方向に飛んでいくので、諦めた。

 「――ひとつだけ聴かせて」
 「はい」
 「あんたって私のことどう思ってるの?」
 改めて訊くのは卑怯なことのように思えた。
 けれど、言葉にしなければ伝わらないのだ。
 歩み続けるなか、長い沈黙が落ち、絞り出すようにしてやっと声が聴こえた。
 「好きです」
 余計な飾りなんてどこにもない、ただその怯えるような声音だけがエッセンスとなる、痛くなってくるような声。

 一瞬、息が止まった。

 ――さとり。
 「私は……」
 「私たちはいちいち言葉にしなくても話し合える。それってとても得難いことじゃない?」私の声は震えていた。「ごめんね……ちょっとそのまま……振り返らないで聴いてくれる?」
 さとりが頷くのが見えた。
 私は歩き続ける彼女の後ろをついていく。

 ばらばらに散らされた言葉を集めるようにして、思考を紡いでいく。
 心のなかで話しかけると同時に、それはきっと、しっかりした形になるだろうから。
 ――さとり。
 と、私は思う。
 世界が閃光に一瞬だけ舞台を許し、また闇の帳を広げ直す。
 空気を掻き乱す音の波に全てが震える。

 歩き続けるなかで思考が鮮明になっていく。
 耳に届くのは豪勢な爆音と、聞き慣れた川のせせらぎ。
 地上でも地底でも水の流れは変わらない。
 さとりの後姿の向こう側に、魔理沙の言っていた古い橋が見える。
 誰も渡らなくなった私の橋よりさらに古く、小さな橋だった。
 何気なく顔を上げると、満天の星空のなかに花火のつくる薄い白煙のへり。

 なにもかもが剥き出しになっているような感覚があった。
 空気のフィルターを突き抜けて、あらゆる背景が目前に迫ってくるような。
 頭のなかに、なにも、思い浮かばない。
 鮮明になった思考が全てを放棄する。
 耳鳴りがする。

 掻き集めようと思っていた言葉がまたばらばらになっていく。
 手を伸ばした瞬間に水泡になる。
 ……お、
 おかしい。
 自分という存在が段々制御不能のものに変化していくような違和感がある。

 なにを考える間もなく、橋の上に到着してしまった。
 足を止める。
 さとりはまだ、私に背を向けている。
 まだ振り向かないで。
 私のほうを見ないで。
 辛うじてそれだけを思い続ける。

 「パルスィ……?」
 頭ががんがんする。
 両側から縄で引っ張られてるみたいに痛みは容赦がない。
 右手で頭を抑える。そうしなければ色々なものが頭蓋骨の隙間から外に飛び出ていってしまうような恐怖があった。
 なにも考えられない。
 わからない。

 なにこれ。
 どうしてこんなになってる?
 なにがスイッチになってこんな……

 崩れ落ちていく。
 ずたずたにされていく。
 指の先から凍りついていくような錯覚がある。

 さとりがこちらを向く。
 私はその動きを認識できなかった。
 一瞬遅れてその動きに気がつく。
 ――振り向かないでって……!
 さとりの顔が歪んだ。
 「パルスィ!?」

 さとりの手が伸びてくる。
 手のひらで頬を覆われる。
 火のような体温が伝わる。
 ――そこで、ようやく。
 自分が涙を流していることに気がついた。





 「――っあ……ぅぁあ……?」
 零れ落ちていく。
 為す術のないまま次から次へと。
 勝手に頬がひきつって、唇が引っ張られる。
 さとりの添えた手のへりからも溢れて、断続的に訪れる一瞬の光のなか、闇の底へと。
 「あ……あ……ああ……っ」

 考えて、考えて、考えて……

 やっと気づいた。
 ずっと。
 ずっと、欲しかったことば。
 それ以外にはなにもいらなかった。なにも感じたくはなかった。
 私は。

 『どんなに無意識の底に沈めても――』
 『言いたいことをなにひとつ言わなけりゃ――』


 ただ、好きだと、言われたかった。





 「うぁぁああ……!」
 腹の底から喉を通って地面に染み込む毒のような感情から始まった、今の私を形作る最初のトラウマは、ただそのひとことが欲しかったから執行されたのだ。
 たったひとこと。
 嘘偽りのない好意を示すことばが。

 いつの間にか、完全に打ちのめされていた。
 息すらろくにできないまま、眼を開けていられなくなった。
 頬に添えられた熱いものに自分の両手を重ねた。
 ありったけの力を篭めて強く握り締めた。

 「……ッ」
 私の嗚咽に紛れてさとりが息を呑む音が聴こえた。
 「……好きです」
 私の心を読んだのか、爆音に紛れてナイフのようなそのことばが聴こえた。
 「パルスィ――」
 私は頭を振ってその熱さを追い出そうとした。

 心に覆い被せていた皮膜が熱に溶ける。
 厭な音と匂いをだして、過去と今を繋ぐ剥き出しの傷口が露になる。
 やめて、と私は叫んだ。
 叫んだつもりだった。
 実際に口から出たのはわけのわからない喚き声だった。

 捉え難かった思考が形を為し始める。
 さとりを抱いたあとから私の胸中に湧き上がったざわめき。
 欠けていたパズルのピースが埋まる。

 やめてよ、と私は心のなかで叫ぶ。
 そんなことばで私を惑わさないで。
 トラウマが掘り返されたあのときと同じ心の動きがあった。

 もう二度とあんな想いをしようとは思わないのよ。
 やっとくそみたいな願望を流れの底に押し込めることができていたのに。
 掘り起こさないで。
 熔かそうとしないで。

 「パルスィ、落ち着いて。こっちを向いて、私を見て」
 私は頭を振る。
 拒絶する。
 両手を離して、さとりの手を振り払う。
 その行為そのものがさとりの感情に火を点けてしまったことに、直後に気づいた。
 さとりの頬がかっと紅く染まる様を、遠い花火の閃光が淡く照らし出す。

 「パルスィ!」
 「ひっ」
 爆音も喚き声もなにもかも引き裂いてさとりの声が聴こえる。
 「わたし、は、」
 なにひとつ嘘偽りもないことを知らしめるかのように、ひとつひとつの単語に力を篭めて。
 「あなた、が、」
 身を離そうとした私の肩を掴んで、無理矢理脳髄に叩き込むかのように耳に唇を押し付ける。
 「――!!」
 絶叫そのもののことばが私の心を満たして内側から突き破る。

 橋の欄干に体を押し付けられる。
 背中に重い痛みが走り、それでもまだ力を篭め続けられる。
 さとりの体は小さいのにものすごく熱い。
 私の心という燃料まで片っ端から奪われ、燃焼されているかのよう。
 焼き尽くされ、喰らい尽くされる恐怖が湧き上がってくる。
 心を読むことと心を喰らうことに一体なんの違いがある?
 噛み付くようなキスをされる。
 一度離れたあともう一度吸われ、今度は舌が食い込んでくる。

 「――っ!」
 背が、欄干を支点にして反り返る。
 ぱきりとしなる軽い音。
 閃光と爆音。
 一瞬で燃え上がった感情の熱に全てが熔け落ちていく。

 強く握り締められた手首の重い痛みが力を奪う。
 真っ赤に染まる心の色が瞼の裏まで伝染する。
 けれどこれは一体誰の心なのか。本当に私のものなのか。さとりのものではなくて?
 着物の裾から膝を捻じ込まれた瞬間、花火の爆音とともに、私の背中で不吉な音がした。

 古くなり、腐った木製の欄干は私たちの体重を支えることができなかった。
 めきりと割れて崩れて壊れ、私たちの体も、川面に向かって落ちていく。
 初めて出会ったあの日のように。
 上も下もなく縺れ合いながら。
 あのとき以上の膨大な熱量を伴って。





 夥しい数の水泡が私の体を埋め尽くす。
 川はその小ささに反して驚くほど深く、流れは速い。
 水面と川底の区別がつかない。
 さとりの身体が離れ、熱さが遠のく。
 もがけばもがくほど私の体はぐるぐると意味もなく回転する。

 夢中で伸ばした手の先が水面を切る。
 視界は闇より濃いどす黒い水の色に包囲され、腹の底から湧き上がるのは、言いようもない原初的な恐怖。
 服の裾が掴まれ、引きずり込まれる感触がある。
 さとりの手。
 こんなどうしようもない状況にあってさえ、彼女は私の位置を正確に把握して、自分の体を乱暴にぶつけてくる。
 冷たい世界のなかのただひとつの熱源。

 髪が海草のように揺らめくのが見えた。
 粗暴さをまるで隠そうとしないキスをされる。
 息苦しさに視界が霞む。
 なにも見えない。
 耳の奥でぼこぼこと泡立つ。
 肺に残った最後の酸素まで酷使され、その向こう側に飛ばされる。

 獣のような熱情が伝わる。
 なにひとつ支えるものがない流れの世界で、さとりは廻る私の体を追い続ける。
 纏いつくような水の抵抗さえ越えて、手を握り、腕を押し付け、唇を追い、胴を求め、骨盤をぶつけ、脚を絡め……
 落ちるときにどこか切ってしまったのか、私の腕から流れ出る血が赤い霞となって昇っていくのが見えた。
 花火の閃光が鏡面のような水面越しに輝いた。いや、あれは弾幕?

 夜の水の深い闇さえ突っ切って、強烈な明度が世界を照らす。
 隠されたものの隅々まで暴き出すように。
 全身が痺れたようになって動くことさえままならない。
 遠のいていく意識のなかで、ただひとつ確かなのは体越しに伝わる灼熱の温度。
 穏やかさなんてかけらもない、冷たさなんてものともしない、正直で剥き出しの感情。

 ――さとり。





 闇雲に伸ばした手が再び水面を切り、対岸の地面を掴んだ。
 擦り切れた生存本能に鞭を打って、さとりの体を振り切る。
 耳鳴りが物凄くうるさかったけれど、怖ろしく遠くから弾幕の爆音が聴こえてきて、それで意識が多少はマシになる。
 ぽたぽたと夥しい数の水滴が石の上に落ちていく。
 身体が重い。
 眼に張り付いた前髪を振り払った。

 ぜえぜえと無様な呼吸をしながら、地を這って川から離れる。
 そこにあった太い樹に背をもたれ、へたり込む。
 「かっ――はぁっ――ぜっ――」
 気管という気管がが水浸しで苦しい。

 さとりが荒々しく体をぶつけてきても、それを避けたり抗ったりする気力はもうなかった。
 一発で限界の向こう側まで振り切られたメーターが数値を破壊する。
 全力疾走を何遍も繰り返したような苦痛と疲労。
 「パルスィ――」
 頭を掴まれ、無理矢理目を合わせられる。

 声が出ない。
 喉も舌も潰れたようになって自分の仕事をしようともしない。
 もう崩壊寸前になっている心の残滓をかき集めて、そのへりでことばを紡ごうとする。
 ――なんで。
 ――なんで?

 向けられる情念を信じることができないのだ。
 それが単にいっときの感情や孤独からくるものであれば、それは刹那に近い時間で燃え尽きてしまうから。
 美しいものに恋焦がれる普遍的な情であれば、私はそれに値しない。
 もっと相応しいものがさとりの周りにはあるから。

 投げ出した足に跨るようにしてさとりは私の顔に近づく。
 全てのことばを押し込めるようにして唇を押し付けられる。
 口内に舌の動きを感じても、それを追うことさえできなかった。
 飽きもせず……長く……長い……怖ろしく長い時間、そうやって蹂躙し続ける。
 そうすることによって全てが伝わるとでもいうように。
 押し退けることも振り払うこともできず、なすがままだった。

 ……離れた唇から糸が引いた。
 離れるなかで途切れて落ちて、私の着物を伝っていった。
 貰った帯、汚しちゃったな。
 ごめん。

 「たとえ……あなたが私の想いを……信じることができなかったとしても」
 さとりの声は歪なくらい遠くに聴こえたけれど、耳元で直接注ぎ込まれるような近しささえ感じた。
 「本当に私は、あなたのことが好きなんです。愛しています」
 荒れた呼吸で紡がれることばはひどく聴こえ辛く、その意味を解するのに時間がかかる。
 「どれだけ深く堕ちていって、どんなに自分に失望し切っても……自分という存在の穢れを余すところなく知って、高望みすることをやめても……どんなに利己的であろうとしても、自分を救ってくれたものから目を背けて生きることだけはできない」さとりは首を振る。「できないんです」

 さとりは私の手を掴み、自分の胸元まで導く。
 私の手ごと第三の眼を掴んで、私のほうが気圧されるほどの力を篭めて握り締める。

 「あなたが私の心を読めなくても」
 弾幕の力強い光がさとりの顔を照らしては隠し、照らしては隠し……
 「私はあなたに偽りを示したりしない」





 情愛というには激しすぎる。情欲というには熱すぎる。
 さとりは自らのブラウスのボタンを外していく。
 私に見せつけるように。
 顔は羞恥で真っ赤に染まっているくせに、それを隠そうともしない。
 軋む音さえ聴こえてきそうなほど歯を食い縛って耐えている。
 指先は震えて何度も滑る。

 私の肩にさとりの手が置かれたとき、私は首を振った。
 ――できない。
 声に出したつもりだったけれど、まだ、舌も喉も麻痺したように凍えていた。
 ――私にはできない。
 さとりの手が止まる。
 ――私は達せられないのよ。
 感じないの。

 私自身の心の声にトラウマが引きずり出される。
 嫉妬によって狂い鬼と化したあの晩。
 ふたりを殺した直後にした醜い自慰。
 あれで私のどこかがまたおかしくなってしまった。
 あれ以来、自慰にしろ性交にしろ、オルガズムどころか何かしら感じることさえなくなってしまった。
 触れた瞬間――触れられた瞬間――達することができなかったあの時間が蘇り、全身を鈍く重い無感動な塊にしてしまう。

 さとりにトラウマを掘り起こされなんかしなくても、それはいつでも私とともにある。
 鬼と化したことへの罰。
 檻のなかに放り込まれる代わりに、生きることそのものが檻となった。
 愛撫はもう打擲にしかならない。

 「知っています」
 さとりは私の頬を包むように手を添える。
 「わかってます。初めに会ったとき、一目見た瞬間から全て読めてしまった。あなたが思い、考え、感じてきた全てのことを。なぜならあなたは、受けた傷も与えた傷も全部抱えて絶対に忘れない、受け流したりしない、不器用なくらい真っ直ぐな子供みたいなひとだから。いつでもそれを心に押し付けていたから」
 額に額を押し当てられる。
 「でも、だからこそ私には言える」
 そっと注ぎ込むようにことばが紡がれる。
 「あなたはもう充分刑期を果たした。誰もあなたを咎めたり、責めたりしない。だからもう、自分を赦してもいいのよ。それは、そう、あなたが手にかけたふたりでさえそう言ってくれるでしょう」

 ――ごめんなさい。
 ごめんなさい。
 ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……

 「今は、私だけを見て。全てを忘れて私だけを感じて。パルスィ、私はあなたに貰ったものを返したい。けど、本当はそういうことだってもうどうでもいいの」
 抱き締められる。
 「私はあなたが好き。それだけが今ここにある私の心よ」





 熱い。
 季節はもう夏とはかけ離れたところにあるというのに。
 凍るような水の流れから這い上がったばかりだというのに。
 さとりの、私より一回りも二回りも小さな体。
 そこに滴るものが川の水なのか彼女自身の汗なのかもうわからない。
 白い肌は余計に赤く染まった全身を誇張させる。
 体の動きさえもどかしいとでもいう風に、さとりは自らの衣服を乱雑に脱ぎ捨て、私の着物を中途半端に肌蹴て下着だけを取り去る。
 弱々しく中空に伸ばされた私の指先は喰らいつくように捻じ伏せられた。

 これだけ距離が離れてさえ届く湖の弾幕が輝くたび、さとりの顔に淡い光と濃い影が落ち、反射的に瞼がひくつく。
 肉欲を前にして蕩けた眼の暗い光と、ぎりぎりと張り詰めた必死そのものの表情。
 あばら骨が痛々しく浮き出る痩身に、第三の眼から伸びるコードが巻きついている。
 あるいはこの光と闇の不自然な照明のせいかもしれない。卑猥なほど無垢で、神聖なほど淫猥。無軌道な矛盾がぐちゃぐちゃに引っ掻き回されたわけのわからない絵画のように見える。

 「――ッう、あ」
 首筋を噛まれ、着物の襟から手を差し込まれる。
 乳房に手を添えられ、痛みを感じるほど強く歯を立てられる。
 揉むというより握るような。歯というより牙のような。
 指を絡めて握られた手は、篭められる力が強すぎて、私の指は開かれたまま手首の稼動限界まで反り返っている。

 「あ、っあ、あッ、あ」
 快感からではなく苦痛から出る喘ぎ声。
 まだ止まってくれない涙の嗚咽も入り混じっている。
 目を閉じて頭を振った。
 背中に押し付けられる幹の、尖った木肌が布越しに食い込んでくる。

 叩きつけられた骨盤のなかでぬちゃりと生々しく音が立つ。
 着物のへりと私の足の付け根に、さとりの秘所から溢れた粘りがまとわりつく。
 糸を引いて落ちる。
 もう一度叩きつけられ擦りつけられ、そうするたびにさとりの体はびくびくと無防備に震えた。
 「ふっ――んぅ、っ――ふっ、ふっ、ッん……」
 噛まれている首筋に熱風のような吐息が湿る。

 「痛い、さとり、痛い」
 私の悲鳴めいた訴えにも耳を貸さず、さとりは体を打ちつけ続ける。
 私の体の向こう側へ突き抜けようとするように。
 握られていないほうの手でさとりの髪を掴み、引き剥がそうとする。
 くっと反り返った喉の小枝のような細さに息が詰まる。

 肉芽に肉芽が擦れる感覚がした。
 快感なんてない、開いた傷口から直接肉を抉られるような痛みが走る。
 「――っあ、ッ――!」
 さとりの声。
 高く掠れて小さくなって消えていく。
 ……達したようだった。
 頬から涙が零れていくのが見えた。
 胸が張り裂けそうなほど美しい、哀しみとしか形容できない表情を赤い光が照らした。

 さとりは頭を振って、髪を掴む私の手を弾いた。
 私の手に紫色の髪が幾筋か絡んで抜け落ちる。
 闇のなかに蒼白く溶ける顔が私を正面から見据える。
 あらゆるものが削げ落ちる時間のなかでさえ、強すぎるくらい一途な表情に圧倒される。
 眼が合った瞬間にキスをぶつけられる。
 がちんと歯の当たる音がして、一瞬遅れて痛みが来る。
 後頭部が木の幹に激突する。

 視界が赤くなり、青くなり、緑になり、白くなり、黄色くなる。
 遠い爆音が耳のなかでこだまする。
 握られたほうの手がさとりの手に導かれるのがわかったけれど、じんじんと痺れて力が入らない。
 ただ熱い感触だけはわかった。
 さとりの秘所。

 前にさとりを抱いたとき以上に熱く、どろどろに潤んでいた。
 指に指を添えられて、肉を割る。
 薄毛さえ生えていないことに怖ろしいくらいに罪悪感を覚える。
 第一関節まで入ったところで動きが止まり、目前にあるさとりの顔が、刺激の強さに硬直するのが見えた。
 それでもさとりは、そこから自分自身を犯すように一気に奥まで突き込んだ。
 見開かれた眼の焦点は私の遥か後方に合わせられていた。

 それだけでもう一度イっていた。
 その瞬間の善がり声は私の喉の奥に注がれた。
 形容しがたい空気の振動が気道を通って肺を揺さぶる。
 パルスィ、と口のなかで聴いた。
 私の名前はずたずたに崩れて跡形もなく壊されていた。

 「パルスィ、パルスィ、パルスィ、んぅ、ああああ、パル、スィ、パルスィ――」

 今度の絶頂はおかしいくらいに長かった。
 私の名前を呼ぶたびにイきなおしているんじゃないかと思えるくらいに。
 体の筋という筋がたがを外したようにびくびくして震えて落ちて持ち上がった。

 体重をずっとかけられているものだから足から下に血が流れていない。
 痺れて力が入らないどころか、痛い。
 濡れた着物が腰の下で地面を捉えられなくなり、ずるずると滑って座っていられなくなる。





 私の体は地面に横たわり、さとりは私にまたがっている。
 自分の指ごと私の指を秘所に突き入れたまま、絶頂のあとの喪失感のなかで荒く息をついている。
 眼は私を見ようと頑張っているけれど、焦点はすぐどこかあらぬ方向へ飛んでいく。

 「――ッっん、っく、はあ……」
 確かめるように息を吐き、そこでようやく、さとりは私の眼を捉えた。
 倒れこむように私の顔に近づき、鼻の頭が触れ合うくらいの距離で止まる。
 さとりの吐息が私の唇を濡らす。
 ひとの息はこんなにも熱いものだっただろうか。
 「さとり、さとりぃ……!」

 ――私が彼女の名を呼んだのは、恐怖からだった。
 理由は明白じゃない。
 体中に走る痛みからくるものかもしれないし、壊れていくさとりの姿からくるものかもしれない。
 心細さや、こういう状況そのものへの罪悪感や……
 涙が乾いてもまだ泣いている最中のような心のどうしようもなさが、そう思わせたのかもしれなかった。

 私の心を読めても、さとりは今、なにも考えていられないんじゃないだろうか。
 そう思えるくらい彼女の表情は切羽詰ったもので、ほとんど獣染みてさえいた。
 けれどもこの姿勢のまま何度となく呼吸を繰り返していると、さとりはようやく、自らの思考を取り戻し始めたようだった。
 「……っ」さとりはかすかに微笑んだ。
 「好きです」
 それだけか大事なものであるかのように言った。

 さとりのなかで、さとりの指によって私の指が曲げられる。
 私の指先がさとりのなかを叩き、ひっかく。
 「っあ!」
 さとりの背筋が反り返り、私から離れる。
 私の顔の横で体重を支える彼女の手が、地面ごと私の手を握った。

 小ぶりな乳房がそれでも揺れて、持ち上がった先端の突起が、降り注ぐ光に影を落とす。
 「うあ、あ、パルスィ、あぁああ、っく、好き、ああ、好き、好き、……」
 「――う、うぁ」
 がり、と指先がことさら強く肉壁をかきむしった瞬間、さとりは唇を噛み、目を見開いて全身を硬直させた。
 「――……――ッ!?」
 息が詰まったのか、お腹がへこむのが見えた。
 先のより強い絶頂だったろうに、それでも声を無理に抑えるものだから、その表情は苦しさに歪んでいた。
 「けほっ、けほっ……」

 「さ、さとり」
 「――っく、大丈夫、です、けど」
 さとりは苦しそうな顔のまま笑った。
 「なんだか、あは、間抜けですね……パルスィが一回達するまでに、はあ……何回、私のほうが、おかしくなるんだか……」
 「……ッ、あんた、私がイくまでする気なの!?」
 「ええ、今日はもう……それまで、帰りませんから」
 「ば、ばか、さとり、あんただって、私は……!」
 「心で感じているものと、現実は違うんですよ。行き着くところまで、ぅあ……行かないと、それを実際に見てみないと、私は信じません」
 「なんだってそんなに……っ」
 「好きなひとの達する顔が見たくない女がいますか」
 「ばか! この、ああ、もう、ばかっ!」
 「ばかでなにが悪いんですか」
 「ほんとにおかしくなるわよ!?」
 「そう思うんならさっさと感じてください」

 もっと文句を言ってやろうとした瞬間、唇は塞がれていた。
 今までとは違う、そっと触れるような、穏やかで温かいキス。
 上空に真っ赤な爆発が轟いた。
 今までの弾幕よりもさらに大きく、力強く、シンプルで激しい……
 「空の核ですよ。やっと出番が回ってきたようね」
 訊いてないって。

 「優しいほうが好きですか」
 訊くなって。
 「激しくされるより?」
 だから訊かないで。
 「言ってくれなきゃわかりません」
 そりゃ、痛くされるより優しいほうが全然……
 「すみません、無理です」
 このばかやろう。へたくそ。





 ……さとりの熱に引っ張られる。
 彼女の理性のひとかけらが戻ったのは結局さっきの一瞬だけで、また、私の上で好き放題に乱れ始める。
 身投げのように切実に、自分のそういう姿を私に全て曝け出している。
 私の体中隅々まで指先を走らせ、秘所は秘所に押し付けられている。
 ついてるものがないんだからそんなことをしても意味ないというのに、骨盤を荒々しくぶつけてくる。
 「好き、パルスィ、好き……」
 舌を這わせながらそんなことを言うもんだからくすぐったくてたまらない。

 「――、! ……はあ、うぁ、ああ、ん、むぅ……!」
 声や動きが止まり、私の肌に顔を埋めるようにして、さとりは達する。
 猫のように全身を縮めて、声さえ出すのをはばかるように。
 余韻を感じる間もなく、さとりはすぐに動き始める。
 苦しいだろうに。
 もう何度イったかもわからないのに、自分を傷つけるように、ひたむきに私を求め続ける。

 ……ひときわ美しく、大きな爆発があってから、あたりは一気に静かになった。
 月のない夜。水底のような静けさ。
 さとりの体を映し出す照明がなくなり、火傷しそうなほど熱い心だけがそこに残っている。
 世界の果てにふたりだけ置き去りにされたような心細さがある。
 それさえも飲み込んで、また、私の体の上でさとりが達する。

 出会った当初はこんな風になるだなんて予測もできなかったな、と思う。
 一説によれば、情愛の持続時間は最初に示した抵抗の大きさに比例するらしい。
 全くとんだ皮肉だ。
 ――ねえ、さとり。
 そう心のなかで同意を求めると、意味を解したかどうかはともかく、さとりの体はぴくりと震えた。
 直後にキスが飛んできた。

 「……んぐ、っふ……むぅ、ちゅ、くちゃ……」
 真っ白になっていく一方で、冷静さを取り戻す私の一部が思考を回転させる。

 ――私は。
 橋の上で水の流れをずっと見つめていて、思考の底まで真っ白なままここまで過ごしてきたと思っていたけれど。
 彼女の言うように、知らず知らずのうちに、無意識下でずっと自分を罰していたのかもしれない。
 過去に所有されていたのは私のほうだったのかもしれない。
 自分を赦す?
 そう思うことそのものがひどく傲慢のように思えてならないけれど。
 赦すより刑罰に身を投じていたほうが安心してしまう今となっては、もう、自由になることこそ荊の道そのものなのかもしれない。

 さとり。
 地底で彼女と出会い、ここまで近しい関係になれたのは、恐らく私が、能力的に彼女に最も近い存在だったからだろう。
 他者の心に働きかけ、その能力のせいで自分自身まで傷つけてきた者。
 それがたまたまああいう形で接触することになり、たまたまそういう形で触れ合うことになり……
 けどそれは、ただの偶然からくるものでしかなかった。
 恐らくは相手がこいしでも、勇儀でも、猫や烏でも、さとりは同じように愛することができるだろう。私よりうまく愛されることができるだろう。
 烏の言っていたことは正しかった。さとりは可愛い。
 地霊殿という盾があっても、誰からも愛される資格のある女だ。
 私でなくてもいいのだ。
 そこに私がいなくても、それが私でなくても、さとりは充分うまくやっていける――


 ――ああでもそんなろくでもないくそ理屈なんて全く関係なく私自身やっぱりこいつのことなんだか割とそれなりにたぶん結構好きだ、


 と考えた瞬間、
 「……――っ!?」
 来た。

 「さとり!」
 「っ!」
 私は首筋に噛み付いていたさとりの頭を抱き締めて、叫ぶように声を上げた。
 「ちょ、ちょっと待って、そのまま、じっとしてて!」
 「えっ、えっ?」
 もう遥か昔に感じて以来、その感覚さえ忘れるくらいご無沙汰だった甘い痺れが下腹部から広がる。
 「う、うあっ」
 無我夢中でさとりの体に絡めた足の先までぞくぞく震える。
 「あ、あ、あ、あ――!」
 冷たいばかりだと思っていた流れの底がさとりの熱さに引きずり出されて。
 来る。
 もうそこまで来ている。
 「さ、さとり、あ、さとり……!」
 切羽詰って自分が縮んでいく感覚。

 腕のなかでさとりが私を見上げる。
 紫色の瞳に引きずり込まれる。
 好き、と。
 言えたかどうかはわからなかった。
 ただ全てを得、全てを失うような感覚が体の奥底で広がっていくなか、

 「い、イく、さとり、さとり、あ、イく、……ふぁ――ああああああっっ!!」

 なにも見えなくなった。





 4





 真っ白な朝靄がゆっくり晴れていくのを見つめていた。
 視界が開け、緑が鮮やかな自身の色を取り戻す。
 地上では夜明けさえ胸が張り裂けそうなほど美しい。
 全くもって妬ましい。

 目覚めているのは私ばかりと思っていたけれど、いつの間にかさとりも起きていた。
 私の腕のなかで縮こまって、じっと私を見上げていた。
 気まずくなってうろたえていたら首を伸ばしてキスをされた。
 昨夜から思っていたけどこいつはやたらとキスが好きだ。

 「おはようございます」
 「……おはよう」
 「早速ですけど、これからどうしましょう」
 「どうするったって服を乾かさないとどうしようもないでしょうが」
 「……か、川に落ちたって言えば……」
 「どろどろのべたべたで地底まで飛ぶわけ? 私は別にいいけど」

 私の着物も、さとりの普段着も、泥だらけだった。
 川でざっと洗い流して、ある程度は乾かしておきたい。

 「とりあえずさあ、どいてくれない? あんたが半端に脱がしたもんだから余計に気持ち悪い。全部脱いじゃいたいんだけど」
 「そうしたいのはやまやまなんですが、ものすごく腰が痛くて身動き取れません」
 「私なんか全身が痛いわ。手首なんてまだずきずきする。青痣までできてるんだけど、これ犯されたって言っても言いすぎじゃないわよね?」
 「壊す勢いで抱きました」
 「――、……っ、この淫乱……!」
 「女が淫乱でなにが悪いって言うんですか。それにこんなのはパルスィの前でだけです」

 そうなんでもないことのように言うさとりの顔はやっぱり真っ赤だった。

 どうにかこうにか這うように動いて、体を洗い流すために川に身を浸す。
 体の力を抜いて上空を見上げると、何体もの妖精が飛んでいくのが見えた。
 雲の色があまりにも白く、青空に色を奪われているように見える。
 ああ……温かい。
 それは体に感じる温度ではなかった。

 さとりは私より先に川から上がって、木漏れ日の下で自分の裸身を抱くように座っていた。
 体から流れ落ちる水滴がきらきらと光っている。
 私を一瞬だけ見上げて、すぐに目を伏せた。
 なにをいまさら恥ずかしがっているんだ。そういう仕草は卑怯だ。

 「……寒いんだけど」
 「そうですね」
 「……」
 「――」
 「……あの、さあ」
 「はい」
 「……」
 「……はやくしてください」
 だからそういう物言いは卑怯だって。

 私はさとりの後ろから彼女を抱き締めた。
 昨夜ほどじゃなくても、やっぱり彼女の体は熱いのだ。
 水の流れごと全ての怒りを蒸発させてしまうほど。

 さとりでよかった、と思う。
 なにがよかったのかなんてわからないけど、とにかくよかった。

 「好き」
 私のことばはほとんど自然に湧き上がってきた。
 さとりは俯くばかりでなにも言わない。
 ああ、もう。
 急にひどく恥ずかしくなってきたのでさとりの体に回した腕に思いっきり力を篭めた。
 「ねえ、私の声、ちゃんと聴こえた?」

 「聴こえてます」
 と、さとりは言う。
 「聴こえる前から聴こえてた」

 私の腕のなかでさとりがこちらを向いた。
 どこか遠くで、小石がからんと音を立てた。
 こいし「お姉ちゃんまじ早漏」








 ご読了お疲れ様です。ありがとうございました。


 もうほんとッ 俺得ですみませんッ でもやっぱりマイナーだろうがなんだろうがさとパル好きだああああああああ

 (12/2 追記)

 自分の書いたものが読まれる以上の喜びってそうないです。毎回毎回コメント頂くたびに挙動不審で悶絶を繰り返す俺まじキモいと思いながらも全力全開でありがとうございましたァ――ッ!!!!


 >>1様

 さとパルの可愛さは鉄板だと思うわけです。ていうかもうみんな可愛い!
 映像的な描写は極力心がけていることのひとつですが、指摘されるとほんと嬉しいです。


 >>2様

 文章力も構成力も表現力もとんでもない方々が山ほどいらっしゃるので、できる限り丁寧に書くこと以外に頼れるものが(ry
 こいしは姉のことが心配だっただけです多分きっとおそらく、ええ。


 >>3様

 キャラを好きになっていただければ書いた甲斐があるというものです、どんどん目覚めてください!
 真っ直ぐな女性は個人的に見ても書いても妄想しても楽しいです。ましてそれがさとりなら三割増し……!


 >>4様

 あ、安心されるほどのクオリティはないんじゃないかと(汗
 でも励みになるコメントには感謝しっ放しです、ありがとうございます!
 こいしは姉のことが心配だっただけです多分きっ(ry


 >>5様

 イエスジャスティス!
 さとパル好きだああああ(ry


 >>6様

 甘甘とは程遠い雰囲気ですが、ニヤニヤしていただければこちらとしても嬉しいです!
 こいしは姉のことが心配だっただけ(ry


 >>7様

 得する方がいらっしゃるというだけでほっと一息つくような思い……!
 うろたえる姐さんは絶対可愛いと思うわけです。


 >>8様

 どういうカップリングでどうキャラが活きるのか考えるだけでも楽しくなってきます。
 自分はただこの境地を全力で叫ぶだけっ
 こいしは姉のことが心(ry


 >>9様

 一人称だとどうしても片側のことしか描けないので、一回で書ききるのはどうも難しいです。
 要修行ですね。
 こいしは姉の(ry


 >>10様

 (へんじがない いきもできないほど かんしゃのあまりもんぜつしているようだ)

 こいし(ry


 >>喉飴様

 ひいっ、作者様からコメ! すみませんっ、励みになります!
 なんか俺の好きなカプはだいたいマイナーになってしまうのですが、面白く感じていただければ!
 ドマイナー上等!

 (12/14 さらに追記)


 >>12様

 コメントありがとうございますっ!
 こい(ry


 >>13様

 こ(ry
 情景と合わせられることが青姦の強みだと思います。決してエロくならないことに逆上して別方面から書こうとしたわけでは(ry


 >>14様

 (ry
 主に前作の一番のような状況を指して言ったつもりの言葉ですが、想像すれば想像するほどヤバイですね!


 >>15様

 こいしーーーーー!!!! 俺だ! もうフォローし切れねええええええ!!!!!

 さとりは誰と組み合わせても可愛いから困りますね!
 こちらこそ滾るコメントごちそうさまです!


 >>16様

 なんかもう表現したかったこと全部仰ってくれてありがとうございます!
 ただひたすらに情熱的なさとりを書きたかったので嬉しさのあまり悶えました!


 >>17様

 さと「今晩」
 パル「なっ……んッだ――ってぇ!?」


 (6/1 追記)

 >>18様
 気づいてくださってありがとうございます……っ
 こっそりとにやにやしていただければ私もにやにや(ry
夜麻産
コメント




1.名前が無い程度の能力削除
うほおお
すんばらしぃいいいいい!
超萌えたッス。夜麻産さんのさとパル、サイコーッス!

花火の演出も激しさを表してて良かった、とても映像的に感じた。
パルスィもさとりも可愛いなぁ。
2.名前が無い程度の能力削除
流石としか言いようがありません。
パルスィのトラウマを癒すさとりの描写が丁寧で、感情移入して読めました。

しかし、一言だけ。
こいし自重。
3.名前が無い程度の能力削除
やった続き来た!
さとりもパルスィもいちいち可愛いうおおおお完全に目覚めた!
真っ直ぐなさとり様とクールパルパルがツボすぎてもう…
今回も描写が丁寧で力強い。最高でした。
4.名前が無い程度の能力削除
安心の夜麻産氏クオリティ!!

称讃の言葉を書くのにこのコメント欄では狭すぎるっ・・・!
なので一言。GJ!!

あとこいし自重
5.名前が無い程度の能力削除
マイナー?いいえ、ジャスティスですかね!!

さとパル……最高っ!!!
6.名前が無い程度の能力削除
勇パルが好きなのだがここでさとパルに目覚めた。
ニヤニヤが止まらない。

最後に一言。
こいし自重。
7.名前が無い程度の能力削除
俺得すぎるwww勇パルが好きだがさとパルは大好きだwww
なんかもう色々賞賛の嵐を送りたいけど一つだけ


勇儀姐さんがむせるシーンで爆笑してしまった
8.名前が無い程度の能力削除
いいなあさとパル。
新しい境地かも。
久々に来てみたらこんなのがあったとは


そしてもう一つ
こいし自重
9.名前が無い程度の能力削除
前回でさとりの感情が描かれた分、パルスィ側のこういった事情と感情が非常に面白かったです。
つかさとパル素ん晴らしいですね

あ、そうそう
こいし自重
10.名前が無い程度の能力削除
何度も何度も読み直した。
どんな言葉を並べても陳腐にしかならんから一言だけ

こんな素敵なSSをありがとう。

あ、もひとつ。
こいし自重
11.喉飴削除
おお、続きだあ。
うん、ただ純粋に面白かったです。
マイナーばかり大好きな私にとっては、ドマイナー上等!
12.名前が無い程度の能力削除
感動をありがとう

でもこいしは自重しようか
13.名前が無い程度の能力削除
ごめん、先に言わせてくれ。
こいし自重

花火の演出と合わさって、とてもきれいで美しいネチョシーンでした。
ごちそうさまでした。
14.名前が無い程度の能力削除
こい自

アバラが浮き出て薄毛さえ生えていないさとりが地霊殿を
作るために何でもしていたという過去描写を詳しく!
15.名前が無い程度の能力削除
こ自



さとりが可愛いすぎる!
それにとても面白い内容でとっても良いさとパルでした!
ごちそうさまです!
16.名前が無い程度の能力削除
さとり様ったら情熱的ですわ!
もうすべてを駆使してパルスィ好き好き愛してるを表そうとしてて、もうまじたまりませんね!
パルパルの、誰かを好きになったり好かれたりする資格なんて自分にはない要塞を、さとり様渾身の攻撃が砕いて押し流していく様はまさに灼熱の火砕流!
心を読む能力なしで、ここまで自分をさらけ出すのは難しいでしょう! 持っているのが辛い能力も役に立ちました!
これを見たら、流石のこいしちゃんも嬉しいやら腹立たしいやら妬ましいやらで悔し紛れに「早漏!」とか言っちゃいますね!
ただ、能力を利用したデバガメは感心しません! 気持ちはわかりますが!
こいしちゃんは少々自重するべきだと思います!
17.名前が無い程度の能力削除
外面はクールを装っていてもその情念は業火の如く燃え盛る灼熱地獄!!
おお、さとりよ、パルスィよ…………挙式はいつですか?
18.名前が無い程度の能力削除
なんてこった・・・過去作を読み返してみたら新たな感動・・・!
ヤマキス、やりたかったことができたね・・・
19.性欲を持て余す程度の能力削除
氏の作品は何度も見返しておりますが、いつ見てもいいなぁ
くらやみのくもを見てからこっちを見に来ると本当に救いを感じる