※注意
萃香×幽香。珍カップにもほどがある。
ぐだぐだです。ネチョまで約60kb。ネチョもぐだぐだ。
パロディ要素を含みます。
ネチョはありませんが、マリレイ要素を含みます。
苦手な方はお気をつけて。
※注意終了
風も雲もない穏やかな午後。風見幽香は神社の石畳に降り立つと、そこから一声、巫女の名前を呼んだ。返答がなかったので、賽銭箱を素通りして、なかへと入っていく。縁側を歩きながら、もう一度呼びかけても、神社の主からの返事はこなかった。
肩に担いだ箒を苛立たしげに揺らすと、その先に括りつけてある荷物が、不満そうに身を捩った。
「霊夢!――いないの?――」
やれやれ、と幽香は肩を落とす思いだった。まったく、なんでこんな面倒くさいことしてるんだか。秋も深まり、陽気と寒気の行き来する、過ごしやすい時期である。夏の花には別れを告げて、冬までの短い期間に咲く花とともに、日がな一日のんびりしてよう、そう思っていた矢先のことである。
内心、嬉々としている自分の一部があるということも、苛立ちの原因のひとつだった。思い通りにならない自分自身というのは、ときには、最悪の敵そのものだ。
「霊夢!」
思考を振り払うように声を上げて、居間に通じる障子を開いた。はやくもその存在をアピールしている炬燵のなかに、腋を出した巫女服姿の、小さな背中が見えた。
「いるんじゃない、霊夢。まったく、こんな真昼間から眠っちゃって、風邪引いても、知らな……」
そこで、なにやら違和感に気づいて、幽香は口をつぐんだ。
はて、霊夢は金髪だっただろうか。
即頭部から、ぐねぐねと捻じ曲がった、角のようなものを生やしていただろうか。
「……穏やかな心を持ちながらも激しい空腹によって目覚めた……?」
狼狽して、ちょっと意味を為さないうわごとのようなものを呟きつつ、幽香は足の先で背中をつついた。んぁー、と情けない鳴き声を出したので、もう一度頭の辺りを弾いてみる。角には、触らなかった。変な病気でもうつったら困る。
「……なにぃ、霊夢。もう帰ってきちゃったの。魔理沙とは会えたぁ? 私の瓢箪、取り返して……」
そこで、なにやら違和感に気づいて、伊吹萃香は口をつぐんだ。
はて、霊夢の髪は緑だっただろうか。
胸にあるふたつの膨らみは、こんなにも大きくて、見上げると顔も見えないほどだっただろうか。
「……穏やかな心を持ちながらも激しい怒りによって目覚めた……?」
狼狽して、かなり意味を為さないうわごとのようなものを呟きつつ、萃香は炬燵のなかから幽香を見上げた。
「霊夢じゃないわよ、私は。なにか巫女服着てるけど、あんたは霊夢じゃないわよね?」
「私は霊夢じゃないよ。そういうあんたは霊夢じゃないの? その肩に担いでる箒に引っ掛けてあるのって、ひょっとして魔理沙じゃないのかい」
「保護者に、子供はしっかり見張っとけって、文句つけにきたんだけど」
「……」
「……」
そもそもその朝、神社に唐突にやってきて朝飯をかっ食らい、萃香の瓢箪を強奪して逃げ去っていった魔理沙が全部悪い。幽香と萃香はそういう結論に達すると、魔理沙の頭を小突いて起こし、三人一緒に炬燵に入った。
「あんたとはたぶん初めまして、かな」萃香は幽香に言う。「伊吹萃香っていうんだ。神社に居候してる」
「萃香……その名は知ってる。でも、鬼はもう、幻想郷にはいないと思ってたけど」
「まあ、色々と事情があって。私ひとりだけ、こうしてここにいるのを赦してもらってる」
「……ふうん。私は風見幽香、よろしく」
「ああ、あんたが太陽の畑の」
「ええ、その幽香よ。で、あんたはなんで巫女服なんぞ着てるのかしら」
「私の服は弾幕でぼろぼろになっちまって。寝巻でも良かったんだけど、腋が出てないと、上腕が暑くて暑くて」
「ええ、まあ、あんまり深くは突っ込まないけど。で、あんたの服をぼろぼろにしたのがこの魔理沙、っていうことでいいのかしら」
「不意打ち背面取りで至近距離からマスパ撃ちこんでくるんだもの」
幽香と萃香の、針のような目線を受けて、魔理沙は帽子のつばを引き下げて炬燵に突っ伏した。「うー……ごめん」
「別にいいけどさあ、こうして瓢箪も取り返せたしねえ」
「天狗も真っ青のスピードで低空飛行して、花を台無しにしたことは赦せない」
「ごめんよぅ」
魔理沙も魔理沙で、だいぶ落ち込み、反省しているようだった。だったら最初からするんじゃないよと、幽香と萃香は呆れるような思いだった。
「霊夢はあんたを探して、紅魔館とか、永遠亭とか、巡り巡ってる最中だろうよ。霊夢が自分で探すって言い張るから、私はこうして留守番してるけどさ、帰ってきたら謝りなよ」
「うん」
「あんたもまだ、そういう歳だから大目に見てもらえてるけど、そろそろ自重ってもんを覚えなよ。魔女だろう? 直情なのは好ましいけど、そういうことに関しちゃ人間、思慮深くならなきゃ」
「わかってるぜ」
「まあまあ、小鬼。その辺にしときなさいよ」
幽香はそう言って、聖母のような微笑を魔理沙に顔を向けた。
「魔理沙。あんたもなにか、理由があったのでしょう? それなりに長い付き合いだもの、あんたは実際、傍目に見える以上のことを考えてるって、わかってる。それは隠さなければならないようなもの? もしそうでなければ、ここで聴いてあげてもいいわよ」
魔理沙は救われたような目で幽香を見た。「幽香……!」
「下らない理由だったら、あんたのケツに日傘をぶち込むからね。そうして日傘に日傘の仕事をさせるから。で、私は花畑に帰って、今日の素晴らしい思い出をもとに新しいスペルカードをつくる。名前はそうね、汚ぇ花火『魔理沙スパーク』」
魔理沙はその表情のまま顔を青くした。「幽香……」
萃香は杯に酒を注いで、魔理沙の前に置いた。魔理沙はそれをいっぺんに飲み干した。「まずいんだぜ」
霊夢は帰ってくる様子もない。外はもう陽が傾き、茜色の、一日の最後の強い光が広がっている。濃く、長い影が居間に落ち、其処彼処の明暗をはっきりと分割している。霊夢はどこまでいったのかしらね、と幽香は思う。行き違いになったのだろうか。魔理沙を探して、幻想郷の果てまで飛んでいったのかもしれない。
うー、と唸って、魔理沙はまた、炬燵に頭突きをかますようにして突っ伏した。言いにくそうにしたため、萃香は度の強い焼酎をストレートで飲ませたのだが、逆効果になったかもしれない。魔理沙はもう、耳の先まで真っ赤だった。
「あんまり、さあ。ひとに相談できることでもないんだけど」
魔理沙がもう八度目になる台詞を吐くと、幽香と萃香は溜息をついた。
「なんでもいいからとっとと言いなさいよ。私だって、暇じゃないの」
「私らひとじゃないしねえ。妖怪だしねえ」
「だっておかしいんだよぉおお。違うんだ、絶対誤解されるんだぁああ」
魔理沙は頭を抱えて、額で地面を掘るように、炬燵のうえでぐりぐりと首を回す。
萃香は幽香を見る。さて、どうしようか風見の。このままじゃ夜が明けるまでまで堂々巡りだけど。
幽香は萃香を見る。そうねぇ、ここはせいぜい優しく、消極的に攻めましょうか。口のなかに日傘をぶち込んで、スペルカードのひとつも出して、ちょっとばかし凄んでやれば大人しくなるんじゃないかしら。
「あはは。おいおい風見の、そんな怖い顔をしたら聴くものも聴けなくなっちゃうじゃないか」
「あらやだ、いま私、そんな顔してる?」
「ただのアイコンタクトがやたらとディープな意思疎通になっちまったよ」
「きっととっても波長が合うのね、私たち。やあねえ、気持ち悪いわ」
魔理沙が決心したように顔を上げる。「なあ、幽香、萃香」
「なに」
「なにさ」
「あのさあ、私の話聴いてさぁ、笑ったりしない?」
「私は酔ってるときは大抵笑ってるけど、よしきた、ちょっと待ってな、すぐ真面目顔つくるから」
「引いたりしない?」
「この私に撤退の二文字は存在しないわ。敵に背を見せ退くくらいなら、たとえ敗北することになっても戦い抜くことを選ぶ」
「よし、どうだ。どこから見ても真剣そのものの表情だろう、今の私は」
「小鬼。そこの箪笥の救急箱にマスクがあるから。都合のいいことにサングラスもあるわ」
「いや、これは違うんだ、リハーサルってやつだ。あと一分だけ待っとくれ」
「そう、違うんだ。これはなにかの間違いなんだ。ちょっと、その……ついうっかり」
「驚いたわ、小鬼。今のあんたは丸っきり不審者の顔をしている。道端で会ったら思わず低速移動してしまうほどに」
「やっぱり小物になんぞ頼らんで、自分の顔の筋肉を信じることにするよ。でも参ったな。ここ百年そんな顔をしたことがないから、いまいちうまくいかない」
「昔を思い出してみたら? 桃太郎とか一寸法師とか、そういう連中を相手に戦っていたときのことを」
「そいつは別口の鬼だよ。よっしゃ……『自由とは、かくも得がたきものであることよな』」
「おおー、男前―」
「私、霊夢のこと好きになっちまったのかもしれない……」
「なんだって? いや私女だって。男前ってなにさ男前って」
「それくらいの顔立ちなら、人間の子供だったら男の子でも通るわよ。っていうか巫女服じゃなかったらわからないわよね。胸ないし」
「くっそ、自分がメロンみたいなおっぱいしてるからって」
「いや聴けよおまえら!」
「ふふん。え、なにちょっと待って、魔理沙いまなんか言った?」
魔理沙はすでに涙目だった。
「わ、私」
「うわッ、ちょっとタンマ、ストップ! ごめんって! 聴いてた、聴いてた! えっと、なんだ、霊夢が……え、なに、好き? 好きって?」
「なに? 好きってそりゃ、いいことじゃない。どう見ても嫌いな風には見えなかったわよ、昔っから。幼馴染なんでしょ? いい関係じゃない」
「違うんだよぉー。幽香にはどうせわかんないよぉおお」
「え、え? なんで泣くの? いい友人関係じゃない、誰も文句つけやしないわよ」
「ちょ、風見のちょっと黙ってて! 魔理沙! それってあれか、そういう意味で?」
「ちっくしょう、そうだよ! 悪いか! 悪いよなあ、ちくしょう!」
「うん、うん、わかるわかる! わかるからほら、魔理沙、泣き止め! 聴いてやるから!」
「萃香ぁー! もうおまえだけが頼りだぁー」
「どういうことなの……」
萃香が入れたほうじ茶を飲んで、魔理沙はようやく静かになった。もう、外は真っ暗だった。帰るとき変な妖怪にあったら面倒くさいなあ、いざとなれば神社に泊まればいいかなあ、と幽香は思いながら、いまだに顔を真っ赤にして、涙目で俯いている魔理沙を見やる。そうしていると、男言葉を使うようになってはいても、根っこのところでは昔の魔理沙となんら変わりないのだと、少し安心するような思いがあった。
人間というやつは、自分たちと違ってすぐに変わってしまう。
「いや、だってほら、おかしいだろ? 霊夢なんだぜ? こう……わかるだろ? 友達だし、女だし。だからこれ、なんか勘違いしてんだよ、私の頭がさあ。ちょっとした拍子に、どっかの回線がこんがらがってさ、別の場所にいくはずだった電気がそっち行っちゃったと思うんだよ。でも霊夢だって悪いよなあ。腋出すようになってから急に色気づきやがってさあ、最近ちょっと胸大きくなった、とか言うんだぜ? ちょっとしたときにサラシ見えるしさ、そのまま妖怪退治行っちゃうしさ、おまえなに考えてんだって言いたい、マジで。しかもあいつ袴じゃなくてスカートなんだぜ? いまさらだけどさあ、もうどこが巫女服なのかわかんないんだぜ! それっぽいの袖だけじゃん! 飛ぶと見えるじゃん、ドロワーズとかそういう問題じゃないじゃん、私と違って箒に乗ってるわけじゃないのに、全然下のほう気にしてないし! あ、あいつさ、逆に見せたがってんじゃないかって思えるくらい無防備でさ、くそっ、そう考えるともうなんか夜も眠れなくなって! 限界まで引っ張ってやっと寝れたと思ったらあいつの顔が! 顔が! 顔が! 浮かんできて胸がきゅーってくそっもうなんだなんか意味わかんない! 朝も昼も夜も霊夢霊夢霊夢で最近逆にあれ? これなんか幸せ」
「うるさい黙れ」
幽香は魔理沙の後頭部に平手を放った。物騒な音を立て、魔理沙の頭が炬燵を割って食い込んだ。萃香は傾いた炬燵の上から湯呑みを持ち上げ、零れそうになる中身を守った。
魔理沙はタフだった。伊達に思春期をルナティックな妖怪たちと過ごしてはいない。ぱっくり割れた額から血を流していたが、まるで気にしてないかのように頭を持ち上げて、幽香と萃香を交互に見やった。
「なあ、私どうしたらいいと思う?」
「とりあえず縫ったほうがいいね。風見の、ちょっと救急箱取ってくれ」
「ごめんなさい、つい……ものすごくうざくって」
「霊夢もうざいと思ってるかなあ、私のこと。思ってるだろうなあ。今朝も、あいつの顔見たらなんか頭がかーってなって、よくわかんなくなっちまった。追いかけてきてくれたら嬉しいだろうなあ、って思ってさ、ぱぱっと盗って逃げちゃったんだけど、ちょっと異変を起こす妖怪の気持ちがわかったような気がした」
「うわッ、これよく見たらパスウェイジョンニードルじゃん物騒だなあ。これで傷口縫えるのかなあ」
「小鬼、あんた手が震えてんじゃない。飲みすぎよ。私がやるからちょっと貸しなさい」
「大丈夫? できる?」
「魔理沙ちょっと頭をそんな変な風に動かさないで」
「いだッ。だからさあ、なんかちょっと安心した、いだッ、ここに霊夢がいなくてさ。私を追っかけてきてくれたってことだろ? 別に、そんな深い意味はないんだろうけど、いだだだだだっだだっだ、あいつのことだから。でも、なんかそうだってわかってはいるんだけど、全然相手にされなかったらどうしようかって心配は、ずっと……あだだだだ無理無理、それ太いよ大きすぎるよ絶対入らない、くそっ、嬉しかったんだよ! なんでこんなこと思うんだよ私! 明らかにおかしいだろっ、相手は霊夢だぞ!」
魔理沙の絶叫が神社に響き渡った。それはまさに嘘偽りない魂の叫びだった。萃香は心を打たれるような思いだった。いいなあ、初恋かぁ、私にもそんな時期があったんだなあ。幽香もまた、感慨深げに溜息をついた。もう少し手先が器用なほうだと思ってたんだけど。今度アリスのところにでも教わりに行こうかしらね。
「魔理沙」萃香は魔理沙の肩を優しく叩く。「おかしくなんかないさ。このうえなく正常だよ、あんたは。ひとがひとを好きになるのに理由なんかない。道徳なんてのは単なる後付けの知恵でしかないんだよ。相手がたまたま霊夢だった、それでいいじゃないか」
「萃香……!」
「なあ、あんたもそう思うだろう? 風見の!」
「ぅえっ? あっ、正直ものすごく変だと思う」
「うぁあああああああ」
「四天王奥義『三歩壊廃』ッッッッッ!」
「ごめんなさい急に振られたからつい本音が出た――」
萃香が一歩目を踏み出すと同時に、幽香は反射的に魔理沙の箒を手に取り、弧を描くように振り抜いていた。双方の渾身、神速の一撃が魔理沙の頭上で炸裂する。魔理沙は頭を抱えて突っ伏していたため、瞬間的に多大なグレイズを稼ぐだけで済んだ。耳を覆っていなければ、鼓膜が破れていただろう。幽香と萃香はそれぞれ正反対の方向に吹っ飛んだ。箒は真っ二つになった。
幽香は障子を突き破り、縁側に転がった。「ふっ、やるじゃない、小鬼!」ここ数年で感じたことのない高揚が一瞬にして頭を焼き焦がす。「得物をふたつに割ったからっていい気にならないことね! この風見幽香、二刀流に関してはどこぞの半霊よりも遥かに上だと自負、して……」
立ち上がったところで幽香は停止した。自分が突き破った障子のすぐ横、紅白の巫女服が蒼白い月明かりを浴びて、亡霊のように突っ立っている。おかしいわね、あの小鬼は反対方向に吹っ飛ばしたはずだけれど。それにしてもこの一瞬で少し背が伸びたように思えるわ、成長期かしら。髪も黒くなったし、角もなくなって……
「……霊夢?」
博麗霊夢は気まずそうに俯いている。
「えーっと、いつからいて……というより、どこから聴いてたのか……」
霊夢は唇を震わせるだけでなにも言わない。
幽香は色々と察して、首を捻じって夜空を見上げた。馬鹿馬鹿しくなるい多くの星が、能天気にきらきらと輝いている。
「中秋の名月」幽香は呟く。「ふふ。こんなにも綺麗な夜だから……今日のところは帰ろうかしら。小鬼!」
幽香の真横で霧が萃まる。「あいよ、ここにいるよー」
幽香はふたつに割られた箒を掲げる。「さあ、乗りなさい。今の私は幻想郷最速の魂が憑いている。光速だって越えて見せる、あの月に向かって」
「いや普通に帰ろうよ。すごく間抜けだから、今の私ら」
「……そうね」
幽香は箒を投げ捨てる。
「んじゃ、霊夢、私は今夜はちょっと別の場所で寝ることにするよ。おやすみ。魔理沙によろしく言っといてくれ」
「おやすみなさい、霊夢。せいぜい良い夢を」
幽香は石段を歩いて降りていく。巫女姿のままの萃香も、幽香の後を追って、二段飛ばしで跳ぶように駆けてくる。幽香はちらと眼をやり、ついてくる小鬼を見上げたが、特になにも言うことはなかった。
「魔理沙が、ねえ」
独り言のように、幽香は呟いた。
「仲がいいんだか、悪いんだか、よくわからない関係だったけどねえ。でもまあ、そんなものかもしれないわね。霊夢も霊夢で、本当にいやな相手だったら近寄らせもしないだろうし」
「霊夢は誰に対しても平等だよ。そうじゃない?」と、萃香は言う。
「差別はしないだろうけど、区別はするでしょうが。実際に私と、魔理沙やアリスなんかへの対応だと、全然違うもの。私なんかは単に受け容れられてるだけ。友人関係ってわけじゃないし」
「そういうもんかね」
「まあどうでもいいけど」幽香はそこで唇に手をやり、喉を鳴らすようにして笑った。「ふふ……あのふたりが、ねえ。随分とまあ、愉快な話になって! 魔理沙のやつ、今晩にでも攻め込んじゃうかしら。だいぶ酔っ払ってたけど、最後のほう」
萃香は耳の後ろのあたりを、指でかきながら答える。「ああ、まあ……色々大変そうだけどねえ。幻想郷の巫女を相手取ろうってんだから」
「ただでさえ霊夢自身、一筋縄じゃいかないのに、立場が、ねえ」
「まあ障害があるほうが燃えるっていうし」
「禁断の……とか、好きなほう?」
「大好きだね」
「私はいやね。魔理沙も、普通に普通の人里の人間に恋すりゃ良かったのに。大抵の男ならなにもしないでも落ちてくでしょう、彼女だったら」
「まあそりゃイージーモードにも程があるっていうか」
石段の一番下に辿り着くと、そこで、会話が途切れる。幽香はそこで、神社に日傘を忘れてきたことに気がついた。飛べばすぐ戻れるとはいえ、いまさら取りに行くのも間抜けだし、面倒くさい。霊夢と魔理沙の間に入って、気まずくなるのもつまらない。
今度また、取りに来ればいいかと思う。そういう口実ができて、ちょっと嬉しく思う自分がいるのも、苛立ってくるけれど。
ざあざあと、樹木の葉が風に揺れて、擦れる音が響いている。降り注ぐ月明かりは真っ昼間のように明るく、足元まではっきり見える。冬の匂いがかすかに混じる、どこまでも澄んだ空気が満ちて、幽香はわけもなく落ち着くような思いがした。
「あんたの名前は知ってた」
萃香が言う。
「太陽の畑の、人間に対して友好度最悪の物騒な妖怪って?」
「変り種のなかでもとっておきの希少種、ってことでね。自称最強なんだって?」
「自称は余計よ」
「紫みたいな、存在そのものがインチキな連中がごろごろ転がってるなかで、よくもまあそんなことが言えるもんだねえ。どこぞの吸血鬼みたいにたくさんの従者を抱えてるわけでも、天狗みたいな社会のなかにいるわけでもないのに」
幽香は、ここにはない日傘をくるくると回すような仕草をしてみせた。「なにが言いたいのかしら、小鬼」
「おいおい、そんな目で私を見ないどくれよ。別に悪い意味で言ったんじゃない。ちょっとね、話してみたいな、って思ってたんだ。魔界に攻め込んだこともあるんだろう? 滑らない話を、たくさん持ってそうな妖怪だなって思ってさ」
幽香は素直に驚いた。「……そういうこと、正面から言われたのって初めて。大抵の人妖は私の前に来ると冷え性持ちの鼠みたいになるんだけど。怖がらないのって霊夢や魔理沙や、そういう頭の底まで弾幕で凝り固まってる女くらいなものよ」
「まあ私もたぶん、彼女たちとあんまり変わらないからだろうね」萃香はくすくすと笑った。「今日はもう遅いから、またいつか時間をつくって、のんびり話そうや。しばらく神社に居候する気だから。宴会には必ず出るつもりだし」
「まあ、いつか、ね」
ひどく投げやりに、幽香は言った。そうして萃香に背を向けて、ふわりと夜空に飛び立った。
季節が過ぎて、なんとなく勿体なく感じて溜めておいた口実を、使ってしまうことにした。幽香は太陽の畑から飛び立つと、真っ直ぐに神社を目指した。いまさら日傘を取りに行くのも間抜けこの上ない話だが、まあ、構うまい、と幽香は思う。妖怪の思考は人間のそれとはかけ離れているものなのだ。
小鬼と交わした当てにならない口約束も、気になってはいる。なんだか意地を張ってしまって、結局あの日以来、幽香が宴会に出る機会はなかったわけだが……
神社に到着すると、建物がなにやら、新しくなっているような印象を受けた。ちょっと首を傾げる。賽銭箱に五円玉を放り込んで、霊夢を呼ぶと、すぐに縁側から返事が来た。
「珍しい顔ね」霊夢は幽香を見るなり言った。
簡単な挨拶や、適当な近況報告を二、三交わして、幽香はすぐに本題に入った。
「この前来たとき、日傘を忘れてしまってね。覚えてる? 秋の、月の綺麗な夜なんだけど」
「障子を突き破って台無しにした」
幽香はひょいと頭を傾げて、霊夢のじと目を回避した。「なんとなく、思い立ってね。こうして取りに来たわけだけど。あがっていいかしら」
「日傘ならないわよ」
「え?」
「この前、神社が潰れちゃってね。そのときのごちゃごちゃに巻き込まれて、色んなものが行方不明。お気に入りの湯呑みとか、予備のお払い棒とか、なんか細々したものが。そのときにあんたの日傘もどっかいった」
「……なに、異変の話?」
「あんたもねえ、花畑に篭もってないで少しは外に出なさいよ。紫とか萃香とか文とか、そういう連中はもううざったいくらいに手を出してくるのに。そういうときとか、あんたもちょっとくらい手伝ってくれてもいいんじゃない?」
「冗談」
幽香はそこで、ふっと出てきた名前に気が向いた。
「萃香だけど、今、いる?」
霊夢は怪訝そうな眼で幽香を見上げる。
「……なに、その顔は」
「いや、あんたの口から萃香の名前が出ると、変な気がするなあ、って。友達なの?」
「この前来たときに少し話しただけよ。居候してんじゃないの?」
「今うちにいる居候は」霊夢は湯呑みを置いて、足元に手を伸ばした。「こいつだけよ」
尾の二つある黒猫が、霊夢に首の後ろを掴まれて持ち上げられ、にゃあと一声、不満げに鳴いた。
「……萃香って『猫に化ける程度の能力』持ち?」
「紛れもない別人よ。あいつは天界にでもいるんじゃない」
幽香は空を見上げた。眩しいくらい真っ白な雲が、いくつか千切れて、青空のなかを漂っていた。「天……界?」
それはまた厄介な場所に行ってしまったものだ、と幽香は思った。
「色即是空、空即是色、まったく世の中、うまくいかないものね。南無阿弥陀仏、アーメン」
「いや死んだわけじゃないから」
「わかってるけど」
溜息をつく。別に口約束のことをそれほど重要視していたわけではないが、そんなに遠くに行ってしまったのなら、簡単に戻ってくるというわけにもいかないだろう。
一度会って話したきりの、知り合いと呼べるかさえ疑わしい萃香のことを思って、そういう感傷に浸る自分がおかしくも思えたが、そもそもあのような下らない掛け合いをする相手など今までいないに等しかったので、変な感じで印象に残ってしまったのかもしれなかった。
神社くんだりまでやってきて、目的のひとつも達成していないことに、ようやく気づいた。なんだかむかついてくる。おっと、そういえばもうひとつ聴けそうなことがあった、と幽香は気がつく。
「魔理沙とは仲良くしてる?」
霊夢が黒猫を落とした。黒猫がもう一度、不満げににゃあと鳴いた。
「それは、その……どういう意味で?」
「意味? そんなの言葉通りでしかないけど。なにを言ってるのかしら、霊夢」
「えっ? ああ、別に変わりないわよ。昔と同じ。いつも通り」
「進展はなかったの?」
「しんてんっ」
「一緒に寝たりとかしてないの」
「ねっ」
「昔はあんたたち、妖怪退治でぼろぼろになったあと、同じ布団に丸まって眠ってたじゃない。夜中に毛布を蹴り飛ばしちゃうもんだから、魅魔がやれやれっていちいちかけ直してやってたけど、覚えてない?」
「あ、そういう……今はもうそんなこともないわよ。魔理沙のやつは客用の布団よ。最近は泊まることも少なくなったし」霊夢は湯呑みを手にした。
「そう。じゃあセックスもなしか」
霊夢がお茶を噴き出した。
「ていうかぶっちゃけどこまでいったの」
「何処!?」
「……見て見ぬ振りをしたってわけ。まあ気持ちはわからなくもないけど。そうよねえ、変に恋愛感情持つよりは友人のままのほうがなにかと楽よね。あんたのほうは実際どうなの。魔理沙のほうはわりと本気っぽかったけど」
顔を真っ赤にする霊夢の足元で、黒猫がやたらとにやにやしているのが見えたが、幽香はなんだか面倒くさくなってきた。彼女としては、そういう反応を引き出せたというだけで満足してしまった。
「別に、清く正しい巫女様の性癖なんてどうでもいいし」
硬直する霊夢に背を向けて、手をひらひらと振ってみせる。
「じゃ、今日は帰るわ。今度の宴会には出させてもらおうかしらね、久し振りに」
「お姉さんお姉さん」
階段を下まで降りると、上から声をかけられる。見上げると、階段を蹴り、鞠のように飛んできた赤毛の少女が――先程の黒猫だろう――が、にやにやしながら親指を立てていた。
「ぐっじょぶ」
親指を立てられた。
少女は、燐、と名乗った。つい先日に起こったばかりの異変と、その際の霊夢と魔理沙のこと、博麗神社に住み着くようになった訳と、幽香が訊き出すまでもなくぺらぺらとよく喋った。
霊夢と魔理沙、ふたりまとめて行けばいいものを、別々に異変解決に向かったところを見ると、ふたりの間には微妙な距離感があるらしい。
霊夢の手助けをしていたらしい、萃香のことは、燐はあまり知らないようだった。代わりに、星熊勇儀という、萃香の友人のほうを話してくれた。
「……鬼が、ひとりじゃなくなるのね」幽香は言葉を落とすように呟いた。
「んー?」
「地底の連中は、受け容れられそうなの?」
「うん、最初は結構びびってたけど、いっぺん神社で宴会が開かれてね。打ち上げパーティってやつ。穏やかなもんさ。みんな、最後のほうにはべろんべろんで、地上も地底も似たようなもんだった。地上も変わったものね、ってさとり様が言ってたし、星熊の姐さんも機嫌よかったし。大丈夫なんじゃないかな」
「そう」
燐はさっと幽香の前に回りこむと、手を後ろに組んだまま上半身を傾けて、幽香を下から見上げるような体勢をつくった。
「お姉さんのことを聴きたいな」
幽香は溜息をついた。「好奇心は猫をも殺す」
「なんの妖怪なの? どんな?」
「……花」
「へえ。異変起こしたことある? ちっちゃくてもおっきくてもいいんだけど、その……巫女が慌てて飛んでくるような、って意味で」
「ないわ。巻き込まれたことはあるけれど」
「そっか」燐はえへへと、屈託なく笑った。「あたいはまあ、別に起こしたくて起こしたんじゃないんだけど。ちょっと友達があれなことになったから仕方なくやっただけで」ぴょんと飛び退いて、まるで対峙するかのように、幽香と向き合う。「でも嬉しかったんだ。巫女とか、魔法使いとか、地上の連中がこっちのことを見てくれて。こういう結果になってさ。誰にも、なんにも見向きもされなかったらどうしようって、ずっとそういうこと考えてたから」
幽香は面倒くさく思いながらも、その台詞をどこかで聴いたことがあるような気がして、少し頭を巡らせた。答えはすぐに出た。魔理沙が確か、似たようなことを言っていたっけ。
「今でもちょっと、その嬉しさが続いてるんだ。思いっきり身体を動かしたくなるくらい。スペルカードルールっていいもんだよね。こういうとき、すっごくそう思う」
「……で?」
「お姉さん」ふわふわと舞い上がりながら、燐は言う。「一緒に踊ってくれない?」
幽香は前髪をかきあげる。弾幕が一般的になるにつれて、ばかも増えた、と思う。目の前の黒猫は、そんなに頭の悪そうな妖怪ではない。こちらの力の片鱗も、きちんと感じ取っているだろう。その上でなお、馴れ馴れしく絡んでくる。挑発するような真似をする。
以前は、こんなことはなかった。妖怪はそれぞれ、自分の力の格を把握して、それを越えるような真似はしなかった。あえて目につくような異変を起こす。自分より強い者に挑戦する。そういうことをする妖怪はみな、押し潰されて死んでいった。
そういう不毛な連鎖のなかで、それでもそうしたことを止められず、傷つきながらも我を通しきった者は、幽香のように大妖と呼ばれて怖れられることとなった。
「別に」と幽香は言う。「いいんだけれど、ね。言っとくけど私にノーマルモードはないからね。そのつもりで来なさい」
燐は笑った。「――呪精『ゾンビ……』」
「やめなさい、燐」
ぱっと、集いかけていた力が霧散した。幽香が、声のしたほうに振り向くと、木漏れ日のつくる淡い光のなかに、紫色の髪をした背の低い女が立っていた。
「さとり様!」
燐は驚いたような声を上げて、弾かれたように女のところまで飛んだ。勢いあまって、止まれずに抱きついて、ぐるんと体が一回転した。
とん、とんとたたらを踏んで、燐の足が地面につくと、さとりははあ、と溜息をついた。
「さとり様――」
「どうしてこんなところまで、ですか。あなたの様子を見に来たのですよ。巫女に悪戯してないかどうか……あなたがいないと、空も退屈そうですし、頃合を見て帰ってきてもいいのではないかと思って。そうしたらなんですか。異変の最中じゃあるまいし、初対面の相手に弾幕勝負を挑むなんて」
「あう」
「はしゃぎたいのはわかりますが、相手は選びなさい……選んでそうなった? 余計にだめじゃないですか」
腰に手を当て、まったくもう、と咎めるような視線を送ると、燐はすっかり大人しくなった。
幽香は肩透かしを喰らったような思いで、手のひらに集めていた霊弾を上空に放った。中途半端に力を篭めていた光の珠は、ぱらぱらと力なく広がって、やがて消えた。
「はじめまして、風見幽香さん。地霊殿の主、古明地さとりと申します。まずは燐の非礼をお詫びします。申し訳ございません」
「……」
「ええ、あなたの思ってらっしゃる通り、私は覚り妖怪です。地底に逃げ延びた者たちのなかでも、とっておきの嫌われ者です。もし不快に思われるのであれば、私はこのまま去りますが……大丈夫そうですね」
「……」
「と言っても、今日は神社に挨拶に来ただけですので、特になにも持ち合わせもございませんが。どこかで宴会でも開かれれば、そのときに改めてお話いたしましょう。ああ、あまりそういうものには出席なさらないようですね、残念です。まあお互い先の長い身、どこかでお会いすることもあるでしょう。そのときはよろしくお願いいたします」
「……」
「さ、燐。行きましょうか。それでは風見さん、私たちはこれで失礼します」
「はい、さとり様。それじゃお姉さん、また今度あたいと遊んでね」
さとりは幽香に背を向け、そこで思い出したように声を上げた。「あ……もうひとつ」
「……?」
「風見さん。あなたの抱いている不快感は、恐らく、一度ご自分で異変を起こしてみればすっきり晴れると思いますよ。おおむね我々と変わらない、同じ根にある想いですから、そういうものは」
「え?」
幽香は突拍子もない声を上げた。
「……自覚はないようですね。無意識というほど深いところにあるものでもないので、なんとなくわかってるかと思ったのですが」さとりはそこで頭を深々と下げた。「では」
地面を一度蹴って、さとりと燐は空へと昇る。幽香は呆気に取られてふたりを見つめ、首を傾げた。
なにを言われたのか、いまいち良くわからなかった。
太陽の畑のなかにある、自分の庵に帰ると、入り口の扉にもたれかかって瓢箪に口をつけている、伊吹萃香を見つけた。幽香を認めると、萃香はにへらと笑って、瓢箪を掲げて振って見せた。もうだいぶ酔っているらしく、顔は真っ赤だった。幽香は少し、本気で驚いた。
「久し振り、風見の」
「あんたは天界にいるって聴いたけど」
「うん、しばらくいるつもりだったけどさ、あんたと約束してたのを思い出して、慌てて降りてきたんだよ。歳を取るとだめだね。色んなことを忘れっぽくなっちまう」
「そんななりで歳を取ったとか言わないで。なんだか悪夢を見てるみたいに思える」
幽香は、自分の唇が意思に反して曲がってしまうのを見られたくなかったので、萃香の横を通り過ぎて庵の扉を開こうとした。が、そこで萃香の手が横から伸びて、手首を掴まれた。
「ちょっと待った。どうせ飲むんだったら、外で飲もうや。こんな綺麗な花畑があるんだからさ。丁度月も出てきたし、家のなかより明るいよ」
「私は飲むとは言ってない」
「つれないね。約束しただろ?」
「……ああ」幽香は萃香の手をやんわりと払い、記憶のなかを探る振りをした。かなり鮮明に覚えているということを、素直に言う気もなかった。「そんなこともあったかしらね。でも時間をつくってゆっくり話すと言っただけで、飲むなんて一言も言ってない」
「あ……あれ? そうだっけか。記憶力がいいんだね、私はちょっと、いろんなもんとごっちゃになってた」
幽香は長く息を吐き、胸の下で腕を組んだ。「よすぎるのも考え物だけど」
「まあ飲みたくないんだったらそれでもいいよ。私は勝手にやってるから。でも話すにしてもさ、家のなかより外のほうがよくない?」
「ちょっと待ってなさい」
幽香はそう言って、庵のなかに入っていった。
五分ほど経って出てきた幽香の手には、テキーラの瓶が二本ずつ、指の間に口のあたりをはさまれて、ぶらさがっていた。萃香はそれを見ると、ひゅうと口笛を吹いて身体を震わすようにして笑った。
「やる気まんまんってわけだ。いいねえ、豪勢だねえ」
「私と飲み合って、あとで気分悪くなっても知らないわよ。言っとくけど私、そりゃもうとんでもなく滅茶苦茶に強いから。あんたは? 持ち合わせはその瓢箪だけ?」
「いやぁ、天界にゃいい酒がなくってね。夜雀の屋台にでも誘おうかって思ってたんだけど」
「外ってそういう意味?」幽香は鼻で笑った。「私なんかがいったら、夜雀だって裸足になって逃げ出すわよ。でもそうして、空になった屋台で好き放題食い散らかすのもいいかもしれないわね」
「いんや、あの夜雀は結構ガッツがあるよ。紫やら吸血鬼やら亡霊やらと続け様にやりあって、小骨になってもまだ懲りず、閻魔様に説教くらいに無縁塚まで飛んでったらしいし」
「ああ、私もそのとき、いっぺんぶちのめしてあげたっけ」
萃香は幽香の左手にあるふたつの瓶を受け取った。「まあ、とりあえずはこいつで乾杯しよっか」
「乾杯」
「あいよ」
かつんと、四つの瓶の底が音を立てた。
ふたりが出会ったときのように、雲も風もない、半月の柔い光と鈴のような虫の声があるだけの、静かで澄んだ夜だった。花畑に刻まれた土道を歩きながら、ふたりはテキーラを直接瓶からがぶ飲みする。穏やかな空気にそぐわない、風情もなにもあったものじゃないちぐはぐさが、幽香には心地よく感じられた。調和とか秩序とか、そんなもの自分には似合わない。
特に会話もなく、あっという間に、一本目の瓶を全部飲み干してしまった。つまみもなく、一升丸ごと胃のなかに入ったことになる。空きっ腹にそういうことをしたため、さすがに視界がぐらぐらしたが、幽香にとっては心地のいい酔い、程度の認識にすぎなかった。むしろ腹のなかの水っぽさのほうが気になるくらいだ。
「ねえ、小鬼」幽香は、隣を千鳥足で歩く萃香を見下ろして言う。「この前の異変。地底で、旧友と会えたんだって?」
萃香はぽかんと幽香を見上げた。
「地霊殿とやらの猫と会ってね、今日。博麗神社で」
「ああ……」
「今、どんな気分?」
「なんだい、その質問。そりゃまあ、懐かしいし嬉しいし……ちょっと気まずいってのもないこともないね。霊夢は殴り込みに行ったようなもんだったし」
「天界に行ったのってそのせいだったりすんじゃないの? 神社で宴会が開かれたら、どうしても顔を合わすことになるでしょ」
「いや、そういうんじゃないけど」萃香は困ったように頬をかいた。「そういう話って今、必要?」
「私の話を聴きたいとかいってたでしょうが。だったらまず、自分の話から始めなさいよ」
「私の?」
萃香はううんと考え込むように唸って、
「滑らない話、滑らない話……」
と、うわごとのように呟いた。
「内輪ネタになっちゃうなあ、大抵のことは。自分のこと話すのって、あんまり得意じゃないし」
「私もよ」
「……それじゃあ会話が終わっちゃうなあ」
花畑の端にある、樹齢百年近い大きな桜の木の下。幽香はステップを踏むような足取りでそこまで歩み、くるりと半回転して、背中を木に預けた。ずるずると座り込んで、ちょいちょいと指を動かして萃香を招く。手をひらひらさせて、自分の前に座れと、萃香に示してみせた。
「せっかくこういう機会を持てたんだし、なんか話したいね」
「共通の話題というと、弾幕とか?」
「色気のない話だなあ」
「ああ、だったら霊夢と魔理沙のことでいいんじゃない? あんたは付き合い短いだろうから、そんなに面白くないかもしれないけど」
「あ、いいねそれ。つまらないなんてことあるのかい」
「今日博麗神社行ってきたって言ったじゃない。そのときね、この前のこと突っ込んでみたんだけど……」
「霊夢って意外と反応面白いでしょ」
「居候してる間、あんたもそうしてからかってたの?」
「無理に突っつくと針とか札とか飛んでくるからさぁ、あんまり踏み込めないんだけど」
「そういう反応自体、答えみたいなものよ。結構普通にくっついちゃいそうじゃない、あのふたり」
「……他人のこういう話ってさあ、やっぱ無駄に楽しいよねえ」
「本人たちがいないからなんだって言い放題」
「本人はいっぱいいっぱいだろうけどね」
「……魔理沙にはちょっと、頑張ってほしいかな」幽香は昔を思い出して言った。「結構しょぼい魔法使いだった頃から知ってるからね、歳の離れた妹みたいなものよ。私の技を盗んでから、だいぶマシにはなったみたいだけど、やっぱりまだどこまでいっても少女よねえ」
「やだなあ。こういう話してると、私ら近所のババアみたいじゃない?」
「あはは。ほんと、そうよねえ」
一通り、霊夢と魔理沙のことを話し終わると、ぽっかり開いた空洞のような、気まずい沈黙がやってきた。
幽香はその静寂を心地悪く思う。残った一瓶のテキーラを少しずつ開けながら、萃香がなにかを話せばいいと思う。打ち解けたつもりはないが、別になんだっていい、下らないことでも、つまらないことでも。
例えば今の今まで話題にしていたふたりのように、近しすぎて腐ってるような関係であれば、こういった沈黙も心地よく感じられるのだろうか、と思ったりもする。
そういう友人がいないことが、淋しいといえば淋しかったが、幽香の思考はそれを明確な言葉にするのを拒否した。
「……ねえ、小鬼」
萃香が一向に喋る気配がないので、幽香は自分のほうから話すことにした。
「私ってさあ、なんかこう……不快感を覚えてるような表情してる?」
「あん?」
「覚り妖怪にそう言われたのよ。異変を起こせばすっきりするって」
「なにそれ」
「わかんないから聴いてんの」
「いや……別にそういう……怖い顔してんな、とは思うけど」
「……」
「ごめん、いやほんとごめん、謝るから無言でラストスペルクラスの溜めをしないでくれ」幽香が力を抜くのを見て、萃香は溜息をつく。「古明地さとりにそう言われたのかい。そりゃ気になるのもわかるけどさ、自分でわかんないんじゃ私に聴いても仕方ないだろ。それに、あいつ自身が突拍子もない嘘をつかないって、保証もないんだし」
「からかわれたってこと?」
「私は古明地のことはよく知らない。勇儀のやつは、そんなに悪い女じゃないって言ってたけどね」
「……ふぅん」
ぼんやりとした言葉、曖昧な意味、アルコールの入った頭で、幽香はそれらを咀嚼する。古明地さとりの、あの馬鹿丁寧な口調を思い返すと、萃香の言葉に納得できるような気もしないでもない。あのタイミングで現れたということ自体、思えばできすぎだった。
一方で、さとりの言葉にどこか腑の落ちるような感覚があるのも、また事実だった。
「小鬼。あんたさあ、異変を起こしたとき、どんな気分だった? 一通りやりあったんでしょ、霊夢や魔理沙や……他の連中とも」
「……どんなって、まあ……なんとも言えないよ、そういうのは」萃香は口のなかで舌を転がすように言う。「そりゃ、大劇場の舞台で、スポットライトに当てられてるようなもんだからね。人生でそういう機会ってあんまりない。テンションは上がるし、気持いいって言うのもある。でも、正確に伝えられる言葉ってのも、あんまりないよ。なんて言えばいい? そう……自分が完膚なきまでに悪役を演じるってことの背徳感と、そうした実力が自分にあるっていう傲慢、見過ごされずに無事こうして産まれ出たある種の真実の顕現と消滅へのカウントダウン、そうしたものをひっくるめて過ごした圧倒的な一夜を通じて、なにか価値のあるものをこの手に掴んだ、とでも?」
「なにそれ」
「わかんないだろ?」
萃香は笑う。
「打擲と全肯定を一緒にされてるようなもんだよ。解決する側に回るとまた別の光景が見えてくるわけだけど。結構倒錯してた、私」
幽香は押し黙る。
しばらく沈黙に身を任せたあと、萃香は言う。「やってみようか、風見の」
「え?」
「私とあんたで、軽い異変を、さくっと。大したものでなくていい。リハーサルだと思えば。霊夢にしろ魔理沙にしろ、異変じゃなくても妖怪退治みたいなのはやってるわけだし」
幽香は萃香を見る。突然なにを言い出すんだこのえせ幼女は、という思いに、ちょっとした高揚が入り混じる。
この小鬼は私をからかっているのだろうか、と考える。こちらを見上げる萃香の瞳には、人間や妖怪に悪戯をしかける妖精そっくりの光が宿っている。どこまでも透き通った悪巧みに、自分でハイになっている者の目。
そういう者を信用する気には、とてもじゃないがなれない。だがその一方で、鬼は嘘をつかないという迷信めいた話もある。この光が自分ではなく、周囲に向かっているのだとすれば、その背中に乗っかってみるのもそう悪い話では……
氷精の生む氷柱が其処彼処に降り注ぐと、それに呼応するように、蟲の王がその隙間をくるくると舞い始める。闇が割れ、直線的なレーザーが次々と宙を裂く。そういった動きはどこか不規則で、当てずっぽうで、精密さがない。彼女たちは今、夜雀の弾幕そっちのけのシャウトを耳にして、ほとんど盲目になっていた。
太陽の畑の一角で、そうした弾幕勝負が演じられるのは、初めてではない。幽香が遠くからそれを眺めるのも。そしてその弾幕は、互いに互いを落とし合うのが目的ではなく、風見幽香という物騒な妖怪の目を盗んで行われる、ちょっとした肝試しであり、挑発であるのだった。
もちろん幽香は、花を損ねかねない行為に目くじらを立てて、轟然と彼女たちを薙ぎ払うことができる。わざとらしく怖ろしい妖怪を演じて、彼女たちの思惑通り、鬼ごっこの鬼役を演じてやることも。
丸くなったものね、と幽香は思う。自分にしろ、他者にしろ。以前の自分なら、ああした手合いは問答無用でさっさと片付けて、ささやかな武勇伝の足しにしたものなのに。
スペルカードルールの成立以降、自分のような妖怪に対する怖れを、越えるべき壁のように見始める連中が増えた。壁が高ければ高いほど、ささやかな武勇伝の自慢できる一行見出しになることができるというわけだ。
一見、どこまでもどこまでも能天気で楽天的な彼女らではあるが、ほんの少し道を誤ればそのまま転落していくことを全て承知で、そういうしっぺ返しを喰らうことを覚悟している、そういう妙に潔いところもある。
「まあ、要するにばかなのよね」
極太の閃光を空に向けて放ってやると、彼女たちは蜘蛛の子を散らすように飛び去って行った。
幽香は四人が、去り際にこちらを振り向き、不満げな、どこか哀しく見えるような表情を送ってきたことに、気づかない振りをした。
ああいう娘たちはどういう想いでここにやってきたのだろうか、と思う。氷精にしろ……蟲の王にしろ……宵闇にしろ……夜雀にしろ、傍目にはただのばか者のように見えても、なにかしら考えていることもあるだろう。世にも恐ろしい妖怪の潜んでいる太陽の畑くんだりまでやってくるということには、それこそ自殺願望でも持っているのでなければ、それなりのエネルギーが要る。
それぞれがそれぞれ、毒にも薬にもならないような、無難な性質の妖怪ではない。生きてさえいればなにかしら、経験というものはどうしたって積む。嫌われたり、迫害されたり、遠ざけられたりしただろう。そうした思い出が、彼女たちをこんなところまで追いやってきたのかもしれない。
考えすぎかも、と思いもする。どうしてもそういう思考にいってしまうのは、そう考えさえすれば、辛いのは自分だけではないと再確認することができるからだろうか。
――辛い?
ぽっと出てきた単語に自ら苦笑する。なにを言ってるんだか。
あの小鬼はどうなのだろう――
自分を唆したあの夜以後、なんだかんだいって、話す機会を得られないままだいぶ時間が過ぎてしまったが。
今夜は会えるだろうか。
夜は会えなかったが、その翌朝に会えた。庵の扉を開け、敷居を跨いで外に出ると、土道の脇の木の根に萃香が背を向けて腰掛けていた。首を捻じって幽香を認めると、手をひらひらさせて挨拶し、気だるそうに立ち上がって背伸びをした。
「心は決まった?」
「なんの?」幽香は忘れている振りをした。
「おいおい、このまえ約束したじゃないか。私とあんたで、全幻想郷を揺るがす壮大にして荒唐無稽な大異変を起こして、頭が春色の連中に一発ぶちかましてやるって」
「軽い異変をさくっと、じゃなかったの?」
「あれ? ……そうだっけ」萃香は頬をかいた。「記憶力がいいんだね。私はもう、酒のせいでいろんなものとごっちゃになってた」
「よすぎる、と思ってる」幽香は胸の下で腕を組み、溜息をついてみせた。「その台詞も聞いたわ。同じ言い訳をするんじゃない」
幽香が土道を歩き出すと、萃香も後から続く。またこの前と同じく、雲も風もなく、どこまでも穏やかで、哀しくなるような静けさの晴れ空だった。どこまでも広がる花畑のなかに、ぽつんと自分たちの影だけが浮かんでいるような想像をして、幽香は薄ら寒くなる。
「私らって、こういう気質なのかもね」と、萃香は言う。
「なに?」
「ああ、あんたは天子のことを知らないのか。いや、そういう能力の剣があってさ、そういう異変が起きたわけ」
「異変、異変、か」幽香は心底面倒そうな口調で言う。「異変のバーゲンセールってやつみたいね。ゲシュタルト崩壊しそうよ」
「お祭り騒ぎだからね、ようは。みんな惹きつけられてくんだよ、起こすにしろ解決するにしろ」
幽香は立ち止まり、萃香のほうを向く。「で? 私たちはどうするの」
「とりあえず……」
射命丸文は報告を受けて山の麓に向かった。報告と言っても、「いや、無理! あの組み合わせはどう考えても無理だってマジ勘弁! ホントどうしようもないっスよ絶対ヤバイってお願いしますもうこの仕事やだぁお母さぁん!」という、逃げ帰っていく哨戒天狗の単なる悲鳴だったわけだが。
ちょうど原稿に取り掛かろうとする直前だったので、文は大いに気分を害していた。これで侵入者が大したネタにもならないその辺の妖怪だったら、問答無用で幻想郷の端まで吹っ飛ばして、朝の心地よい時間を乱したあの哨戒天狗にも折檻してやろうという気になるくらいには。だがそこにいたふたつの影を見て、文はすぐに、同じ悲鳴を上げて現実逃避したくなった。
「うっわ……」
実際に口から出たのがそういう音だったので、文は安心した。社会的に死ぬのは、まだゴメンだ。
深呼吸して、言葉を頭のなかで整理して、風をまとってふたりの前に降り立った。
「お久し振りですお二方」自分で思う以上に滑らかに言葉が出た。よしよし。「花と鬼とは、これまた珍しい組み合わせですね。宴会でもおふたりが話しているところは、全く見たこともなかったのですが。今日はどうしてこちらへ? 守矢神社に参拝にでも?」
「ちょっと、山でも崩してみようかと思い立ってね」
文は「Oh……」と言いながら額に手を当てたくなるような気分になった。実際、危うくそうするところだった。
「あのですね、そりゃあ、あなたが常日頃から本気になれば山さえ崩せると言ってるのは知ってますよ。で、実際そのことを疑ってかかる連中もいませんし、……ほんとですよ?……あなたの力はもうみな知るところとなってるんですから、いまさらそんな真似をする必要は」
「んじゃ風見の、打ち合わせどおりに」
「打ち合わせったって二秒で終わったじゃない。要はあれでしょ? 私がやることと言ったら花を咲かせて根を張らせるだけじゃない」
「精密さが問題だよ。私が密度を薄めた場所にピンポイントでぶちこまなきゃ、山をますます強固にすることにもなりかねない」
「別に私はどっちでもいいんだけど」
「困るなあ。こういう機会ってそうないよ? テンション上げてこうよ、勿体ない」
「なんだか、あんたやさとりやらに、良いようにからかわれてるって気もしないでもないんだけど」
「それはたぶん、実際そういう面もあるからなんだろうよ」
「ああ、ころしたい」
「あのですねお二人さん。ほんの少しでいいんで私の話を聴く気はありませんでしょうか」
「あん? 取材ならあとで幾らでも受けるよ?」
「私はごめんよ。自分の喋ったことを良いように弄って妙な意味合いを持たせられるのは」
「そりゃあ山が崩れたとなれば特ダネにはなるでしょうけどね、私はそんなこと書きたくありませんよ。私が書くのは皆さんが楽しめるようなものであってですね、決して三面記事のゴシップだったり、広告中毒の建前でしかないような暴露だったりじゃあ……」
「それはそれは。立派な思想を抱いてらっしゃるものね」
「じゃなくて! ちょっと待ってください本当に。こう、山にも社会というものがあってですね、秩序とか調和とか、そういうものを維持するためにどれだけの労力が支払われているのか、いやあのちょっと能力発動はもう少し待っててください、こう天狗の社会のことだけではなくてですね、守矢神社もありますし、少数ながらも別の妖怪や、妖精なども、あ、あ、ちょっと本当にストップ、いや聴いてますか!? 聴いてませんよね!? ていうかなんで誰も援軍に来ないの! 椛! 椛さんはいらっしゃいませんか! にとりさん!? 雛さん!? ああもうこのさい秋姉妹でもなんでもいいから、もう! みんな全然やる気無しですか! 早苗さんまでいないんですか! これだから嫌なんですよ幻想郷、なまじ力のある連中がごろごろしてるせいで誰かがやるだろう誰かがやるだろうって空気で、霊夢さんは異変が大きくなってからじゃないと動かないし、たまにやる気になったらみんながみんな鉢合わせしてますます混沌染みてきますし、次から次へとちっくしょう! どうにでもなれ『無双風神』ッ!」
「『百万鬼夜行』」
「花符『幻想郷の開花』」
山が割れた。
「ううん、できがいまいちだなあ」
がらがらと崩れていく山の半分を見下ろしながら、萃香が言った。
「私のイメージだともっとこう、盛大にばっかんばっかん音を立ててさ、根元から崩れ落ちる感じだったんだけど」
「ヒマラヤじゃあるまいし、こんなもんでしょ。ていうか標高何メートルなの妖怪の山って。三千メートルどころか、二千いってるのこれ?」
「さあ、よくわかんない。結界張ってるせいってのもあるのかな。でもこれで終わりじゃあ、霊夢は出てこないよなあ……」
幽香は萃香を見る。ふわふわと宙に浮かんでいるせいで、吹きつける強い風が、彼女の長い髪を乱している。その合間から見える表情は、心底残念そうで、自分をからかって楽しんでいるような、嘘偽りがあるようには思えない。
そうしている萃香の顔は、昨日太陽の畑で自分を誘い出すように踊っていた娘たちが、最後に見せた表情となんら変わるところがない。えせ幼女め、と思う。遊び相手が振り向いてくれないことが、そんなにも哀しいか。
「……ああ、苛々する」
萃香には聴こえないように呟く。
あの覚り妖怪。一度異変を起こせばすっきりすると言ってたっけ。こうして山を崩してみても、不快感は増していくばかりで、ちっとも霧散してくれない。欲求不満だ。こうして宙を手持ち無沙汰に漂うことも、隣に落ち込んだ萃香がいることも、自分の仕掛けた能力が不発気味に終わったことも、なにもかも気に食わない。
「……ッ」
突然、ひどくばかばかしく思えてくる。なにをごちゃごちゃ考えてるのか。ええい、もう、面倒くさい。ここまで来たんなら後はもう力押しでいいじゃないか。魔理沙は実にいいことを言っている。弾幕はパワーだ。
「萃香!」
「ぅおっ?」
「今から無茶をやるから手伝え!」
がっと萃香の腕を掴んで、引き寄せる。萃香は期待に満ちた顔で幽香を見上げた。くそ、無駄に可愛い顔をして、と幽香は場違いなことを思った。
「なに? なにをすればいい?」
「何百年か振りに本気を出すわ。リミットを越えて、私の存在そのものがやばくなるかもしれない。壁を越えるのってそれなりに代償がいるけど、越えた先が墓穴だったなんてことも良くある話だから。そこでそうならないように見てて。私の命そのものを萃めておいて」
幽香は手のひらを山に向ける。ごめんなさい、花たち、と心のなかで謝る。
地響きを起こす山の真下、無数の花と、それに付随するように一本の樹が産まれる。根が縦横無尽に土を砕き、絡み合い、ひとつの目的に向けて動き始める。
こんなのはばかばかしい真似だ、と思う心と、知ったことか、なにもかもくそよ、と中指を立てる意思が拮抗して、すぐに心のほうが潰れ始める。
萃香の手が、自分の手を握ったのを感じる。こら、どさくさに紛れてなにしてんだ、と思う一方で、なんだか安心してくる自分がいることにも気がつく。命が萃められ始める。そうして、不意に理解する。
この鬼も、多かれ少なかれ、自分と同じような孤独を抱いてここまで到達したのだ、と。
東風谷早苗は人里から山に続く道を帰っていた。最近では里にも守矢を信仰する者が増え、早苗は非常に機嫌が良かった。にこにこしながら歩いていく。天気は良く、風もなく、急いで飛んで帰るより、この時間を噛み締めるようにゆっくり歩いて帰りたい、そんな気分だった。
ふと太陽が影に遮られ、早苗はおや、と思い足を止めた。今日は雲ひとつない良い天気だと思ったのに。雲が出てきて雨が降るようなら、急いで帰って洗濯物を取り込まないと。
早苗は空を見上げた。唖然とした。そうして買い物袋を落としてしまった。
それは中途半端に突き刺さったネジのようなシルエットだった。巨大な大樹が、ぐるぐると捻じ曲がって天に伸び、そのてっぺんに、山のように大きな岩と土の固まりがのっかっていた。今にも崩れ落ちてしまいそうなほどゆらゆら不気味に揺れていたが、枝や根がしっかりと張っているのか、危ういバランスで留まっていた。
そのてっぺんにあるものは、守矢神社でなかろうか。
「お父さん、ラピュタは幻想郷にあったんですね」
うわごとのように、早苗は呟いた。
大きく能力を発動したあとの虚脱感のなかに幽香はいる。溜息をついて足元を見下ろす。複雑に絡まりあった根っこの合間から、幻想郷が一望できた。
大人気ない真似をしたものだ、と思う。高い。ついむきになってしまった。がらがらと崩れ落ちる岩の行く末は、幽香の視力では見届けることができなかった。
萃香はどこにいるんだろうか、と辺りを見回す。山の中腹にあたる部分であった。山が持ち上がる際に、萃香とははぐれてしまったが、その能力が自分に作用し続けていることは、胸のなかの温かみで知ることができた。
もし萃香が能力を閉じていたら、自分は本当に霧散していたかもしれない、と考える。そんなことを思ってみても、危機感の欠片も湧いてこないのは、萃香という女を自分がそこまで信頼していた証であるようで、なんだか苛立たしかった。
まだ、出会ってから大して時間の経っていない彼女のことをそこまで認めているのは、たぶん、最初に出会ったときのあの緩い空気のせいかもしれない、と思う。
霊夢と魔理沙。まるで酒そのものであるかのように、その周りの妖怪たちを、和ませてしまう。
彼女たちは来るのだろうか。ここまでして来ないのであれば、それはそれでなんだか……
『嬉しかったんだ。巫女とか、魔法使いとか、地上の連中がこっちのことを見てくれて』
「……っ」
幽香は頭を振って、湧き上がってきた思いを認めまいとした。
視界の端に、ぴょんぴょんと飛び跳ねるようにしてこちらに向かってくる、萃香の姿が目に入った。「幽香!」
萃香は満面の笑みを浮かべていた。そうしてぶんぶんと手を振っていた。幽香はなんとなく気圧されるようにして、溜息をつきながら顔の横に手を掲げた。幽香にとってそれは、単なる会釈の意味でしかなかったのだが、萃香は思いっきり踏み込むと、その手のひらに向けてハイタッチをかました。
かっと熱くなる手のひらに、幽香は顔をしかめた。
あちこちで、人妖の撒き散らす弾幕が、ぱっと開いたり閉じたり輝いたり押し潰されたりし出した。こちらを目指して昇ってくる人間たち、妖怪たちが鉢合わせして、互いに互いを犯人扱いして弾幕を展開している。彼女ら自身、この異変めいた事件を起こしたのが、相手でないことはわかっているだろう。それでもやるのが祭りの礼儀というものだ。もともとは手当たり次第に喧嘩を吹っかけていく霊夢が広めた慣習だが。
弾幕は、綺麗だ。それこそ花のように。ある意味であれらも、自分が咲かせた花ということになるのだろうか、と幽香は思う。
「弾幕のなかを飛んでも絶対に落ちない巫女とか……」萃香は幽香の隣で言う。「神とか……神をも屠る悪魔とか……チートみたいな能力持ちの妖怪とか……死だの運命だのけったいなものを操るやつらとか……そういうのって幻想郷じゃ珍しくもなんともない。でもそういうやつらが必ずしも異変を解決するかって言うと、わりとそうでもない」
「大穴が来るかもって?」
「そうだと楽しくない? スペルカードルールのいいところだよ、予測ができないってのはさ」
「そうね。あそこに氷精がいる。まったく身の程知らずに……あ、落ちた」
「見なよ。今はここが世界の中心だ。みんなが注目して、萃まってきてる」
幽香は萃香を見る。横顔からはなんの色も窺えない。喜んでいるのか、楽しんでいるのか。哀しんでいるようにさえ見ることができる。心が表情に出てきていない。
「いいところだよ、ここは。誰かが起こしたばか騒ぎに、誰もが興味を示してくれる。表面上はやれやれって顔してても、心の底では楽しんでる。そういうのって……」
萃香はそこで押し黙った。
幽香も、それ以上なにを言う気もなかった。氷のように冷静な一部がある一方で、際限なく高揚していく一部がある。その矛盾に、胸が張り裂けそうになっていた。なにか意味もなく、楽しくなってくる。身体を思いっきり動かしたくなる。そういうひどく子供めいた、単純極まりない衝動がこみ上げてきていた。
「……なんなのかしらね、これは」
幽香は呟いた。それは幽香自身にさえ聴こえないほどの声量だったが、萃香は幽香を見上げ、ぼそっと呟いた。
「私にはわかるよ」
「なにが?」
「わかる」
わかるものか、と幽香は思った。おまえになにがわかる。けれどもそれは、単に意地を張っているだけだということも、幽香にはわかっていた。
東側から霊夢が昇ってきた。
西側から魔理沙が昇ってきた。
幽香と萃香は、ちょうど山の神々との弾幕を終えて、際どいところで降したところだった。四人とももうぼろぼろだったが、傾き始めた陽光のなかに、なんでもないかのように浮かんでいる姿は、ひとつの出来事の幕引きに相応しい光景であるように、幽香には思われた。
「また面倒なペアだこと。あんたらが黒幕ってことでいいの?」霊夢が言った。
「ったく、なにが目的だってんだよ、これ。森がすっぽり影に覆われて、洗濯物が乾かなくなっちまうんだぜ」魔理沙が言った。
「大穴はなし、か。まあやっぱりこのふたりが醍醐味ってのもあるんだけど」幽香が言った。
「さてさて。射撃はあんまり得意じゃないんだけど、今回は接近戦封印でいこうかな、空中戦だし」萃香が言った。
「で?」
「さすがにしんどかったんだぜ。とんだバトルロワイヤルだった」
「あ、まずい、スペルカードなにも考えてなかった。花符と幻想の二枚だけじゃあラスボスっぽくないわよね」
「んなもん即興でなんとかしなよ。とりあえず綺麗だったらなんでもいいよ」
「もうとっとと帰って寝ちゃいたいんだけど。早苗がやたらとうるさくて本当に疲れた。ラピなんとかって一体なんなのよ」
「しっかしどうなってんだこれ。一本の樹みたいになってんのか? 幽香の能力ってことでいいのか?」
「ちょ、ちょっと待って。即興ったって、えーと、どうしたらいいかしら」
「よっしゃ、陽の沈まないうちに決着つけようか。幽香は魔理沙ね。私は霊夢の相手するよ」
萃香は霊夢と向かい合い、通常弾幕を放ちながら、遠くへ飛んでいった。
幽香は溜息をついた。
腹の底がなんだか熱くなってるような、変な緊張がある。いつもの弾幕勝負とは違う。それはわかるのだが、結局、自分にできるのはいつも通り振る舞うことだけだ。幽香はそう開き直って、魔理沙と向き合い、腕を組んで見下すような目線を向けて見せた。
「魔理沙」
「なんだか日傘持ってない幽香って違和感あるよな」
「あれやってよ、あれ。代名詞なんでしょ? それがなけりゃ始まらない。私から盗んだ技が、そこまで出世するなんて、私自身なかなか嬉しいものがあるから」
「ありゃ私のオリジナルだ」
「どっちでもいいわよ。それとももうパワーが残ってないのかしら。いっとくけどノーボムノーコンティニューを易々認めてあげるほど、私は優しくはないわよ」
「まあいいさ。私もいっぺん、おまえと正面からやりあってみたかったんだ。花の異変のときはなんか変則的な決着だったしな。いくぜ……恋符『マスタースパーク』!」
「大したものも思いつかないけど、まあ仕方ないわね。穴子『チープエリミネイト』」
極太の閃光がふたつ、幻想郷の空に交差した。
「幽香。幽香」
弾幕をかわしながら、萃香が幽香に近づいてくる。
「ちょっと、幽香」
「わっ、なによ萃香、あんまり近づかないで。霊夢の弾幕までこっち来てるじゃない。やるんならもっと向こうでやりなさいよ」
「いや、さあ。折角二対二なのに、普通の弾幕勝負みたくなってんのが気に食わなくてさ」
「殺符『ジェノサイドブレイバー』……え? なに、どうしたいのあんた」
「霊夢と魔理沙がこうしてるのって、実は珍しくない? 異変のときは大抵別々だし、お互い勝負することはあっても、共闘ってないでしょ」
「……そういう機会は大切にしなきゃ、って言いたいの?」
「幽香、今結構いっぱいいっぱい? もうワンランク難易度上げられない? 私のイメージとしてはさ、こう……ひとりじゃ不利と見たあのふたりが、いやいやながらもそれを認めて、今遂にペアを組む! みたいな。そんで、そのまんまのテンションで全部終わってさ、ぎくしゃくしていたふたりの間が、今晩遂に、みたいな……」
「ちょっと、今そういう提案しないで。口が変な形に曲がっちゃう」
「オーケー? わかった?」
「もう、これじゃ丸っきり近所のババアのいらぬお節介じゃない。まあいいけど……反撃『ボムなんぞ使ってんじゃねえ!』」
不屈の精神でコンティニューを果たし、上まで昇ってきた早苗は、壮絶な死闘を見た。一対一でも一ドットの隙間を巡って戦うレベルの四人が、完全なペアを組んで戦ったらどうなるのか。単純に、弾幕の濃さが二倍になっているのである。ぽかんとするより他なかった。
明らかに、魔理沙は張り切っていた。好きな子の前でいいところを見せようとする小学生のようにしか見えなかった。外から見ると、黄金色の陽光と相まって、その姿は素晴らしく美しいように思われた。が、霊夢は魔理沙が見えていなかった。凄絶な弾幕のなかで他人を見ろというのも無理な話だ。
早苗は両手を組み合わせて祈った。どうか、あのふたりに奇跡が訪れますように。が、乙女の祈りと乙女の怒りはまるで別の衝動から来ているのもまた事実だった。今の早苗は、家族に等しい二柱の神が落とされたことと、住居である守矢神社が倒壊寸前であることに、完全にぷっつんしていた。そうして早苗は、四人の聖戦に真っ向から突っ込んでいった。
「奇跡的終焉『バルス』――ッッッッッ!!!!!!!!」
山が崩れていった。
コンティニューしたので、基本的にはバッドエンディングである。
山の修復と、迷惑をかけた全人妖に謝罪することを約束させられて、幽香と萃香は太陽の畑に帰っていった。
満月の光を見て飛びながら、幽香は言う。「日傘があれば勝ってたわ」
「あれさあ、ごめん、実は私が持ってるんだ」
「……なんですって?」
「今は天界にあるんだ。天子に預かってもらってる。その……いつか会いに来る口実に使おうと思って」
毒気を抜かれたような気になって、幽香は肩を落として押し黙った。
「霊夢と魔理沙」と、幽香は言った。「どうなるのかしらね。できれば幸せになって欲しいけど」
「あんたでもそう思うんだ」
「悪い?
……考えれば考えるほど障害が多そうでいやになるわ。くっつくまでにしろ、くっついた後にしろ、くっつかないにしろ」
「あのふたりじゃなくても、普通の恋愛だってそんなもんだよ、大抵は……」
「そうね。だったら大丈夫かしら」
「え?」
「魔理沙は」幽香はそこで笑った。「時間を操るとか奇跡を操るとか、そんな妙な能力とは無縁な、人里の娘だった。それがどういう理由でかなんて知らないけど、必死こいて修行して、家族と絶縁してまで、魔法使いになった。そうして今、博麗の巫女と並んで、妖怪たちから一目置かれる存在にまでなった。それってどこにでもいるような『普通の』女にできること? 実際相当なタマよ、霧雨魔理沙って女は。たぶん、大丈夫なんじゃないかな、目を離してても……」
「随分と評価してるんだね。最初に会ったときには、幽香は魔理沙を弄り甲斐のある玩具くらいにしか見てないかと思った」
「評価してるからこそそう思うのよ。その辺の月並みな輩になんて興味ない。てめえのケツにぶちこんでろ、って言ってそれで終わりよ」
「そっか」
太陽の畑の端に降り立ち、幽香の庵まで刻まれた土道を行く。
「あんたも、随分とふたりのこと、気にかけてたじゃない。私は正直、弾幕のことしか頭になかったけど、戦ってるとき」と、幽香は言った。
「……まあ、霊夢には世話になったし、ね」
少し会話が途切れて、十分ほど、そのまま歩いていた。幽香は、萃香は今日はどこに泊まるのだろう、と思ったが、口にはしなかった。
ひどく静かな晩で、虫の声すら、ふたりの耳には届いていなかった。
「――もう」萃香が、ようやく言った。「目の前でちっちゃな女の子が傷つくのを見るのは、たくさんなんだよ」
怖ろしくなるくらいの切実さが、その声に篭もっていた。
長く生きていれば、そういうこともあるのだろうと、幽香は他人事のように思った。
「不快感はすっきりした? 実際、異変を起こしてみて」
庵の前までやってきて、萃香は訊いた。
幽香は実際に、胸の奥底のつかえが取れたような、そんな気はしていた。たくさんの人妖が、自分たちをめがけて飛び立ち、弾幕を撒き散らして、落ちていった。そう思うと悪い気はしない。それ以上に、胸の温かくなるようななにかが、弾幕と一緒にこちらにやってきていた。
ただそれは、過ぎ去ってしまうと、祭りの後の寂しさそのものに変化しているのだった。幽香にはそれを、どうしても言語化することができなかった。
「なんて言えばいい?」幽香は言った。言わないことは、全て空白に託した。「たぶん、寂しかったんだと思うわ」
「私にはわかるよ」
その受け答えに、幽香は胸を衝かれた。けれどもそれを認めたくはなかった。「なにが?」
「わかる」
わかるものか、と思う。けれどもそれはやはり、単なる意地っ張りでしかないのだった。
庵の扉を開くと、そこで萃香が立ち止まった。幽香は萃香を見下ろし、そこに、置き去りにされる子供のような表情を見た。見てから目を逸らした。萃香は慌てて、自分の口許を手で覆って、表情を隠した。
幽香はしばらく、敷居を跨ぐことができないでいる。物事がひとつ終わったあとの、ひどい虚脱感に包囲されている。
「あんた……」幽香は言った。「今日はどこで寝るの……」
言ってから心底後悔した。なぜ後悔するのかわからないまま、自分を責め立てたくなった。
萃香が口を開く気配があった。その瞬間、幽香は萃香の手を引き、敷居を跨いで扉を閉めていた。
闇のなかで、萃香は言う。「あんたの名前は知ってた」
「太陽の畑の、人間に対して友好度最悪の物騒な妖怪、って?」
「私も昔は人攫いとかしてたからね。似たようなもんだよ。以前はむしろ、友好的な妖怪なんてほうが珍しかった。今はそうでもないけど」
幽香は萃香の手を離した。直後に、萃香の手が自分の手首を握る感触がした。
「いろいろとひどい噂は聞いてたよ。どんな女だろうって思ってた。自分から最強を名乗るんだから、そりゃ……どんだけ傲慢なんだろうって……」
「少女時代のささやかな意地よ。いまさら撤回するほうがずるいじゃない」
「私の『百万鬼夜行』だって似たようなもんさ。だからなんか、一方的なシンパシーみたいなのはあった」
「実際会ってみてどう思った?」
「それを数秒で伝えきれる言葉なんてない」
幽香はやんわりと萃香の手を解き、ランプの置いてある机に向かって進む。机はすぐに見つかる。だが幽香は机のへりに手を置くと、そこで自分の身体にひどい重みを感じ、動けなくなる。
「霊夢と、魔理沙を見てると」と、萃香は言う。「自分にないものに対する憧憬で頭がどうにかなりそうになる。そういうことってない?」
ない、と言おうとした。否定の言葉を吐こうとした。だが中途で舌が震えたように縮こまって、どうしようもなくなった。
「あんたも私と同じ気持ちなんじゃないかって思った」
萃香はそこで長く息を吐いた。その息のなかに表現できなかった言葉が詰まっているとでもいう風に。
「祭りのあとはいつもこんなだ。過ごした時間に圧倒された気分になる。自分に残されたものを思うと、余計に……その時間が眩しくて。そういうことってない?」
幽香は首を振った。そうして机から自分の手を引き剥がし、寝室に身体を向けた。
「そういうのはわかる」幽香は辛うじて言う。「だからもう、寝るわ。すごく疲れた。残されたものを燃やし直す力もない」詰まっていた息を開放する。「寝るんだったらそっちのソファーでもなんでも使えばいいから。出てくにしたって、鍵はないし。食べ物とか飲み物がいるんだったら、そっちの――」
背中に衝撃があり、幽香は言葉を詰まらせた。萃香が身体をぶつけるようにして抱きつき、腹の前に手を回してきていた。額が背骨に押し付けられ、不器用な痛みを感じた。
「あんたと友達になれるんじゃないかって思ってた。霊夢と魔理沙みたいな、そんな……」
少し考えて幽香は答える。「そうじゃないとでも?」
そこで萃香は泣き始める。
萃香が泣き止んだ後、幽香は寝室から毛布を持ってきて、ソファーの上に置いた。涙の痕で頬を真っ赤にし、いまだ潤んだ目で見上げてくる萃香の肩を慈しむように叩き、「おやすみ」と言って寝室に入った。寝巻に着替えるとすぐ、扉がノックされた。
「ひとりじゃ寝れない」と、萃香は言った。
「なにをそんな見た目通りの子供みたいなたわごとを……」
「うー」
「あのねえ。どんだけ弱気になってるか知らないけど、そんなのは今夜だけよ。明日になればそんな気分も吹っ飛ぶわ。そういうとき、一番後悔するのあんたよ?」
「もう泣いちゃったし。後悔するっていうんなら、手遅れだよ。だから今日は全部曝け出す」
「……まあ、長く生きてりゃ、どうしたって間違いのひとつくらいはあるか」
諦めたように幽香が言うと、萃香はぱっと笑顔を浮かべて、幽香の胸に跳び込んだ。
「と、と、と……」
幽香はよろめきながら後退して、どうにかベッドのへりに座ることができた。
「えへへ……」
「なによ」
「あったかい」
「ああはいはいあんたも充分あったかいわよ」
「身体火照っちゃってさ。まだ今日の興奮が残ってる。しばらく眠れそうにない」
「寝ろ」
「やだぁ」
「ね、ろ!」幽香は萃香の頭に手を回し、渾身の力を篭めてかき抱いた。
「あだだだだだだ」
そのままベッドに倒れ込む。幽香が力を緩めると、萃香はもぞもぞと首を傾けて、胸元から幽香の顔を見上げた。
「ねえ」
「なに」
「霊夢と魔理沙どうなったかなあ」
「んー……」
幽香はふたりのことを思い出す。弾幕勝負が終わった後、霊夢は今にも眠ってしまいそうなほど疲れ果てていたが、魔理沙は意外と元気だった。早苗に言われて、霊夢は魔理沙の箒の後ろに乗って帰っていったのだが、幽香が最後に見たとき霊夢は魔理沙の背中にくっついていた。
そのこと自体より、帰る際に会った人妖という人妖に親指を立てられた(一部には中指を立てられた)ことのほうが印象に残っているわけだが。
「どうかしらねえ」と、幽香は答える。
「結構いいところまでいくんじゃないかなあ。もうあれってさ、お互いに受け容れモード入っちゃってるよね。こうなると案外、霊夢のほうから切り出すんじゃないかな」
「あー、まあ、ねえ」
「せめてキスぐらいいかないかなあ」
「いかないほうがおかしいでしょうよ。お互い好きあってるんだったらとっととやっちゃえばいいのに」
「でも相手がどう思ってるかわかんないと攻め辛いよね」
「そんなの」幽香は鼻で笑う。「言葉にすりゃ一発でしょうが。一言『好き』って言って明確な拒絶がなけりゃ、そのままやっちゃえばいいのよ」
「それは体験談?」
「少女時代のささやかな思い出ってやつよ」
「好き」
「えっ」
萃香はいつの間にか、幽香の胸元から動き、首のあたりに頭が乗るところまできていた。首を伸ばせば唇に触れられるくらい近く。囁いたあと、萃香は実際にそうした。一瞬だけ接触する、掠め取るような速度で。
幽香はしばらく呆然と萃香を見上げている。キスをされたという事実を認識するのに、致命的な間がある。萃香がのそのそと動き、ベッドに腕を突っ張り、先程よりもだいぶ遠い場所から見下ろしてくるのを見て、そこで我に還る。
萃香は心底嬉しそうな表情をしていた。幽香はかっと頭に血が昇るのを感じた。考えるよりも早く腕が動いて、萃香の頬に平手を打っていた。が、平手が頬に届く寸前、萃香の手が幽香の手首を掴み、捻じ伏せるようにベッドに押し付けた。
「……いや、はぁ? ちょっと待ってこれなんの冗談」
「好き」
「……、――、……っッ!?」
完全に不意を衝かれた。迂闊だった、と幽香は思う。そういえば最初に会ったとき、霊夢が好きだとのたまった魔理沙にわかるわかると言っていたっけ。萃香よ、あんたもそっちのクチか。
「ちょっと待、いや、私そっちの気はないから!」
「霊夢たちみたいになれるって、言ってくれたじゃない」
「そういう意味で!?」
「えへへ」
幽香は本格的に身の危険を感じ、身を捩って萃香の身体を跳ね除けようとした。が、できない。動かせば動かすほど、腹に跨っている萃香の身体が深く食い込んでくる。
萃香の顔。耳の先まで、首の下まで真っ赤にして、無垢な少女のようににこにこと笑っている。幽香はその顔に向けて、押さえつけられていないほうの手を走らせた。平手ではなく、拳で。完全に本気だった。
が、不自然な姿勢で放たれた上、相手は萃香である。先程と同じように、届く直前で止められて、無理矢理手を開かれ、今度は指を絡ませられた。それもすぐにベッドに押しつけられて、両手が全く動かなくなった。
「な、な、な」
「んっ」
「んぐっ」
萃香は目を閉じ、もう一度幽香の唇にキスした。目を見開いていたため、幽香は至近距離からまともに萃香の顔を見た。唇を押し開き、舌が捻じ込まれる、そっと慰めるように歯茎をなぞり、歯の隙間からこちらの舌を求めて伸ばしてくる、そういう動作の最中もずっと萃香を見てしまっていた。
幼いゆえに中性的な顔のつくり。もともと怖ろしく整った顔立ちをしているために、見ようによっては人外めいた美しさの少年のように見えなくも――
(そうじゃなくてっ!)
幽香は萃香の舌を思いっきり噛んだ。そのまま噛み千切ってしまえるほど力を篭めると、萃香は目を開いて、心底哀しそうな表情をした。今にも泣き出してしまいそうなほどに目を潤ませた。
耐え切れないほどの罪悪感が、胸に染み出してくるのを感じた。
(ひ、卑怯者――)
歯を緩めると、萃香は顔を上げて、恨めしそうな顔で幽香を見下ろした。「いひゃい」
「いい加減に、しろッ!」息を荒くして、幽香は怒鳴った。
「えー。どうして? 明確な拒絶がなけりゃそのままやっちゃっていいんじゃないの?」
「拒絶してるでしょうが!」
「全然本気じゃないじゃん」
「この――」
能力を発動する。寝室全体に花の根を這わせ、人間の皮膚程度であれば簡単に切り裂く花びらを舞わせる。場合によってはこの庵ごとぶち壊して――
篭めていた力が霧散した。
「っ!?」
「能力はずるいって、幽香」
「あ、あんただって今――!」
「私のは後出しだから。先出ししたら先出ししたでまあ、いろいろできるけど……」
「このクソ鬼っ……」
「とりあえず落ち着こうよ、幽香」
「じゃあまずこの手を離しなさいよ!」
「そうしたら暴れるじゃない。話もさせてくれないのが一番辛い」
「……この、ばか」
幽香はふっと全身の力を抜いた。萃香はまた無邪気に笑って、幽香の眼の上あたりにキスをしてから、身体をどかした。
「……ああ、もう、びっくりした」
上半身を起こし、荒く息をつきながら、幽香は言った。その目はまだ警戒を解いておらず、下から睨み上げるようにして萃香を見ていた。
「……」
「ねえ、幽香」
「なによ」
「私さ、そりゃもうものすごい勢いでできあがっちゃってるんだけど、ねえ、やっぱりだめかなあ」
「――、……ッ!? なに言って……」
「だからさ、こう、なんか、今にでも押し倒して、思いつく限りのことをしたいっていうか、そうしないように自分を抑えつけてるのでいっぱいいっぱいっていうか、そんな感じなんだけど、わかんない?」
「わかんないわよ!」
「うぅ」
萃香は俯き、あぐらをかいた体勢のまま、切なそうに体を揺らす。
幽香はほっとして溜息をついた。萃香のほうに、少なくとも同意なしでこちらを犯してくるような気も、ないことがわかったから。
さてどうするか、と幽香はようやく落ち着きを取り戻してきた頭で考える。萃香のことはもちろん、嫌いであるわけがない。友達になれると思ったと言った萃香の言葉に同意したのも、決してその場凌ぎの嘘からではない。
だがそれがそのまま、こういう関係になるのはちょっと、という思いはある。正直、なんだか一方的に攻められる気がしてならない。それはかなり悔しい。仮に逆の立場になったとしても、先程直に触れてわかった、白く柔らかく怖ろしく張りのある蠱惑的な萃香の体に夢中になってしまう可能性もなくは――
「いやだからそれ以前に私はそっちの気ないんだって!」
幽香は叫んだ。
まずい、と幽香は思う。こっちの頭もだいぶ沸いてきてしまっている。正常な思考から外れてきているのがわかる。萃香と同じように、まだ今日の興奮が残ってしまっているのか。いや全部萃香が悪い。そもそも異変を起こすよう私を唆したのは紛れもなく萃香ではないか。もしかして最初っから私は萃香の手の上で弄ばれていたのかも――
「ゆうかぁ」
「っ!」
思考を割って入ってきた甘ったるい声に、幽香は我に還る。
「放っておかないでよう」
「ちょ、ちょっと待って、まだ考えまとまってないから」
「もう、むり」
「え?」
萃香はおもむろに幽香のほうににじり寄りつつ、少しずつ衣服を緩めていく。徐々に露になる萃香の素肌に、幽香は思わず目を逸らし、身を守るように手を前に出した。萃香は迷わず、その指先を口に含んだ。
「ぅ……あ」
思いっきり平手を打っても、通じないどころか状況は悪化するばかりだと、先程思い知らされた。
能力を使ってみても、そもそもの相性が悪すぎるということも、思い知らされた。
逃げることができない。身体が押さえつけられていなくても、全身縛りつけられているかのように幽香には思われてならない。
指先に、温かい、わずかにざらついたものが這い回ってくる。萃香の口腔は凄まじく熱い。気を抜くとそのまま熔け落ちてしまいそうに思える。
萃香の表情は、やっと求めていたものに触れることができた嬉しさに、緩みきり、潤んでいる。
「……っ、あ、う……」
萃香がそういう蕩けきった表情をしているということに、幽香は圧倒される。
指が開放されると、幽香は慌ててその手を胸元に戻した。萃香の唾液で寝巻の胸元が濡れる、そのことに気づけぬほど、幽香は動転していた。
「ゆうか」
萃香は四つん這いで幽香に近づく。
「……っ、ッ!」
幽香は萃香の動きに合わせるように後退りして、すぐ、壁際に追い詰められる。
カーテンの隙間から覗く蒼白い光が、萃香の顔を照らしたところで、ふたりの動きが止まる。
幽香の足に跨るようにして、萃香がそっと手を伸ばすと、幽香は耐え切れなくなったように顔を背ける。
萃香の指先が、幽香の耳にかかる髪をそっと払い、顎に優しく触れ、そこで動きを止める。
幽香は自分の心臓が次第に高鳴り始めるのを感じる。ここが限界だと思った場所から、さらに強く、際限なく高まっていく。
破裂しそうになる前に、萃香のほうに向き直った。
「……まあ、長く生きてりゃ、どうしたって間違いのひとつくらいはある、か」
言い訳のように、あるいは負け惜しみのように、幽香は言った。
萃香は幽香の寝巻をそっと緩めていく。愛想もなにもない、ただ寝ることだけが目的の、簡素な白い着物だった。
「っく……」
細い首筋を甘噛みされて、幽香は思わず声を上げてしまいそうになる。
ひたすら悔しかったので、歯を食い縛って音を殺した。
ただでさえ不本意な形でこうしているのに、声まで聞かせてなるものか。
「はぁ……ゆうか、ゆうかぁ……」
蚊の鳴くような声で自分を呼ぶ萃香の声にも、幽香は答えなかった。
少しずつ、萃香の頭がずるずると、下のほうに向かっていく。
「んっ」
鎖骨にキスマークをつけられ、ぞっとする。
「……っ、萃香、あんまり変なところに、そういうもの、つけないでよ……」
「変なところって?」
「鎖骨くらいなら、ぁ、いいけど、……見える場所は、やめてよ、本当に」
「見えない場所ならいい?」
幽香はその言葉を避けた。
乳房のへりに唇が押し付けられ、吸われる。否応なく次にされることを想像してしまい、幽香は首を振る。
考えるな、考えるな、できるだけなにも、なにをされるかとか、なにをされたいかとか、そんなことは絶対に――
「ゆうか。触っていい?」
「訊くなっ、ばかすいか!」
思わず叫んでしまった。
「あ」
「なによ……」
「勃ってる」
「あんたはいちいち要らぬことを……!」
「まだ直接触ってないのに」
「言うなって、言ってるのに……!」
「あはは。想像しちゃったんだ、ここ、どうされるかって。まだ大したことしてないんだから、そうだよね? ね、ゆうか、どうされたい? どんな感じのこと想像した?」
「黙れっていうのに、ぅ、あっ」
先端のピンク色を口に含まれ、幽香は背筋を反らす。軽く歯を立てられ、そこから流れ込む卑猥なほど正直な官能に、耐え切れずに目を閉じる。
膝のあたりに、濡れたものが伝った。細く目を開けてみると、萃香が自分の足をそこに絡めて、秘所をわずかに擦りつけていた。
かってに、ひとのあしを、つかって!
どうしようもない状況に、幽香は頭を抱えるように腕を持ち上げた。とにかく、自分の表情を萃香に見られるのだけは嫌だった。
「っう、あぅ、ッ! ……っく、はあ……!」
声を堪えるのに、怖ろしくなるくらいエネルギーがいる。
歯が立てられるたびに、身体が勝手にびくりと動く。そうした反応がどんどん大きくなっていく。
萃香が乳房から口を離した。最後に労わるように乳首をひと舐めして、幽香を見上げた。
「……っはあ、はあ、はあ、……っく、ぁあ……」
「けっこうしぶといね、幽香。おっぱい、あんまり良くなかった?」
「うるさい……」
「私はいっちゃった」
「――ッ!?」
申し訳なさそうに言う萃香に、幽香は思わず息を呑んでいた。全く気がつかなかった。萃香の反応に気を配れなくなるほど、自分は夢中になってしまっていたということか。
「ごめんね、幽香。散々焦らされてたからさ、我慢できなかった。自分勝手だったね、私」
萃香は幽香の頬に触れ、そっとキスをする。角度を変えて、何度も、触れるだけのキスを繰り返す。
されている間、幽香は動けなかった。全身が熱く昂ぶっているのに、気だるく、息を塞がれているかのように重苦しかった。
萃香はそっと幽香の足にキスをする。もう抵抗する気力もなく、幽香はぼんやりと萃香を見下ろしている。はあ、とひとつ、萃香の耳に届くように溜息をついてみせる。
この女がいなければ、今日のような体験は一生できなかった。そう考えると、こうした場所にいる相手が、萃香でよかったのかもしれない、と思えるようだった。
こちらの抵抗をこうもことごとく抑えつけて、いいように体を弄繰り回している相手が、別の者であったら正直、自殺でもなんでもしていたかもしれない。そんな者が萃香以外にいるとも思えないのだが。
冷静に考えれば、この家に引きずり込んだのは自分自身なのだし、今晩の無防備さも、思えばどうも自分らしくなかった。相手が萃香だということで完全に気が緩んでいたのだから、こうしているのも仕方ないのだろう。
だからと言ってそう易々と、素直に身を任せたくはないのだが。
萃香の唇が少しずつ秘所に近づいていく。認めたくはなくても、もうそこがひどく濡れていることも、幽香にはわかっていた。萃香にも隠すことはできないだろう、と思う。
そう考えると、急にじれったくなってきた。
もう、知るか。どうせ一夜の間違いだ。
「萃香」
「ん、なに……あいて、て、て」
萃香が顔を上げたところで、角を鷲掴みにして、太腿をすっ飛ばして秘所まで導いた。
「お願いだからもう、はやく終わらせて」
なんだか懇願するような口調になってしまい、自己嫌悪する。
「……ん、わかった。きもちよくする」
「いや気持ちよくとかはいいから。もう私寝ちゃいたいの」
「……うー」
「……」
「……」
「……ああ、もう! わかったわよごめんなさい気持ちよくして! これでいい!? 泣き止めばかすいか!」
「幽香は私のこと嫌い?」
唐突に萃香が聴いた。
「やっぱり女同士とか、嫌? 男が相手のほうがいい?」
幽香は溜息をつく。
「ここにいるのがあんたじゃなかったら、そいつのタマなりなんなり、抉り潰して消し飛ばしてる」
「ほんとに?」
「ほんとよ」
「明日も一緒に寝てくれる?」
「……それは明日考える」
「寝てくれるだけでいいよ。こういうことさせてくれなくてもいい。それだけで充分、幸せだから」
「それはまあ、別に……構わないけど」
「……ありがとう」
萃香は俯き、幽香の下腹部に顔を埋めた。
「……っ、あ……」
下着の上から、舌を押し付けるようにされ、一度思いっきり吸われてから、焦らすように優しく撫ぜられる。
「――っく、ぅあ、あ、あ」
脱がされないまま弄繰り回され、秘所を覆う部分だけ横にずらされて、その隙間から舌を入れられる。
「あ、あ、あ、あ」
内腿を触れられ、予想外の感触にびくりと震える。そっと押し広げられたまま固定され、閉じることができず、代わりに指先がぴんと伸びる。
「あ――ひっぁ、あああッ!」
声を抑えることができない。肉芽にまだ触れられてないのに、なかさえ触られてないのに、早々に限界が訪れようとしている。
「――ッ、……っ、」
それでも、どうしても、善がり声を聞かせたくない。悔しくてたまらない。萃香とは対等な関係でありたかった。隣にいる相手に気を使わなければならないような、そんな関係は築きたくなかった。
「すい、か……っ」
だから、名前を呼んだ。
「すいか、っ……すいか、ぅあ、」
みっともない喘ぎ声を潰してくれるように願って、彼女の名を呼んだ。
「すいか、ぁ、すいか、すいかぁ、すいかっ――!」
堪らなくなって、萃香の頭に抱きついた。
角が、ものすごく邪魔だった。
「もう、だめ、やだ、すいか……!」
萃香から、返事はなかった。代わりに肉芽に歯を立てられて、抗いようのない官能が体に流れ落ちた。
「ぅあ、あっ、すいか、も、ああ、すいか、ああああああっ――!?」
萃香の顔も見れず、声も聴けないのだったら、いくら気持ちよくてもこれはもう二度とごめんだわ、と。
強く思いながら幽香は気を失った。
復讐に燃える射命丸文がペンを取ったのは、その一週間後、指の怪我が完治してからのことであった。おのれ鬼畜ども。許すまじ鬼と花。決死の形相であることないこと書き綴る文様のお姿はまさにルナティック、エクストラ全開でしたと、後に犬走椛は河城にとりに語った。
見る者の少ない新聞はそれでも、なんだかんだ言って事実を伝えていた。博麗神社、天界と、放浪を続けている伊吹萃香という鬼は、今度は太陽の畑に留まることにしたのだ、と。
先の異変での共闘から、萃香の最終的な居場所についてまで、文はあらゆる憶測を書きまくった。そのほとんどが偏見による一方的な、徹底的に相手をこきおろす乱暴なものであったが、なかにはそれなりに的をいているものもなくはなかった。
そんななか、文自身ですら信じていない、丸っきりでたらめで根拠のないものながら、読者には次のような憶測が最も好まれる――
霊夢と魔理沙にあてられて、あのふたりもくっついたんじゃないか結局。
その記事に載っている写真は、数ヶ月振りに日傘を手にした風見幽香と、彼女に抱きつく伊吹萃香の満面の笑顔だった。
あえてやらないカプで和える、アリじゃないか
>幽香で暖かいネチョが少ない
そうかもしれませんね、確かに
あと早苗www
ゆうかりんのイメージが変わりました。こんな幽香の方が自然に思われました。
そしてちらちら色目使っている萃香が可愛かった。萃香エロいよ萃香
っていうかゆうかりんの反応やばい、絶体処女だよこのお方
しかしながらよくぞこのカプで此処までエロ面白いssを書いてくれたもです、もっとやれエエェィィメンンンンンッッ!!!すいません
ちょうかわいい
萃香と幽香…香つながりか!
そしてマリレイが気になるとです。
最高です。目覚めそうです。責任をとって萃香に段々ほだされていく幽香を書いtごめんなさい
ところどころの小ネタが素敵でした。
この二人をこんな風に絡ませるって発想がそもそも素晴らしい
ツンツン×デレデレにも程があるだろうけしからんもっとやry
ぶっちゃけ前作からのファンです
応援しすぎで気持ち悪い自分
幽香も萃香も素晴らしいキャラしてますね。
物語としての完成度素晴らしいと思います。
幽香ちゃん可愛いよ。
皆の性格が俺の理想通りすぎてもう・・・!
良いものを読ませていただきました。感謝!
続き書こう!とりあえず続編を書こう!
話はそれからだ!
貴方は神か。そして・・・続きを書いてっ!
はっちゃけぶりを除いても異変に対する主犯の心情がとても感慨深いです
ニヤニヤが止まらん
きっぱりと言い切る萃香がかっこいいw
心情などがキャラクターのイメージに凄く合っていてたまりませんでした。
萃香×幽香もっとはやれ!この世の真理になるまで流行れ!