第4話 初めてされた告白2

 ミズキちゃんが心配そうな顔で、「誰から?」と声を潜めて言う。


「えっと……あぁ、クラスのサカモト君だ」

「なんだ……クラスの女子からかと思った。でもなんで、サカモト君?」

「話があるみたい。サカモト君は、私の従兄弟と仲がいいの」


 だから、それ関係の話かなぁ。例えば、前回のメンバーで遊びに行こうとか。

 と私は首を傾げる。

 

「なんかよくわかんないけど、体育館裏でって書いてあるね。ちょっと心配だから、静花ちゃんと一緒に行ってもいい?」

「ん? 心配って?」

「え。だって私達、クラスで嫌われてるし」


 なるほど。私は頷いて、ミズキちゃんにもついてきてもらうことにした。

 体育館裏の近くに隠れてこっそり会話を聞いて、ヤバければ先生を呼んできてくれると言う。

 私達は一緒に体育館へ行き、そこからは一人で裏にまわった。ミズキちゃんは近くにいるはずだ。


「あ、静花ちゃん。こっち、こっち」


 サカモト君は私を手招いて、「来てくれてありがとう」と頭をかいた。


「あのさ。今度の休み、遊びに行かない?」


 あぁ、やっぱりか。そう思った私は、「いいよ」と言って了承する。


「え! ほんとに?」

「うん。いいよ。こないだのメンバーで行くの?」

「え? なんで?」

「ん? 違うの?」


 私達は見つめ合い、しばし無言になる。


「あぁ、いや。そうじゃなくて。二人で、でかけない?」

「ふたりで? 構わないけど……どこに?」

「それはまだ……考えてるとこだけど」

「わかった。じゃ、決まったら教えて?」


 言うと、サカモト君は笑顔で、「わかった!」と言って「じゃあまたな!」と去っていく。見送った私もこの場を後にしたところで、ミズキちゃんが駆け寄ってきてくれた。


「す、すごいね。静花ちゃん」

「え?」


 ミズキちゃんは、頬を赤く染めて「愛の告白だったね!」と言う。


「まさか。二人で遊ぼうって言われただけだよ」

「え。それって、そういうことじゃないの? デートでしょ?」

「違うよ。好きって言われてないし」


 ミズキちゃんはきょとんとして、「そうなの?」と目をぱちぱちさせる。

 そうだよ、と言って私は笑った。





 翌日。

 私はクラスの女子数人に呼び出され、心配するミズキちゃんに「大丈夫」と声をかけてから、女子トイレへ行く。そこで私は数人の女子に囲まれた。


「相枝さんって最低だね」


 数人の女子の一人が、目を吊り上げながら「サカモト君とデートするんでしょ」と言う。


「マユミちゃんは、ずっと前からサカモト君のこと、好きだったんだよ。今も好きなんだよ。相枝さん、ここに1か月しかいないくせに、横取りするの?」


 そんなつもりは、微塵もない。だけど二人で遊ぶ約束をしたのは、事実だ。

 彼女たちが何で知っているんだろうと思いつつも、私は誤解を解かなければと言葉を選ぶ。


「デートじゃないよ。でも二人で遊ぶのはやめて、複数で遊ぶよ。サカモト君は、従兄弟のタカ君と仲が良いから、それで仲良くなっただけだから」


「なにそれ。最低」


 また別の女の子が、私を睨みつける。


「サカモト君のことが好きじゃないなら、遊ぶのやめなよ」

「あっ、そうだね。ごめん。遊ぶのは、やめとくよ」


 即答で言うと、女の子達は納得した表情を浮かべ、「じゃあ、そういうことだから。よろしくね」と言って、立ち去っていく。そして去り際に、たぶん、わざと聞こえるように、


「なんか相枝さんって、調子乗ってるよね」

「自分はモテる、とか思ってんじゃないの」

「うわ、さいあくー」


 と言って、今度こそ去って行った。

 ふぅ、と一息つき、トイレを出る。するとそこには、ミズキちゃんの姿があった。


「あ、ミズキちゃん」

「うん。なんか、心配になって。ごめんね。私と仲良くしてるから、静花ちゃんまで色々、言われるようになって」

「それは関係ないよ。私は、気にしてないから」


 私はにっこり笑って見せて、それから「行こ!」と歩き出す。

 クラスには馴染めていないけど、私はミズキちゃんと過ごす学校生活が好きだ。

 それで十分だ。

 そう思う気持ちを伝えると、ミズキちゃんはとてもとても喜んでくれた。


 その夜。

 私は家でタカ君に一連の出来事を伝え、だからもう二人で遊ぶことはできないことをサカモト君にうまく伝えて欲しいと頼んだ。


 タカ君は、複雑な顔をして、けれど伝えてくれると言う。

 タカ君は家の電話を使ってサカモト君に話してくれて、それで全て丸く収まったと思った私だったけれど、翌日、また女子トイレに呼び出されたのだった。


 女の子達は、とても怒っていた。

 タカ君がサカモト君にどう話してくれたのかは分からない。

 でもマユミちゃんの気持ちはサカモト君に伝わってしまっていて、サカモト君がマユミちゃんを避けているのだと言う。

 それは全部、私のせいだと女の子達は私を責めた。

 私は何も言えなかった。


 チャイムが鳴るまで責め文句が途切れることはなく、私はただ黙って責められ続けていた。

 続きはまた昼休みにね、と言われ、憂鬱に思いながら一緒にトイレを出ると、そこにはサカモト君がいた。


「お前ら、いい加減にしろよ。最低なのは、お前たちだろ」


 トイレでの会話が漏れていたらしい。

 サカモト君に睨まれて、女の子達はオロオロしている。

 

「これ以上、続けるなら先生に相談する」


 そう言って教室へ引き返していくサカモト君と、立ち尽くす女の子達。


「なんか、大事おおごとになりそうだね。私は、かまわないけど」


 私が言うと、女の子達は困った顔をして、顔を見合わせていた。

 とりあえず教室へ急ぎ、授業を受ける。

 昼休みになっても、彼女達は私の所へは来なかった。


 それからは何事もなく、ミズキちゃんと一緒に学校生活を楽しむ日々。

 登校最終日になって、ミズキちゃんと別れるのが辛かった私は、ミズキちゃんと一緒に泣いた。泣いて別れてひとりで帰っている途中、家に着く直前の道路でサカモト君と会った私は、「あの時はごめん」と謝られていた。


「好きになって、ごめん」


 それだけ言われると、言葉を返す前にサカモト君は走ってこの場を去って行く。

 私はなんとも言えない気持ちになって、でもサカモト君と話す機会はもうなかった。


 翌々日、私は両親とイギリスへ旅立った。

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