真・東方夜伽話

妖夢の背伸び

2012/07/08 01:08:43
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妖夢の背伸び

ドールマスター
 何かを得るためには、怖くても一歩を踏み出さなくてはいけない。
 恐怖を、躊躇を、未練を乗り越えた者だけが、求めるものを手に入れることができる。
 それこそが、敬愛する師の最初の教えではなかったか。
 ぐ、と小さな拳に力を込めて、妖夢は高くそびえる門の前に歩み出る。
 一歩足を踏み出し、二歩足を踏み出し、今にも両肩を掴んで引き戻そうとするためらいを引きちぎるように、歩みを進める。
 三歩目で、一瞬とは言えためらいは完全に振り切った。刹那を逃さず、抜刀する。
 長大な刃が抵抗なく引き抜かれ、鯉口から切っ先が離れた瞬間には、相手を捉えていた。
 不可避の一刀――!

 人鬼・未来永劫斬――!

「へ?」
 紅美鈴に許されたのは、その一声のみ。
 それを境に、彼女の命脈は、その守るべき門とともに両断された。
 骸を一顧だにせず、妖夢は魔の住む館、紅魔館の庭に足を踏み入れる――瞬間!
「ふッ!」
 自らの身に放たれるであろう白銀の煌きを、妖夢は「聴」き――そして回避。
 半瞬前まで妖夢のいたその空間が引き裂かれた。
 八相に構えつつ、殺気を飛ばす。
「呼び鈴はもっと、静かに鳴らすものよ」
 ふ、と。
 時間が飛んだように――否、実際に時間を飛ばして、ひとりの女性がそこに現れた。
 手にしたナイフと同じ、研ぎ澄まれた美貌のメイド。十六夜咲夜。
 妖夢は仕掛けない。仕掛けられない。
 その殺気に、あるいは美貌に呑まれて。
「あなたはもっと、おとなしい子だと思っていたのだけれど」
「……火急の要件が、あります」
「ふぅん……? 手合わせでもお望み?」
 首を少しかしげて返す咲夜。銀の前髪が、ぱらりと落ちる。
 その様に妖夢は、意識を奪われかけた。
 ぶんっとかぶりを振り、咲夜に向き直る。
 言え! 言うんだ!
 剣柄を執った手のひらがぎりりと鳴る。丹田に力を込める。
 腹に溜めた息を、裂帛の気合で叩きつけた。
「わたしをッ!!」
 一瞬だけ、咲夜が虚をつかれた。
 重ねる!
「オンナにしてくださいッ!!」
 ――沈黙だけが、そこにあった。
 そしてややあって。
 ほんとすいませんでしたかくなる上はこの腹かっさばいてお詫びをッ!! 天国で割腹ッ!! とわめき散らす妖夢を拘束して自室に持ち帰ったのが10分ほど前。
 ようやく落ち着きを取り戻したらしい妖夢は、テーブルについて出された紅茶をちびちびすすっている。
「どう? 落ち着いた?」
「はあ……ほんと申し訳ありませんでした……あの、真っ二つにしちゃった門とついでに門番さんの修理はわたしがしますから……」
 へなへなとこうべを垂れる妖夢に、咲夜は苦笑する。
「いいのよ、そんなの。門が壊れるのも門番が壊れるのもいつものことだし……で、結局要件ってなんだったの?」
 咲夜がそう聞くと、妖夢はびくっと一瞬身を固めてから、小さな声でぽそぽそと話し始めた。
「えと、その……わ、わたしって、その、ちっちゃいじゃないですか」
「まあ、小柄な方よね」
「で、ですね、わたし、その、こ、こどもっぽいじゃないですか」
「まあ、あなたの種族は成長が遅いらしいからね」
「で、その、い、いっつも稽古ばっかりで、その、人里とか行っても、お使いばっかりで、あんまりその、服とか……」
「ああ、それで買い物に付き合って欲しいの? うーん……明日くらいなら予定空けてあげられると思うけど、それでいい? ……どしたの?」
 見ると妖夢は、紅茶のカップを握りしめてぷるぷる震えている。
「あ……」
「あ?」
「ありがとごじゃみょおおおおん!!」
 目の幅涙をだばぁと流しながら咲夜に飛びかかる妖夢。
 ひと悶着のあと、妖夢は丁寧に例を述べて咲夜の部屋をあとにした。
「ふふ……」
「な、なんですか」
 紅魔館の門前まで見送りに来ていた咲夜は、ふと笑みを漏らした。
 前を歩いていた妖夢が、ちょっと顔を赤くして振り返る。
「いえね、どういう心境の変化なのかなーって。なあに、好きなひとでもできたの?」
「ひぁぅっ!? そ、そういうんじゃなくて、でも……」
「でも、なあに?」
「うー……」
 妖夢はしばらく押し黙っていたが、上目遣いに小さな声で言った。
「その……色っぽく、なりたくて……」
 そんな可愛らしい返事を返す妖夢の頭に、咲夜はぽんと手を乗せてなでてやった。
「みょん……」
「それで私に白羽の矢を立ててくれた、と。ふふ、これは責任重大ね」
 笑ってみせると、妖夢はますます顔を赤くした。
 そして翌日、人里の待ち合わせ場所。
「さて、あの子は……と」
 愛用の懐中時計で時間を確認する咲夜。待ち合わせ時間のきっかり20分前。
 妖夢の性格からして、待ち合わせ時間ちょうどに来るなんてことはないだろう。きっと30分前、いや、もしかしたら1時間前には来ていてそわそわあたりを見回しているんじゃないか。
 妖夢のその様子が簡単に想像できて、咲夜は一人で小さく吹き出してしまった。
 午前中だからか、空いている店はまだ少なく、人通りもまばらだ。
 その中に、妖夢は咲夜の想像通りの姿でいた。
 落ち着かなげな様子であたりをキョロキョロと見回しては、ため息をついたり服の裾をいじったりしている。
 咲夜はその様子に笑を漏らしながら挨拶をしようとしたが、思いとどまる。
「妖夢、おはよう」
「みょんっ!?」
 背後から突然声をかけられて、妖夢はみょんな悲鳴を上げて飛び上がった。
「ささ、咲夜さん!? 時間止めておどかすのとかやめてくださいよぅ!」
「あはは、ごめんなさい。ついね……で、待った?」
「い、いえっ、今来たところです」
 そう可愛らしい嘘をつく妖夢の頭を、咲夜は優しく撫でてやった。
「さて、服だったかしらね。どこか知ってる店とかある?」
「え、えと、お店とかは外から見るだけで、入ったこととか、なくて……」
 どんどん尻すぼみになってしまう妖夢の言葉に、咲夜は苦笑する。
「そう。じゃあわたしの行きつけのお店でいいかしら?」
「は、はい! ……な、なんかすいません、こっちから誘ったのに……」
「気にしないの。おねーさんに任せときなさい!」
 そう言ってウィンクを投げてやると、妖夢は顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。
 そんな妖夢に微笑みかけて、咲夜は歩き出した。
 いくつかの店を周り、時刻は昼過ぎ。人通りも多くなっている。
 咲夜は迷うことなく数件の店に入り、手馴れた様子で服を手にとっては妖夢にあてがい、気さくな調子で店員と会話を弾ませている。
 妖夢は咲夜に先に言ったとおり、こういう店で買い物をするのは初めてだったのでされるがままだった。
 てきぱきと妖夢の渡した予算で会計を済ませる咲夜の姿を、妖夢はぼんやりと眺めている。
「ん? どしたの?」
「なっ、なんでもっ!」
「うふふ、良かったわねえ。いつもお使いの時に窓からお店の中見てたでしょ? 今度その服着てまたおいでなさいな」
「みょっ!?」
 店員に笑顔でそう言われ、バレてた……と愕然となる妖夢だった。
「さて、服も買ったし、どこかでお茶でもどう? おごるわよ」
「え、そ、そんなっ、悪いですっ」
「いいのいいの、わたしも楽しませてもらってるんだから」
 そう言って咲夜は、柔らかな笑顔を向けた。
 店を出たふたりは、咲夜のおすすめだという喫茶店に行くことにした。
 すいすい歩いていく咲夜の横に並ぼうと、妖夢はやや早足で歩く。
 二人で人里を歩きながら、すごいな、と妖夢は思った。と同時に、やっぱりな、とも思った。
 咲夜と人里を歩くのはこれが初めてだったが、やはり思ったとおりだった。
 見るまでもなく、周囲に気を配るだけでわかる。
 道行く人の誰もが、こちらを――咲夜を見ている。
 男はもちろん、女でさえも。中には物陰に隠れてしまう者、目をそらす者もいる。
 見とれているのだ、咲夜に。
 やっぱり、そうだ。妖夢は思う。
 歩いているだけでこうも人の目を惹きつける。
 ……自分には、とてもできない。
「さ、着いたわ。ここよ」
 咲夜の声をかけられて、妖夢はばっと顔を上げる。
 咲夜が示すのは、こぢんまりとした品のいい喫茶店だった。
 咲夜に導かれるまま、窓際の席に着く。
 落ち着か投げな様子の妖夢を、咲夜は面白そうに眺めている。
 組んだ両手の上に顎を乗せたその仕草に薫るような色気を覚え、妖夢はほう……とため息を漏らす。
「色っぽいなー……」
「うん?」
「はわっ!?」
 慌てて両手で口を塞ぐ妖夢。
 右を見て、左を見て、咲夜がじーっとこちらを見ているので、観念して口を開いた。
「い、色っぽいですよね、咲夜さんて」
「そうかしら?」
「だって、今日も道歩いてて、みんな咲夜さんの方見てて」
「この服が珍しいんじゃないの?」
 そう言ってメイド服をつまんでみせると、妖夢はぶすっとした。
「わざととぼけてるでしょ、それ……」
「ふふ、まあ多少の自覚はあるけれど。でも、あなたも結構可愛いと思うけど。わたしから見て」
 そう言われて妖夢は一瞬嬉しそうな顔をしたが、すぐに落ち込んだ顔になってしまう。
 やがて、注文した二人分の紅茶が運ばれてきた。
「いくつ?」
「へ、あ?」
「お砂糖」
「え、あ、ふたつ……」
 咲夜はかるく微笑んで、テーブルの脇に置いてある趣味のいい装飾をした金色のシュガーポットから、角砂糖を二つ妖夢のカップに入れる。
 カップの中で、白い砂糖がさらさらと溶けていくのを、妖夢はぼんやりと眺めていた。
「飲まないの?」
「あ、はいっ、いただきます……あぢぢぢ」
「ほらほら、慌てないの」
 咲夜はそう言ってから、普段の彼女には似つかわしくない、いたずらっぽい笑みを浮かべた。
「ふーふーしてあげようか?」
 妖夢は思わず「お願いします」と口走りそうになるのを必死でこらえて、なんとか渋面を作った。
「か、からかわないでくださいよう」
「ごめんごめん、妖夢があんまりかわいいから、ついね。で、何の話だったっけ?」
「えとその、咲夜さんが色っぽいなって……」
「色気、ねえ……」
 うーん、と指先を口元に当てる咲夜。
 細い指先でカップを口に運ぶ。
 薄くルージュを引いた唇がカップの縁から離れ際に、ふ、と吐息がこぼれた。
と、妖夢がずびしっと指差した。
「それですよそれ、そういうの!」
「うん?」
「その、なんていうかそういう仕草、自然に色っぽいというか、見とれちゃうというか……羨ましいっていうか……ごにょごにょ」
 咲夜はそんな妖夢を黙って見つめていたが、手を伸ばして妖夢の柔らかな銀髪をなでてやった。
 その手が、すいっと頬に触れる。
「私の部屋に行きましょ。おめかししてあげるわ」
 店を出て、妙にうきうきした足取りの咲夜を、妖夢はちょこちょこと小走りに追った。
 妖夢を連れて自室に戻った咲夜は、買ってきた服をベッドの上に広げる。
 白いだけのベッドが、色とりどりの花畑になると、妖夢は思わずため息を漏らす。
「わああ……きれーい」
「何言ってるの? キレイになるのはこれからよ?」
 言うが早いか、咲夜はぱちんと指を鳴らす。
 と、妖夢の姿は一瞬にして純白のワンピース姿になった。
「こういうのはどうかしら? けっこう似合うと思うんだけど」
「へ? え? い、いつの間に!?」
 困惑する妖夢だが、その顔は嬉しそうだ。
 本当にこういう格好をするのは初めてらしく、ワンピースの裾を持ってひらひらさせたりしている。
「えへへ……なんか、こういうのって、照れちゃいますね」
「でも、悪くないでしょう?」
 妖夢は明るく頷いて、その場でくるっとターンしてみせる。
 ワンピースの裾が花のようにふわりと舞い上がり、素足が膝の上まで覗く。
「きゃあ!」
 慌ててスカートを押さえる妖夢。
 咲夜はそんな妖夢をくすくす笑いながら眺めている。
「ふうん、鍛えてるだけあって、足きれいよね。もっと足を強調する方向で行こうかしら」
「や、ちょ、あんまり見ないでくださいよう……」
「やめろと言われるとやりたくなるのが人情ってね。それに……」
 ぺらりとスカートの裾を持ち上げる。
「なかなか、色っぽいわよ」
「え……」
 言われた妖夢は、顔を赤くしながらも嬉しそうだ。
「えー……えへへ、ほんとに……?」
「ええ、ほんとよ」
「えへ、じゃあ……もすこし短くても、いいかな、なんて」
「それじゃあ、こんなのどう?」
 また咲夜が指を鳴らす。
 すると今度は妖夢の衣装は、ワンピースからミニスカートに早変わり。
 途端、妖夢は悲鳴を上げた。
「みみみみ短すぎますよう! みえちゃう……!」
「ああ、見えちゃうといえば……こういうのも用意してるんだけど」
 そう言って咲夜が取り上げたのは、赤、白、ストライプそして黒などなど……様々な色とデザインのランジェリーだった。
 中には衣服と思えないアレなデザインのものまで混じっている。
 それを見た妖夢の反応は、概ね咲夜の予想通りだった。
 まず目を白黒させ、顔を真っ赤にし、そして自分がこれからされることを悟ってか真っ青になった。
「あの、ちょっと、咲夜さん?」
「どうかしたかしら? 色気って言うからにはこういうものも外せないわよ?」
「いやあのっ、わたしまだその未熟者ですからその、ふ、フツーので十分っていうか。そ、それにこういうのって見せるものじゃないでしょお!?」
「見せないところをあえて着飾るっていうのも大切よ。まあこういうのは見せない物ってわけでもないんだけど。今は白だから、まずは同じ色から合わせてみようかしらね」
「今は……って、みみみみ見たんですかあ!?」
「まあさっきから時間止めて着替えさせてるわけだしねえ」
「なにとんでもないことさらっと言ってるんですかあ! あううう、見られちゃった……こどもっぽいの穿いてきちゃったのにぃ……こんなことならもっと、その、あの、マシなの穿いてくるんだったあ……」
 よよよと泣き崩れる妖夢。
 そんな妖夢を見ていると、咲夜の胸の中にむくむくと悪戯心が鎌首をもたげてきた。
「そんなに言うなら、今から着ければいいじゃない」
「ちょ、時間止めるのとかやめてくださいよ!」
「ええ、じゃあ時間は止めないわ。だから……」
 咲夜は素早く手を伸ばして妖夢の腕をつかみ、引き寄せる。
 弾幕ごっこの最中なら鋭い反応を見せるはずの妖夢の矮躯は、ほんの少し力を入れただけであっさり咲夜の胸に収まった。
「直接、着せてあげるわ。はーいよーむちゃんぬぎぬぎしましょうねー♪」
 言うが早いか、咲夜は妖夢の上着のタイをするすると解き始めた。
 妖夢が抵抗する前に、そのまま流れるような動作でボタンを外す。
 中途半端にはだけられたシャツから覗く首筋が、羞恥からかほんのり赤く色づいている。
 流石にいたずらが過ぎたかと、なーんて冗談よ、と言って着衣を戻そうとして前に回した咲夜の手を、妖夢がとった。
 手を握ったというほどでもない弱々しい力だったが、なぜか咲夜は手を動かせなくなっていた。
「妖、夢……?」
 肩ごしに振り返る妖夢。
 その瞳は、潤んでいた。細い肩がふるえていた。幼い唇が、言葉にならない吐息をかすかに漏らした。
 見えない糸に操られるように、咲夜は両手を妖夢の腰に回し、少しだけ力を入れる。
 体が密着する。
 あ……れ?
 わたし、何をしてるんだろう……?
 そういう思考は既に頭の隅に追いやられて、気がついたときには咲夜は、妖夢に口づけていた。
 妖夢は……抵抗しなかった。
 そのまま数秒間、二人は唇を合わせていた。
 唇を離したのは、咲夜の方からだった。
「ご……ごめんなさい。ふざけすぎたわ」
 慌ててそう言う。
 どうしてこんなことをしてしまったのか、自分でもよくわからなかった。
 妖夢の涙をたたえた瞳に、惹かれるようにそうしてしまったのだ。
「あ……っ」
 妖夢が弱々しい声を上げて、咲夜の服を掴んだ。
 何かを言いたそうに、でも言えなくて、かわいそうになるくらい瞳を潤ませて口をぱくぱくさせている。
 咲夜の方も、何を言っていいかわからない。
 二人はそのまま、見つめあったまま黙り込んでしまう。
 そのあいだも、密着した体は離れずにいた。
 先に沈黙を破ったのは、妖夢の方だった。
「あの……いいんです……いいの……」
 妖夢が何を言わんとしているのかはわからない。
 咲夜は黙って、続きを待つ。
 妖夢はなかなか続きを口にしなかった。指先で涙を拭いながら、しきりに言葉を探している様子だった。
「その……咲夜さんみたいに、なりたくて……わたし……えと……」
 うつむいていた顔を上げ、涙ぐみながらも妖夢は、まっすぐに咲夜の目を見て告げた。
「すき……です。好きなんです、咲夜さんのこと……」
 困惑も驚きもなかった。無論、拒否感も。
 ああ、嬉しいな、と、咲夜は素直に思った。
 妖夢は、つっかえつっかえ、続ける。
「だけど、わたしってこどもだから、その……い、色っぽくとか、全然ないし、だから、咲夜さんとその、釣り合うようになりたくて……えと……」
 妖夢は、なんとかして笑顔を作ろうとしているようだった。しかし、涙が溢れてくるのを抑えられず、その顔はくしゃくしゃに歪んでしまっていた。
 じわり、と、咲夜の顔に笑みがにじむ。
 妖夢の顔を、そっと抱き寄せた。
 メイド服の胸元に、妖夢の涙が染みる。暖かかった。
「バカね」
 前髪を指先で払い除け、その額に口づける。
 妖夢は小さく声を漏らした。
「十分よ……妖夢はとっても、かわいくて……ふふ、色っぽいわ」
「え……」
「だって私、さっき思わずキスしちゃったのよ……?」
 こつん、と額を当てて、妖夢の顔を間近から見つめる。
 潤んだ瞳、真っ赤になった頬、開いた襟元から覗く、真っ白な首筋。
 未成熟な肢体の持つ危うげな色香が、そこにはあった。
 は……と妖夢は息を吐く。熱い。
 とろけたように、微笑む。
「うれし……」
 妖夢は無防備な笑みを浮かべ、咲夜に抱きつく。
 赤ん坊や子猫がそうするように、熱い頬をすり寄せてくる。
 そんな仕草が、むき出しの好意が無性に愛おしい。
「キス、してもいい?」
 そう聞くと妖夢は、抵抗する様子もなく目を閉じた。
 そっと口づけて、少しだけ舌を入れてやると、妖夢は懸命に応じようとする。
 合わせた唇から、唾液がひと筋、ふた筋と流れ落ち、白い喉を濡らした。
 唇を離すと、妖夢はそれだけで達してしまったかのように、くたりと咲夜の胸に体を預けてきた。
 咲夜は妖夢の弛緩した体を、膝の上に横たえる。
「脱がせても、いい……?」
 そう聞くと、妖夢はぽーっとした顔でこくんと頷いた。
 はだけた襟元に手を差し込み、そっとひらく。
 それだけで、妖夢の色白な肌はさぁっと薄桃色に色づいていく。
 上半身には、下着は付けていなかった。
「ブラ、してないのね」
「だ、だって……ちっちゃいし……ぺたんこだし……ひゃう!」
 咲夜の指先がするりと肌をなでると、妖夢は高い声を上げた。
「うふふ……敏感、なのね」
「やぁぁ……はずかし、ですぅ……」
「なでてあげると、肌がピンク色に染まって……色っぽいわ」
「えと、じゃあ……」
 妖夢のふるえる手が、咲夜の手に重ねられた。
「わたしのコト……もっと、色っぽく……咲夜さんに、負けないくらい、色っぽくして、くださぁい……」
 ふるえる吐息で、妖夢はそう言った。
 返事の代わりに、咲夜は身をかがめて妖夢の頬に口づけた。
 薄紅色のルージュの跡が、妖夢の首筋に、胸元に、お腹に刻まれる。
 つん、と健気に尖った乳首に咲夜の唇が触れると、妖夢は咲夜の膝の上で幼い肢体を跳ねさせた。
「ひぁぁ……おっぱいぃ……おっぱい、ちゅーって、されてるぅ……」
「ん、ちゅ……ふふ、もっと、気持ちいいトコ、触ってあげる……」
 耳元で囁きながら、咲夜は指先を妖夢のささやかな乳房からさらに下に滑らせる。
 下着越しにそこにそっと触れると、妖夢の両膝がびくっとふるえた。
「……こわい?」
 そう聞くと、妖夢はかすかにかぶりを振ってみせた。
 ショーツの上から、ゆっくりと指の腹を往復させる。
「あ、あ、それ……それ、じんじんって……ん、やぁ……ヘンな声、でちゃう……
 ショーツの裾から指をすべり込ませると、間近から覗き込んでいる妖夢の瞳が揺れた。
 ちゅぷん、と指先を沈みこませる。
「はひぅ……っ! ゆ、び……!」
「ほら、ここ、こうすると……ね?」
 赤ん坊をあやすように語りかけながら、咲夜は指先を出し入れする。
 その度に妖夢の股間からは蜜が溢れ出し、シーツを濡らした。
 妖夢の表情はいつしか、困惑よりも快楽の色が濃くなってき始めていた。
 幼い妖夢の顔が快楽に翻弄される様には、言い知れない色香がある。
 むしろ、妖夢を愛撫しているはずの自分の方が翻弄されている……そんな気分にすらなる。
「あ、あ、なんか、ぞくぞくして、びくびくしてっ、やだぁ、あっ、あ、さくやさっ、そんな、ぢゅぷぢゅぷしたらっ、ひぁ、あ、あ、あああああーっ……!」
 か細い悲鳴とともに、妖夢は達した。
 咲夜の膝の上で、ひくん、ひくんと体をふるわせながら、妖夢はとぎれとぎれの声で咲夜の名前を呼んでいる。
 こういう行為には慣れていないとは思っていたが、視線もなかなか定まらない。
 ちょっと心配になって、咲夜は妖夢の赤みの引かない頬をぴたぴた叩いてみた。
 すると妖夢は、もぞもぞと顔を動かして――咲夜の手を、ぺろりと舐めた。
「あ……っ」
 反射的に手を引っ込めそうになったが、できなかった。
 妖夢はなおも、咲夜の手に舌を這わせている。
 その、くすぐったいくらいの感触が、咲夜の手をその場に縫い止めていた。
 頬をなでてやると、妖夢はきゅぅん……と、嬉しそうな声を漏らす。
「……十分、色っぽいわよ、妖夢」
 だって。
 わたしはもう、あなたに夢中だから。
はいそうです、こんぺに間に合いませんでした……
というわけでこっちに投稿します。
次は間に合わせたい……。
せっかくなので投稿予定だった本文そのままで投稿します。

次回は咲夜さんが初めて魔理沙の家に遊びに来たよ的サクマリで。
ドールマスター
doll_player@mail.goo.ne.jp
http://www.geocities.jp/yuuma_hazama2000/
コメント




1.名前が無い程度の能力削除
咲夜さんに弄ばれる(?)妖夢可愛いなぁ!

咲マリ期待してます!
2.名前が無い程度の能力削除
何気ない仕草に大人の魅力を感じさせる咲夜さんいいですね。
そんな咲夜さんをその気にさせてしまう、妖夢の小動物的可愛さも間違いなく本物だ!

咲マリも楽しみですが……咲夜さんどれだけ年下好きなのかと思わずにいられないw
3.名前が無い程度の能力削除
妖夢が可愛くていいけど、めーりんの扱いがひどいw
そして咲夜さんマジ瀟洒