困難な手術だったが、無事成功した。母体・胎児ともに問題はなし。
未熟児だったが元気な泣き声を上げる赤ん坊を抱いた若い父親は、こわもての顔をくしゃくしゃにして涙ぐみながら永琳に何度も何度も頭を下げた。
母親もベッドの中で、涙を浮かべていた。
手術に携わった鈴仙も、てゐや兎たちもが安堵か感動か……多分その両方だろう、同じように涙を浮かべていた。
永琳もまた会釈を返し、生まれたばかりの赤ん坊の頭を優しくなでてやる。
しばらく入院した後経過を見て、異常がなければ退院できるという旨を告げると、父親は名残惜しげに何度も後ろを振り返りながら永遠亭を後にした。
「なかなかの大手術だったわね。みんな、よくがんばってくれました。ウドンゲもね」
見送りに出ていた永琳が、後ろに続いて出てきた兎たちにねぎらいの言葉をかける。
「師匠こそ……でも、ぐすっ、よかったですねえ、元気な赤ちゃん……」
そういって鈴仙はしきりに袖口で目元をぬぐっている。
「まーた、れーせんてばすーぐ泣くんだから。いい加減慣れたら?」
「てゐだってさっき泣いてたじゃないの!」
そんなふうに仲良くけんかを始める二人の頭をなでてやると、二人はそろって頬を赤らめてうつむいた。
「さあ、手術も大成功したことだし、今夜はごちそうにしましょうか。ねえ、ウドンゲ?」
「はいっ! 腕によりをかけますから、期待しててくださいね! ……ん?」
明るく笑って玄関に戻ろうとしていた鈴仙が、ふと永琳のほうに視線を向けた。
「あはは、師匠ったら……そんなにおなかすいてるんですか?」
「え?」
「だぁって、ほら」
鈴仙がくすくす笑いながら指差すその先、永琳のおなかの辺り。
永琳はそこに片手をやって、さするようなしぐさをしていた。
「あ、あらいやだわ、もう……」
「じゃ、急いでご馳走作ってきますね!」
そう言い残して、てゐを連れて厨房に向かう鈴仙の背中を、永琳はしばらく見るともなしに眺めていた。
永琳は虚空に向けて、ふ、と嘆息する。
「……しょう、師匠?」
「うん?」
「あの、そんなにお疲れだったんですか? なんだかぼーっとしてますけど……」
「うふふ……あなたの声が可愛くて、のぼせてしまったかしらね……」
「も、もぉ……」
豪華な夕食の後、永琳はいつものように鈴仙を褥に誘った。
鈴仙のすべらかな肌をひとしきり愉しんだあと、永琳は何も言わずに情交の熱の引かない体を横たえていた。
心配そうな顔で覗き込んでくる鈴仙の髪をひと房手にとっただけで、その瞳の奥に熾火のような情交への期待がぼうっと灯るのを、永琳は見逃さない。
目顔で示してやると、鈴仙は従順に従った。
上等なシーツの上に、桜色に色づいた裸体を横たえる。
これからの情交を想像してか、裸形をさらすだけで高ぶっているのか、鈴仙の吐息にはすでに熱がこもり始めていた。
形の整った乳房が、身じろぎするたびに揺れる。
永琳はそっと手を伸ばし、恥ずかしげに寄せられた鈴仙の両膝に触れる。
「はい、師匠……」
何を言われるまでもなく、鈴仙は熱っぽい声音で返事を返す。
少しのためらいの後、足を開く。
しなやかに伸びた二本の足、その間に息づく、鈴仙の秘所。
熱くとろけたそこを、鈴仙は震える指で押し開く。
くちゃ……と濡れた音を立てて、ひと筋のしずくが鈴仙の内股を伝ってシーツに染み込んでいく。
「……あ、は……」
直接触れられるまでもなく、永琳の視線を感るだけで、鈴仙は全身をひくん、ひくんと震わせた。
「も……ぉ、とろとろに、なって、ま、すぅ……ししょおの、指で……いっぱい、いじめられて……」
上ずった声でそんな言葉をこぼす鈴仙の滴るような媚態に、永琳は穏やかな笑みを返す。
指先で肌をなで上げるだけで、鈴仙は嬌声を上げる。
「し、しょお……っ、ゆびぃ……指、ほしいです……ここに……ほしいぃ……」
「ふふ……あんなに可愛がってあげたのに、欲張りねえ?」
「それはぁ、ししょおがぁ……」
「あら、責任転嫁? だめでしょ、そんな無責任なこと言っちゃ……」
甘やかな声でささやきながら、永琳は鈴仙の足の間に顔を寄せる。
鈴仙のそこは吐息がかかっただけで敏感に反応する。
焦らすように濡れた太ももに片手を這わせながら、もう片方の手の人差し指をゆっくりと挿し入れる。
「はぁうん……っ!」
白いのどをさらしてのけぞる鈴仙。
永琳はさらに、指をもう一本、また一本と増やしていく。
「ひぁ、ひぁぁ……ゆびぃ……さん、ぼんもぉ……はいっ、てるぅ……」
永琳の指が動くたびに、鈴仙はとろけきった嬌声と熱いしずくを漏らす。
「可愛いわ、ウドンゲのここ……いっぱいに開いて、まだ欲しがってるんじゃないの?」
「やぁぁ……そんなにいっぱい入れたら、壊れちゃいますよぉ……」
「そんなこと言って、すぐに指だけじゃ我慢できなくなっちゃうわよ?」
「そう……しちゃうんでしょ、師匠が、わたしを……」
「うふ……」
嫣然と微笑み、永琳は指先を外科手術の精緻さで動かす。
「ひぅんっ!?」
「ここが一番弱いのよね、あなたは」
「ひゃ、あ、あ、あ、あぅんっ! ひんっ! だ、めぇ! そこ、だめなとこです、か、らぁぁ!」
永琳の指先のほんのわずかな動きだけで、鈴仙は操り人形のように肢体を震わせる。
長い髪を振り乱し、乳房を跳ねさせ、秘所から飛沫をほとばしらせる鈴仙。
体の断続的な震えが、だんだんと止まらなくなっていく。
「ひぃ、ひ、はひ、いぃっ、い、くの、とまらな、ひ、あ、あ、こ、こわ、こわれひゃ、あ、あああ、あああ……!」
鈴仙は引きつった悲鳴を上げながら絶頂を繰り返す。
激しく収縮する鈴仙の胎内で、永琳の指先が無慈悲なまでの正確さで致命的なポイントに触れた。
瞬間、深く挿入した指先を通して鈴仙の絶頂がはっきりと永琳には感じ取れた。
「っひ!? ひはぁぁああああああーーーーーっ!」
鈴仙の絶頂は数十秒間もの間続いた。
腰が感電したように痙攣し、秘所からは大量の愛液が噴き出して永琳の肌を濡らす。
お尻が完全にシーツから浮き、痙攣に合わせて何度も濡れたシーツをたたく。
「……っあ」
びちゃっと濡れた音を立てて、鈴仙の体がシーツの上に落ちた。
体をまだ小刻みに痙攣させている鈴仙の髪を、永琳はやさしく撫で付けてやる。
「……わ、れ、ひゃった……わらひ、の、こわれ、ひゃ……」
涎まみれの口からうわごとのような言葉をこぼす鈴仙に、永琳はくすくす笑いながら語りかける。
「指くらいで壊れやしないわよ、大げさねえ。そこからは赤ちゃんだって出てくるんだから」
言いさして永琳は、ふと口をつぐむ。
それはありえない。
鈴仙……すなわち「玉兎」は戦闘を主たる目的として人工子宮内で培養、調整された人造種であり、人体をベースに造られているため生殖器はあるが生殖能力を持たない。
つまり、玉兎が妊娠・出産することはないのだ。
ふ、と嘆息し、まだ呼吸の整わない鈴仙の頭を抱えあげる。なぜそんなことをしたのかはわからない。
汗ばんだ乳房を、鈴仙の口元に寄せる。
固くとがった先端に、鈴仙の熱い吐息が触れ、永琳はかすかに肩を震わせた。
「あ、はぁ……む、ん、ちゅむ、ちゅう……」
鈴仙は夢うつつの表情で、口元に寄せられた永琳の乳首を口に含んだ。
愛撫というよりはむしろ、幼い赤ん坊が母親の乳房を吸うようなその様子に、永琳は自分でも思いがけないほど優しい気持ちになった。
乱れた髪を優しく撫で付けてやると、鈴仙は赤ん坊がむずがるような声を漏らした。
絶頂の後の弛緩とは異なる、ひどく安心しきった表情で、鈴仙は永琳の乳房を吸い続ける。
やがて寝息を立て始めた鈴仙の髪を片手でもてあそびながら、永琳はもう片方の手を無意識におなかの辺りに当てていた。
入院していた妻も無事退院し、手術の後と同じように涙ぐむ夫婦を送り出した日。
永琳は妙に寝付けず、縁側でぼんやりと立っていた。
そういう気分でもなかったので、今夜は鈴仙を誘うこともしていない。
雲ひとつない夜空には、剣のように鋭く尖った見事な三日月が浮かんでいる。
ひんやりとした夜気に身を浸していればいつもなら頭が冴えてくるというのに、今夜に限ってなにかもやもやしたものが頭にまとわりついて離れない。
「あら、永琳。まだ起きてたの?」
声のほうを振り向くと、墨を流したような黒髪がさらりと揺れている。
「輝夜……」
「イナバかと思ったら、あなただったのね」
「イナバ?」
「あなたの愛弟子」
からかうような口調でそう言って、輝夜は永琳の隣に立ち、同じように空を見上げる。
「アレもね、時々同じように夜中にこうして月を見上げてるのよ」
「そう……」
「まあだ昔のこと気にしてるのかしらね。過ぎたことなんてさっさと忘れちゃえばいいのに」
「あの子はそういう子なのよ……」
「あなたも似たようなものなんじゃない?」
「え……」
目を向けると、輝夜は薄い笑みを浮かべている。
「あなたってけっこう……『残ってる』わよね」
「残ってる……?」
永琳の疑問には答えずに、輝夜は視線を空の三日月に戻す。
月光に青ざめたその横顔は文句のつけようもなく美しい。
しかしそれは、見る人の心を和ませるような種類の美しさではない。
宝石や刀剣類のような、かたく鋭い、暖かさの抜け落ちた冷たさを帯びた美しさだった。
「あのイナバのことといい、鈴蘭畑の人形の一件といい……ふふ、意外に情に厚いじゃない、最近。ああ、そういえば人間の里に行ったり病気の人間を診たりしてあげてるみたいじゃない?」
輝夜の意図が分からず、永琳は沈黙する。沈黙し、自問する。
月から逃げてきた鈴仙を保護し、鈴蘭畑に出かけていき、そして今は里のために医師として働いている。
それは、なぜ?
永琳がその答えにたどり着く前に、輝夜はきびすを返す。
「ま、慣れないことはほどほどにね。適材適所、って言うでしょ? それに……」
「それに……?」
「よくないわよ、ないものねだりは」
それだけ言うと、輝夜は永琳に背を向けて歩き始めた。
あくびをしながら廊下を行く輝夜が、思い出したように振り向く。
「……おなかでも痛いの?」
「え?」
それだけ言って、輝夜は長い廊下の向こうに消えてしまった。
自分が片手でおなかの辺りをさすっているのに気づくのには、少しかかった。
ふ、と永琳の口から漏れた今日何度目かのため息に、薄暗い永琳の自室を照らす燭台の炎がゆらめいた。
おかしい。どうにも頭がすっきりしない。なにかが頭の回りに付きまとっている感じがどうしても取れない。
「疲れてるのかしらね……」
そう漏らして、苦笑する。
やろうと思えば飲まず食わず眠らずで活動できる蓬莱人が、疲れたとは。
それに、最近はこれといって疲れを覚えるような大きなトラブルがあったわけでもない。永遠亭は騒がしいがいつもどおりだ。
難しい手術があったわけでもない。この間の若い夫婦の手術も、無事成功したではないか。
――それを思い出したとき、永琳の下腹部に、ずくん、と鈍い痛みが走った。
思わす手をやる。
痛みはもうない。
病気……という考えが頭を掠めかけて、永琳はまた苦笑する。
永琳――蓬莱人の不死性の正体は、超強力なホメオスタシスだ。
肉体の欠損はもとより、病変による肉体の変質もまた即座に復元される。よって蓬莱人は病気に罹患することはなく、肉体が大きく変質することもないのだ。
しかしその幻痛の名残は、いつまでたっても熾き火のようにくすぶり続けている。
なぜだ? 自問する。
あの手術は無事成功したし、その後の経過を見ても何の問題もない。つい一昨日はあの時生まれた元気な男の子の顔を見てきたばかりではないか。
男の子も健康そのもので、差し出した永琳の指を力いっぱい握り返してきたではないか。
「――っ!」
がたん、と永琳は、椅子を蹴立てて立ち上がった。
呼吸が乱れている。
まるで熱した鉄板にでも触れたかのような自身の行動が、永琳には自覚できなかった。
息が上がっている。
動悸が抑えられない。
どんな毒物も効かないはずの不死身の肉体が、病に冒されたかのように乱れている。
なぜ? なにが原因で?
――分かっているでしょう? 本当は……
窓ガラスに映った自分の顔が、そう哂った。本気でそう思った。
ところどころに薬品の染みがついたガラスを凝視する。
くすんでぼやけた自分の顔が、自嘲的な笑みを浮かべた。
――分かっているんでしょう? どうしたいのか、どうすればいいのか……
ばさり、という何かが床に落ちる音に、永琳ははっとなる。
音のほうを振り返る。古い紙束――永琳自身の作ったレポートが、床に落ちている。
伸ばした手が、震えていた。
レポートには、かすんだインクでこう書いてあった。
「人造生物生成プログラム」
「じゃあ、今日も頼むわね、ウドンゲ」
「いいですけど、ほんとに師匠が行かなくていいんですか? ご夫婦もきっと喜んでくれますよ?」
「経過は順調だし、もう私が診る必要はないわ。ご夫婦にはあなたからよろしく言っておいて」
「……わかりました。でも……」
「なあに? まだ心配事があるの?」
鈴仙は少し言いにくそうに視線をそらして言う。
「最近、ずっと一人で、遅くまで研究室にこもってるでしょう? 体調とか大丈夫なんですか? わたしにお手伝いできることなら……」
「心配性ね、あなたは……」
努めてやさしく、鈴仙の頭をなでてやる。
「だいじょうぶ、心配することないわ。研究のほうは順調で、もうすぐ満足の行く結果が得られそうなの。じゃあ、よろしくね」
それでも心配そうに何度か振り返りながら出かけていく鈴仙の背中を見送ると、永琳は自室へは戻らず、彼女しか足を踏み入れることのない地下の研究室へと向かった。
防護壁を兼ねた重い扉を開くと、冷たい冷気が漂ってきた。
薄暗い照明の中、永琳は研究室へと足を踏み入れた。
部屋のところどころにあるケージを、永琳は目も向けずに避けて歩いていく。
ケージの中のラットが、足音に驚いて小さく鳴いた。
研究室の奥にはさらに多くのケージが無造作においてあった。そのどれもにさまざまな小動物が入っている。
一見統一性がなく、でたらめに動物を詰め込んだだけに見えるその光景には、ひとつの共通点があった。
中にいる動物はすべて雌だった。証拠に、すべての動物が妊娠していた。
否――ケージの中の動物は異常だった。
腹部が水風船のように膨れているものがいた。
一見して動物の胎児だとは思えない、醜悪な肉塊が転がっていた。
猫の入れられたケージには、なぜか歪な形をした卵があった。
そしてその中央――広い研究室の中でひときわ目立つカプセルの前に永琳は立つ。
カプセルの中は溶液が満たされており、何か得体の知れない影がうごめいている。
ひたり、とカプセルの表面に永琳の手が添えられる。
それに合わせるように、カプセルの中でうごめく影が、ずるり、ずるりと緩慢に動き、カプセルのガラス越しに永琳の手に重ねられた。
永琳の口元から、笑みとも嘆息とも付かない吐息が漏れた。
もう片方の手を、同じようにガラスにぴたりと重ねる。
そのまま永琳は、抱擁するかのように体をゆっくりとカプセルにもたせかけていく。
豊かな胸が、冷たいガラス面に押し付けられる。
薄く紅を刷いた唇から漏れた吐息が、ガラスを曇らせた。
永琳の手がガラスを、きゅうう……と音を立ててすべり、カプセルの横にあったスイッチを押した。
がこん、とカプセルが揺れ、ゆっくりと開いていく。
カプセルの底面から中に満たされていた溶液が流れ出し、次いで封入されていた何かが、染み出すように床に広がっていく。
それは、不定形の、醜悪な肉塊だった。
影のように自分の足元に染み出したそれを一瞥し、永琳は着衣に手をかける。
ぷつ、しゅる……衣擦れの音がするたびに、永琳の白い肌があらわになっていく。
下着はつけていなかった。
薄暗闇の中に、幻影のように白い裸身が浮かび上がる。
目もなければ口もない、一見すれば大量の汚泥にしか見えないそれの表面が、ぼこぼこと泡立つような動きを見せた。
ずるり、とそれの表面から触手のように肉塊の一部が伸び、永琳の足首を捕らえた。
永琳は逃げようともしない。カプセルに寄りかかった姿勢のまま、動かない。
足首に巻きついた数本の触手は、じわり、じわりと足を伝っていく。
それに呼応するように、床に広がった肉塊から、一本、また一本と触手が伸びて、永琳の体を這っていく。
穢れた肉塊に囚われながら、永琳は……笑っていた。
何色もの絵の具を混ぜて元の色が分からなくなっているように、いくつもの感情が入り混じって、その奥底が見えなくなっている――そんな笑みだった。
触手は足だけでなく、永琳の全身を捕らえていた。
腰の辺りを這っていた触手がさらに伸び、豊かな乳房に巻きつく。絞り上げられた乳房が柔らかくたわんだ。
呼吸が乱れ始める。
首にゆるく巻きついていた触手が、口腔を犯し始める。
永琳は抵抗しない。むしろ手で触手をしごき、喉の奥まで飲み込み、奉仕する。
舌先でなめ上げると、触手はびくびくと震え、射精するようにその先端から粘ついた液体を吐き出した。
穢れた粘液が、永琳の裸身を濡らす。
笑みがより深くなった。淫蕩さを隠そうともしない表情をその美貌に乗せ、永琳は体に降りかかった粘液を指先でもてあそぶ。
白濁した粘液の糸を引く指に、口角の釣り上った赤い唇から伸びた舌が絡みつく。
もう片方の手は、胸元にかかった粘液をその肌に塗り広げていく。乳房を揉みしだき、すでに固くとがっている乳首に粘液を擦り付ける。
永琳の痴態に誘われるように、肉塊の動きが活発になってきた。
足元にたまっていた肉塊が、ぞわ、ぞわりと波うち、さらに数本の触手が永琳の足を這い登る。
永琳の唇が、はぁぁ……と、熱く湿った吐息を漏らす。息がかかったガラスの表面が薄く曇る。
足元から這い登る触手に合わせるように、永琳の両手が上気し始めた肌を伝い、胸元からへそへ……そして、その下へと降りていく。
触手よりも先に、白く細い指先が、そこを割り開いた。
すでに熱と潤みを帯びたそこから、かすかに震える足を伝って、透明な愛液がひと筋、ふた筋と零れ落ちていく。
腿の辺りまで延びていた触手の先端がかすかにうごめくと、その先端が細分化され、より細くなった触手が永琳の秘所に群がっていく。
にちゃり、にちゃりと粘ついた音を立てながら、細い触手は永琳の膣道へと入り込んでいく。
しかし、まだ最奥には達しない。
数本ひときわ太い触手が伸びて、永琳の四肢に絡みつき、その裸身を中空に吊り上げる。
つま先から、粘液と彼女自身の愛液の混ざり合ったしずくが糸を引きながら伝い落ちた。
いまや永琳の秘所は完全にさらされていた。
両足を開かれた上に、細い触手が外陰唇をひっぱり、ぬらぬらと濡れ光る内壁をさらけ出す。
永琳は抵抗しない。
薄く笑みを浮かべた唇を割って桃色の舌が滑り出て、舌なめずりをする。
捕らえられているのは永琳なのに、狩る側の表情は崩れない。
顔も目もない肉塊を、視線で誘う。並の男ならたやすく誘惑されるどころか、正気さえ失いかねない、狂気にも似た、欲情に爛れた視線。
その視線に引きずり出されるように、床に広がった肉塊の中から、男根を模した歪な触手が現れた。
先端からはすでに白濁した粘液が漏れ、吊り上げられた永琳の体を濡らしていく。
ずじゅるっ。
前戯もなく、蛇が獲物にすばやく食らいつくように、触手が永琳のそこへ突き刺さった。
暗い研究室に、永琳の嬌声が響く。
口腔に、秘所に、乳房に、肛門にまで、無数の触手が絡みつき、突き入れられ、絞り上げ、粘液を吐きかける。
ごぼっ、という異様な音とともに、秘所に突き刺さった触手が膨れ上がった。
触手はそのまま、宙吊りになった永琳の体を引き裂くかのような勢いで、さらに深く胎内へと強引にもぐりこんでいく。
喉を犯されている永琳の漏らす声に、致命的な響きが混じった。両足がでたらめに暴れ、つま先から粘液や汗、愛液が交じり合ったしずくが飛び、床に汚わいな水溜りを作る。
見開かれた目は、すでに白目を向いている。正常な意識があるのがどうかさえ分からない。
くぐもった悲鳴に、ケージの中の小動物たちがおびえたように小さく鳴く。
最初に、口腔を冒していた触手が爆ぜるように粘液を吐き出した。触手でびっちりとふさがれた口の端から、こもった悲鳴とともに粘ついた泡がぶくぶくと漏れ出す。ほっそりと下あごから舌がべとべとした粘液にまみれ、いく筋もの糸を引いた。
乳房に巻きつき締め上げていた触手から噴き出した粘液で、半顔が白濁に染まった。乳首を執拗に攻め立て、乳頭にすらもぐりこもうとしていた触手が粘液を噴き出すさまは、まるで母乳を撒き散らしているようで、異様な淫靡さをもった光景だった。
永琳はおぞましい触手の陵辱を、なんに抵抗もせず、むしろ自分から誘っていた。
唇からだらりとこぼれた舌とぬらぬらとした粘液まみれの口腔で触手をしごき上げ、喉の奥でたたきつけるような勢いの粘液の噴流を受け止める。両手で乳房を寄せ、触手を挟み込む。固くしこった乳首を指先でつまみ上げ、ぬらつく触手の表面に擦り付ける。淫らに腰をくねらせ、直腸の奥にまで触手を迎え入れる。
そして――、めちゃくちゃに暴れながら粘液を吐き出し続ける触手を、両手でがっちりつかみ、自らの秘所へと押し込む。
触手から吐き出される粘液は止まらない。永琳の股間は、自らが射精でもしているかのように大量の粘液をぼたぼたと垂れ流しながら、触手から流れ込んでくる粘液を流し込まれ続けている。
永琳の腹は、粘液が流し込まれるたびにぼこぼこと不気味に盛り上がり、痙攣する。
触手がまだ、ぼこりと膨れ上がった。今度の膨れ方はさっきまでとは違った。
不気味に蠢動しながら触手の中を通じて迫ってくる、固形物のような粘液の塊。
と、もう視線すらどこを向いているのか分からないような状態になっていた永琳の目が――一瞬、ほんの一瞬だけ、実験機材を見るときの目つきを取り戻し、そして……
あ、は……
かすかな、笑みを漏らした。
直後、触手がさらに深く、そこを裂き割るような勢いで永琳の秘所――否、その奥にある子宮めがけて叩き込まれた。
永琳の全身を、断続的な痙攣が襲った。頭をのけぞらせ、粘液の泡を撒き散らしてぐしゃぐしゃにつぶれた悲鳴を上げる。
触手を内側からこぶのように盛り上げている粘液の塊が、ひとつ、またひとつと永琳の胎内へと送り込まれていく。
そのたびに粘液まみれの永琳の体はがくがくと痙攣した。
最後のこぶが胎内へと消えていき、触手がぐぼっという湿った音とともに引き抜かれた。
凄絶に犯しぬかれた永琳のそこは、いまだに何本もの粘液の糸を引いて触手とつながっていた。
裸身が床に投げ出される。ぼろくずのように放り出された永琳の指先やつま先が、まだ死にかけの昆虫のようにぴくぴくと動いている。
解剖されたカエルのように投げ出された両足の間で、永琳の秘所はぽっかりと口をあけ、ごぽり、ごぽっ……と、注ぎ込まれた粘液を吐き出している。
床に広がっていた肉塊と触手は、役目を終えたかのようにごぼごぼとあわ立ちながら溶け崩れ、タイルの上を排水溝に向けて流れていった。ほんの数分で、永琳を犯していた肉塊は完全に形をなくし、床に茶色い汚れをこびりつかせながら消えていった。
あとには、ひゅうひゅうと細く息をつく永琳だけが残された。
固い床に身を横たえた永琳は、動かない。
かろうじて片手をふらふらと持ち上げ、大量の粘液を注ぎ込まれて膨らんだ腹をそっとなでるだけだった。
陵辱の熱気がまだ残る中、どのくらいそうして身を横たえていただろうか。
床に投げ出されていたつま先が、思い出したようにぴくりと震えた。
その震えは漣のように、永琳の全身に伝播していく。
がくん、と永琳の腰がばねのように跳ね上がった。そのままがくがくと痙攣し始める。
ぷちゅっと濡れた音。永琳の秘所から、粘液が――粘液にまみれた何かが、出てこようとしている。
ひ、ひ、ひ、と、永琳の呼吸が千切れ始めた。
そして――絶叫。
魂消るようなひきつれた叫喚とともに、永琳の股間から何かがあふれ出た。
丸い頭が、ぼこりと突き出された。
不気味に蠕動しながら、それは永琳のそこから、二本の腕を使って……這い出てきた。
膣道を押し広げながら、胴体が出てきた。二本の足が出てきた。
びちゃり、とそれは自分と一緒に出てきた粘液の水溜りに落ち、もぞもぞとうごめいた。
奇妙な、どんな動物のそれとも似ていない声をかすかに上げて、おそらくは見えていない薄いまぶたに閉ざされた瞳を向け、それは永琳の方を……自分を産み落とした者の方を向いた。
永琳もまた、それを見ていた。
のろのろと体を起こす。
ふらふらと這い寄る。
永琳が震える指先を、それに伸ばした。
生まれたばかりの赤子を、母親がそうして抱き上げるように。
抱き上げる。
それが、また奇妙な声でかすかに鳴いた。
鳴いて――ずるりと、崩れた。
まぶたの奥から眼球が零れ落ち、床でつぶれた。
片手が肩の辺りから抜けて、ぼとりと落ちた。
震える指の間から、それは永琳を犯した肉塊と同じように溶けて、崩れて、消え去っていく。
固い床に、ぼたぼたと溶けたそれが降りかかる。
はじかれたように永琳の指が床を掻く。じくじくと崩れて形を失っていくそれをかき集める。
かき集める端から、それは急速に溶け、床を流れていく。
ぺきんと小さな音がして、タイルに引っかかった爪が欠けた。
血が、ぽたりと床に垂れる。
両手が、凍りついたように動きを止めた。
永琳は立ち上がる。
床を見下ろす視線は暗くよどんで、その奥底は見えない。
床には、最後まで溶け残った肉塊が残っていた。頭の部分だった。
永琳の口が開いた。何かを言おうと、唇が震えた。
だが結局そこからは言葉は出ず、かすかな嘆息がそれに変わった。
裸足が、肉塊をたやすく踏み潰した。
「師匠ーっ!」
「なあに、ウドンゲ。大声出さなくても聞こえるわよ」
「あのときのご夫婦、覚えてますよね? 今ちょうど来てくれてるんですよ! あの男の子もすっかり大きくなって!」
永琳の自室に入ってくるなり、喜色満面でまくし立てる鈴仙に永琳は苦笑する。
「で、師匠にも久しぶりに会いたいって。ほら、例の研究ももう終わったんでしょう? 研究室もしばらくは使わないみたいだし。だからほらぁ、一緒に来てくださいよう」
一瞬だけ湧き上がった感覚を飲み下すのはたやすかった。
少し迷って、永琳は鈴仙に笑いかける。
「申し訳ないけど、今日中にまとめておかなくちゃいけない書類があるのよ。ごめんなさいって、伝えておいて」
「もお、そんなのあとで私が手伝うのにー」
不満顔の鈴仙に、永琳はいたずらっぽく笑って、耳元でささやく。
「……それに実を言うとね、小さな子供ってちょっと苦手なのよ」
「え、そうなんですか? ほかの子ならともかく、あの子には結構好かれてると思いますけど?」
「だからよ。子供は遠慮なしにくっついてくるから」
「ふうん……」
鈴仙はまだあまり納得していない様子だったが、しぶしぶ部屋を出て行く。
その背中に、永琳は声をかけた。
「ねえ、ウドンゲ」
「はい?」
「子供って、生んでみたい?」
「へ!?」
素っ頓狂な声を上げる鈴仙に、永琳は吹き出す。
「ごめんなさい、冗談よ。なんでもないわ」
「変な師匠……じゃあ、そういう風に伝えておきますから。でも、今度来てくれたときにはぜったい顔見せてあげてくださいよ!」
鈴仙が去っていく足音を扉越しに聞きながら、永琳は椅子に座りなおす。
気がつくと、右手がおなかをさすっていた。
嘆息する。
不意に右手を置いている場所、自分の腹の中に恐ろしく深い虚を感じた。
「ないものねだり、か……」
そうつぶやいて、永琳は、少しだけ泣いた。
永琳の性格設定がストライクだった分、SAN値がゴリゴリと…
良くも悪くも濃厚でした。
脱字報告
>少し迷って、琳は鈴仙に笑いかける。
蓬莱人の独自設定なども非常に濃厚で圧巻です。
ゴチでした。濃くて最高でした。
綺麗で、ネチョも上手くて
尊敬です