宴会中に突然あたりが真っ暗になったと思ったら、メッチャ食われてましたーッ!
「はむはむ」
「きゃあああ!」
頭に引っ付いた何かを引っぺがして放り投げると、そいつは「みゃー」とか気の抜けた悲鳴を上げて地面に伸びた。
帽子を脱いで確かめてみると、つけていた桃はすっかりかじられて無残な姿に!
「ちょっと! いきなりなんなのよあんた!」
「んみ?」
地面に転がっていたそいつがむくりと体を起こした。
金髪に赤いリボンをつけたそのちまいのには見覚えはない。初めて見る顔だった。
「いやあ、なんかいいにおいがするからつい」
「だからっていきなりヒトの頭にかじりつくかフツー……」
「いやあ、ごめんごめん。で、おねーさんだーれ?」
「おねーさん」なんて言い方がちょっと気持ちよかったので、普通ならこんなの相手にしないんだけどわたしは名乗ってやることにした。ふふん。寛大なわたし。
「いいコト、よーく聞きなさいちまいの。わたしの名前は比那名居天子。天界に住むお嬢様なんだから!」
「てんこ?」
「てんこってゆーなー!」
「にゃはー♪」
そいつは能天気な顔でふにゃふにゃ笑っている。アレだ、人の話を聞かないタイプだこれ。
「で、あんた誰よ? 見ない顔だけど」
「わたしルーミア。で、てんこちゃんは食べてもいい人類?」
「へ?」
「ガブリ」
「らめええええ!」
……これがわたしとこのヘンなちまいの……ルーミアとの出会いだった。
それからというもの、宴会のたびにルーミアはわたしにまとわりついてきた。
始めはうっとうしくて追い払っていたけど、なんかやたらとしつこいのでもう諦めた。
ルーミアはなんと言うか……今までに会った地上のどんな連中とも違う、要するにヘンなやつだった。なんかまるっきりそこいらの子供なのだ。いつもふにゃーっとした、この世には幸せなことしかないみたいな顔で笑っている。
ちょっと前に気まぐれで桃をあげたらやたら喜んでいた。……まあ悪い気はしなかったしいいんだけど。
なんかこういうのって慣れなくて、居心地の悪さみたいなものを感じたりもしてたけど、ルーミアのなーんにも考えてない顔見てたら、そういうのはどうでもよくなってしまうのだった。
「てんこちゃーん!」
「だーから、てんこってゆーなっての……」
暇だったからなんとなく地上に降りて、巫女でもからかおうとか思いながら博麗神社に続く道をぼけーっと歩いてたら、黒くてちまいのがぶんぶん手を振りながらやってきた。
「あんたこんなとこでなにしてんのよ?」
「んー、おさんぽー。てんこちゃんは?」
「別に……ヒマだったから、その辺歩いてただけ」
「そーなのかー。あ、じゃあじゃあ、二人でおさんぽしよっ?」
「お散歩って……あんたいちおう妖怪なんだから、人里とか行くのまずいんじゃない?」
「だいじょぶだよう。山とか河とか、遊ぶとこたくさんあるよ」
「そんな、子供じゃないんだから……」
「えーいいじゃん別にー。ぷー」
不満そうにむくれるルーミア。そんなルーミアに、わたしは思わずくすりと笑みを漏らした。
「あはは……なによその顔。ヘンな顔!」
わたしがそうやって笑うと、ルーミアも釣られて笑った。
「分かったわよ。で? 最初はどこ行くの?」
「んとねー、じゃあ魔法の森行こ! こないだすごくヘンな色した虫見つけたのー!」
「……」
「なんか角が三本くらい生えててね、赤と緑のまだら模様でね、頭から粘液が出ててね、草がその虫の周りだけ枯れててね」
「……別のところにしてクダサイ」
そんなこんなで、わたしはルーミアにそこいらじゅう連れまわされた。
湖に行ったらおばかの妖精がカエル投げつけてくるし、竹林は燃えてるし、滝に行ったら河童の発明の実験台にされそうになるしでもうさんざんだった。
ひどい目に遭うたびに、ルーミアは楽しそうにきゃらきゃら笑って――わたしもおんなじように笑ってた。
なんか、すごく久しぶりだなって思った。こんなふうにはしゃいだりするの。
「ひゃー、ひどい目にあったねえ」
色々あって泥だらけになりながら、ルーミアはのんき顔で笑っている。
わたしもおんなじ、泥だらけだ。
「あんた、そんな他人事みたいに……」
わたしが苦笑すると、ルーミアはいつものように、えへへと笑った。
「でも、すっごく楽しかったよ!」
それにはまあ、同意してもいいかなって思って、私は返事の代わりに、ルーミアのくしゃくしゃになった頭をぽんぽん撫でてやった。
「しっかし、あんたっていっつもこんな危なっかしい散歩してるわけ?」
わたしがそう言うと、ルーミアは珍しくちょっと考えるような仕草をした。そして、わたしの方を見て言った。
「んーん。だって今日のはデートだもん」
「で、デートぉ!?」
「うん。てんこちゃんとデート」
「デート……って」
うわ、ヤバ。
なんか顔がどんどん赤くなってきた。ルーミアはわたしを不思議そうに見つめている。
「てんこちゃんは、わたしとデート、やだった……?」
「そういうわけじゃなくてデスネ!?」
な、なに言ってるんだわたし。落ち着けわたし!
え、ええと……どどどどどうすればいいのこれ。
混乱したわたしはとりあえず、ルーミアの頭を撫でることにした。なでなで。
「にゃはー♪」
……一発で機嫌が直った。
「ねぇねぇてんこちゃん、もっとなでなでしてー♪」
「ああもう分かったから、しがみつくなっての……」
機嫌を直したルーミアは、わたしの腕にぎゅーってしがみついてきた。ルーミアのからだの柔らかさがはっきり分かって、ちょっとだけどきっとした。
……あと、ちょっとうれしかった。こんなふうになついてくれるのが。
「ねえルーミア」
「ふぃ?」
次の言葉を口にするのに、ちょっとためらった。また顔が赤くなるのが分かった。
「また……さ。しよ。その……デート」
わたしはもじもじしながら、なんとかそれだけ、言えた。
ルーミアはそれを聞いて、なんかもう、ぺかーって感じの満面の笑顔になった。
「ほんと!? ほんと!?」
「ああもう、デカい声出さないでよ……ん、ごほん。だから、今日はわたしも楽しかったから、またデートしてあげるって言ってるの!」
「わーい! てんこちゃんだいすきー!」
「ぐぇっ」
ルーミアがいきなり抱きついてきた拍子にみぞおちに頭突きをもらってうめくわたし。
それにはお構いなしに、ルーミアはわたしにしがみついて……
「わたし、楽しみにしてるからね! ぜったい行こうね!」
そう言ってルーミアは、わたしのほっぺたに、キスした。
「んな……っ!?」
顔が赤くなったどころか、全身から湯気が出そうだった。だって、こんなことされたのなんて、はじめてだったから!
そんなわたしを置いて、ルーミアは会ったときと同じようにぶんぶん手を振りながらふよふよ帰っていった。
わたしはひとり、ぽかーんとして、顔を真っ赤にして、ぼけーっと立ってた。
ルーミアにキスされたほっぺたが、じんじん熱かった。
「ねールーミア」
「ふぃ?」
わたしが起こした地震騒ぎからしばらく経ったある日の、何度目かの宴会。……というかここの巫女は宴会ばっかりやっててバチは当たらないんだろうか。そんなことをぼんやり考えながら、わたしは隣でいつものように料理をぱくぱく食べているルーミアに声をかけた。
「あんたさ……」
んぐ、口ごもってしまった。でもルーミアは気にした風もなくおかわりの皿に手を出している。というかわたしより料理優先か。
「あ、あんた、どうしてそんなにわたしになついてるの?」
「おいしそーだからー!」
ぺかーっとやたら眩しい笑顔で答えるルーミア。脱力するわたし。
「はあ……あんたに聞いたのがバカだったわ」
「んー、あとねえ、てんこちゃん宴会のときにときどき一人でいるからあ、なんだかかわいそうだなーって」
「……!」
瞬間、かっと頭の中が熱くなったのが分かった。
自分がなにをしたのか理解したのは、さっきまで手にしていた器が地面に転がる音を聞いてからだった。
なにが起こったのかわからない様子のルーミアの顔から、ぶつかった料理が、べちゃっと汚い音を立てて地面に落ちた。
手に持っていた料理の皿を、ルーミアに、投げつけた。それがたった今自分がやったことだというのを、わたしは他人事のように感じていた。
「かわいそう……?」
自分の声とは思えないくらい低い声が、出た。
騒ぎを聞きつけて集まってきた霊夢たちを押しのけるように、わたしは大声で叫んだ。
「かわいそうだから哀れんでくれたってワケ!? 何よその上から目線! ふざけんな!」
自分の大声でさらに頭の中が熱くなって、わたしは腕を振り上げて思い切りルーミアを殴った。
破裂音が響いて、ルーミアの小さな体はどさっと倒れた。
わたしはもうそれから自分がなにをしたのかよく分からなくなっていた。
もう一回振り上げた手を誰かに掴まれて、無理やり振りほどいて、そのまま自分の家に帰ってきた――らしい。
気がついたときにはわたしは、自分の部屋にいた。
ベッドに倒れこむ。
頭の中はまだ熱くて、深酒でもしたみたいにガンガン痛む。
枕に顔を埋めてぼーっとしていると、ついさっきのはずの出来事がもう何日も前の出来事に思えてきて……少しだけ、楽になった。
そのままわたしはどうにかして眠ろうとしたけど、だめだった。
頭の中に、博麗神社を飛び出したときに背中の方で聞こえたルーミアの泣き声が……周りの大騒ぎの中にまぎれて聞こえるはずがないくらい小さなすすり泣きだけが、そこだけ切り取ったようにはっきり残っていて、それがわたしを眠らせなかった。
あれから……4日? それとも、5日? もうどのくらい経ったのか、よく分からない。
誰とも顔を合わせる気がしなかったので、部屋からは一歩も出ていない。食事は部屋の前に置かせることにしたが、ほとんど手をつける気になれなかったし、何回かは吐いてしまった。
部屋のカーテンは閉め切っているので、部屋は薄暗く、今が朝なのか夕方なのかも分からない。
頭から被ったシーツの中で目を覚まし、また目を閉じる。それの繰り返し。
ろくに動いていないせいで、体が鉛みたいにひどく重い。体中の血がどろどろに濁ってしまったような気がする。
淀んだ頭の中には、間欠泉のように思い出したくもない出来事が浮かんでくる。それから逃げるために、また眠る。眠っている間だけは、そのことを考えなくて済むから。
目に入るもの全てが不愉快で、耳に聞こえるもの全てがわずらわしかった。ベッドの感触にまで苛立ちを覚える。
だって、だって……。
「あいつが、あんなこと言うから……あいつが悪いんだ……!」
そう口に出す。
かわいそうだから。哀れみの言葉。
多分、それがののしりの言葉なら、わたしはこんなにならなかったはずだ。
周りの連中は気付いていやしないだろうけど、親のついでで天人になった自分が周りからどういう目で見られているか分からないほど、わたしはバカじゃない。
ののしりの言葉なんてものは、表に出ていないだけでわたしの周りにはそれこそ空気のように当たり前にあったものだった。
でも、哀れみの言葉。他人から哀れまれるなんてことは我慢できなかった。しかもあんな、あんな……。
不意に頭の中をよぎったのは、ルーミアの顔だった。あの気の抜けた、のんきな笑顔。
……泣いてるところなんて全然想像できない、顔。
それを叩き割りたくて、わたしはこぶしを振り上げて、シーツに叩きつけた。
ぼすっと気の抜けた音がしただけだった。
「……っう」
鼻の奥がつーんとして、目の奥がじわっと熱くなった。必死で我慢した。
たったひとりで、シーツを頭から被って、わたしは必死に涙をこらえてた。
どうしてそんなことをしなきゃいけないのかなんて分からない。どうせ誰もいないし、来ないし、大声で泣き喚いたって全然かまわないはずなのに、わたしは必死に我慢した。
必死で泣きそうなのを我慢している自分がなんだかバカみたいで、それでまた余計に悲しくなって……。
そんな意味もない繰り返しをしながら、わたしはシーツの中で芋虫みたいになっていた。
夢を見た。
真っ暗で何もないところに、ルーミアの泣き声が響いてた。
泣き声が鋭い剣みたいに、わたしを切り刻んだ。わたしはばらばらになった。
首だけになったわたしは、必死になって耳をふさごうとしたけれど、わたしの腕は二本とも遠くに転がっていて、できない。
わたしは大声を上げて聞こえてくる泣き声をごまかそうとした。けれど、か細いはずのすすり泣きは全然掻き消えてはくれなくて、わたしはひたすら大声で叫んだ。
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……って。
でもそれは、自分が助かるためで、ほんとに謝ってるんじゃないって、わたしは頭のどこかで分かってて、それでもだめで……わたしは喉が擦り切れるまで、ずっと、ずっと、同じ言葉を繰り返していた。
目が覚めたのは、自分の悲鳴のせいだった。
枕は寝汗だか涙だかでぐっしょり濡れていた。冷たいその感触が気持ち悪くて、枕を掴んで放り投げた。
ぜんぜん力が入らなくて、枕はベッドの端っこにぼてっと落ちた。
わたしはそのまま、シーツに顔を埋めた。
色んな感情が泥水みたいにめちゃくちゃに入り混じって、もう自分が悲しいのかいらついてるのかもよく分からなかった。
もう物に当たる気力も残っていなかった。
「……死んじゃうのかな、わたし……」
そんなことを呟くと、ぼろっと涙がこぼれてしまった。
その涙の中に沈みこむように、わたしはまた自分を無理やり眠りの中に引きずり込んだ。
――ドアをノックする音で、目が覚めた。
応じるつもりは全くなかった。
誰とも顔を合わせるつもりはなかったし、今の自分が人に見せられるような顔をしていないことくらい分かっていた。
しばらく経ったけど、ドアをノックする音は止まなかった。ドンドン叩くような大きな音じゃなく、おそるおそるといった風な、小さな音は、まだ続いている。なんだか哀れっぽい、小さな音。
ずっと止まないその音に、わたしは不思議といらだちは感じなかった。……でもやっぱり、ドアを開ける気にはならなかった。
わたしはシーツにくるまったまま、ぼんやりとドアをノックする小さな音を聞いていた。
音はしばらく聞いてるうちに、すり減るみたいに小さく、間が空くようになっていった。そして最後、すごく弱々しい、死にかけみたいなか細い音で、とん、とドアを叩いたっきり、音は止んでしまった。
部屋の中に、沈黙が降りた。
シーツの中から少しだけ顔を出して、ドアのほうを伺う。
当然ドアの向こうなんて見えないけれど、今までドアをノックしていた誰かがまだそこにいるのがなんとなく分かった。
そこにいる誰かは、もうドアをノックしようとはしなかった。でも、そこから離れようともしなかった。
わたしは、なぜかドアから目を離せなかった。
しばらくの間、わたしとその誰かはドアを挟んで黙っていた。そこでわたしは、初めてドアの向こうに居るのが誰かを考え始めた。
わたしの部屋に来る可能性のある人物は限られている。
まず、屋敷の使用人。でもこれは違う。
食事を持ってきても部屋の中には入るなといってあるし、そもそも屋敷の使用人たちはわたしに必要以上に関わろうとなんて絶対にしない。
次に、天界に入り浸りになっている萃香。でもこれも違う。
あいつの性格なら、入ってくるつもりならドアくらい平気でぶち破るだろう。
次に、衣玖。でもこれもないと思う。
衣玖はべつにこの屋敷専属ってわけじゃないし、いつもここにいるわけでもない。あとは……
そこまで考えて、わたしは考えるのを止めた。
一瞬、頭の中に、あの無邪気な笑顔が浮かんでしまったから。
わたしは頭からシーツを被る。
ない。絶対にない。そんなことは絶対にない。
だって。だって……もしそうなら、わたしはどうしたらいいか分からないから。
もしそうだとしても、わたしはどうするんだろう? どうしたいんだろう?
ごめんねって謝る? それで仲直り?
できるわけない……。
信じられない、どうしても。あいつが、わたしのことを見下してたわけじゃないなんて。
シーツの中でもぞもぞと動いて、自分の手を目の前にかざす。
「誰かを殴ったなんて……はじめてだった……」
小さな声で呟く。
もう何日も前のことなのに、わたしの手のひらはまだじんじんと熱いような気がした。
初めてなのは、それだけじゃなかった。
あんなふうに誰かになつかれるなんて、今まで無かったことだった。
ほんの少しの例外を除けば、今までのわたしに対する他人の対応は媚びるか避けるかのどちらかだった。
初めて、だった……。あんなふうに、誰かになつかれたり、一緒に笑ったり、ふざけたり……。
ぜんぶ、ぜんぶ、あいつが、はじめてだった……。
胸の奥から、突然かっと熱いものがこみ上げてきた。
鼻の奥がつーんとなって、またわたしは泣きそうになるのを必死に我慢した。
会いたい。ルーミアに会いたい。
その感情があとからあとから沸いてきて、わたしはそれをどうにか飲み下そうとする。
会って、それでなにがどうなる? 今さら……今さらできることなんて、何もない。
――でも、だったら。
どうしてわたしはベッドを抜け出して、ドアの方に歩いていってるんだろう……?
わたしは夢遊病みたいにふらふらとした足取りで、ドアの前まで来た。
鍵は……かけていない。ドアノブに手をかけて回すだけで、ドアは開く。
ドアノブに伸ばした手が、震えてる……。
震える手がドアノブを掴んだ。でも、そこからが動かない。
もう片方の手を、わたしは知らない間に胸の前でぎゅっと握っていた。
勝手に荒くなっていく呼吸をなんとか押さえ込んで、わたしはドアノブをひねった。
ドアの軋みが不自然に大きく聞こえて、ほんの数センチ、ドアが開く。
そのドアの隙間、わたしの胸元の辺りに見覚えのある金髪が見えたとき、わたしの体は滑稽なくらいこわばった。
一瞬反射的にそのままドアを閉めてしまいそうになって、わたしはぐっとそれを踏みとどまった。
でも、それ以上ドアを開くこともできなかった。
必死になってわたしは、視線を下に向けた。目が合った。泣き腫らした目と、目が合った。
「……何しに、きたのよ」
搾り出すようにそう言うのが、やっとだった。それしか言えなかった。
ルーミアは、何も言わない。
のんきな笑顔しか知らないわたしが一度も見たことがない、ひどく固い顔で、じっとこっちを見上げているだけだった。
わたしはドアを開けて、目眼でルーミアを促す。
ルーミアは表情を変えずに、小さくうなずいてわたしの後についてきた。
わたしはベッドに腰を下す。ルーミアはその場に立ち尽くしている。
「座んなさいよ……」
そうわたしが言っても、ルーミアはうつむいてその場から動かない。
「座んなさいよ!」
わけの分からない苛立ちを覚えて、わたしは大声を上げた。
ルーミアは小さな肩をびくっとふるわせた。
ふらふらとベッドの方に歩いてきたルーミアは、少し迷ってからわたしの隣……ひと一人分くらい離れたところにおそるおそる座った。
わたしも、ルーミアも、それっきり口を閉じて何も言わない。
ちらりと横目でルーミアの方を伺うと、ルーミアは床に視線を向けたまま動かない。
いつもいつも、しつこいくらい遠慮なしにくっついてきたルーミア。
手を伸ばせば届くようなところにいるのに、ひと一人分の、たったそれだけしか離れていないところなのに、ルーミアが、どうしようもなく遠く感じる……。もうどうやっても届かないと思ってしまうくらいに、ルーミアが遠い……。
不意に涙がこみ上げてきて、わたしは唇をかみ締めた。
「……ごめんなさい」
わたしははっとして、ルーミアの方を向く。
ルーミアは床に視線を落としたまま、もう一度、小さな声で「ごめんなさい」と言った。
まるでナイフでも刺さったみたいに、胸がぎゅうっと痛くなった。
ルーミアは、わたしが知っているルーミアだとはとても思えないような小さな声で、ぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。
「わたしが、悪いんだよね……? わたしが、ひどいこと、言っちゃったんだよね……?」
わたしは口をふさがれたみたいに、何も言えなくなっていた。
「わたし、よく分かんなくて……それで、みんなに相談して、分かって……」
ルーミアの言葉に、嗚咽が混じり始めた。しゃくりあげながら懸命に言葉を紡ごうとするけど、ルーミアの言葉はくしゃくしゃになってしまっていた。
でもたった一言だけ、わたしの耳にはっきり聞こえた言葉があった。
さっきよりももっと、胸が締め付けられるみたいに、ぎゅうっと痛くなった。
息が喉のところで詰まって、苦しい。
目の奥が急に熱くなって、目の前の光景がぐにゃぐにゃに歪んだ。
ルーミアは、こう言ったんだ。
ごめんなさい……って。
「ひぃ……」
それが自分の声だってことが、最初分からなかった。だって、こんな声が出たことなんてなかったから。
喉が引きつったみたいになって、わたしは、声を漏らした。
「ひいいいいぃん……」
頭から水でもかぶったみたいに、いつの間にか顔中が濡れていた。
ぼたぼたぼた、って、シーツの上に熱いしずくが落ちた。
体が勝手に動いて、覆いかぶさるみたいに、わたしはルーミアにすがりついてた。
力の加減が全然できなくなって、つかんだ服が破れてしまうくらい強く、わたしはルーミアに抱きついた。
「ひぃぃ……ひぁ……あああ……」
ごめんなさい、って、わたしは多分そう言おうとしたんだと思う。
でも、わたしの喉からは、そんなおかしな声しか出てこない。
ルーミアの小さな体を抱きしめながら、わたしは引きつれた悲鳴みたいな声を上げて……泣いた。
ルーミアは……抵抗しなかった。ただわたしにされるままに、抱きしめられていた。
こんな……こんなこと、していいわけないのに。
あんなひどいこと、したくせに、抱きついて、わんわん泣いて……。
もう自分がなにをしているのか、なにがしたいのか、よくわからない。
だめ、こんなことしていいわけがない。
ルーミアから体を離そうとしたとき、涙まみれになったわたしのほっぺたに、ぺとって濡れて熱くて柔らかいものが触れた。
ルーミアがわたしの顔に口を寄せて、涙で汚れたわたしのほっぺたを舐めてた。
わたしはびっくりしてルーミアの方を見ると、ルーミアは自分もぐすぐす泣きながら、わたしの首に手を回して、さっきわたしがしたみたいに、ぎゅっと抱きついてきた。そしてまた、わたしのほっぺたを舐めるのだった。
せっかくルーミアが涙を拭ってくれているのに、わたしの目からはますます涙があふれて止まらなくなってしまっていた。
「泣かないで……」
ルーミアが小さな声でそういうけど、そんなのもう無理だった。ルーミアが手を伸ばして服の袖で涙を拭ってくれても、次から次にあふれてくる涙で、わたしの顔はびしょびしょになっていた。
しゃくりあげるせいで息をすることもうまくできない中で、わたしはぼんやりと、ああ、またはじめてだな、とか思った。
誰かの前で、こんな風に泣きじゃくるなんて、初めてだった。
なんか、ルーミアに会ってから、はじめてばっかりだ……。
ルーミアはわたしの顔に自分の顔をくっつけた。ルーミアの顔が、すぐ近くにあって、わたしはなんだかすごく恥ずかしくなって目を逸らした。
ルーミアはかまわずに、わたしにぎゅって抱きついて、ほっぺたをすり寄せてきた。濡れてて、熱い、ルーミアのほっぺた。
その感触に、わたしはまた泣いてしまった。
「泣かないで、てんこちゃん……」
「ばか……てんこってゆーな……」
それだけはなんとか言い返して、わたしはさっきルーミアがしてくれたみたいに、ルーミアのほっぺたに唇を近づけて、ぺろっと舐めた。
しょっぱかった。涙の味だった。
ルーミアの……味だった。
わたしが何回か、ぺろぺろってほっぺたを舐めると、ルーミアはわたしの方を向いて、ちょっとだけだったけど、笑ってくれた。
「くすぐったい……」
ルーミアはそう言って、もう一回、えへへって笑った。
笑って、ルーミアはまたわたしのほっぺたを舐めた。
くすぐったくて、あったかくて……なんだか安心した。
くすぐったくて、わたしがきゅっと首をすくめると、ルーミアはまた小さく笑った。
ルーミアの笑った顔を、わたしはなんだかまっすぐ見れなくて、うつむいてしまった。
「る、ルーミア……」
「なに……?」
「……ひどいことして、ごめん……」
目を逸らしたまんま、わたしはそう言った。ルーミアはなんにも言わなかった。
なんにも言わずに、わたしの手をきゅっと握って、わたしの顔を見上げた。
「ちゅー、したい」
「え……」
「仲直りの、ちゅー……」
かっと顔が赤くなったのが分かった。どきどきした。
お互いのほっぺたを舐める、なんて恥ずかしいことをついさっきしたくせに。
ルーミアは、じっとわたしの方を見つめてる……。
「う……えっと……」
ためらった。
恥ずかしかったから、もちろんそれもある。……したこと、なかったし。
でも……一番の理由はそれじゃなかった。
「しても……いいの……?」
思わず、そう聞いてた。
あんなひどいことしたのに、そんなことしても、いいんだろうか。わたしにそんな資格、あるんだろうか。
そんなわたしに、ルーミアは、なんにも言わずに笑いかけてくれた。
あ……って、息がもれた。
気がついたときにはもうわたしはルーミアの身体を抱きしめて、顔ごとぶつけるみたいに、キスしてた。
涙がまた、目じりから溢れて流れた。
ルーミアの唇はすごくやわらかくて、ふれてるだけで、わたしのがちがちに力がこもってた身体は、氷が溶けるみたいに力が抜けていった。
「ん、は……」
唇を離したけど、なんだか惜しくて、わたしは息継ぎもろくにできないまま、もう一回ルーミアにキスした。
ルーミアは……嫌がったりしなかった。わたしの手を優しく握っててくれた。
ん、ん……って、声を漏らしながら、キスしてくれた。
わたしの、ルーミアとの……はじめてのキスは……とっても、やさしかった。
唇を離したルーミアは、ふにゃっと笑って、ちっちゃな舌を伸ばして、わたしの唇をぺろぺろ舐めた。
わたしはほとんど無意識に、ルーミアの舌に合わせるみたいに、自分の舌を伸ばした。
わたしの舌の先にルーミアの熱い舌が触れると、背筋がぞくっとして、胸の奥がきゅーっと熱くなった。
頭がなんだか、ぼんやりする……。
目を閉じてキスしてると、ルーミアの唇や舌……それだけじゃなくって、抱き合ってるルーミアの体温や柔らかさ、すぐそばで感じるルーミアの吐息がが妙にはっきりと分かって、わたしはすごくどきどきした。
「ん、ん、んー……」
ルーミアが、わたしの首に手を回してぎゅっと抱きついてきた。身体がぎゅっとくっついて、キスが深くなった。
「んぅー……っ!」
その途端、身体の中が熱くなって、わたしは悲鳴みたいな声を漏らしてた。
ルーミアはそれにちょっとびっくりしたみたいで、唇を離すときょとんとした顔でわたしを見つめてた。
「んみ……? どしたの、てんこちゃん?」
「ん、う……」
言葉が上手く出てこなかった。はぁ、はぁって、荒くなった息だけが、わたしの口からしきりに漏れていた。
ルーミアはきょとんとした顔でわたしを見つめてる。
「う……んと……」
わたしは知らないうちに、両手でぎゅっとシーツを掴んでいた。
「もっと……ちゅー、して……」
自分でも信じられないくらい、甘ったるい声が出た。でも、わたしは本当に、心からルーミアにそうして欲しかった。
ルーミアのやわらかくて小さな身体のぬくもりが、もっと欲しかった。ぎゅーって抱きしめて欲しくてたまらなかった。
さっきまで触れてたルーミアの唇が恋しくて仕方がなかった。
ルーミアはそんな私を見て、妙に大人びた顔で、くすりと笑った。
「うん、いいよ……いっぱい、ちゅーしよ……」
ルーミアはそう言って、もう一回、くすりと笑った。笑って、顔を近づけて、わたしの熱くなったほっぺたに、ちょん、とキスしてくれた。
「んー……ちゅ、ちゅ、ちゅ……」
ルーミアはわたしにやわらかく抱きついて、わたしのほっぺたとか、まぶたとか、額とかに、何回もキスしてくれた。
わたしは目を閉じて、ルーミアにされるがままになっていた。
自分でもどこか、自分のしていることが信じられなかった。誰かにこんな風に、身を任せてるなんて……。
そんなことを考えてると、ルーミアの唇がわたしの唇に触れて、つるんって舌が口の中に入ってきた。
「んうぅ……っ!」
それがなんだかすごく……気持ちよくて、わたしは思わず声を漏らしてしまった。
聞かれちゃったかな……そう思って、こっそり目を開けてルーミアの方を窺うと、目が合ってしまった。
ルーミアは唇を重ねたまま、にこっと笑った。
そうしてわたしたちは、子猫がじゃれあうみたいに、お互いの舌をぺろぺろ舐めあいっこしてた。
「んっ、ん、ぺろ、ちゅ、ちゅ……」
ルーミアの舌を口に含むと、ルーミアは鼻にかかった甘えた声を漏らした。
とっても、うれしかった。うれしくて、身体がふわふわして、酔っ払ったみたいになって、後ろについてた手から力が抜けて、わたしは後ろに倒れこんでしまった。
「はぁ、は……」
わたしは起き上がることもせずに、だらしなく口を半開きにして息をついていた。自分の息がすごく熱くなってるのが、はっきり分かった。
「るー……みぁ……」
ルーミアの名前を呼んだ。これが自分の声だなんて信じられなかった。だってその声はすごく弱々しくて、熱がこもってて……今までぜったい、そんな声なんか出したことがなかったから。
わたしの胸の上に顔を乗せたルーミアは、いつもどおりののんきな顔を、わたしの顔に近づけてきた。
またさっきみたいに、ほっぺたとかにキスして欲しいなって思ってじっと待ってたら、ルーミアはわたしの襟元に顔をうずめて、首筋にキスをした。
「ひぅん……っ!?」
予想もしてなかった場所にキスされて、わたしは悲鳴みたいな声を上げてしまった。ルーミアはちょっとびっくりした顔をしたけど、びっくりしたのはわたしの方だ!
「な、なにするのよう……!」
なんだか微妙にろれつが回ってない声が出た。ううぅ……なんか恥ずかしい……。
そしたらルーミアは、またいつもののんき顔で当たり前のように言った。
「んと、いっぱいちゅーしたら、いっぱい仲良しになれるかなーって。ほら、けんかしちゃった分も」
そんなことを言ってルーミアは、わたしの首筋を、ぺろん、ぺろんって子犬がじゃれ付いてくるみたいに舐めた。
「う、んっ……あ、こら……」
くすぐったくて、でもそれ以上になんだか気持ちよくて、身体が熱くなって、ぼーっとして……わたしは熱い息を吐きながら、ルーミアにされるがままになってた。
ルーミアはときどきくすくす笑みを漏らしながら、わたしの首筋とか胸元に、ちっちゃな唇でキスしてた。わたしの身体はその度に熱くなっていくみたいだった。
頭がぼーっとしてたせいで、わたしはルーミアが服のボタンに手をかけて、たどたどしい手つきで脱がしていくのも他人事みたいに眺めてた。
ルーミアに、服、脱がされてる……。
ルーミアはあんまり器用じゃないのか、もぞもぞ手を動かすので、手や指が胸に触れて、わたしは「あ」とか「ん」とか、甘えた声を漏らした。
しばらくして、わたしは上着を脱がされてしまっていた。
ちょっと気にしてるぺったんこな胸が、丸見えになっていた。
やっぱりちょっと、恥ずかしかった。でも、その恥ずかしいのが、気持ちよかった。どきどきした。さっきよりもずっと息が熱くなってるのが分かった。
「えへへ、てんこちゃんのおっぱいだぁ」
「ば、ばか……はずかしいこと、ゆーな……」
そんな文句を言ってやると、ルーミアはどうしてだかうれしそうに笑ってわたしのむき出しの胸に顔を乗っけてきた。
ルーミアのぷにぷにのほっぺたが直に肌に触れて、あったかかった。
ルーミアはわたしの胸にほっぺたをすり寄せて、じっと目を閉じていた。
それだけでわたしは、身体の奥がじわっと熱くなった。
「えへへ、てんこちゃんのおっぱい、やーらかーい……」
目を閉じたまま、ルーミアがそんなことを呟いて、胸にほっぺたをすりすりした。わたしはそれでまた、声を漏らしてぴくんと身体を跳ねさせた。
胸を触られて気持ちよかったのもあるけど、実はあんまり好きじゃない自分のぺったんこな胸をそんな風に言ってもらえて、うれしかった。
「わたしの胸、やわらかい……の?」
「うん。やーらかくて、あったかいよ」
そう言ってルーミアは、にへっと笑った。
なんだかすごくうれしくなって、わたしは両手でルーミアを抱きしめた。そんなことをしたのは、そんなことをしたいと思ったのは、これがはじめてだった。
ルーミアはわたしの腕の中で、子猫みたいに目を細めてた。かわいいなって、素直に思った。
ルーミアの髪を撫でる。さらさらの金髪。鼻先を埋めると、甘いにおいがして、くらくらした。
ぴったりくっついているせいで、ルーミアがちょっと身じろぎするだけで、くすぐったくて、声が出てしまう。恥ずかしいな……。
「てんこちゃんのおっぱいのさきっぽ、ピンク色してるー。桃の色だ。なんか、おいしそーだなー」
「ば、ばか……」
さっきからルーミアはそんなことばっかり言ってる。でも、褒められたみたいでちょっとうれしかったし、なんかそういうこと言われただけで気持ちよくなっちゃって、はぁ……ってため息が出た。
なんか、今、ルーミアとこんなことしてるのが、現実じゃないみたいだった。ルーミアみたいなちっちゃな子と、こんな……。
ううん、自分が誰かとこんなことしてるのが信じられなかった。なんていうか、他人をこんな風に受け入れてるのが、信じられなかった。
悪くないな、って思った。ルーミアの重さとか、体温とか、自分の裸をルーミアに見られてることとか、そういうのが、なんだかいいことのように思えた。
そんなことをぼんやり考えていると、ルーミアが胸元から上目遣いにこっちを見上げて、言った。
「ねぇね、食べてもいーい?」
「へ……?」
一瞬ルーミアの言ってることがよく分からなくて、わたしはそんな間抜けな声を返した。
そしてルーミアは……
「あーん、はみっ♪」
わたしの胸のさきっぽを、ぱくって、口にくわえた。
「きゃ……!?」
びっくりしたのと敏感なところにいきなり刺激を受けたのとで、わたしは悲鳴を上げてしまった。
ルーミアはわたしのそんな反応を上目遣いに面白そうに見上げながら、さきっぽを口に含んだまま無邪気な笑みを浮かべてた。
「んー、んふふー♪ ちゅ、ちゅぱ、んぅーっ……」
「ひゃう……あ、あうんっ、な、なにするの……!?」
熱くて、柔らかくて、ぬめった感触に包まれて、ルーミアの口の中でわたしのさきっぽはとろけてしまいそうだった。
誰かに……その、おっぱい、こんなふうにされるのなんてはじめてで……わたしははじめての刺激にどうしようもなく弄ばれて声を上げていた。
ルーミアは赤ちゃんみたいに、わたしのおっぱいをちゅうちゅう吸ってた。ときどきルーミアの舌がさきっぽに当たって、わたしはすごくえっちっぽい声を漏らしてしまった。
「んちゅ、ちゅうーっ、ん、ん……あ、てんこちゃんのおっぱい、さきっぽがぷくーってふくらんできたぁ……」
「は、あ……もお……はずかしいことばっかり、ゆーなぁ……っ、んんっ!」
「えへへ、てんこちゃん、かわいー……♪」
ルーミアはちょこんと出した舌先で、わたしのすっかりふくらんださきっぽを、ころころ転がした。
すごくすごく、気持ちよかった。ルーミアの言うとおり、いっぱいキスされて、いっぱい仲良しになれた気がした。すごく幸せな気分だった。もっとしてほしかった。
「てんこちゃん、きもちいい? ルーミアのおくち、きもちいい?」
「うん……すごく、きもちいいよぅ……」
わたしはもうすっかりとろとろになってしまってて、ルーミアにそんなこと聞かれて、ためらいもせずにそう答えてしまった。
「えへへ、そーなのかー♪ うれしいなー」
ルーミアがぎゅっと抱きついてきて、ほっぺたをすり寄せてきた。キスもした。最初はほっぺたに、それから唇に。
そして、ちっちゃな舌を伸ばして、おっぱいのさきっぽをぺろぺろ舐めた。
ルーミアの濡れた舌先が、わたしのおっぱいの上でくるくる踊って、わたしは喘いだ。恥ずかしいのと、きもちいいのと、あとなんだろう……なんだか、「ありがとう」って気持ちがごちゃまぜになって、よく分からない気分になってた。
でも、イヤじゃなかった。全然。裸を見られるのも、キスされるのも、ヘンな声が出ちゃうのも、全部イヤじゃなかった。
不意にルーミアにキスしたくなって、ルーミアのほっぺたに手を伸ばした。
「んみ? なあに?」
かわいく首を傾げるルーミアだけど、わたしのして欲しいことを察してはくれないみたいだった。
「ん……えっと……」
「……?」
こんな恥ずかしいことしてるのに、今さら「キスして」って一言が出てこない。
わたしがもじもじしてると、ルーミアはくすっといたずらっぽく笑った。そして、わたしがしてるのとおんなじように、わたしのほっぺたに手を伸ばした。
「んーっ♪」
猫がじゃれ付いてくるみたいに、ルーミアはわたしにキスをしてくれた。ちゅ、ちゅ、ちゅって、何回も。
浅いキス。それから――深いキス。
れるん、って、ルーミアはわたしの口の中に舌を入れてきた。わたしも自分の舌を絡めると、なんだかルーミアとずっと深くつながってる気がした。
口に含んだルーミアの舌はすごく柔らかくて、なんだか甘い気がした。舌を絡めてると、とろけてしまいそうだった。
ときどきルーミアが、んーとか、むーとか声を漏らしてるのとか、くっつけた顔が熱いのとかで、ルーミアもわたしとおんなじように興奮してるんだなって分かって、わたしはうれしかった。
唇を離すと、くちゃ……って小さく濡れた音がした。
離れたルーミアの唇は濡れて光ってて、桃色の舌先が唇を舐めた。そこだけがちっこいルーミアと結びつかないくらい色っぽく見えて、どきっとした。
「ねぇね、てんこちゃん。さっきね、ちゅーしてほしいって思ってた?」
「え!? う、ぅ……」
いきなりそんなことを言われて、わたしはびっくりした。たぶん、顔、真っ赤になってるだろうな。
「ねーってばー、思ってた? 思ってた?」
ルーミアがあんまりしつこく聞いてくるもんだから、結局わたしは蚊の鳴くような声で、うん、って答えた。
なんか、裸見られたりとかよりも、こういうのの方が恥ずかしい気がする……。
わたしが答えると、ルーミアはなんかすごくうれしそうな顔をして笑った。
「にゃはー♪ やっぱりそうだったんだ! うれしーなー」
「な、なにがそんなにうれしいのよ……?」
「てんこちゃんがぁ、ルーミアとちゅーしたいって思ってくれたのがうれしいの!」
ルーミアはほんとにうれしそうだった。それを見てて、わたしもうれしくなった。
こんなの、はじめてだった。
「わたしも……」
「ふぃ?」
「わたしも、うれしい……」
わたしはそんな言葉を漏らして、たぶん今まででいちばん自然に、笑った。笑えた、と思う。
ルーミアが唇を寄せて、またキスしてくれた。
何回かキスしてから、ルーミアは身体を離して起き上がった。
「ね、はだかでくっついたら、もっとあったかいよね?」
わたしがなにか返事を返す前に、ルーミアはもう服を脱ぎ始めていた。
わたしは何か言うタイミングを逃してしまって、ルーミアが服を脱ぐのをぼんやりと見てた。
また、はじめてだ。
誰かが服を脱ぐのを見てるのなんて、はじめてだった。
黒いベストが脱がされ、白いブラウスのボタンが外されると、ルーミアのはっとするくらい白い肌があらわになった。
ルーミアの細い身体は、うっすらとピンク色に色づいてて、すごくきれいだなって思った。
ブラウスも脱いでしまうと、ルーミアのぺったんこな胸が現れた。
ほとんどふくらみはないけど、さくらんぼみたいなさきっぽがふたつ、かわいらしくちょこんと乗っていた。顔を埋めたいな、とか思ってしまった。きっとすごく、甘いにおいがすると思う。
シーツの上に膝立ちになったルーミアの細い腰から、すとんと黒いスカートが落ちた。小ぶりなお尻を覆っているのは、飾り気のないシンプルな白のショーツだった。
見てるだけなのが、なんだか落ち着かなくて、わたしは中途半端に脱がされていた上着を不器用に脱いだ。
ルーミアが、見てる。わたしと同じように、私が服を脱ぐのを見てる。
ほら、またはじめて。服を脱ぐのを見られるなんて、はじめて。
すっごく恥ずかしくて、もちろんその恥ずかしいどきどきがすごく気持ちよかった。
わたしたちはお互いに見つめあいながら、服を脱いでいった。
「んしょ……っと」
もぞもぞ動いて、ルーミアは最後に残ったショーツも脱いでしまった。
わたしも、寝転んだままお尻を持ち上げて、スカートを脱いで、ちょっとためらってからショーツに手をかけた。
見えちゃう……見られちゃう。ルーミアに、ぜんぶ……。
思い切って、ショーツを足首まで下して、そのままつま先から抜いた。
これでぜんぶ。お互いに、裸。
覆い隠すものは、なんにもない。ぜんぶ、見えちゃう。
「えへへ、ぜんぶ、脱いじゃった」
「あ、あんまりじろじろ見ないでよね……」
寝転んだままのわたしに、よつんばいになったルーミアが、覆いかぶさるみたいに抱きついた。
「ふぁ……」
肌が触れた瞬間、わたしはもう声を漏らしていた。
密着したルーミアの肌はすべすべで、触れてるだけできもちよかった。
「わぁ……あったかいなー」
胸元からおへそのあたりくらいまでがぴったりとくっついて、ルーミアが言ったとおり、あったかかった。
それに、ちょっと動くだけで肌がこすれてきもちよくて、わたしはえっちな声、出してしまった。
「えへへぇ……すりすりするの、きもちいいいなー……」
わたしの胸元にほっぺたをすり寄せながらそう言うルーミアの声が、ちょっとだけふるえてるみたいに聞こえた。
体が密着してるせいで、ルーミアのぺったんこなおっぱいのさきっぽが、つんと固くなってるのが分かった。
ルーミアも、きもちいいのかな……って思った。
「ルーミア……胸のさきっぽ、固くなってる……」
なんとなくそう口に出すと、ルーミアはちょっと照れたふうに笑った。
「だって、てんこちゃんとすりすりするの、きもちいいんだもん……」
そう言ってルーミアはちょっと体を離して、わたしの胸と自分の胸をぴったりくっつけた。
「あん……っ、や、さきっぽ、こすれちゃう……!」
「えへ……これ、おっぱい、すりすりするの、きもちいいよぅ……」
わたしの胸とルーミアの胸のさきっぽがこりこりこすれあって、今まで感じたことがないような気持ちよさにわたしは襲われた。
ルーミアはいつもの無邪気な笑顔だったけど、息が乱れてて、熱くて……。
「みぅ……てんこちゃんのからだ、あつぅい……」
どこかうれしそうな口調で、ルーミアが言う。
「あ、あんたが……えっちなことばっかり、するから……」
「だってぇ、てんこちゃんのおっぱい、ぷにぷにしてて、くっついてるときもちいいんだもん……」
ルーミアはそんな風に言って、わたしのほっぺたをぺろんと舐めた。
ルーミアはちっちゃな身体を妙に色っぽくくねらせながら、わたしに体中をすり寄せてきた。
柔らかいほっぺた、ぺったんこの胸、固くなった乳首、すべすべのお腹、そして……
「あ……っ?」
くちゃ……と濡れた音が、かすかに聞こえた。
頭を動かして視線を下にやると、ルーミアのふとももの間から、たらりと一すじ、雫がわたしの足の辺りに垂れるのが見えた。
濡れ……てる。
ルーミアはわたしの視線に気がついたみたいで、恥ずかしそうに笑った。
「やーん……はずかしいよぅ」
「え、う……ご、ごめんっ」
わたしが慌てて視線をそらすと、ルーミアは熱くなった息を漏らしながら笑って、わたしの手を取った。
そして、そっと自分の足の間に持っていった。
誰かのそんなところをに手を触れるのはもちろんはじめてだった。
触れる前から、そこが放つ熱気をわたしは指先に感じてびっくりした。
ルーミアが身じろぎした拍子に、そこからまた雫が垂れて、わたしの手を濡らした。とろとろしてて、熱かった。
「てんこちゃんとくっつくの、すごくきもちよくって、えへへ……とろとろになっちゃったぁ……」
そんなことを言うルーミアの声も、蜂蜜みたいにとろとろにとろけていた。
ルーミアのそこは、ほんとに溶けてるんじゃないかって思うくらい、濡れてた。くにゅくにゅした感触が、わたしの指を取り巻いてて、やっぱり敏感なのか、ちょっと指を動かしただけで、ルーミアの小ぶりなお尻がぴくんと跳ねた。
「みゃ……てんこちゃんの、ゆびぃ……ゆび、おなかのなか、くすぐってるぅ……」
ルーミアは息がかかるくらいすぐそばで、そんなえっちな声を上げた。
「ルーミア……なんか、すごく……えっち……」
「んみ……でもぉ、てんこちゃんだって……」
はぁ、はぁと息をつきながら、ルーミアはいたずらっぽく笑った。そして、そっと片方の手をわたしの足の間に伸ばした。
わたしは、抵抗しなかった。誰にも触れられたことがない場所に、ルーミアのちっちゃな手が触れるのが分かった。
「こんなに、なってるよ……」
わたしはそこではじめて、自分のそこがどうなっているか気付いて、今まで出いちばん顔が赤くなった。
お漏らしでもしちゃったのかと思うくらい、濡れてた。
恐る恐る目をやると、シーツにまで染みができてた。
「あはは、てんこちゃん、顔まっか~」
「う、う、う~……!」
「きもちよかった?」
顔のすぐ近くでそんなことを聞いてくるルーミアに、わたしはヘンなうめき声を上げることしかできなかった。そんなわたしをルーミアは、面白そうに眺めていた。
「ね、てんこちゃん」
「な、なによぅ……」
「ふたりでさわりっこしたら、もっときもちいいよね?」
「え……」
「わたし、てんこちゃんとさわりっこしたいな。いっしょに、きもちよくなりたいな」
「ルーミア……」
実を言うとわたしは、その言葉だけでもうきもちよくなってた。
だって……ルーミアにそんな風に求められて、すごくうれしかったから。
すごくうれしくて、止まっていたはずの涙が一滴、ぽろっとこぼれてしまった。
「あ、もー……てんこちゃんてば泣き虫ー」
からかう口調でそう言って、ルーミアはまたわたしの涙をぺろっと舐めとってくれた。
それから、ぎゅって抱きついてきた。耳元でささやく声で、背筋がぶるっとふるえるのが分かった。
「ね、しよ……」
わたしは返事の代わりに、ルーミアのほっぺたにキスして、それから片手をそこに伸ばした。
ルーミアもおんなじように、わたしのそこに手を触れた。
わたしたちは抱き合って、お互いのそこを触れ合って、声を上げて、ふるえて、お互いの汗でお互いの体を濡らして、何回も、何回も、いっしょにきもちよくなった。
それでも、手で触れるだけじゃ物足りなくなって、わたしたちはどちらからともなく、直接そこをくっつけ合った。
「ひ、はぁぁぁ……!」
先に声を上げたのはわたしの方だった。今までとは比べ物にならない刺すような快感に、わたしは肺の中の空気を搾り出すような悲鳴を上げてしまった。それくらい、きもちよかった。
それに、ルーミアがこぼす声がすごくかわいくて、わたしはもっとその声が聞きたくて、めちゃくちゃに体を動かした。
「みぁぁぁう……とけちゃう……ぜんぶ、とけちゃう……てんこちゃぁぁん……!」
「とけちゃおっ? ふたりで、とけちゃお……!」
ふともものあたりとか、もうびしょびしょになってるのが分かった。わたしとルーミアの雫は交じり合って、熱くなった肌を濡らしていた。
頭の中で火花が散るような感じがした。終わりが近いのが分かった。
わたしとルーミアはお互いの手をぎゅっと握り締めた。それが合図だったみたいに、はじけた。
「みぁう、みぁ、あ、あぁ……あーーー……っ!」
「っきゅぅぅぅん……! んああああ……!」
いちばん激しいふるえがきて、わたしたちはぎゅっと抱き合ってふるえていた。
腕の中で、ルーミアの体がゆっくりと緩んでいくのが分かった。
すごく、幸せな気分。
「こんなの……はじめて……」
その呟きが聞こえたのか、ルーミアが荒い息の下で、かすかに笑った。
「デート」
「え?」
終わった後で体がだるくて、ぼんやりシーツにくるまっていると、ルーミアがいきなりそんなことを言った。
思わず聞き返すと、ルーミアはちょっと不満顔になった。
「もー。忘れちゃったの? デートするって、約束したじゃない」
まだ熱が体と頭の中に残っていて、ルーミアの言っていることを思い出すのに時間がかかった。
「あー……そういえばそうだったっけ……」
「ひどーい。わたし、楽しみにしてたのにー」
ぷんぷん怒っているルーミア。とってもかわいかった。
「じゃあさ、明日」
「ふぃ?」
「明日、どっか行こうか」
そういうとルーミアは、あっさり機嫌を直してくれた。うふふ、単純なヤツ。
「うんうん、行く行くー! で、なにしよっか?」
わたしは少し考えて、答えた。
「いっぱい、はじめて、しよ?」
幼い感じの2人だからこそできる、喧嘩と愛情劇ですね?見ていて気持ち良かったです(笑)!
最近投稿されるものは、シリーズ系でもない限りそうはいかないもんですから少しこういうのを見れてほっとする。
幼いるーみゃと積極的なるーみゃのギャップがエロすぎた
このカプいいですな
ふ、ふおぉぉぉ! 天人の光と妖怪の宵闇が加わり最強に見える!
仲直りってやつはいいですね
あまりの可愛さに昇天した
あと後書きに超懐かしい名前を見つけて思わず涙した
玄田哲章声で囁かれたら抗えないよね。