※はじめに
この作品は、【百合色の】東方の百合カップリング談義11【幻想郷】620及び、常春の百合ろだ[lily_0132.txt]に投稿したSS
http://merupo.orz.hm/lily_stories/upload/data/lily_0132.txt
にネチョ要素を追記し、加筆修正したものです。
この作品が、上記のSSの盗作、無断使用ではないこと、上記のSSとこの作品の筆者は同一人物であることをここに明記します。
「よーう咲夜! 遊びに来たぜー!」
ばーん、といつものように大きなドアを遠慮なしに開けて入ってきた魔理沙に、咲夜はいつものようにため息ひとつ。
「おやつをたかりに、の間違いでしょ」
「んむ、それでもいいぜ。で、今日のおやつはなんだ?」
「否定もしないのねえ」
二つ目のため息をつく咲夜に、魔理沙はにっと笑ってみせる。
「わたしは正直者だからな」
「だったらついでに礼節も身につけたら?」
「わたしは欲がないからな」
「だったらなんでたかりに来るのよ」
「咲夜のおやつは美味しいからな」
「調子いいのね」
「おう、わたしはいつでも絶好調だぜ! それに美味しいってのはうそじゃないぜ?」
「ま、誉められて悪い気はしないわね。お通ししますわ、お客さま」
「お客さまだぜ、てーちょーに扱ってくれよ」
そんな会話をしながら、咲夜は結局いつも通りに魔理沙を客間に通した。
客間にはすでにレミリアやパチュリーが揃っている。
今日のおやつは、クランベリーパイ。
「じゃあな咲夜! わたしは帰るぜー!」
「はいはい、知らない人についてっちゃダメよー」
ぞんざいに手を振る咲夜に背を向けて、魔理沙は外に出る。
と、足元にぽつり。
おっ? と思った次の瞬間、バケツをひっくり返したような大雨が頭上から叩きつけてきた。
魔理沙は慌てて玄関に逆戻り。
「うわあ……こりゃあ吸血鬼じゃなくても身動きできないぜ……ったくなんだってんだよう。帰ろうとした途端に振ってきやがって。なんなのぜ!」
空に向かって愚痴ったところで雨が収まるはずもなく、それどころが雨音に雷の低いとどろきが混じり始めた。
「で、あんたどうやって帰るつもり? 雨具は?」
「持ってないぜ……」
はあ、と咲夜は今日3度目のため息。
「……泊まってく?」
「え……」
ぽかんとした表情で、魔理沙は咲夜を見上げる。
「雨具もなしにこんな天気じゃ帰れないでしょ。今夜は泊まってきなさい」
「い、いいのか?」
「あら、おやつは平気でたかりに来るのに」
「え、だって、着替えも何にも用意してないし……」
「服くらい貸してあげるわよ」
「でも、部屋……」
「今大掃除してるけど、まあなんとか空けるわ」
「ま、まさか地下のカタコンベかなんかに拉致監禁拘束拷問洗脳されて夜ごとに館モノ的な意味で陵辱の限りを……」
「……あんたわたしをどういう目で見てるわけ」
「ほ、ほんとにいいのか?」
「だからいいって言ってるじゃない。ほら、こっちよ」
カツカツと歩いていく咲夜の後を慌てて追う魔理沙。
紅魔館には何度も足を運んでいるが、泊まるなんてこれが初めてだ。
そう思うと、見慣れた長い廊下がまるで別の場所のように思えて、妙に緊張する。
そんな魔理沙の様子を知ってか知らずか、咲夜はどんどん進んで行き、廊下に沿ってずらりと並んだドアのうちの一つを開けた。
「さ、どうぞ」
「お、お邪魔するぜ」
促されて入ってみると、中は小奇麗に片付いた部屋だった。
調度品の数は割と少なく、壁にかけられた一枚の赤い花の絵が印象的だ。
おずおずと部屋に足を踏み入れる魔理沙。遠慮がちだったのはほんの少しの間だけで、やがて魔理沙は部屋中を興味津々といった様子で見回し始めた。
そのうちだんだん遠慮がなくなっていって、ベッドの上ではしゃぎ始める魔理沙。
「おー! ふっかふかだぜー!」
「ちょっと、あんまり暴れないでよ?」
「ああー……物が散らかってないベッドって素晴らしいよなー……はふぅ」
枕に顔を埋めて恍惚の吐息を漏らす魔理沙に、咲夜は呆れ顔。
「あんたの家の中の様子が手に取るように分かる発言ね……あとシーツとかはそこらの妖精メイドに聞いて取ってきて」
「えー、わたしはお客さまなんだろ? ちゃんとおもてなししてくれよう」
「いきなりずうずうしくなってきたわね。さっきまでは大人しくていい子だったのに」
「わたしはいつもいい子だぜ?」
「はいはい……」
苦笑しながら部屋を出て行こうとする咲夜。
ドアノブに手をかけたところで、ぴたりと止まり戻ってくる。
はしゃいでいた魔理沙が気付き、不審げな目を向ける。
「……な、何だよう」
咲夜は答えない。
無言で魔理沙のいるベッドに近づいてくる。
あとずさる魔理沙。
「おもてなしが、お望みなんでしょう……?」
「な……!」
ベッドに片膝を乗せる咲夜。ぎ、とかすかにベッドがきしむ。
見せつけるようにゆっくりと、襟元からリボンを抜く。
両膝がベッドに乗ったときには、咲夜の長く細い指が、ブラウスの上から3つ目にかかっている。
魔理沙は何も言えず、顔を真っ赤にしてさらにあとずさる。
「な、なにしてるんだよ……!」
咲夜は言葉を返さない。
ただ、困惑に揺れる魔理沙の瞳をじっと見つめているだけ。
指に絡まっていたリボンが、ベッドの上にはらりと落ちた。
ベッドに手をつき四つん這いになった咲夜の眩しいほど白い胸元から、魔理沙は目を離せない。
あとずさる魔理沙を追い詰めるように、咲夜が身を乗り出す。、
4つ目のボタンまで外されたブラウスの合わせ目からは、細い鎖骨と胸の柔らかなラインが露になっている。
香でも炊いているように、甘い香りが目の前の咲夜から漂い、魔理沙は軽い酩酊感すら覚えた。
知らないうちに両手でシーツをぎゅうっと握っている。
す、と咲夜が指を持ち上げ、顔を真っ赤にしたまま動けない魔理沙の頬をなぞる。
ぎゅっと目をつぶり、身をすくませる魔理沙。
くす……と咲夜が甘い笑みを漏らす。その口元に一瞬、ピンク色の舌が閃いた。
それは切っ先だ。ナイフの切っ先だ。狙われたら最後、逃げられない。
指先がすうっと降りていき、魔理沙の喉元をくすぐる。
「……っ!」
それだけで魔理沙が身を震わせる。
指先は今度は登っていき……ちょん、と魔理沙の鼻をつついた。
「ふぎゃっ」
「なーんて、びっくりした?」
固まる魔理沙。ややあって、ぷるぷる震え始め、次いで、
「お、お、お前なあ……!!」
くすくす笑う咲夜。
「いやあね、顔、真っ赤よ?」
魔理沙は慌てて目をそらす。
「こ、これはお前だ、お前のせいだ!」
視線を戻したときには、咲夜はすでに着衣を整えている。
「お前が、その、すごく……」
そこまで言って、魔理沙は先が続けられなくなる。
「? なに?」
「あーもー! いいからもう出てけようーっ!!」
「あら、そんなに嫌だった?」
「あっう……むむむ」
何か反論しようとするが、言葉に詰まる魔理沙。
「まんさらでもなかったり?」
「ばかーっ!」
暴れ始める魔理沙に、ちょっとからかい過ぎたかしら……と、咲夜は苦笑する。
「はいはい、ごめんなさいねお客さま。あんまり暴れないでよ、わたしのベッドなんだから」
「……はわっ?」
枕を振り上げた姿勢で固まる魔理沙。
咲夜は構わず続ける。
「今夜はもう少し仕事があるから、先に寝てていいわよ。あんたちっこいからふたりくらい入れるでしょ。じゃ、あとでね」
「ほわっ?」
ぱたん。ウインク一つ残して、ドアが閉まる。
出て行く咲夜。取り残される魔理沙。
咲夜の足音が遠ざかり、やがて聞こえなくなる。
「え……え?」
ぽすん、と、振り上げていた枕がベッドに落ちた。
咲夜が仕事を終えて自室に戻ってくると、魔理沙は下着姿でまだ起きていた。
枕を抱えたまま、ドアの開く音にびくっと身を震わせる。
「あら、まだ起きてたの?」
「……眠れるわけないぜ」
「何か言った?」
「なんでもない! だいたいなんで一緒の部屋なんだよ! 客室くらい用意してないのか?」
「大掃除してるって言ったでしょ。それとも何? わたしの部屋じゃ嫌?」
うっ、と魔理沙は言葉を詰まらせる。
「そ、そういうわけじゃ……ないけど……」
魔理沙の言葉は尻すぼみに消えていく。
とにかく落ち着かない。
魔理沙がそわそわと自分の三つ編みをいじっているのを見て、咲夜はくすりと笑みを漏らす。
「なあに? 緊張してるの?」
からかうような咲夜の口調に魔理沙は何事か言い返そうとしたが、そのまましぼんだ風船のようになって、ぽすんとシーツに倒れこんでしまった。
「……もーいい。寝る」
拗ねたように呟いて、もぞもぞとシーツに潜り込む魔理沙。
からかい過ぎたかしら……と苦笑している咲夜を、横目で睨む。
と、魔理沙に背を向けた咲夜がするりとエプロンの紐を解き始めた。
ひどく気恥ずかしくなって、魔理沙は枕に顔をうずめた。
しゅる、しゅるりという衣擦れの音をどうしようもなく意識してしまう。
脳裏を、先ほど見た咲夜の半裸がかすめた。
薄くルージュを刷いた、艶やかな唇。
はだけたブラウスから覗く、真っ白な胸元。
頬をなぞる、指先の感触。
その咲夜がすぐそばに、そして今にも自分と同じベッドに入ってくると思うと、魔理沙はとても平静ではいられない。
ややあって、隣りに咲夜が身を横たえた。肩越しにちらりと視線を放る。
大き目のYシャツに袖を通しただけの姿がやけに色っぽく、魔理沙は赤面した。
背中が僅かに触れ合って、魔理沙は身じろぎする。
「……」
沈黙。
雨が窓ガラスを叩く音だけが、部屋に満ちている。
咲夜はもう、眠ってしまっただろうか。
耳を澄ます。寝息は聞こえない。
もぞ、と咲夜の動く気配。
恐る恐る肩越しに、背中の方へ視線をやると、咲夜と目が合った。
そのまま目をそらすこともできず、魔理沙は不自然な姿勢で咲夜と視線を合わせている。
「……慣れてないの?」
「え……」
不意に咲夜が発した言葉の意味を、魔理沙は掴みかねた。
咲夜は魔理沙のほうを向いたまま、続ける。
「慣れてないの? こんな風に、誰かと一緒に眠るの」
「……わたしは一人暮らししてるんだぜ。一人で寝てるに決まってるだろ」
咲夜に背を向けたまま、魔理沙はふてくされたように言う。
「じゃあ、うちにいた頃は?」
「……知らない」
魔理沙は視線を外した。
咲夜の口にした「うちにいた頃」という言葉に、思い出したくない種類の記憶が頭の奥の方で蠢く不快感を覚えた。
――再び、沈黙。
今度の沈黙は重く、魔理沙の小さな身体を押し潰すかのよう。
否、沈黙ではなく、「うちにいた頃」の記憶こそが、魔理沙に鉛を呑んだかのような重圧を加えていた。
咲夜は、何も言わない。
まだこちらを向いているのか、それとも視線を外しているのか、魔理沙には分からない。
沈黙は続く。
ややあって魔理沙は沈黙に耐え切れなくなる。
思い切って口を開こうとした時、その肩にそっと触れるものがあった。
咲夜の手だった。
恐る恐る、振り向く。
「ね、魔理沙。顔、上げて」
「え?」
反射的に顔を上げてしまう魔理沙。
あ、と思ったときには、咲夜の手が両頬を包んでいた。
ミスディレクション。
「ん、ふ……」
魔理沙が何か言う前に、中途半端に開いた唇が塞がれた。
ややあって唇を離す。
魔理沙の頬が上気していた。視線がさまよっている。
「よかった?」
「ばっ……!」
一瞬で顔を真っ赤にして何か言い返そうとした魔理沙の口を、咲夜は素早く塞いだ。今度はすこし長く。
反射的に咲夜を押しのけようとした魔理沙の両手は、十分に力が入るその前に萎えてしまった。
唇を離して自由になった魔理沙の口は、うっかり「あ……」という名残惜しげな声を喉下にとどめるのを忘れてしまう。
「いきなり、なんだよ……」
弱々しく抗議する魔理沙。
咲夜はそれには答えずに、すこし間を置いて聞いた。
「甘えるのが、こわい?」
「う、え……?」
魔理沙はとっさに答えられない。咲夜は魔理沙の答えを待たず、言葉を続ける。
「誰かに頼るのが、こわい?」
「な、なに、言って」
「誰かに心を許すのが、こわい?」
「……」
「自分の本当を、見せるのがこわい?」
魔理沙は答えられない。なぜなら咲夜の口にした言葉はことごとく真実で、彼女の操るナイフにように正確に、誰にも見せたことがないはずの魔理沙の本心を射ていたから。
答えの代わりに、拗ねたように呟く。
「どうして、」
「分かるのかって?」
「な、ちがっ……!」
それ以上何も言えなくなってしまった魔理沙を、咲夜は静かに見つめている。
その視線にさえ耐えられなくなり、魔理沙は咲夜に背を向けた。そうすることしかできなかった。
――そして、沈黙。
魔理沙は、まるで人前で着衣を剥ぎ取られたかのような惨めさを感じていた。
――見られた。
隠していたのに。
絶対に他人にはそんなそぶりを見せていないはずだったのに。
シーツの中で身を固くする。
ぎゅっとすくめた肩に触れるものがあった。咲夜の手。
感電したように肩が跳ねるのを止められなかった。
沈黙が続く。
咲夜は魔理沙の肩に手を置いたまま、口を開かない。
振り返ろうか、魔理沙は迷った。そして結局、咲夜に背を向けたまま、ぽつりと言った。
「勘当された。昔」
口にしてから魔理沙は、自分がどうしてこんなことを言っているのか、どこか遠くの方で不思議に思った。
こんなことは普段なら人には絶対に言うはずがないのに、どうして? そう思った。
本心を見抜かれていたことで、やけにでもなってしまったのか、いや、たぶん、違う。
そしてまた沈黙。
続きを話してしまおうか迷っているというよりは、後ろの咲夜の反応をうかがっている沈黙だった。
咲夜は、何も言わない。ただ魔理沙の肩に手を置いているだけ。
――なぜか、ほっとした。
魔理沙は、先ほどよりもややためらいの薄れた口調で話し始めた。
「小さい頃だった。自分から飛び出してきた。……父親と喧嘩したんだ。そのまま、家に戻ってない」
視線は向けず、気配だけで背中の方を窺う。咲夜が動く様子はない。ただ、魔理沙の肩に手を置いているだけ。
なんだか不意に涙が出そうになって、すん、と鼻を鳴らす魔理沙。咲夜はやはり何も言わない。
「それからずっと一人暮らししてた。だから、誰かとこんな風に一緒に寝た記憶なんて、あんまりないんだ……だから、慣れてない」
そこで言葉を切った。
咲夜はまだ、何も言わない。
自分がひどく恥ずかしいことを言った気がして、魔理沙はばふんと枕に顔を叩きつける。
「あーっもお! なんでこんなこと口走ってんだよ私は! いいか! 私がこんなこと言ったなんて誰にも言うなよ!」
枕に顔を埋めたままもごもごとくぐもった声で文句を言う魔理沙。
顔を半分だけ上げて、片目で咲夜の方をそっと窺う。
目が合った。
笑ってもいない、悲しそうでもない、曖昧な表情で、咲夜は魔理沙の方を見ていた。
「魔理沙」
「……っ!」
不意に呼ばれた自分の名前に、枕を掴んだ両手がぴくんと跳ねた。
咲夜はシーツの中から両手を伸ばす。指先が魔理沙の頬に触れる。
「おいで」
涙がぽろっと零れるのを、魔理沙は止めることができなかった。
もぞもぞと動いて、咲夜の腕の中に身体を収めた。
咲夜は魔理沙の背中をそっと抱きしめて、片手で頭を撫でてやる。
ん……と魔理沙はむずがるような声を漏らす。
「小さい頃にはね」
魔理沙の頭を撫でながら、咲夜が静かな口調で語りかける。
「こうやって誰かと一緒に眠るものよ。そしたら幸せになれる」
そう言って咲夜は微笑んでみせた。
収まりかけた雨間からちらりと覗く月明かりの作った陰りのせいだろうか、魔理沙にはその顔が少しだけ、悲しげに見えた。
「……私は、もう小さくないぜ」
「生意気。小さいくせに。こことか」
「きゃ……!」
「あら可愛い。普段はあんななのにねえ」
「からかうなよ、ばかー……」
言いながら魔理沙は、仔猫のように咲夜の胸元に顔をすり寄せる。
咲夜はくすりと笑って、魔理沙の手に指を絡める。
ひどく恥ずかしくなって魔理沙が目をそらすと、咲夜はその手をくっと軽く引き寄せて、かるく口付けた。
「……お前って、そういうこと平気でするよな」
「なあに? 私じゃご不満?」
からかい口調でそういうと、魔理沙は「知らない……」と呟いて俯いた。
そんな魔理沙に、咲夜はくすりと微笑んで、唇を寄せる。
一瞬ぴくりと肩を震わせる魔理沙。しかし、抵抗はしなかった。
「あら、抵抗しないのねえ」
「もう2回もいきなりしといて、今更なに言ってんだよ……」
「ふふ……」
笑みの形を浮かべたままの唇が、魔理沙のそれと重なった。
抱きすくめた魔理沙の体から、少しずつ緊張が抜けていくのが分かった。
咲夜はいつの間にか、魔理沙に覆い被さるような形になっていた。
「……っは、ぁ……、は……」
唇を離すと魔理沙は、はあ、はあ、と浅く息をつく。
呼吸に合わせて上下する控えめなふくらみに、咲夜の手が伸びた。
「あ、やぁ……」
抵抗する代わりに口から漏れた自分の声に、魔理沙はひどく困惑した。
自分が誰かとこんなことをしているなんて、信じられなかった。
そんな魔理沙の困惑を、咲夜は読み取っているのだろうか。
咲夜の手が包み込むように胸に触れると思わず漏れそうになった声を、魔理沙は必死に飲み下す。
「な、なにするんだよぅ……」
震える声でそう問う魔理沙に、咲夜は微笑む。
「おもてなし、よ……」
片手を魔理沙の胸に宛がったまま、咲夜はもう一度口付けた。
するり、と、魔理沙の口内に舌を滑り込ませる。
「んん……っ」
鼻にかかった声を上げる魔理沙。
咲夜が口内に差し込んだ舌先で、怯えるように縮こまった魔理沙のそれに触れると、魔理沙はくぐもった短い悲鳴をあげる。
唇をすこし離してやると、熱く湿った吐息が漏れた。
「ん、る……」
「は、あう……」
ゆっくりと味わうように、咲夜は魔理沙の唇と舌を舐め上げながら、小さな胸にあてがった手を動かす。
「はぁー……っ」
染みるような熱い感覚に、魔理沙は咲夜の唇の間から長い吐息を吐いた。
咲夜は目元だけで、ふ……と微笑み、さくら色に染まった魔理沙の頬に口付ける。
それだけで魔理沙は、は……と息をつき、小さな身体をふるわせた。
「こわい……? こういうこと、するの」
吐息のかかるほど近くで咲夜が問う。
いつもなら即座に啖呵が飛び出すはずの魔理沙の唇は、中途半端に開いたまま、はあ、はあ、吐息混じりの声を漏らすばかり。
「だいじょうぶよ……」
そう言って咲夜は、魔理沙の両頬をそっと包み込む。
「壊れやすいものの扱いは、慣れてるわ」
5回目のキス。
咲夜の舌先に触れた魔理沙のそれは、今度はおずおずと進み出てきた。
咲夜の舌に絡め取られる。柔らかく、熱い。
魔理沙は全身が弛緩していくのを、他人事のように感じていた。その体が、幼い子供が母親に縋りつくように咲夜の頭にに手を伸ばすのもまた、他人事のようだった。
自分が今までした事のない、決してするはずのない行動だったから。
「んっ、んく、んぅーっ……」
咲夜の真似をするように、不器用に舌を使う魔理沙。唇の端からひと筋、つぅっと唾液が垂れた。
咲夜が唇を離し際に、かるく口付ける。
「さくやぁ……」
離した唇から、吐息とともにそんな言葉が漏れた。
夢うつつの、ひどく無防備な声音。
「なぁに……?」
優しく頭を撫でてやりながらそう聞き返すと、魔理沙は視線をさまよわせ、やがて俯く。
促すように頬に手を添えてやると、魔理沙はようやくちらりと上目遣いに視線を上げ、言った。
「……も、もっかい」
「なにを?」
「なっ……!」
意地悪くとぼけてみせると、魔理沙は一瞬で顔を真っ赤にした。よく見ると涙目になっている。
ちょっとからかい過ぎたかしら、と咲夜は苦笑。
「うふふ、ごめんなさい。ちょっとからかってみたくなっちゃった」
「なんだよぅ、いじわるするなよぅ……」
「ふふ、拗ねちゃって。子供みたい……」
頬に手をやると、魔理沙はすこし躊躇ってから、自分の手を重ねた。
その様子が可愛らしくて、咲夜は魔理沙を抱きしめた。
顎に手をかけて、上を向かせる。魔理沙は十分に従った。
「ん……んぷ」
「んーう……ん、ん……」
咲夜が唇を重ねると、魔理沙は咲夜の背中に手を回す。
抱擁というにはあまりに弱々しく、遠慮がちな仕草。咲夜はそれに、やや深く口付けることで応えた。
魔理沙が背筋をぶるっとふるわせる。
体が密着しているせいで、僅かな身じろぎまでが、そして自身の心が咲夜に伝わってしまいそうで……魔理沙は動揺する。
けれど、それでもいいかも、と魔理沙は頭のどこかで思いはじめていた。
「れぅ……んふ、んぅ……」
口内の咲夜の舌の動きを意識するだけで、魔理沙は体がふるえるのを抑えられなくなる。
なんだか怖い気がして、魔理沙は幼い子供のようにぎゅっと咲夜にしがみつくのだった。
「ん……ぷはっ」
しばらくして、二人は唇を離した。互いの舌先が、つぅ……と糸を引いて、魔理沙は赤面する。
「なんだか、おとなしくなっちゃったわね?」
「……うー」
魔理沙は言い返せず、俯くのみ。
だが、咲夜がくすりと笑いながら魔理沙のキャミソールの裾に手をかけると、慌ててはだけかけた胸元を隠した。
「ちょ、な、なにして……!?」
「なにって……ねえ?」
「ば、おま……」
「あら、ここまできといておあずけなんて、ひどいわあ。魔理沙のいじわる」
「どっちがいじわるだよ……」
「魔理沙は、わたしとじゃ、いや?」
「~~~~っ!」
魔理沙は何か言い返そうとしたが、言い返せる言葉はひとつも思い浮かばず、結局口にしたのはため息一つ。
「……もーいいぜ、好きにしろよ。野良犬に噛まれたことにしとく」
「一応飼い犬なんだけどね……」
言いながら咲夜は、丁寧な手つきでキャミソールを脱がせていく。
「なんか、子供になった気分だぜ……」
「くす、まりさちゃん、おきがえしましょうねー、なーんて」
「やめろよ、ばか……」
からかいながら咲夜は、そっとキャミソ-ルを脱がせる。
薄い生地の魔理沙の肌は、うっすらとピンク色に染まっていた。
呼吸とともに上下している薄い胸に、咲夜が指先を伸ばす。
くっと指先を僅かに沈み込ませると、魔理沙は背筋をふるわせて、ふぅ……っと息を漏らした。
「きもちいい……?」
「わかんな……ふぁ……あ……あつく、て……」
うわごとのように言う魔理沙がたまらなく可愛く見えて、咲夜はかがみこんで赤く染まり始めている首筋に唇を寄せた。
「かわいい、魔理沙……」
舌先を這わせると、魔理沙は声にならない吐息を漏らし、全身をぶるぶるとふるわせた。
咲夜は、自分もまた同じように身体を火照らせているのを今更のように自覚する。
「私も、きもちいい……」
「さく、や、も……?」
「うん、魔理沙の体、熱くて、やわらかくて……触ると、可愛い声、出して」
「はずかしいこと、言うなよ……」
「だって、ほんとよ……」
咲夜は魔理沙の頬にキスをすると、舌先を舌に滑らせていく。舌先を動かすたびに、魔理沙は甘い熱をもった吐息をついた。
首筋から、胸元へ。そして、なだらかな曲線を描く胸のふくらみへ。
「はぅんっ……!」
魔理沙が一際高い声を上げた。
はぁ……っ、と声を漏らしたのは、咲夜の方だった。
愛撫している自分の方が熱くなってしまっているのに、咲夜は胸中で苦笑する。
咲夜は魔理沙のふるえる肌に指を這わせ、胸の先端に指先で触れた。
ぷくんとふくらんだそこは、咲夜の指先をけなげな抵抗で押し返す。
「あ、だ、め……っ」
「かわいい……さくらんぼみたい……」
くに、くにと押してやると、魔理沙の顔は目に見えてとろけていく。
強がりの取れた、無防備な顔。ほんとうの、顔。
「今まで……」
「うん……?」
乱れた呼吸の下から、魔理沙は小さな声で言った。
「こんなこと、したこと、なかった」
「……」
咲夜は何も言わず、聞いている。魔理沙は息をつきながら、途切れ途切れに続ける。
「こんな風に、自分のこと、隠さずに話したり……」
「うん……」
咲夜はそれだけ言って、魔理沙の頭を撫でた。魔理沙はくすぐったそうに目を細める。
「ほんとは、誰かにこうやって話したかったのかも……しれない。誰かに、そんなのお見通しだぞって、言って欲しかったのかもしれない」
「うん……」
「咲夜で、よかった」
そう言って魔理沙は、照れたように、へへ、と子供みたいな顔で笑った。
咲夜は返事の代わりに、魔理沙の頬にキスをした。耳元でそっと、「ありがと」と呟いた。
「あは……ぜぇんぶ、言っちゃった」
言ってしまうと、魔理沙は不思議な安堵を覚えた。胸のつかえが取れた、そんな気分だった。
頭の隅の方で、今のは自然に笑えたな、と思った。
「ね、咲夜」
「なあに?」
「続き、して……」
「うん……」
そう答えて咲夜は、魔理沙の額にキスをした。そして頬に。それから唇に。
控えめに舌を絡めようとする魔理沙。咲夜はそれを導くように、ゆっくり、優しく動きを合わせる。
「ん、る、れる……」
「は、む、ちゅ、ぺる……」
すこし唇を離し、舌先を絡め合う。
触れ合う舌先の感触と交じり合う互いの吐息に、魔理沙はぼうっと霞がかかったような感覚を覚えた。
触れ合う感触ははっきりしているのに、自分の吐息すらもが、どこか遠い。
魔理沙は半分夢うつつの心地で、咲夜の唇が胸を這うのに身を委ねていた。
はく、と咲夜が先端を口に含む。魔理沙の背が跳ね、シーツから浮いた。
「んふ、ちゅ、る……」
「ふぃうううん……っ!」
舌先で転がしてやると、魔理沙は食いしばった歯の隙間から、甲高い声を上げた。
硬直、そして弛緩。どっと魔理沙の背がシーツに落ちる。
「あ、は、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、あ……」
途切れ途切れの喘ぎを漏らす魔理沙に、咲夜はすこし焦った。こんなに過敏に反応するとは思わなかったのだ。
「ちょ、ちょっと魔理沙、だいじょうぶ?」
問われた魔理沙は答えることも出来ず、息を荒げている。
代わりに、快楽の余韻にふるえる両手が、咲夜の頬を包んだ。
くい、と魔理沙が咲夜を引き寄せた。
赤ん坊でも振り払えるような弱々しい力だったが、咲夜は抵抗できなかった。
「んっ……」
唇が触れ合った。押し付けるだけの、稚拙なキス。
それが魔理沙のせいいっぱいだと、咲夜は理解した。
キスを返す。何度も。
自分を目の前に晒してくれた魔理沙の勇気に応えるように、何度も。
「――ぁ、は……」
潤んだ瞳で、魔理沙は無防備な、ひどく幼い笑みを浮かべてみせた。
「さくや、さくやぁ……」
キスを受けながら、魔理沙は舌っ足らずの幼げな声で咲夜の名を呼んだ。
頭を抱きかかえるように抱きしめてやると、魔理沙は頬をすり寄せて甘えてくる。
快感と安堵とにとろかされて、魔理沙の言動は次第に幼いものになっていく。
唇を離し、咲夜がドロワーズに手をかけても、魔理沙は抵抗しなかった。
するりと脱がす。
爪先からドロワーズが抜き取られると、魔理沙はもぞもぞと身体をちぢこめる。
「かわいい、魔理沙……」
「あ、やぁう……」
咲夜の指先が、唇が、舌先が触れるたびに、魔理沙は仔猫のような声を漏らし、ピンク色に染まった肌をふるわせた。
裸体を隠すように丸めていた手足が、花がほころぶように開いていく。
「さくや……ぎゅって、して……」
「うん……」
幼児語でねだってくる魔理沙を、咲夜は優しく抱きしめる。
片手で器用にYシャツのボタンを外して直に肌を合わせると、魔理沙の肌が染みるように熱い。
すこし身体を離して、咲夜は指先を魔理沙の足の間に伸ばす。
「やぁん……」
羞恥の声はむしろ甘く誘うようで、膝を合わせようとする仕草ももう抵抗と呼べるものではなかった。
そっと触れると、そこはすでに潤みを帯びていた。
ゆっくりと指を沈めていく。
「はぅぅぅっ……」
咲夜の指が沈んだだけ、魔理沙は息を吐く。その吐息を吸い込むように咲夜は唇を重ねる。
「だいじょうぶ……? 痛くない?」
「ん、だいじょぶ……」
指先をほんの少し曲げただけで、魔理沙は敏感に反応した。断続的に喘ぎながら、ぴくん、ぴくんと肢体を跳ねさせる。
「ふわ、あ、あぅんっ……おなかの奥、きゅううって……!」
指先を締め付ける感触から、魔理沙が絶頂を迎えているのが分かった。
シーツの上に、ぽたり、ぽたりとあふれる滴で、咲夜の手はもう手首の辺りまで濡れていた。
ちゅぷ……と音を立てながら引き抜かれた糸を引く指先を、咲夜は口に含む。
「ふふ……甘ぁい……」
「やぁだぁ……」
魔理沙は羞恥に顔を真っ赤にした。
肌を伝う汗と涙を、咲夜が舌先で掬い取ると、魔理沙はふるえる声を上げる。
涙に濡れた頬に舌を這わせ、紅く染まった首筋を吸い、可愛らしく尖った胸の先端を含み、さわさわと波打つお腹をなぞる。
そのたびに魔理沙は、甘い声で鳴いた。たまらなく、甘い声で。
咲夜もまた、魔理沙と同じように昂ぶっていた。直接愛撫は受けずとも、魔理沙の愛らしい姿態と声は、咲夜を十分に刺激して止まない。
下着越しに溢れた滴りが内腿の辺りを伝うのを感じながら、咲夜は魔理沙の足の間に屈み込んだ。
「今度は、口でしてあげる……」
「え……」
魔理沙が咲夜の言葉の意味を理解する前に、咲夜の舌が魔理沙の内奥に滑り込んでいた。
びくん!と、魔理沙の体が今までで一番大きく跳ねる。
「ひゃああああああう!」
引き攣れたような悲鳴をあげる魔理沙。硬直した足の指が、シーツを思い切り引っぱる。
お腹の辺りが痙攣するように、ひくひくと波打った。
「や、や、だめ、だ、め、あは、は、はひぅ、お、おなか、の、な、かあああああっ」
「んぷ、ちゅ、れる、れる、んふ、ん、んぅっ」
背中を弓なりに反らせて、魔理沙はあられもない嬌声を撒き散らす。
咲夜は魔理沙の足の付け根に両腕を巻きつけ、舌先で魔理沙のそこを穿った。
けなげな強がりとかなしい嘘とに覆い隠された、ほんとうの「霧雨魔理沙」を、そこから抉り出そうとするかのように。
「は、はひ、ひぁ、ひ、あ、あつい、あつ、ああ、なか、なか、おく、たべら、れ、あ! あ! あ! あ! あ!」
強い快楽のもたらす乱れきった呼吸に魔理沙の言葉は寸断され、意味をなさない喘ぎと成果てていた。
身体は雷霆に打たれたように激しく痙攣を繰り返す。
触れた肌から、響く嬌声から、舌先の感触から、咲夜は魔理沙の限界を正確に感じ取った。
咲夜は顎まで滴で濡れた顔をそこから離し……今まで触れていなかった、秘めやかに息づく花芯を、口に含んだ。
それが、止めだった。
「――っっっゃ――ぁ―――ぁ―――!」
擦り切れた悲鳴が魔理沙の喉から迸った。
同時に魔理沙のそこが、爆ぜるように大量の滴を噴いた。
指先はシーツを引きぢきるほどに掴み、つま先はベッドに突き立てられる。
――数瞬に渡る硬直。そして弛緩。
汗まみれの背中が、濡れたベッドに倒れこむ。
倒れこんだ魔理沙の肢体は、完全に脱力し切っていた。激しい絶頂の余韻に未だ小刻みにふるえる肌が痛々しくさえある。
魔理沙の呼吸は乱れたままで、リズムの整わないスタッカートで、は、は、は、と吐息をこぼしている。
ベッドに投げ出された肢体は無防備に開き、ひくん、ひくんと収縮を繰り返す露な秘部を隠すことさえ出来ないでいる。
咲夜もまだ深く息をつきながら、ベッドに座り込んでいる。
「あ……っ?」
ふと気付き、足の間に手をやる。濡れていた。
魔理沙の痴態に釣られてか、ろくに手も触れていないのにも関わらず。
「やだ……こんな」
ひとり赤面する咲夜。
ふと魔理沙の方に目を向ける。無防備な裸体。
ずくん、と胸の奥が疼く。
魔理沙を愛撫することで自身も快楽を得ていたとはいえ、それだけで十分かと問われれば答えはNoだ。
「う……欲求不満なのかしら……」
言いつつ、ベッドに倒れたままの魔理沙に歩み寄る。
魔理沙はまだ意識がはっきりしないのか、覗き込んでくる咲夜に曖昧な視線を向ける。
初心者相手にちょっとやりすぎたかしら……と咲夜は胸中で一人ごちた。
「ま、魔理沙? 大丈夫?」
頬に手をやると、魔理沙はかすかに、あ……と声を漏らし、ぴくんと身をふるわせた。
ベッドに投げ出された手を持ち上げようとして、その手は中空で力なくさまようばかり。どうやら本当に力が入らないらしい。
その手を咲夜は両手でそっと包み込む。魔理沙の顔がほころんだのが分かった。
「ほら魔理沙、しゃんとしなさいな。そんな可愛いかっこで寝てると、もっとすごいことしちゃうわよ?」
冗談めかしてそういうと、ようやく呼吸が整ってきた魔理沙が、聞き取れないくらい小さな声で何かを言った。
「え、何?」
魔理沙に顔を近づける。情交の熱の未だに引かない吐息が熱い。
その吐息の下から、夢幻の淵を歩むような声音で、魔理沙は言う。
「はぁ……は、ぁ……さ、くやぁ……」
「はいはい、私はここにいるわよ……」
ぎゅっと手を握ってやると、安心しきった子供の表情で、魔理沙は笑みをこぼした。
「あ、は……さくや……」
「なぁに? あまえんぼ……」
「うん、わたし、あまえんぼ……」
胸を締め付けられるようないとおしさに見舞われて、咲夜は魔理沙を抱きしめる。
くしゃくしゃになってしまった魔理沙の髪を撫でてやると、魔理沙はぎゅっと抱きついてきた。
頬をすり寄せながら、魔理沙は咲夜の耳元で、囁いた。
「さくや……おねえちゃん……」
――いとおしさの灼熱が、咲夜の意識を揮発させた。
肉食動物が獲物の喉笛に食らいつくように、魔理沙の唇を奪っていた。
魔理沙が力の十分に入らない手足を、それでも一生懸命に使って、咲夜にしがみつく。
「魔理沙、魔理沙、魔理沙ぁ……!」
貪るような口付けの合間に、魔理沙の名を何度も呼ぶ。ついさっき、魔理沙が自分の名を呼んでいたように。
魔理沙の口はもはや意味をなす言葉は紡ぐことが出来ず、途切れ途切れの喘ぎを漏らすだけ。
その切なげな吐息は、咲夜を泥沼のような酩酊に引きずりこんでいく。
雨は、いつの間にか止んでいた。
ガラス窓を叩く雨音もなく、室内は静かだ。
甘い熱気が、情交の残り香としてまだ漂っている。
「咲夜のばかー。へんたーい。ごーかんまー」
そんな中、魔理沙は枕に顔を埋めてくぐもった恨み言をひしり上げていた。
咲夜はそんな魔理沙の言葉をかるく……
「だ、だってあれは……」
「言い訳するなー」
かるくかわせないでいた。
どもりながら弁解する十六夜咲夜の姿など、誰が想像しえるだろう。
「あ、あんたがあんなになっちゃうなんて思わなかったから!」
「……!」
枕に突っ伏した魔理沙の耳が、赤くなった。
「だ、だって仕方ないじゃない! あ、あんな可愛いこと言われたら誰だって……!」
「だからってあんなに何回も!……し、しなくても……いいんじゃ……ない、か、な……?」
思わずがばっと跳ね起きて反論するも、魔理沙の反論は加速度的に減衰、結局赤くなった顔をまた枕にぽすんと埋めてしまった。
「……こわれちゃうかと思ったぜ」
「ご、ごめん」
「でも……」
「……?」
「あったかくて、やわらかくて、きもちよかった」
「あ、う……」
「うれしかった」
枕に顔を埋めたまま、魔理沙はそう言った。今度は咲夜が、顔を赤くした。
しばらくの沈黙。先に口を開いたのは、咲夜の方だった。
「ね、ねえ、魔理沙」
「なんだよぅ」
「もう……言わないの?」
「え?」
「おねえちゃん、て」
びくん、と魔理沙の肩が跳ねた。
「あ、あれはだな、その場の勢いというかだな、だ、だいたい意識がモーローとしてたんだからノーカンだノーカン」
「あら、つれないのね。あんなに可愛い声で呼んでくれたのに。おねえちゃあん……て」
「ここここ声マネとマジやめろよう! なんでそんなに上手いんだよ声マネ!」
いつもの調子を取り戻した咲夜に、魔理沙は素っ裸なのも忘れてベッドの上に仁王立ちになって怒鳴り返す。
「魔理沙」
「なんだよ!」
「丸見え」
「うひゃあう!」
ぺたんと座り込んでシーツを引っつかみ、ロールキャベツ状になるまで僅か3秒。
「何よ今更。あんなとことかこんなとことか、全部見せちゃったでしょ」
「気分の問題なんだよ!」
魔理沙の慌てようにくすくす笑いを我慢できない咲夜。
シーツの中に引きこもった魔理沙はぶるぶるふるえていたが、巨大な芋虫のようにもぞもぞと蠕動して咲夜の方に寄ってきた。
ぴょこんとシーツの中から顔を出す魔理沙。
顔を真っ赤にしながら、上目遣いで、搾り出すように言った。
「う……あー……さ、さくや……お、おねえ……ちゃん」
「20点」
「はあ!?」
「ちなみに100点満点で」
「わ、私がどんな思いで……っ!」
「だって心がこもってないのよ。だいたい……」
そう咲夜が難癖をつけようとした時、魔理沙がぽすんと咲夜の裸の胸に顔を埋めた。
え?と思った咲夜の思考の空隙を衝くタイミングで、魔理沙が顔を上げる。
「さくやおねえちゃん、おやすみのちゅー、して?」
「……っ!」
一瞬で咲夜の顔が真っ赤になった。
……釣られて、魔理沙の顔も真っ赤になった。
「ぷ、あは、あははは! なにあんたも赤くなってるのよ」
「だ、だって、なんかあとから……あはは!」
顔を見合わせて二人は明るく笑った。
ひとしきり笑った後、二人はどちらからともなく顔を寄せて、キスをした。
咲夜が横になると、魔理沙は裸のままの胸に顔を乗せた。
「こんなかっこで誰かと眠るなんて、初めて」
「どんな気分?」
そう聞かれて魔理沙は、へへ、と照れたように笑う。
「あったかい」
「魔理沙も、あったかいわ」
「おやすみ、咲夜。……おねえちゃん」
「おやすみ、魔理沙」
もう一度キスをして、二人は目を閉じる。
まどろみの中で魔理沙は、咲夜のぬくもりを感じながら、もう一つ別のことを考えていた。
今度はパチュリーのところに行かなければ。
雨を降らせる魔法、作らないとな。
幼児まりさかわいいよ幼児まりさ
口から砂糖吐いて死ぬw
なんにせよいい咲マリでした。次回作も期待してます
もうね、最高です。自分の理想をここまで体現してくれるなんて、感謝してもしきれんですよ。