まずは、犯人のDNA。森下記者が朝日新聞社員でありながら『文芸春秋』に寄稿してくれた「浮上した日仏混血男性」によると、日本ではDNAを警察庁で管理している犯罪者データベースに照会して、犯人のものと型が一致しているかどうかを絞りこむのが一般的スタイル。しかし、その方法で犯人を割り出すことは不可能だったため、欧米で行われているDNAプロファイリングという手法を用いることに決定、帝京大学の法医学教室に鑑定を依頼していたそうです。
DNAプロファイリングとは、母系のみに伝わるミトコンドリアDNAや父系に伝わるY染色体多型などを抽出して、その塩基配列を分析すると人種レベルの判定が可能になるという手法でした。
DNA鑑定で浮上した犯人像
捜査員はフランスへ
そして結果は……。ミトコンドリアDNAから予想外の結果が出たのです。それは、アンダーソンH型。アンダーソンとは発見者の名前ですが、日本人を含むほとんどはN型、A型、Y型に属していて、H型は白色人種が多く、日本人が母親である可能性はゼロに近いのです。
捜査本部は国立遺伝学研究所に依頼して、英国や米国のデータベースともクロスチェックをした上で、間違いなという判断に至ったのですが、これを公開すると捜査員に先入観が出て、外国人ばかりを探すことになりかねないという理由から、一時封印してしまいました。ようやく封印が解かれたのは、2005年のことだったといいます。
封印が解けた後、ミトコンドリアDNAサンプルを再分析しましたが、結果は間違いなくアンダーソンHであり、しかも15型であることも判明しました。15型とは、ヨーロッバの地中海側の地域を示す記号です。 一方、再分析した教授は同時に父系のY染色体の鑑定も実施しました。
結果は、父系は日本人を含むアジア民族に多く見られるO3e*(オースリーイースター)とわかりました。つまり犯人の母は地中海に住む欧州人、父系は日本を含むアジア人の可能性が高いということなのです。