客が飲食店従業員に「マスク外して」 対応に悩む店 鹿児島
2020年12月30日 23時57分 毎日新聞
2020年12月30日 23時57分 毎日新聞
2020年12月30日 12時46分 毎日新聞
「マスクを外してほしい」。接待を伴う鹿児島市内の飲食店で新型コロナのクラスター(感染者集団)が発生し、接客にあたる従業員が客からこんな要求を受けていたことが、市の記者会見で明らかになった。感染対策に懸命となる店側と、無頓着な利用客との意識の落差も垣間見える。こうした客の求めにどう対応したらいいのか、頭を悩ます店側の声も聞かれる。
12月10日、鹿児島市内での新たなクラスター発生に伴う会見で市が言及した。クラスターが発生した店名は非公表で、客がマスクを外すよう求めた詳細な事情や感染との関連は不明だが、市によると実際にマスクを外して接客する場面もあったという。鹿児島県内では15カ所のクラスターが確認されており、この店の関連では54人(12月29日現在)の感染が判明している。
このほか市は会見で、別の飲食店での例として、従業員が着けたフェースガードを外すよう客から求められたり、座席に置いたアクリル板を外されたりしたといった報告が寄せられていると説明した。
鹿児島市は市内の感染拡大を受けて、接待を伴う飲食店に対して万一のクラスター発生に備えた利用客の名簿作成などの対策を取るよう依頼している。また、市内の繁華街、天文館地区に専用の会場を設けて従業員への集団PCR検査も実施した。店側もサーキュレーターを設置して店内の換気に努めたり、飛沫(ひまつ)対策のアクリル板を設置したりするなど対応に懸命だ。
「マスク会食」といった言葉も浸透し、飲食店での感染対策は進みつつある。しかし、こうした取り組みと利用客の行動やモラルが一致するとは限らない。「店が繁盛していれば『そんな客はいらない』と言えるが、暇だと相手の気分を害するわけにもいかず、お客さんの求めを断りづらい」。鹿児島市内の別の飲食店経営者が話すように、コロナで客足が減る中で、店を維持するため客の求めに応じざるを得ないといった事情もうかがえる。
鹿児島市保健所は店側の対策について「業界団体などのガイドラインに基づいて自主的に実施するもの」との立場だ。確かに感染防止に向けて広く対策に取り組むのは市の役目だが、個々の店舗と利用客との関係に立ち入って客への一定の行動を求めるのは難しい。
下鶴隆央・鹿児島市長は12月28日、市民へのメッセージを発表し「基本的な対策を徹底していただくことが、みなさんご自身、周りの大切な方、ひいては自分の行きつけの大事なお店を守ることにもつながる。改めて基本に立ち戻って感染防止対策の徹底を」と呼びかけた。感染拡大防止には市民一人一人の意識が大切なのは言うまでもない。【菅野蘭】