咲マリ物です。怒涛の4万1千文字オーバー。
一応前々作“punishment”の続編という形を取っていますが、未読でもあんまり問題ありません。
咲夜さんと魔理沙がある程度仲良しという前提さえあれば万事無問題です。
でもそれ以上の問題があります↓
================【警告】wicked loli-com alert!【警告】================
本作にはタグの通り幼児プレイ成分が多分に含まれています。
また、その煽りで魔理沙がかなりロリっぽく描写されてます。
咲夜さんが非常によく訓練されたロリコンで、しかも変態です。尿ネタあり注意。俺設定注意。
ちょっとだけあなうー描写あり注意。
全て許せる方のみ、お読みください。
最近、紅魔館が静かだ。
確かに、人里離れた紅魔館近辺はもともと静かな場所ではある。
騒がしい日があったとすれば、せいぜいお嬢様か妹様あたりが癇癪を起こした時ぐらいだろう。
だが、紅霧異変のあたりから事情は違ってきた。
時に図書館で熾烈な争いが起こり、時に厨房からおやつが消え失せ、そして毎回のように門番の断末魔が響いていた。
少なくとも週に一度はそんな騒ぎが起こっていたものだから、自分もそれが当たり前のように感じていた。
だからこそ、こう何日も静かな日々が続くと、妙なもやもやがこみあげてくる。
例えるなら、行きつけのソバ屋の狸の置物が、いつの間にか消え失せたかのような。
あるべき日常の一部に、ぽっかりと穴が空いたような。
露骨に言ってしまえば、その元凶―――霧雨魔理沙が、最近紅魔館に遊びに来ないのだ。
そりゃあ彼女はここの人間ではないし、遊びに来る義務があるわけでもない。
毎日来るか、一切来ないか。どちらが自然かと言えば、間違いなく後者だ。
第一に、彼女には知り合いが多い。
博麗の巫女をはじめ、同じ森に住む人形遣いとも付き合いはそれなりに長いそうな。
最近では、妖怪の山の河童とつるんでいるなんて噂もあるし、自分の知らない交友関係もあるのだろう。
付き合いの範囲が広ければ広いほど、友人一人あたりに割ける時間は少なくなる。
人気者の辛いところだろう。
だが、納得いかない。
その数多い友人の中、割と彼女と近しい間柄の人物には、大図書館の主も、妹様も。
―――――傲慢だと思われるかもしれないが、自分も含まれているはずなのだ。
そんな近しい間柄の者が集まっている紅魔館は、彼女にとっては絶好の遊び場だったはずだ。
図書館には珍しい本が一杯あるし、妹様と弾幕ごっこだってできる。
美味しいお茶とお菓子だって、振る舞っていた。
夜雀あたりが自分の眼を節穴にしたわけでなくば、紅魔館に遊びに来ている彼女は楽しそうだった。
それに、何より。
紅魔館の住人という括りを抜きにしたって、自分は彼女とかなり近い位置にいたはずだ。
少なくとも、私は他人の知らないであろう魔理沙を知っている。
あの子はいつも気を張っている。脆くて傷つきやすい自分を、目一杯の虚勢で隠している。
そんな彼女が落ち込んだとき、寂しさに耐えきれなくなったとき、
彼女を膝の上に抱いて、頭を撫でてあげるのは自分の役目だった。
人に言えない悩みや弱音を、打ち明けられたこともある。
ちょっとえっちなスキンシップをしたことも、一応は、ある。
頼られていると思っていた。必要とされていると、思っていた。
けど、なんの前触れもなく彼女は紅魔館に遊びに来なくなってしまった。
最後に会った時も、全くもっていつも通りの彼女だった。
別段変った風もなく、人懐っこい笑みを浮かべて。
「また来るぜ」なんて言ってたくせに。
自分の自惚れに過ぎなかったのだろうか。
彼女との関係は、ちょっと言葉に表し辛い。友人でもあるし、姉妹みたいな関係でもある。
けれど、友人・姉妹と言うには、彼女との関係はいささかディープに過ぎる。
かといって、断じて恋人ではない。
お互い、“愛してる”とも言ってないし、“好き”の一言すら一切出てこなかった。
そして、そんな言葉が出てこないことに、何の疑問も持っていなかったのだ。これでいいじゃないか、と。
甘えて、甘やかして、たまに気持ちいいことして。
構いたがりと甘えんぼの、ギブアンドテイクな関係。そんな曖昧な関係もありだろう、と。
……歪んだ解釈をすれば、セックスフレンドなんて下世話な表現もできないことはない。
ひょっとして、魔理沙にとっての自分はそんな存在に過ぎなかったのだろうか。
甘えさせてくれるから、“そういうこと”に対して割と寛容だから。ただそれだけのことだったのだろうか。
なんてことを考えたって、一向に魔理沙は紅魔館に来る様子を見せない。
彼女がいなくとも、紅魔館の時間はいつも通りに流れてしまう。
けれど、彼女が遊びに来なくなってからというもの、やたらと一日が長く感じられる。
暇さえあれば郵便受けに手紙でも入ってないかと覗き、彼女が飛んで来るかもと湖をぼーっと眺める。
でも郵便受けに入ってるのは取った覚えもないブン屋の新聞だし、湖を飛んでるのは妖精だけだ。
それに、仕事中にもぼんやりすることが多く―――――
「………長!メイド長!!焦げてますってば!!」
「へぁっ!?」
初日 PM8:00 紅魔館・厨房
「……ごめんなさい」
隣の流し台で手際よくお皿を洗う美鈴に、ぼそりとこぼした。
お嬢様達の食事を終えた後の、使用人の夕食。
メインディッシュを欠いた晩餐を前に、テーブルを囲んだ妖精メイド達の視線が痛かった。
美鈴が、まぁまぁと皆を宥めてくれたのが唯一の救いだった。
ペナルティとして課された皿洗いを、ただただ漫然とこなす。
「どうしたんですか? 咲夜さん、最近ぼーっとしすぎですよ?」
お人よしにも皿洗いの手伝いを買って出た美鈴が、心配そうな顔で見つめてくる。
「……狸の置物も、どかしてみると落ち着かないものなのよ」
「ああ、最近魔理沙遊びに来ないですもんねえ」
これで通じてしまうあたり、彼女との付き合いも結構長いことを実感する。
「もう3週間よ? あの子が最後に来てから。
普段が普段なだけに、心配になってくるのよ。怪我でもしたのか、風邪でもこじらせたのかって」
普段の彼女の行動は、危なっかしくて仕方ない。
妖怪、妖精の類は勿論のこと、時として神様にも平気で弾幕ごっこを挑む。
“百聞は一口に如かず”を地で行くため、未知のキノコも積極的に食べる。
「縦に裂ければ大丈夫だぜ」なんて言っていたが、まさか本気なんじゃなかろうか。
「私としては、けちょんけちょんにされる回数が少なくて助かるんですがねー」
何がおかしいのか、からから笑いながら拭き上げた皿を積み上げる美鈴。
「白々しい。いつもわざと通してた癖に」
「いやいや、滅相もない…」
彼女が紅魔館に突入する魔理沙を相手にするとき、毎回手加減していたのは間違いない。
パチュリー様とか妹様とか、魔理沙を本気で追い返すと後でうるさい方々が、本館に控えているからだ。
客として素通りさせればいいじゃない、と一度言ってみたが、
本人曰く「それは自分の存在意義を否定することになるから、咲夜さんのお願いでも聞き入れられない」らしい。
お願いした覚えはないんだけれど。
「心配することないと思いますよ?
魔理沙が巫女以外の誰かに撃墜されるなんてことがあったら、何かしら噂になると思いますし」
「病気とか、風邪だったら?」
「それこそ人形遣いの子あたりが看病してるんじゃないですか?」
ありそうで困る。
紅魔館と魔法の森の距離が、なんとももどかしかった。
実質紅魔館を仕切っている立場とはいえ、雇われの身のフットワークというのは重いものだ。
「咲夜さんが本当に心配なのは、怪我とか病気じゃないのでは?」
「……何が言いたいのよ」
「いやぁ、子離れできない親の心境と言いますか」
靴の先っぽで、無言のまま向う脛を思い切り蹴飛ばしてやった。
割と容赦なく蹴ったつもりだが、美鈴は涼しい顔のまま皿を磨き続ける。神経通ってんのかこいつ。
「私はね、自分の役目を他人に獲られるのが嫌いなの。
魔理沙の保護者を気取るつもりなんかないけど、あの子の相談役は私の仕事だし、
膝の上に抱いてよしよししていいのも私だけなんだから」
「保護者の鑑ですねぇ…」
呆れ顔の美鈴が、最後の皿を食器棚に戻す。
結局半分以上彼女に洗わせてしまった気がするが、自分から言い出したことだ。別に構うまい。
「お皿洗いも本来は咲夜さんの役目ですよねー」
「違うわ。元を正せば妖精メイドの仕事よ」
口を尖らせると、美鈴がくすくす笑いを洩らしながら頭に手を置いてきた。
楽しそうな彼女を見てると、だんだん腹が立ってくる。
仕事のミスが多くなってきたのも、一日がやたら長く感じられるのも。
全部、あの子が来ないのが悪いんだ。
ぺしっ、と美鈴の手を払いのけて、そっぽを向いた。
可愛くないなぁ、と言いたげな彼女の苦笑が、いやに脳裏にこびりつく。
「あ、そう言えば明日は買い出しの日ですよね?」
濡れた手をエプロンで拭いていると、不意に美鈴がそんなことを言い出した。
「一応はね。でも、この間一杯買い込んできたし、買物は早く切り上げて掃除でも―――」
「いやいや、買い物がすぐ終わるなら、ちょっとぐらい道草食っても許されると思うんですよ」
「?」
何が言いたいんだ、こいつは。
「だから、例えば魔法の森辺りに寄り道しても、それは誰も知る由もないなー、なんて」
………そういうことか。
「流石ね。普段からサボってると、発想が違うわ」
「咲夜さんだって、ちっちゃい頃はよくサボっててお嬢様に叱られたじゃないですか。
覚えてます?そのたびにぴーぴー泣きながら私の所に逃げて――――」
「~~~~~~っ!!!」
……ちょっとした皮肉を返したら、さらりと蒸し返したくもない過去を蒸し返されてしまった。
「……つまんないこと覚えてるわね」
「無駄に長生きしてると、時たま色んな事を思い出すんですよ」
からからと、悪気0の笑顔を振りまく美鈴。
あっけらかんとしてるくせに、こいつの言動は時として漬物石並みに重い。特に私には。
これ以上彼女のペースに飲まれる前に、早いとこ退散しよう。
踵を返して、厨房出口へと向かう。
「まずは情報収集からですよー。焦っちゃダメですからねー」
後ろから飛んできた呑気な美鈴の声。無視して私室へ早足で向かう。
今日の仕事は、とっとと片付けてしまおう。
―――――明日の準備もしなければいけないし。
二日目 PM0:30 紅魔館・正門
「晩ごはんまでには戻るから、しっかり門番の本分を果たしとくのよ?」
「お任せ下さい。妖精一匹通しません」
どん、と胸を叩く。
買い物袋を提げた咲夜さんが踵を返し、ふわりと湖の方へ飛び立った。
「お土産期待してますからねー」
ひらひらと手を振ってる内に、どんどん咲夜さんの影は小さくなる。飛ばしてるなぁ。
(そんなに会いたかったんなら、もっと上手にサボって抜け出せばいいのに…)
時間だって止められるのに、不器用な人だなぁ。なんてお節介なことを考えてしまう。
「何考えてるのかしら?」
「おや、これはお嬢様」
いつの間にやら正門の影に、日傘をさしたお嬢様が佇んでいた。
「サボりの手引きだなんて。咲夜を怠惰の道に引きずり込む気?」
「いやいやお嬢様、後々の業務を円滑にするためにも、たまには息抜きが必要なんですよ」
どこで聞きつけたのやら。
咲夜さんが飛んで行った空を見つめるお嬢様は、さも楽しそうだった。
「特に、人間には?」
「おっしゃる通りです」
答えると、お嬢様はちょっとつまらなさそうな顔で、小さく鼻を鳴らした。
「まぁ、いい機会だとは思うけどね。
私が有給休暇なんてくれてやったところで、素直に黒鼠の所に足を運ぶとは思えないし」
「おや、意外なお言葉」
てっきり他の者、それも人間なんかに咲夜さんを取られるのは嫌がると思ってたのに。
「だって、仕方ないでしょ?最近のあいつをこのまま放っておく方が危険よ。
昨日なんか牛乳と間違えて豆乳飲まされたのよ?私じゃなかったら致命傷だわ」
「そりゃまた災難でしたねぇ」
「なにその“飲む前に気付けよ”みたいな顔?」
…バレたか。
「それはいいとして、なんであの白黒なのかしら?ただ単にちっこいのが好みだってんなら、
私だってフランだっているじゃない?」
「似たもの同士だからですよ」
「はぁ?」
……そんなアホの子を見るような眼で見ないでください。
「魔理沙を見てると、昔の自分を見てるような気分になってくるんじゃないですか?」
「ああ、そういうこと」
納得した表情のお嬢様が、小さくため息をもらす。
咲夜さんと魔理沙には似ているところが多い。
自分の弱みを見せたがらないところなんかは言うに及ばず、本当は寂しがりなところも。
咲夜さんは、世話焼きで構いたがりだ。その点だけ見れば、二人は正反対に見えるかもしれない。
でも、甘えんぼと構いたがりというのは、得てして表裏一体なのだ。
誰かに構いたい、必要とされたい。
裏を返せば、それも他人と関わっていたいという欲求なのだろう。
「そこまであいつのことを理解してるんなら、ずっとあんたが保護者やっててもよかったんじゃない?
ねぇ?先代メイド長?」
「それはフェアじゃないでしょう。
咲夜さんが自分の意思でそうして欲しいって言うなら、話は別ですけれど」
「保護者の鑑ねぇ…」
呆れたような、感心したような。
なにやら難しそうな顔を浮かべたお嬢様が、腕を組んでこっちを見上げてくる。
こうも身長差があると、話しにくくて仕方ない。
…そういえば、咲夜さんとはいつの間にか、意識せずとも目線の高さが合うようになってしまったなぁ。
「――――喉が渇いたわ。美鈴、久しぶりにあんたのお茶が飲みたくなったから、一杯淹れて頂戴」
感傷に浸ってるのを見透かされたのか、悪戯っぽい笑みを浮かべたお嬢様が服の裾を摘まんできた。
「門番不在でいいんですか?それに、今じゃ私より咲夜さんの方が上手に淹れられますよ?」
「上手く淹れたお茶が美味いとは限らないわ。
どうせ門番としてのあんたには、やかましい玄関チャイムぐらいの役目しか期待してないし」
「手厳しいなぁ…」
まぁ、警備のザルっぷりには定評があるらしいし、その辺は自覚してる。
ひょい、と日傘をさしたお嬢様を抱き上げ、本館へと歩を進めた。
当主公認のサボりというのも、たまにはいいものだ。
「………ところでお嬢様、さっき“有給休暇”って言われましたけど、紅魔館にお給料なんてあったんですか?」
「なに? あんた三食寝床昼寝つきの分際で、お給料までせしめようっての?」
「………………」
二日目 PM2:00 博麗神社・境内
おお、神よ。
貴方様は何を目的として、かような試練を私に課されるのでしょうか。
いかに仕える身とは言え、凡庸なヒトの器を出ることもかなわぬ私には、その御心が理解できませぬ。
忍耐こそが信仰と仰るなら、これは信仰に他ならないのでしょう。
しかし、しかし、それでも私には理解できませぬ。
私の前には闇が広がっております。
全てを覆い隠さんばかりの、深淵にして酷薄なそれは、断頭台のごとく。
ぽっかりと口を開けた闇と、それでも毎日向かい合うのは、私の人としての浅薄な夢でしょうか。
いつの日か、そこに光が差し込むかもしれないと。
愚かな私にも、生きる希望を与えられる光が、そこにあるかもしれないと。
私は、巫女にすぎませぬ。
それも、格別に愚かな巫女でありましょう。
神と交わらず、あろうことか時として牙をむき、畏怖を、敬意を、何処かに置き去りにしておりました。
巫女の役割は、神社の役割は、世俗と神々の接点。
その本分を忘れた私に、もはやお慈悲を乞う資格なぞありはしないのでしょう。
だから、いっそのこと、このか細い喉を握りつぶしてください。
もう私は耐えるのに疲れてしまいました。
これが神罰だと仰るなら、あまりに惨いと愚考する所存でございます。
でも、もしも、万が一。
貴方様が、この愚かな人間に、今一度やり直す機会を与えてくださるのならば―――――
「おさーいせーん………………」
「………何やってるの、霊夢?」
後ろからかけられた声に、賽銭箱の中から頭を上げ、振り向いた。
石畳にぽつんと立ちつくした、すらりと背の高い、メイド服に身を包んだ少女。
ピントの合わないぼんやりした視界の中でも、特徴ある銀色のはねっ毛で見分けがついた。
悪魔の犬、十六夜咲夜だ。
「……ひとり新興宗教ごっこ」
「ああ、私はてっきり巫女が空腹で今にも行き倒れそうなのかと思ったわ」
「……わかってるんなら、お賽銭入れてよ」
馬鹿らしくなって、よろよろと立ち上がった。ああ、目が眩む。
「生憎だけど、今あんまり持ち合わせがないのよ。ちょっと聞きたいことがあって―――」
「こちとら慈善で巫女やってんじゃないのよ。参拝客以外はミジンコと同じよ」
神社を便利屋か何かと勘違いしてるメイドに、ぴしゃりと返してやる。
人が生死の境界を綱渡りしているというのに、ここに来る連中ときたら。
もう、今日は畳の上でじっとしてよう。
これ以上熱量を消費したら、明日の太陽すら拝めるかどうか――――
「……お?」
「あ」
ぐらり、と視界が傾く。
母屋へと向かっていたはずの足が、もつれる感触。
直後、地面が迫り――――
どてっ
――――倒れこんだ先の石畳に、したたかに腰を打ちつけてしまった。
「…………」
「ちょっと、大丈夫?」
ぱたぱたと駆け寄ってきた咲夜が、心配そうに仰向けに倒れた自分を覗き込んだ。
腰と背中がじんじん痛む。涙が勝手に滲みだす。
「……………ぐすっ……」
「な、泣くことないじゃない……」
だんだん惨めな気持になってきた。
神も仏もあるもんか。毎日真面目に生きてるのに、なんだって私がこんな目に――――
助け起こそうと、手を差し伸べてくる咲夜。
「っく……さわんないでよっ………」
力なく、その手を払いのける。もう、ほっといて。誰も、私に構わないで。
「…ひっく………あんただって………“聞きたいことがある”なんて言って、
………うっく……ほんとは、惨めな私を笑いに来たんでしょ…………?」
「空腹ですっかり思考がヒねちゃってるわねぇ……」
困った顔の咲夜。
買い物途中でぐずり出した駄々っこに手を焼く、母親のような表情だった。
「ひっく……もう、帰りなさいよぅ……私は、ここで落花生みたく天日干しになってんのがお似合いなのよぅ……」
「好きなだけ干からびてていいから、せめて聞きたいことに応えてよ」
誰が賽銭も入れない不届き者に、情報提供なんかしてやるもんか。
大の字に寝っ転がったまま、ぷいっとそっぽを向いて、涙目で口をつぐむ。
「ねぇ、霊夢、お願い。あなたぐらいしか知ってそうな人いないし………」
「…………」
「…………お饅頭、食べる?」
――――――神様、ありがとうございます。
「魔理沙が、紅魔館に来ない?」
「そう、もう三週間も。何か知らない?」
お土産に買っていたお饅頭を餌にして、ようやく霊夢の機嫌が直った。
縁側に座り、二人でお茶を啜る。番茶とも煎茶とも判別のつかない、恐ろしく薄いお茶だった。
「ああ、あんたは知らないかもね。この時期のあいつは毎年こんな感じなのよ」
「毎年?」
つまり、今回が特別なわけではないと?
「毎年これぐらいの時期になると、いつも塞ぎこんでねぇ。
普段も研究で閉じこもったりはするけど、一か月近く顔も見せないのはこの時期だけよ」
「何でまた?」
「何でって、そりゃあんた――――――」
図々しくも箱の中のお饅頭を半分平らげた霊夢が、お茶を注ぎながら言葉に詰まる。
「………知らない」
「使えないわねー……」
時間とお饅頭を犠牲にして得られた情報のあまりの少なさに、思わず毒を吐く。
まぁ、魔理沙が“紅魔館を避けているから”遊びに来ないわけではないらしい。
それを知って、ちょっと安堵した。
「仕方ないでしょ?あいつ、自分のこと何も話してくれないんだもの。
いい加減付き合いも長いし、そこら辺は割り切ってるけど」
「あなたにも話さないの?」
「むしろ私だから、かなぁ」
はぁ、と熱いお茶を飲み下した霊夢が息を吐く。
釣られて、自分もちびちびとお茶を啜る。この熱さは、猫舌にはちょっと辛い。
なるほど、ただでさえ普段から強がってる魔理沙のことだ。
恐らく一番のライバルであろう彼女には、弱みなんぞ見せないか。
「あんたにも何も言ってないんでしょ?結局、あいつは賑やかな一人ぼっちなのよ。
どんなに周りに人を置いても、一番大事な弱みとか悩みは絶対見せようとしないんだから……」
心なしか、影を落とした表情の霊夢。
普段の彼女を知る者には新鮮に見えるだろうが、口の周りが餡子だらけなので台無しだ。
「とにかく、少なくとも私は何も知らないわ。
これ以上の情報は、それこそ霖之助さんぐらいしか知らないんじゃないかしら」
「ああ、香霖堂の……」
そう言えば、あそこの店主は魔理沙が子供―――今も子供だけど―――の頃からの知り合いだったか。
どっちみち最終的には魔法の森に行くつもりだったし、香霖堂に寄って行くのも悪くないかもしれない。
なんてことを考えてると。
「う………」
突然霊夢が鎖骨の辺りを拳で押えて、背を丸めた。
「どうしたの?」
「……すきっ腹にたらふく甘いもの食べたから、胸やけして…」
「…………」
これが、本当に幻想郷の最重要人物なんだろうか。
とりあえず、背中をさすっておいてやる。
「――――パンが無いからってお菓子ばかり食べてるから、そんなことになるのよ」
そんな間抜けなやりとりをしてると、第三者の声が降って沸いた。思わず視線を上げる。
顔を上げた先には――――
「……そう言えば、もう一人いたわね。魔理沙に詳しそうな子」
「何の話よ?」
怪訝そうな顔で、七色の人形遣い――アリス・マーガトロイドは買い物袋を霊夢の隣に置いた。
「ほら、差し入れ。食べるもの何も無いんでしょ?」
買い物袋を広げるアリス。
所狭しと詰められた野菜やら魚やらの食材に、霊夢が目を輝かせ―――血走らせている。
「……聞きたかったんだけど、何でまた餓死寸前まで追い込まれたの?あなたそれなりに裕福でしょ?
妖怪退治の報酬とか、奉納品とかはどうしたの?」
素朴な疑問を投げかけてみた。
「ああ、この前紫達と麻雀やってたら、派手にハコっちゃって……
それに奉納された食料が、あー、その……お酒に合うやつばっかりだったから、つい……」
「……」
こいつはもうちょっと、自分の立場というものを自覚した方がいいと思う。
「わかった? こーゆー奴だから、定期的に誰かが巡回しないと駄目なのよ」
「んー、アリス大好きー」
「はいはい」
猫のようにアリスに擦り寄る霊夢と、面倒臭そうに頭を撫でるアリス。さすが、あしらい方が上手い。
「ところで、さっき何話してたの? 魔理沙がどうのって言ってたけど」
「ああ、最近魔理沙が紅魔館に遊びに来なくて。
というか、霊夢曰く毎年この時期は塞ぎこんでるらしくて」
思わず忘れそうになってた本題を、アリスに切り出す。
「アリス、あの子と仲良いでしょ? 何か心当たりない?」
「べ、別に仲は良くないわよ、腐れ縁なだけで」
ちょっと頬に朱をさして、顔を逸らしてしまうアリス。霊夢との扱いの温度差が酷い。
「毎年決まった時期に、ってことは、何かあるんでしょ? 身内の法事とか」
「実家と縁切ってるあいつが、律儀に法事に出るわけないでしょうに」
縁側に寝転がり、隣に座るアリスの膝を枕にしていた霊夢が突っ込む。
「そう、それよ。実家がらみで何かあるんじゃないの?」
あの子が他人に話し辛い話題と言えば、一に発育、二に実家だ。
「と言っても、ねえ……聞き辛いのよ、実家に関することは。
私もあの子とはそれなりに付き合い長いし、この時期に毎年塞ぎこんでるのは知ってたけど、
それと実家が関係あるのかどうかまでは……」
言葉に詰まってしまうアリス。やはり、肝心な情報は三人とも似たりよったりのようだった。
―――詰みか。
はぁ、と息を吐いて、最後に一個残ったお饅頭を霊夢に取られる寸前につまみ上げた。
「あー………」
恨めしそうな声を上げて、上目にこっちを見上げてくる霊夢。
いい気味だ、と視線の抗議を無視して、口の中に放り込む。
うん、生地と餡のバランスが丁度いい。もう一箱買っておけばよかったかもしれない。
霊夢がアリスの膝に顔を乗せたまま、涙目でむくれているのが視界に入った。
「いくつなのよ、あんたは」
苦笑を洩らしながら、アリスが霊夢の髪を撫でる。
「5個しか食べてないもん」
「年齢のことだってば」
口を尖らせる霊夢と、呆れ顔のアリス。ああ、ここにも子供と保護者の組み合わせが一組。
「―――――そういえば、咲夜っていくつなの?」
「えっ!?」
不意打ち気味に霊夢に尋ねられ、思わずびくりと身体が跳ねた。
「あ、ひょっとして結構年食ってるとか?」
「い、いいじゃない何歳でも!」
―――――逆だ。ここだけの話、私の年は霊夢たちと殆ど変らない。
年の割に成長が速いのをいいことに、大人ぶっているだけだということは、出来れば隠しておきたい。
「んー? ただ単に年増ってわけじゃなさそうねぇ。
………まさかあんた早熟なだけで、実は私らとあんまり年齢変わらないんじゃ……」
―――こう、役に立たない方向に巫女の勘を働かせるのは、やめて欲しい。
仕返しとばかりにニヤニヤする霊夢は、自分が言えた義理でもないが、物凄く意地悪そうだった。
「気になるなぁー」
「も、もう!そんなどーでもいいことより―――」
「あっ!」
霊夢とアホなやり取りをしていると、不意にアリスが声を上げ、手を打った。
「「?」」
思わず、二人で彼女の顔に注目する。
「まさか、魔理沙が閉じこもってる理由って―――」
二日目 PM3:30 霧雨邸・寝室
また、この時期がやってきた。
毎年同じことを繰り返しているが、この時期の陰鬱さには慣れそうにもない。
わかっていたはずだ。覚悟してたはずだ。
誰の力も借りずに一人で暮らそうと決意したその日から。家族なんて面倒な呪縛から解放されたあの日から。
私は、自由と魔法を手に入れた。
その引き換えに、自分の手で、自分の意思で、色んなものを捨てた。
誰かが帰りを待つ家とか、誰かの温かさだとか。
でも、誰に強制されたわけでもなく、自分で考えて、自分で答えを出したことだ。
だから私は、後悔なんかしない。
――――そのはずだったのに。
どうやら私が思っていたほど、捨てたものは安くなかったらしい。
夜、寂しさに泣かずに寝られるようになるまで、半年かかった。
里で仲の良さそうな親子連れを見ても落ち込まなくなるまで、3年かかった。
そして。
この時期は、未だ克服できていない。
毎年この時期が来るたびに、割り切ろうと思う。でも、そう簡単にはいかない。
嫌でも、家族のことを思い出してしまうからだ。
だから、私が取る方法はこれだ。
家に閉じこもって、誰にも会わず、日付の感覚を曖昧にする。
もうしばらく経てば、自分でも気付かないうちに“あの日”は過ぎているだろう。
あとは、いつも通りだ。何食わぬ顔で霊夢達のところに、また顔を出せばいい。
付き合いの長い連中は何も言わない。詮索しないでいてくれるのが、ありがたかった。
ベッドの上で、寝がえりをうつ。
この時期には、研究をする気にもなれないから、ただこうやってゴロゴロしているだけだ。
それでも退屈だと思わないのは、この時期を早く抜け出したいと思う気持ちの方が強いからだろう。
寝ている時間が不規則だから、生活も乱れる。
食事の回数も少なくなってきたし、自炊するのが面倒だから大したものを作っていない。
きっと、今鏡をのぞいたら酷い顔になっているだろう。
寂しくないと言えば嘘になる。でも、仕方ないだろ?
無理をして外に出たって、気分が乗らない時は何をやっても駄目なものだ。
それに、落ち込んでる姿を誰かに見られるのも嫌だった。
だから、何だかんだ言って、一番の選択は現状維持だ。
誰も邪魔しに来なければ、例年通りもうすぐ“あの日”は過ぎ去って―――――
「――――――随分と、掃除のし甲斐がありそうな部屋ね?」
―――――平穏を破る、今恐らく、霊夢の次ぐらいに聞きたくなかった声。
考える前に、振り返っていた。
視界に入るのは、居るはずがない人物。
散らかった部屋の中、腕を組んで十六夜咲夜が仁王立ちしていた。
「酷い顔ね。ちゃんとごはん食べてるの?」
つかつかと歩み寄ってきた咲夜が、ベッドに腰掛ける。
「………どうやって入ってきたんだよ。玄関は魔法で二重に封印してあるんだぞ」
のろのろとベッドから身を起こす。ずっと寝っ転がっていたせいか、体の節々が痛い。
「鉄パイプで窓叩き割って。詰めが甘いわね」
「80年代のマル走かお前は」
元々強引な奴だとは思っていたが。
「……はぐらかしたわね。ちゃんと、ごはん食べてる?」
「…………今日は、まだ何も」
そっと、咲夜の手がほっぺたに添えられた。
ひんやりとした感触が、寝たり起きたりでぼんやりしてる頭を徐々に覚醒させてゆく。
「…何しに来たんだよ。泥棒なら間に合ってるぜ」
「閉じ籠もりがちの、可哀想なお嬢様を連れ出しに。とでも言えば満足?」
皮肉っぽく言う咲夜。そこで、違和感に気づいた。
―――咲夜が、笑ってない。
こいつは私と話すとき、いつもニヤニヤ笑ってる。
癪にさわることもあるけど、楽しそうな彼女を見ているとなんだか安心する。
その咲夜が、笑ってない。
ちょっと怒ったような、哀しそうな。そんな複雑な表情。
以前こいつにはこっぴどく叱られたことがあるけれど、その時みたいに怒りを露わにしてるわけでもない。
「変な勘違いしないことね。たまたま近所を通りかかったから、図書館の本の件で寄っただけよ」
「……勝手に持って行けよ。そこに置いてあるのは全部図書館のだから。今はお前と遊ぶような気分じゃないんだ」
本当に、何しに来たんだこいつは。
部屋の一角、山積みになっている本を指して、もう一度ベッドに寝転がった。
「こんなに沢山、一度に持って帰れるわけないでしょ?今日は延滞料の徴収で勘弁してあげるわ」
「なら、窓ガラス代でチャラだ。用件がそれだけなら、もう帰れよ」
ぶっきらぼうに吐き捨ててやる。
……一瞬でも、心配になってわざわざ訪ねてきたのかと、期待した自分が馬鹿だった。
「窓ガラス一枚じゃあ、割に合わないわ」
「ああ、もう!じゃあ何でもやるから、さっさと帰って――――」
―――苛立ちに思わず声を荒げると、脇に腰かけていた咲夜が突然覆いかぶさってきた。
「あ………」
体力の落ちた状態で抵抗できるわけもなく、両腕を押さえつけられ、ベッドに組み敷かれる。
「―――足りない分は、体で払ってもらおうかしら?」
―――――ああ、そういうことか。
結局私の独りよがりだったのか。
こいつにとっての私は、“そういう存在”でしかなかったのか。
そう考えた瞬間、ただでさえ陰鬱だった気分が一層沈み込んだ。
もう、色んな事が、どうでもいい。
「………好きにしろよ。一回寝るぐらいでいいんなら、安いもんだ」
互いの息がかかりそうなほど近い距離なのに。
一時は誰よりも近くにいると思った咲夜なのに。
なんで、二人の距離がこんなに遠いんだろう――――――
「お馬鹿」
「あいてっ」
脱がされるなり犯されるなりを覚悟してたら、こつん、と軽く咲夜に小突かれた。
「何勘違いしてるの?今みたいな状態のあなたで遊んだって、面白くもなんともないわ」
「? ?」
何を言ってるんだこいつは?
“身体で払わせる”つもりじゃなかったのか?
「やつれてるし、無気力だし、可愛くない。
それに、ひょっとしてお風呂にも入ってないんじゃないの? ちょっと臭うわよ?」
「今日はこれから入ろうと思ってたんだよ……って、こら!嗅ぐな馬鹿!!」
ブラウスの襟元に鼻を寄せる咲夜を、ぐいぐいと押しのける。ええい、犬かお前は。
「そうね。広いお風呂で汗流して、美味しいごはん食べて、綺麗なベッドで早寝早起き。
それぐらいはさせてあげるわ」
「日本語を話せ、ここは幻想郷だ。あと、襲う気が無いんなら、いい加減どいてくれ」
“身体で払ってもらう”から、どこをどう理論を発展させればこんな結論が出てくるんだ?
「言ってる意味わからない? 紅魔館に泊めてあげるから、しばらく養生しなさい。
あと襲う気はないけど、どく気も無いわ。どいたら逃げるでしょ?」
「……そこまでわかってるのに、私が一向にお前の意図を汲めないのはどうしてなんだろうな?」
会話とは言葉のキャッチボールであるべきで、砲丸投げ、しかも暴投はちょっとどうかと思う。
「……今の今まで延滞料なんて聞いたこともない。何で今更?
そもそも、たかが本の延滞料で人身売買だなんて暴利だ。不条理だ」
「理解できないなら、それで構わないわ。選びなさい。無理やり連れて行かれるか、大人しくついてくるか。
言っとくけど、私の辞書にグレーゾーン金利なんて都合のいい言葉は無くてよ?」
「モロに真っ黒じゃないか」
「口の減らない白黒ね。で、結局どうするの?」
押し倒した姿勢のまま、咲夜の瞳がじっと見据えてくる。
光の加減で青にも灰色にも見える彼女の瞳は、珍しい宝石みたいで見てて面白い。
でも、やっぱり今の彼女の眼は笑っていなかった。
いつもは悪戯っぽい光を湛えているはずなのに、今は鳴りを潜めている。
「“身体で払ってもらう”んじゃなかったのかよ? もてなしてどうする?」
「……嫌なの?」
――――そこで、ようやく、少しだけ理解できた。
冷静な態度で隠してはいたけど、咲夜があまりに必死だったから。
“甘やかしてあげるから、紅魔館に来なさい”と言いたいのだと。
彼女の複雑な表情が表すのは、怒りでも欲情でもなく―――――寂しさだということを。
そんな咲夜の様子が気になったからとか、どっちみちこいつは強引に私を連行するだろうからとか。
きっと、こんなのは言い訳に過ぎないんだろう。
私は、心のどこかで心配になった誰かが迎えにきてくれるのを、待っていたんだろうと思う。
ズルいと思う。弱いと思う。拒絶するフリをしてたくせに、いざ手を差し伸べられたら簡単にすがってしまうなんて。
個人的な事情で勝手にいじけて、勝手に閉じこもっていただけなのに。
こんな私に、彼女にすがる権利なんて無い。
でも、差しのべられた手が、強引な言葉と裏腹に、余りに優しかったものだから。
―――――差し伸べたのが、咲夜だったから。
「……わかったよ。大人しくついて行く」
私は、しばらく紅魔館に滞在することを許容した。
二日目 PM5:00 紅魔館・当主私室
「捨てて来なさい」
開口一番、咲夜に連れて来られた私を見たレミリアはぴしゃりと言い放った。ええい、人を猫か何かみたいに……
「私が責任を持って面倒を見ますから、どうか暫く紅魔館に置いてはいただけませんか?」
珍しく、真面目でしおらしい表情で主に伺いを立てる咲夜。
普段の意地悪なお姉さん然とした彼女しか知らない私には、ちょっと新鮮に見えた。
「あのねえ、うちは保健所でも愛護団体でもないのよ?
ただでさえ大所帯なんだから、これ以上無闇にタダ飯食らいを増やさないで頂戴」
呆れたような顔で、執務用の重厚な机にふんぞり返るレミリア。
人のこと言えた義理ではないが、全然サイズが合っていない。
咲夜がそっと、両手をエプロンに重ねて頭を垂れた。
釣られて、私も帽子を取ってお辞儀してしまうほど綺麗な動作だった。
「……お願い致します、お嬢様。当主として寛大な措置を」
「駄目ったら、駄目。神社の裏にでも置いて来なさい」
「……………どけち(ぼそっ)」
「ぶち殺すぞヒューマン」
頭を下げたまま素に戻った咲夜に、ひくひくとこめかみを引き攣らせるレミリア。
肩身の狭いこっちとしとは、あんまり事を荒立てないでほしい。
「……どうしても駄目と仰るなら、仕方ありません。私にも考えがございます」
「ほう?」
ぎゅっと、強い意志を込めてレミリアを見据える咲夜。
顔だけ見てれば、同性の私でも思わずどきっとするほど凛としているんだけど―――
「今日からお食事は毎日“人参とピーマンの肉無し野菜炒めガーリック風味炒り大豆添え”とさせていただきます」
……なんて陰湿で地味な嫌がらせだ。
「……あんた、私に反抗する気?」
「反抗ではありません。脅迫です」
「なお悪いわっ」
……ものすごく不毛極まりない平行線だ。どこまでも。
「あ」
何をロクでもないことを思いついたのか、睨みあいを続けていた咲夜が声を上げた。
「“タダ飯食らい”を増やさなければ構わないんですね?」
「………何考えてるの?」
ジト目で咲夜を眺めるレミリア。背中に隠れている私を、振り返って見下ろす咲夜。
何となく、イヤな予感がする。
「―――――タダで食べさせなければ、それはタダ飯食らいではありませんね?」
二日目 PM5:30 紅魔館・大浴場
「………要するに、働けと」
「そう。と言っても、働いてるフリしてるだけでいいわ」
わしゃわしゃと、脂っぽくなってしまった私の髪を洗いながら答える咲夜。
綺麗好きな彼女にとって、女の子がお風呂に入ってないのはパイナップル入りの酢豚より気に食わないらしい。
交渉が一段落した後、半ば強制的に浴場に連行され、一瞬で素っ裸に剥かれて頭からお湯をかけられた。
結局、咲夜の提案した条件で、レミリアは私の滞在を許可した。
「メイドの仕事なんて、やったことないぜ」
「いいじゃない、こっちの方が“身体で払わせる”って意義に沿ってるし」
―――つまり、臨時メイドとして一週間契約で働くことで。
「今日は休んでていいわ。明日から適当な仕事でも探してあげる」
言いながら、咲夜が丁寧に泡立てた髪に再び手桶でお湯をかけて泡を流した。
時間をかけてしっかり洗ったから、指で濡れた髪をつまむと滑らかな感触がした。なんだか他人の髪みたいだ。
「せっかく綺麗な髪なんだから、もうちょっときちんと手入れしなさいよ」
「咲夜は潔癖すぎるんだよ。洗いすぎだって髪には良くないんだぜ?」
飛んできた文句に言い返すと、はぁ、と後ろで咲夜がため息をついたのが聞こえた。
こいつは、こうやって私を子供扱いするのが大好きだ。
膝に乗せてお菓子を食べさせたり、お風呂で洗ったり。
……まぁ、嫌じゃないけどさ。
「ほら、体も洗ってあげるからこっち向きなさい」
「い、いいってば……」
抵抗はしてみるけれど、こういう時の咲夜はいつもより輪をかけて強引だ。
洗い場に座らされたままくるりと体を回され、彼女と対面する形を取らされた。
有無を言わさず、泡だてたスポンジで体を擦られる。
一応大事なところはタオルで隠してあるし、咲夜も身体にバスタオルを巻いている。
けれど、お互いの体をこうやって見合うのは何とも気恥ずかしいものだ。
一緒に入るのなんてこれが初めてじゃないのに。
「あーあ、あばらが浮いてるじゃない……元々やせっぽっちなのに、ちゃんとごはん食べないから……」
「ほ、ほっとけよ……」
いとおしそうに体をスポンジで擦る咲夜が、哀しげな表情で呟いた。
――――やっぱり、笑わない――――
家を出てからちらちらと彼女の顔を窺っていたけれど、やっぱり表情はどこか寂しげだった。
いつもは癪にさわるニヤニヤ笑いが、ちょっと恋しい。
そういえば、彼女のあの顔はもう一か月近くご無沙汰なのか。
かと言って、そっけない態度を取ってるわけでもない。
レミリアと交渉していた時の顔は真剣だったし、今もこうやって丁寧に私の体を洗ってる。
でも。
優しくしてはくれるけど。
―――いつもみたいに撫でたり、抱きしめたりはしようとしなかった。
「……なぁ、咲夜」
撫でられたいとか、抱きしめられたいとか思ったわけじゃないけれど、
あまりに咲夜が大人しかったから、私はつい口を開いた。
「なんで、今日はそんな難しい顔してるんだ?」
自分から、わざわざ閉じこもってる私の家に来てまで強引に連れ出したくせに。
私はてっきり紅魔館に顔を出さないから、寂しがった咲夜が業を煮やしたものだとばかり思っていた。
ただ、久しぶりに甘やかしてやろうとでも思ったのだろう。そう考えていたのに。
何で、こんなにもいつもと違う彼女なんだろう?
じっと、彼女の眼を見据える。
押し黙ったままの咲夜が、珍しく眼を逸らしたかと思うと―――
「……っ!?」
―――唐突に、崩れ落ちるように、私の体にすがりついてきた。
「ちょっ、咲夜……?」
無言のまま、咲夜は私の肩に手を置いて、おでこを鎖骨のあたりにくっつける。
体格差があるから、随分窮屈な体勢のようだった。
顔は見えなかったし、何も言おうとしなかったけれど
(……?)
微かに、彼女の肩が震えていた。
まさか――――
「……―――――さいよ」
「えっ?」
ぼそぼそと、咲夜が呟く。
「さく―――」
「………夕飯、なにがいいの?」
聞き返そうと思ったら、顔を上げずにそんな突拍子もないことを聞いてくる咲夜。
「リクエストが無いんなら、洋食にするわよ?」
「あ………えーと……出汁巻き卵で」
思わずそんな答えを返してしまった。こくりと、無言で咲夜が頷く。
……何なんだ、このやりとりは?
やがて、彼女はそっと体を離して洗い場から立ち上がった。
「……ちゃんと洗い流して、湯船で温まってから揚がるのよ?」
出口へ振り返ると、こっちを見ることもなく咲夜はそんなことを言い渡す。
どう返事をしたものか迷っているうちに、咲夜は浴場から更衣室へと出て行ってしまった。
後には一人、泡まみれにされたままぽつんと取り残された私がいた。
何か、まずいことでも言ってしまったんだろうか?
いや、それよりもあのとき咲夜が呟いた言葉――――
『―――もっと、自分も周りも大事にしなさいよ――――』
二日目 PM7:00 紅魔館・客室
「この部屋、使っていいのか?」
「そうよ、うちで一番いい部屋。
感謝なさい。本当なら使用人、それも臨時なんかが使っていい部屋じゃないんだから」
お風呂を揚がると、表で待っていたレミリアに客室まで案内された。
天蓋付きの大きなベッドに、毛足の長い絨毯。調度品の類も上等なものが揃っている。
あまりこういった場所に縁は無いが、素人目に見てもいい部屋なのだろうとは容易に想像がつく。
「咲夜がここを使わせるように言って聞かないのよ。
あいつの我侭にも年々磨きが掛ってきたわ」
「え……?」
咲夜が、ここを使わせるように?
「なによその顔? 不満でもあるの?」
「あ、いやいや。そういう訳じゃないんだ」
贅沢者め、と言いたげなレミリアに慌てて弁解しておく。
不満は無い。確かに不満は無いけど――――
私は、当たり前のように咲夜が自分の部屋に泊めてくれるのだろうと思っていた。
紅魔館に泊まったことは何回かあるけれど、いずれの場合も彼女の部屋を使っていたから。
咲夜が、気を遣ってくれたんだろうか?
確かに、このベッドは気持ち良さそうだ。疲れた体には丁度いいだろう。
けれどここだけの話、私はどんな暖かいベッドよりも、咲夜が隣で添い寝してくれる方が――――
「うわっ!?」
「ひゃっ!?」
突然、レミリアと私の間に、降って沸いた物があった。
一瞬前までは何もなかったはずの空間に、一人用の小さなテーブルと椅子が一脚。
テーブルの上には、湯気の立ち上る一人分の食事。
茶碗に大盛りの艶やかな銀シャリ、ふっくら柔らかそうな出汁巻き、かしわの煮物、お吸い物にほうれん草のお浸し…
「あいつの仕業ね。なんちゅう悪趣味な」
「ああ、そういうことか………」
レミリアのボヤきで、ようやく私にも理解できた。
時間を止めた咲夜が、どこからかテーブルと食事を運んできたのだろう。
ところが、運んできたはずの彼女の姿はどこにも見えなかった。
「ん?」
その代わり、テーブルの上、茶碗の下に敷かれたメモ。
手に取ってみると、流麗な楷書で記された短いメッセージ。
『残さず食べなさい
咲夜』
………簡潔というより、もはや無愛想な気がする。
「……あんた、あいつに何かしたの?」
横からのぞき込んでいたレミリアが、怪訝そうな顔をしている。こう言ってやりたい。
むしろいつも何かされてるのは、私の方だと。
和食にはちょっとうるさい私でも白旗を上げざるを得ないぐらい、味は文句のつけようがなかった。
でも。
彼女の居ないごはんは、なんだか酷く味気なかった。
三日目 AM8:00 紅魔館・客室
昨日の晩は色んな事を考えてた気がする。
それでも床に就けばすぐに眠りに落ちてしまったことを考えると、自分も色々疲れていたのかもしれない。
目覚めも悪くなかった。流石にいいベッドは寝心地が違う。
大きくベッドの上で伸びをして、布団から這い出した。
結局、咲夜は晩ごはんの食器を下げに顔を見せることもなかった。
いつの間にかテーブルごと消えうせていたところを見るに、また時間を止めて持って行ったのだろう。
ひょっとしたら、避けられているのかもしれない。
そんな考えに至ったのも、無理な話ではないと思う。
あの後、就寝まで咲夜を探し回ってみたが、どこを探しても彼女は居なかった。
なにせ、彼女の部屋で消灯時間まで待ち伏せていても帰ってこなかったのだ。
でも、彼女は確実に私を見ている。
昨晩部屋でゴロゴロしていると、また何もない空間からパジャマが沸いたし。
―――――着替えの時は妙な視線を感じたし。
あいつが何をしたいのか、正直理解できない。あまりにも行動がちぐはぐなのだ。
お風呂にも入れてくれたし、晩ごはんは素朴ながら結構手の込んだものだったし。
優しくはしてくれる。けれど、やっぱりどこか私と距離を置いているのだ。
自分からわざわざ家まで拉致しに来た癖に、なんでこう私を避けようとするんだろう?
………あれこれと考えてるうちに、毎年家に閉じこもってた理由なんかどうでもよくなっていた。
そういえば今日は何日だっけ?
などと考えていると――――
「何だこりゃ?」
ベッドの脇に畳んで置いてある、見覚えの無い服が視界に入った。
広げてみると、ベスト、ブラウス、スカートの他にヘッドドレスやらエプロンやら。
どこからどう見ても、立派なメイド装備一式だった。
ご丁寧に、下着までドロワーズに代わってショーツが用意されている。真白で厚ぼったい、子供っぽいやつが。
ああ、そう言えば一応臨時メイドとして働くことになってたんだっけ。
一点ずつアイテムを確認してると、そんなことを思い出した。
メイド服のデザインは咲夜と同じ物だが、サイズが私に丁度合っている。
妖精メイドの服にしては大きいだろうか。よくこんな半端なサイズのストックがあったもんだ。
と思ったら、襟裏のタグにかすれた文字で何か書かれている。
眼を凝らして解読すると―――
『いざよい さく夜』
「………」
とても納得した。
三日目 AM10:30 紅魔館・中庭
『紅魔館臨時メイド就業則其の一・中庭で花壇の手入れをすること』
仕方なしに着替えたメイド服のポケットに、そんなメモが入っていた。
具体的にどの範囲に水をやれとか、剪定しろとか、そんな記述は一切無い。
ついでに言うなれば、“其の二”以降があるわけでもない。投げっぱなしもいいとこだ。
どうも本気で私は“働いてるフリをする”だけで構わないらしい。朝も誰も起こしに来なかったし。
他にやることもなかったので、着替えてからずっと花壇を見て回っていたのだが―――
「……どこを、手入れしろって?」
素人目に見ても、花壇の手入れは完璧だった。
私がここに来る前の朝早い段階で、既に水は一通り撒いてあった。
枯れたり萎れたりしたものはきちんと間引いてあるし、雑草も丁寧に処理してある。
これ以上手を加えるところは、ちょっと見当がつかない。
どうしたものか、とベンチに腰かけた。
いっそ昨日に続いて咲夜を探して回ろうかとも考えたけれど、時間を止められる相手を追いかけるのは至難だ。
こっちが近づいていることに気づいた瞬間、遠くへ行ってしまうだろう。
誰か、あいつのことをよく知ってる奴にでもヒントを聞けば―――
「こらっ!サボるな新人!!」
「は、はいっ!」
飛んできた声に、ついつい反射的に背筋を伸ばして立ちあがる。
メイド服に身を包むと、メイド気質が染み付くのだろうか?
「―――って、なんだ門番か」
「なんだとは失礼な」
声の主は、紅魔館の動く早期警戒システム、紅美鈴。そういえば、こいつと会うのも久しぶりだ。
手にはくたびれたブリキの如雨露。なるほど、花壇の手入れをしてたのはこいつか。
「話には聞いてましたけど、本当に臨時メイドやってるんですねえ」
「なんだよ、どうせ似合わないとか思ってるんだろ?」
「いやいや、結構似合ってますよ?それ、咲夜さんが子供の頃の服ですね?」
面白い物でも見るような顔で、私のメイド姿を上から下まで観察する美鈴。
嫌味でも何でもない、率直な感想にちょっと驚いた。
「しかし、あなたって―――」
「?」
「いつもの帽子脱ぐと、本当にちっちゃいんですねえ」
「~~~~っ!!!ほ、ほっとけ!!」
「あはは、可愛いー」
「ええい、撫でるな!突っつくな!!」
けらけら笑いながら、撫でたりほっぺたを突っついたりしてくる美鈴。
くそう、どいつもこいつも………
「それにしても、随分久しぶりじゃないですか。何やってたんです?」
「んー?まぁ、ちょっとこの時期は思う所があってだな……」
二人でベンチに座り、使用人同士で話しこむ。
「家に閉じこもってたら咲夜が強引に連れ出しに来てさ。面倒みてやるから紅魔館に来いって」
「……で、何でメイドやってるんです?」
「お嬢様対策」
「ああ、なるほど」
納得した表情の美鈴。どうも主の倹約家ぶりは使用人全員の知るところらしい。
まぁ、こうもサボり癖のある使用人ばかりだから理解できなくも無いが。
「お前らがもうちょっと真面目に働いてれば、こんなことする必要なかったんだぞ? タダ飯食らい一号?」
「失敬な、一号はパチュリー様です」
………一応タダ飯食らいの自覚はあるのか。
「大体、紅魔館の使用人でタダ飯食らいじゃないのは咲夜さんぐらいです。
そしてあの人ほど働くのは、妖精とか妖怪には不可能な話です。
故に、我々はタダ飯食らいたるべくしてタダ飯食らいなんです」
なんて理不尽な三段論法だ。
「そういえば、お前って―――というか、ここの連中って咲夜とは付き合い長いのか?」
ふと疑問に思って、隣でサボりを満喫する門番に聞いてみた。
「そりゃ人間の感覚では長いですよ。
あなたが今着てる服がまだ大きかった頃から、あの人はここにいますから」
あの頃は可愛かったのになあ、とどこか遠くを見る美鈴。
咲夜が、このメイド服がぶかぶかだったぐらいに小さい頃………想像できん。
でも、美鈴の思い出補正を抜きにしたって、きっと可愛かったのだろう。
「―――何か、聞きたそうですね?」
ちょっと真顔になった美鈴が、ぼんやりと考え込んでいた私の顔を覗き込む。
そうだ、こいつなら何かわかるかもしれない。
「……実はちょっと咲夜の様子がおかしくて―――」
「うんうん」
お姉さんに話してみなさい、と美鈴が耳を傾ける。
一通り、一から彼女に相談してみた。
咲夜が、いつもみたいに笑っていないこと。優しくしてくれるのに、どこか距離を取っていること。
――――昨日の浴場で、隠してはいたけれど、恐らくほんの少し泣いていたこと。
「……こんな感じなんだ」
「ははぁ、それはなんともはや」
どこからともなく取り出した水筒から、紅茶を注ぐ美鈴。完全に世間話モードだ。
コップを受け取って、話を続ける。
「どういうことだと思う?」
「うーん……」
ちょっと困ったような曖昧な笑顔で、ぽりぽりと頬をかく。
「それは、わかってしまえばごくごく簡単なことなんです。
けれど、口で言うのはすごく難しいことだと思うんですよ」
「?」
禅問答みたいなことを言ってきた。
「確認しますけど、魔理沙は咲夜さんのこと好きなんですよね?」
「ぶふぉっ!?」
―――――あまりにもさらっとそんなことを言われたものだから、派手に紅茶を噴いてしまった。
「ちっ、違う!!咲夜は、その、近所のお姉さん的な存在というか!!
ほ、ほら、よくあるだろ!?年頃の女の子が年上の女性に憧れたりするっていう―――」
「……ええと、つまり好きってことでいいんですね?」
「……………うん」
あたふたと弁解するのが馬鹿らしくなって、認めてしまった。きっと、耳の先まで真赤になってることだろう。
「ええとですね、咲夜さんは多分今すごく心配なんです」
「……私が、ずっと家に閉じこもってたから?」
「もちろんそれもあるでしょう。けど――――」
「けど?」
「後は、本人に聞いてください」
なんだそりゃ。
肝心なところをはぐらかされては、どうしようもない。
ベンチから立ち上がると、美鈴は大きく伸びをした。
「本人に聞こうにも、避けられてるんじゃ捕まえようが無いぜ」
如雨露だの水筒だのをまとめて正門へ向かう美鈴に、ぼそりとこぼす。
「―――なら、お膳立てぐらいはしてあげますよ?」
振り返った美鈴は、ニヤニヤした笑みを浮かべていた。
―――――どこかでこんな顔した奴を見た気がするのは、多分気のせいじゃないだろう。
三日目 PM3:00 紅魔館・メイド長私室
釣りの極意とは、“待ち”ではなく“誘い”にあるという。
ひたすら待ち伏せていたところで、自分の姿が相手に見えていては意味がない。
要は、自分の姿よりも獲物の興味を引くような陽動をカマせばいいのだ。
その上で姿をくらませ、後は“待ち”だ。
美鈴と協力して入念な作戦を練った上で、私は咲夜の部屋で彼女がここに来るのを待ち伏せていた。
作戦通りならば、昼を少し回った辺りから美鈴が咲夜に陽動を仕掛けているはずだ。
内容は聞いていないが、私よりも彼女との付き合いは長い美鈴のことだ。失敗はしないだろう。
曰く、咲夜にでっちあげた重大事件を吹き込み、「ここで話すのもなんだから、後で咲夜さんの部屋に……」
と、時間を指定して誘い出すらしい。
咲夜を部屋におびき出したら、あとは私の仕事だ。
美鈴から聞いた“咲夜の能力の致命的な欠陥”を上手く突いて捕まえてやる。
―――来た。
ぱたぱたと、慌ただしい足音。妖精ではないだろう。
手に持った荒縄を、ぎゅっと握り締める。先端には錘が括り付けてあり、一瞬で獲物を絡め捕れる。
中庭の物置にあったガラクタで作った、即席の捕獲用具だ。手荒な真似はしたくないが仕方ない。
私が立っているのは、丁度ドアを開けた瞬間死角となる入口の真横。
一瞬で見つかる場所ではあるが、その一瞬で不意打ちが出来れば十分だ。
それにしても、どうやって美鈴は咲夜をここに呼び出したんだろう?
冷静なあいつが、罠の可能性も考慮せずまんまと誘導されるなんて―――
「美鈴!!妹様の初ブラって本当なの!?」
全力で私はペド野郎を絡め捕った。
「―――――恥ずかしくないの? 魔理沙? 仮にも知識人の魔法使いが、こんな原始的な方法使うなんて……」
「黙れ性犯罪者予備軍。ロリコンに人権が存在すると思うなよ。あと、恥ずかしいのはお前だ」
荒縄で縛り上げられ、ベッドの脚に括りつけられた咲夜に吐き捨ててやる。
咲夜の能力の弱点。それは彼女の能力が瞬間移動の類では無いということ。
いくら時間を止めたところで、上半身の自由さえ奪ってしまえば縄を解くことはできない。
ついでに、重いものに括りつけておけば逃げることも出来ないわけだ。
回避不可能な攻撃禁止の弾幕ごっこでは即黒判定の反則技だが、ロリコンに遠慮する義理は無い。これは社会正義だ。
「―――昨日から、私を避けてるな?」
ズルでゲームに負けたような、不満そうな顔でむくれている咲夜の前に座り、じっとその眼を覗き込む。
「……なぁ、咲夜。私はこれでもお前には、その……すごく感謝してるんだぜ?
人に話せないことだって、相談できる奴だと思ってたし……
今回も、つまんない理由で引き籠ってる私を連れ出してくれたし」
「……」
観念したのか抵抗する様子は見せないが、咲夜は押し黙ったままだった。
「……だから、教えてくれよ。なんで避けるんだ?
私が何か悪いことしちゃったんなら、ちゃんと謝るから……」
―――――それは、予想だにしなかった。
じわり、と咲夜の瞳に涙が浮かぶなんて。
「咲夜……?」
「……心配だったのよ」
今にも泣きだしそう、というわけではなかったが、咲夜がいつもよりずっと小さく、弱弱しく見えた。
美鈴も言っていたけど、何が心配だったんだ?
「私がずっと閉じこもってたから?」
「……それもあるけど、それ以上に、あなたが私を頼りに来てくれなかったから……」
ぽつり、ぽつりと語り出す咲夜。
「昨日、霊夢に聞いたわ。毎年この時期になると家に閉じこもってるって……
何か辛い思い出があるんなら、私の所に来ればいいのに、甘えればいいのにって思って……」
「……」
「やつれてたり、辛そうにしてるあなたを放っておけないから紅魔館まで連れて来たけど、ずっと不安だったの。
私は、あなたが辛い時に力にもなれないのかって……」
しょんぼりした表情で、独白を続ける。
「………“なんで今日はそんなに難しい顔してるんだ?”なんて、言わないでよ……
辛気臭い顔にもなるわよ、あんな状態のあなた見てたら……」
「あ……」
――――そういうことか。
自分の迂闊さを呪った。咲夜は、私にどう思われているか、不安で仕方なかったのに―――
「それで、私を避けてたのか?」
「……うん……心配してても、あなたに理解してもらえないのが怖くて……」
何気ない言葉で彼女を不安にさせてしまったことに、ちくちくと胸が痛む。
いつも咲夜がそうしてくれるように、そっと、彼女のほっぺたに手を添えた。
「………ごめん、咲夜。無神経なこと言っちゃって……咲夜が心配してくれたのは、よくわかったから―――」
軽く、溢れそうになった涙を拭ってやる。
「だから、その………また……いつもみたいに、撫でたりしてくれるか?」
「魔理沙………」
いつもと立場が逆だ。
普段は咲夜の方が撫でたり慰めたりしてくれるのに。
潤んだ瞳の咲夜は、なんだかいつもよりずっと儚げに見えた。
縛り上げる過程で咲夜から没収しておいたナイフを手に取り、縄を断つ。
はらりと縄が解け、床に落ちた。
「……本当に、撫でたり抱きしめたりしていいの?」
不安そうに、自信なさげに、言う咲夜。
「私も、寂しかったから……だから――――」
――――甘えてもいい?
聞く前に、ぎゅう、と咲夜に抱きしめられた。
ああ、この温かさだ。
不安とか、悩みとか、そんな無粋な干渉を一切寄せ付けない。
胸の奥があったかくなって、全身から力が抜ける。
今、この瞬間、私は咲夜だけの私で、咲夜もまた然りだ。
「……本当はさ」
咲夜の胸に抱かれて大人しく頭を撫でられていると、隠しごとができなくなる。
きっと、女神に懺悔する者はこんな気持なんだろう。
「……家に閉じこもってるとき、ずっと咲夜の所に行こうかと思ってたんだ」
咲夜なら優しくしてくれる、甘えさせてくれる、慰めてくれる。そう思ってたから。
「でも、咲夜をそんな“都合のいいときに甘えられる相手”みたいに捉えたくなかったから………」
「馬鹿ね……“都合のいい相手”でも私は一向に構わなかったのに……」
言って優しく髪を撫でる彼女の顔は、先ほどまでの様子を微塵も感じさせない、嬉しそうなものだった。
いつもの意地悪そうな笑みとはまた違う、恐らく限られた者しか見ることのできない表情。
咲夜が、そんな顔を私に見せてくれるのが嬉しかった。
「……それに、私も不安だったんだぜ?」
「え?」
この際だ。普段言いたいこと、言えなかったことも素直に言ってしまおう。
次に私が素直になれるのは、いつになるかわからないから。
「だってさ、咲夜はいつも優しくしてくれたけど、一回も“好き”とか言ってくれなかったし……
ただ、私のことを野良猫か何かみたいに思ってるんじゃないかって……」
「あー……」
ちょっと、咲夜の顔が曇ってしまう。
悪いことを言ったかな?などと考えてると―――
「それはお互い様よ。あなただって、言ってくれなかったもの」
「ん……」
拗ねたように言って、こつん、とおでこをくっつける咲夜。
「―――ま、ここは私が譲ってあげるわ。お姉さんだから」
「?」
そっと、私の顔を両手で包みこむ。
「―――――好きよ。魔理沙」
―――――女神に懺悔する者はこんな気持なんだろう。なんて、大間違いだ。
女神は、こんなにズルくない。
さっきまで泣きそうだった癖に、あまりにも彼女の笑顔は優しすぎる。言葉が、まっすぐ過ぎる。
普段とのギャップが、大きすぎる。こんなのフェアじゃない。
このタイミングで、そんな顔で、そんなこと言われたら。
もう、私は何も言えないじゃないか。
私がお前を好きである以上に、お前が私のことを好いてるみたいじゃないか――――
「あら、泣いてるの?」
「泣いてないやい……」
一瞬で素に戻ってしまった咲夜の、久しぶりのニヤニヤ笑い。
そんなズルい彼女に抱かれ、涙の滲む眼を隠すようにメイド服に顔を埋め、彼女の体を抱き返した。
三日目 PM3:30 紅魔館・メイド長私室
「おやつにしない?」
久々にベッドに腰かけた咲夜の膝に抱かれていると、そんなことを言い出した。
そう言えば、おやつには丁度いい時間かもしれない。
「何がいい? 好きなもの何でも作ってあげるわよ?」
「えーっと……」
咲夜は私の好みを全部網羅している。何でも作ってやれるという自信があるから、わざわざ聞いてくるのだろう。
何がいいだろう。チーズケーキ、白玉ぜんざい、ハニータルト……
咲夜の作るのは何でも美味しいから、あれこれ迷ってしまう。
「……任せる。咲夜が作ってくれるものなら、何でもいい」
「あら、何でもいいの?」
こくりと、頷いた。
「その代わりと言っちゃなんだけど……」
「ん?」
何にしようかなぁ、と考えを巡らせていたであろう咲夜に、一つだけ注文する。これは譲れない。
「……咲夜の手で、食べさせてくれる?」
「言われなくても、よ」
ちょん、と軽く額に口づけてきた。
待っててね、そんな言葉が聞こえたかと思うと、次の瞬間には咲夜の身体が部屋から消え失せていた。
座っていた膝も消え、ベッドにお尻から着地する。
「へへ……」
笑いが自然に込み上げてくる。ごろん、とベッドに仰向けに寝転がった。
昨日まで小さい理由で家に閉じこもってた自分が、馬鹿みたいだった。
一歩踏み出せば、咲夜は温かく迎えてくれただろうに。
でも、咲夜の色んな顔を見れたし、お互いの気持ちも伝えられたし。
結果オーライも魔法使いの心得だ。なんてことを、図書館の日陰少女が言ってたような気がする。
久しぶりの咲夜の腕の中も、膝の上も、とっても気持ち良かった。
抱かれているだけで、安心してつい眠りそうになってしまう。今日は、目一杯甘えよう。
「お待たせー」
しばらく部屋でゴロゴロしていると、お盆を持った咲夜が部屋に戻ってきた。
流石、時間を止められる奴は仕事が速い。今日のメニューは何だろう?
お盆の上には埃よけの布がかけてあり、シルエットしかわからない。見た感じ、ロールケーキか何かか?
「ほら、魔理沙こっち向いて」
「?」
不意に咲夜に呼ばれる。振り向くと、布を胸のあたりにあてがわれ、首の後ろで紐を結ばれた。
ナプキンか?と思ったけれど――――――
「あの、咲夜………?」
「うん、似合ってるわよ?」
なんとも嬉しそうにニコニコしてる咲夜。
首にかけられた布は、タオル地で、中央に熊のアップリケが縫い付けられてて―――
どう見ても、よだれかけだった。
猛烈に嫌な予感がする。
「―――って、ちょっと待て!それは何だ!!??」
「え?何って……」
お盆の上から、白い液体の入った片手大の瓶を取った咲夜に、思わず叫ぶ。
瓶の蓋にはゴム製の吸い口が取り付けられてて、これは―――
「哺乳瓶だけど?」
――――予想通りの答えと言うものは、時として聞きたくないものだ。
「あ、中身は粉ミルクよ?」
「そういう問題じゃない!」
瓶の吸い口をおしぼりで拭きながら、ベッドに近づいてくる咲夜。ベッドの反対側に、座ったままじりじり逃げる私。
「何でもいいって言ったじゃない?」
「言ったけど!お前はそれに何の疑問も感じないのか!?」
「全然」
――――ああ、忘れてた。
どんなに優しくても。
真性は真性なんだ。
「……そんなに嫌?」
「う……」
しょんぼりした表情の咲夜が、哀しげな瞳でこっちを見てくる。
雨に打たれる仔犬のような。もし彼女に犬耳が生えてたら、ぺたんと寝てしまっているだろう。
やっぱり、こいつはズルい。
さっきあんな顔を見せた後で、こんな顔されたら、どう答えていいかわからないじゃないか。
「……粉ミルクはおやつに入るのか?」
「今日ぐらい、甘えてくれたっていいじゃない?」
質問を質問で返すな。
ベッドの上に登って来た咲夜に、ついに追い詰められた。
「ねえ、いいでしょ?」
「………誰にも言わない?」
「もちろん、私と魔理沙だけの秘密。部屋にも鍵かけたし」
「………」
ぽんぽん、と膝を軽く叩き、おいでおいでと私を招く咲夜。
――――何、考えてるんだ。
咲夜に抱かれて、哺乳瓶で粉ミルク飲を飲まされる。
どういうわけか、私はそんな咲夜の提案をどうしても断る気になれなかったのだ。
いや、正直に言おう。
心の奥底でそうされたいと、私は思ってしまった。
ヤバい。
自分でも気付かないうちに、咲夜の色に染められ始めてる――――
「ほら、そんなに緊張しないの」
「む、無茶言うなよぅ……」
ベッドに足を投げ出し、咲夜の膝を背中に敷いて、片腕で頭を支えられる。
まるで子供みたいな扱いだけど、この格好で抱かれるのは私も好きだ。
しかし――――
「はい、口開けて?」
咲夜が手に持った、子供ですら使わない―――乳児のためのそれを見てると、流石に全身に変な力が入る。
どうしても、口に含むのをためらってしまうのだ。
「もう、哺乳瓶で初めて飲ませるときは大変だって聞いてたけど、本当なのねえ……」
まるで幼い子供に呆れる母親のような顔で、咲夜がこぼす。どこぞの若奥さんかお前は。
「―――っ!?」
不意に、咲夜がぎゅっと私の頭を抱きよせた。
メイド服に包まれた、柔らかい――――とても柔らかいものが顔に―――
油断した瞬間、思わず口を開けてしまった。
気づいた時には、もう遅かった。
「んむっ!?」
――――口の中に、柔らかい吸い口を突っ込まれていた。
「さあ、ミルクの時間ですよー」
「~~~~~~っ!!」
幼子をあやすような口調の、嬉しそうな咲夜。
自分が今どんな状態にあるのかを想像すると、顔が真っ赤になってくる。
よだれかけを着けさせられて、抱っこされて、哺乳瓶を咥えさせられて――――
「ほらほら、泣いてないで、ちゃんと吸いなさい」
恥ずかしさのあまり、涙が滲んでしまったようだ。
「う、ううう……」
恐る恐る、哺乳瓶の乳首を舌でつついてみた。
柔らかい―――本物の乳首は、もっと柔らかいのだろうか?他人のを吸った記憶が無いから、よくわからない。
思い切って、ちょっとだけ吸ってみた。
ぴゅっ、と少量だが勢いよく粉ミルクが飛び出し、口いっぱいに広がった。
「…………」
人肌よりちょっと温かくて、なんだか不思議な味がした。
懐かしい味……なんだろうか?さすがに母乳の味は覚えてない。
「どう? 美味しい?」
「ん……ほんのり甘くて、不思議な味……」
ちゅうちゅうと、続けて吸ってみる。優しく咲夜に頭を撫でられた。
「あんまり味気なかったから、グラニュー糖入れてみたんだけど」
「……粉ミルクってのはそーゆーもんじゃないと思うんだが」
こいつみたいなのが、将来赤ん坊に生魚食わせたりするんだろうか?
「いいのよ、魔理沙は赤ちゃんじゃないもの」
「ええい、都合のいい時だけ……」
くすくす笑いながら、咲夜が頬を撫でてくる。
羞恥もちょっと落ち着き、為されるがままに体を預けていた。
ただ哺乳瓶に吸いつき、乳首から出てくる粉ミルクを飲む。咲夜の体の温かさを感じる。
眠くなってきたような、安心したような、何ともいえない穏やかな気分になってくる。
欲を言えば哺乳瓶じゃなくて、本物の咲夜の――――
「何見てるのかしら?」
「う……」
見透かしたような、物凄く意地悪そうなニヤニヤ笑い。
ちらちらと、咲夜の胸を無意識のうちに見ていたようだ。
「―――吸いたい?」
そっと、私の顔を胸の方に向かせる。くそっ、美鈴とかに比べればお前も小さいのに………
「吸わせてあげてもいいわよ?」
「本当に!?」
「あ、やっぱり吸いたかったんだ」
………私の馬鹿。
まんまとカマをかけられて引っ掛かった私を尻目に、咲夜が引き攣りそうな笑いを浮かべている。
「………ああ、そうだよ。吸いたいよ。悪いかよ」
「もう、拗ねないの。ちゃんと吸わせてあげるけど―――」
咲夜が半ば空になった哺乳瓶を、ちゅぽん、と私の口から引き抜く。
「交換条件でどうかしら?」
未来の私よ、何故この時言っておかなかった。
『全力で止めておけ』と。
三日目 PM4:00 紅魔館・メイド長私室
用意してくるからちょっと待ってて、と咲夜が部屋から出て行ってからしばし。
私はベッドの上で何故か正坐しながら待っていた。
咲夜曰く交換条件とは、『ちょっと服を着替えてくれるだけでいい』らしいのだが――――
十中八九、まともな服ではないと思う。
時間を止められるのにわざわざ焦らしているところを見るに、
私がそう予想して悶々としている様を楽しみたいのだろう。つくづく悪趣味な奴だ。
でも、着替えるだけで構わないのなら、まだマシなもんだと思う。
せいぜい恥ずかしい格好をさせられるだけだろうし、全てはおっぱいのためだ。
なんて意味のない気合いを入れていると、がちゃりと扉が開いた。
「待たせたわね。どこに直してたか忘れちゃって」
部屋に戻ってきた咲夜が、白々しく言ってのける。
両腕で、沢山の白い布やら平べったい缶やらを抱えている。
どさり、とベッドの上に荷物を広げた。
「…………?」
白い布は、布だった。
いや、何を当たり前のことを、と思われるかもしれないが、本当に“布”でしかないのだ。
上着でもなければ、スカートでもズボンでもない。一番近いのはタオルだろうか?
手拭いよりもちょっと大きい。よく見ればタオルを重ねて端を縫い付け、輪っかを作ったような構造だ。
普通の綿のようだが、表面を撫でると柔らかく滑らかな感触がした。
「ほら、これ見て魔理沙。可愛いでしょ?」
「?」
唐突に咲夜に呼びかけられ、彼女が手で広げた物に注目する。
――――――最初、私はそれを淡いピンクのブルマか何かだと思った。
しかし、ブルマにしては大きいし、装飾が多い。足口にフリルがあしらわれ、臍の辺りにはワンポイントのリボン。
そして、二列並んだスナップボタン。
これは、まさか。
全身から嫌な汗が噴き出るのが、自分でも分かった。顔から、さーっと血の気が引く。
私の予想が正しければ、あれは、そしてこの沢山の白い布は――――
「………咲夜……?」
「なあに?」
ニコニコと、笑顔を振りまく咲夜。
穏やかな表情だったが、私は彼女の背後に禍々しいオーラが浮かんでいるのを、確かに見た。
「それは、まさか―――」
「おむつカバーだけど?」
ベッドから飛び降り、全力で私は入口へ走った。
しかし、悲しいかな。時間を止められる相手から、そう簡単に逃げられるわけがない。
気づいた瞬間、私は咲夜に後ろから抱き上げられていた。
「もう、どこ行くの?」
「や、やだっ!!それだけはやだーーーっ!!!」
じたばたする私を無視して、咲夜がベッドへと戻る。
「“着替えるだけならいい”って言ったじゃない? 女の子の公約撤回は駄目よ?」
お前の言う女の子ってのは悪役レスラーか何かか。
「………本当に嫌なら、無理にはさせないけど。でも、“こっち”はお預けね」
「うううぅぅ………」
なんてよく心理を心得た変態だ。始末が悪い。
「………本当に、着替えるだけでいいのか?
後になって“やっぱりそのまま放尿しろ”とか言わない?」
「言わないわよ。私だって約束は守るわ」
真摯な表情の咲夜。いや、こんな時にそんな顔するのは人としてちょっとどうかと思うが。
――――よし、穿くだけなら、大丈夫だろう。
きっと顔から火が出るほど恥ずかしいんだろうけれど、そのまま外を歩かせたりはしないだろうし。
咲夜は、私のそんな姿を他の奴に見せたがらないだろうから。
………なんとなく変態の思考が読めるようになってきたのが、ちょっと嫌だった。
「………わかった。本当に穿くだけだからな」
涙目で見上げると、咲夜はにこりと笑い返した。
――――母性と性欲が混然一体となった、すばらしくいい笑顔だった。
「はい、脱ぎ脱ぎしましょうねー」
「……ド変態めが」
ベッドに腰かけさせられた状態で、物凄く嬉しそうな咲夜に靴を脱がされた。
続けてスカートのホックを一つずつ、もったいぶって外される。
「………いっそ、ひと思いに時間を止めて着替えさせてくれよ」
「そんなの、面白くないわ。あなたの反応を見ながら、ちょっとずつ着替えさせるのがいいんじゃない」
わかってねぇなあ、と言いたげな咲夜。ほっとけ。わかりたくもない。
やがて、緩めたスカートを剥ぎ取られ、ショーツに包まれた大事なところが露わになる。
「脱がすわよ?」
意地悪そうな上目遣いで、咲夜が私の方を見る。真っ赤になって、思わず目線を逸らした。
咲夜のしなやかな指がショーツにかけられ、するりとずり下ろされる。
脱がすのが目的なのに、脱がせるのを惜しむかのようにゆっくりとショーツが脚を滑る。
くるぶしのあたりまで脱がしたところで、一本ずつ足を抜き取らせられる。
「相変わらず、全然生えてこないのねえ」
「~~~~~っ!!!!!」
ニヤニヤしながら、秘所をじっくり観察する咲夜。慌てて覆い隠した。
くそっ、二次性徴はいつ始まるんだ……
「さ、次はこっちね」
やがて満足したのか、後ろに振り向かされる。
ベッドの上には、スナップボタンを外して広げられたおむつカバー。
その上に置かれた、何枚もの白い布おむつ。
股を包みこむ部分と腰を包む部分の二方向、T字型に置かれており、お尻の部分で重なっている。
……妙に手慣れてるのは、気のせいだよな?
「……上はこのままでいいのかよ?」
メイド服の上半分だけを着せられたままの格好だ。下半身だけがスースーして仕方ない。
靴下を履かせたままなのも、ひょっとして咲夜の趣味だろうか?
「上はそのままでいいわ。“メイド同士の秘め事”って感じがするじゃない?」
「“メイド長が新人を虐める図”の間違いだろ」
勿論性的な意味で。
「ほら、時間稼ぎなんかしてないで、早くここにお尻乗せなさい」
バレたか……
ベッドに上った咲夜が、おむつの束をぽんぽん、と叩く。
「………絶対、他の奴に言いふらしたりするなよ?」
「するわけないわ。あなたのこんな姿見ていいのは私だけだもの」
さあ早く、と輝かせた眼で催促してくる咲夜。
溜息が自然に漏れ出る。何の因果でこんな変態に惚れてしまったんだろう?
―――渋々、私はのろのろとおむつのお尻部分に腰を下ろした。
思ったよりもふんわりとした柔らかい感触が、お尻に伝わる。
「はい、そのまま仰向けになって」
「ううぅぅ……」
脇に座りこんだ咲夜に促され、おむつを下に敷いたままベッドに仰向けになる。
恥ずかしくて仕方ない。もはや顔の紅潮は、隠しようも収めようもなかった。
前から咲夜は私を子供扱いする傾向があったけど、より酷くなったんじゃ―――
「ひゃうっ!!??」
突然、ふわふわした感触の何かが秘裂を撫で、素っ頓狂な声を上げてしまった。
「ななな何してるんだよっ!?」
「何って、見てわからない? ベビーパウダーはたいてるの」
慌てて頭だけ起こすと、咲夜が綿毛状のパフを手にしていた。
脇に置かれた平べったい缶。蓋が開いて、中に小麦粉のような粉が詰まっているのが見えた。
なるほど、あれは天花粉―――ベビーパウダーの缶だったのか。
って、そんな問題じゃなくて。
「ひ、必要ないだろ? そこまで本格的にすること……」
「ダメよ、かぶれたらどうするの?」
せっかく綺麗な肌なのに、と抗議を無視して咲夜はぱたぱたとベビーパウダーをはたく。
パフの感触がくすぐったくて、うっすらと甘い香りが漂ってきて―――
「ちょっとお尻上げてね」
「わぁっ!?」
脚を持ち上げられ、おむつからお尻が離れる。
有無を言わさず、股からお尻にかけて万遍なく白い粉がはたかれる。
―――――これじゃあ、完全に乳児扱いじゃないか。
咲夜の優しい手つきも、おむつの感触も、ベビーパウダーの甘い匂いも。
全てが私の思考を変な方向に向けてゆく―――
「ちょっと、魔理沙? せっかくはたいてあげたのに、濡れないでよ」
「えっ……?」
そんな咲夜の声に、思わず自分の秘所に目をやる。
下腹部、太腿、お尻に至るまで真っ白に染め上げられ、秘裂には蜜の滴が一滴顔をのぞかせていた。
「………人のこと変態だなんだって、魔理沙も言えた義理じゃないわね」
「ち、違う……これは……」
仕返しとばかりに、さも面白そうな、意地悪そうな笑みで詰め寄る咲夜。
「何が違うの? おむつ当てられて濡れちゃうなんて……」
「だから………当てられてるから、こうなったわけじゃなくて、その……」
「?」
「………当ててもらってるのが、咲夜だから……」
―――――そこで、赤くなるのはズルいと思う。
私も、普段からポーカーフェイスを心がけた方が得だろうか。
困ったような、嬉しいような、曖昧な顔で赤面する咲夜を見てると。そんな気分になってくる。
……冷静になってくると、なんだかものすごく恥ずかしいことをしてるんじゃないかと思えてきた。
いや、冷静に考えるまでもなく恥ずかしいこと以外の何事でもないだろう。
「………生意気ね。そんな子には、たっぷり恥ずかしい思いさせてあげるわ」
「わっ……!」
立ち直った咲夜がお尻の下に敷いたおむつを、ぴん、と張った。
脚を開かされて、お尻から大事なところ、下腹部にかけてをふわりとおむつが包み込む。
あれよあれよと言う間に、お尻から横に伸びてた腰部分のおむつも巻きつけられる。
「っ!」
二方向の布が重なった部分を、きゅっと軽く締め上げられた。若干、おむつの中が窮屈になる。
反応する間もなく、咲夜が手際よく形を整えてゆく。
おむつカバーが股を包み、腰を包み――――ぱちん、と音を立ててボタンが止められた。
「――――はい、完成よ」
ああ。
遂に、やっちゃった。
咲夜に、おむつ、穿かされちゃった――――――――
「数年ぶりのおむつは、どんな気分?」
「……恥ずかしくて、それどころじゃない……」
分厚いおむつで包みこまれた下腹部には、ふんわりとした柔らかい感触。
露出している太腿に比べて、ぽかぽかと温かいのが不思議だった。
「ほら、脚開いてもうちょっとよく見せて?」
「うぅ……」
言われたとおり、ベッドに仰向けになったまま脚をちょっと開く。
結構な枚数のおむつを当てられてしまったようで、股を閉じるより開き気味にしている方が楽だった。
「―――よく似合ってるわ」
「ひぁっ!?」
さわさわ、とおむつの上から咲夜が秘所を撫でた。
何枚もの布を隔ててるからちょっとくすぐったい程度だけど、手つきがやらしいことこの上ない。
「背もちっちゃいし、大事なところも綺麗だし、本当の赤ちゃんみたい―――」
「……うう……変態………お前は、こんなのがいいのかよぅ……」
開いた股間に顔を近づける咲夜に、涙目で呆れ半分の毒を吐く。
きっと、私の顔は湯で蟹みたいに真っ赤になってることだろう。
「魔理沙も見てみなさいよ? ふっくら膨らんでて可愛いわよ?」
「~~~~~~っ!!!」
あんまりと言えばあんまりな提案に、いやいやと首を振る。
感触だけでも恥ずかしくて仕方ないのに、まともに自分のおむつ姿を目にしたら――――
「っ!?」
抵抗していると、いきなり空中に抱き上げられた。
咲夜が後ろから太腿に手を回して、脚を開いた状態で持ち上げられる。
―――――つまり、“母親が幼児におしっこなどをさせる体勢”を取らされて。
「なっ、何っ!? 何するんだ!?」
「良く見えるようにしてあげるだけよ」
くすくす笑いながら、私を抱き抱えたまま咲夜が立ち上がり、部屋の端へと移動する。
向かう先には―――――大きな姿見。
―――――まさか。
「ほら、魔理沙。自分のおむつ姿、しっかり目に焼き付けなさい」
「いっ、いやっ……いやあぁぁぁぁぁああああぁあぁぁっ!!!!!」
――――姿見に映し出されたのは、咲夜に“しーしーのポーズ”を取らされた、おむつ姿の私。
分厚い布で腰回りがこんもりと膨らんだ姿は、誰の目にも異様で。
可愛らしいデザインのカバーをつけられた姿が間抜けで、恥ずかしくて―――
「ふふ……恥ずかしくないの? 魔理沙? いい年して、おむつなんか穿かされて……」
「う、うううぅぅ……っく……ぐすっ……ふぇえ……」
ぼろぼろ涙が溢れて来た。
甘かった、“穿くだけなら大丈夫だろう”なんて。
顔から火が出そうなほどの羞恥で、どうにかなってしまいそうだった。
そんな私の反応に満足したか、咲夜が私をお姫様抱っこで抱えなおし、あやし始める。
耐えきれず姿見から目を逸らした私は、咲夜にしがみついて甘えるように胸に顔を埋めた。
「あらあら、泣いちゃったの? 本当に赤ちゃんみたいねぇ」
「う、ううー……ひっく……」
何も言い返せず、咲夜の胸で大人しく頭を撫でられる。
今の自分が情けなくて、それと裏腹に、咲夜の胸の中もおむつの中も温かくて気持ちよくて――――
「あ……えーと……魔理沙?」
「っく……ぐすっ……」
やり過ぎた。と思ったのか、我に帰った咲夜が優しい声で語りかける。
「ご、ごめんね? 魔理沙があんまり可愛かったから、つい……」
ぽんぽん、と背中を軽く叩く咲夜。
「ね? 泣き止んで? 約束通り、その……吸わせてあげるから」
「……っく……本当に?」
もちろん、と私を抱えたままベッドに座りなおした咲夜が頷く。
「もう、満足したから。約束はちゃんと守るわ」
「ん……」
優しい微笑みを浮かべた咲夜が、溢れだした涙を拭う。
……ちょっと見直した。
てっきり私は咲夜が『約束なんざ知ったこっちゃねえぜフゥーハハァー』とか言って、
おむつ穿いたまま放尿なり自慰なりを強制されるかも、と覚悟していたものだから。
いや、これぐらいのことで見直されるような普段の行動が問題なんだろうけど……
「はい、これあげるから、機嫌直して?」
「?」
咲夜がポケットから小さなお菓子の包みを取り出し、私の口まで持ってきた。
親指の爪ぐらいの大きさの、白い飴玉みたいなもの。
口に含むと、しゅわっと、ラムネのような味と感触が広がる。唾液に反応して溶けるタイプのお菓子のようだ。
「美味しい?」
「ラムネみたいな味……変わったお菓子だな? 何なんだこれ?」
「ええと………抗利尿ホルモン分泌阻害剤だって」
…………………
「…………つまり?」
「利尿剤」
一瞬でも、寸分でも。
こいつを見直した私が、馬鹿だった。
「うあ、あ、あああああっ………!」
きゅう、と下腹部が締め付けられるような感触。
体内のリズムを無視して、どんどんおしっこが生産されているのが自分でもわかる。
自分の意志とは無関係に、膀胱が張り出してきたのが感じられた。
「いやあ、流石に永遠亭の薬はよく効くわ……」
「お……お前ってやつは……どこまで……どこまでっ………!」
一瞬で色んなものをぶち壊すことに何のためらいもない真性に、精一杯の恨みの視線を送る。
「あら、どうしたの? 魔理沙? 吸いたいんじゃなかったの? 遠慮しなくていいのよ?」
膝の上から私を下ろし、ベッドの上でわざとらしく艶っぽいポーズで座る咲夜。
ニヤニヤ笑いながら、ほれほれ、とメイド服のネクタイを取り去り、ちらりとブラウスをはだける。
「う、嘘つき……“放尿しろ”なんて言わないって……」
「あら、一言もそんなこと言ってないわよ? トイレに行きたければご自由にどうぞ」
「言われなくても………って、こらっ!!なに窓からスカート捨ててるんだ!!」
「ああ、ごめんなさい。空気を入れ替えようと思ったら、手が滑って……」
てへっ、と殺意が沸くほど白々しい顔でおどけてみせる咲夜。
「別にスカートが無くたって、トイレには行けるでしょ? 行けばいいじゃない、おむつ丸出しで」
行けるわけないだろうがな!とでも言いたげな、勝ち誇った表情の咲夜。誰か“最悪”以下の罵倒語を教えてくれ。
「ほら、早く行かないと間に合わないんじゃなくて?」
「ふぁああっ!!??」
つんつん、とおむつの上から膀胱をつっつかれた。思わずベッドの上でうずくまる。
パンパンに張った膀胱はとっくに満タンで、括約筋が精一杯の抵抗をしている状態だ。
そうしている間にも、どんどんおしっこが膀胱に送られて、限界が猛スピードで近づいてくる。
「別におむつの中にしちゃってもいいのよ? おもらしの為のおむつなんだから」
嬉しそうな顔の咲夜がベッドでうずくまる私の顔を覗き、身体を仰向けに転がした。
「私は一言も“しろ”なんて言ってないわよ? だから、するのは自分の意思よね?」
くそっ、サビ残奨励企業みたいなこと言いやがって………
「あんまり我慢してると、膀胱炎になっちゃうわよ?」
「だ、誰のせいだと思ってんだ……!」
心配そうな顔の咲夜に、視線で抗議する。
「ねぇ魔理沙、私はあなたの全部が見たいの。安心して? おもらししたって、嫌いになんかならないから……」
「うぅ……」
下腹部を、円を描くようにおむつの上から撫でる咲夜。
――――もう、我慢できない――――
「――――……後でっ……覚えてろよっ………!」
吐き捨てて、私は下腹部の力を抜いた。
同時に、かんぬきの外れた水門から、怒涛の大洪水が流れ出す。
ぴゅっ……しょわああぁぁぁぁぁぁぁぁ………
「!!!!????」
信じられない物を、見た。
咲夜が、今現在おしっこの奔流が滾っているおむつに、耳を当ててる―――――
「ななな何やってるんだ、咲夜!?」
「ああ、すごい音……勢いよく出てる……」
「~~~~~~っ!!!!!!」
こいつは、どこまで、どこまで――――――
慌てて止めようと思ったけれど、全然力が入らない。一度決壊した水門は、空になるのを待つしかない。
まるで、下腹部だけ自分以外の誰かに乗っ取られたようだった。
「あったかい……いい匂い……」
「かっ、顔埋めるなっ!!嗅ぐなっ!!……嗅がないで………!………嗅いじゃだめぇ……………」
羞恥との限界は、とっくに超えていた。血管が破裂しそうなほどに顔に血が上り、心臓が高鳴っている。
連動して、涙が勝手に溢れだしてくる。
布にどんどん吸収されるおしっこで、おむつの中がじんわり温かくなってゆく。
その温かさは、お尻の方にまで広がっていた。
「っく……いっぱい、出てる……止まらない……ひっく……止められないよぅ…………」
「いいのよ、そのために沢山おむつ当てたんだから……」
時間にすれば、何十秒も無かったのだろう。
しかし、膀胱が空になり、おむつがおむつとしての機能を限界まで使い果たすまでの時間は、永遠に思えた。
おそらく、人生で一番長い数十秒だったのだろう。
「――――それじゃあ、外すわよ?」
「やぁっ……見ちゃ、だめぇ……………」
言葉ではそう言うものの、抵抗する気力もなく、ただ真赤になった顔を両手で覆う。
ベッドの上に私を寝かせたまま、咲夜がおむつカバーのスナップボタンをぷちん、ぷちんと外してゆく。
「御開帳ー」
「~~~~~っ!」
嬉しそうな声を上げて、咲夜がカバーを開く。羞恥で頭がおかしくなりそうだった。
露わになったのは、大量のおしっこで黄色く染め上げられたおむつ。
むわっと、むせかえるような匂いと湯気が立ち上った。
「いっぱい出たねー」
偉い偉い、と頭を撫でてくる咲夜。もう、私は恨み言を口にする気力すら使い果たしていた。
股を覆ったままの汚れたおむつを、咲夜が躊躇せずに素手で開く。
温かくなったおむつが取り払われ、大事なところにひんやりとした外気が触れる。
「わぁ……」
感嘆の声。
ぐっしょりとおしっこを含んだ布おむつは、もはや白い部分がほとんど残されていない。
羞恥で分泌された愛液とおしっこで、幼い秘所はてらてらと艶めかしく濡れ光っていた。
「沢山おむつ当てといてよかったわ。もうちょっとで足口から漏れてたかも」
咲夜に、用意していたタオルで、秘裂の周囲のおしっこを丁寧に拭きあげられる。
もう、早く終わらせてくれ。
一刻も早く、この羞恥からの解放を願っていると―――――
ちゅぷっ……
「あ、ああぁぁあっ!?」
突然、熱く柔らかいものが秘裂をなぞった。不意打ちの快楽に、全身に電流が走る。
咲夜が、舌で幼い秘所を舐めたのだ。
「さっ……咲夜っ……!そんな……汚っ……っあ………!」
「んっ……汚くなんか、ないわよ……?」
抵抗することもできず、ちろちろと咲夜の舌が敏感な部分を舐めるたび、身体がベッドを跳ねる。
「猫も犬も、赤ちゃんがおしっこした後はお母さんが舐めて綺麗にしてあげるのよ……?」
「い、犬か……お前はっ………っくぅっ……!」
「んむっ……そうね、悪魔の犬……」
軽口を叩こうとしても、執拗な舌技で与えられる快感で、呂律が回らない。
やがて、充血した秘所が徐々にその内側をさらけ出してゆく―――
「………ずいぶん、ご無沙汰みたいね? 閉じこもってる間は“して”なかったのかしら?」
「~~~~~っ!!!」
――――その通りだった。
陰鬱な気持ちで塞ぎこんでいたから、“きもちいいこと”する気にもなれなかった。
リハビリ第一号としては、あまりにシチュエーションが特殊過ぎる。
舌使いが、激しくて上手すぎる。
これが原因で変な性癖にでも目覚めたら、どうしてくれるんだ――――
「ひあぁあっ!!?」
指で花弁を押し広げた咲夜が、露出させた陰核を舌でつっついた。
久々に触れられたそこは、さっきまでのシチュエーションと相まって敏感になりすぎてる。
軽くイきかけたのを、歯を食いしばってなんとか堪えた。
「……ちょっと、何我慢してるの?」
自慢(かどうかは知らないけど)の舌技を耐えられたのが不満なのか、咲夜が上目に抗議してくる。
「……約束……」
「え?」
朦朧とした意識で、かろうじて言葉を紡ぎだす。
「………後で、とぼけるなよ……?」
「?」
何のことかしら? と、頭に疑問符を浮かべる咲夜。
「………ちゃんと、おっぱい吸わせてくれるって約束、守れよ……?」
「あ―――」
やっぱり、忘れてたか。
意識のあるうちに言っておいてよかった。
「約束してくれなきゃ……意地でもイってやらないからな……」
「わかってるわ。後でちゃんと好きなだけ吸わせてあげる。
だから、もう我慢しないで――――」
ちゅううぅぅぅぅぅぅっ
「あっ、あっあ、あ、ああああああああああぁあぁぁああぁあっ!!!!!」
――――思いきり咲夜が陰核を吸い上げた音を背景に、身体を駆け抜けた快楽がはじけ飛んだ。
三日目 PM5:30 紅魔館・メイド長私室
「………お前は、変態だ」
上着をはだけてブラを外した胸に吸いついた魔理沙が、ぼそりとこぼした。
「もう、悪かったって言ってるじゃない」
そっと、ふくれっ面の彼女の柔らかいほっぺたを撫でてやる。
悪いとは思ってても、ニヤけてしまうのは無理のない話だと思う。あんなに可愛い魔理沙は、そう見られない。
魔理沙が落ち着いた後、約束通りおっぱいを吸わせてやった。
哺乳瓶で授乳していたときと、同じ体勢。ただし、今回彼女が口に含むのは本物の乳首だ。
「母乳が出ないおっぱいなんか、吸ってて楽しいの?」
「んー……何か安心しないか?」
魔理沙は大人しく抱かれ、乳首をちゅうちゅうと吸ったり、舌で転がしたりしている。
なるほど、大して母乳自体は重要ではなく、メンタルに依る部分が大きいのか。
そう考えると納得できる。私も、子供のころは美鈴の胸に顔を埋めるのが好きだったし。
「―――つまり、魔理沙はまだ子供ってことね」
「何の話だ」
否定しないけどさ。と、むくれながら乳首に吸いつく魔理沙。可愛いなあ。
「……咲夜のおっぱいはいいなぁ」
「あら、光栄ね」
乳首を離し、すりすりと胸に擦り寄ってそんなことを言われた。
「霊夢のは小さすぎて、枕にする分にはいいけど。
アリスのは結構大きいしやわっこいけど、触ったら怒るし……」
「……相対評価かい」
がくっと、脱力した。
「あ、でもあいつらを抜きにしたって、咲夜のは最高だと思うぜ?」
「あ、ありがと……」
微妙なフォローをされた。ひょっとして、この子は色んな女の子の胸をレビューしてるんだろうか。
「―――でも、不公平だよな」
「胸の大きさが?」
「ちがわい。咲夜は当たり前のように私の……その……あそこを、触ってるっていうのに、
私が一回も咲夜のそういう所に触れたことが無いのはどうなのかって」
「あー……」
言われてみれば、彼女とのちょっとえっちなスキンシップはいつも一方通行だった。
私が彼女の秘所を弄るのみで、魔理沙の方から積極的にえっちなことをされたことはない。要するにマグロなのだ。
別に何も言ってこなかったから、それで満足なんだろうと思ってたけど―――
「何? 魔理沙もそういうのが気になるお年頃なの?」
「………ひょっとして、お前は“そういうお年頃”未満だと思って、今まであれこれしてきたのか?」
「何か問題でも?」
「……いや、私が悪かった」
どうも要領を得ない。いつもみたいにはっきり言えばいいのに。
でも――――
「触ってみる?」
「……いいの?」
たまには、連荘も悪くないかもしれない。
それに―――
「触りっこして、どっちが早くイくか根競べしましょうか?」
「上等だぜ。負けたら罰ゲームな?」
乗ってきた、乗ってきた。こっちが言いたいことを言ってくれるんだから助かる。
心の中で、人知れずほくそ笑んだ。初心者同然の魔理沙に負けるわけがない。
完膚なきまでに負かして、泣かせて、今日よりもっと恥ずかしいことさせてやる。
気づいたときにはどちらが言い出すまでもなく、服を脱ぎ捨てていた。
「はむっ……いいのか? この身長差はハンデにしかならないぜ?」
「初心者相手だもの。このぐらいハンデがあった方が面白いわ」
――――負けるわけないしね。
ベッドの上、二人で抱き合い、お互い秘所に手をあてがい、探り合う。
腰の位置を合わせると、魔理沙の頭が丁度私の乳首を咥えられる位置に来るので、ハンデとして咥えさせておく。
つまり、私は魔理沙の大事なところのみ。魔理沙はそれに乳首を加えた二点攻めで、互いをイかせ合うのだ。
「ほら、私より自分を心配した方がいいんじゃない? もう少し湿っちゃってるわよ?」
「ん……ほっとけよっ……」
余裕たっぷりのまま、魔理沙の秘裂を優しく開き、陰核の周りを丁寧になぞってやる。
今日既にかなり盛大な絶頂を迎えたそこは、既に若干の湿り気を帯びている。
魔理沙も精一杯快楽を与えようと、舌で乳首を転がしたり舐めたりはしているが、いかんせん経験が違う。
確かに気持ちいいし、むずむずするし、彼女が探る私の秘所もとろりと蜜を垂らして―――
――――――ん?
(う、嘘っ……!?)
濡れてる―――それも、恐らく魔理沙よりも。
彼女の柔らかい指が揉みほぐす秘所は熱を帯び、充血して少しずつ内側を覗かせている。
ねっとりとした愛液が、彼女の指に絡んでる―――
「……っく……結構……上手いじゃない……?」
負けるものか。虚勢を張って、本気で魔理沙の陰核を直に弄り始める。
「ふぁっ……」
びくり、と魔理沙の身体が一瞬震える。やはり、本気を出せばまだこっちに分がある。
容赦なく攻め立てて、大洪水にしてやる――――
「……っく……どうした? 咲夜? 動きが、おざなりだぜ……?」
「ふ……ふふ……そっちこそ……一人えっちと……本番は、違うのよ……?」
互いに、意地の張り合いだ。
負けるか、負けるものか。これはプライドだけの問題じゃない。
今まで魔理沙に行ってきた仕打ちを考えれば、万が一負けた時には、どんな罰ゲームを課されるやら―――
不安を振り払うかのように、水っぽい音を立てて魔理沙を攻め立てる。ハンデなんて、やらなきゃよかった。
(………?)
おかしい。
一時期は互角だったのに、さっきから明らかに私の方が濡れてる。
これは単純に魔理沙に二点攻めの利があるとか、そういう問題じゃなくて何かもっと別の―――
「……さっきのお前の言葉……そのまま、返すぜ……?」
「っ……?」
苦しげながらも、不敵な笑みを浮かべた魔理沙。
「………“ずいぶん、ご無沙汰みたいね?”」
――――――――――あっ。
しまった。私も魔理沙のことを言えない。
ここ最近、色々あったせいで、ずっと一人えっちから遠ざかっていたのだ。
魔理沙も同じ条件だけど、少なくとも彼女はさっき一回イっている。
これは、まずい。
溜まりに溜まった物が、一気に爆発しようとしてる―――――
「あ、あぁあっ!?」
かぷり、と魔理沙に軽く乳首を甘噛みされ、思わず喘ぎが漏れた。
好機、とばかりに、攻めが加速した。
「……ほら、どうした?手が止まってるぜ?」
さっきまでより、随分余裕のある魔理沙。攻めなきゃ、でも、久しぶりで、気持ち良すぎて――――
あ、ヤバい。イきそう――――――
(こ、こうなったら……)
一か八かの、賭けに出る。
ぷすっ
「ふわああぁぁぁあっ!!??」
魔理沙の嬌声。乳首から、舌が離れた。
よかった、この反応なら、少なくとも素質はある。
―――――お尻でイく素質が。
「さっ、さくやっ……そんなっ……どこに、突っ込んでっ………」
くにくにと“の”の字を書くように、彼女の後ろの穴に突っ込んだ指を動かす。
未知の世界の衝撃と、その快感に魔理沙の顔が歪む。
こっちでイける人とイけない人がいるから運頼りだったが、神はまだ私を見捨てていなかったようだ。
「まっ……負けるかっ……!」
「ふぇあっ!?」
しぶとくも、乳首を咥え直し、秘所の攻めを再開する魔理沙。ええい、往生際の悪い……
こっちだって、意地がある。さっさと、達してしまえ。
最後の力を振り絞り、ひたすら快楽に耐え、魔理沙の前後の穴を蹂躙する。
しかし、彼女のしぶとさも称賛もので、この期に及んでもなお抵抗を続ける。
と、久方ぶりの違和感が、体に沸き起こった。
お尻の上辺りが、むずむずする。ヤバい、これは、この感覚は今度こそ――――
(や、やだ………魔理沙に…………)
イかされちゃう―――――――
「ふ、ふあっ、あ、ああああぁああああっ!!!」
――――部屋に響く、絶頂の嬌声。
目の前には、がくがくと痙攣しながら、恍惚の表情で昇り詰めた魔理沙がいた。
「……………」
イきそこなった。
いや、勝負はイった方が負けなんだから、勝ちなんだけど、あそこまで来てたのに。
魔理沙は今日二回も盛大に絶頂を迎えているのに。
この気持ち、どうしてくれよう――――
気づいた時には、未だ絶頂の余韻残る魔理沙を仰向けにひっくり返し、両手で脚を広げさせていた。
「さ……さくや……?」
朦朧とした意識の魔理沙が、呼びかける。涙の浮かんだ眼はとろんとしてて、涎なんか垂らして。
なんて気持ち良さそうなんだ。これは許されざる反逆行為といえよう。
「罰ゲームよ、最後まで付き合いなさい………!」
「え……?」
まともに返答できる状態でない魔理沙。お構いなしに、秘所を重ね合わせた。
「ああああぁぁぁぁっ!!??」
絶頂の直後、敏感になっている魔理沙の秘所は、軽くこすり合わせただけでもう一度昇りつめた。
男女のセックスなら、これが正常位らしい。女同士でもそうなのだろうか?
どっちにせよ、擦り合わせるのに一番都合のいい体勢ではある。
なにより、無理やり脚を広げさせて腰を打ちつけていると、いかにも“犯している”感じがするし。
「やっ……やめっ……さくやっ……また、イっちゃ……」
「って、何回イくつもりなの!?一回ぐらい、イかせてからにしなさい!」
―――ああ、もう。
床上手ゆえの苦しみなんてものがあるとは、思わなかった。
日本には八百万の神様が居るという。
だから、夜伽の神様がいるなら、私の願いを聞き入れてください。
いつか、ちゃんと魔理沙と一緒にイけますように―――――
そんな願いを胸に、ずいぶん久しぶりの、壮絶な絶頂を迎えた私は、そのままベッドに倒れこんだ。
三日目 PM11:55 紅魔館・メイド長私室
「………起きたか、性犯罪者予備軍改め、普通の性犯罪者」
「んー……」
目覚めると、白い肌と金の髪が真っ先に目に入った。
「って、こら!寝ぼけるな!」
思わず反射的に、ぎゅう、と抱きしめてしまった。ぽかぽか、と叩かれる。
「あれ、魔理沙……?」
「私は何回もイかせたのに、自分は一回だけで失神するなんて、案外ヤワだな?」
「……あー……」
だんだん、意識と記憶がはっきりしてきた。
「私、寝てたの?」
「失神して、そのままずっとな。欲求に正直な奴め」
まさか失神してしまうとは。
あんまり一人えっちは好きじゃないけど、適度に解消しないとこうなってしまうんだろう。今度から気をつけよう。
窓の外を見ると、もう夜中だった。
「なあ、晩ごはん食べてないから、お腹ぺこぺこなんだ」
「あなたも欲求には正直ねぇ」
くすくす笑いが漏れる。性欲、食欲、睡眠欲、いずれも欠かすことは出来ない。正直なのはいいことだ。
気がつけば、二人とも裸のままベッドに寝ていた。自分はともかく、魔理沙は服を着ておけばよかったのに。
なんてことを考えてると、壁に掛けた時計が、日付が変わったことを知らせた。
――――危ない、忘れるところだった。
「魔理沙、今日は―――今、日付が変わったこの日、何の日か覚えてる?」
「え? えーと、今日は――――」
あっ、と声を上げる魔理沙。
ずっと閉じこもっていたから、日付の感覚が狂っていたのだろう。
或いは、“この日”をわざと感覚を狂わせてやり過ごすために、彼女は家に閉じこもっていたのかもしれない。
「………知ってたのか」
ばつの悪そうな顔で、ぽりぽりと頭を掻く。
「アリスに聞いたの。前に宴会で酔っぱらった時、聞き出したらしいわ」
「……酒は飲んでも飲まれるな、と」
はぁ、とため息をつく魔理沙。
「一応弁解しとくとな、やっぱりどうしても実家のこと思い出しちゃうから―――」
「わかってるわよ。でも、来年からは閉じこもったりしないでね?」
そっと、彼女の三つ編みにした横髪を撫でた。
こくり、と顔を赤らめて頷いたのが見て取れる。
「……この日に誰かと一緒に居るなんて、久しぶりだぜ」
「来年は、この日の為にちゃんと準備しとくから。
とりあえず―――――」
そっと、額にかかった前髪を掻き上げ、軽く口づける。
「―――――――――お誕生日、おめでとう。魔理沙」
============おまけ============
四日目 AM10:30 紅魔館・洗濯場
「ほらほら、どんどん洗わないとお昼ごはんに間に合わないわよ?」
「ええい、手のひら返したようにコキ使いやがって……」
「何か言った? はい、これも追加ね」
「はいはい………ん? 昨日のおむつカバーか……
………そういえば、なんでこんなのがあったんだ?赤ちゃん用にしては大きいし、大人用でもないし……」
「あ、それ、懐かしいですねー」
「お。美鈴。知ってるのか?」
「知ってるもなにも、私が作ったやつですよ。
咲夜さんってば小さいころ中々おねしょが治らなくて、毎晩寝る前に私g」
「傷魂『ソウルスカルプチュア』」
砂糖も吐いた。次回作まで全裸で待ってます。
すばらしい
これは全裸にならざるをえない
甲斐甲斐しく美鈴にお世話されるオムツ咲夜さんを脳内補完した
ブラックレーベル・・・移植版発売前ですが、10万円以上もしてました。
世界に100枚しか無いのでは、仕方無いと言えますが。
取り敢えず、お疲れ様でした。
やばいです。無双です。今一番あなたの作品が楽しみです。
これからもじゃんじゃん書いてくれたら、嬉しいことこの上ないです。
自重なんてしないでね。
そして甘えん坊魔理沙は可愛過ぎて死んだ。
素晴らしい咲マリでした。
コイツラは子犬見たいにずっとじゃれあってればいいよ!
なんていう名言w
なんてすばらしい咲夜さんなんだ!
ここまで真正なロリコン始めて見た、くらいのテンションで読ませていただきました。
さあもっとかくんだ
何気に赤ちゃんプレイに堕ちかけている魔理沙の今後の性活はどうなることやら、全力で楽しみにしようと思います。
しかしこれ以上ハードな幼児プレイは確かにそんなに思いつかないなw
思いつかれたらぜひ(ry
相変わらずのひでぇ落差。この優しさと紳士ぶりを待っていた
この勢いでもっとやらかして下さい
ついていきます
またお尻ペンペンがあるかと思ったけどそんなことはなかったぜ
咲夜さん変態なのに全然不快感がない。むしろ可愛い
陰のある魔理沙がめちゃくちゃきゅんとする
やっぱり咲マリはいいなあ
それにしても、よく訓練された咲夜さんだぜ。
ただ、一つだけ疑問がある。
美鈴は変態だろうか?それともすばらしいお母さんなのだろうか?