真・東方夜伽話

約束~永遠の時の中で~ 中篇

2009/02/02 02:40:19
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約束~永遠の時の中で~ 中篇

紅の羅宇屋

※紅魔の雑用からの注意※

この作品はシリーズです。『約束~永遠の時の中で~ 前編』を先に読むことをお勧めします。
読まないと面白くありません。
強いてあらすじを書くとすれば、


 竹  取  物  語


・・・・・・・ついでに、テーマがあやふやになっている可能性があります。
相変わらず無駄に長いです。
ネチョが書きたかっただけ・・・かもしれません。薄いですが。

あと、タグに乗せるほどではありませんが放尿とあなうーがあります。

上記を確認できた方は、下にスクロールしてください
※紅魔の雑用からの注意 終※





















〈side:Kaguya〉

「永琳・・・・・・!」
「姫様、早く! 彼らが来る前に!」

八月の十五夜。
やってきたのは『あいつら』じゃなかった。
八意永琳。私の、月での教育係だった。
そして、何処から連れてきたのか、月の民も一緒だ。
永琳と一緒にいるくらいだから、きっと味方だろう。

「・・・・・・どうして」
「話は後です! 彼らの到着まであと十分しか・・・・・・お急ぎ下さい!」

私の手を引いて、永琳は叫ぶ。
後ろでは、うさみみの月の民が何かをして兵士達を止めている。
帝も息絶え絶えだ。
翁は私の名前を呼び、苦しそうにもがいている。

「・・・・・・く・・・・・・姫様、失礼します!」

よほど焦っているのか、永琳は私を抱きかかえ、空へ飛びあがった。

「ウドンゲ! 行くわよ!」
「は、はいっ、師匠!」

月の民は、永琳の後ろについてどこかに向かって行った。
私を乗せて。
殺されはしなかったけど、私は何が起こったのかさっぱりわからなかった。
とりあえず、物凄く混乱してた。
久々の空。
輝く星々。
後ろから追ってくる、桃色の服を着た月の使者。

「姫様!」

あぁ――――――――――もう無理。
なんて思いつつ、私は気を失った。






「・・・・・・さま」

―――――――――ん。
懐かしい。
どこか、昔を思い出す声。
そうだ。月にいた頃。
あの頃はまあ、それなりに楽しかったかな。
私は、それなりに勉強できたし。永琳も真面目だったし。

「姫様。着きました」

・・・・・・懐かしいはずよね、永琳。
貴女の声だもの。
優しくて、厳しくて、頼もしい。
私の、教育係。
・・・なんかよく寝た気がする。
うぅん、でもちょっと寝足りない気もするわね・・・。

「永琳・・・・・・」
「はい、なんでしょう?」

えぇと。
何か聞かなきゃいけなかったんだけど・・・。
ショックで若干、記憶が飛んでるわ。

「何を言いたかったのかしら・・・・・・ちょっと、あったこと思い出させて」
「と、言われましても・・・。そのような薬は、持ち合わせておりません」
「薬じゃなくて・・・ちょっと待って、って言ってるの」
「そうでしたか・・・・・・と、こんな事をしている場合ではありません」

抱きかかえている私を下ろして、彼女は目の前にあった建物の扉を開いた。
どうぞ、と促され、私はとりあえず入る。
作りは唐のものと近いわね。窓もどうやら、硝子のようだし。
透明な窓っていうのも、どこか懐かしく感じる。月都以来ね。
床も絨毯。いいわねえ、もこもこの床。踏み心地がいいわ。
えっと・・・・・・・・・たしか、翁が帝に連絡して、軍隊が来て・・・・・・
そのあと、兵士がどんどん倒れて・・・・・・そうだ、思い出した!

「永琳! どうして、私を連れ出したの?!」
「・・・・・・姫様を、お護りしたかったので・・・・・」
「私は死ぬはずだったわよね?!」
「はい。確かに、彼らは不死人を消す術を持っています。
 ・・・・・・しかし、姫様に死なれるのは・・・私でも、辛いんです・・・・・・」

覚悟を決めていた、はずなのに。
どうして、永琳は私を助けたの?
妹紅に別れを告げなかったのも、無駄と知っていて帝の軍を出させたのも、覚悟していたからなのに。
それを、全部永琳が無駄にした・・・・・・?

「死を覚悟なさっていたのは、重々承知です。
 運命と受け入れていたのも、わかっているつもりです。
 ですが・・・・・・・・・」

何を言えばいいのか、戸惑っている様子の永琳。
何がなんだか、私にもわからないわよ。
いきなり連れ出されて、全部無くなって。

後ろから、兎の耳をつけた月の民が来る。
若干、怒っているようにも見える。
・・・って、あら? 私・・・胸倉を掴まれてる?

「師匠が身体張って、助けてくれたんですよ?!
 それを貴女、運命を曲げただのなんだので蔑んでいいものなんですか?!
 貴女に死なれるのが辛い、それだけの理由で助けちゃいけないんですか?!」

違うのよ。
私は、全部捨てる覚悟であの日に臨んだの。
なのに、私は全てを捨てることは出来なかった。
この身体だけ、残ってしまった。
そんな私に、どう生きろというの?

半分笑ったような視線で、彼女を見やる。
さらに怒ったようで、私に怒号を浴びせた。

「貴女、好きな人がいるんじゃないですか?!
 その人を、疎かにしていいんですか?!」

それは・・・・・・そう、だけど。
でも、ここから出ることは出来ないでしょう。
妹紅に会うことは、かなわないのよ。
知りもしないくせに、知ったような口を聞かないで。
この虚脱感、虚無感、貴女に理解できる?

喋っているような、いないような。
口を開いているかいないか、それくらいの絶妙な口の動き。
息を吹きかける程度の呼吸で、彼女に呟いた。

「っでも・・・」
「ウドンゲ」
「師匠っ! 何も、言わないんですか?!」
「・・・・・・いいの。私が、姫様を助けてしまったのがいけないの」
「ですが、しかし・・・・・・」

キッと目つきをきつくして、永琳は言った。
常に誰からも眼を逸らしていた永琳が、一瞬鬼人の気迫を持ったように見えた。

「ウドンゲ」
「・・・・・・・・・はい、申し訳ありません、師匠」

私をきつく睨むと、その手を離した。
しょんぼりした様子で、ウドンゲと呼ばれた月の民は数歩下がる。
そして、居間に置いてあった椅子に座り込んでしまった。
・・・・・・永琳は私の方を向いて――――眼を逸らしてはいるけど――――呟いた。

「姫様・・・部屋に、ご案内します」
「・・・ええ、いまさらどうこう言ってもしょうがないし・・・・・・」

それに、あの月の民が言ってた事は正論ではある。
永琳が例え自分のためとはいえ、助けてくれたんだもの。
その気持ちを疎かにしちゃ・・・いけない、わよね?

通された部屋は、割に豪奢だった。
でもまあ、私の私物が何もない分、殺風景ではあるけれど・・・・・・。

「・・・・・・その、姫様・・・さっきの事ですが・・・」
「・・・気にしないで頂戴。私だって、さっきのは非があったんだから」
「ですが、私は・・・当たられて仕方ない事をしたんです。
 怒って下さって、当然です・・・」

・・・・・・・・・ため息をついて、私は置いてあった椅子に座った。
あれだけあたったけど。でも、ここまで気にしてほしいからじゃなくて。
ただ、発散したかっただけで・・・・・・ああ、もどかしいわ!

「もういいわ。私は気にしてない、貴女は気にしない! これでいいかしら?」
「しかし、」
「ああもう! 教育係がお姫様に口出ししないの!
 わかったら、早くお茶でも入れて頂戴!」
「は・・・はい、姫様」

いや・・・なんで鳩が豆鉄砲食らったような顔してるわけ?
そんな驚くことでもないでしょうに。
私がこう言うこと、予測つかなかった・・・・・・わよね。
じゃああれだけ驚いて当然か。

永琳が去って、すぐのこと。
・・・・・・・・・ノックの音が突然、響いた。
永琳にしては、早いわね。
あの月の民かしら?

「どうぞ?」
「し、失礼します・・・・・・」

案の定、声はその娘だった。
改めてみると、この娘・・・かわいい。
さっきとは打って変わって、落ち込んでいるような、緊張しているような表情。
感情の落差が激しいのかしら?

「えと、その・・・さっきは、ごめんなさい。
 月のお姫様だなんて、知らなくて・・・それで、あんな口聞いちゃって・・・・・・ほんと、ごめんなさい」

ぺこり。
そんな表現が、一番似合うお辞儀だった。
罪悪感は感じる。でもなんか、あどけなさにクスリと来るものが・・・。

「いいのよ、貴方の言ってること、正しかったし。
 ・・・私ももう、うだうだ言わない事にしたわ」
「・・・・・・ぇえ?」

素っ頓狂な声を上げないの。
私が、そんな鬱だとでも? どれだけ暗いイメージなのよ。
もともと、悩みは引っ張らないタイプだし。

「・・・・・・ぇえ? じゃなくて。私、そんなに鬱なイメージあった?
 そんな風に振舞ってないつもりだったんだけど」
「い、いや、だって・・・それは、あんなことで怒られたら・・・・・・」

まあ、そりゃそうよね。

『どう生きればいいの?』

なんて、聞いちゃったし。
どう生きればいいか・・・生きてるようで生きてない、死んでるようで死んでない。
そんな私に、『生き方』なんてあるのかしら・・・・・・?
っと、珍しく哲学的なこと考えちゃったわ。私らしくもない。

「その・・・・・・さっき言ってた事ですけど・・・・・・どう生きればいいか、って」
「え、えぇ。それが・・・?」

ってこの娘、私の言ったこと本気にしてたのかしら。
まっすぐって言うか、そうでないというか。
ある意味では、変則的な娘よね。

「まだ見つけなくていいと思いますよ。私だって、月にいた頃はどう生きればいいかわからなかったし。
 師匠に出会うまで、何が生きがいだったのやら・・・私にも、わかりません」
「ふぅん・・・・・・そう言えば、貴女の名前聞いてなかったわね」
「あ。は、はい。鈴仙・優曇華院・イナバ・・・と申します。
 月の名前では・・・レイセン、ですが」

長いわ・・・・・・よし、じゃあこれから・・・・・・イナバと呼ぶことにしようかしら。
うん、いいわそれ。イナバ。呼ばれて反応できる名前っぽいわ。

「じゃあ、イナバって呼ぶわね」
「ふえぇ?! 何でですか?!」

感情の上げ下げが激しいわね。
さっきは『楽』、今度は『哀』ってところかしら。
この娘のよさはそういうところにあったりして。

「折角レイセンって名乗ったのに・・・・・・」
「いいじゃない、イナバ。永琳にはウドンゲって呼ばれて・・・・・・」
「姫様にはイナバって呼ばれて?」

・・・・・・救いようがないわ。
そういう役どころ・・・・・・俗にいう『受け』っていう奴ね。
この娘には、ぴったり来るんじゃないかしら。
受けイナバ。うわぁ、語呂までいいわ。
・・・・・・うふふふふふ・・・・・・おっと、思考が走ってしまうところだったわ。

「そ、その・・・ほら! あなたのその耳と尻尾がそれを物語ってるのよ。
 ね? だから、特徴を押さえているだけ私はマシよ?」
「うぅぅぅ・・・・・・」

しゃがみこんじゃったわ、イナバ。
もう手のつけようがないじゃないの。
扱いにくいわ、この娘・・・・・・・・・。

と頭を抱えそうになっていた私の目の前で、扉ががちゃりと音を立てた。

「あ、あら。ウドンゲ、いたの・・・・・・」
「助けてえーりん!」

中国茶を盆に乗せて、永琳は現れる。
私はそれに、遠慮も無く抱きついた。
かちゃかちゃと揺れはするものの、零れることはなかった。

「姫様?!」
「イナバが手のつけられないことになっちゃって・・・・・
 何とかして、永琳!」

はぁ、と一つ軽い溜息をつき、またなの? とぼやいた。
そして机に盆を置き、永琳はイナバに近付いていった。

「ウドンゲ、また薬打たれたい?」
「・・・・・・っ!!」
「痛いのは嫌でしょう。いい加減機嫌をなおして、姫様とお茶でもしなさいな」

イナバの頭に手を置いて、優しく撫でる。
嬉しそうに微笑むと、イナバは私に向き直った。
ちょっと興味がわいてきたわ。
この子、一体どうなってるのかしら。永琳に今度、聞いてみようっと。

「じゃあ、座りましょう、姫様」
「え、ええ」

私たちは、とりあえずといった風に椅子へ座る。
イナバがご機嫌だ。行動理念に、若干の疑問を覚えたりしたり。
それを見ると、永琳は一礼してどこかに去って行った。

おもむろに、イナバはポットを手に取ってカップに注ぎ始める。
私はじっと、それを見つめていた。

「・・・・・・そう言えば、その耳ってつけ耳よね・・・?」
「ひゃわっ!」

触ってみると、意外と柔らかい。
反応を示したあたり、この娘の性感帯・・・くすっ。
もうちょっと、弄ってみようかしら・・・・・・

「はぅ、くぅん! ひめさまぁっ、やめてくださいっ!」

声が可愛いのなんのって。
受けイナバは真実・・・いや正義ね。
優しく苛烈に虐めたい気分だわ。
ただふにふにしていた動作を両手両耳に増やしてみる。

「んぁぁ?! 止めてってっ! 言ってるのにぃ・・・!」

くやしいっ! でも感じちゃう!
的なノリを感じた。
そんな声を出さないで・・・・・・っ、昂ぶっちゃうから・・・・・・!

はぷっ、と私はその耳を唇で挟んでみた。
予想以上に柔らかくて、むにむにという擬態語がぴったりくる。

「―――――――っ、姫様?!」
「ひらば、はわいぃほぇ」

(イナバ、可愛い声)

「やぁ! 喋らないでぇ!」

妹紅とするときに、よくやった手法。
こうされたら、感じるみたい。
でも・・・・・・やっぱりイナバは受け専ね。するよりされるって感じ。
舌で優しく、耳を撫でる。

「んぁぁああぁっ?!」

机に突っ伏してぶるぶると震えるイナバ。
軽くイッたかしら? 可愛いわぁ。
もっと虐めてあげる・・・・・・・・・うふふふふふふ・・・・・・

「あ・・・っ?!」

その可愛いお尻の尻尾。
片手でにぎにぎ。ふにふに。
柔らかいわ・・・思ったより、いい感じに。

「んやぁ・・・ぁ、もう、止めて・・・・・・」

涙目で呟いて懇願するイナバ。
・・・あの時殺されなくてよかった!
こんな可愛い子に悪戯できるなんてっ!

「何言ってるの? このまま止めて満足できやしないでしょう」
「はぁ・・・っ、でも・・・」
「ま、ダメって言っても続けるけどね♪」

若干歯を立てて耳を虐める。
片方の手で握るように、つまむように、撫でるように、尻尾を可愛がる。
空いたほうの手でもう片方の耳へ上下運動を加える。
総攻撃よ! イナバは何秒持つかしら?!

「ぁんっ、く、ふぅ・・・ぅん、ぁぁあぁぁ・・・・・・」

ぴくぴくと耳と尻尾が震えだす。
快感の証か、それともまさか――――――――――っ?!

「んっ、ふぁ・・・・・・っ、ダメ・・・・・・ぁぁぁぁぁ・・・」

雫が床に落ちる音。
そのまさか――――――――――おしっこ、しちゃった・・・・・・・・・。
どうするのよ、イナバ・・・・・・来て早々これはないわ・・・・・・。

「だから、ダメって言ったのにぃ・・・・・・私、感じすぎると弱くなるんです・・・・・・」
「もっと早く言いなさいよ、それは・・・・・・取り返しつかないでしょ・・・・・・」
「姫様が止めないからですよぉ・・・・・・どうするんですか、これ・・・・・・」




そのあと私たちはこっそり(あくまでこっそり!)それをふき取って、しっかり洗って、隠した。
・・・・・・はずなのに、永琳はそれを華麗に察知してさりげなく諭した。

「姫様、ウドンゲ。お戯れも程ほどにしてくださいね。
 後片付けが大変なんですから」
「は、はい・・・・・・」
「わかったわ・・・・・・」

ちょっと怖くなった私たちは、素直に頷いた。
以来、そういうことはお風呂場くらいでしか出来なくなった。
私のほうから行くんだけどね。イナバってば行くたびに驚くの。
可愛いかった・・・・・・・・・!





それは、八月の十五夜の出来事だった。

















〈side:Mokou〉

輝夜が消えたらしい『八月の十五夜』から、三年と少し。
秋に近付き、紅葉が映える。
まるで、私を隠してくれるようで、気が安らいでいた。

帝は死んだ。
私が殺した。
次の帝ができた。まだ、十六だそうだ。
私も似たような歳だが、帝には若すぎる。
それなのに、私の存在を、何処からか嗅ぎ取っていた。
私が森に行けば焼かれ、里が開かれる。
私が里に行けば焼き、畑を作る。
帝の行動はただ破壊的ではなかった。
私を追いながらも、何か他の事をしている。
民のためにどうのこうの、という話なのだろう。だからこそ、私を追い詰めることは出来ないが。






私は今、私を殺すために遣わされた軍隊と対峙していた。
平気な顔をして人を殺し、笑って肉を裂き、恍惚の表情で血を啜るような軍隊らしい。
全員、瞳の裏に狂気を潜ませている。刀には恐らく、万の血が滴っていてもおかしくは無いだろう。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

誰も、何も言うことなく、ただ戦は始まった。
向こうは、ただの虐殺だと思っているだろう。
私の肝を喰らえる、そんな狂った事を考えているのだろう。
人呼んで『蓬莱の人の形』、人ならざる心を持った者に、この肝をくれてやる気などない。

「『徐福時空』」

紅蓮の翼を広げ、
深紅の瞳を煌かせ、
真紅の衣をはためかせ、
頭上に、炎をたたえた。

「貴様らには、私の力の片鱗すらも、勿体無い―――――――!!」

かざした手を振りおろし、併せて炎は落ち、爆ぜた。
渦巻き、昇り、広がり、砕けた。

断末魔など聞こえない。
あげさせてなんか、やるもんか。

もう何も残らない。
一撃で全て、終わらせてやった。
―――――――――はず、だった。

「・・・・・・・・・まだ、生き残っている・・・・・・・・・」

はいつくばって、まだ、生きている奴がいる。
体中血まみれで、それでもまだ生きている。

「・・・・・・ぅぐ、ぅ」

私はその男のもとへと近付いた。
殺されることはない。抵抗する気もなさそうだ。

「・・・・・・たすけて、くれ・・・・・・」

私に手を伸ばし、懇願の声を漏らしている。
――――――――――醜い。

「たす、け―――――――」

私はその男に向かって、手を握りこんだ。
紅蓮の炎をまとって、男の頭は汚らしく砕けた。
汚い、花火だ。

私は、そこから立ち去った。
何の感傷もなく、何時も繰り返してきたこと。
無情、非情・・・いろいろ言われた。

なぜ、私はこんな事をしているのだろう。
もう、私自身もわかりはしない。
現れる兵士を焼き殺すことに、何の躊躇もなくなっていた。
そうしなければ、何度も何度も、あの苦痛を味わわされる事になるのだから。




「・・・・・・・・・藤原、妹紅だな?」
「何者だ」

背後から声がする。
明らかに人とは違う、異質な気配。
びりびりと感じる、人外の気迫。
私は、振り返らずに呟いた。

「・・・・・・御所を動けぬ蓬莱山輝夜殿に代わり、貴様の凶行を止めに参った刺客也」

輝夜――――――――――輝夜・・・・・・・・・輝夜ッ!!
私を置いて、月へと帰った、あいつ・・・・・・!
それが今度は、私を殺そうと。
私のしている事―――――――つまりは、あのゴミ共を殺すことをやめさせるという。
私を殺しても死なないとわかっているだろう。だったら・・・・・・・・・

「っ――――――――――――――!!」

振り向きざま、焔弾を放つ。
半ば白くも見えるそれは、私の力の片鱗のようなもの。
速さも、威力も、私の中では屑同然だった。

「その程度か?」

バゴンッ! と、砕ける音が。
そいつは、私の焔弾を、ただの握り拳で――――――――破壊していた。

「我、人に在らず。我、人の道外れたる・・・妖なり」

不思議な音が鳴り、その手元に剣が現れる。

・・・・・・・・・妖怪、だと?
確かに、いくらか妖怪や妖精は見てきた。
それは、人より少し強い程度のものだった。
しかし、こいつ・・・・・・格が違う。
生き物としての範疇も、超えている。
こいつは・・・・・・・・・・・・私の領域の妖怪だ。

「人の道を外れし者同士・・・・・・総て奮い、我に狩られよ」
「・・・・・・お前・・・・・・そういうことなら、相手になってやろう」

不思議と、輝夜の事も忘れられた。
構え、気当たり、殺気。
その全てに、隙がない。
武者震いがする。血が滾る。
やっと、対等に戦える――――――――!!

「いざ、参らん!」
「はぁぁああぁあっ!」












勝負は意外と、あっさりついた。
命がけで突っ込んで行って、炎を当ててやったら、一撃だった。
弱い、わけではない。ただ、相手が悪かったんだ。私でなければ、大抵は倒せていただろう。
しかし、私は不死・・・戦おうとするだけ、無駄だったんだ。







妖怪とはいえ、私は殺しをした。
善も悪も超越した、一人の『剣士』を、私は、殺めたのだ。
それは、今までの狂った兵士どもとは違う、本当の意味での『刺客』だった。
罪の意識を着させ、私に戦意を喪失させる―――――――――輝夜の策略、そう考えていた。
輝夜の奴が、私を殺そうと――――動機は知らないけど――――している。
戦意喪失は、その要素の一つなのだろう。狡猾だ。

私が疲弊し、追い詰められていく様を思って、ほくそ笑む輝夜。

私が逃げて、壊れていく様を考えて、嘲笑う輝夜。

そう考えていると、いつの間にか、愛していた輝夜を―――――――憎むように、なっていった。








〈side:Kaguya〉

報せが入ったのは、私が身を隠して三年の事。
とある不死人が、方々を回って破壊行動をしている。
いや、正確には――――――――その不死人の行く先々で、森も、村も、黒く染まっていく・・・そんな情報が入った。
私の目の前で、帝は蓬莱を捨てるよう命じた。意外と一途なのよね、あの人。
でもまあ、その不死人に殺されたらしいけど。
新しい帝は、その不死人に刺客を遣わして――――――――何度も敗北を喫している。

直感――――――――いや、もっと根源、本能的なものから、私は察した。
彼女が、蓬莱を飲んだのだと。
彼女は、不死になったのだと。

まず、帝は蓬莱を捨てに行く一行に彼女が混ざっている事を、知らなかった。
そして行った先で―――――――蓬莱を奪い、口にした。
生き残ったものが報せに入り、帝が向かうと・・・・・・彼女が目覚めたのだろう。
そして、焼き殺された。



私はすぐに、妹紅を止めに発とうとした。



しかし、それは許されない。



「とめないで、永琳!」
「いけません、姫様!」
「妹紅にあんなことさせてられないわ!」

私だって、わかっていた。

「っ・・・重々承知のつもりです!」
「ならなぜ!」

私は、月の使者から身を潜めなくてはならないと。

「それは貴女が、一番わかっているはずです、姫様・・・・・・!」
「――――――――――――それでもッ!」

それでも。
私は、彼女に人殺しなんて・・・・・・何かを壊すなんて、させたくないの。
止めないで、永琳。私は行かなくちゃいけないの。

「姫様が行かなくとも、私がすでに刺客を―――――」
「刺客なんかで彼女が倒れるとでも?!」
「っ――――――それが、狙いです」

永琳の話によると・・・・・・
帝の使わす部隊は、人とも思えぬ心の持ち主ばかりらしい。
そんな中に、心のある強い妖怪を送り込む。とうぜん、その妖怪は負ける。
そうする事で、彼女の心で麻痺していた『人殺し』という罪の意識を呼び起こす。
そして――――――彼女は、罪の意識に苛まれ、身を隠して暮らし、破壊活動も止める。
多少手荒だが、一番確実に彼女を止められる。

「被害も最小限で収まります――――――ですから、姫様。どうか、その身をお大事になさってください」
「っ――――――――」

何も言えなかった。
多少の賭けがあるものの、私の考えたどの計画より、周到で、完璧だった。
――――――――あきらめるしか、私には残された選択肢はなかった。











何度も何度も、刺客を送った。

それでいて、まだ、彼女の破壊は、終わらない。

行く先々、漆黒の疵痕が絶えない惨状は、全て戦と片付けられている。

もう、五百年はたっただろうか。

帝という概念は消滅し、いつの間にか将軍が国を制する世界となっていた。

土地を守っていた人間どもが、国を造らんと躍起になっている。

それに乗じて、彼女は破壊を続けているのか。




















〈side:Mokou〉

憎い輝夜の嘲りを、臥薪嘗胆の思いで留め、いつしか時はたっていた。

「・・・・・・・・・」

幻想郷、迷いの竹林。
今の私の、住処である。

「・・・・・・・・・」

・・・・・・しかし。
なぜ。

「妹紅。痛かったら言うんだぞ」
「・・・・・・・・・ん」

半獣に、耳掻きをされているのか。
輝夜が憎くてこの千年、人と関わることなどなかったというのに。
満月の夜、なぜにこうも優しくされねばならんのだ。
・・・あ、以外と上手かも・・・

「・・・・・・・・・っ」
「け、慧音?」

ふっ、彼女はと軽くためていた息をつく。
心なしか、枕している膝は熱い。
いや・・・・・・熱いのは、膝もそうだがそれよりもっと根元――――――――秘裂があるべき場所。
そこに、意味不明の熱さを感じる。

「いや、なんでもない」
「・・・・・・・・・そう」

なんでもなくないと思う。
何? 半獣は満月になったらアレが生えるとでも言うわけ?
いやぁ、まさかね。いくら半獣でもそんなことあるわけないよね。

「・・・・・・っ・・・・・・」
「手、震えてるよ」
「っあ、す、すまない」
「別に」

やっぱり、ぴくぴくと手元が震えている。
かかる吐息も、心なしか熱い。
やっぱり、やめたほうがいいんじゃ・・・私の耳とか危ないし。

「慧音、やっぱいいよ」
「いいや。やらせてくれ」
「・・・無理。これ以上震える手で耳掻きとかされたら、怖くてたまんないし」
「―――――――――そう、だな・・・・・・」

私は起き上がり、慧音の顔を覗きこんだ。
・・・・・・って・・・・・・慧音・・・・・・。

「っ、なに、か・・・?」
「いや、別に・・・・・・。でも、慧音苦しそうなんだけど」
「・・・・・・そんなわけないだろ・・・はぁっ・・・・・・」

どう見ても、苦しそうなんだけど・・・・・・・・・。
頬は紅いし、眼はとろんとしてるし。
――――――――なんか、やっぱり、不自然に隆起した部分が・・・・・・。
き、気のせいよね。

「・・・・・・っ、はっ・・・はぁ・・・・・・も、こう・・・」

いやいやいやいや!!
待って! ふらふらしながら近寄らないでッ!
これ、明らかにフラグでしょ?!

「っ、慧音・・・?」

抱きつく慧音。
あわわ・・・・・・な、何が・・・・・・
首筋に伝わる、熱い吐息の感触。
まるで、火の塊のような、彼女の体温。
いくら炎を扱う力があっても、私の体温は普通の人間並みだし・・・・・・。

「はじめに聞いておくが・・・・・・妹紅、処女だったり・・・・・・」
「する。するからやめて。薬飲む前に経験してないから、処女膜復活する」
「ぇ・・・・・・そ、そうなのか?」
「だから私はやめてねー?」

抱きしめられたときの、あの怒張の感触・・・・・・っ、どう考えても・・・・・・。
な、何とかして回避しないと。痛いのはごめん!
しかも一回許したら何度でも迫ってくるはず・・・・・・無理、耐えらんない・・・・・・。

「・・・・・ぅ・・・・・・っじゃ、じゃあ・・・その、後ろの・・・っ・・・・・・ごにょごにょ・・・・・・とか」
「う、後ろッ?!」
「だよな! そんな、後ろだなんてな! 普通はそんな発想ないよな!」

・・・・・・あ、あはは。
実はちゃっかり、輝夜が開発済みだったりして・・・・・・。
でもまあ、千年も前だし、今もどうだか・・・・・・と、言いつつ、若干弄ってたりする。
しかし、知られていいものかどうか・・・・・・。

「・・・は、はは・・・」

目を逸らしつつ、私は頬をぽりぽりとかいた。
ま、ばれるわけないよね。普段は貞操観念ガッチガチだもんね。
って、どうしてこっちに寄ってくるんだろう・・・・・・?!

「・・・・・・んっ・・・・・・」

訝しげな顔をした後、私の頬に軽く舌を当てる。
まさかこのネタは―――――――

「この味は、ウソをついている味だぞ・・・・・・!」
「言うと思った。ていうか言いたかっただけでしょ」

真っ赤な顔の慧音を、私は半分笑ってつぶやいた。
いや、まあ、言うと思ったけど、まさか慧音が本当に言うとは・・・・・・!

「いや、ぶっちゃけた話、妹紅の顔を舐めたかっただけだ」
「変態慧音め・・・」
「・・・・・・っ」

むっとして彼女は私を押し倒す。

「わひゃぁっ?!」

彼女は私を押し倒す。
そして、私のッ・・・・・・ど、ドロワーズの中に・・・・・・手を、入れた。
秘所をなぞる、慧音の指。それにすら興奮する自分に、自己嫌悪。
徐々に下に向かっていく動作は、まるで始めてを感じさせなくて。
でもその上気した頬や、硬く結ばれた口はまるで初めての表情だ。

そして慧音は、私の秘部を擦り上げた。

「んっ・・・・・・ふぅ、ん・・・」
「こんなことされて気持ちよくなる妹紅も変態だろう?」

慧音ってこんな奴だったっけ。
もっとこう、理性的というか話がわかるというか、人格者だったはずだ。
こんな強姦まがいのことをする半獣じゃなかったと思うんだけど・・・・・・・

ドロワーズから手を引き抜き、慧音は私のボタンを外しにかかった。
驚くほどあっさり私の服は開き、慧音に裸身をまじまじと見られている。

「・・・・・・っ、慧音、止めてッ・・・・・・」

空いていた手で私の両手を容易に押さえつけ、私の身体に舌を這わせる。
頭が真っ白になりそうな感覚を無理やり抑止し、慧音から逃れようと身体をよじった。

「無駄だよ、妹紅・・・・・・」
「ぁふ、んぁう、くぅっ・・・けい、ね・・・!」

鎖骨、胸(主にその突起)、腹部、下腹部・・・・・・サスペンダーを外されて、ズボンとドロワーズを引き下ろされた。
最終的に、たどり着いたのは私の秘部。そこを重点的に、吸いつくように責められる。
理性が失せそうになるのをなんとか踏ん張っているが、手の拘束が外れていることに気付かない時点で、私にまともな思考はなかったと思う。

「んぁっ・・・やだっ・・・・・・慧音・・・っ!」
「ん・・・・・・ここをこんなに溢れさせて、言える台詞か・・・・・・んちゅ」
「ぁぁぁぁあああっ?!」

―――――――本当に、頭が真っ白に――――――

「ぁあっ、んくぅ、はぁっ」
「可愛い声だ・・・・・・んん・・・」

慧音の舌が膣に入ってきた―――――――――っ、や―――――――――――

「ぁあぁああぁああああぁっ!!」
「んっ・・・・・・」

荒い息をついて、私は絶頂した。
がくがくと足は震え、強張った身体は緩くほぐれていく。
理性とか自制心とか、もう殆ど残ってないかも。

「はぁ・・・はぁ・・・・・・っ、慧音・・・」
「妹紅・・・・・・・・・」

張り詰めた屹立を取り出し、私の菊座にあてがう。
身体を引く意思は、もうない。
そのままゆっくり、私の中に入ってくる。

「ぁぁあっ、くぅ・・・・・・!」
「はっ・・・・・く、・・・・・」

輝夜の後ろの訓練と私の今までの自慰で、いとも容易に肉棒を受け入れた。
痛感する――――――慧音の、凄く大きい。
基準は知らないけど、こんなに苦しいんだから・・・絶対、大きいんだと思う。
怒張が奥まで突き込まれると、彼女は一息ついた。
私はその屹立の熱さにただ身悶えるだけだった。いや尋常じゃないのいろんな意味で。

「っ・・・ふぅ・・・なんとか耐え切ったぞ、妹紅?」
「はぁ・・・んっ、何の話よ」
「出そうだったから・・・」
「あ、ありがと・・・・・・」

痛みなんてありはしない。
普段から弄ってたらまあ、そりゃそうなるわよね。
むしろ――――――その、ぇと、気持ちいい、かも・・・・・・・・・。

「んん・・・・・・っ」
「妹紅・・・もう動いてもいいか・・・・・・?」
「ぇ、あ、あぁ・・・・・・うん」

その言葉を聞くと、慧音は深く息を吸って、ゆっくり抽送を始めた。
ぐち、にち、とどこかグロテスクさを伴う音が、部屋に響く。
入り口にカリが引っかかり、彼女はびくりと身体を震わせる。
それに呼応するように彼女の一物は跳ねて、私に刺激を伝えた。
快感でまた締まる菊穴は慧音のそれを更なる高みへと運び、彼女は微かに呻きを上げる。

「妹紅ッ・・・お前・・・・・・」
「はぁっ、はぁっ・・・・・・慧音・・・ぇ、どうかしたの・・・・・・」
「初めてじゃ、ないだろっ・・・・・・」
「ぁは、初めてじゃ、ないっ・・・けど?」
「だ、だったらっ・・・・・・もうちょっと緩くしてくれないか・・・・・・?」

会話に余裕がない。
よほど、締め付けが強くなっているのだろう。
しかし――――――――――意識して緩くは、出来ないと思う。
うん、無理だよ慧音。いくらなんでも、私はそこまで器用じゃないから。

「あー・・・・・・無理っぽい」
「・・・・・・じゃあもういいさ!」
「んぁぁっ?!」

再び、彼女は抽送運動を開始する。
こんどは小さめのストロークで、速度を上げて動き出す。
細かい呼吸の息遣いが聞こえる。慧音の顔を見上げると、本当に飢えた獣のようだった。
だらしなく口から涎を垂らし、かくかくと腰を振っている。
それに過敏に反応してしまう、私も私なんだけど。

「はっ、ぁぐ、くぅっ! んっ、くぅっ、妹紅、妹紅・・・・・・!」
「慧音・・・はげっ、し・・・くぅん!」

もう、私の意識は蕩けて、ただ快感を貪る本能のままに身体を動かしていた。
腰をくねらせ、慧音の愛撫をねだり、自ら彼女の豊満な胸部に吸いつくほどに。
湿ったにおいが部屋に充満し、私と彼女の嬌声がより強く頭に響く。

「んぁっ、ふぁ、あ、んっ! 妹紅、っ私・・・!」
「うんっ・・・わ、たしもっ・・・だからぁ・・・・・・」

後ろはしっかり感じるようになってるから、むしろ前より敏感かも。
輝夜の開発の賜物・・・・・・いやなんでもない。

互いに近い絶頂を、早くしろと急かしあい、高めあう。
大きすぎる快感に、私はおかしくなりそうだ。
後ろで、しかも慧音と、アレで感じるなんて――――――――

「んっ、んあぁあああぁあぁぁぁっ!」
「――――――――――っ!」

びゅくびゅく、と私の腸内に白濁の精が注ぎ込まれる。
熱い、なんて言葉じゃ体現できない熱が私の腹部で蹂躙する。
肉棒が挿さっていたときより、ずっと熱い。

「・・・・・・・・・・・・はぁっ・・・・・・」

深く息をつき、彼女は私に向き直った。
いい加減抜いて・・・・・・とりあえずぬるぬるしてきたから・・・・・・
さっきの欲情は何処へやら、私は溢れ出した白濁に少々不快感を催した。

「妹紅・・・・・・」
「あの、慧音さん、とにかく抜いてください」
「ぁ・・・・・・す、すまない」

こぽりと勃起の収まった一物を引き抜き、彼女はもういちど息をついた。

「ふぅ・・・・・・」

白濁を吐き出す菊穴。
排泄感に似た、不思議な感触が私を襲う。
気持ち悪いわけでもないけど、精液が出てきてる、って思うと複雑。

「うぅん・・・・・・なんか、変な感じ」
「後ろは初めてじゃないんだろ?」
「い、いや、ソレでするのは初めてだけど?」

私が慧音の肉棒を指差し、呟いた。
真っ赤になった慧音は、少し呻って俯いてしまった。

「・・・・・・・・・」

互いに何も言えなくなった。

「・・・・・・・・・妹紅」
「・・・・・・ふぇっ?!」
「とっ・・・・・・とりあえず、身だしなみを整えよう」
「ぁ・・・・・・う、うん、そうね」

白濁を拭き取り、服を着直し、なかったことにしようと指切り。
なぜか、能力が使えないらしい。

うぅぅ・・・・・・こんなことになったのも、後ろを開発した輝夜のせいだぁ・・・許さん輝夜・・・・・・。
また一つ、輝夜を憎む理由が増えた。あいつ、絶対許さない・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・輝夜と『ずっと一緒にいる』と約束したことを思い出した。
裏切られたことも、殺された事も。不死人だから・・・蓬莱を飲んだからなんだろうか。
だから輝夜は・・・・・・私を、殺すんだろうか。


それとも。
私を、ただ騙して貶めて、嘲笑うためだけに・・・あんな約束をしたんだろうか。
そう考えると、残酷な笑みを浮かべる、彼女の表情が浮かんだ。
記憶にない顔をしている。それでも、その顔は輝夜だった。
思い浮かべるたびに、憎いと思い返す・・・・・・あれから、千年程度は経っているはずだ。
その間ずっと、私は輝夜を憎み続けてきた。

月へ逃げたわけではないだろう。
刺客は皆、輝夜の所在を『御所』『ある場所』と抽象的に示す。
『動けない』という発言から考えて、彼女が月からこちらに来られないというより、月へすら行けないという考えが先行した。何らかの理由で、彼女は私を殺しに来られないようだ。

いつか見つけ出して、殺してやる。
私を嘲笑う、あの憎い輝夜を。

私は拳を握りこみ、

「・・・・・・輝夜・・・・・・」

そう、呟いた。
ありったけの憎悪と憤怒を込めて。
























〈side:Kaguya〉

「幻想郷?」

呟く私に、永琳はこくりと頷いた。

「はい。『実体と幻の境界』『幻想と常識の境界』という二つの境目の向こう側に位置する、閉じた土地です。
 我々は人間とは既に呼べないので、入ることは容易と思いますが」

地上にいる月の追っ手は、これで振り切ることができるという。

「しかし・・・これでは、月からの追っ手を完全に封じることは出来ません・・・・・・」
「ダメじゃない、それじゃあ」
「い、いえ・・・・・・例の術をそこで行使すれば、あるいは撒く事が可能かもしれません」
「『月隠しの天蓋』・・・・・・かしら」
「はい。こちらの追っ手と月の本部との連絡も絶て、これ以上追っ手の数が増えることもなくなります。
 そうなれば、我々は逃げる必要はなくなり、幻想郷で静かに暮らせます」

うぅむ、やはり永琳の考えることは私とはかけ離れて周到ね。
私は、それに仕方なく・・・はないけど賛同する事にした。
幻想郷、かぁ・・・・・・名前からして、物凄く田舎っぽい・・・もとい自然が多そう。
抱える荷物も少なめに、私と永琳とイナバは幻想郷へ旅立った。










幻想郷、迷いの竹林―――――――――変に妖怪兎が多いとイナバが言っていた。
実質その通りで、私自身物凄く驚いているけど。

「・・・・・・・・・待ちなさい」

私が一人で対峙しているのは、一匹の妖怪兎。
黒いウェーブのかかった髪、上についているのは柔らかそうな白い兎耳。
薄桃色のワンピースに身を包み、目の前で威圧的に妖気を放っている。

「・・・・・・・・・何者? ここら一帯、この『因幡てゐ』様の縄張りと知ってて、踏み込んだんだろう?」
「てゐ? さあ、知らないわね。私はただの『なよ竹のかぐや姫』、竹林に家を建てようと思ってるだけよ」
「なよ竹のかぐや姫? って言えば、おとぎ話・・・」
「だと思うでしょう。私こそ、そのかぐや姫・・・・・・蓬莱山 輝夜よ」
「・・・・・・にわかに信じがたいわ・・・」

そう言うと思ったわ。
構えた手には、玉虫色の輝きを放つ光弾。
わからないなら、力ずくよ・・・・・・!

「っ、何のつもり!」
「その辺のゴミどもを蹴散らしたからと、調子に乗らないことね。
 ・・・・・・・・・私が勝ったら、この辺の土地は頂くわよ」
「ふん・・・・・・いいわよ? お屋敷育ちのお姫様に、私を倒せるはずないけどね。
 『破脚脱兎の因幡てゐ』、全力で相手してあげるわ」

放たれる弾幕。
てゐのいた場所を確かに穿ち、爆ぜた。
当然てゐは、そこにいない。
にやりと笑って、私は一歩引いた。

「てぇい!」

ガァン!
と、地面の抉られる音。
濛々と上がる土煙。黒い影を見た。
私はさらに、もう一度光弾を用意する。

「破脚脱兎・・・・・・くく、そういうこと」
「ふっ、そういうことよ」

上から落ちてきた。
それは即ち、回避力と脚力に優れているということ。
要するに、カウンター戦になるということ。

私はためていた光弾をばら撒く。
回避する隙も与えない、厚さを持っていた。
しかしわかる―――――――――彼女なら、容易にかわす、と。

「甘いわね!」

爆ぜる弾。
てゐはいない。
見上げると、身体を捻り竹に足をかけているてゐが。
回転をかけて蹴ってくる気か・・・・・・無駄だ。
私はそこにも、光弾を放つ。

「ふん」

てゐは鼻で一瞥、手を構えた。
ぱしゅ、と何か収束する音が。
何のつもりか、と一瞬訝るも、次のてゐの攻撃に備えて片足を半歩ずらす。

「脱兎『フラスターエスケープ』!」

ガッ、と私の放った弾幕に何かが当たり、消える。
相殺、という表現が正しいか。
効果を失った弾幕の間を縫って、てゐが蹴りを繰り出してきた。

私は後ろへ跳躍、てゐの蹴りをかわす。
追撃をかけようと跳躍で追うてゐへカウンターをかけようと構えた。
懐から一枚の紙を取り出し、詠唱。
幻想郷の決闘ルールの一つ、スペルカード。

「難題『火鼠の皮衣』ッ!!」

私の出した五つの難題を冠して名付けたスペルカード、その一つ。
偽りの皮衣、火を受ければどうなることか――――――――――思い知らせてあげる!!

「っ?!」

周囲にわく、紅蓮の弾幕。
これだけならまだ、かわすのに労はない。
しかし・・・・・・それは、あくまでそれだけの話だ。
私の難題が、そう簡単に破られはしない。
てゐを追うように、紅蓮のレーザーを放つ。
そして、弾幕をさらに厚くしていく。
一分と経たず、てゐは追い詰められてしまった。

勝った――――――――――そう確信した。

思ったときには、すでにてゐは叫び声と共に地面に突っ伏していた。

「勝った、わね。ここ、好きに使うわよ」
「うぅぅ・・・・・・・・・」

唸ってはいるものの、潔く負けを認めて頷くてゐ。
うんうん、リーダー格はこれくらい物わかりがよくなきゃね。
永琳達に、伝えに行かないと・・・・・・。

かくして私たちの住居は、この迷いの竹林に建てられる事になった。



大きな屋敷が建てられた。
永遠亭、という薬屋・診察病院もやり始めた。
私は相変わらず、屋敷の中に缶詰になった。
永琳が、『月隠しの天蓋』を行うまで心配だという。
仕方ないわよね、と私は諦めてそれに従った。
一応、私も不安だし。

過去に囚われず、過去を忘れず、今を生きる私を見て、配下の兎達は、
『永遠と須臾の恋人』
と二つ名を名付けた。
止まった今を象徴する『永遠』と、動き続ける今という意味を持つ『須臾』。
それを大事にする私は、尊敬の対象になっていた。同時に、畏怖の対象にも。

妹紅―――――――もう、刺客は送っていない。
そろそろ文明化も進み、村を焼くこともなくなったからだ。
訝りもしない、疑いもしない、ただ目の前に起こった事実に対応した・・・それだけのことだった。
しかし思い返してみると、本当に心の底から、ほっとしていた。
妹紅がそんなことをしなくなった。なぜか、とても落ち着いた。
やっと、今を生きられる―――――――――――そんな気にさえ、なった。

もう会えないだろうから、この気持ちは、流れる時に置いていこう。

妹紅、愛してる。















永夜異変、その十二年前のことだった。
どうも。紅魔の雑用です。あいも変わらずネチョ薄です。

今回、間が空いてしまったことをまずお詫びします。
呼んでくださっている皆様、すみませんでした。
eraでうふふとか妖々夢EXで藍しゃま弄りとかピアノでネイティブとかしてました。ごめんなさい。

後編を編集したり、プロットの大幅書き換えなど行った結果、中篇が出来上がってしまいました。
中篇のテーマは『破られた約束の及ぼすもの』だったと思います。
妹紅は輝夜を憎み始め、輝夜は妹紅を想い続けます。
二人の交錯する感情は、いったいどこへ向かうのか・・・・・・なんていってみたりして。

さて、ほかの作品のことですが・・・・・・
うどみりん!:プロット完成
にとあや!:プロット完成
ゆかれいむ!:構想練成中・・・・・・
淫魔幻想日記:もうすぐッ!

といった感じです。
どうも進みが悪いですねぇ、もこかぐ! は。
マリアリ? マリパチュ? サナカナ? あれぇ・・・何でかけないんだろう?
いつか書きます。マリパチュが大好物なので。

何はともあれ、ここまで読んでくださった貴方に、無上の感謝を、変わらず。
また次回も、皆様のお目にかかれることを願っております。
それでは。
紅の羅宇屋
コメント




1.ソースケ削除
ストーリーはシリアスなのに・・・出てくるキャラは変態さんが多い!
いいですねいいですね。
受けイナバは正義・・・なにをいっとる!そのとおりだ!
ブレザーのままですね、わかります。
って、なにをいっとるんだ私は。

ネチョ薄め、と書いてありましたが、濡れ場も十分に楽しめるよい作品だと思いました。
連載たくさん抱えられると大変でしょうが(完成させられるか不安にもなりますよね)、がんばってください。
2.紅魔の雑用削除
〉>ソースケ氏
いつもいつも自分のような駄文書きにお付き合いいただき、ありがとうございます。
氏の1ファンとして、光栄のいたりです。

下手にネチョとシリアスを混ぜるとこうなります。混ぜるな危険。
うどんげの服装は・・・ご想像に、お任せします・・・・・・なにしろ、平安時代のうどんげなんて想像つかないので。
耳と尻尾が弱いのはうどんげならずてゐも同じだと思うのです。うふふふふ・・・・・・

次回は前面シリアスを予定しております。
ひょっとしたら、ネチョが薄くなるかもしれませんが・・・お付き合いいただければうれしいです。
3.tinkame削除
やばい。
尻尾で感じるウドンゲが正義過ぎてどうにかなってしまいそうだった。
物語に緩急がしっかりついていて、読んでいて楽しかったです。
妹紅と輝夜の葛藤がもうね……後編で砂糖吐かせるフラグにしか見えないw
後編楽しみにしてます。

それにしても……ゆかれいむが正式に構想の中に入っている!

まぁ、いつもゆかれいむゆかれいむ言ってますが、あんまり気にしないで下さいw
浮かんだ時に浮かんだものを書けば良いと思います。
では、風邪に気を付けて頑張って下さい。
4.紅魔の雑用削除
>>ちんかめ氏
ありがとうございます。
作家の方に感想をいただけるのは、とても光栄だと思うのです。
いえ、読み専の方々がそうでないわけではないのですが。

耳と尻尾の受けイナバは正義ですよね!
そのシーンはニヤニヤしながら書きました。
後編はたぶんその要素はないと思いますが・・・・・・。
うどみりん! で書かせていただきますよ、耳と尻尾。受けで。
妹紅と輝夜には後編でたっぷり大好きだの愛してるだの言わせますので、お楽しみに。

長編において最高難易度を誇るであろうゆかれいむ・・・・・・散ると知るがソウルオブヤマト。
120%で挑みます!
テーマもまだ決まってませんが、ベタ甘と儚さと『今を生きる』ことを書こうと考えています。

もう喉風邪などこじらせてしまいました。ちんかめ氏こそ、御体をお大事に。
それでは。
5.東月陽西削除
ようやくですか。
待ちくたびれましたよ(∋_∈)

貴方の書くもこかぐは最高ですから、早く続きを書くんだ!!!
6.紅魔の雑用削除
>>東月陽さん
むしろ敬意をこめて先生と呼びたい気分です。
氏の作品にはずいぶんと参考になるものが(ry

すごい人にべた褒めされてしまいました・・・・・・うれしすぎて何も言葉が出てきません・・・
最高なんて言われたのは初めてです。
ちなみに、後編のテーマは『ふみこえて、もういちど』です。
妹紅がいかにして輝夜への愛を取り戻すか。輝夜がいかにして妹紅を振り向かせなおすか。
と言うところが見所だと思ってください。

それでは。
7.東月陽西削除
先生なんてけったいな(^_^;)

ただ、物語の構成に時間をかけすぎてダメダメなだけですよ(^_^)

まぁ、紅魔の雑用さんみたいな方達が応援してくれるから頑張れるのです!

これからも互いに頑張りましょう!
ゆかれいむ。待ってますWWW