※紅魔の雑用からの注意※
前編は、現代の話ではありません。
おとぎ話『竹取物語』を、東方っぽくして自分の解釈を入れたものです。
ネチョも若干薄いかもしれません。
以上を理解できたら、スクロールしてください。
※紅魔の雑用からの注意 終※
『約束』。
それは、長い時の中に埋もれてしまうもの。
それは、届かない想いになくしてしまうもの。
結ばれた約束は、いずれ風化する。
永遠に近い、時の中で。 たった少しの、すれ違いだけで―――――――――――
今は昔 竹取の翁といふもの ありけり。
野山に雑じりて竹を取りつつ よろづのことに使ひけり。
名をば 讃岐の造となむ云ひける。
その竹の中に もと光る竹なむ一筋ありける。
あやしがりて 寄りて見るに 筒の中光りたり。
それを見れば 三寸ばかりなる人 いと美しうてゐたり。
翁言うやう 「我 朝毎夕毎に見る 竹の中おはすにて知りぬ 子に給うべき人なり」
手に入れて家に持て来ぬ。
かの者 妻の嫗にあづけて養はす。
美しきこと限なし。 いと幼ければ籠に入れて養ふ。
〈side:Kaguya〉
「っあぁあっ! 妹紅っ、妹紅・・・・・・!!」
「んっ、ふぁ! あっ、ぁはっ、くぅ・・・・・・かぐ、や・・・・・・!」
あの爺に拾われて一年と少し。
私は、ある『女の子』と恋に落ちた。
その名前は『藤原 妹紅』。
鬱陶しい車持の皇子の、娘だそうだ。
私の家の周りに居ついて、毎日のように尋ねてくる。
そんな奴の娘だなんて、信じたくない。
「はぁっ、あっ、くふ・・・ぅ、んっ! もうっ、だめっ・・・くるぅ・・・・・・!」
「んぁぁ・・・やぁっ、んくぅ・・・ふぁあ・・・っ!」
初めて出会ったのは、車持の皇子・・・本名を藤原 不比等というらしい・・・が、彼女を連れてきたときだ。
第一印象は、少しひねくれた子。そんな目つきをしていた。
帳越しでしか見られないのが、なぜか惜しく感じた。
彼女の、真っ白い髪。
赤い髪留め。
白と赤基調の十二単。
美しい。
もっと、近くで見たい・・・・・・そう思っていて、気がつけば私は夜中に家を抜けて、彼女を連れ出していた。
「んぁあぁぁああぁぁああっ!!」
「ふぁぁあぁぁああっ!」
毎晩毎晩、そんなことがあって、私たちはいつの間にか好きあうようになっていた。
政略結婚や色事の話が飛び交う中で、私たちの愛だけ、本物のように感じていた。
「はぁっ・・・・・・はぁっ・・・・・・妹紅、大好き・・・」
「うん・・・っ、私も・・・」
このことが爺に、婆に、不比等にばれたら・・・・・・間違いなく、私たちは殺される。
でも、それでも一緒にいたい。
それだけ、私たちの絆は深かったのだ。
「・・・そろそろ、行かないと・・・・・・」
「ええ・・・明日は?」
「どうかな。私、あの不比等によく引っ張りまわされるし」
「そうね。貴女、いつも家にあいつと来るし」
「それじゃあ、またね!」
手を振って、彼女は去っていく。 寂しくなんかないさ。また、会えるのだから。
「輝夜や・・・わしはもう、齢七十を越しておる・・・どうか、わしらのために、誰かと結婚してはくれまいか・・・・・・」
「・・・翁・・・・・・何故・・・? 私がいれば、結婚などしなくても・・・」
「この世では・・・結婚は安定を意味するのじゃ。後の世に子も残さねばならぬ。 お前だけが、わしらの子供なのじゃ・・・・・・」
最近、よくある。この爺、耄碌したか知らないけど、よく結婚しろって煩いの。
いい加減にして欲しいわ。
私には妹紅もいるし、何より―――――――――いいえ、まだ先の話ね。
・・・そうだわ。なんかでっち上げて、宝でも取らせてこようかしら。
出来なかったら結婚しない、とか言って。絶対出来ないわよ、うふふっ。
「・・・わかりました、翁。私は、あの五人の中である条件を完遂した者を・・・私の夫とします」
「おお・・・・・・輝夜、わかってくれたか・・・・・・」
へっ、爺め。
耄碌したか。こっちの考えがなんも読めてないわよ。
・・・・・・さあて、どいつに何を取らせようかしら・・・・・・。
まず、阿部とかいったわね・・・あいつは、火鼠の皮衣ってところかしら。火を凌げるとかなんとか。
んで、石作の皇子には仏の御石の鉢。仏とかどうでもいいから要らないけどね。
あぁ・・・えと、あいつ。大伴。龍の頸の玉なんてどうかしら。龍なんてあいつに捕れるとも思えないけど。
そいでもって・・・・・・にっくき車持の野郎。あいつには『蓬莱の玉の枝』なんてお似合いよ。『あっち』の木の枝なんて絶対に手に入らないし、ざまあみろ。
あとは・・・・・・石上。まあ悪い奴じゃないだろうけど、ちょっと金に奢り過ぎよね。そんな奴には『燕の子安貝』とかまあチャチなもんでいいかしら。
っと、あとは爺に、明日の晩あの馬鹿どもを待たせとけって言っとかないとね。
「・・・・・・なん、だと・・・・・・」
「姫の、申し付けた物を持ってくるだけで」
「夫にしてくれるというのか・・・・・・!」
「これは願ってもない好機!」
「麻呂の財力、見せしめるときが来よったわ!」
うふふ・・・来たわね、馬鹿な金持ちども。
おとなしく諦めればこんな酷い目に合わずに済んだのに・・・・・・可愛そうな人たち。
うふふふふ・・・・・・思い知らせてあげる!
「「「「「さあ、姫! お望みの品を!」」」」」
「それでは、車持皇子。貴方には、遥か遠く、東の海に在るという、蓬莱の島・・・その木の枝を取ってきて欲しいのです」
「お任せを、姫!」
蓬莱の山? ええ、もちろん法螺よ。
そんなものがあるわけない。海に行って溺れて死ねばいいのに。
偽物とか創ってくるんでしょうけどね、どうせ。
「そして、石作皇子。貴方には、はるか天竺の地に在るという、神の御石の鉢を取ってきて貰います」
「は、はいっ!」
一途なのはいいわ。でも鬱陶しいの。私にはいるんだから・・・・・・約束した人が。
「阿倍御主人。貴方には、唐の国より火鼠の衣をとってきて頂きたいのです」
「お任せください」
持ってきたら、着せて燃やしてやるわ。
こいつ、仏頂面がかっこいいと思ってるし。怖いだけなのよ。
「大伴御行。貴方は、龍の頸にあると言う、五色に輝く玉を獲ってきてください」
「・・・・・・はっ、はい・・・」
こんなことで物怖じする奴が、私の家の周りをうろつけたの?
かわいそうだけど・・・まあ、貴方を夫にすると大変そうだし。
「石上麻呂・・・貴方は、燕の持つ子安貝を持ってきていただきます」
「ほほ、任せてください、姫!」
っうぜぇ・・・・・・死ねばいいのに・・・・・・!
どうせ金に物をいわせて買ってくるんでしょ? 安直に燕の巣に登って死なないかなぁ。
「・・・・・・では、早速私の言ったものを、とってきてください」
「「「「「はいっ!!」」」」」
言うや否や、従者とともに五人は去って行った。
さあて、何日で諦めるかな。
「・・・・・・姫、そんなものは本当に・・・存在、するのかえ?」
「・・・うふふ、さあどうかしら? 私は、話に聞いた物を欲しいと思っただけですわ」
「しかしそんなもの、見たことも聞いたことも・・・・・・」
言い寄る婆を放置して、私は自分の部屋へ帰った。
妹紅、来るかしら・・・・・・。
「・・・・・・はぁ・・・やっぱり、来ないのかしら・・・・・・」
部屋で私が待っていても、来ない。
時は丑三つ。普段なら、もう来ている頃なのに・・・・・・。
私だってそりゃあ、多少は来ないかなって思ってたけどね。あの不比等の野郎が消えたし。
でも、希望を持ちたかったわけなのよ。父親の制止を振り切ってまで、私のところに来るかな~、なんて。
まあ、そんなわけはないんだけど。規制の厳しいこの地上。貴族の娘がそんな革命的なこと出来るわけがないし。
あぁ・・・・・・何年会えないのかしら・・・・・・ま、一ヶ月かそこらってこともあるだろうけどね。
「妹紅・・・・・・」
〈side:Mokou〉
単刀直入に言う。
家のお父上は馬鹿だ。
多分、日本一の大法螺吹きだ。
「大丈夫だ、妹紅。もうすぐ、日本一のお母さんができるからね・・・・・・」
あんな小さな子を、お母様に迎えるのは気が引ける。
それに、輝夜は恋人だ。こんな糞親父に、くれてやる気はさらさらない。
あの艶のある黒髪。大きな黒い目。時代に流されない、ほっそりとした顔立ち。
あんな可愛い輝夜を、調子乗りすぎの金持ち親父なんかに取られてたまるか。
「おい、まだ完成しないのか」
「はい、申し訳ございません。職人は、完成するまで音信不通になるもので」
「まったく・・・職人気質と言うのは、理解しづらいものだ」
法螺と言うのはこれだ。
『蓬莱の玉の枝』を職人に作らせて、輝夜に持って行こうと言うのだ。
話に聞くと、蓬莱の山は金の土、銀の空、翡翠の河、器も金銀に輝くのだそうだ。
取ってつけたような、人間の欲の塊の権化。愚かしいことこの上ない。
輝夜は偽者を作らせることを、分かっているのだろう。だから、人に加工できるような素材を言いつけたのだ。
金の幹、銀の枝、宝石の実などという、安直過ぎる宝・・・自然のものであるわけがないのに。
お父上は、やはり単純なのだと思う。
「・・・・・・二年はかかる、か・・・もう二年近く経っているのだが・・・」
そう。
もう、私はかれこれ二年も輝夜にあっていない。
流石に始めは、私も寂しくてよく一人で泣いていた。
でもまあ、二年も経つと若干慣れてくるものだ。寂しいことに、だけど。
そして、輝夜にもうすぐ会える、と聞いて私は(心の中で)飛んで跳ねて喜んだ。
でもまだ、その宝が完成しないとか何とか。会えるんだったら、早く作って欲しい。
ったく・・・・・・家のお父上は鈍間だ。職人もこだわりすぎだ。どうせばれるんだから、適当に一年そこらで仕上げればいいのに。
「はぁ・・・・・・」
「妹紅、どうした?」
「い、いいえ、お父様。・・・・・・少し、勉強が厳しいだけです」
「そうか。妹紅は、がんばっているものな。引き続き、しっかり勉学に励むのだぞ。
殿方に娶られても、恥ずかしくない教養を身につけ、藤原家の名をさらに高めるように」
「はい」
なんだこいつ。
私が、その辺の貴族と結婚すると思っているのかな?
あんな気持ち悪い、夜伽を遊び程度にしかみていない変態どもと結婚するわけないのに。
みんな嗜虐快楽主義だし、布団にもぐってするのが大好きだし。
べとべとになる事を考えないあたりが、また貴族の贅沢か。鬱陶しい。
「はぁ・・・・・・」
「さ、妹紅。家庭教師が来たぞ」
「はい、お父様」
さっき言ったことが聞こえてないの?
勉強が辛いって言ったのに・・・・・・。
仕方なく、私は勉強部屋へ向かった。
勉強は、実質そんなに辛くない。
小さい頃からいろいろやらされてたし。
剣術、遊戯、天文学、能楽。
ま、面倒ってのはあるけど・・・それでも、具合を悪くするほどではない。
合間合間に、私は、
(あー輝夜と早く合えないかなーお父様のことビシッと振らないかなー)
なんて事を考えていた。
それでも、書き間違えなど一切しない。
割に、器用なほうなのだ。
二、三日して、職人が『完成したぁぁぁぁぁっ!!』と本当に踊り込んできた。
それにうちの糞親父は踊って応え、女中たちにも低俗な踊りを見せつけた。
それこそ、京で重んじる雅な舞いと、阿波国で伝統舞踊とされる阿波踊りをごちゃ混ぜにしたような踊り方だった。
我が家の従者達は、それを悪夢のように扱うようになったらしい。
「お父様! 私も連れて行ってください!」
「駄目だ、妹紅。私は、求婚に行くのだ。娘など連れては行けぬ」
――――――――――――そんな馬鹿な。
「いいか、妹紅。私は、真剣なのだ。
あの輝夜姫を私の妻とすれば、私の名は飛躍的に広まり、力を増すだろう。
藤原氏繁栄のために、わかってくれ、妹紅」
わかるか。政略結婚に輝夜を使うな。夜伽の玩具に、輝夜を使うな。
それより、私がどれほど辛い思いをしたか、この親父にはわかるのか?
二年間待った。必死で耐えた。何度輝夜に会いに行こうかと思ったことか・・・・・・!
私の苦しみを、この親父はわかるって言うの?!
「・・・・・・久々の遠出だ。お前が行きたい気持ちもよくわかる。だが、これは今までとはわけが違うのだ」
私に背を向け、お父様は去って行く。
くそっ・・・・・・親の庇護下の子供は、こんな時に発言力を失う。
許せない。私から輝夜を遠ざけておいて、やっと会えると思っていた矢先にこれだ・・・・・・!
遠出のための、軽い服を着なおし、お父様は出かけて行った。
私は、何も出来なかった―――――――――代わりに、少し考えをめぐらせた。
今回、お父様の旅の面子は、この前より少なめだそうだ。
よって、その道のりを知っている者が数人、残っている。
体力に自信はある。輝夜の家もそう遠くない。
これは―――――――――――行くしかないでしょう?
「・・・妹紅様。どうなされたのです?」
「輝夜・・・姫のところに行きたいの。・・・これは内緒よ? 私、輝夜と友達なの」
「な、なんだってー!」
本当は恋人だけど、それを言うと多分窓のない地下牢へぶち込まれるし。
それは遠慮したいところだから、無難な嘘をついた。
「で、かかっ、輝夜姫様はどんな御風体を・・・・・・」
「綺麗よ。女の私が見て、ちょっと悔しいくらいに」
あれが綺麗じゃないと言ったら、一体誰を綺麗と呼べるのだろう。
私が欲しいと思えるほど、美しいのだから。
口付けを恥ずかしがるあの顔。
私に押し倒されたときの、あの呆けた表情。流麗な曲線美を持つ、真っ白の体躯。
まだ育ちきらない、その桜色の突起。覆い隠すものが何もない、幼く見える秘所。
―――――――――いかんいかん、淫猥な方向へ考えが・・・・・・。
「胸は・・・」
「薄いけど、綺麗」
「目は・・・」
「黒の、深くて大きい目」
「・・・・・・・・・モロ好みです・・・」
「でしょ? 私と来たら、輝夜に会わせてあげてもいいわよ」
「ほんとですか!」
「ええ、嘘じゃない事を証明してあげる」
そうして私は、輝夜の美貌で従者一人を釣って、輝夜の家に向かった。
二人も三人も、着替えとかしないから要らないし。
それに、必要以上連れていくとばれること必至だしね。
かといって、従者を連れて行かなかったら途中で山賊にでも襲われたとき、抵抗手段がないから、一人は要る。
旅装も、割と嫌いじゃない。動きやすいし、腰に帯剣を挿せるし。
「それでは、出発しましょうか、妹紅様」
「ええ。・・・・・・えらく、張り切ってるわね」
「・・・え、ま、まぁ・・・」
輝夜に会えるからだろうか。
ま、そんなところだろうけど・・・結局、男を動かすのは色欲ってことかしら。
全く気色悪い・・・そのおかげで輝夜に会えるから、今だけ感謝ね。
ルートは・・・百尺~半里、お父様の行列からはなれた場所。少し遠回りになるけど、まあいいか。
お父様に見つかったら、それこそ百叩きなんかじゃ済まされないし・・・・・・。
三日間、歩きとおした。
山道、野道、獣道。蜘蛛の巣、洞穴、黒い森。
お父様の行列を、間近で見る事もしばしば。そのたびに、私たちは声を潜めてしゃがんでいた。
そして、最後の一里を抜け切ると――――――――――――――そこにあるのは、豪奢な屋敷。
「はぁっ、はぁっ・・・・・・輝夜・・・!」
「も・・・妹紅様・・・待ってください・・・・・・」
遅い従者だ。いい加減にして欲しい。
道を知っているからと連れて来たけど、やっぱり足手まといになったか。
ま、もうすぐ着くし・・・・・・・・・。
「妹紅?」
そう考えていた刹那、
「妹紅じゃない?」
彼女の声が、響いた。
「――――――――――――輝夜!!」
〈side:Kaguya〉
「―――――――――――――輝夜!!」
まさ、か・・・・・・妹紅が、いる。
私の、目の前に。
長く白い髪を、泥だらけにして。
真っ赤な髪留めを、ぼろぼろにして。
紅と白基調の旅装を、傷だらけにして。
それでもなお、輝きを失くさずに。
「・・・し―――――っ! 妹紅、静かに!」
「あっ・・・ご、ごめん! 輝夜に会えるたのが、嬉しくて・・・・・・!」
この子は・・・こんな恥ずかしいコトをよく平然といえるわね。
こっちが恥ずかしくなるわよ。
顔が熱い。しかも、それをまじまじと覗きこまれると・・・余計恥ずかしいわ・・・。
「か、輝夜・・・すごく真っ赤・・・」
「馬鹿。あんたが見るからでしょ」
じっと見つめられている・・・それを、私はちらちら覗く。
憎らしいほど・・・素直で、
悔しいほど・・・綺麗に見える。
ああ。私は、妹紅のこと好きなんだな・・・・・・なんて、改めて気づいたり。
パッチリした眼、形の良い鼻筋。
華奢なのに力強さを感じさせる、その肩。
膨らみはじめの、少しぷっくりした胸。
桜色の、柔らかい唇――――――――おっと、思考が走りすぎるところだったわ。
ふと、目の前の木陰に、人の気配がした。
「誰!?」
「ひっ」
少し強めに言葉をかけると、その気配は姿となって、私の前に現れた。
細めの体の男。それ以上の感想を抱きようのないやつだった。
「あ、輝夜。この人は、私が道案内を頼んだの。輝夜に会いたい、って言ってたから・・・」
「私に?」
「その・・・私、ここの道がわからなくて・・・家に、知ってる人がいたから・・・ごめん、輝夜!」
私に会いたい?
この、輝夜姫に、従者ごときが?
・・・・・・まあ、妹紅をつれてきたし、今回はよしとしてあげようかしら。
私が手招きをすると、その男はおずおずと出てきた。
雰囲気が、大伴のやつに似てるわね。
まだ少し、好感が持てるけど。
「で? ご感想は?」
「・・・・・・想像していたより、ずっと美しいです・・・・・・」
「ありがと。自信がついたわ。ずっと、妹紅と翁と嫗しか姿を見られてなかったから。
他人の意見が欲しかったところよ」
まあ、半分は社交辞令だけど。
でも・・・綺麗だって妹紅も言ってくれてるけど、ちょっと不安にだったっていうのはあるわ。
妹紅がきれいって言ってくれればそれでいいんだろうけど・・・女心ってのは、そういうのだけじゃ説明しきれないのよ。
理由もなく悔しくなったり、どうでもいいことでちょっと怒ったり。
その男は満足げに、どこかへ去っていく。
妹紅には、どこに行くのか伝えているらしい。
私に一度会えたら、それで満足だ、といった笑顔をしていた。
「・・・・・・ねえ、輝夜。お父様がもうすぐ来るんだけど・・・」
「え、車持・・・じゃない、不比等が? ・・・まさか」
「そうよ、偽者作ってきてるわ。馬鹿よね。バレるってわかってる筈なのに。
お父様のこと、けちょんけちょんにして追い出しちゃって。自分の馬鹿さ加減に気づくだろうから」
「ええ。もちろんそのつもり。私には、貴女がいるもの。それに、偽物を作ってきてバレないわけがないし?」
「それもそうだね」
背後から、私を呼ぶ声がした。
この声は・・・爺ね。
とりあえずは・・・・・・妹紅は友人ってことで。
いいわよね、妹紅?
そう、目配せする。彼女は確かに受け取り、こくりと頷いた。
「車持皇子様が、お見えになられておるぞ・・・おや、そこの娘は・・・」
「私の友達よ。藤原氏の一人娘、妹紅」
「にしては、随分とみすぼらしい・・・」
「旅装よ、翁。娘と従者一人だけで、山登り・・・行楽、遊びの一環よ」
どう? 私にしては、いい嘘を吐(つ)けたじゃない?
妹紅はもう一度、こくりと頷く。
「従者は、茂みに潜ませておりますので、お気に為さる事はございません。
必要ならば、呼び出しますが」
「いや、それには及ばんよ・・・・・・どうじゃ、お父上の求婚の場、わしと共に裏から覗かんか?」
遊び心を忘れない、爺のよさは認めるわ。
でもね。人の求婚を裏からくすくす覗くなんて、何を考えての行動なのかしら?!
妹紅、そんなこと聞いちゃだめよ?!
その目配せは通じないらしく、
「はい。私も、どのようにお父様が口説くのか少々気になっておりまして」
「じゃろうて。わしもな、先の石作皇子の事で肩を落としておっての。
所詮偽物じゃろうが、少し口説き文句を見てみたいのじゃ」
この爺が・・・婆で満足しなさいよ。
老い先短いってのに、色事に首突っ込んで何する気なんだか。
んで、石作皇子は、馬鹿よ。普通の鉢を持ってきて、
「天竺でとってきたのです。それはそれは光り輝いていたのですが・・・ここに来るまでに、その光がすべて落ちてしまったようです。ですので、これは仏の御石の鉢なのです」
第一句:はぁ?(心の声)
どう見てもただの石鉢じゃないの。
信じられないし、そんなものは実在しないってわかってるから、その石鉢を爺に投げさせてやったわ。
意外と力が強いのよ、あいつ。
去年私を見つけるまでなんて、丸々百束の竹を抱えて家に帰る剛力の持ち主だったらしいし。
軽かったらしいわ。基準なんて知らないけど、石じゃなかったかもね。
木鉢を黒塗りしただけ、たったりしてね。
「では、参ろうか。輝夜、妹紅」
「「はい」」
「・・・・・・車持皇子。蓬莱の玉の枝をとってきたと言うのは、誠ですか?」
「いかにも。たった今、難波よりたどり着きました。
・・・・・・馴れ初めは、家来を十連れ、東の海へと旅立ちまして――――――――――」
その後の話はこうだ。
私の当初の見立ては一年でした。
それに余るほどの食料と水を乗せ、旅立ちます。娘の妹紅は、私の旅立ちを笑って見送ってくれました。輝夜姫様を娶れるのなら、と。
しかし私は、予定の一年を過ぎても、まだ蓬莱の山を見つける事はできませんでした。
もはや従者も総て斃(たお)れ、私もわずかな食料で生き残っているような状態でした。家来たちは、私に腐敗臭を嗅がすまいと、自ら死に掛けの体を海へ投げていきました。その家来たちの期待と忠義を裏切れぬと、私は風のままに航海を続けたのです。
そして、たどり着いた場所は、黄金に輝く美しい山でした。それは天ほども高く、上を見やると首の痛くなる高さでした。
これが、蓬莱の山か。これが、私の求めた場所か。そう思うと、胸は高鳴ります。
流石に私も物怖じ、いや武者震いを起こし、恐る恐る、いや悠々と周りを二、三日見回ったのです。
金銀に煌く木々達、翡翠に輝く川、砂すらも宝石でできているのではないかというほど麗しいのです。まあ、姫にはかないませんが。
そして、人の姿を持つ何者かを見つけたのです。この好機を逃すまいと、私は船を急いで飛び降り、その人影を追いました。そして、それが女であることがすぐにわかりました。
「この山の名は!」
強く聞くと、その女はすぐに、怖じる様子もなく答えました。
まったく、物の怪のように表情がありませんでした。
「蓬莱の山」
天女の装いであることを、そのとき気づきました。
この者は、俗世の憂いを絶ち、完全な悟りの道を開いたということなのでしょう。
「ならばそれを言うお前の名は!」
「・・・・・・・・・××」
それは、私のような唯の人には理解できない音を出す、奇妙な名前でした。
私は流石にそれを怖いと思い、立ち止まったままでした。
もう用がない事をわかると、その女は山の中へ去って行ってしまいました。
こんなにも美しい山から木の枝を取るのは流石に・・・とも思いましたが、姫様のためならばと罪の意識を取り払い、懸命に持ってきた次第であります。そして必死の意で追い風を掴み、帰ろうとしました。
船は壊れ、この身ひとつ投げ出されようと、この枝だけでもと思い、死ぬ気で日の本の国までたどり着いた次第であります。
だそうだ。
このぼろぼろびしょびしょの旅装は、途中で海の水を引っ張ってきて、わざわざそれを浴びたからで。
たった今帰って来ただなんて、大法螺吹きもいいところよね。
妹紅が洗いざらい教えてくれたわ。
馬鹿馬鹿しい。
「・・・・・・輝夜や。この人はお前の言う蓬莱の玉の枝を『寸分違わぬ形』で持ってきてくださった。
それに、一刻も早く届けようと、着の身着のままでここまで来てくれたんだ。
この人に娶られてはどうじゃ」
婆め。ついにおかしくなったか。
蓬莱の玉の枝なんて、存在するわけないのに。
寸分違わぬって事は、私の言った通りそのままって事。それに、金や銀や宝石なんて、普通に加工できるものでしょ。
偽造なんて二年かければ余裕でできるじゃないの。
爺だって偽物ってわかるのに。やっぱり、耄碌してるのは婆のほうかも。
「・・・・・・はぁ・・・・・・」
ため息を吐いていると、爺が立ち上がった。
何をする気かと思いきや、いきなり不比等の野郎の手を掴み、
「貴方なら、輝夜を任せられる!」
なんていうんだもの。
最低よ、あの爺。偽物ってわかってなかったわ。
確かに同じだけど・・・なんでわからないのかしらね。妹紅も、わかってるはずよね?
・・・・・・目配せする。頷かない。おろおろしている。
この三つの情報が示唆する答えは一つ・・・・・・妹紅も気づいてない!
なんか婆も布団敷き始めるし・・・・・・!
「もう、私を止めるものは何一つとしてございませんぞ、姫・・・・・・!」
なんか卑猥な響きのある言葉を言わない!
近付かないで気持ち悪い!
私は妹紅以外と夜伽を交わす気なんてないんだから!
うんうんって、爺! 後ろで納得して頷いてないでこの変態幼女嗜好野郎を何とかしなさい!
婆もお邪魔かしらってどっか行かない! 妹紅を連れて行かない!
と、そのとき。
私を救ったのは、一人の職人だった。
「藤原不比等ぉぉぉぉぉ!!」
怒号を上げつつ、そいつは扉を開いた。
ばぁん! とものすごい音をたてて現れると、ずかずかと不比等の奴に近づいて行って、叫んだ。
「よく考えろ! まず俺が『蓬莱の玉の枝』を作り、『お前から』は高位に就けるという報酬をもらった!
だがな、それを渡す先である輝夜姫からは何ももらっていない!! どうだ、俺の言ってる事は間違ってるか、あぁ?!」
・・・・・・いや、思いっきり理論が破綻してるんだけど。
それで不比等に殴りこむって、どれだけ逆恨みしてるわけ?
まあ、この危機的状況を打開する情報を持ってきてくれたから・・・・・・良しとするわ。
「・・・・・・作った?」
「あぁ?! なんだ、お前は?!」
「私が、輝夜です。・・・・・・貴方が、蓬莱の玉の枝を、お作りになられたのですか?」
「あぁ、そうだ! 俺はな、一つところに二年近く放り込まれてだな! 最低限の食う物寝る場所を与えられて、昼も夜もわからず、ずっとこの蓬莱の玉の枝を作り続けてたんだよ! この気持ちがお前にわかるか?!」
ほうほう。
貴重な情報ありがとう。職人に感謝。
・・・とりあえず、金を渡してどこかに消えてもらった。
あの気分でいつまでもいられたらこっちが滅入るわ。
「・・・・・・んで? 貴方、よくも私に嘘吐いたわね? これがどんなに重いことか、思い知らせてあげようかしら?」
「・・・それには、及びません。
・・・このままでは、一族の恥。帰っても嘲られ、罵られ、藤原氏を貶めてしまいます。
・・・・・・・・・ならばこの身、捨ててでもなかったことにしましょう!」
と言って、そいつは山の中にどんどん入って行ったそうな。
馬鹿でしょ、そういうの。家のために死ぬとか、国のために死ぬとか。
自分を大事になさいよ。たった一つの命なのに。私と違って、一回だけ死ねるんだから。
「お父様・・・・・・」
――――――――妹紅・・・・・・。
やはり、父親が死ぬのはつらい事なのね。
・・・こんなに愛されているのに、なぜ不比等の奴はあんな事を。
やはり、馬鹿だ。娘の事を考えなかった行動は、誰よりも愚かだと思う。
「・・・・・・・・・も、こう・・・」
「輝夜・・・・・・お父様、やっぱり、最期まで家の事しか頭になかったみたい・・・。
・・・・・・・・・でもっ・・・やっぱり・・・っ、ぐ・・・」
・・・・・・だめ。もう、何も言えない。
私には、何かを言うことができない。
恋人の父親の死。それが、あまりにも遠い。
「妹紅・・・・・・」
私にできたのは、ただ、抱きしめることくらい。
強く、強く、強く。
ただひたすらに、この華奢な腕に、まだ咲ききらない不死の力を、込められるだけ込めて。
人並みの力しか出ない。だから、全力で抱きしめてもいいだろう。
「約束する。私と、ずっと一緒にいましょう?」
「輝夜・・・?」
口をついて、そんな言葉が出る。
わかってる。軽はずみに約束なんてしちゃいけないのは。
でも、とめられない。
彼女があまりにも、愛おしいから。
狂ってしまいそうなほど、愛しているから。
彼女の、そばにいたい。大好きなの。
それを伝える、たった一つの手段が――――――――――彼女と、誓うことだった。ただ、それだけの事。
「・・・私の部屋に行きましょう。話したい事があるの」
「・・・・・・・・・うん」
〈side:Mokou〉
月明かりが灯りの代わりをする。
妖しく白く光り輝く、半月の下で、私は輝夜に抱きしめられていた。
ちなみに、布団の上で。
正直、目の前で起こったことが信じられない。
家の名前に泥を塗るから、身を以ってなかった事に、だって?
恥ずかしいから、死ぬなんて。
それこそ、残された私が恥ずかしい。
「輝夜・・・・・・お父様は、間違ってたよね・・・・・・」
「ええ。貴方のお父様は、間違っていたわ。
でもね、いまさら起こった事は変えられないのよ」
そうだ。お父様は間違ってた。
でも――――――――――――これは、哀しいけど、事実なんだ。
認めるしか、受け入れるしか、ないんだよね。
「・・・・・・妹紅。ずっと言ってなかった、秘密があったの」
「秘密・・・?」
私を抱きしめる力を強くして、輝夜は呟いた。
「私は――――――月の民、真の『蓬莱の姫』なの」
そういった瞬間、輝夜の身体が消える。
支えを失った私の身体は、布団へ倒れこんだ。
そして、次現れたのは私の身体の上。
馬乗りになって、私にすりついている。
「こうして、姿を消したり顕したりできるの。
月の民なの、私は・・・・・罪を犯して、ここにいるの」
寂しげな声。
首元で、呟く輝夜。
「・・・・・・罪の内容は・・・『蓬莱の薬を飲んだこと』」
蓬莱の薬。
人に、永遠の命と不滅の身体を与える、不老不死の秘薬。
それを飲んだ・・・ってことは。
「私の、地上の輝夜として成長した期間は『三ヶ月』。
そこから一切、成長していないわ。
・・・・・・バケモノと思う? 怖いと思う? 恋人でいたくない?」
びっくりした。
死なない、死ねない、そんな身体を持っているなんて。
だから、そんなに悟った目をしているのかな。
死ねないから、そんなに寂しそうな声をしているのかな。
納得がいく。合点がいく。
人がうらやむ不老の身体。手に、入れてみたい。
安直に、そう思った。
「ううん、輝夜」
呟いた。
ただ、それだけで。
でも、それが全て。
別に、どうでもいい。不死人だろうが、月の民だろうが、輝夜は輝夜だ。
私が好きなのは、輝夜なんだ。
不死の身体は興味があるけれど、そんなことは輝夜と比べたらどうでもいいことだ。
「・・・・・・さっき私が言ったことだけど。『ずっとそばにいる』っていうやつ」
「う、うん・・・」
「まだ、『蓬莱の薬』が残ってるの。だから・・・・・・」
そばにいたい。触れていたい。愛していたい。
そのために、不死になる覚悟だってある。
死なない身体になってみたい・・・・・・そういうのもあったけど。
「・・・・・・うん」
「―――――――――――っ」
本当に、本当の意味で、ずっと一緒にいよう。
誰にも邪魔されない時の中、二人だけで。
仰向けになり、私は輝夜を抱き寄せる。
彼女は、やっぱり寂しい目をしてた。
輝夜が、私の服をとりにかかる。抵抗は、しなかった。
代わりに、私は輝夜の十二単を開いた。
陰っていて見えない。でもまあ、綺麗なのは知ってるし。
「妹紅・・・・・・やっぱり貴女、綺麗」
「輝夜に比べたらそんなことないよ」
「いいえ、私だってこんな綺麗じゃないわよ」
なんて言いつつ、輝夜が私の胸に頬擦り。
ああ・・・輝夜の肌、柔らかい。すべすべしてて、ぷにぷにしてて。
そして突然、輝夜が私の胸に唇を乗せた。
事実がなんか気恥ずかしくて、感じてしまう。
「んっ・・・」
「声も可愛いし」
「輝夜のほうが何倍も可愛いって・・・・・・ふぁ」
「ほら、可愛い」
それは、輝夜が声を上げさせてるからなわけで。
そりゃあ、自分で啼かせてるんだもん、可愛いと思うよね。
なんて思っていると、舌を這わされる。
私の膨らみかけの胸・・・・・・その、突起に。
「ひゃあっ・・・・・・ん、ふぁ・・・」
「ほぁ、ろほうわはわいい」
『ほら、妹紅は可愛い』って言ったんだと思う。
「しゃべらないの。・・・くぅん・・・ふぅ・・・っ、んくぅ・・・」
銜えたり、甘噛みしたり、いろいろ胸にされた。
そのたびに私は、鼻にかかった甘い声を上げてしまう。
輝夜だから、出来るんだと思う。
輝夜だから、許せるんだと思う。
だから、私はこういうときに我慢なんてしない。
「ひぁぁっ、ぁはっ、んぅ・・・・・」
輝夜は、わざと音を立てて遊ぶのが好き。
じゅる、ぴちゃ、ちゅぅ・・・・・・
ぁぁぁあああ! 恥ずかしい!
「輝夜っ・・・音、立てちゃ・・・・・・」
「じゅるるるる」
「ひぁあぁぁあああ?!」
どうやったらあんな音が出るの?!
恥ずかしいったらありゃしないわ!
とかなんとか言いつつ、それで高められている自分もいるわけで。
「んぁ、ふ、くふぅ・・・んやぁ・・・輝夜ぁ・・・」
「・・・ぷぁ、・・・どうしたの、妹紅?」
もう胸はいいから。
そう、目だけで告げた。
「・・・・・・ふふっ・・・妹紅、焦りすぎよ?」
そうかもしれない。
でも、どうでもいい。
この身を、彼女に任せてしまいたい。
そんな衝動のような感情が、今の私を突き動かしていた。
「もう、しょうがないわねぇ・・・・・・」
妖しく笑って、彼女は私の上に四つん這いになった。
そして身体を近づけ、口付けた。
彼女が、私の口内に入ってくる。
まごまごした舌使いでそれに応えた。
私も輝夜も、まるで溶けたみたいに重なってた。
声が混じって、体温で感じあって。
満たされてる感じが、した。
こんな時間が、永遠だったら――――――――――そう考えると、私はやたら嬉しくなってしまった。
くちゅっ、という音と共に、輝夜の秘裂が私のそれと、重なる。
その瞬間、頭が真っ白になって、何も考えられない錯覚に陥る。
「ぁぁあああっ!」
「っ、はぁぁぁあっ」
互いに身体を震わせる。
がくがくと、腰が無意識で動いてしまう。
輝夜といっしょにいたほんの少しの間に、私の身体はこんなにおかしくなっていたのか。
なんて、考える余裕もない。
ただ、快感を貪る二つの生き物・・・私たちは、そう呼ぶに相応しいモノになっていた。
「んぁぁっ! ふぁぁっ、くふぅ・・・はぁっ!」
「ひぁ、ぁ、ぁっ、ぁぁああぁあっ!」
「んくぅ・・・ぅ、ひぁぁああっ!」
悲鳴にも似た二人の悲鳴が、私の頭の中を支配した。
ぐちゅぐちゅと湿った水温が、何も考えられなくする。
握った手の温かさが、私をさらに高めていく。
「ぁぁぁああっ、妹紅、妹紅・・・・・・っ!」
その名を聞くたび、私は昂ぶる。
輝夜が、私の名前を、呼んでいる。
求めて、くれている。
嬉しくて、陰裂が切なくなる。
もっと欲しい、もっと気持ち良くなりたい。
そんな感情が、私をおかしくした。
「んぁぁっ?! は、はげ、し・・・・・・っ、ふぁぁっ?!」
「はぁっ、ん、ふぁぁっ! 輝夜ぁ・・・・・・!」
さっきよりも、激しい腰使い。
くねらせ、押し付け、擦り上げる。
そのたびに私の名前を呼ぶ。悲鳴のような甘い声を上げる。
狂ったように、私は彼女と交わっていた。
「ぁぁああぁぁあああぁあああっ!」
「―――――――――――――っ!」
大きく身体をのけぞらせ、私たちは絶頂を迎えた。
倒れこむ彼女の身体は、驚くほど軽い。
細身なのに、確かに肉感がある。
華奢なのに、こんなにも温かい。
包んであげたくなるような彼女を、私は、優しく抱きしめた。
永遠に、このときが続けばいいのに。
そう、本気で思っていた。
あれから三年。
私は、代わりに入ってきた藤原氏当主の養子となった。
割と自由な方針で、私が輝夜のところに遊びに行くのを許してくれる。
少なめでも強力な腕足腰を持つ従者を連れて、半日で着けるようになった。
次の日の日暮れまでに帰れば、何も言わない。
もう妻もいるので、輝夜を狙うこともなくなった。
輝夜は、時々俳句を書いて家来に渡すようになった。
誰にかと言うと・・・・・・・・・そう、帝だ。
国で一番偉い人と、友達だって。鼻が高いけど、向こうは下心ありあり。
はぁ。恋人がモテモテなのは嬉しいけど、ここまで来ると逆に鬱陶しいわ。
「ねえ、輝夜・・・・・・もしかして、帝になびいたり・・・・・・」
「してないわよ。あんな下心見え見えの詩を送ってくる奴に、なびくわけないでしょ?
あれはただ、翁がどうしてもって言うからね・・・・・・」
そういう事に関して、翁はやたら干渉したがる。
輝夜がどこにも嫁がないのが、不安なのだろう。
まあ、可哀相といえば可哀相ね。輝夜が結婚する気なんてさらさらないし。
なんたって、私がいるもんね。
そして、輝夜は月を眺め始めた。
その目は、ひどく透明だった。
目を離すと、消えてしまいそうなほど・・・・・・輝夜が、美しかった。
それが、怖かった。目を逸らせなかった。
「・・・・・・もう、寝ましょうか」
こちらを向いて、笑う。
その目も、透き通った、悟ったような目をしている。
やっぱり、私は怖くなった。
その日、私は輝夜と同じ布団で寝た。
伽はかわさなかった。
互いに、そんな気分じゃなかったから。
考えていた永遠が、壊れて行きそうで。
一緒にいられなくなるかもしれなくて。
そんな不安が、そのとき、私を支配していた。
〈side:Kaguya〉
ごめんなさい、妹紅。
ごめんなさい。
約束、果たせそうにないわ。
もうすぐ、あいつらが来る。
私を消しに。殺せないから、もっと惨い方法で、私を消滅させる。
あなたを遺して、ごめんなさい。
「・・・・・・・・・」
わかっていたことなのに。
知っていたことなのに。
今だけでいい・・・そう考えていたのに。
彼女への想いを、ふりきれない。
忘れられない。無くならない。
こんなにも、好きになってしまった。
罪深いのに。許されないのに。
「・・・・・・」
あれから、私は月を眺めるようになった。
あそこから降りて来るんだ。
あんなに美しいところから、あんな心のない奴らが。
いや、心がないのはある意味では美しいか。何にも染まっていない、無垢な心。
でもやっぱり、作り物の無垢は怖いだけか。何にも干渉されない、醜い無垢。
天の羽衣は人に心をなくさせる。蓬莱の薬が幾らか軽減するらしいが。
「・・・・・・・・・」
「輝夜・・・・・・」
もうすぐ、八月の満月ね。
そうなると、あいつらはやってくる。
最後に、妹紅を見て死にたいところね。
でもまあ、それも許されないんでしょうね。
私に死に場所を選ぶことは出来ない。あいつらが全部決めて、私を消すんだ。
「輝夜」
「・・・・・・何?」
折角の雰囲気をぶち壊しにする爺が一人。
まあ、いいか。気晴らしに、こいつに話してみよう。
幾らか楽にはなるかしら。
「最近、よく月を見るのぉ。何か悩み事かの?」
「・・・ええ、少し。聞いて貰えるかしら?」
「・・・・・・ああ」
「・・・・・・・・・まず、私は・・・・・・」
「地上の人間ではないじゃろう」
察していた?
何故、翁が。
「何故三ヶ月でそれほど成長し、それ以降全く育っておらんのか・・・・・・
何故、位の高い人々ならず帝までも振り続けておるのか。
簡単なことじゃ。この世の名声になど、何の興味もないからじゃろう?」
なんてことだろう。
今になって、どうして爺がこんなに察しのいい奴に。
ぐっと、くるじゃない。
「・・・・・・・・ええ、そうよ・・・・・・私は、蓬莱、月の都市の人間。
ある罪を犯し、地上に流された咎人。・・・・・・そして、もうすぐ死刑が決行される。
八月の十五夜、私は消える」
「なんじゃと?!」
「私は殺され、その罪を贖うの」
そう。私は、贖罪のために、その命をささげる運命。
そうでなくてはいけない。
そう、決まっている。
「・・・・・・認めんぞ、わしは。そんなこと。
お前が死ぬなどと・・・・・・!」
「翁。決まっているの。もう、抗えないの」
「帝に連絡する! お前を、みすみす殺させたりするものか・・・・・・!」
「待って、翁!」
翁の表情は、決まっている。
いまさら私が止めたところで、翁は止めるわけがないだろう。
何をしても、『あいつら』には無駄なこと。たとえ帝でも、それは変わらない。
だったら・・・・・・せめて、彼女には、何も言わないで貰おう。
「なんじゃ!」
「・・・・・・妹紅には言わないで。そして、その日は来ないように連絡して。
なんでもいい、都合をつけて」
「・・・・・・・・・友を思うお前の気持ち、あいわかった。
いいじゃろう。わしが、そう取り計らおう」
その日ばかりは、翁が少し若返って見えた。
ちょっとかっこよかった。さすが、身一つで嫗を守ってきただけあるわね。
さて・・・・・・私は、もう少し月を見ようかしら。
〈side:Mokou〉
八月、初め。
私は、輝夜からある手紙を貰った。
『前略 藤原妹紅様
この手紙を貴女が読んでいる頃、私はどこにいるでしょう。
私は、少し長めの旅行に出かけました。
黙って行って、ごめんなさい。私は、家にはもういません。
どれくらいになるかわかりませんが、長い間です。
戻ってきたら、再度書を送ります。
輝夜』
黙って行った。
輝夜が、私に。
物凄い驚愕した。
輝夜が―――――――――――もう、いないんだから。
何故? 何時? 何処へ?
そんな疑問が、私の頭の中を占めている。
もう、頭がおかしくなるくらい悩んだ。
それでも、答えは出てこない。
ねえ、輝夜――――――――――――――――――――どうして?
外が騒がしい。
もう、何日出ていないだろう。
とりあえずきっかけにそれを使ってみるのも悪くはないだろう。
「お義父様、外の騒ぎを見てきてもいいでしょうか?」
「ん? あ、あぁ」
ちょっと安堵したような、不安そうな。
そんな顔をしていた。
そんなお義父様を少し訝りつつ、私は外へ駆け出した。
野次馬を藤原の名で除け、見つけたのは不思議な行列。
壺を持った誰かを、仰々しく護って歩いている。
籠に入っていないところをみると、どうやら護っているのは壺のようだ。
私はそこに割って入り、壺を持つ男の前に立った。
「これは、藤原のお嬢様。如何なさったのです?」
「その、壺の中身は? 答えねば、貴族に対しての反逆とみなします」
釘を刺さないと、このご時世答えてくれないのが多い。
それが効いたのか、その男は顔を固めて答えた。
「蓬莱の薬ですよ。何でも、不老不死がどうのこうので・・・・・・帝が、捨てるように言ったんだそうです。
私はまあ、ただの運び番ですし」
――――――――――帝が、薬を、捨てるように言った?
『一緒にいてあげる』
『蓬莱の薬が、まだ残ってるの』
『下心ありありの奴に、なびくわけないでしょ?』
――――――――――――――――――なるほど。そういう、事か。
輝夜は翁に、きっと話したんだ。
それが何かのきっかけで帝に伝わった。
そして、彼女のいない間に、残っていた蓬莱の薬を全て捨ててしまおう、ということか。
自分の分を飲んで、残りは誰にも飲ませまいと捨てる気か。
・・・・・・させるもんか!
「私も、行列に参加します」
「な、何を仰います! そんなこと―――――――――」
「逆らえば、戻ってきたときに正当な捌きが下ると思いなさい」
もうここまで来ると釘をさすなんてものじゃない。
脅迫。でも、それでも構わない。私は、輝夜の物を奪われるわけにはいかないんだ。
ギリギリまで様子を見て、最後に奪ってやる。
「・・・・・・・・・わかりました。では、旅の支度を」
「酉の刻までには済ませてきます。それまで出ることはないでしょう?」
「・・・はい、京内練り歩きが終わってから・・・出発です」
恐怖はあるが、偽りはない。
よし、支度を済ませてこよう。
そして、私は、
『駿河国で最も高い山』にたどり着き、
頂上で――――――――――――壺を持つ男を殺した。
「なっ!?」
「妹紅様、何を?!」
周りにいる奴ら全員を、切り刻んだ。
そのときのために、研ぎ澄ましてきた一振りの小刀で。
「ごば―――――――――」
「く、裏切ったか――――――――――」
苦痛なんて感じない。
このために、信頼関係を築きあげたんだから。
このために、全部捨てたんだから。
「・・・・・・」
壺を開き、指に掬う。
冷たく、どろりとしていた。
豆板醤のようなそれを、口に運んだ。
「っ――――――――――?!」
身体が、熱い。痛い。
喉が焼ける。焦げる。
体中が、まるで炎になったようだ。
この苦痛が・・・・・・私を、不死にする?
溶ける。
壊れる。
消えて、無くなる。
引き換えに、永遠を手に入れて。
なぜ、手に入れてしまったのだろう。
いまさら、悔やんでも仕方なかった。
いや、遅かったというべきか。
「・・・・・・」
目覚めたとき、私の周りには兵士が大量にいた。
歩兵、騎兵、弓兵。
あの紋は―――――――――帝のッ!!
身体が呼応し、熱くなる。
起き上がる。炎の鱗片が、地面からあがっている。
いや、・・・・・・・・・これは、私の身体から?
「藤原妹紅! 私が葬るはずの蓬莱の薬を口にした罪・・・・・・万死に値するぞ!!」
現れた帝。
馬に乗っている。
ふん。普段、籠にしか乗ったこと無いくせに無理しやがって。
「・・・・・・輝夜の薬を、輝夜のいない間に奪って飲んだのは誰だ?」
「輝夜姫の置き土産を奪ったのは何処のどいつだ」
「何のことだ」
輝夜の置き土産?
何のことだろう?
「とぼけるな。
輝夜姫が月の従者と共に去って行く際、私に残した蓬莱の薬を飲んだであろう。
その紅い目が、その証拠だ」
・・・・・・輝夜が、月へ?
帰って行った・・・・・・でも、私には、何も・・・・・・。
なぜ、どうして・・・・・・?
途方もない、喪失感。
私に残した薬を、帝が奪ったんじゃないの?
帝に薬を渡して、月へ帰って行ったっていうの?
私は、輝夜に裏切られたの?
私は、輝夜に捨てられたの?
私は、輝夜に忘れられたの?
亡我。
喪失。
虚空。
消滅。
絶望が、私の炎に薪をくべた。
あるいは、絶望が薪となった。
「な、――――――――――炎の、翼―――――――――不死鳥・・・だと―――――――――!!」
消えて、なくなれ。
全部、全部。
この、世界もろとも。
滅んで、崩れて、壊れろ。
私は、よくひねくれているといわれた。
きっと、こういう事なのだろう。
恋人がいなくなったから、全部無くなればいい・・・・・・そんな事を考えるから。
壊してしまいたい・・・・・・そんな事を考えるから。
なぜかはわからない。
ただ、壊したくなった。
力はある。
だから、壊す。
何も、かも。
今回の手法はザッピング方式というヤツですね。
これは時間軸や登場人物の描写などが複雑になりがちで、なかなか高度な手法です。
でも紅魔さんはうまく使いこなせていらっしゃるな、と感心しましたよ。
個人的なわがままを言うと、もうちょっとえっちシーンが会ったほうがうれしかったかなあ・・・と。
後編もあるようなので、そちらにも期待しています。
たくさん続編を抱え込んでいらっしゃるようですが、マイペースでがんばってくださいね。
いつも読んでいただいて、ありがとうございます。
この執筆方式は初めてなのですが、なかなか難しかったです。
でも読んでる人に伝わっているようなので、成功したんでしょうか・・・・・・。
自分も、もう少しネチョあったほうがよかったかなぁ、と少々迷いました。
しかし、おとぎ話の人物だらけなので・・・・・・まあ、次回に期待してください。
えーりんとかうどんげとか、出てきますんで。
ありがとうございました!
もこかぐは良いものだなぁ。
てか、妹紅の三年前の姿って……犯罪?
だがそれがいい(←変態
続きが気になります。
それにしても、五本同時執筆とは……俺には、そんな器用な事、出来そうもない……orz
五本も同時に書いてるなら、今さらゆかれいむの一本や二本増えたところで、どうって事ないよね!
(罪)<NE!
もこけねもいいけどもこかぐもいいですよね!
妹紅の三年前・・・・・・そですね、車持皇子の娘ですからね。
同性愛って犯罪だったんだろうか・・・・・・?
ゆかれいむプラスすると現行6本・・・・・・あぅあぅ、どうしよう・・・・・・。
とりあえず構想を練ってるというか。
自分もゆかれいむ好きですがっ・・・・・・! どうしても、浮かばないっ・・・・・・!(某アカギ風に)
GJ
そこをわかってほしかった・・・・・・!!
妹紅の案内役・・・・・・チョン役ですが大事ですよね。
雰囲気的に
「アイドルにあわせてやるZE」
って言われてるようなもんですからね。
そりゃあ従者は輝きますよ。
すごく…いい小説です