※さとり×お燐の主従プレイです。土下座があるぐらいです
※はえてません
「今日もお疲れ様」
今日の分の仕事が終わって、地霊殿に戻ってきて。夕ご飯食べてぼんやりのんびりとソファで過ごしていたらさとり様から声をかけられた。
主の前じゃあシャキッとしていたいけれど、満足と化した今のあたいにゃそれはきつい。
「よーしよし」
「うにゃー」
そんでもってそんなにさとり様は厳格じゃあない。無礼とか何も言うでなく頭をわっしゃわっしゃされる。
あたいの髪をさとり様が撫で散らかす。ええいやかましい。尻尾で跳ね除けようと試みてはみる。まあ悪い気はしないんだけどちょっと乱雑だ。
それでもさとり様だから良しなのだけど。
「今日も仕事量多くて悪かったわね。あちこちにも走ってもらっちゃって」
「いやそんなことは無いですけど」
「助かってるわよ本当」
「ありがとうございます」
さとり様も何やら大変そうだった。
色々な人の応対して、話し合いしていたみたいだし。偉い地位の人ってのは何やら大変で、あたいの方がそういう点じゃまだ楽だ。
それでも改めて声かけてもらえた、っていうのはやっぱり嬉しい。
「ねえ、お燐」
なでなでの恩恵を甘んじて受け入れてぼんやりと幸福にしてるとあたいを撫でる手が止まった。
「ん?」と思っているとさとり様の雰囲気がちょっとだけ切り替わる。真面目な話をする時の空気だ。
あたいの肩に重みが乗っかって、さとり様の顔が大きく近づいた。
「今日の夜って大丈夫?」
「今夜ですか?」
こう言われる、というのは夜の誘いという事だった。
珍しい話じゃない。そういうのぐらいはする。誰も嫌がることじゃないし気分じゃなければ断ってもいい。
もちろんあたいにとっちゃ嬉しいことなので断る理由は無い。
「こっち側だけど」
ざりざり。
「あー・・・えっと」
一転して少しだけ躊躇が出る。
さとり様の爪があたいの首に刺激を走らせる。浅く引っかかれている。
戸惑って顔がちょっと熱くなった。鼓動が一つ跳ね上がってくる。こうされた日の夜のことが想起になって心拍数が上がってくる。
「大丈夫、です」
「そう」
ちょっと声が震えながらも肯定の返事をした。
引っかかれた爪痕は、あたいとさとり様との合図だ。秘密の、とってもな夜を過ごすための呼び出しの合図。
普通に愛であう時もある。さとり様もあたいも裸になって触れ合い深め合うコミュニケーションの時。
でもこの合図があった時は、それとは違う。もう少し濃くてそれでいて気恥ずかしくなっていく時。
「十一時ぐらいかしらね」
「はい・・・」
伝えるだけ伝えてさとり様は去っていった。その背中を正視が出来なかった。どんな風であれ真っ赤な顔を向けるのは恥ずかしかった。
そしてあたいがその日の出来事を思い返してるところもきっと読まれてるのだと思うと、またあたいは自分の髪をがしゃがしゃやってしまうのだった。
─────────
『Love2愛してマスター』
─────────
あたいは地上によく行くから地霊殿の他の住人より少しだけ見識がある。
ペットの中では、って括りだけど。
「「さとり様のペット」ですか。へえ・・・」
今より少し前の話。
緑色の髪の巫女さんだったかねえ。お空が世話になってる神社の方の。お空を迎えに行ったがちょっと遅れるってんでその時に少しばかり話し込むことになった。
その時に挙がった話だったんだけど。
「それってやっぱり可愛がられたりしてるんですか?」
その巫女は食いつくように寄ってきた。
前々からお空がよく話すことに思うところがあったとかそんなのを言ってたような気がする。
「まあ、可愛がられてはいると思うよ」
さとり様の周りには動物達がよく集まる。そして笑顔で付き合ってくれる。
思う、とか言わなくても問題は無いだろう。さとり様は人とはあまり会わないが動物達にはめっぽう甘い。
「撫でられたり」
「ああ」
「身体を弄ばれたり」
「うんまあ」
そういうよくある触れ合い事情を何かしら質問してきて、答えるたびに「おお~」とか妙に感心される。普通な事のはずなんだけどなあ。
人里の中でだってそういう動物と人間との付き合い方はちらほらとお目にかかる光景だし。
話し込む内に巫女の言うのとあたいの言うのには何か妙な食い違いがあるように思えた。どうも目が浮ついてるし。
「え、つまり、じゃあ・・・」
そうやってその巫女は奥に引っ込んで、そのあと一冊の本を持ってきた。光沢もあるかなり新しいやつだ。
あたいみたいな人の形をした獣の娘が大きく描かれてる。
表題に書かれてる『Love2愛してマスター』とかいう阿呆かとツッコミたくなるような甘ったるい文字がすっごく引く。
「ほら!これ見てくださいよ!これ!」
「やだよ」
巫女は目を光らせてそいつを見せようとしてくる。
得体の知れなさに丁重にお断りしたくしばらく抵抗していたが、ありとあらゆる奇跡が起こりその果てに無理やり開かされたこの一冊の本。
いや、まあ、何ていうか衝撃的だった。
飼っていた動物が人の形になって飼い主にやらしく可愛がられる、という大人向けな内容。
その中にいたのは首輪と紐をつけられ裸のままで恥ずかしさに震える女の子。主人に可愛がられ恍惚としている女の子。
自らを「ペット」と称して飼い主とされる人に懐く様。
本の中身はこんなのがずらりと並んでいた。
挿入されてる絵こそ妙なファンシーさで拙い感じだったが心理描写は妙に生々しいものだった。
人間が動物扱いされることでそれがいかに快感か。本当にそんな子がいたかのように事細かに描写されていた。
「人型のペットってつまりこういうことだと思うんですよ!」
「いや・・・無いわー」と思いながらも内心でちょっと取り込まれそうになる意識を、巫女の甲高い声で引き戻された。
キャーキャー悶えながら両手で顔包んでぶんぶん一人で盛り上がって顔振って髪振ってはしゃいでいる。ああ知ってる、これ歌舞伎ってやつの動きだ。
何言ってるんだろうこの緑の巫女。
「あげますから!是非!」
何がどう"是非"なのか分からないが是非もなく強引に押し付けられることになった。
今思えばそのままどこかに廃棄すべきだったが、頭の中が真っ赤になってたあたいにその考えはすっぽり抜け落ちていた。
お空は忘れてきた。
それから、地霊殿に戻ってからが大変だった。
今までのあたいだったら何も疑問に思わなかった光景。
仲間の猫がさとり様の前で撫でられたり転がされたりしてる状況ですら意識するようになってしまった。人の体の状態であれをやったらどうなるかこうなるか。煙が出そうだった。
さとり様に手招きされても慌てて距離を取ってしまうぐらいに。
動物の時はともかく、人との意思疎通が取れてるうえでそう扱われることを変だとすること。
特別意識したことは無かった。現に他の皆だって気にすることは無かった。だから、そういう風な光景があると知った時には妙な衝撃だった。
意識し始めたらどうにも止まらなくなっていく。こびりついていく。隠してて隠していてもそれでも出てきた芽は止められなくて。
本の中の彼女たちにときめいていた。寝床の中であたいは想像のさとり様に何度となくひれ伏していた。不躾なことをして仕置きを受けていた。
そうして何日も経っていった。さとり様とろくに会話も出来ず。
「様子がおかしいみたいだけど」
「んなぁ!?」
そうこうしていたある日に、居間でさとり様に声をかけられた。
どうしたものかとぼんやりと餌を食べている猫を眺めてたら後ろからだったので不意打ちだった。
理由はあたいがよそよそしかったからだった。
またあの異変みたいな事が起こるのではないかと。
距離を置かれることには慣れてると常々言っていたさとり様が心配していた。あたいが悩んでいるのはしょうもないことだったのに。
こうして向かい合うことすら躊躇っていた時に。その当人にいきなり声をかけられた。そして慌てふためたあたいは、頭を巡らす間も無く頭の中丸ごと全部さとり様に大通しになって、
「改めて考えると確かに少しおかしいかもね」
その瞬間にどんな事を思ったのかは分からないけれど、最初の一言はそれだった。
ただ、表情を変えることは無かった。その反面であたいは赤面しっぱなしだったけど。
「「ペット」という言い方が果たして正しいのかしら」
さとり様は隣に座って話し込む体勢だった。
あたいとしては気まずくて一刻も早く退散したかったのだが、立とうとしたその瞬間に肩を掴まれてそれを許されなかった。
説教されるコースか相談させられるコースかどう言おうかと頭の中が大騒ぎした。
「最近妙によそよそしいと思ったらそういう事だったの」
「ああいやあたいはその」
「誰も言わないものだから私としても特に言うでも無かったのだけれども」
「別に、ですね、嫌だとかそういうことじゃなく」
「落ち着きなさい」
「はい」
ちょっとだけ間を取ってくれた。
「すいません、色々と」
「いいのよ」
静寂の間で頭の中を建て直す。
深呼吸を二つほど重ねてだ、冷静に考えてみよう。
さとり様から出たのは"ペット"という言い方の話だけだ。ペットという関係性の話なだけで。
そっちじゃない方の話はまだ何も思ってないに違いない。
「あぁ、そっちの話は後にしましょう」
ダメだった。終わりだ。
「まあ確かに外で「ペット」っていう言葉は誤解を招くかも知れないわね」
さとり様は何も知らないかのように流して一つ頬杖突きながらそう漏らすように言ってきた。
他が気にしてないから自分も気にしないようにしていた、ってだけで引っかかってはいたようだ。
でも、だとしたらあたい達との関係はなんだろう。ある程度自分で働けるとは言え、紛れもないペットだ。しいて言うなら親であろうか。
でもあたいは、さとり様の「娘」とは流石に言えない。その領域には無い。
「地霊殿に住んでる同居人、ぐらいの方でいいのかもね」
あたいの様子がおかしいことはお空にも聞いて回ったりしたらしい。
ちょっと、申し訳なかった。
「いえ、そういうことではないんですけど・・・」
そこから少しの間、その話を続けた。
対外的にはどう呼ぶべき関係なのか。 で、結論として、
「まあ「ペット」という呼び名の話はあなた達が嫌でないなら別にいいわ」
そういうところになった。
基本的に、誰も気にしてないのだ。他の地底の面々や、地上でも何一つおかしいことでは無いみたいだし。
あたいが気にしたのもごく一部の世界の話ってだけみたいだし、別に変えるのは必要無いと思う。だからこの話はいい。
「で、もう一つの話だけども」
「あー、あたいちょっと用事が」
逃げよう。本能的にそう思った。
対外的に「ペット」って言葉は正しいことなのか、それは解決。これでおしまい。さあ帰ろう。後は何も無い。
身を翻して立ち上がろうとした、あたいは。
「『Love2愛してマスター』ですか・・・ふむ」
「うっ」
足を止めざるを得なかった。背筋がピンと張る。身体が固まる。
「本棚の一番下の隙間」
続けてやってきた言葉はもうちょっと残酷だった。
言われたその場所は今のあたいには絶対に触れてほしくない場所だ。その例の本が隠してあるところだからだ。
本当ならさっさと処分すべきだったが、どうしても深入りしてしまい捨てがたくなってしまったのだ。
振り向くってことが出来ない。
妄想の中とは言え、目の前の人に怪しげなことをさせておいて更にそれがその本人に筒抜けだと思うと気まずい。
針のムシロどころか針の布団一式に包まれるようだ。
「首輪をされたり、尻尾を生やされたり、餌と称して精液をもらったりですか。
そしてそれで夜ごと悶絶し なるほど、なかなか・・・」
すいませんそこを読み上げるのだけは勘弁してください。
日常生活の中だと何も触れずにいてくれるけど本来のこの人こういう弱みに対して絶対的な訳で。今知ったのか前から知ってたのか分からないけど完全に握られていた。
逃げることなど不可能な状況ということを事細かに教えてくれた。
「広めてあげましょうか?」
ものすごい意地の悪い笑みを浮かべてくる。
何をどう広めるのか分からないが、もしあれが広がったら大変だ。地霊殿の全てのペットがこれを意識し始めたらどうなるか。
そりゃあもう性が氾濫してしまう。いや現状で品行方正とも言いがたいが、そこから更に変な主従関係が出来上がっても困る。あたいの心労が噴出してきてしまう。
いや、もう仕方ない。こうなったら急いで処分するべきだ。今からどこかで灰にすれば他のペットの目に入ることも無くなるだろう。
あらゆるものを天秤にかけてそれが最善策だ。今から急いで部屋に向かって、
「複製ぐらいしてあります」
なんてことしやがるこの人。
話を聞くに、あたいが悶えながら日々を過ごしてる間に探し出してひっそりと複製しておいたらしい。なんてことしやがるこの人。
その細めた目と片方の端だけ上げるあのニヤッとしたツラが今は憎たらしい。
「まあ座りなさい」
ここで仮に力で解決しようにも複製したとされる本の場所が分からなければ手は無い。複数冊作られてたとしたらお手上げだ。
二手、三手先を探しても詰まされるのを摘まされてよく分かったあたいは観念してもう一回、その席につく。
どうせろくなことが無いの分かって何かを迎えるのは精神的にきつい。
「私ね、悪い話だとは思ってないのよ」
さとり様は入れ替わりで立ち上がって、あたいの肩に手を置いた。小さい声で言ってきた。
顔が近い。斜め上から話しかけてくる。桃色の髪の毛先がさっくり触れてくる。
「その想い、叶えてあげたくてね」
意外な言葉だとは思った。言葉の意味を考えると願ってもないってやつなのかも知れないけど、当然ながら素直に喜べない。
さっきまで必死にどう対処しようか考えてたから尚更。そこから一気に翻す事は出来ない。
あたいにとっては今まで恥ずべきことだったし。
「要するに、私の思う様に可愛がられたい、って。そういうことでしょう?"ペット"として」
「ペットとして、ですか・・・えっと」
お互いにそういう知識の前提があって"ペット"と言われるとちょっとだけじわりと沁みてきた。否定する言葉が返せなかった。可愛がられることは嫌じゃない。
猫の姿で撫でられるのは好きだし、ペットという言われ方だってさとり様も言ってた通り慣れてるのだし。
ただ、本みたいなことが気になってしまっただけで。
でもそれを素直に「はい」とは言えなかった。変だと思われたらどうしよう、って思ったし何より気恥ずかしいことだ。
「嫌とは言わないのね」
いまだに思い出す。あの意地悪な笑み。戸棚の奥に誰も見つけてない猫缶を思わず見つけたとかそういう風な目。
棚からぼたもちとも言うんだろうけどあの顔がまさしくそれだった。
「あなたはその本の少女に感情移入している。繋がれ弄ばれることを気にし続けている」
この時点できっとあたいの秘めた心中を読んでいたのだろう。
強引にされても断ることが無いということ。むしろ、強引に誘われた方がそれを理由につけて承諾するだろう、ってこと。
そこら辺までずーっと計算に入れて。
「どっちみちもやもやしっぱなしでしょう?ここから先」
さとり様の指の腹があたいの肩を揉み始める。揺れ動かされる、心も。
ペットという立場で可愛がられること。主従として性的な辱めを受けること。
それが頭から離れないということ。頭の中のご主人様は常にさとり様しか思い浮かんでない、っていう事実。
結んでいたリボンを弄ばれる。布の音に囚われる。
さとり様の手が肩からあたいの首に触れた。ざらりとした感触が走る。想起されたのは首輪の感触。
人の姿で改めて首輪をされ飼われるという風景。
「「私に服従してみたい」でしょう。あなたの思うことは」
真っ直ぐな言葉に射抜かれる。晒される。どんなに心の中にあっても表に出されるのはやっぱり怖いものがある。普通じゃあない、って思うから。
「さ、さとり様が望むのなら、まんざらでは」
あたいはまだ抗いたかった。最後の力で。
ほとんど逆らえないほどに身体は肯定してしまってるんだけど、せめて最後に。多分通じないだろう。
「あなたが望んでるのではなくて?」
そしてその一矢もあえなく叩き落された。
その答えはやっぱり予想通りで、それでいて腑に落とされた。納得した。
「私も嫌とは思ってないのだから素直に受けなさい」
気がつけば自分の心臓の辺りをぐっと掴んでいた。あたいは望んでるんだ、やっぱり。さとり様に人の形としてもペットにされること。
それを思い知らされた時に湧いたのは初めて恋したみたいな感覚だった。弱々しくて不安で、誰かに縋りたくなるようで。
改めて思うなら、この言葉が閉塞からの抜け道だったんだろう。苦しんでいたあたいをさとり様が望む通りに誘導するための。
でも結局はこれで最良だったと思う。
「大丈夫よ」
ぐしゃぐしゃと。今こうして不安がってるあたいを慰めるようにさとり様は撫でてくれた。親が子に向ける顔を向けてくれていた。
人の形になれたばかりの未熟だったあたいを見守っていてくれてた時のような優しさの顔。
「・・・引かないですか」
「引かないわよ」
この人に、また従おう。
どんな不穏な事があるのか分からないけどさとり様のやることならきっと大丈夫だろう。
あたい自身はそう信頼している。だからまた従うんだ。
「酷いことはしないわ」
力強い人だった。
あたいの中にある「一歩進んでしまった事への不安」を和らげてくれる優しい行動だった。
──
そこから、あたいは二歩も三歩も進んでしまった。
首輪で引かれ動物のように扱われて可愛がられる。さとり様にあたいの全てを預けて、そのままに弄ばれること。
恥ずかしくて辛いことに耐えてご褒美を貰う。ダメなことをすればひどい事をされる。
さとり様が上手なのかあたいにいたくそっちの気があったのか動物としての本能なのかは分からない。でも、沈んでいくみたいにあたいはその関係にはまっていった。
──
「・・・よーし」
こうして今に至る。
お呼ばれしたあの後、お風呂入って、髪を編んで、きっちりと身だしなみして。ちょっとの間だけ部屋で心の準備してきて。
出来る限りの完璧な状態でさとり様の前に立ちたいのだ。どこかに瑕一つあってもならないように。
気前を持ってしっかりと。
さとり様の部屋に入るということ。大抵の場合は仕事の話をしに行ったり、何かの用事で呼び出されたりする時だったり。
動物の時はさらっと入っていけてたはずなんだけどねえ。勝手にベッドに寝っ転がってぐっすりしてたり。
人の形になったらちょっと入る躊躇が出来た。距離が出来た。 ・・・きっと、そういう事はさとり様も何度も感じてきたんだろう。
ああいかん、ダメだこんな事を考えては。
これから明るいことが起こるのに暗い考えを持ってはいけない。さとり様の頭にネガティブを持ち込んではならない。
一つ息を整えてだ。
「さとり様ー」
ドアを二回ノックする。
どうぞ、って一言を待ってから「失礼します」と小さく言って敷地を歩む。
高級そうな調度品に囲まれたような部屋。あたいらの部屋は好みによるがだいたいシンプルなのに対して、この部屋には花瓶や絵画、華やかな色がある。
そして部屋の隅には大きなベッド。
「今日はありがとうね、お燐」
さとり様はにこやかな顔で出迎えてくれた。
主なのだからどんと構えていてくれればいいのに、そういうこと言ってくれるのはあたいとしても嬉しい。
「しっかり綺麗にしてきてるみたいだし」
さとり様はあたいの髪とか肌を少し撫でて、そう褒めてくれた。
そうやって準備してきたのをちゃんと感じ取ってくれた。あたいもおめかしの甲斐があったというものだ。
「ほら、座って」
手で促されるがままにさとり様がいつも寝ているこの大きなベッドの上へと座る。
緊張でぎこちない。回数を重ねてもなお大舞台にいるような気分。物音一つが大きく聞こえる。
シーツがずれる音。さとり様が隣に座って、すっと近づいてくる。距離が近くなる。
「ちょっと固いわね」
「いえ、大丈夫、です」
「嘘つかない」
確かめるようにぽんぽんと腕とかを叩かれて。やっぱり、緊張してるのは少しある。ドキドキしているとも言う。
座ってシーツに置いていた手にさとり様の小さな手が重なり合う。大丈夫だ、って肌で伝えてくれる。自分で思うよりさとり様にそう言われた方が安心する。
少し落ち着いた後、心臓のあるところにさとり様の手が被せられる。
ドキドキしているのが伝わってしまいそうで、それで逆にあたいの動悸は早くなってくる。自分自身で分かるぐらいに鼓動している。
「目閉じて」
さとり様に言われるままにあたいは暗闇へと自分を導く。
握られてる力が確かなものになっていく。指の感覚を少しずつ絡めていったり、ゆったり静かに、衣の擦れる小さな音、さとり様の微かな体温、とっても静かに時間が流れてくる。
力強い安心。血の流れがゆっくりしていく感じがする。体の固いところが消えていく。お風呂の中にいるようにゆらゆらと溶けていく。気持ちいいより心地いい。
あたいの中で荒れていた波がなだらかになっていく。
「ほら」
「ん・・・」
ぼーっとなっていると、さとり様から背中をぽんと押されて飛んでいた意識が戻ってくる。このまま寝そうになるとこだった。
少し振り返ってから深呼吸を一つ。大丈夫、落ち着いている。
「そろそろ大丈夫そうね」
ぼんやりになっていたあたいを見ながら、さとり様が立ち上がった。
小道具入れを漁って何かを取り出そうとしている。いや、言われずとも知っているんだけど。
さっきまで落ち着いてたのにまたちょっと緊張し始める。あたいは無意識の内に首筋を引っかく。今、期待しているのだ。さとり様に着けられるためのあの感触。
冷たく柔らかい、それでいてあたいがペットとして扱われるための装飾品。
「ずいぶん期待してるみたいじゃない」
「いえいえ」
それを手にして戻ってきたさとり様が呆れるように言ってきた。ごまかして笑っておく。ちょっと気恥ずかしい。
ここからは少しの間、立場は変わる。そうなればこうして笑って流すってことが出来なくなるのだし。今のうちに少しだけ。
さとり様の両手によって、首に革の感触が巻き付いてくる。
こうしてあたいに巻き付けられたのは、ペットに使うための深い赤の革の首輪。
長い紐がついてて金属のところで接続するようになっている。
もう一度、カチャリと鳴る金属音。さとり様が長い紐を動かすと合わせて擦れて音が出る。
いつしか出来た決まりごと。
さとり様に首を引っかかれた時はあの本みたいに人の形をしたペットになる日だ。主従の日。だから、今日のあたいはただ弱い存在で、主に逆らうことの出来ない存在。
あたいからねだるよりはさとり様からそう誘われることが多い。発端はあたいだったけどいつの間にかさとり様の方からが多くなった気がする。
数えてる訳じゃないから分からないけど、どっちでも嫌いじゃないからいいんだ。
「うにゃ・・・」
確かめるように引っ張られた感触にあたいのスイッチが入る。支配される、さとり様に。そのために弱い存在へとなっていく。
優しいさとり様から支配する者へ。あたいはそれに支配されるだけの物へ。
大きな高い壁が出来あがる。一つにはなれる訳じゃないけどあたいを外から守ってくれる居心地のいい壁。
「おいで」
気持ちが入り込んでくる。
首輪が留められた瞬間からここはもうカゴの中だ。あたいは食べられる側で、さとり様が食べる側。
刺さる目が鋭くなる。息の一つ一つが重くなる。
「お燐」
「はい・・・」
いつもならさとり様は柔らかな笑顔で自分の服を脱ぎ始める。
そしてあたいも服を脱いで触れ合って、平等で対等な立場での攻めぎ合い。
でも、今日は違う。これから先は二人は別の世界。絶対に敵うことのない戦い。ペットの中からさらにペットとして、主人のさとり様にこれから弄ばれる。
あたいに出来ることは、これから食い散らかされないようにひたすら哀願するだけだ。
─
最初に首輪をつけられた時にはさとり様の所有物になれた気がした。四つん這いになって歩かされた時には俯くほどに赤くなった。
でも嫌な気分にはならなかった。ただ、猫だった時にもやってたはずのことが今やってみたら恥ずかしい。
知識を得た事で表れたことだった。人の形を取るようになって感情が芽生えてそれを弄ばれることが快感になっていた。
動物のままだったら味わえないものだった。
だから、今でもまだこうして続いてて。
あたいはどんな形であってもペットという立場で、さとり様に仕えている。
あたいはベッドから降りて、いつもやっているように床の上でゆっくりと衣服を落としていく。
さとり様はじっとあたいの一連のその光景を見ている。
「そんなに、じっくりと・・・その」
「もう少しゆっくり脱いでもいいわよ」
「・・・はい」
言葉の裏が何となく分かった。
あたいは、言われた通りにゆっくりと。上着を脱いでまず下着の姿になる。
時々、無意味に衣服を拾い上げて体勢を変えてみたりする。脱いでいく時はしっかりとさとり様の方を見る。
ブラを外して胸を出した後はぐるりとその場で一回転してあたいの全ての肌を見せたりする。恥ずかしい時間を自分から延ばしていく。値踏みされてるような目で貫かれる。
「もっと見てほしい、って思った?」
「いえ、あの・・・」
「なに?」
「・・・恥ずかしい、です」
一枚一枚、肌を晒け出していく。身を守るものが消えていく。さとり様しか見てないけどどこで脱ぐよりも緊張する。
無防備でそれでいて何とも弱々しい自分の姿が表れる。
何度となく見せているはずなのに、恥ずかしい。いつだって、初めての時のような特別な日に思える。慎重に慎重に薄氷の上を進み続けているような気分。
「あの・・・脱ぎました」
あたいは全ての服を脱ぎ終える。今、着いているのは首輪だけ。
隠すことは望まれないだろうから、一番恥ずかしいけれど手は後ろに回す。さっきより少し肌寒い感じがする。でも、顔はとっても熱い。不安というのが一番大きい。
普通に裸でいるより何だか卑しく感じる。動物のペットは常にこういう格好なのに。いや、むしろ動物のペットを模しているからだろう。
「見られて感じてるのではなくて?」
「い、いえ、そんなことは」
「ならそのままじっとしてる?」
それは、困る。目の前にいるのに触れられないなんて耐えられない。心細くてそれを望みたくない。
「で、どうなの?」
「・・・さとり様に見られると、興奮、してしまいます」
触れられれば分かってしまうのだから、口で言わないといけないのだ。
そうしてあたいは自分のはしたなさを伝えるのだ。
さとり様の着けてくれた首輪を指で触れる。
今巻き付いているのは、命だ。心許ないこんな小さな首輪だけでも今のあたいにとっては唯一、身を守れるものなのだ。
さとり様のものになれる、さとり様の所有物だから守ってもらえる。
でもこれからのあたいが失敗すれば守ってもらえなくなる。機嫌を損ねれば見捨てられる。
本当に捨てるなんて事は無いだろうけど、今この不安な時に辛い言葉を突きつけられるのはイヤだ。だから、今からのあたいに物を申す権利は無い。
「そうやってちゃんと言うことを聞いてればいいことしてあげるわ」
「はい」
今からあたいは命令されて芸をして主に喜んでほしいペットだ。
さとり様の言うことに「はい」と言ってそれに答えるだけが存在の理由なのだ。
「それじゃあ・・・」
「んくっ!」
首輪の紐に重心が揺らされる。さとり様に操られている。身体の重心を奪われる。
転ばない内にあたいは腰を落としていく。膝をつき手を床に置いて、あたいは自分自身で四つん這いの体勢を取る。人から再び動物の猫へと戻っていく。
本当に正しく言うなら人の形をした動物へとなっていく。
「まず餌をあげましょうか」
すっ、と床に一つの器が置かれる。
四つん這いのあたいの目の前にあるのはペット用の餌を入れる器。動物達がよく使う、人の形のあたいのために用意された器。
その器に、さとり様が音とともに白いミルクを注いでいく。
「ほら」
差し出される。扱いは今変わる。
ペットに餌をあげるのと一緒で、あたいはすなわちペットで。
「にゃあ・・・」
一鳴き。
どっちの言葉で頂けばいいか分からなかったけど、こっちのほうが喜ばれる気がした。
「いただきます」を伝えたあたいはお皿へと近づいていって、舌をつける前に上目でさとり様の顔を見上げる。
ベッドの縁に座ってるさとり様はあたいを見下ろしている。少し笑みがあって、でも意地悪な目だ。どんな気分であたいを見てるんだろう。
とても恥ずかしい。じわり、と否応無くはしたなく濡れてきてしまう。
舌の先を白い液に着ける。手を使わない飲み方。
人の形になれてすぐの頃には動物の習性が抜けてなくてこの飲み方をたまにしていた。
その時はさとり様に止められてた。
ペチャリ、ペチャリと自分の立てる水の音。
あの時に怒られた仕草をこうしてまたさとり様の命令の下にやっている。
今になって分かるけど、すごくみっともない姿だ。あの頃に宿ってなかった感情が今は湧いてくる。
何度も、何度も舌をつける。
ミルクの味は入り込んでくるけどそれ以上にさとり様の物言わぬ視線が刺さってくる。さっきの顔を思い浮かべるだけで身体にじんわりと火が灯ってくる。
支えている手に少しずつ力が入らなくなってくる。興奮してきているのだ、この光景に。動物にされてるこの状況に。
見下ろされてこんな姿を見せているのが今はあたいは気持ちいいのだ。
とても静かな空気が重い。
あたいの身体は熱くなってくるけど、舐めている間中はさとり様は何も言わなくて。
長く味わっていてはいけない、待たせちゃいけないような焦りからあたいはひたすら掬い続ける。
何もされてないのにあたい一人だけ情けない。自分が追い詰められてることが怖くなっていく。さとり様に何か言われる気がする。
「ごちそうさま、でした・・・」
「はい、いい子ね」
器にミルクが無くなって。
飲み終わったあたいは、わしゃわしゃと頭を撫でられる。本当の猫にするように。
髪がかき分けられる感触を目を閉じて受け入れる。ペットの気持ち良さだ。可愛がってもらえてると実感する時だ。
不安の中にいたあたいの気分がホッとしている。仕事を無事に終えたようなそんな感覚。
飲み終わった顎に垂れていた雫も拭ってくれた。
そう思ってると、さとり様の指があたいの顎に垂れている白い筋を撫でた。不始末を拭ってくれた事に、ちょっと申し訳ないような罪悪感が胸に過ぎる。
ペットだからとしょうがないのだけど、やっぱり思ってしまうところはある。
「よしよし」
「んん・・・」
さとり様の膝の前で跪いて鎮座して次の命令を待つ。座った目線から見上げるさとり様は大きい。主の立場だ。
あたいが、動物になるための最初の儀式。
さとり様の可愛がられるためのペットであるために。ここからが始まり。
────
「おいで」
ベッドの上へと招かれる。床の上で這い蹲っていたところからさとり様と同じ場所へと。
手の動きに導かれるまま背後を向かされ両手を回されてさとり様の胸の中に抱かれる。
斜め後ろにあるさとり様の目の位置はあたいの肩ぐらいだ。
そのまま、さとり様の身体に背中を預けてもたれかかる。隙間を無くして甘えついでに肩に頭を乗せて全部の体重を乗せる。
「重く・・・ないです?」
さとり様のあたいより小さい身体を見て少しそんなことを考える。
猫の姿の時はずっと大きくてすっぽり収まることが出来たのに、今の姿だとあたいの方がずっと大きい。
それでも何だか敵う気、ってのは全然無いんだけど。
「大丈夫よ、別に」
そう言うのなら、大丈夫だろう。
もしかしたらあたいが心配するようなことでもなかったのかも知れない。今までもそうだったし。
「ほら、いらっしゃい」
「んん!」
首輪の音を鳴らされてぐいと振り向かされる。
斜め後ろにあたいの顔は持っていかれて、そのまま肩越しのさとり様の顔へと近づいていく。
「舌出して、ほら」
命令された通りにだらしなく口を開いて、舌を唇の前へと突き出す。たぶん変な顔してるんだろうって思う。
気づく。白みがかってる唾液が落ちた、みっともない。
「んっ、んぁぁ・・・」
さとり様の微笑の顔がどんどん寄ってくる。あたいは差し出した舌を食べられ、唇と唇が触れ合わせられる。
柔らかくて瑞々しい感触が重なって、唇を包み込む。甲高く唾液の啜りあう音がする。
「ちゅっ、んむう・・・」
さとり様の舌があたいの口に入ってくる。塗り潰していくようにあたいの中を撫で回す。
絡めていく。動いている舌に触れるのが気持ちいい。あたいの、ミルクの味の唾液が舐め取られていく。
力が抜けていく。さとり様の持ってる首輪に身体を預けていく。
口の中の空気が一つになっていく。舌がひっつくたびあたいがじわじわ痺れてくる。
「あ・・・はぁ・・・」
唇が離れる。息を深く吐く、脳に酸素が戻ってくる。
さっき拭き取られたばかりなのに、またあたいの顎が汚れてしまった。
首輪の感触と併せて、顔が征服されたようで。まず一つさとり様の物になれたような嬉しさが湧いてきていた。
「触るわよ」
さとり様があたいの身体に手を這わす。
脇の下からさとり様の腕が伸びてくる。細くて少し冷たい。
「あっ・・・」
「いつ見てもいい身体よね、あなたは」
「そんなこと・・・」
さとり様はいつもあたいを褒めてくれる。
変化した時からこういう体型だったから、本当のところはよく分からない。その辺の仕組みはよく分かってないままなのだ。
「無意識の記憶の積み重ねからその形になる」とか言われたけど、いまいち掴んでない。
「難しいことは後で考えなさい」
「あ・・・はい」
さとり様の両手が胸に触れてくる。
そうだ、今はそういうことは考える必要は無いんだ。さとり様のペットとして扱われることが今必要なことで。
指がゆっくりと動いてくる。優しく、上や下へとさとり様の手は動く。パンでも握るぐらいの力。
柔らかく胸の肉にめりこんできては、ちょうどよく離れていく。マッサージをされてるみたいで何だか柔らかい。ぐにぐにとあたいの胸はさとり様に動かされていく。
自分で触るよりも、ずいぶん気持ちがいい。人に触れられることが気持ちいい。
何だか、愛でられてるって感覚に包まれてくる。
「そこ、はぁ・・・」
「敏感なのね、やっぱり」
それと同時に、さとり様があたいの髪に鼻を埋めている。
触れた刺激に耳が揺れ動く。
その様子が面白いのだろう。さとり様は何度も何度もそれを繰り返す。
普通の猫の耳は敏感だからあまり触らないようにしてるみたいだけど、人型のあたいに遠慮は無いんだろう。
「勝手に手を動かさない」
ちょっと変わってピリッとした声が入ってきた。
あたいは無意識の内に湿り気を帯びた下半身を自分で触ろうとしていた。胸の刺激と一緒にいつの間にかもっと欲しがっていた。
擦るだけでもせめて、なんて。
「す、すみません・・・」
あたいは命令無しで動いてはいけないのだ。そのための首輪だ。反省の印としてあたいは膝の横に手を置いておく。
ちょっともどかしいけれど、今日の約束はそれだから。
揉みしだいて遊んでいたようなさとり様の指が胸の先っぽにやってくる。
「ふあ・・・!」
ぎゅ、っとされてぐりぐりと二つの指でつままれる。
思わず声が出るぐらいだった。待ち焦がれてた強い刺激。揉まれてる時からもうちょっとだけ痺れる。
「どう?」
そこからぐにぐにとあたいは先端を弄ばれる。
少し痛いぐらいに絞られてあたいの脳を刺激に浸らせる。思わずびくりと背筋が伸びて、さとり様にもっと体重を預けてしまう。
息を深く吐く。じんわりとしていて、温かい。さとり様に触れてもらってるということが。
「きもちいい、ですっ・・・」
面白いところを見つけたとばかりにさとり様は何度もつまんでは引き伸ばす。
「そう、じゃあここね」
「んにゃぅ!」
胸の中に埋めようとしてみたり指で弾いてみたり、機械の操作をされるようにあたいはそのたびに声を出してしまう。
何度も何度も、背中を逸らしては身体をくねらせてしまう。
そのたびに声をあげるあたいを、さとり様は楽しむような目で見ていた。
あたいの胸はどんどん硬くなっていって、そこから汗ばむぐらいにまで長くずっと、さとり様はそこだけを延々と弄んでいた。
じれったくてむずがゆい感覚が湧いてくる。膝に置いていた手を思わず食い込ませてしまう。
胸の責めで、さっきよりあたいは濡れていた。
先ほど咎められたことでなおさらに意識し始めてしまって、さとり様に早く触れてほしくてまた疼いてきて。我慢出来なくなってきて。
「お願いします」っておねだりしてしまおうかな、ってそんな事を考えて
「お燐」
その思考を浮かべた瞬間、また、さとり様の雰囲気がちょっと変わる。適温から少し熱いお湯になったような。
あたいに有無を言わせないような強さが、今のさとり様に感じる。
「んあぁ・・・」
首輪を引かれ顎を手で掴まれる。強引にあたいの身体を持っていって目の前へと振り向かせる。
囚われた動物のような怯みがあたいの中に渦巻いてくる。
「反抗したいみたいね、あなた」
凛とした声が通ってくる。さとり様の目がものすごく近い。
「す、すいません・・・」
反抗だなんて、そうは思ってないのだけれど・・・でも、さとり様が言うのなら、きっとそうなんだろう。本当はそういう事だってことになるんだろう。
悪いことしたのは確かで、言い訳なんて出来ないのだ。
あたいは、抱いた恐れの反面で内心はバクバクし始めている。さとり様があたいの弱みを掴んだ、一つ何か言う事を聞かせられるんだって。
きっと、待ってたんだろう。そういう事を少しでも思うのを。だから・・・たぶんさとり様の期待通りでもあるんだ。
「腕、上げなさい」
さとり様の命令だった。ああ、何かされるんだ。ちょっとだけワクワクしてしまう。
あたいは腕を頭の上で組む。抵抗出来ないように。自分でやってるだけなのに、縛られたみたいな風だ。
脇の下からさとり様の両手が入る。さっきの胸とは違って、もう少し下のあばら骨のある部分。
さとり様は今度は掌じゃなくて、全ての指先をあたいの肌へと向けた。
「んにゃゃぁぅ!」
じゃかじゃかじゃかと。動物に石鹸をつけて手で洗う時みたいに指先が上下させられる。
だけどそこには指の腹じゃなくて固い爪が向いていて。優しい刺激はそこには無くて凶器となってあたいの肌に突き刺さる。
あたいは思わず悲鳴が出た。激しい動きだった。
「こら」
捩ろうとしたあたいを首輪が制す。動くな、っていう命令だ。この痛みをじっと受けなきゃいけないのだ。
言うこと聞けなかったあたいへのお仕置きはさとり様の爪を研ぐための木になることだった。
「あっ・・・うぅ!」
次の場所は脇腹。触れられてなくとも、指先を突きつけられただけで不安が出てくる。
またさとり様の爪は上下にあたいの肌を刺激する。掻き毟られるような動きに責められる。くすぐったいのと痛いのが同時に襲いかかってくる。
血が出るような強さじゃないけど、それでもさとり様の力加減一つだ。少し怖くて、しょうがない。
二度三度とやってくる刺激にあたいは腕をぎゅっとする。動けないから、耐える。
「はい、次」
「や、やです・・・」
首を振る。金属の音が鳴る。次に突き立てられたのは膨らんでいる胸のところだった。
硬くなってきてて敏感なこの先っぽをかきむしられたらどうなるか、なんて。想像だけで怖くなる。期待してしまう。
でも逃げられないから、覚悟しなきゃいけない。やると決めたら絶対だから。
「ひいうぅ!」
引っかく刺激がまた入ってくる。他のとこより柔らかい胸は遠慮なくあたいに痛みを伝えてくる。固くなっていた先端も遠慮無く毟っていく。
ざくざくざくと刈られていく。
来る怖さに目を閉じる。見ていると想像が膨らんでいくようで、あたいは目を背けた。
「ダメじゃない、目を閉じちゃ」
今度は不意を打ったように爪じゃない指先で撫でられている。
痛みじゃなくて、今度は柔らかい。肉の感触。
「あ・・・ぐううぅぅぅ!」
そしてまた爪で引っかかれる。二つの刺激がない交ぜになる。
手を上げて抵抗出来ないあたいはさとり様に翻弄されていく。怖さと気持ちよさと、心が混ざっていく。
弱くなった痛みはじんわりと染み込んでくる。息がつけない内にまた痛みを重ねられて上塗りされていく。あたいの中の区別が少しずつ無くなっていく。
「はい、じゃあ次はこっち」
「やぁ・・・」
背中に指の感触がした。
あたいの場所はいっぱいある。きっとまだ、無事なところがある限り、長い回数続くのだろう。それを思うとあたいは・・・先を考えたくない。
「手、下ろしていいわ」
そこからあたいに、何度も何度もこのブラッシングが降り注いできた。
傷がつくほどの強さじゃないけど、あたいに恐怖心が植えつくには十分だった。あたいのことは文字通りに指先一つだと。
「はあ・・・ふう・・・」
さとり様があたいから離れる。膝の上からベッドの上へと座り込む。
正面に来たさとり様が、あたいの頬に触れる。
「どう?」
「ぼーっと、してます・・・ふわふわ、ってなってて・・・」
シーツを握る手が柔らかくなる。身体の痛みは軽く引いてきて、いつの間にか気持ちいい刺激へと変わっていった。
喧嘩でつくような傷はただ痛いだけなのにさとり様につけられた痛みは何だか心地よくなれる。
さとり様の手はひどい事にはならないって安心しているから。そう信頼しているから痛い事でも気持ちがいい。
あたいは、太股を擦り合わせていた。結局ずっと、下半身はほとんど触れてくれなかった。
裸になった時からずっと欲しかったのに、今までずっと焦らされてきた。
たぶんわざとだろう。あたいの中はもう熱くなって欲しがっていた。もっとたくさん欲しい。芯を触れてほしい。
「そう、もっと欲しいって?」
「・・・あ、う、ごめんな、さい」
言葉にされる。思わず俯いてしまう。
上半身ばっかりの刺激で、あたいは飢えていた。座っていても触ってほしくて足を無様に開いていた。
またあたいは望んでいた。先ほどそれで怒られたばかりなのに。
「まだ少し躾が必要かしら?あなたには」
「え・・・あのっ、それは・・・」
ちょっとだけ、胸が揺れ動いた。
ドキドキしている、その言葉から何をされるんだろうと考えてしまう。
でもどんな事であろうともきっとひどい事になるだろうから、ちょっとだけ否定する。受け入れてしまうのは、やっぱり恥ずかしい。
完全に入り込んでしまう事にちょっとだけ躊躇った。
「今度は・・・その欲しがりな口ね」
「えっ・・・」
あたいの身体は突き飛ばされ視界が天井へと向いていく。
ばさっ、と強い音がする。あたいは布団へと倒された。
さとり様があたいの上に乗っかる。軽い身体だけど跳ね除けられない、それをする訳にはいかない。
「やぁ・・・あっ・・・」
急な動きに吐いた息が熱くなる。声が混ざってしまう。空気だけ吐き出したいのに喉までだらしなく震わせる。
動転していて思考のおぼつかないあたいの瞬間を狙って口に指が突っ込まれる。
「ぐぶっ!んん!」
さとり様の指が二本、喉の奥の方にまで入り込んでくる。
のけぞりたくなるぐらいに深くまで来て、それでいて暴れ回る。
「イヤなのかしら?」
「んんむぅ!」
喋れない。けれどあたいは必死で首を振る。でもあたいの声など聞こえないようにぐりぐりと指をかき回される。
中の指ともう片方の手で顎を掴まれて揺らされる、ただひたすら。
躾とは、結局こういうことなんだろう。
だからあたいは自らの手をそのままに置いておく。抵抗は出来る、出来るけどそれはしないししちゃいけない。
操作は全てさとり様に委ねなきゃいけないのだ。
「んんんっ!んぶぅ!」
視界が右往左往する。さとり様の思うがままに振り回される。縦に、横に、上に、下に。
頭はぐらぐらして三つ編みがあたいの顔を刺激する。
目が回る。平衡感覚が消えていく。
「あっ・・・はう"ぁ・・・」
口を解放されたあたいは涎だらけだった。
唾液が二滴と三滴とさとり様のベッドのシーツを濡らす。
生ぬるいものが頬に触れる。
さっきまで口の中に入っていたさとり様の指だ。乾いた布を使うみたいに、あたいの頬で拭っている。
念入りに、抓るようにあたいの身体を使っている。
「分かった?」
「・・・はい」
力関係は、こうして刻みつけられる。今日もまたあたいはさとり様に敵わないと教わるのだ。
────
「まだ、逆らいたいのかしら?」
上から降りかかる冷たい声がゾクッとなる。氷を押し付けられたかのような声。あたいは必死で首を振った。
見上げたさとり様は、支配者然とした顔だ。あたいはもう手中で掌の上の存在なのだ。
不安な気持ちが一気に湧き上がってくる。身体は熱いのに背筋が冷たくなってくる。このまま食い散らかされる、って本能的なもの。あたいは今、不安定な橋の上に立たされている。
「・・・申し訳、ありません」
「それだけで済ます気?」
あたいの中に逆らう気なんてさらさら無いのだけど恐怖の方が勝る。全身に痛みを伴わされて物を言う口を咎められ、あたいの肉体はボロボロに弱っていた。
この空間の中で肉体も精神も無事なさとり様が強い存在になって膨らんでいって、あたいの頼りになってくる。
強い存在の言葉には従わないといけない。獣はそうでないと生きられない。今はそういうことだ。
その頼りたい人に、今はどう許してもらえばいいんだろう。あたいの道は塞がっている。袋小路の中にいる。
「言うこと聞く?」
さとり様からの突破口だった。許されるための。追い詰められたあたいへの。
「どんな事でも、します」
嬉しさが止まらなかった。再びさとり様に好きになってもらうために。こうして服従を口に出してしまったことに。今こうして弱いあたいが強い主の命令に従えることに。
どんな命令されてしまうのだろう。きっとあたいをいたく苛むものだろう。屈辱的でとっても辛くて。
それでももう待ち望んでしまっているのだ。
あたいはもう餌を待つペットなのだ。
さとり様がくれた茨の道なら歩ける。それがあたいのために用意してくれた餌だから。
「ならば反省なさい。頭をつけて」
さとり様はベッドの端へと座り込む。
あたいに何かをために広くスペースを空けた、そんな風な動き方だ。
「教えたでしょう?反省する方法」
「・・・はい」
教えられたことがある。人間の世界の中では一番に謝罪の意思を示す体勢。
「使うことが無いといいわね」なんて交わしながら聞いていた。でも、さとり様にならいい。それ以外ならしたくはない。
「床でやってもいいわ。でもそれほどの存在だったら蹴り飛ばして終わるけど」
さとり様は笑みをたたえて言った。たぶん、冗談だろう。あたいの顔は固まってしまって笑えないけど。
選択肢を与えるようでいてそれでいて実質的には一つ。それでもいい、あたい自身が選ぶことが重要なんだから。
これで終わりには、してほしくない。この身体の熱さのまま放り出されるなんてイヤだ。
あたいはさとり様の空けてくれたところに正座をする。そこから床の時みたいに四つ足になってそこから更に肘を置き掌を置く。
しっかりと頭を下ろし額を布団につける。
あたいが取った体勢は「土下座」だった。
この体勢が一番の屈辱なのだ、って。昔のあたいにはいまいちピンと来てなかったけど相手に一番に誠意を示す体勢がこれだって。
動物の格好のようになって額を擦り付け無防備な背中を晒して無抵抗な体勢で許しを得るためにひたすら謝罪し続けるのだ。
だから、さとり様への一番の反省はこの体勢を取ること。
これが屈辱だと思うようになることこそが人らしさへの証だと何となく分かる。そして今こうしてさとり様にこの体勢でいることが、とんでもなく卑しく思えてくる。
「分かってきたみたいじゃない」
「んっ、んぶ・・・」
動いてたさとり様の手があたいの頭を掴んで、布団の中へとずぶずぶと沈められる。更なる反省を促されてるようだ。
あたいの心まで、底へ底へ向かっていきそうになる。
口が塞がってきて息苦しくなっていくことが心地良い。あたいの心がどんどん壊れる音がしてくる。
「低く扱われて愉しめるってのは人らしいってことなのよ」
「ふ、ふあい・・・」
このまま十秒ほど。
あたいはそのままで沈められ続けた。時々にぐりぐりとかき混ぜられた。その度に濁った声が出た。今のあたいは人として扱われててその最底辺で。
反省が足りないんだろう。きっとまださとり様は許してくれないから、あたいが悪いのだ。その罰だ。
「ほら」
「い”ぎっ!」
「汚らしい声出したわね」
首輪を持ち上げられる。急に喉を圧迫されて唸るような声が出た。
地に向けていた顔を正面に向けられる。いきなりの衝撃に置いてけぼりなあたいの顔を、さとり様の手が撫で回している。
目、鼻、頬、口、一つ一つのパーツを確認しているように。口から垂れた唾を拭われたのが恥ずかしい。
「いい顔」
あたいは今、自分の顔すら自信が無くなってきている。ぐしゃぐしゃになっている。
その顔を褒められるのが、怖い。不安になってくる。でもさとり様の顔は、何だかうっとりとしてるように見える。
「気持ちいい?」
「・・・はい」
ときめいていた。心から疼いていた。さとり様にどうにかして構ってほしい。
小さいあたいがここにいる。掴んでほしい。どんな風でも構わない。何だってする。
「じゃあ、こっちにお尻を向けてもう一度」
さとり様の命ずるがままに、あたいは虫が這いずるかのように動いて、さっきの方向とは逆に額を押し付ける。
ずぶ濡れてぐちゃぐちゃになって大事なところをさとり様に向ける。
望むことに近づいた、って希望が出てきた。
「もうすっかり出来上がってるわね」
「・・・さとり様にずっと」
「頭上げない」
「はいぃ・・・」
そこから、さとり様からの動きが無い。
音から察すると少し離れた場所にいるはずなのだ。だけど、動きが無い。
そのまま数十秒ぐらい、土下座の姿のままあたいは放っておかれている。一刻も一瞬も狂いそうなほどに長い。頭を上げてはいけない。待ち続けるしかない。
吐息が熱くなっていく。湿ってきてて、もどかしい。
「いじってほしい?」
あたいの耳が動いた。待望だった。びくびくとなるぐらいにもどかしい。
それ以上のことは無いほどに。
「してほしいです・・・さとり様の欲しい」
お仕置きをたくさん受けてその熱にじりじりと焼かれて、あたいはもう限界だった。
どんな風に辱められてもいいから強い刺激が欲しかった。
お尻を振るように動かして哀願するほどだった。
「おねがい、おねがいしますぅ・・・!」
狂いそうだった。抉ってほしかった。
「そう」
「んぎひぃぃ!」
とうとう、あたいの膣内(なか)に、指が入ってきた。少し冷たい指先が抵抗無く入ってくる。
すごく来た。期待して待ち望んてたことだった。
「それ、です・・・っ!」
足の指から頭の先まで電気が走ってくる。待たされ続けた分、強烈だった。
全てのものが無くなっていくぐらいにあたいの身体は衝撃を受け続けた。
奥の奥へと入ってくる。一瞬もぼんやりしたくなくて、あたいの全部が集中していく。
あたいの膣全体が拡げられてくる。さとり様の指先から根本で膣中の壁が掘り拡げられていく。
フックみたいな形であたいの中で暴れている。
「んっ!あ、ああっ!」
「ここが弱いのね」
膣の中の少し右の辺り、あたいが一番感じるところ。
さとり様はその能力で弱いところを的確に触れてくる。強いも弱いも完璧で、痛いことすら気持ちよさへ混ざっていく
この人の目に見抜かれればあたいはただの動物なのだ。人の形をした喘ぐ動物。
「食べてるみたいに離さないわねぇ」
呆れた言い方をされた。蔑まれながらもそれでもあたいはこの指を離したくなかった。もっと欲しがった。それだけ気持ちいいのだ。
さとり様は膣内の弱いところへ集中して、激しく動かしてきた。あたいはなりふり構わずその指を貪った。
「顔上げていいって言った?」
「ごめっ、なさ・・・っ!」
咎める言葉が突き刺さる。いつの間にか浮かしてしまっていた顔を再び埋めた。この体勢はすごくきついんだと思い知らされる。あたい自身で動かせないのだから。
縛られてるのだ、縄も無いのに。体勢の維持はそれだけで。
挿れられた時は冷たかったさとり様の指。でも今は温かくなっている。
あたいの身体の中で暖まってきている。温かくそれでいて動かされることに抵抗無くなってきてて。
抵抗無い感覚はあたいの膣内でどんどん暴れてくる。あたいの液をまとった指は曲げて、折れて、抉って蹂躙してくる。
ずぷりと奥に来るたびあたいの腰は跳ね上がる。温かい痺れが、襲ってくる。
下に敷かれて折り畳んでいる足がもどかしい。さとり様の動かす指の妨げになってしまっている。邪魔じゃないか、って思ってしまっている。
でもこれは、この体勢は、さとり様の言いつけだ。破る訳にはいかない。
「足広げるぐらいなら許してあげるわ」
「ありがとう・・・ございますっ」
「潰れたカエルみたいになりなさい」
「はい・・・!」
さとり様の許しの言葉で、あたいは正座を崩して足を八の字へと広げた。ずらしたところのシーツが冷たく触れる。
たとえ読んでくれたと分かっても、伝わってくれて嬉しかった。
「ひどいわね、今のあなたの姿」
塞がっている暗い光景の中から自分でも想像する。上から見たらさぞかし情けないんだろう。
本当にビクンビクンとだらしない姿で腰を振っていて、今のあたいは世の中で一番醜い存在に思えてくる。
その姿をさとり様に見せている。そして味わわされている。
上からの姿を想像していたら、心寂しくなってきた。
さとり様の顔が見たい、でもそれが叶わない。暗闇しか無い、目から入ってくる情報が無い。
今頼りになるのは膣内の感触だけで、それでさとり様の指に神経が集中してしまう。
「あっ!やっ、あああ!」
あたいの腰はどんどん沈んでいく。潰れてもがいている。さとり様の手をもっと感じたい。
さとり様に少しでも深く触れていたい。求めている。真っ暗な闇の中からさとり様という命綱を。
震えてくる。足の指先に力が入ってくる。
「ふふ・・・」
さとり様の吐いたかすかな息、それと鈍い水の音が聞こえてくる。
ぐじゃぐじゃぐじゃと音がする。あたいの膣内から出る水の音はあたいに甘みある痺れをくれる。
「くだ、さいっ・・・!もっとぉ・・・!」
指がごりごりとあたいの膣内をつついてくる。たくさん欲しい。ずっと待たされ続けて灼けるように。
端から融けていきそうなほどにさとり様の指は抉る。痛みに近いからこそ気持ち良くなっていく。
「いいわね・・・人じゃなくてケモノに堕ちた姿」
さとり様の言う通り、あたいは人であったけどもうケモノだった。
お尻を振ってただ求め続けていた。ただひたすら餌を貪りたがっていた。
「こんなのとかいいんでしょう?」
いきなり破裂する音がした。と同時にあたいのお尻に痛みが走った。
叩いたんだって分かった。
「んあっ!みゃぁっ!」
何度も何度も叩かれる。痛みが走ってそのたびにあたいは 声を出していく
お尻の肉をつねられ適当に引っ張り回され更に玩具にされる。
「答えなさい」
「いいっ!いい、です!」
引っ張られた肉がじんじんする。だけどすぐに、圧倒的な気持ち良さに流されていった。
もう何でも気持ち良かった。あたいの「痛い」と「気持ちいい」の基準は大きく跳ね上がっていた。あたいは、叩かれて悦ぶ変態になったんだ。
心の中にあったありとあらゆる基準が溶けていく。痛みも快感もドロドロになって浸される。
「屈辱で気持ちよくなるのは人らしい証拠よ」
さとり様の声が上から降ってくる。反響させられるようにもう一度。
今のあたいにとっては声をかけられることすらありがたかった。絶対的だった。
「でも屈辱を受けて気持ちよくなるなんて変態よね」
「・・・っ!」
布団に顔を埋めている今のあたいにとっては耳だけが頼り。でも、さとり様は耳からも責めてくる。
快感を与えられる傍らでさとり様の言葉が耳を突く。
じゅぶりじゅぶりと耳から入ってくるあたいの中の水音とさとり様の蔑む言葉が混ざる。
「ごっ、ごめんなさいぃ!」
シーツを掴んで謝った。そこから先に何を言われるのか考えたくなくて。
無我夢中で謝っていた。あたいは変だ、ごめんなさいって。それ以上を言われるのが辛くて。
「やっぱりあなたは変態なのよ」
さとり様の言葉に反論の口は開けない。
泣いている。言われた通り変態だから。土下座して、弄ばれて気持ちよがってる変態だから。
引き剥がされていく、ボロボロになっていく、貶められていく感覚に落ちていく。無重力に飛んでいく。
絶望の中を泳いでいく。ざぶざぶと曇った音を出す水の中へ。
怖くて無残に融ける。無様な姿であたいはどんどん深くなる。闇の中へとどんどんと。
「ぎいいっ!」
「もっと苦しめてほしいんでしょう」
首が苦しい。首輪の紐が引っ張られる。
思わず手で押さえようとして、それでもとっさに思い止まってまたシーツを掴む。
あたいは今は頭をつけてなければいけない、でもさとり様は首輪を引っ張る。
どっちもさとり様の命令だ。従えば逆らうことになる。従いながら逆らわないといけない。首が吊られる。苦しい。でもあたいは気持ちいい。
さとり様に理不尽を押しつけられることが気持ちいい。頑張れるから。叶えたいから、さとり様のために。
「う"ぃぎっ!いいっ!」
さとり様の指はどんどん動き続ける。じゅぶっじゅぶっと空気を含む低い水の音。
激しくて止まらない。あたいはもう、さとり様の玩具だ。無抵抗でただひたすらさとり様の望むがままに声を出してしまう玩具だ。
シーツに涙を染み込ませている。苦しくて嬉しい。遊ばれてるから。
「私がそのあなたの飼い主」
あたいの膣内で指で円が描かれる。もっともっと混ぜられる。太股に垂れた液を掬ってまた抉ってくる。
動きが激しくなってくる。ぎりぎり、ぐりぐりと責め立てられる。痛みもあるけど全部気持ちいい。濡れた刺激がさらに強くなる。
意識が無くなっていって白い景色が混ざってくる。どんどんと。背中の甘い痺れがもう止まらない。
「あなたを飼ってるのはこの私」
「はぎっ、い"いっ!」
白さの中にいるあたいに、繋がる言葉だった。守られてる言葉が幸せだった。
あたいはさとり様に飼われてるんだ。繋がる言葉が嬉しかった。心の枷が取れていく。ほぐれていく。
服従して支配されてる今が幸せだった。
「でしょう?」
「あ"ぐっ!うぶう!」
あたいの声は布団に混ざって濁っていく。不完全に通っていく。
布団の中に本当の猫のように指先を埋めていく。そうでないと飛んでいってしまう気がするから。
伝えたいこと心にいっぱいあるのに頭が痺れて回らない。
「さと、りっ、さま"ぁ!」
「いいのよほら」
大きいの、くる。だから、ぐっと、最後につかんで
「ふぐううううううっ!」
「あぁ・・・は・・・ぁっ」
潰れた体勢から更に潰れていく。突っ伏したまま更に深く。全部の力が抜けていく。
折り畳まれたままの足が痺れて動かせない。
首輪が、引っ張られる。
息が整わない。力の抜けきったあたいは抵抗無くさとり様のところへと導かれる。力を振り絞って身体をひっくり返す。
すっ、っとさとり様の手があたいの足を擦っていく。伸ばすように促してるんだろう。
解放された足をゆっくりと伸ばして、ベッドの上にふさわしい体勢へと戻っていく。
ばさっと前髪がかき上げられる。汗だらけの顔なのに。
あたいは、まだぼんやりしている。さとり様の二つの目でじっと見られる。今の顔を見られるのは恥ずかしいけど、さとり様になら見せられる。
「可愛らしい顔」
さとり様の言葉が染み込んでくる。熱さが温かさに変わって体の中に染みてくる。
ペット達に向けている、よく見た笑みの顔だ。いつだって安心出来る顔。心細くて卑屈だったあたいを救ってくれる言葉と顔。
「ありがとう、ござい、ます」
作れる力も無かったけど、精一杯に笑顔を浮かべて伝える。弱くて、それでも今の全てを。
幸せな気持ちだから、そう伝える。
この顔があるから、あたいは安心して身を任せられるんだ。
どんなにきつい事をされても最後にちゃんとこうして褒めてくれるから。
だからあたいはどんな事だって、受け入れられるのだ。
────
「んん・・・」
瞼の裏からでも光が見えていた。窓からはうっすらと光が差してて結構な時間経ったんだって認識する。
あれから何度も何度もイカされて、数は五回を超えてからは覚えてなかった。すごく疲れているのだけは分かる。
ああ、でも著しいほどえらい姿を晒したのだけは思い出して顔が火照る。
「お疲れ様」
目の前に見えたさとり様の声。もうとっくに起きてて身なりまで整えていたようだ。
今、気がついたがあたいに纏わりついてた色んな液もすっかり拭き取られてる。最初から何も無かったように。
じっと寝顔を見られてたみたいで、気恥ずかしい。昨日はもっと恥ずかしいことされてたはずなのに。
とりあえず、色んなこと言いたいけれど気怠さと満足感に包まれて動けない。
「大丈夫?痛みは」
「大丈夫ですよ」
「昨日は一段と当たってしまったわね、平気だった?」
さとり様の手があたいの顔やお腹を優しく撫でてくる。
昨晩は確か爪を立てられて、お尻を叩かれたりして。でも、あの時の痛みは今は緩くなって烙印みたいに心地良い刺激になってまだ全身にへばりついている。
だから、さとり様が思うような問題ではなかった。
むしろ恥ずかしい姿を晒し過ぎたせいで今ちょっと顔が見れない方が問題なぐらいで。
「私がそうさせてるんだもの。気に病む必要無いわ」
「あー・・・」
そう言われるとあたいとしても立つ瀬が無いというか。責任背負わせちゃって逆にどうしようと思ってしまう。あたいにもうちょっと責任負わせて罵ってもいいんだけど。
でも気持ちは楽にはなってしまったから、やっぱりこの人は頼もしい。
「えっと、あの・・・・・・さとり様」
「いいわよ」
なんとなく甘えたい、さとり様に。猫だから。温かいところは好きなのだ。今一番温かいところへいたいのだ。
さとり様がベッドに座ったのと同時に、その膝に乗っかる。夜はさとり様の顔見えなかったけど今は向かい合う体勢。
抱きしめて存分にくっつく。体温があって柔らかくて小さくて気持ちがいい。背中越しより前の方がいっぱいの温もりを感じる。
「いい子だったわね」
「うにゃぁ・・・」
さとり様のなでなでが嬉しくなる。恥ずかしい目も苦しい目もこうやっていると楽しい思い出のようになってくる。
笑顔になってくれるのならペットとしてまた尽くそうって何度も思えてしまう。
「ありがとうね、お燐」
「えへー」
座ったさとり様に導かれるように膝に頭を乗せる。見下ろしてくる顔が今は柔らかい。
夜の支配者の顔も、今の顔も、どっちもさとり様だ。あたいはよく知ってる。だからどっちも好きだ。
「さとり様も大丈夫でしたか?」
「ええ、おかげさまで」
ああ良かった。それならいいや。
さとり様が呼び出す時は、だいたい何かあったんだろうって日だ。よく分からないけど嫌なことがあって、だからあたいをペットとして可愛がるんだろう。
そういうの分かるからあたいは求めに応じる。それで癒されるのなら一番嬉しいから。
「そういうのは心配しなくていいの」
頭に手を置かれた。そういうところで力になれないのは少し寂しいけれどあたい一人の手じゃどうにもならないとかそういう事かも知れない。
たぶんだけど、心配かけさせたくないのもあるのかも。だから無理に何があったのかってことは聞かない。
あたいが必要になった時に必要とされるならそれでいい。
「あたいはペットですし好きに使ってくださいよ」
「そういうの弱いのよね。ふふ」
その何か企む悪い笑顔。ああダメだ、余計なことを言ってしまった。
あたいはどうも良くない次回への伏線を張ってしまったようだ。ワクワクしてしまう。
「次はもう少し優しくしましょうか」
「出来れば恥ずかしくないのがいいんですけど」
「それはダメね」
「えー」
この一瞬の却下。
また何かされることが確定されてしまった。
「でも、ちゃんと気持ち良くしてあげるわ」
「あー・・・はい、お願いします」
その言葉がまともに機能してくれることを、祈るのみだ。
何だかんだで、やっぱりあたいは気に入ってるんだろうなあ。
それ以上に正しい言葉ってのは無くて、それでいて特別な感じがする関係。
その人が好きでそれでいてその人も面倒見てくれて、代わりに癒しになって可愛がられてたまにちょっと意地悪される。
喋れなければ問題無いけど、言葉があるとちょっと厄介。でも通じ合ってればそれすら問題無い。
「ペット」っていう、あたいとさとり様の大事な関係。
※はえてません
「今日もお疲れ様」
今日の分の仕事が終わって、地霊殿に戻ってきて。夕ご飯食べてぼんやりのんびりとソファで過ごしていたらさとり様から声をかけられた。
主の前じゃあシャキッとしていたいけれど、満足と化した今のあたいにゃそれはきつい。
「よーしよし」
「うにゃー」
そんでもってそんなにさとり様は厳格じゃあない。無礼とか何も言うでなく頭をわっしゃわっしゃされる。
あたいの髪をさとり様が撫で散らかす。ええいやかましい。尻尾で跳ね除けようと試みてはみる。まあ悪い気はしないんだけどちょっと乱雑だ。
それでもさとり様だから良しなのだけど。
「今日も仕事量多くて悪かったわね。あちこちにも走ってもらっちゃって」
「いやそんなことは無いですけど」
「助かってるわよ本当」
「ありがとうございます」
さとり様も何やら大変そうだった。
色々な人の応対して、話し合いしていたみたいだし。偉い地位の人ってのは何やら大変で、あたいの方がそういう点じゃまだ楽だ。
それでも改めて声かけてもらえた、っていうのはやっぱり嬉しい。
「ねえ、お燐」
なでなでの恩恵を甘んじて受け入れてぼんやりと幸福にしてるとあたいを撫でる手が止まった。
「ん?」と思っているとさとり様の雰囲気がちょっとだけ切り替わる。真面目な話をする時の空気だ。
あたいの肩に重みが乗っかって、さとり様の顔が大きく近づいた。
「今日の夜って大丈夫?」
「今夜ですか?」
こう言われる、というのは夜の誘いという事だった。
珍しい話じゃない。そういうのぐらいはする。誰も嫌がることじゃないし気分じゃなければ断ってもいい。
もちろんあたいにとっちゃ嬉しいことなので断る理由は無い。
「こっち側だけど」
ざりざり。
「あー・・・えっと」
一転して少しだけ躊躇が出る。
さとり様の爪があたいの首に刺激を走らせる。浅く引っかかれている。
戸惑って顔がちょっと熱くなった。鼓動が一つ跳ね上がってくる。こうされた日の夜のことが想起になって心拍数が上がってくる。
「大丈夫、です」
「そう」
ちょっと声が震えながらも肯定の返事をした。
引っかかれた爪痕は、あたいとさとり様との合図だ。秘密の、とってもな夜を過ごすための呼び出しの合図。
普通に愛であう時もある。さとり様もあたいも裸になって触れ合い深め合うコミュニケーションの時。
でもこの合図があった時は、それとは違う。もう少し濃くてそれでいて気恥ずかしくなっていく時。
「十一時ぐらいかしらね」
「はい・・・」
伝えるだけ伝えてさとり様は去っていった。その背中を正視が出来なかった。どんな風であれ真っ赤な顔を向けるのは恥ずかしかった。
そしてあたいがその日の出来事を思い返してるところもきっと読まれてるのだと思うと、またあたいは自分の髪をがしゃがしゃやってしまうのだった。
─────────
『Love2愛してマスター』
─────────
あたいは地上によく行くから地霊殿の他の住人より少しだけ見識がある。
ペットの中では、って括りだけど。
「「さとり様のペット」ですか。へえ・・・」
今より少し前の話。
緑色の髪の巫女さんだったかねえ。お空が世話になってる神社の方の。お空を迎えに行ったがちょっと遅れるってんでその時に少しばかり話し込むことになった。
その時に挙がった話だったんだけど。
「それってやっぱり可愛がられたりしてるんですか?」
その巫女は食いつくように寄ってきた。
前々からお空がよく話すことに思うところがあったとかそんなのを言ってたような気がする。
「まあ、可愛がられてはいると思うよ」
さとり様の周りには動物達がよく集まる。そして笑顔で付き合ってくれる。
思う、とか言わなくても問題は無いだろう。さとり様は人とはあまり会わないが動物達にはめっぽう甘い。
「撫でられたり」
「ああ」
「身体を弄ばれたり」
「うんまあ」
そういうよくある触れ合い事情を何かしら質問してきて、答えるたびに「おお~」とか妙に感心される。普通な事のはずなんだけどなあ。
人里の中でだってそういう動物と人間との付き合い方はちらほらとお目にかかる光景だし。
話し込む内に巫女の言うのとあたいの言うのには何か妙な食い違いがあるように思えた。どうも目が浮ついてるし。
「え、つまり、じゃあ・・・」
そうやってその巫女は奥に引っ込んで、そのあと一冊の本を持ってきた。光沢もあるかなり新しいやつだ。
あたいみたいな人の形をした獣の娘が大きく描かれてる。
表題に書かれてる『Love2愛してマスター』とかいう阿呆かとツッコミたくなるような甘ったるい文字がすっごく引く。
「ほら!これ見てくださいよ!これ!」
「やだよ」
巫女は目を光らせてそいつを見せようとしてくる。
得体の知れなさに丁重にお断りしたくしばらく抵抗していたが、ありとあらゆる奇跡が起こりその果てに無理やり開かされたこの一冊の本。
いや、まあ、何ていうか衝撃的だった。
飼っていた動物が人の形になって飼い主にやらしく可愛がられる、という大人向けな内容。
その中にいたのは首輪と紐をつけられ裸のままで恥ずかしさに震える女の子。主人に可愛がられ恍惚としている女の子。
自らを「ペット」と称して飼い主とされる人に懐く様。
本の中身はこんなのがずらりと並んでいた。
挿入されてる絵こそ妙なファンシーさで拙い感じだったが心理描写は妙に生々しいものだった。
人間が動物扱いされることでそれがいかに快感か。本当にそんな子がいたかのように事細かに描写されていた。
「人型のペットってつまりこういうことだと思うんですよ!」
「いや・・・無いわー」と思いながらも内心でちょっと取り込まれそうになる意識を、巫女の甲高い声で引き戻された。
キャーキャー悶えながら両手で顔包んでぶんぶん一人で盛り上がって顔振って髪振ってはしゃいでいる。ああ知ってる、これ歌舞伎ってやつの動きだ。
何言ってるんだろうこの緑の巫女。
「あげますから!是非!」
何がどう"是非"なのか分からないが是非もなく強引に押し付けられることになった。
今思えばそのままどこかに廃棄すべきだったが、頭の中が真っ赤になってたあたいにその考えはすっぽり抜け落ちていた。
お空は忘れてきた。
それから、地霊殿に戻ってからが大変だった。
今までのあたいだったら何も疑問に思わなかった光景。
仲間の猫がさとり様の前で撫でられたり転がされたりしてる状況ですら意識するようになってしまった。人の体の状態であれをやったらどうなるかこうなるか。煙が出そうだった。
さとり様に手招きされても慌てて距離を取ってしまうぐらいに。
動物の時はともかく、人との意思疎通が取れてるうえでそう扱われることを変だとすること。
特別意識したことは無かった。現に他の皆だって気にすることは無かった。だから、そういう風な光景があると知った時には妙な衝撃だった。
意識し始めたらどうにも止まらなくなっていく。こびりついていく。隠してて隠していてもそれでも出てきた芽は止められなくて。
本の中の彼女たちにときめいていた。寝床の中であたいは想像のさとり様に何度となくひれ伏していた。不躾なことをして仕置きを受けていた。
そうして何日も経っていった。さとり様とろくに会話も出来ず。
「様子がおかしいみたいだけど」
「んなぁ!?」
そうこうしていたある日に、居間でさとり様に声をかけられた。
どうしたものかとぼんやりと餌を食べている猫を眺めてたら後ろからだったので不意打ちだった。
理由はあたいがよそよそしかったからだった。
またあの異変みたいな事が起こるのではないかと。
距離を置かれることには慣れてると常々言っていたさとり様が心配していた。あたいが悩んでいるのはしょうもないことだったのに。
こうして向かい合うことすら躊躇っていた時に。その当人にいきなり声をかけられた。そして慌てふためたあたいは、頭を巡らす間も無く頭の中丸ごと全部さとり様に大通しになって、
「改めて考えると確かに少しおかしいかもね」
その瞬間にどんな事を思ったのかは分からないけれど、最初の一言はそれだった。
ただ、表情を変えることは無かった。その反面であたいは赤面しっぱなしだったけど。
「「ペット」という言い方が果たして正しいのかしら」
さとり様は隣に座って話し込む体勢だった。
あたいとしては気まずくて一刻も早く退散したかったのだが、立とうとしたその瞬間に肩を掴まれてそれを許されなかった。
説教されるコースか相談させられるコースかどう言おうかと頭の中が大騒ぎした。
「最近妙によそよそしいと思ったらそういう事だったの」
「ああいやあたいはその」
「誰も言わないものだから私としても特に言うでも無かったのだけれども」
「別に、ですね、嫌だとかそういうことじゃなく」
「落ち着きなさい」
「はい」
ちょっとだけ間を取ってくれた。
「すいません、色々と」
「いいのよ」
静寂の間で頭の中を建て直す。
深呼吸を二つほど重ねてだ、冷静に考えてみよう。
さとり様から出たのは"ペット"という言い方の話だけだ。ペットという関係性の話なだけで。
そっちじゃない方の話はまだ何も思ってないに違いない。
「あぁ、そっちの話は後にしましょう」
ダメだった。終わりだ。
「まあ確かに外で「ペット」っていう言葉は誤解を招くかも知れないわね」
さとり様は何も知らないかのように流して一つ頬杖突きながらそう漏らすように言ってきた。
他が気にしてないから自分も気にしないようにしていた、ってだけで引っかかってはいたようだ。
でも、だとしたらあたい達との関係はなんだろう。ある程度自分で働けるとは言え、紛れもないペットだ。しいて言うなら親であろうか。
でもあたいは、さとり様の「娘」とは流石に言えない。その領域には無い。
「地霊殿に住んでる同居人、ぐらいの方でいいのかもね」
あたいの様子がおかしいことはお空にも聞いて回ったりしたらしい。
ちょっと、申し訳なかった。
「いえ、そういうことではないんですけど・・・」
そこから少しの間、その話を続けた。
対外的にはどう呼ぶべき関係なのか。 で、結論として、
「まあ「ペット」という呼び名の話はあなた達が嫌でないなら別にいいわ」
そういうところになった。
基本的に、誰も気にしてないのだ。他の地底の面々や、地上でも何一つおかしいことでは無いみたいだし。
あたいが気にしたのもごく一部の世界の話ってだけみたいだし、別に変えるのは必要無いと思う。だからこの話はいい。
「で、もう一つの話だけども」
「あー、あたいちょっと用事が」
逃げよう。本能的にそう思った。
対外的に「ペット」って言葉は正しいことなのか、それは解決。これでおしまい。さあ帰ろう。後は何も無い。
身を翻して立ち上がろうとした、あたいは。
「『Love2愛してマスター』ですか・・・ふむ」
「うっ」
足を止めざるを得なかった。背筋がピンと張る。身体が固まる。
「本棚の一番下の隙間」
続けてやってきた言葉はもうちょっと残酷だった。
言われたその場所は今のあたいには絶対に触れてほしくない場所だ。その例の本が隠してあるところだからだ。
本当ならさっさと処分すべきだったが、どうしても深入りしてしまい捨てがたくなってしまったのだ。
振り向くってことが出来ない。
妄想の中とは言え、目の前の人に怪しげなことをさせておいて更にそれがその本人に筒抜けだと思うと気まずい。
針のムシロどころか針の布団一式に包まれるようだ。
「首輪をされたり、尻尾を生やされたり、餌と称して精液をもらったりですか。
そしてそれで夜ごと悶絶し なるほど、なかなか・・・」
すいませんそこを読み上げるのだけは勘弁してください。
日常生活の中だと何も触れずにいてくれるけど本来のこの人こういう弱みに対して絶対的な訳で。今知ったのか前から知ってたのか分からないけど完全に握られていた。
逃げることなど不可能な状況ということを事細かに教えてくれた。
「広めてあげましょうか?」
ものすごい意地の悪い笑みを浮かべてくる。
何をどう広めるのか分からないが、もしあれが広がったら大変だ。地霊殿の全てのペットがこれを意識し始めたらどうなるか。
そりゃあもう性が氾濫してしまう。いや現状で品行方正とも言いがたいが、そこから更に変な主従関係が出来上がっても困る。あたいの心労が噴出してきてしまう。
いや、もう仕方ない。こうなったら急いで処分するべきだ。今からどこかで灰にすれば他のペットの目に入ることも無くなるだろう。
あらゆるものを天秤にかけてそれが最善策だ。今から急いで部屋に向かって、
「複製ぐらいしてあります」
なんてことしやがるこの人。
話を聞くに、あたいが悶えながら日々を過ごしてる間に探し出してひっそりと複製しておいたらしい。なんてことしやがるこの人。
その細めた目と片方の端だけ上げるあのニヤッとしたツラが今は憎たらしい。
「まあ座りなさい」
ここで仮に力で解決しようにも複製したとされる本の場所が分からなければ手は無い。複数冊作られてたとしたらお手上げだ。
二手、三手先を探しても詰まされるのを摘まされてよく分かったあたいは観念してもう一回、その席につく。
どうせろくなことが無いの分かって何かを迎えるのは精神的にきつい。
「私ね、悪い話だとは思ってないのよ」
さとり様は入れ替わりで立ち上がって、あたいの肩に手を置いた。小さい声で言ってきた。
顔が近い。斜め上から話しかけてくる。桃色の髪の毛先がさっくり触れてくる。
「その想い、叶えてあげたくてね」
意外な言葉だとは思った。言葉の意味を考えると願ってもないってやつなのかも知れないけど、当然ながら素直に喜べない。
さっきまで必死にどう対処しようか考えてたから尚更。そこから一気に翻す事は出来ない。
あたいにとっては今まで恥ずべきことだったし。
「要するに、私の思う様に可愛がられたい、って。そういうことでしょう?"ペット"として」
「ペットとして、ですか・・・えっと」
お互いにそういう知識の前提があって"ペット"と言われるとちょっとだけじわりと沁みてきた。否定する言葉が返せなかった。可愛がられることは嫌じゃない。
猫の姿で撫でられるのは好きだし、ペットという言われ方だってさとり様も言ってた通り慣れてるのだし。
ただ、本みたいなことが気になってしまっただけで。
でもそれを素直に「はい」とは言えなかった。変だと思われたらどうしよう、って思ったし何より気恥ずかしいことだ。
「嫌とは言わないのね」
いまだに思い出す。あの意地悪な笑み。戸棚の奥に誰も見つけてない猫缶を思わず見つけたとかそういう風な目。
棚からぼたもちとも言うんだろうけどあの顔がまさしくそれだった。
「あなたはその本の少女に感情移入している。繋がれ弄ばれることを気にし続けている」
この時点できっとあたいの秘めた心中を読んでいたのだろう。
強引にされても断ることが無いということ。むしろ、強引に誘われた方がそれを理由につけて承諾するだろう、ってこと。
そこら辺までずーっと計算に入れて。
「どっちみちもやもやしっぱなしでしょう?ここから先」
さとり様の指の腹があたいの肩を揉み始める。揺れ動かされる、心も。
ペットという立場で可愛がられること。主従として性的な辱めを受けること。
それが頭から離れないということ。頭の中のご主人様は常にさとり様しか思い浮かんでない、っていう事実。
結んでいたリボンを弄ばれる。布の音に囚われる。
さとり様の手が肩からあたいの首に触れた。ざらりとした感触が走る。想起されたのは首輪の感触。
人の姿で改めて首輪をされ飼われるという風景。
「「私に服従してみたい」でしょう。あなたの思うことは」
真っ直ぐな言葉に射抜かれる。晒される。どんなに心の中にあっても表に出されるのはやっぱり怖いものがある。普通じゃあない、って思うから。
「さ、さとり様が望むのなら、まんざらでは」
あたいはまだ抗いたかった。最後の力で。
ほとんど逆らえないほどに身体は肯定してしまってるんだけど、せめて最後に。多分通じないだろう。
「あなたが望んでるのではなくて?」
そしてその一矢もあえなく叩き落された。
その答えはやっぱり予想通りで、それでいて腑に落とされた。納得した。
「私も嫌とは思ってないのだから素直に受けなさい」
気がつけば自分の心臓の辺りをぐっと掴んでいた。あたいは望んでるんだ、やっぱり。さとり様に人の形としてもペットにされること。
それを思い知らされた時に湧いたのは初めて恋したみたいな感覚だった。弱々しくて不安で、誰かに縋りたくなるようで。
改めて思うなら、この言葉が閉塞からの抜け道だったんだろう。苦しんでいたあたいをさとり様が望む通りに誘導するための。
でも結局はこれで最良だったと思う。
「大丈夫よ」
ぐしゃぐしゃと。今こうして不安がってるあたいを慰めるようにさとり様は撫でてくれた。親が子に向ける顔を向けてくれていた。
人の形になれたばかりの未熟だったあたいを見守っていてくれてた時のような優しさの顔。
「・・・引かないですか」
「引かないわよ」
この人に、また従おう。
どんな不穏な事があるのか分からないけどさとり様のやることならきっと大丈夫だろう。
あたい自身はそう信頼している。だからまた従うんだ。
「酷いことはしないわ」
力強い人だった。
あたいの中にある「一歩進んでしまった事への不安」を和らげてくれる優しい行動だった。
──
そこから、あたいは二歩も三歩も進んでしまった。
首輪で引かれ動物のように扱われて可愛がられる。さとり様にあたいの全てを預けて、そのままに弄ばれること。
恥ずかしくて辛いことに耐えてご褒美を貰う。ダメなことをすればひどい事をされる。
さとり様が上手なのかあたいにいたくそっちの気があったのか動物としての本能なのかは分からない。でも、沈んでいくみたいにあたいはその関係にはまっていった。
──
「・・・よーし」
こうして今に至る。
お呼ばれしたあの後、お風呂入って、髪を編んで、きっちりと身だしなみして。ちょっとの間だけ部屋で心の準備してきて。
出来る限りの完璧な状態でさとり様の前に立ちたいのだ。どこかに瑕一つあってもならないように。
気前を持ってしっかりと。
さとり様の部屋に入るということ。大抵の場合は仕事の話をしに行ったり、何かの用事で呼び出されたりする時だったり。
動物の時はさらっと入っていけてたはずなんだけどねえ。勝手にベッドに寝っ転がってぐっすりしてたり。
人の形になったらちょっと入る躊躇が出来た。距離が出来た。 ・・・きっと、そういう事はさとり様も何度も感じてきたんだろう。
ああいかん、ダメだこんな事を考えては。
これから明るいことが起こるのに暗い考えを持ってはいけない。さとり様の頭にネガティブを持ち込んではならない。
一つ息を整えてだ。
「さとり様ー」
ドアを二回ノックする。
どうぞ、って一言を待ってから「失礼します」と小さく言って敷地を歩む。
高級そうな調度品に囲まれたような部屋。あたいらの部屋は好みによるがだいたいシンプルなのに対して、この部屋には花瓶や絵画、華やかな色がある。
そして部屋の隅には大きなベッド。
「今日はありがとうね、お燐」
さとり様はにこやかな顔で出迎えてくれた。
主なのだからどんと構えていてくれればいいのに、そういうこと言ってくれるのはあたいとしても嬉しい。
「しっかり綺麗にしてきてるみたいだし」
さとり様はあたいの髪とか肌を少し撫でて、そう褒めてくれた。
そうやって準備してきたのをちゃんと感じ取ってくれた。あたいもおめかしの甲斐があったというものだ。
「ほら、座って」
手で促されるがままにさとり様がいつも寝ているこの大きなベッドの上へと座る。
緊張でぎこちない。回数を重ねてもなお大舞台にいるような気分。物音一つが大きく聞こえる。
シーツがずれる音。さとり様が隣に座って、すっと近づいてくる。距離が近くなる。
「ちょっと固いわね」
「いえ、大丈夫、です」
「嘘つかない」
確かめるようにぽんぽんと腕とかを叩かれて。やっぱり、緊張してるのは少しある。ドキドキしているとも言う。
座ってシーツに置いていた手にさとり様の小さな手が重なり合う。大丈夫だ、って肌で伝えてくれる。自分で思うよりさとり様にそう言われた方が安心する。
少し落ち着いた後、心臓のあるところにさとり様の手が被せられる。
ドキドキしているのが伝わってしまいそうで、それで逆にあたいの動悸は早くなってくる。自分自身で分かるぐらいに鼓動している。
「目閉じて」
さとり様に言われるままにあたいは暗闇へと自分を導く。
握られてる力が確かなものになっていく。指の感覚を少しずつ絡めていったり、ゆったり静かに、衣の擦れる小さな音、さとり様の微かな体温、とっても静かに時間が流れてくる。
力強い安心。血の流れがゆっくりしていく感じがする。体の固いところが消えていく。お風呂の中にいるようにゆらゆらと溶けていく。気持ちいいより心地いい。
あたいの中で荒れていた波がなだらかになっていく。
「ほら」
「ん・・・」
ぼーっとなっていると、さとり様から背中をぽんと押されて飛んでいた意識が戻ってくる。このまま寝そうになるとこだった。
少し振り返ってから深呼吸を一つ。大丈夫、落ち着いている。
「そろそろ大丈夫そうね」
ぼんやりになっていたあたいを見ながら、さとり様が立ち上がった。
小道具入れを漁って何かを取り出そうとしている。いや、言われずとも知っているんだけど。
さっきまで落ち着いてたのにまたちょっと緊張し始める。あたいは無意識の内に首筋を引っかく。今、期待しているのだ。さとり様に着けられるためのあの感触。
冷たく柔らかい、それでいてあたいがペットとして扱われるための装飾品。
「ずいぶん期待してるみたいじゃない」
「いえいえ」
それを手にして戻ってきたさとり様が呆れるように言ってきた。ごまかして笑っておく。ちょっと気恥ずかしい。
ここからは少しの間、立場は変わる。そうなればこうして笑って流すってことが出来なくなるのだし。今のうちに少しだけ。
さとり様の両手によって、首に革の感触が巻き付いてくる。
こうしてあたいに巻き付けられたのは、ペットに使うための深い赤の革の首輪。
長い紐がついてて金属のところで接続するようになっている。
もう一度、カチャリと鳴る金属音。さとり様が長い紐を動かすと合わせて擦れて音が出る。
いつしか出来た決まりごと。
さとり様に首を引っかかれた時はあの本みたいに人の形をしたペットになる日だ。主従の日。だから、今日のあたいはただ弱い存在で、主に逆らうことの出来ない存在。
あたいからねだるよりはさとり様からそう誘われることが多い。発端はあたいだったけどいつの間にかさとり様の方からが多くなった気がする。
数えてる訳じゃないから分からないけど、どっちでも嫌いじゃないからいいんだ。
「うにゃ・・・」
確かめるように引っ張られた感触にあたいのスイッチが入る。支配される、さとり様に。そのために弱い存在へとなっていく。
優しいさとり様から支配する者へ。あたいはそれに支配されるだけの物へ。
大きな高い壁が出来あがる。一つにはなれる訳じゃないけどあたいを外から守ってくれる居心地のいい壁。
「おいで」
気持ちが入り込んでくる。
首輪が留められた瞬間からここはもうカゴの中だ。あたいは食べられる側で、さとり様が食べる側。
刺さる目が鋭くなる。息の一つ一つが重くなる。
「お燐」
「はい・・・」
いつもならさとり様は柔らかな笑顔で自分の服を脱ぎ始める。
そしてあたいも服を脱いで触れ合って、平等で対等な立場での攻めぎ合い。
でも、今日は違う。これから先は二人は別の世界。絶対に敵うことのない戦い。ペットの中からさらにペットとして、主人のさとり様にこれから弄ばれる。
あたいに出来ることは、これから食い散らかされないようにひたすら哀願するだけだ。
─
最初に首輪をつけられた時にはさとり様の所有物になれた気がした。四つん這いになって歩かされた時には俯くほどに赤くなった。
でも嫌な気分にはならなかった。ただ、猫だった時にもやってたはずのことが今やってみたら恥ずかしい。
知識を得た事で表れたことだった。人の形を取るようになって感情が芽生えてそれを弄ばれることが快感になっていた。
動物のままだったら味わえないものだった。
だから、今でもまだこうして続いてて。
あたいはどんな形であってもペットという立場で、さとり様に仕えている。
あたいはベッドから降りて、いつもやっているように床の上でゆっくりと衣服を落としていく。
さとり様はじっとあたいの一連のその光景を見ている。
「そんなに、じっくりと・・・その」
「もう少しゆっくり脱いでもいいわよ」
「・・・はい」
言葉の裏が何となく分かった。
あたいは、言われた通りにゆっくりと。上着を脱いでまず下着の姿になる。
時々、無意味に衣服を拾い上げて体勢を変えてみたりする。脱いでいく時はしっかりとさとり様の方を見る。
ブラを外して胸を出した後はぐるりとその場で一回転してあたいの全ての肌を見せたりする。恥ずかしい時間を自分から延ばしていく。値踏みされてるような目で貫かれる。
「もっと見てほしい、って思った?」
「いえ、あの・・・」
「なに?」
「・・・恥ずかしい、です」
一枚一枚、肌を晒け出していく。身を守るものが消えていく。さとり様しか見てないけどどこで脱ぐよりも緊張する。
無防備でそれでいて何とも弱々しい自分の姿が表れる。
何度となく見せているはずなのに、恥ずかしい。いつだって、初めての時のような特別な日に思える。慎重に慎重に薄氷の上を進み続けているような気分。
「あの・・・脱ぎました」
あたいは全ての服を脱ぎ終える。今、着いているのは首輪だけ。
隠すことは望まれないだろうから、一番恥ずかしいけれど手は後ろに回す。さっきより少し肌寒い感じがする。でも、顔はとっても熱い。不安というのが一番大きい。
普通に裸でいるより何だか卑しく感じる。動物のペットは常にこういう格好なのに。いや、むしろ動物のペットを模しているからだろう。
「見られて感じてるのではなくて?」
「い、いえ、そんなことは」
「ならそのままじっとしてる?」
それは、困る。目の前にいるのに触れられないなんて耐えられない。心細くてそれを望みたくない。
「で、どうなの?」
「・・・さとり様に見られると、興奮、してしまいます」
触れられれば分かってしまうのだから、口で言わないといけないのだ。
そうしてあたいは自分のはしたなさを伝えるのだ。
さとり様の着けてくれた首輪を指で触れる。
今巻き付いているのは、命だ。心許ないこんな小さな首輪だけでも今のあたいにとっては唯一、身を守れるものなのだ。
さとり様のものになれる、さとり様の所有物だから守ってもらえる。
でもこれからのあたいが失敗すれば守ってもらえなくなる。機嫌を損ねれば見捨てられる。
本当に捨てるなんて事は無いだろうけど、今この不安な時に辛い言葉を突きつけられるのはイヤだ。だから、今からのあたいに物を申す権利は無い。
「そうやってちゃんと言うことを聞いてればいいことしてあげるわ」
「はい」
今からあたいは命令されて芸をして主に喜んでほしいペットだ。
さとり様の言うことに「はい」と言ってそれに答えるだけが存在の理由なのだ。
「それじゃあ・・・」
「んくっ!」
首輪の紐に重心が揺らされる。さとり様に操られている。身体の重心を奪われる。
転ばない内にあたいは腰を落としていく。膝をつき手を床に置いて、あたいは自分自身で四つん這いの体勢を取る。人から再び動物の猫へと戻っていく。
本当に正しく言うなら人の形をした動物へとなっていく。
「まず餌をあげましょうか」
すっ、と床に一つの器が置かれる。
四つん這いのあたいの目の前にあるのはペット用の餌を入れる器。動物達がよく使う、人の形のあたいのために用意された器。
その器に、さとり様が音とともに白いミルクを注いでいく。
「ほら」
差し出される。扱いは今変わる。
ペットに餌をあげるのと一緒で、あたいはすなわちペットで。
「にゃあ・・・」
一鳴き。
どっちの言葉で頂けばいいか分からなかったけど、こっちのほうが喜ばれる気がした。
「いただきます」を伝えたあたいはお皿へと近づいていって、舌をつける前に上目でさとり様の顔を見上げる。
ベッドの縁に座ってるさとり様はあたいを見下ろしている。少し笑みがあって、でも意地悪な目だ。どんな気分であたいを見てるんだろう。
とても恥ずかしい。じわり、と否応無くはしたなく濡れてきてしまう。
舌の先を白い液に着ける。手を使わない飲み方。
人の形になれてすぐの頃には動物の習性が抜けてなくてこの飲み方をたまにしていた。
その時はさとり様に止められてた。
ペチャリ、ペチャリと自分の立てる水の音。
あの時に怒られた仕草をこうしてまたさとり様の命令の下にやっている。
今になって分かるけど、すごくみっともない姿だ。あの頃に宿ってなかった感情が今は湧いてくる。
何度も、何度も舌をつける。
ミルクの味は入り込んでくるけどそれ以上にさとり様の物言わぬ視線が刺さってくる。さっきの顔を思い浮かべるだけで身体にじんわりと火が灯ってくる。
支えている手に少しずつ力が入らなくなってくる。興奮してきているのだ、この光景に。動物にされてるこの状況に。
見下ろされてこんな姿を見せているのが今はあたいは気持ちいいのだ。
とても静かな空気が重い。
あたいの身体は熱くなってくるけど、舐めている間中はさとり様は何も言わなくて。
長く味わっていてはいけない、待たせちゃいけないような焦りからあたいはひたすら掬い続ける。
何もされてないのにあたい一人だけ情けない。自分が追い詰められてることが怖くなっていく。さとり様に何か言われる気がする。
「ごちそうさま、でした・・・」
「はい、いい子ね」
器にミルクが無くなって。
飲み終わったあたいは、わしゃわしゃと頭を撫でられる。本当の猫にするように。
髪がかき分けられる感触を目を閉じて受け入れる。ペットの気持ち良さだ。可愛がってもらえてると実感する時だ。
不安の中にいたあたいの気分がホッとしている。仕事を無事に終えたようなそんな感覚。
飲み終わった顎に垂れていた雫も拭ってくれた。
そう思ってると、さとり様の指があたいの顎に垂れている白い筋を撫でた。不始末を拭ってくれた事に、ちょっと申し訳ないような罪悪感が胸に過ぎる。
ペットだからとしょうがないのだけど、やっぱり思ってしまうところはある。
「よしよし」
「んん・・・」
さとり様の膝の前で跪いて鎮座して次の命令を待つ。座った目線から見上げるさとり様は大きい。主の立場だ。
あたいが、動物になるための最初の儀式。
さとり様の可愛がられるためのペットであるために。ここからが始まり。
────
「おいで」
ベッドの上へと招かれる。床の上で這い蹲っていたところからさとり様と同じ場所へと。
手の動きに導かれるまま背後を向かされ両手を回されてさとり様の胸の中に抱かれる。
斜め後ろにあるさとり様の目の位置はあたいの肩ぐらいだ。
そのまま、さとり様の身体に背中を預けてもたれかかる。隙間を無くして甘えついでに肩に頭を乗せて全部の体重を乗せる。
「重く・・・ないです?」
さとり様のあたいより小さい身体を見て少しそんなことを考える。
猫の姿の時はずっと大きくてすっぽり収まることが出来たのに、今の姿だとあたいの方がずっと大きい。
それでも何だか敵う気、ってのは全然無いんだけど。
「大丈夫よ、別に」
そう言うのなら、大丈夫だろう。
もしかしたらあたいが心配するようなことでもなかったのかも知れない。今までもそうだったし。
「ほら、いらっしゃい」
「んん!」
首輪の音を鳴らされてぐいと振り向かされる。
斜め後ろにあたいの顔は持っていかれて、そのまま肩越しのさとり様の顔へと近づいていく。
「舌出して、ほら」
命令された通りにだらしなく口を開いて、舌を唇の前へと突き出す。たぶん変な顔してるんだろうって思う。
気づく。白みがかってる唾液が落ちた、みっともない。
「んっ、んぁぁ・・・」
さとり様の微笑の顔がどんどん寄ってくる。あたいは差し出した舌を食べられ、唇と唇が触れ合わせられる。
柔らかくて瑞々しい感触が重なって、唇を包み込む。甲高く唾液の啜りあう音がする。
「ちゅっ、んむう・・・」
さとり様の舌があたいの口に入ってくる。塗り潰していくようにあたいの中を撫で回す。
絡めていく。動いている舌に触れるのが気持ちいい。あたいの、ミルクの味の唾液が舐め取られていく。
力が抜けていく。さとり様の持ってる首輪に身体を預けていく。
口の中の空気が一つになっていく。舌がひっつくたびあたいがじわじわ痺れてくる。
「あ・・・はぁ・・・」
唇が離れる。息を深く吐く、脳に酸素が戻ってくる。
さっき拭き取られたばかりなのに、またあたいの顎が汚れてしまった。
首輪の感触と併せて、顔が征服されたようで。まず一つさとり様の物になれたような嬉しさが湧いてきていた。
「触るわよ」
さとり様があたいの身体に手を這わす。
脇の下からさとり様の腕が伸びてくる。細くて少し冷たい。
「あっ・・・」
「いつ見てもいい身体よね、あなたは」
「そんなこと・・・」
さとり様はいつもあたいを褒めてくれる。
変化した時からこういう体型だったから、本当のところはよく分からない。その辺の仕組みはよく分かってないままなのだ。
「無意識の記憶の積み重ねからその形になる」とか言われたけど、いまいち掴んでない。
「難しいことは後で考えなさい」
「あ・・・はい」
さとり様の両手が胸に触れてくる。
そうだ、今はそういうことは考える必要は無いんだ。さとり様のペットとして扱われることが今必要なことで。
指がゆっくりと動いてくる。優しく、上や下へとさとり様の手は動く。パンでも握るぐらいの力。
柔らかく胸の肉にめりこんできては、ちょうどよく離れていく。マッサージをされてるみたいで何だか柔らかい。ぐにぐにとあたいの胸はさとり様に動かされていく。
自分で触るよりも、ずいぶん気持ちがいい。人に触れられることが気持ちいい。
何だか、愛でられてるって感覚に包まれてくる。
「そこ、はぁ・・・」
「敏感なのね、やっぱり」
それと同時に、さとり様があたいの髪に鼻を埋めている。
触れた刺激に耳が揺れ動く。
その様子が面白いのだろう。さとり様は何度も何度もそれを繰り返す。
普通の猫の耳は敏感だからあまり触らないようにしてるみたいだけど、人型のあたいに遠慮は無いんだろう。
「勝手に手を動かさない」
ちょっと変わってピリッとした声が入ってきた。
あたいは無意識の内に湿り気を帯びた下半身を自分で触ろうとしていた。胸の刺激と一緒にいつの間にかもっと欲しがっていた。
擦るだけでもせめて、なんて。
「す、すみません・・・」
あたいは命令無しで動いてはいけないのだ。そのための首輪だ。反省の印としてあたいは膝の横に手を置いておく。
ちょっともどかしいけれど、今日の約束はそれだから。
揉みしだいて遊んでいたようなさとり様の指が胸の先っぽにやってくる。
「ふあ・・・!」
ぎゅ、っとされてぐりぐりと二つの指でつままれる。
思わず声が出るぐらいだった。待ち焦がれてた強い刺激。揉まれてる時からもうちょっとだけ痺れる。
「どう?」
そこからぐにぐにとあたいは先端を弄ばれる。
少し痛いぐらいに絞られてあたいの脳を刺激に浸らせる。思わずびくりと背筋が伸びて、さとり様にもっと体重を預けてしまう。
息を深く吐く。じんわりとしていて、温かい。さとり様に触れてもらってるということが。
「きもちいい、ですっ・・・」
面白いところを見つけたとばかりにさとり様は何度もつまんでは引き伸ばす。
「そう、じゃあここね」
「んにゃぅ!」
胸の中に埋めようとしてみたり指で弾いてみたり、機械の操作をされるようにあたいはそのたびに声を出してしまう。
何度も何度も、背中を逸らしては身体をくねらせてしまう。
そのたびに声をあげるあたいを、さとり様は楽しむような目で見ていた。
あたいの胸はどんどん硬くなっていって、そこから汗ばむぐらいにまで長くずっと、さとり様はそこだけを延々と弄んでいた。
じれったくてむずがゆい感覚が湧いてくる。膝に置いていた手を思わず食い込ませてしまう。
胸の責めで、さっきよりあたいは濡れていた。
先ほど咎められたことでなおさらに意識し始めてしまって、さとり様に早く触れてほしくてまた疼いてきて。我慢出来なくなってきて。
「お願いします」っておねだりしてしまおうかな、ってそんな事を考えて
「お燐」
その思考を浮かべた瞬間、また、さとり様の雰囲気がちょっと変わる。適温から少し熱いお湯になったような。
あたいに有無を言わせないような強さが、今のさとり様に感じる。
「んあぁ・・・」
首輪を引かれ顎を手で掴まれる。強引にあたいの身体を持っていって目の前へと振り向かせる。
囚われた動物のような怯みがあたいの中に渦巻いてくる。
「反抗したいみたいね、あなた」
凛とした声が通ってくる。さとり様の目がものすごく近い。
「す、すいません・・・」
反抗だなんて、そうは思ってないのだけれど・・・でも、さとり様が言うのなら、きっとそうなんだろう。本当はそういう事だってことになるんだろう。
悪いことしたのは確かで、言い訳なんて出来ないのだ。
あたいは、抱いた恐れの反面で内心はバクバクし始めている。さとり様があたいの弱みを掴んだ、一つ何か言う事を聞かせられるんだって。
きっと、待ってたんだろう。そういう事を少しでも思うのを。だから・・・たぶんさとり様の期待通りでもあるんだ。
「腕、上げなさい」
さとり様の命令だった。ああ、何かされるんだ。ちょっとだけワクワクしてしまう。
あたいは腕を頭の上で組む。抵抗出来ないように。自分でやってるだけなのに、縛られたみたいな風だ。
脇の下からさとり様の両手が入る。さっきの胸とは違って、もう少し下のあばら骨のある部分。
さとり様は今度は掌じゃなくて、全ての指先をあたいの肌へと向けた。
「んにゃゃぁぅ!」
じゃかじゃかじゃかと。動物に石鹸をつけて手で洗う時みたいに指先が上下させられる。
だけどそこには指の腹じゃなくて固い爪が向いていて。優しい刺激はそこには無くて凶器となってあたいの肌に突き刺さる。
あたいは思わず悲鳴が出た。激しい動きだった。
「こら」
捩ろうとしたあたいを首輪が制す。動くな、っていう命令だ。この痛みをじっと受けなきゃいけないのだ。
言うこと聞けなかったあたいへのお仕置きはさとり様の爪を研ぐための木になることだった。
「あっ・・・うぅ!」
次の場所は脇腹。触れられてなくとも、指先を突きつけられただけで不安が出てくる。
またさとり様の爪は上下にあたいの肌を刺激する。掻き毟られるような動きに責められる。くすぐったいのと痛いのが同時に襲いかかってくる。
血が出るような強さじゃないけど、それでもさとり様の力加減一つだ。少し怖くて、しょうがない。
二度三度とやってくる刺激にあたいは腕をぎゅっとする。動けないから、耐える。
「はい、次」
「や、やです・・・」
首を振る。金属の音が鳴る。次に突き立てられたのは膨らんでいる胸のところだった。
硬くなってきてて敏感なこの先っぽをかきむしられたらどうなるか、なんて。想像だけで怖くなる。期待してしまう。
でも逃げられないから、覚悟しなきゃいけない。やると決めたら絶対だから。
「ひいうぅ!」
引っかく刺激がまた入ってくる。他のとこより柔らかい胸は遠慮なくあたいに痛みを伝えてくる。固くなっていた先端も遠慮無く毟っていく。
ざくざくざくと刈られていく。
来る怖さに目を閉じる。見ていると想像が膨らんでいくようで、あたいは目を背けた。
「ダメじゃない、目を閉じちゃ」
今度は不意を打ったように爪じゃない指先で撫でられている。
痛みじゃなくて、今度は柔らかい。肉の感触。
「あ・・・ぐううぅぅぅ!」
そしてまた爪で引っかかれる。二つの刺激がない交ぜになる。
手を上げて抵抗出来ないあたいはさとり様に翻弄されていく。怖さと気持ちよさと、心が混ざっていく。
弱くなった痛みはじんわりと染み込んでくる。息がつけない内にまた痛みを重ねられて上塗りされていく。あたいの中の区別が少しずつ無くなっていく。
「はい、じゃあ次はこっち」
「やぁ・・・」
背中に指の感触がした。
あたいの場所はいっぱいある。きっとまだ、無事なところがある限り、長い回数続くのだろう。それを思うとあたいは・・・先を考えたくない。
「手、下ろしていいわ」
そこからあたいに、何度も何度もこのブラッシングが降り注いできた。
傷がつくほどの強さじゃないけど、あたいに恐怖心が植えつくには十分だった。あたいのことは文字通りに指先一つだと。
「はあ・・・ふう・・・」
さとり様があたいから離れる。膝の上からベッドの上へと座り込む。
正面に来たさとり様が、あたいの頬に触れる。
「どう?」
「ぼーっと、してます・・・ふわふわ、ってなってて・・・」
シーツを握る手が柔らかくなる。身体の痛みは軽く引いてきて、いつの間にか気持ちいい刺激へと変わっていった。
喧嘩でつくような傷はただ痛いだけなのにさとり様につけられた痛みは何だか心地よくなれる。
さとり様の手はひどい事にはならないって安心しているから。そう信頼しているから痛い事でも気持ちがいい。
あたいは、太股を擦り合わせていた。結局ずっと、下半身はほとんど触れてくれなかった。
裸になった時からずっと欲しかったのに、今までずっと焦らされてきた。
たぶんわざとだろう。あたいの中はもう熱くなって欲しがっていた。もっとたくさん欲しい。芯を触れてほしい。
「そう、もっと欲しいって?」
「・・・あ、う、ごめんな、さい」
言葉にされる。思わず俯いてしまう。
上半身ばっかりの刺激で、あたいは飢えていた。座っていても触ってほしくて足を無様に開いていた。
またあたいは望んでいた。先ほどそれで怒られたばかりなのに。
「まだ少し躾が必要かしら?あなたには」
「え・・・あのっ、それは・・・」
ちょっとだけ、胸が揺れ動いた。
ドキドキしている、その言葉から何をされるんだろうと考えてしまう。
でもどんな事であろうともきっとひどい事になるだろうから、ちょっとだけ否定する。受け入れてしまうのは、やっぱり恥ずかしい。
完全に入り込んでしまう事にちょっとだけ躊躇った。
「今度は・・・その欲しがりな口ね」
「えっ・・・」
あたいの身体は突き飛ばされ視界が天井へと向いていく。
ばさっ、と強い音がする。あたいは布団へと倒された。
さとり様があたいの上に乗っかる。軽い身体だけど跳ね除けられない、それをする訳にはいかない。
「やぁ・・・あっ・・・」
急な動きに吐いた息が熱くなる。声が混ざってしまう。空気だけ吐き出したいのに喉までだらしなく震わせる。
動転していて思考のおぼつかないあたいの瞬間を狙って口に指が突っ込まれる。
「ぐぶっ!んん!」
さとり様の指が二本、喉の奥の方にまで入り込んでくる。
のけぞりたくなるぐらいに深くまで来て、それでいて暴れ回る。
「イヤなのかしら?」
「んんむぅ!」
喋れない。けれどあたいは必死で首を振る。でもあたいの声など聞こえないようにぐりぐりと指をかき回される。
中の指ともう片方の手で顎を掴まれて揺らされる、ただひたすら。
躾とは、結局こういうことなんだろう。
だからあたいは自らの手をそのままに置いておく。抵抗は出来る、出来るけどそれはしないししちゃいけない。
操作は全てさとり様に委ねなきゃいけないのだ。
「んんんっ!んぶぅ!」
視界が右往左往する。さとり様の思うがままに振り回される。縦に、横に、上に、下に。
頭はぐらぐらして三つ編みがあたいの顔を刺激する。
目が回る。平衡感覚が消えていく。
「あっ・・・はう"ぁ・・・」
口を解放されたあたいは涎だらけだった。
唾液が二滴と三滴とさとり様のベッドのシーツを濡らす。
生ぬるいものが頬に触れる。
さっきまで口の中に入っていたさとり様の指だ。乾いた布を使うみたいに、あたいの頬で拭っている。
念入りに、抓るようにあたいの身体を使っている。
「分かった?」
「・・・はい」
力関係は、こうして刻みつけられる。今日もまたあたいはさとり様に敵わないと教わるのだ。
────
「まだ、逆らいたいのかしら?」
上から降りかかる冷たい声がゾクッとなる。氷を押し付けられたかのような声。あたいは必死で首を振った。
見上げたさとり様は、支配者然とした顔だ。あたいはもう手中で掌の上の存在なのだ。
不安な気持ちが一気に湧き上がってくる。身体は熱いのに背筋が冷たくなってくる。このまま食い散らかされる、って本能的なもの。あたいは今、不安定な橋の上に立たされている。
「・・・申し訳、ありません」
「それだけで済ます気?」
あたいの中に逆らう気なんてさらさら無いのだけど恐怖の方が勝る。全身に痛みを伴わされて物を言う口を咎められ、あたいの肉体はボロボロに弱っていた。
この空間の中で肉体も精神も無事なさとり様が強い存在になって膨らんでいって、あたいの頼りになってくる。
強い存在の言葉には従わないといけない。獣はそうでないと生きられない。今はそういうことだ。
その頼りたい人に、今はどう許してもらえばいいんだろう。あたいの道は塞がっている。袋小路の中にいる。
「言うこと聞く?」
さとり様からの突破口だった。許されるための。追い詰められたあたいへの。
「どんな事でも、します」
嬉しさが止まらなかった。再びさとり様に好きになってもらうために。こうして服従を口に出してしまったことに。今こうして弱いあたいが強い主の命令に従えることに。
どんな命令されてしまうのだろう。きっとあたいをいたく苛むものだろう。屈辱的でとっても辛くて。
それでももう待ち望んでしまっているのだ。
あたいはもう餌を待つペットなのだ。
さとり様がくれた茨の道なら歩ける。それがあたいのために用意してくれた餌だから。
「ならば反省なさい。頭をつけて」
さとり様はベッドの端へと座り込む。
あたいに何かをために広くスペースを空けた、そんな風な動き方だ。
「教えたでしょう?反省する方法」
「・・・はい」
教えられたことがある。人間の世界の中では一番に謝罪の意思を示す体勢。
「使うことが無いといいわね」なんて交わしながら聞いていた。でも、さとり様にならいい。それ以外ならしたくはない。
「床でやってもいいわ。でもそれほどの存在だったら蹴り飛ばして終わるけど」
さとり様は笑みをたたえて言った。たぶん、冗談だろう。あたいの顔は固まってしまって笑えないけど。
選択肢を与えるようでいてそれでいて実質的には一つ。それでもいい、あたい自身が選ぶことが重要なんだから。
これで終わりには、してほしくない。この身体の熱さのまま放り出されるなんてイヤだ。
あたいはさとり様の空けてくれたところに正座をする。そこから床の時みたいに四つ足になってそこから更に肘を置き掌を置く。
しっかりと頭を下ろし額を布団につける。
あたいが取った体勢は「土下座」だった。
この体勢が一番の屈辱なのだ、って。昔のあたいにはいまいちピンと来てなかったけど相手に一番に誠意を示す体勢がこれだって。
動物の格好のようになって額を擦り付け無防備な背中を晒して無抵抗な体勢で許しを得るためにひたすら謝罪し続けるのだ。
だから、さとり様への一番の反省はこの体勢を取ること。
これが屈辱だと思うようになることこそが人らしさへの証だと何となく分かる。そして今こうしてさとり様にこの体勢でいることが、とんでもなく卑しく思えてくる。
「分かってきたみたいじゃない」
「んっ、んぶ・・・」
動いてたさとり様の手があたいの頭を掴んで、布団の中へとずぶずぶと沈められる。更なる反省を促されてるようだ。
あたいの心まで、底へ底へ向かっていきそうになる。
口が塞がってきて息苦しくなっていくことが心地良い。あたいの心がどんどん壊れる音がしてくる。
「低く扱われて愉しめるってのは人らしいってことなのよ」
「ふ、ふあい・・・」
このまま十秒ほど。
あたいはそのままで沈められ続けた。時々にぐりぐりとかき混ぜられた。その度に濁った声が出た。今のあたいは人として扱われててその最底辺で。
反省が足りないんだろう。きっとまださとり様は許してくれないから、あたいが悪いのだ。その罰だ。
「ほら」
「い”ぎっ!」
「汚らしい声出したわね」
首輪を持ち上げられる。急に喉を圧迫されて唸るような声が出た。
地に向けていた顔を正面に向けられる。いきなりの衝撃に置いてけぼりなあたいの顔を、さとり様の手が撫で回している。
目、鼻、頬、口、一つ一つのパーツを確認しているように。口から垂れた唾を拭われたのが恥ずかしい。
「いい顔」
あたいは今、自分の顔すら自信が無くなってきている。ぐしゃぐしゃになっている。
その顔を褒められるのが、怖い。不安になってくる。でもさとり様の顔は、何だかうっとりとしてるように見える。
「気持ちいい?」
「・・・はい」
ときめいていた。心から疼いていた。さとり様にどうにかして構ってほしい。
小さいあたいがここにいる。掴んでほしい。どんな風でも構わない。何だってする。
「じゃあ、こっちにお尻を向けてもう一度」
さとり様の命ずるがままに、あたいは虫が這いずるかのように動いて、さっきの方向とは逆に額を押し付ける。
ずぶ濡れてぐちゃぐちゃになって大事なところをさとり様に向ける。
望むことに近づいた、って希望が出てきた。
「もうすっかり出来上がってるわね」
「・・・さとり様にずっと」
「頭上げない」
「はいぃ・・・」
そこから、さとり様からの動きが無い。
音から察すると少し離れた場所にいるはずなのだ。だけど、動きが無い。
そのまま数十秒ぐらい、土下座の姿のままあたいは放っておかれている。一刻も一瞬も狂いそうなほどに長い。頭を上げてはいけない。待ち続けるしかない。
吐息が熱くなっていく。湿ってきてて、もどかしい。
「いじってほしい?」
あたいの耳が動いた。待望だった。びくびくとなるぐらいにもどかしい。
それ以上のことは無いほどに。
「してほしいです・・・さとり様の欲しい」
お仕置きをたくさん受けてその熱にじりじりと焼かれて、あたいはもう限界だった。
どんな風に辱められてもいいから強い刺激が欲しかった。
お尻を振るように動かして哀願するほどだった。
「おねがい、おねがいしますぅ・・・!」
狂いそうだった。抉ってほしかった。
「そう」
「んぎひぃぃ!」
とうとう、あたいの膣内(なか)に、指が入ってきた。少し冷たい指先が抵抗無く入ってくる。
すごく来た。期待して待ち望んてたことだった。
「それ、です・・・っ!」
足の指から頭の先まで電気が走ってくる。待たされ続けた分、強烈だった。
全てのものが無くなっていくぐらいにあたいの身体は衝撃を受け続けた。
奥の奥へと入ってくる。一瞬もぼんやりしたくなくて、あたいの全部が集中していく。
あたいの膣全体が拡げられてくる。さとり様の指先から根本で膣中の壁が掘り拡げられていく。
フックみたいな形であたいの中で暴れている。
「んっ!あ、ああっ!」
「ここが弱いのね」
膣の中の少し右の辺り、あたいが一番感じるところ。
さとり様はその能力で弱いところを的確に触れてくる。強いも弱いも完璧で、痛いことすら気持ちよさへ混ざっていく
この人の目に見抜かれればあたいはただの動物なのだ。人の形をした喘ぐ動物。
「食べてるみたいに離さないわねぇ」
呆れた言い方をされた。蔑まれながらもそれでもあたいはこの指を離したくなかった。もっと欲しがった。それだけ気持ちいいのだ。
さとり様は膣内の弱いところへ集中して、激しく動かしてきた。あたいはなりふり構わずその指を貪った。
「顔上げていいって言った?」
「ごめっ、なさ・・・っ!」
咎める言葉が突き刺さる。いつの間にか浮かしてしまっていた顔を再び埋めた。この体勢はすごくきついんだと思い知らされる。あたい自身で動かせないのだから。
縛られてるのだ、縄も無いのに。体勢の維持はそれだけで。
挿れられた時は冷たかったさとり様の指。でも今は温かくなっている。
あたいの身体の中で暖まってきている。温かくそれでいて動かされることに抵抗無くなってきてて。
抵抗無い感覚はあたいの膣内でどんどん暴れてくる。あたいの液をまとった指は曲げて、折れて、抉って蹂躙してくる。
ずぷりと奥に来るたびあたいの腰は跳ね上がる。温かい痺れが、襲ってくる。
下に敷かれて折り畳んでいる足がもどかしい。さとり様の動かす指の妨げになってしまっている。邪魔じゃないか、って思ってしまっている。
でもこれは、この体勢は、さとり様の言いつけだ。破る訳にはいかない。
「足広げるぐらいなら許してあげるわ」
「ありがとう・・・ございますっ」
「潰れたカエルみたいになりなさい」
「はい・・・!」
さとり様の許しの言葉で、あたいは正座を崩して足を八の字へと広げた。ずらしたところのシーツが冷たく触れる。
たとえ読んでくれたと分かっても、伝わってくれて嬉しかった。
「ひどいわね、今のあなたの姿」
塞がっている暗い光景の中から自分でも想像する。上から見たらさぞかし情けないんだろう。
本当にビクンビクンとだらしない姿で腰を振っていて、今のあたいは世の中で一番醜い存在に思えてくる。
その姿をさとり様に見せている。そして味わわされている。
上からの姿を想像していたら、心寂しくなってきた。
さとり様の顔が見たい、でもそれが叶わない。暗闇しか無い、目から入ってくる情報が無い。
今頼りになるのは膣内の感触だけで、それでさとり様の指に神経が集中してしまう。
「あっ!やっ、あああ!」
あたいの腰はどんどん沈んでいく。潰れてもがいている。さとり様の手をもっと感じたい。
さとり様に少しでも深く触れていたい。求めている。真っ暗な闇の中からさとり様という命綱を。
震えてくる。足の指先に力が入ってくる。
「ふふ・・・」
さとり様の吐いたかすかな息、それと鈍い水の音が聞こえてくる。
ぐじゃぐじゃぐじゃと音がする。あたいの膣内から出る水の音はあたいに甘みある痺れをくれる。
「くだ、さいっ・・・!もっとぉ・・・!」
指がごりごりとあたいの膣内をつついてくる。たくさん欲しい。ずっと待たされ続けて灼けるように。
端から融けていきそうなほどにさとり様の指は抉る。痛みに近いからこそ気持ち良くなっていく。
「いいわね・・・人じゃなくてケモノに堕ちた姿」
さとり様の言う通り、あたいは人であったけどもうケモノだった。
お尻を振ってただ求め続けていた。ただひたすら餌を貪りたがっていた。
「こんなのとかいいんでしょう?」
いきなり破裂する音がした。と同時にあたいのお尻に痛みが走った。
叩いたんだって分かった。
「んあっ!みゃぁっ!」
何度も何度も叩かれる。痛みが走ってそのたびにあたいは 声を出していく
お尻の肉をつねられ適当に引っ張り回され更に玩具にされる。
「答えなさい」
「いいっ!いい、です!」
引っ張られた肉がじんじんする。だけどすぐに、圧倒的な気持ち良さに流されていった。
もう何でも気持ち良かった。あたいの「痛い」と「気持ちいい」の基準は大きく跳ね上がっていた。あたいは、叩かれて悦ぶ変態になったんだ。
心の中にあったありとあらゆる基準が溶けていく。痛みも快感もドロドロになって浸される。
「屈辱で気持ちよくなるのは人らしい証拠よ」
さとり様の声が上から降ってくる。反響させられるようにもう一度。
今のあたいにとっては声をかけられることすらありがたかった。絶対的だった。
「でも屈辱を受けて気持ちよくなるなんて変態よね」
「・・・っ!」
布団に顔を埋めている今のあたいにとっては耳だけが頼り。でも、さとり様は耳からも責めてくる。
快感を与えられる傍らでさとり様の言葉が耳を突く。
じゅぶりじゅぶりと耳から入ってくるあたいの中の水音とさとり様の蔑む言葉が混ざる。
「ごっ、ごめんなさいぃ!」
シーツを掴んで謝った。そこから先に何を言われるのか考えたくなくて。
無我夢中で謝っていた。あたいは変だ、ごめんなさいって。それ以上を言われるのが辛くて。
「やっぱりあなたは変態なのよ」
さとり様の言葉に反論の口は開けない。
泣いている。言われた通り変態だから。土下座して、弄ばれて気持ちよがってる変態だから。
引き剥がされていく、ボロボロになっていく、貶められていく感覚に落ちていく。無重力に飛んでいく。
絶望の中を泳いでいく。ざぶざぶと曇った音を出す水の中へ。
怖くて無残に融ける。無様な姿であたいはどんどん深くなる。闇の中へとどんどんと。
「ぎいいっ!」
「もっと苦しめてほしいんでしょう」
首が苦しい。首輪の紐が引っ張られる。
思わず手で押さえようとして、それでもとっさに思い止まってまたシーツを掴む。
あたいは今は頭をつけてなければいけない、でもさとり様は首輪を引っ張る。
どっちもさとり様の命令だ。従えば逆らうことになる。従いながら逆らわないといけない。首が吊られる。苦しい。でもあたいは気持ちいい。
さとり様に理不尽を押しつけられることが気持ちいい。頑張れるから。叶えたいから、さとり様のために。
「う"ぃぎっ!いいっ!」
さとり様の指はどんどん動き続ける。じゅぶっじゅぶっと空気を含む低い水の音。
激しくて止まらない。あたいはもう、さとり様の玩具だ。無抵抗でただひたすらさとり様の望むがままに声を出してしまう玩具だ。
シーツに涙を染み込ませている。苦しくて嬉しい。遊ばれてるから。
「私がそのあなたの飼い主」
あたいの膣内で指で円が描かれる。もっともっと混ぜられる。太股に垂れた液を掬ってまた抉ってくる。
動きが激しくなってくる。ぎりぎり、ぐりぐりと責め立てられる。痛みもあるけど全部気持ちいい。濡れた刺激がさらに強くなる。
意識が無くなっていって白い景色が混ざってくる。どんどんと。背中の甘い痺れがもう止まらない。
「あなたを飼ってるのはこの私」
「はぎっ、い"いっ!」
白さの中にいるあたいに、繋がる言葉だった。守られてる言葉が幸せだった。
あたいはさとり様に飼われてるんだ。繋がる言葉が嬉しかった。心の枷が取れていく。ほぐれていく。
服従して支配されてる今が幸せだった。
「でしょう?」
「あ"ぐっ!うぶう!」
あたいの声は布団に混ざって濁っていく。不完全に通っていく。
布団の中に本当の猫のように指先を埋めていく。そうでないと飛んでいってしまう気がするから。
伝えたいこと心にいっぱいあるのに頭が痺れて回らない。
「さと、りっ、さま"ぁ!」
「いいのよほら」
大きいの、くる。だから、ぐっと、最後につかんで
「ふぐううううううっ!」
「あぁ・・・は・・・ぁっ」
潰れた体勢から更に潰れていく。突っ伏したまま更に深く。全部の力が抜けていく。
折り畳まれたままの足が痺れて動かせない。
首輪が、引っ張られる。
息が整わない。力の抜けきったあたいは抵抗無くさとり様のところへと導かれる。力を振り絞って身体をひっくり返す。
すっ、っとさとり様の手があたいの足を擦っていく。伸ばすように促してるんだろう。
解放された足をゆっくりと伸ばして、ベッドの上にふさわしい体勢へと戻っていく。
ばさっと前髪がかき上げられる。汗だらけの顔なのに。
あたいは、まだぼんやりしている。さとり様の二つの目でじっと見られる。今の顔を見られるのは恥ずかしいけど、さとり様になら見せられる。
「可愛らしい顔」
さとり様の言葉が染み込んでくる。熱さが温かさに変わって体の中に染みてくる。
ペット達に向けている、よく見た笑みの顔だ。いつだって安心出来る顔。心細くて卑屈だったあたいを救ってくれる言葉と顔。
「ありがとう、ござい、ます」
作れる力も無かったけど、精一杯に笑顔を浮かべて伝える。弱くて、それでも今の全てを。
幸せな気持ちだから、そう伝える。
この顔があるから、あたいは安心して身を任せられるんだ。
どんなにきつい事をされても最後にちゃんとこうして褒めてくれるから。
だからあたいはどんな事だって、受け入れられるのだ。
────
「んん・・・」
瞼の裏からでも光が見えていた。窓からはうっすらと光が差してて結構な時間経ったんだって認識する。
あれから何度も何度もイカされて、数は五回を超えてからは覚えてなかった。すごく疲れているのだけは分かる。
ああ、でも著しいほどえらい姿を晒したのだけは思い出して顔が火照る。
「お疲れ様」
目の前に見えたさとり様の声。もうとっくに起きてて身なりまで整えていたようだ。
今、気がついたがあたいに纏わりついてた色んな液もすっかり拭き取られてる。最初から何も無かったように。
じっと寝顔を見られてたみたいで、気恥ずかしい。昨日はもっと恥ずかしいことされてたはずなのに。
とりあえず、色んなこと言いたいけれど気怠さと満足感に包まれて動けない。
「大丈夫?痛みは」
「大丈夫ですよ」
「昨日は一段と当たってしまったわね、平気だった?」
さとり様の手があたいの顔やお腹を優しく撫でてくる。
昨晩は確か爪を立てられて、お尻を叩かれたりして。でも、あの時の痛みは今は緩くなって烙印みたいに心地良い刺激になってまだ全身にへばりついている。
だから、さとり様が思うような問題ではなかった。
むしろ恥ずかしい姿を晒し過ぎたせいで今ちょっと顔が見れない方が問題なぐらいで。
「私がそうさせてるんだもの。気に病む必要無いわ」
「あー・・・」
そう言われるとあたいとしても立つ瀬が無いというか。責任背負わせちゃって逆にどうしようと思ってしまう。あたいにもうちょっと責任負わせて罵ってもいいんだけど。
でも気持ちは楽にはなってしまったから、やっぱりこの人は頼もしい。
「えっと、あの・・・・・・さとり様」
「いいわよ」
なんとなく甘えたい、さとり様に。猫だから。温かいところは好きなのだ。今一番温かいところへいたいのだ。
さとり様がベッドに座ったのと同時に、その膝に乗っかる。夜はさとり様の顔見えなかったけど今は向かい合う体勢。
抱きしめて存分にくっつく。体温があって柔らかくて小さくて気持ちがいい。背中越しより前の方がいっぱいの温もりを感じる。
「いい子だったわね」
「うにゃぁ・・・」
さとり様のなでなでが嬉しくなる。恥ずかしい目も苦しい目もこうやっていると楽しい思い出のようになってくる。
笑顔になってくれるのならペットとしてまた尽くそうって何度も思えてしまう。
「ありがとうね、お燐」
「えへー」
座ったさとり様に導かれるように膝に頭を乗せる。見下ろしてくる顔が今は柔らかい。
夜の支配者の顔も、今の顔も、どっちもさとり様だ。あたいはよく知ってる。だからどっちも好きだ。
「さとり様も大丈夫でしたか?」
「ええ、おかげさまで」
ああ良かった。それならいいや。
さとり様が呼び出す時は、だいたい何かあったんだろうって日だ。よく分からないけど嫌なことがあって、だからあたいをペットとして可愛がるんだろう。
そういうの分かるからあたいは求めに応じる。それで癒されるのなら一番嬉しいから。
「そういうのは心配しなくていいの」
頭に手を置かれた。そういうところで力になれないのは少し寂しいけれどあたい一人の手じゃどうにもならないとかそういう事かも知れない。
たぶんだけど、心配かけさせたくないのもあるのかも。だから無理に何があったのかってことは聞かない。
あたいが必要になった時に必要とされるならそれでいい。
「あたいはペットですし好きに使ってくださいよ」
「そういうの弱いのよね。ふふ」
その何か企む悪い笑顔。ああダメだ、余計なことを言ってしまった。
あたいはどうも良くない次回への伏線を張ってしまったようだ。ワクワクしてしまう。
「次はもう少し優しくしましょうか」
「出来れば恥ずかしくないのがいいんですけど」
「それはダメね」
「えー」
この一瞬の却下。
また何かされることが確定されてしまった。
「でも、ちゃんと気持ち良くしてあげるわ」
「あー・・・はい、お願いします」
その言葉がまともに機能してくれることを、祈るのみだ。
何だかんだで、やっぱりあたいは気に入ってるんだろうなあ。
それ以上に正しい言葉ってのは無くて、それでいて特別な感じがする関係。
その人が好きでそれでいてその人も面倒見てくれて、代わりに癒しになって可愛がられてたまにちょっと意地悪される。
喋れなければ問題無いけど、言葉があるとちょっと厄介。でも通じ合ってればそれすら問題無い。
「ペット」っていう、あたいとさとり様の大事な関係。
嬉しい事この上ない……今夜は呑みます
「ペット・奴隷」シリーズのさとり様は、自らを鼓舞して頑張ってらっさったので
この「さと燐」シリーズのさとりんには大いに楽しんで頂きたい
夜伽における前作非常に楽しく(?)読ませて頂きました
もしもまた夜伽に作品を投稿する気があるなら頑張ってください!