新型コロナウイルス感染拡大の影響が治療に当たる医療現場だけでなく、患者にも広がっている。失業などで収入が激減する人が多く、耳原総合病院(堺市)では無料で受診ができる制度の利用者が急増。担当者は「困窮し、医療を受けられない人が多くなっている。別の形での“医療崩壊”だ」と警鐘を鳴らし、危機感を募らせている。
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新型コロナウイルスの影響で困窮する患者への対応などを相談するソーシャルワーカー=堺市の耳原総合病院 |
同病院では一定額以下の世帯に対し、医療費を減額もしくは無料にする「無料低額診療事業」を2009年から実施している。例年は年間30件ほどで推移していたが、感染が拡大してきた今年3月から11月の8カ月間で91件と約3倍に膨れ上がり、過去最高のペースで増加している。
そのうち、ソーシャルワーカーが新型コロナの影響にあると把握しているケースが21件。「流行以前に求職活動していたが、仕事が見つからない」「再就職直後の自宅待機で収入がなくなった」など困窮する実態が浮かんできた。
府内で外国人向けの旅行サービス手配業をしていた男性(47)もその一人。年明け以降、収入がゼロとなり、2月初旬に従業員を解雇した。その後、国からの給付金や所有していたバスを売却し、かろうじて生活を続けてきた。
糖尿病などの持病があり、1カ月の治療費は約3万円。「正直、生活するのが精いっぱいで病院に行く金銭的余裕はなかった。5月には貯金などが底をつき、治療するのは完全に諦めていた」と振り返る。無料で受診できる事業を知って申請。「これがなければ死んでいたと思う」と胸をなで下ろす。
同病院のソーシャルワーカーの大平路子さん(48)は「うちで把握しているのは氷山の一角」と話す。全ての病院で同じ事業をしているわけではなく、取り組み自体を知らない患者も多いからだ。「セーフティーネットの網の目から、すり抜けてしまった人も多いのでは」と危惧する。
収入が減れば減るほど、食費などの生活費、家賃などに優先的に回すのが実情。医療費が無料になる生活保護には、申請条件などにハードルもある。同事業も各病院が個別で行っており、国の施策ではない。
大平さんは「第3波を迎え、困窮者の増加傾向は続き、状況もさらに悪化している。何らかの形で公的な制度を整えてほしい」と訴える。
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