「お答えは差し控える」のは「国民を冒涜する」ことではないのか? 10年前と今年の菅首相の言葉を読む

文春オンライン / 2020年12月30日 6時0分

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安倍晋三前首相 ©️文藝春秋

 2020年の言葉。いろいろあるなぁ。

 そういえば「日本モデル」って覚えてますか。安倍前首相が5月25日の記者会見で誇らしげに語った言葉。新型コロナウイルスについて、

「日本ならではのやり方で、わずか1カ月半で流行をほぼ収束させることができた。日本モデルの力を示した」(産経ニュース5月25日)

 感動的です。

 しかしこれ、実は定義がよくわからなかった。当時私はいろいろ探したのですが新聞では読売がきちんと書いていたぐらい。

《日本モデルとは、外出自粛や休業などを強制せず、感染防止策ではPCR検査による感染者割り出しよりもクラスター(感染集団)対策を重視する手法を指す。》(5月27日)

 今となってはなんだか懐かしい。2020年の幻の言葉というべきか。

東京オリ・パラは「コロナに打ち勝った証」

 フワッとした言葉はまだある。「コロナに打ち勝った証」。

 東京オリンピック・パラリンピックについて「人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証として開催したい」と安倍&菅首相がよく言っていたアレ。

 そもそも勝ち負けの話なのか。いや、勝ち負けの話だとしたら「審判」は誰なのか。例によって審判も自分たちなのでは。

 ちょっと思い出すだけでも内閣法制局長官の件、東京高等検察庁の黒川弘務前検事長の定年延長の件など自分たちでシステム(審判)を決めていた無敵の8年間が続いた。

 この“余裕”は国会での言葉の価値を徹底的に下げてしまった。よりによって国会で。解釈なんでもあり、ツッコミをくらっても答弁をはぐらかす。公文書は破棄、改ざん。そして最後は「お答えは差し控える」。言い訳しようとする努力すらしなくなった。

「お答えは差し控える」……書面でも?

 最近思わず笑ってしまった記事がある。

『首相 書面でも「控える」』(朝日新聞12月9日)

 何のことかと言えば12月4日におこなわれた首相会見の「その後」のこと。会見で指名されなかった報道各社などの質問書を募ったのだ。なんだちゃんと対応してる?

 しかし安倍晋三前首相の「桜を見る会」前夜祭の費用補填問題にはここでも、「お答えは差し控える」。

 わざわざ質問書を募っておいて「お答えは差し控える」。無敵だ。何のコントだ。

 もっと熟練した使い方もある。言葉の頭に「捜査中なので」「裁判中なので」をつける。

 例・捜査中なのでお答えは差し控える

 もっともらしい言い方のようになるが、こういう使い手はだいたい捜査や裁判が始まる前から「お答えは差し控える」と言っている。どっちにしろ最初から控えているのだ。無敵だ。

菅氏、10年前のブログでは……

 では、菅首相は最初からそんな人だったのか。

 今から10年前の2010年の11月21日の菅氏のブログにはこうある。

『責任も能力もない民主党政権の限界』

 痛烈!

 当時、菅氏が所属する自民党は野党で、菅氏はブログでも民主党の菅政権を舌鋒鋭く追及していた。

 このときは民主党の柳田法務大臣が、

「法務大臣は個別事案については答えを差し控える、法と根拠に基づいて適切にやっている、この二つだけ覚えておけば良い。この二つだけ言っておけば国会を乗り切れる」

 と地元の会合で発言していたのだ。菅氏はブログで次のように書いた。

「全く不真面目で国民を冒涜する発言をしました」

「このような国会そして国民を愚弄するとんでもない問題発言をしたことは、職務に対する使命感も責任感も全く感じられません。菅総理は即刻罷免するべきです」

 その通り!

「答えを差し控える」なんて全く不真面目で国民を冒涜するものです…あ、菅さん10年前にこんなことを…。

過去から来たもう一人の自分と戦う菅首相

 ここで言う「菅総理は即刻罷免するべきです」って菅直人氏のことだが、今から読むと10年後の「菅総理」つまり自分に刃を飛ばしているようにしか思えない。菅首相の最大の敵は過去の自分かもしれない。

 今後「お答えは差し控える」という菅首相を見たら、菅氏は過去から来たもう一人の自分と戦っている姿を想像したい。なんかカッコよくなってきた。

 そうそう、年末年始はおウチ時間が長くなる人が多いはずだから野党時代の菅氏のブログをじっくり読んでみるのはどうだろう。ちょっとしたSFでもありホラー気分を味わえる。お手軽な巣ごもりアイテムになるかも。

 というわけで私にとっての2020年の言葉は「お答えは差し控える」です。

 次点は、

「説明できることとできないことある」

 あ、すいません、これも菅さんの言葉でした。菅さんかなりのヒットメーカーです。

首相になって徹底的に避けてきた「説明」

 NHKの番組に出演した菅首相が日本学術会議の任命除外の問題について司会者から問われると、

「説明できることとできないことがある」

 と語気を強めて言った。この言葉を引き出したのは有馬嘉男キャスターだが、 週刊文春12月24日号 は「菅官邸を怒らせたNHK有馬キャスターが降板!?」と報じた。来年は「ニュースウオッチ9」のウオッチをみんなでしたら盛り上がりそう。

 こうしてみると「お答えは差し控える」とか「説明できることとできないことがある」とか、首相になって徹底して説明を避けてきたことがわかる。

 “影の首相”から本当の首相になった菅さんですが、なんでわざわざ目立つ表に出てきたのだろう。不思議です。

(プチ鹿島)

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