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 原発の安全性を審査し、運転にお墨付きを与えてきた原子力規制委員会の仕事の進め方に対し、重大な疑義が突きつけられた。福島第一原発の事故後に再稼働した原発は本当に安全といえるのか。原子力行政の再点検が迫られている。

 福井県にある関西電力大飯原発3、4号機について、大阪地裁はきのう、規制委が17年に出した設置変更許可を取り消す判決を言い渡した。福島の事故後に策定された新規制基準とそれに基づく「審査ガイド」が求める検討をしていないと指摘し、「規制委の調査審議と判断の過程には看過しがたい過誤、欠落があり、不合理」と断じた。

 原発の地震対策では、電力会社が原発を襲う最大の揺れとして「基準地震動」を想定し、それを踏まえた安全対策を示して規制委に再稼働を申請する。規制委は、その想定が適切か、対策は十分かなどを審査し、新規制基準に適合すると判断すれば必要な許認可を行う。

 関電は大飯3、4号機周辺の断層の長さや幅を仮定して、そこから起こりうる地震規模を算出し、基準地震動を定めた。

 これに対し、近隣府県の住民らが疑問を投げかけた。関電が示した地震規模は平均値でしかない。審査ガイドは「ばらつきも考慮されている必要がある」と明記しており、実際の地震はもっと高い値になることも想定される。関電の数字をそのまま受け入れた規制委の許可は違法だ――と主張した。

 国側は「関電は余裕をもって計算しており、あえて『ばらつき』を考慮する必要はない」などと反論したが、判決は住民側の主張に軍配をあげた。福島の事故後、規制委が自ら審査ガイドに「ばらつき」条項を追加した経緯を踏まえ、決められた手続きに忠実・厳格であるよう求めたといえる。

 規制委は判決を踏まえ、まず大飯3、4号機の審査過程を検証する必要がある。また他の原発に関する審査でも、同様の不備があった可能性がある。そうした原発の周辺に住む人々に不安が広がることも予想される。真摯(しんし)な対応を求める。

 大飯3、4号機は定期検査中でいまは稼働していないが、関電が運転の再開を急いではならないのは当然である。

 福島の例を引くまでもなく、地震や津波、火山噴火など、想定を上回る規模の災害が襲ってくる恐れは常にある。だからこそ、万が一にも事故があってはならない原発については、安全側に立って基準を定め、それに基づいて審査や規制に当たらなければならない。再稼働を進める政権は、この原則をいま一度胸に刻むべきだ。

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