コロナ禍が全国に広がり、一人ひとりのくらしに深刻な影響が及んでいる。中央政府はもちろん、各自治体がこの状況にどう対処し、市民生活をいかに守るかが問われるなか、気になる動きが最近目につく。
苦境を乗り切るため住民全員に現金を配るという選挙公約を掲げる候補者が相次ぎ、一定の支持を集めていることだ。選挙の時期ではなかったが、9月には東京都千代田区で、すべての区民に12万円を支給する区長提案が議会で可決された。
そうした施策を一概に否定するものではない。だが、財源の裏づけ、現金給付と引き換えに実施できなくなる事業とのかね合い、将来の自治体財政への影響などにも目を配り、給付の効果と副作用を市民に丁寧に説明する必要がある。さもなければ歓心を買うためのばらまきと言わざるを得ず、禍根を残す。
愛知県岡崎市では10月、選挙直前に「一律5万円給付」を公約に打ち出した候補者が、現職を大差で破った。予想外の結果に近隣の首長選で同様の公約を唱える候補者が続いた。11月の兵庫県丹波市長選でも、新顔が全市民への5万円給付を約束して現職に競り勝っている。
だが岡崎の新市長は早々に壁にぶつかる。公約を果たすには200億円が必要だ。市の貯金80億円を取り崩しても足りず、老朽化した公共施設の整備などのためにある五つの基金を廃止して財源を捻出しようとした。議会はこの予算案を否決した。災害が起きた際などに「貯金なし」で対応できるのか。市民サービスを維持できるのか。そんな懸念がぬぐえなかった。
丹波市長も庁舎建設のための基金などを財源にする考えで、議会の審議はこれから始まる。賛否いずれにせよ、相手方の言い分を聞き、市民が納得できる検討を経て結論を導き出さなければ、首長、議会双方への不信が募る。他の自治体にも参考になる議論を期待したい。
政府も春に国民全員に10万円を配った。社説は、真に困っている人への迅速な支援の必要性を認めつつ、富裕層も含む一律給付に疑問を呈した。実際にその後の調査で、消費ではなく貯蓄が大幅に伸びる結果が出て、政策効果に疑問符がついた。
未曽有のコロナ禍の下でも、目的をはっきりうたい、メリハリをつけて財政出動する。その姿勢が大事なことに中央も地方もない。政治にかかわる人たちの見識が試される。
有権者も問われる。首長や議員の言動に関心を払い、選挙で争点になれば公開討論会の開催などを求めて政見を見極める。地方自治の担い手は住民自身であるとの自覚を確かにしたい。
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