対応に追われる“苦境の現場”保健所長に聞く[2020/12/23 23:30]
医療現場と同じく、新型コロナウイルスの感染拡大で厳しさが増しているのが保健所です。感染者について、入院・自宅療養の調整、濃厚接触者の追跡調査など、職員の業務は増える一方で、精神的にも肉体的にも限界を迎えつつあるといいます。
東京・港区の『みなと保健所』では、土日も対応に追われ、帰宅時間は日付をまたぐような生活を、3月ごろから続けています。感染者増加にともない増えていく業務量に、所長は運営に危機感を抱いています。
みなと保健所・松本加代所長:「全然見通しが立たないなかで、年末年始を越えて、今年度、もしかしたら来年度もこの状況となると、ずっと過重労働が続いている状況ですから、職員の健康にはかなり心配しています」
みなと保健所・松本加代所長にスタジオで話を聞きます。
23日の東京都の感染者数は748人と、過去2番目に多い人数でした。このうち、港区は65人でした。
(Q.この感染者数をどう受け止めていますか?)
松本加代所長:「港区においても、1カ月前より約3倍に増えています。かなり大変な状況で、職員は長期間、朝から晩まで本当によく頑張ってくれています。感謝しかありません」
保健所が担っている業務は「PCR検査の手配」「感染者情報の把握」「濃厚接触者の追跡調査」「入院・療養の調整」「自宅・宿泊療養者のケア」など業務は多岐にわたります。
(Q.10月にかかりつけ医からPCR検査を受けられるようになりましたが、保健所への負担はまだありますか?)
松本加代所長:「PCR検査は地域の医療機関で受ける人がほとんどですので、そこについては業務の負担は減ってきました。ただ、それ以外の業務については負担が増加しています。指定感染症なので、すべての感染者について同じ対応が必要になります。感染者数が3倍に増えれば業務量も3倍に増えます」
(Q.来年からは「ワクチン接種の体制整備」「東京オリンピック・パラリンピックの対策」も保健所の業務に加わるということですが、大丈夫ですか?)
松本加代所長:「ワクチン接種は、これから体制整備と実施の準備を進めていきますので、かなり短期間で仕上げる作業になります。すべてのことをフルにやるのは難しい状況になってきています」
(Q.みなと保健所では現在65人ほどで作業しているということですが、増員が簡単にできなり理由は何ですか?)
松本加代所長:「特に保健師などの専門職については、専門性があることや、スキルのトレーニングも必要ですので、患者数が急に増えたからといって、即対応は難しいです」
(Q.保健所の業務軽減のための予算が付いたり、感染者の情報を一元管理する厚生労働省のシステム『HER−SYS』も導入されましたが、第1波と比べて負担軽減にはつながっていませんか?)
松本加代所長:「港区においては、新しいシステムの導入やアプリの開発など、かなりの業務改善を行ってきていますが、感染者数の増加が著しいので限界が来ています。HER−SYSについても、使いやすくはなってきていますが、医療機関からはFAXで来て、入力は保健所でやっているので、人手が必要になります」
松本加代所長に現場から訴えたいこと2つ挙げて頂きました。
【入院は治療が必要な人を優先】
現状は65歳以上や持病のある人は無症状でも原則入院となっていて、それを本当に「治療が必要な人を優先」するべきだとしています。
【濃厚接触者の調査対象を絞る】
医療従事者や入院患者、高齢者などを優先して調査することを求めています。
(Q.これで現場はどう変わりますか?)
松本加代所長:「今は軽症者も重症者も、すべての人に同じ対応をしているので、流行期においては医療が必要な人を必ず医療につなげられるようにシフトさせて頂きたいです。また、濃厚接触者の調査も濃淡をつけて、医療や高齢者施設等について調査して、広がりを抑えていくことが必要だと思います。今は全員の原因は負えなくなっていますので、各個人の感染防止対策が必要になりますし、保健所の対応も濃淡をつけてやっていく必要があると思います。多くの人は軽症や無症状の人が多いので、そういった人には軽い対応というか、自宅療養を中心にやって頂くなどの対応をすることで、医療現場のひっ迫も防ぐことができるのではないかと思っています」