EU、イギリスからの渡航禁止解除を加盟国に要請 流通に支障

Long queues of lorries on the motorway in southern England
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イングランド南東部では3000台近くのトラックが立ち往生している

欧州委員会は22日、欧州連合(EU)加盟国に対し、イギリスに対する渡航禁止を解除するよう呼びかけた。イギリスでは新型コロナウイルスの変異種が発見され、各国が警戒を強めている。

ただし、この要請に法的拘束力がなく、加盟各国は自由に国境管理を行うことができるため、渡航禁止を継続する国も出てくる可能性がある。

こうした中、フランス政府はイギリスと制限緩和について合意したと発表した。英仏を結ぶ航空機、船舶、高速鉄道ユーロスターは23日朝、行き来を再開する。

フランスは先週末、イギリスからの渡航者や貨物の受け入れを停止。フランスとの貿易港となっているドーヴァー港で混乱が起きていた。

また、数千台のトラックがドーヴァー港のあるケント州で立ち往生し、クリスマス時期の物資不足が懸念されている。

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今回の変異種は感染力が強いが、致死性が高いという証拠は見つかっていない。

変異種は複数の国で報告されている。一部の専門家からは、すでにそれ以外の国にも広がっているはずで、イギリスが新型ウイルスの遺伝子変異を追跡していたことで発見に寄与したという指摘も出ている。

また、今回の変異種とは無関係の別の変異種が南アフリカで発見されており、同国からの渡航者の入国を禁止する国が出ている。

EU全体での合意はなく

22日現在、EU加盟27カ国のほぼ全てがイギリスからの渡航を禁じているが、英仏は23日朝から行き来を再開する。

イギリスからフランスに入国できるのは、出発前72時間以内に新型ウイルス検査で陰性が確認された、トラック運転手やフランス国民、フランス在住のイギリス国民ら。入国を急ぐ理由があることも条件で、フランス以外の欧州連合(EU)加盟国の国民も対象となる。

EU当局は22日、域内共通の方針をまとめるため、各国の緊急EU大使を招集し会合を開いた。

これに先駆けて発表された欧州委員会の声明では、COVID-19の検査や自主隔離を行った自国民について、イギリスからの渡航を認めるよう推奨している。一方で、不要不急の移動はしないよう呼びかけている。

また、EU域内のトラック運転手などの運輸業者については、移動の制限や検査義務から除外されるべきだと述べた。

イギリスのトラック運転手については、フランスをはじめとするEU各国へ来るには検査を受けるべきだとした上で、「それが流通の妨げになってはいけない」という見解を示した。

しかし22日中に、欧州委員会の要請が受け入れられた様子はほとんどみられなかった。ベルギーは23日から自国民のイギリスからの帰国便を再開するとしているが、ドイツは渡航禁止を継続している。

AFP通信は外交筋の話として、大使らはこの要請に「注意を払う」だけにとどまったと報じた。

英仏間の流通は再開の動き

英仏の間では、飛行機や船、高速鉄道ユーロスターも、23日朝から再開される見通しとなった。

しかし、先週末に英仏国境が閉じられて以降、イングランド南東部では3000台近くのトラックが立ち往生しており、この状況はクリスマスまで解消されない見込み。イギリス政府は国内のトラック運転手に対し、大規模なウイルス検査が行われるまではこの地域へ向かわないよう呼びかけている。

こうした中、日本のトヨタ自動車はイギリスとフランスの計3カ所の工場で生産を一時停止すると発表した。「流通の遅れによる部品不足と、国境封鎖期間の先行き不透明感」を理由に挙げている。

イギリスからの渡航禁止、50カ国以上に

イギリスからの渡航者の入国を禁じている国は欧州以外にも広がり、50カ国以上に増えている。これまでにインドイランカナダなども、イギリスからの渡航者の入国を禁止している。NHKによると、日本政府は24日以降、日本人以外のイギリスからの入国を一時的に停止する方針を固めたという。

アメリカはすでに、14日以内にイギリスを含む数カ国に滞在していたほとんどの非アメリカ人渡航者について入国を禁止している。イギリスに対する個別の渡航禁止命令は出ていないが、、航空会社のブリティッシュ・エアウェイズとデルタは、ニューヨークのジョン・F・ケネディ空港に向かう便について、ウイルス検査で陰性判定を受けた乗客だけ搭乗を認めるとしている。

サウジアラビアクウェートオマーンは、国外からの渡航者の入国を完全に禁止している。

今回の新型ウイルスの変異種は、デンマークに加え、オーストラリア、イタリア、オランダでも確認されている。スウェーデンは22日、デンマークからの外国人渡航者の入国を禁止した。

世界保健機関(WHO)のハンス・クルーゲ欧州地域事務局長は、人の移動を制限しながら貿易は継続する戦略を構築するため、加盟国を招集する予定だと話している。