イギリスで流行が拡大している新型コロナウイルスの変異種。
国立感染症研究所の報告によると、変異種は、再生産数(R)を0.4以上増加させ、伝播のしやすさも最大70%増加させることが示唆されている。これは、イギリスで行われたウイルスのゲノム解析などの結果から、現時点で考えられていることだ。
これまで流行してきたウイルスに比べて、感染性は高いとされている。
感染症研究所は12月22日、この新型コロナウイルスの変異種に関する第1報を発表した。
それによると、ウイルスの遺伝子上における変異の数は、中国・武漢で初期に広がっていた新型コロナウイルスの遺伝子をベースとすると29カ所。
その中でも、ウイルスが細胞に侵入する際に重要な役割を果たす「スパイクタンパク質」の変異である「N501Y」という遺伝子の変異が、最も感染性に影響を与えているという。
特定の患者の中で変異が加速度的に蓄積
感染症研究所によると、今回流行が広がっている変異種については「免疫抑制者等の患者が長期的に新型コロナウイルスに感染したことで、変異が加速度的に蓄積され、誕生した」という仮説が考えられるという。
一方、ウイルスがヒトから動物に感染し、そこで変異してから再びヒトに感染した可能性や、ウイルスのゲノム解析があまり行われていない途上国で流行する中で変異したウイルスがイギリスへ再流入したという可能性については、否定的な見方を示した。
なお、感染症研究所は、変異種の出現に対する懸念として、次の3点をあげている。
- 変異の一つであるスパイクタンパク質の遺伝子(S遺伝子deletion 69-70)を検出するPCRについては、検証が必要。
- 現時点で、今回の変異種に感染した場合に重症化する可能性を示唆するデータは認められていない。ただし、症例の大部分が重症化の可能性が低い60歳未満の人々であるため、評価には注意が必要。
- 現時点では、ワクチンの有効性への影響は不明。
また、イギリス以外では、デンマークで9例、オランダで1例、ベルギーで4例 、オーストラリアで1例、イタリア(報道情報)で、同様の変異種が確認されている。
欧州疾病予防管理センターによると、
「EUのほとんどの国では、ウイルスゲノム解析が行われている例が英国よりも少ないため(英国では全症例の約5〜10%で実施)、この新規変異株がすでにEU内で流行している可能性は否定できない」
としている。
日本では24日より英からの入国制限を強化
NHKの報道によると、日本では12月24日以降に、日本人以外のイギリスからの入国を一時的に停止するといった入国制限の強化方針が示されているという。
国内ではまだ、イギリスで広がっている変異種(とりわけ、N501Yの変異をもつウイルス)は見つかっていない。ただし、ウイルスの遺伝子解析が行われている症例が、全体の一割程度に限られているため、知らずに流入している可能性も否定はできない。
また、たとえ感染性の高いウイルスの流入がなくとも、現時点の医療体制の逼迫度を考えると、特に東京近郊においては感染を一定程度抑制する必要があることは変わらない。
依然として、マスク、手洗いの徹底や、人との接触機会を減らすといった対策を強める時期という認識が必要だ。
日本の対応についての国立感染症研究所からの推奨
- 変異株の監視体制の強化。特に、最近2週間の英国渡航歴ありの陽性者に対する検体提出、ゲノム分析の実施。
- 英国からの入国者の健康観察。必要に応じ、指定施設での停留(健康観察)や航空便の運行停止も検討。
- 上記について、英国以外に変異株が検出されている地域に対しても同様の措置を検討すること。
(文・三ツ村崇志)