3人の子どもの明暗の「残酷さ」
出演は前述した小栗旬さん、星野源さん、市川実日子さんに加え、橋本じゅんさん、松重豊さん、古館寛治さん(館は本来は舎に官)、宇崎竜童さん、梶芽衣子さん他、そうそうたる顔ぶれだ。
野木 映像作品にリーチがある点としては、登場人物それぞれに、演じ手の人間味が乗ることは大きいですよね。
塩田 全員凄かったですね。とくに、事件に関わった3人の子供の一人である聡一郎の大人時代を演じた宇野祥平さん! 私が現場にご挨拶に行って、宇野さんを見た瞬間に「ああ、聡一郎がいる!」と思った。あれは驚きました。カメラが回ってお芝居が始まって、「保険証を持ってないんで」と話した時もゾクッとしました。
聡一郎の姉・望ちゃんの、中学時代の友人を演じた高田聖子さんも本当に、忽然と消えてしまった友人のその後について、ずっと案じ続けていたんだな、ということが伝わった。
この話は、事件に関わった3人の子供の人生に明暗があるという点に残酷さがある。ただ、“明”の方の人生を送っていたはずの星野さん演じる俊也は、“暗”の人の送ってきた人生を知ることで、罪悪感で追い詰められていくんです。その微細な感情の変化がスクリーンに映し出されるたびに鳥肌が立ちました。
野木 新聞記者の阿久津は、塩田先生がご自身を投影されていると思うんですが、私はこの脚本を、塩田先生とお会いしないまま最後まで書いたんですね。『罪の声』は、文体も硬質だし、とても真面目な小説なので、そういうタイプの人を想像してました。でも映画では演じるのが小栗くんだし、ちょっとした軽さとか、多少やる気のない感じを足しているんです。そこに関しては、塩田先生ご本人と阿久津のキャラクターは離れたのかなと思っていました。それが実際にお会いしたら、「あれ?むしろ映画の阿久津に近いぞ」って(笑)。
塩田 申し訳ございません。デビューして10年、初めてお会いする人からは、「えぇ? 軽っ!」みたいなことを言われ続けています(笑)。
野木 その柔らかな物腰だからこそ、相手を油断させて、すごい証言を引き出せてしまうんでしょうね。怖い怖い(笑)。