年々、IT 人材の確保が困難になっています。2019 年に経済産業省が発表した『IT 人材需給に関する調査』によれば、2030 年には最大で 78.7 万人もの IT 人材不足が発生すると試算されています。
これは、いわゆる「IT 業界」だけの問題ではありません。社内の IT インフラを改善し、ビジネスのデジタライゼーションを推進していくことは、目まぐるしく変化する市場で生き残るためには欠かすことができないからです。
しかし、人手が足りない中で、どうやってそれが実現できるのでしょうか?
松富士食品の事例は「システム部門を少数精鋭化する方法」を私たちに教えてくれます。同社は「ひとり情シス」でありながら、Microsoft 365 Business の導入によって、運用負荷を大きく削減させました。そしてさらに、コミュニケーション活性化や社内教育の向上、データ利活用などといった価値を提供する、戦略部門への転換を果たしつつあるのです。
アカウント管理の煩雑さを解消する Office 365
つけめんで知られる「六厘舎」を運営しているのが松富士食品です。2005 年に大崎で開業した店舗から始まり、現在は、毎日食べても飽きのこないつけめんの「舎鈴」、まぜそばとガッツリ系ラーメンの「ジャンクガレッジ」や野菜たっぷりタンメンの「トナリ」といった 6 ブランド 65 店舗 (2020 年 3 月時点) を展開するまでに至りました。パート従業員も含めると、従業員数は 1,000 人を超えています。
同社は創業以来、『つけめんを文化に』をテーマに、社会基盤としての食文化の発展に取り組んできました。消費者に美味しい料理を提供するだけでなく、長時間労働の是正や休日の取得など、飲食店の働き手にとっても健全な労働環境づくりを続けています。
そんな松富士食品が、情報システムという社内インフラ整備へのフォーカスを始めたのは、2018 年のことでした。マイクロソフトの提供するビジネスアプリケーションのサブスクリプションサービス、Office 365 を導入したのです。
Office 365 の導入に当たっては、「ライセンス管理の効率化」が大きな理由だったと、株式会社 松富士食品 財務・経理部 経理主任 中堀大氏は言います。
「従来は端末とライセンスの一覧表を Excel で作って管理していたのですが、とても大変でした。PC が故障するたびに、箱を探してプロダクトキーの番号を確認しなければなりません。去年まで社内の情報システム担当は私ひとりで、経理との兼業でしたので、なんとか業務効率化をする必要がありました。そこで、Office 365 を導入したのです」(中堀氏)
単独で社内の IT インフラを管轄する「ひとり情シス」にとって、業務の自動化・効率化は欠かせません。Office 365 ならば、デバイスではなくユーザー単位でライセンスを扱うことが可能であり、さらにネットに接続しておけば常に Office 製品の最新バージョンを利用できます。
Office 365 の提供するアプリケーション群のうち、最初に大きな変化をもたらしたのは、クラウドメールサーバーの Exchange Online でした。中堀氏は笑顔でこう語ります。
「迷惑メールが無くなったのです。以前は、毎日何十件という迷惑メールが届いていました。これはセキュリティ的に大きな問題で、担当者がうっかりクリックしてしまうおそれがありました。しかし、Exchange Online のフィルタリング機能によって、そうしたリスクがほぼゼロになったのです。また、1 人あたり 50GB ものメール容量にも、すごく助かっています。チラシのデザインや新店舗の図面など、容量の大きいデータのやり取りが増えてきていたので、サーバーが逼迫して、たびたび『メールを消してください』と注意しなければなりませんでした。Office 365 によって、そういった事を、まったく気にせずに済むようになったのです」(中堀氏)
導入当時は 50GB であったメールボックス容量は、その後 100GB に拡張し、より気軽に添付ファイルの送受信を行えるようになっています。
Office 365 によって、松富士食品の情報システム運用は大きく効率化しました。そして同社の IT インフラ整備は、Microsoft 365 Business と Surface Go の導入へと、さらに歩みを進めます。
65 店舗のセキュリティガバナンスを向上させる
Office 365 を導入したものの、松富士食品の IT インフラ環境にはまだ課題が残されていました。それは、さらなる「業務効率化」と「セキュリティ強化」です。
すべての店舗には PC を 1 台設置し、飲食店用のクラウドサービスを利用しています。ですから、同社には 65 箇所もの拠点があるというわけです。今後さらに事業を拡大していく上では、こうした全ネットワークのセキュリティを担保することは欠かせません。また、Office アプリケーションのサブスクリプション運用は果たせたものの、ID/PASS とデバイスの統合的管理や、Windows を常に最新のセキュリティに保つアップデート自動化などはまだ実現していません。
「ちょうど店舗で使っていた Windows 7 の端末を切り替える時期だったので、ノート PC の刷新と合わせて、業務効率化とセキュリティ強化ができる仕組みづくりを検討したのです」(中堀氏)
そんな中堀氏に、Microsoft 365 Business の導入提案をしたのは、株式会社ソフトクリエイト 営業本部 コアイノベーション営業部 営業第2グループ 副主任 近藤 健太氏でした。
「要件を満たしつつ、『いかに管理の手間を減らすか』という視点で捉えた場合、最も適しているのは Microsoft 365 だと考えました。セキュリティの強化やデバイスの管理、ユーザー管理は、複数のツールを組み合わせれば同じ事はできるでしょうが、そうすると複数の管理画面を行き来する手間が増えてしまいます。クラウド上からすべてを一括して管理するには、Microsoft 365 がふさわしいとご提案したのです」(近藤氏)
最終的に松富士食品が採用した Microsoft 365 Business は、ユーザー数 300 名以下の中小企業向けプランです。Office365 に加え、Windows 10 Business と、デバイス管理ツールである Microsoft Intune、ID (ディレクトリ) 管理サービスの Azure Active Directory (Azure AD) を利用することができます。
既に Office 365 を導入していたことも、Microsoft 365 への切り替えを容易にしました。年単位ではなく、月単位でライセンスを切り替えることができるため、ムダなコストを発生させずに、「来月は 10 人、再来月は 50 人」といった順次移行ができたのです。
店舗で扱うノート PC として、Surface Go を採用した理由については、「小型」であることと「コストパフォーマンス」が大きな決め手だったと、中堀氏は言います。
「店舗事務は広いスペースを取ることができません。なるべく小型の端末が良いと思っていました。一方で、作業内容は Excel によるシフト管理や日報・月報の作成、メール、発注管理システム利用などですから、それほど高度なスペックは要求されません。そこで、小型軽量の端末であり、もっともコストパフォーマンスに優れていた Surface Go を、全店舗の端末に採用したのです」(中堀氏)
Azure AD と Intune により、デバイスとアカウントの一元管理を実現
2019 年 5 月には、松富士食品の情報システム部門に新たなメンバーが加わりました。株式会社 松富士食品 総務部 IT・システム 細谷 輝昭氏は、Microsoft 365 による PC 設定の省力化に驚いたと言います。
「前職でもPCのキッティングをしたことがありますが、1枚1枚CDを入れて、インストールしてと、大変な手間でした。しかし、Microsoft 365はすべてWeb上で設定・管理できるので、ほとんど苦にならなかったのです」(細谷氏)
同社は、Azure AD と Intune を組み合わせることによって、デバイスとアカウントの管理を一元化しています。従来は、たとえば営業から経理に異動が発生した場合、個人端末を取り寄せ、複数のシステムの情報やアクセス権を変更しなければなりませんでした。しかし、これからは、クラウド上でアカウントの情報を変更するだけで、自動的にデバイスの設定変更も完了できるのです。デバイス管理のモダナイゼーションがここに実現しました。
障害対応の際も、Intune の管理画面を見れば該当の端末情報をすべて確認することができます。そして万が一、店舗でノート PC を紛失するようなことがあっても、データを遠隔で消去する事が可能です。業務効率化に加えて、オフィス外で扱うデバイスのセキュリティを向上させることができました。
現在、松富士食品の情報システム部門は、全店舗に OneDrive の利用を呼びかけています。
「ローカルにデータを保存するのではなく、クラウドストレージに集約しておけば、PC が壊れたときも、すぐに復旧させることが可能です。PC の切り替え時に、店舗を一軒一軒回り、着任の挨拶とともにバックアップとしての使い方を伝えました」(細谷氏)
インフラ保守の負荷が減ったことで、社内の生産性向上が可能になった
Microsoft 365 は膨大なサービス群を提供しており、そのすべてを即日フル活用することは容易ではありません。従業員が使うツール類であれば、なおさら段階的な導入が必要です。松富士食品の場合、OneDrive の次は、Microsoft Teams の社内展開を計画しています。
「私たち IT システムと、工場や商品調達の部門で試験的に Teams の利用を始めています。主にビジネスチャットとファイル共有機能を使っていますが、メールと比べて煩わしさが減ってとても便利ですね。また、社内のファイルサーバーにあるドキュメントは誰かが開いていると使えませんが、Teams 上なら共同編集ができます。今後は、人事・総務・経理以外は Teams を仕事のプラットフォームにして、データのやり取りもすべてここでするように計画しています。事務所に戻らないとアクセスできない社内サーバーではなく、Teams によってどこでも仕事ができる環境を整備すれば、『働き方改革』にも繋がると考えています」(中堀氏)
さらに、Teams の次は、動画の作成・共有サービスである Microsoft Stream や、ビジネス分析サービスの Power BI を展開していきたいと、細谷氏と中堀氏の両名は言います。
「Microsoft Stream によって、調理マニュアルの動画化を考えています。実は、私も店舗でアルバイトしていた事があるのですが、紙のマニュアルでは、包丁での切り方など、手の動かし方まではなかなかイメージすることができません。外国人従業員も増えてきていますので、動画教材を用意することは、これからの新人教育に大きく役立つことでしょう」(細谷氏)
「今後は業務効率化だけでなく、『データ活用』に目を向けて行きます。具体的には、売上げの分析など、経営に必要なデータを Power BI によって可視化する仕組みを構築していきたいと思います」(中堀氏)
「ひとり情シス」だった松富士食品の情報システム部門は、Microsoft 365 Business の導入により、日常的なメンテナンス作業にかかる負荷が大きく減ったことで、全社に寄与する「攻めの情シス」へと生まれ変わりつつあります。今後は、さらに利益を増幅させる仕組みを、IT システムによってもたらしていくことでしょう。
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