ジャパンライフ事件に関する論説(2020年9月19日)
- 2020/09/19
- 10:59
ジャパンライフ 預託商法の徹底解明を(2020年9月19日配信『北海道新聞』-「社説」)
預託商法を展開して破綻したジャパンライフの山口隆祥元会長らが詐欺の疑いで逮捕された。
捜査本部は、各地の高齢者ら延べ約1万人から計約2100億円をだまし取ったとみている。
北海道の被害弁護団の3年前のまとめによると、道内には契約者が少なくとも約350人いる。これは全国で4番目に多い。
旭川や北見には、道内支店の元責任者らを相手取り損害賠償請求訴訟を起こした人たちもいる。
蓄えた老後の資金などを失った高齢者らの失意は大きい。捜査本部は被害の実態と全容の解明を徹底して進めねばならない。
被害弁護団は被害回復の手だてを尽くしてほしい。
預託商法はオーナー商法とも呼ばれ、顧客に販売した商品を渡さずに預かり、別の人に貸すなどして配当を約束する商売をいう。
ジャパンライフは数百万円の磁気ネックレスなどの購入を持ち掛け、年6%を配当すると勧誘していた。だが、商品はほとんど存在せず、購入代金を配当に回す自転車操業をしていたとみられる。
預託商法は、配当があるうちは客が不審に思わず契約額を増やしがちで被害が大きくなりやすい。利益をあてにした負い目もあって被害者は声を上げにくい。
1980年代の豊田商事事件で社会問題化し規制の法整備がされたが不十分で、和牛オーナーを募った安愚楽(あぐら)牧場事件など新たな手口による被害が続いた。
抜本対策を講じてこなかった国の責任は重い。
消費者庁の有識者委員会が先月、預託商法の原則禁止を求める報告書をまとめたのを受け、同庁は預託法などの改正案を来年の国会に提出する方針という。
遅すぎた対応だと言わざるを得ない。被害の再発を防ぐため、国は実効性ある仕組みづくりを急ぐ必要がある。
山口容疑者は献金などで政界への食い込みを図り、元官僚を顧問に迎えた。消費者庁の再三にわたる業務停止命令を無視するかのようにして事業を続けた。
さらに安倍晋三前首相主催の「桜を見る会」に招待されたとして、招待状の写真を勧誘用資料に掲載して商売に利用した。
捜査本部は政官人脈の事件への影響も追及するべきだ。
菅義偉政権は桜を見る会を巡る疑惑の検証を行わない構えだ。だが、招待状が巨額の被害を生んだ事件に使われた事実を踏まえれば、再調査の否定などあり得ない。
ジャパンライフ事件 首相推薦枠巡り説明を(2020年9月19日配信『茨城新聞』-「論説」)
3年前に破綻した「ジャパンライフ」による高額な磁気ネックレスなどの預託商法を巡り、警視庁などは詐欺の疑いで創業者の元会長、山口隆祥容疑者や元幹部らを逮捕した。客が購入した商品を会社に預けて貸し出せば、預金より高い利回りの配当を受け取れるという「レンタルオーナー制度」を展開し、高齢者を中心に契約を伸ばした。
しかし実際には客が購入したはずの商品は存在せず、新規の客からの代金を配当に回す自転車操業に陥り、行き詰まったとされる。山口容疑者らは配当の見込みがないのに客の勧誘を続け、代金をだまし取った疑いが持たれている。被害は約7千人、総額約2千億円に上り、70歳以上の契約が全体の7割を占める。
ジャパンライフは2015年に安倍晋三前首相主催の「桜を見る会」に山口容疑者が招かれた際の招待状をチラシにするなど客の勧誘に利用。さらに山口容疑者が「首相推薦枠」で招待された疑惑が浮上した。野党の追及に、政府は当時の招待者名簿を廃棄したため分からないとし、名簿の存否などを含めて調査に応じようとしなかった。事件の全容解明と被害回復を急がなければならない。加えて、桜を見る会が大々的に預託商法の宣伝に利用され、被害拡大の一因となったことを踏まえ、政府は首相推薦枠など山口容疑者が招待された経緯を巡り調査と説明を尽くすべきだ。
ジャパンライフは磁石を埋め込んだ100万〜600万円のネックレスやベストなどを扱い、購入した商品を会社に預けレンタルオーナーになれば、年6%の配当が入ると宣伝。客が知人を勧誘すると報酬を得られるマルチ商法も取り入れ、44都道府県の高齢者ら延べ約1万人から計約2100億円を違法に集めたと捜査当局はみている。購入した繁殖牛から生まれた子牛を預けると、飼育・販売で出た利益が配分される和牛預託商法を手掛け、破綻した「安愚楽牧場」の約7万3千人、約4300億円に次ぐ被害規模となった。
解約妨害などで消費者庁から4回の業務停止命令を受け17年12月、破綻。昨年4月には多くの被害者を抱える警視庁や秋田、愛知、岡山など5県警が債務超過の事実を告げず契約したとして特定商取引法違反容疑で、山口容疑者の自宅や代理店などを家宅捜索した。
桜を見る会を巡っては15年の開催時、山口容疑者宛ての招待状に招待区分の「60」が付され、野党は過去の例からみて、首相の推薦枠だった疑いがあると追及。内閣府は昨年分は「官邸や与党の枠だった」としたが、招待者名簿が廃棄されており、15年もそうだったかは答えられないとした。
安倍氏は「桜を見る会が企業や個人の不当な活動に利用されることは決して容認できない」としながら「個々の招待者やその推薦元は個人情報のため回答を差し控えている」と答弁。野党が調査を要求しても「考えていない」と突っぱねた。
しかし招待状はチラシに印刷され、各地の顧客勧誘セミナーでプロジェクターに映し出すなど宣伝にフルに使われた。「初めて来た人でも信用した」と元社員は証言。1人で1億円以上をつぎ込んだ高齢者もいた。なぜ山口容疑者のような人物が桜を見る会に招待されたのか。それをうやむやにしては、政治不信が尾を引くことになろう。
ジャパンライフ事件 政官との関係も問われる(2020年9月19日配信『毎日新聞』-「社説」)
磁気健康グッズの販売預託商法を展開していたジャパンライフの創業者、山口隆祥(たかよし)元会長らが詐欺容疑で警視庁などに逮捕された。
顧客に数百万円で販売した商品をそのまま預かり、第三者へのレンタル料から年6%程度の配当を約束していた。
だが、実際には資金繰りが厳しく配当を支払う見込みはなかったとされる。実態を隠し、12人から計約8000万円をだまし取ったというのが逮捕容疑となった。
被害者は約1万人、被害総額は約2100億円に上るという。捜査で全容を解明してもらいたい。
顧客を集める際、山口容疑者らは信用を高めるために政界とのつながりを強調していた。大きな宣伝材料となったのが、安倍晋三前首相が主催した2015年の「桜を見る会」の招待状だ。
安倍氏は国会で、山口容疑者との個人的な付き合いを否定した。首相の推薦枠で招待した疑いが指摘されていたが、個人情報であることを理由に説明を拒んだ。
山口容疑者は過去に、マルチまがい商法をしていたとして国会に参考人招致された。14年には消費者庁がジャパンライフに行政指導をしていた。なぜ、こうした人物が招待されたかは不明のままだ。
ところが、加藤勝信官房長官は調査を否定した。名簿が保存されておらず、5年前のことだとして「今から調べても、確たることは申し上げられない」と述べた。
あまりに無責任ではないか。招待状を見て、ジャパンライフを信用したという被害者もいる。逮捕を受け、調査に乗り出すべきだ。
菅義偉首相は桜を見る会の中止を表明した。しかし、それと過去の疑惑解明は別の問題である。
消費者庁は15年9月にジャパンライフの立ち入り検査をしたが、最初の業務停止命令を出したのは16年12月だった。この間にも被害は広がっていた。野党は、政治的な影響を懸念して対応が遅れたのではないかと追及してきた。
規制のあり方が適切だったのかどうか、消費者庁は検証しなければならない。消費者庁の職員が、ジャパンライフに顧問として天下りをしていた問題もある。
政官との関わりが、被害を拡大させた可能性は否定できない。実態を明らかにする必要がある。
被害額650億ドルという史上最大の金融詐欺の張本人…(2020年9月19日配信『毎日新聞』-「余録」)
被害額650億ドルという史上最大の金融詐欺の張本人、ナスダックのB・マドフ元会長は「こんなやり方はすぐに終わりを迎えると思っていた」という。だが、彼の投資詐欺は実に20年以上にわたり続けられた
▲手口は高配当をうたって投資資金を募り、実際は投資もせずに新規投資者の金を別の投資者の配当にあてる単純な自転車操業である。長続きせぬはずの新規投資が途絶えなかったのは、金融界での彼の名声と人脈のオーラゆえだった
▲不正を見抜いた人が規制当局に何度も告発したが、当局は無視した。疑いを抱いた投資家も配当をもらえば事を荒立てなかった。世界の一流金融機関も米国の著名人も巻き込んだ巨大詐欺を発覚させたのはリーマン・ショックだった
▲こちらも30年以上前からマルチ商法かと問題視された企業と人物だ。商品を買って預託すると配当がもらえるという商法で約1万人から2100億円を集めて破綻(はたん)したジャパンライフの山口隆祥(やまぐち・たかよし)元会長ら14人が詐欺容疑で逮捕された
▲この商法、実質上は新規の客の金を別の客の配当にあてるマドフ方式同様の自転車操業らしい。山口容疑者の政財界とのつながりの自己宣伝や、消費者庁の役人の天下り受け入れなどの手練手管(てれんてくだ)で先のばしされてきたその破綻だった
▲安倍晋三(あべ・しんぞう)前首相の桜を見る会への招待も改めていきさつが知りたくなるのは当然である。高齢者のなけなしのお金を奪い去る商法を支えてきた山口容疑者のオーラの正体は、はっきりと見定めておきたい。
巨大詐欺事件 「桜を見る会」の再調査を(2020年9月19日配信『産経新聞』-「主張」)
「ジャパンライフ」の元会長、山口隆祥容疑者らが詐欺容疑で警視庁などの合同捜査本部に逮捕された。磁気治療器の預託商法などで全国の延べ1万人から約2100億円を集めたとされる巨大詐欺事件だ。
山口容疑者は平成27年に安倍晋三首相が主催する「桜を見る会」に招待され、この際の招待状を勧誘セミナーの宣伝に利用していたことが分かっている。いわば詐欺の小道具に使われたことになり、招待の経緯について詳細な説明が求められるのは当然である。
加藤勝信官房長官は18日の会見で「桜を見る会」への招待問題について、「過去の会合では名簿が保存されておらず、招待者推薦は個人情報であることから回答を控えている」などとして再調査に否定的な考えを示した。
だが、これは多数の被害者が巨額を失った詐欺事件である。「首相から招待」の宣伝文句が被害者を信用させる役目を果たしたことは想像に難くない。名簿の消失や個人情報は言い訳になるまい。
例えば同様の事件で、広告塔役を務めたタレントは強く指弾されるだろう。詐欺の意図を知る、知らぬにかかわらずだ。
山口容疑者は昭和50年にジャパンライフ社を創業した。設立した健康産業政治連盟や多額の献金を通じて政治家との交流を深めてきた。59年には所得税法違反で有罪となり、60年には国会で、ジャパンライフのマルチまがい商法が厳しく追及された。
永田町や事件関係者の間で山口容疑者はかなり有名な人物といえた。過去の事件を知らずに招待したとは信じ難く、もしそうであったならあまりに無警戒である。
いずれにせよ、結果が重大にすぎる。誰が、どのような理由で招待したのか。新政権として「今から改めて調べても、確たることは申し上げることができない」(加藤官房長官)とする姿勢は、支持を得まい。
菅義偉首相は「桜を見る会」について、来年度以降、中止する意向を表明している。同時に、安倍政権が行うとしていた会のあり方の見直し作業も中断する。
やる前提であり方を見直すのだから、やらないなら検討する必要もない。そういう理屈なのだという。だが過去の会が事件に利用されてしまった以上、これはもう、屁理屈(へりくつ)ともなるまい。
世紀末のパリの舞台で活躍したサラ・ベルナールはレストランの…(2020年9月19日配信『東京新聞』-「筆洗」)
世紀末のパリの舞台で活躍したサラ・ベルナールはレストランのメニューをせりふがわりに読み、人々の涙を誘ったと伝えられる。「黄金の声」を持つとたたえられた名女優である
▼『セビリアの理髪師』で知られる作曲家ロッシーニは、「洗濯物のリストを見せてくれ、それに曲を付けてやる」と豪語したそうだ。オペラ「洗濯物」があったかどうかは知らないけれど、味も素っ気もないものが、その手にかかれば人の心を動かすものに転じる。才人たちの挿話である
▼才能という言葉を使うのははばかられるが、悪事にその才能を投じる人間も絶えることがない
▼実態がほとんどないような事業や存在すらしない商品は「ジャパンライフ」の元会長らの手にかかって、人の心を動かすもうけ話や商品に転じたようだ。磁気治療器などの預託商法を展開したジャパンライフをめぐり「マルチの帝王」の異名もある元会長ら幹部が、詐欺の疑いでついに逮捕された。高齢者らに巨額の被害が出ている
▼元会長は顧客の前で自身の不幸を語って泣き、時に親身になり、あの手この手を使ったという。「桜を見る会」への「招待状」で信用を得ようとしたのもくわだての一つであろうか。破綻必至としか思えない事業を長く続けている
▼巨大な詐欺の悪知恵を思わせる事件は過去にもある。劣勢には法改正などで対抗するしかないのだろう。
ジャパンライフ 事件の全容と背景解明を(2020年9月19日配信『信濃毎日新聞』-「社説」)
大掛かりな販売預託商法を続け、破綻したジャパンライフの元会長らが詐欺の疑いで警視庁などの合同捜査本部に逮捕された。
大規模な被害を招いた商法の実態とともに事件の全容解明を急がなくてはならない。
長野を含む44都道府県の約1万人から、計2100億円を違法に集めたとみられる。
国民生活センターには過去10年間で3千件を超える相談が寄せられていた。老後の大切な生活資金を失った人が少なくない。
同社の商法は、高齢者らに磁気ネックレスなどの購入を勧誘。商品を第三者に貸し出すことで利益を配当として得る「レンタルオーナー制度」をうたってきた。
実際の商品は社内にほとんど存在せず、新規の契約金を顧客への配当に回す自転車操業を続けていたとみられている。
1970年代の設立当初から商品の販売方法がマルチ商法に当たると指摘され、国会の委員会に呼ばれるなど問題視されてきた。
一方で政治家や中央省庁との結び付きも目立った。地元選出の国会議員に献金を重ね、警察庁の元幹部を雇い入れた。元官僚らに多額の顧問料を払ってもいた。
消費者から集めた資金が政官界に流れていたことになる。問題の商法をなぜ長年にわたり続けてこられたのか。背景も明らかにする必要がある。
元会長が「桜を見る会」に安倍晋三前首相の推薦枠で招待されていた疑惑もあった。招待状を印刷したチラシが勧誘セミナーで顧客集めに利用されていた。
消費者庁の有識者検討会は8月、販売預託商法を原則禁止とする報告書をまとめた。「本質的に反社会的な性質がある」と指摘している。同庁は次の通常国会に報告書の趣旨を盛り込んだ預託法改正案を提出する方針だ。
遅きに失した感が否めない。預託法は80年代の豊田商事事件を機に制定した。虚偽説明による勧誘などは禁じても、商法自体を制御する仕組みがない。消費者庁もジャパンライフに対し違反行為で業務停止命令を再三出してきたが、被害拡大を防げなかった。
明確な規制の手段を講じないまま、被害の広がりを看過してきた国の責任は重い。和牛オーナーを勧誘した安愚楽(あぐら)牧場事件では、全国の約7万人が総額約4300億円の被害に遭っている。
深刻な被害を防ぐには、実効性のある法改正が急務だ。消費者に注意を喚起する的確な周知の方法も整えていく必要がある。
桜見る会の中止 疑惑にふたをするのか(2020年9月19日配信『信濃毎日新聞』-「社説」)
疑惑にはふたをするということか。
首相主催の「桜を見る会」である。菅義偉首相が来年以降の中止を表明した。
各分野で功績があった人を公費で招き、慰労することを目的とした会だ。安倍晋三前首相らが地元支援者や親交のある人を数多く招いており、公的行事の私物化と批判されていた。
推薦枠は前首相が千人、自民党が6千人で、各省庁が推薦した功労者の6千人より多い。前首相や自民党が支持固めのため、会を政治的に利用したのは明らかだ。
預託商法を展開し、詐欺の疑いできのう逮捕されたジャパンライフ元会長も、前首相の推薦枠で招待した疑惑がある。元社長は「総理大臣からの招待状」を会社の宣伝に使っていたとされる。
事実なら公的な行事が詐欺に利用されていたことになり、看過できない。それなのに招待者の名簿は、野党が資料請求をした日に内閣府が破棄しており、詳細は不明だ。前政権による私物化の実態を含めて、改めて詳細に調査することが必要である。
安倍前首相は招待基準などを見直すとして、今年の開催を中止した。菅首相は既に問題は解決済みとの姿勢だ。来年以降の中止を決めたことで、再開を前提とした会のあり方の見直し作業も幕引きされるだろう。
加藤勝信官房長官はきのうの記者会見で「名簿が保存されていない」として、名簿の再調査にも否定的な考えを示している。
来年以降の開催を中止するのなら、会の実態を調査して、前政権や運営の問題点を明らかにした上で決定するのが筋ではないか。菅政権の政治姿勢が問われる。
問題は招待者だけではない。会の前日に安倍前首相の事務所が主催した夕食会は、公選法や政治資金規正法違反の疑いがある。
5千円の参加費は通常設定する価格の半額以下だ。事務所が会費を補填(ほてん)していれば公選法違反で、事務所に収支が発生していれば収支報告書への記載漏れで規正法違反になる。
疑惑はホテルの明細書があれば解明できる問題だ。それなのに「ホテルの営業の秘密」を盾に公開していない。
この問題は国会での野党の追及で表面化し疑惑が深まった。政府は疑問に答えていないままだ。共同通信の全国世論調査だと、森友、加計学園や桜を見る会の問題を「再調査するべきだ」との回答は62%あった。野党は新政権に対しても追及を緩めてはならない。
ジャパンライフ 巨額詐欺の闇を解明せよ(2020年9月19日配信『新潟日報』-「社説」)
老後の不安につけ込んだ悪質極まりない商法だ。政官界との深い関わりも見える。
なぜここまで被害が広がったのか。巨額詐欺を巡る闇の解明に全力を挙げねばならない。
磁気ネックレスなどの預託商法を展開し、約2400億円の負債を抱えて破綻した「ジャパンライフ」の元会長山口隆祥容疑者と元幹部ら計14人が、顧客から資金をだまし取ったとして詐欺の疑いで逮捕された。
全国の高齢者ら延べ1万人から計2100億円もの金を違法に集めたとみられる。本県でも被害者が出ている。
預託商法の被害としては2011年に破綻した安愚楽牧場の約4300億円に次ぐ規模だ。
老後の蓄えを失った高齢者らの心痛を思うと言葉がない。
ジャパンライフは03年ごろから訪問販売で数百万円の磁気ネックレスやベストの購入を勧誘し、購入した商品を第三者に貸し出す形の「オーナー商法」を展開した。
購入者は年約6%の配当を得られるとしたが、実際は磁気商品はほとんど存在せず、新規契約の代金を配当に回す自転車操業状態だったとみられる。
山口容疑者は、捜査関係者の間で「マルチの帝王」と呼ばれていた。強引な手法で業績を伸ばし、批判されるたびにやり方を変えて延命を図ってきた。
捜査当局は、顧客を食い物にしてきた預託商法の仕組みや、資金の流れなど不透明な実態にメスを入れねばならない。
疑問を覚えるのは、なぜもっと早く被害を防ぐための対応ができなかったのかという点だ。
消費者庁は16年以降、特定商取引法違反に当たるなどとして計4回の一部業務停止命令を出した。しかし、遅くとも10年から被害相談が国民生活センターなどに多く寄せられていた。
行政処分の対処方針について消費者庁は14年に「政治的背景による余波懸念」と記した内部資料を作成していたことが明らかになっている。
山口容疑者は、政官界への食い込みも図り、政治家に多額な献金をしたり、元官僚らを会社顧問に迎えたりしていた。
政治家の関与があったのかも含め、消費者庁の対応をしっかり検証しなければならない。
安倍晋三前首相との関わりも徹底的な検証が必要だ。
野党は、山口容疑者が15年に安倍首相(当時)主催の「桜を見る会」に首相枠で招待された疑惑を国会で追及していた。招待状をチラシに印刷して勧誘に使い、それを見て会社を信用し被害に遭った人も少なくない。
招待客の推薦枠について、当時の菅義偉官房長官は、招待者名簿を廃棄したため不明と説明。再調査の考えもないとした。
加藤勝信官房長官も今回の逮捕を受けての再調査を「名簿が保存されていない」として否定的な考えを示したが、到底納得できない。
菅首相は、来年以降の桜を見る会は中止すると表明したが、それで疑惑を幕引きとするわけにはいかない。
ジャパンライフ オーナー商法原則禁止に(2020年9月19日配信『北国新聞』-「社説」)
磁気治療器のオーナー商法で2000億円以上を集めて破綻した「ジャパンライフ」(東京)元会長の山口隆祥容疑者らが詐欺の疑いで逮捕された。
消費者庁がジャパンライフに立ち入り検査に入ったのは2015年9月のことであり、山口元会長の逮捕まで実に5年を要した。業務停止命令を4回出しても止められなかった理由を含めて、全容解明を急いでほしい。
ジャパンライフは、高い配当金をうたって多額の資金を集めるオーナー商法を行っていた。これらの商法の特徴は、自転車操業が続いているうちは、配当が支払われるため、発覚が遅れがちになることだ。経営に行き詰まり、支払いが滞るころには経営が破綻しており、被害者は泣き寝入りを余儀なくされることが多い。
こうした被害を防ぐため、消費者庁の検討委員会は法制度の見直しに着手し、報告書をまとめた。報告書にある通り、高い配当をうたって資金を集めるオーナー商法を原則禁止とし、違反した事業者には罰則を設ける抜本的な見直しが必要だ。
立件に時間がかかることを考慮し、悪質な事業者については、早い段階で収益を没収する仕組みができないか。法整備を急ぎ、悪質業者を一掃したい。
逮捕された山口容疑者らは2017年、会社が債務超過なのに、元本を返済するとうそを言い、顧客12人から約8千万円をだまし取った疑いが持たれている。
違法な訪問販売や多額の負債があることを隠して顧客と契約を結んでいたことから消費者庁は4回にわたって業務の一部停止命令を出したが、そのたびに契約の名目を変えるなどして、営業を続けていた。
山口容疑者が2015年、安倍晋三前首相の「桜を見る会」に招待されたことを利用し、顧客集めに使ったとの指摘がある。山口容疑者は前首相以外にも、多くの有力政治家や大手紙、通信社、テレビの報道関係者と付き合い、宣伝に使っていたフシがある。政治家のみならず、マスコミ人も身を律する必要があろう。
ジャパンライフ/桜を見る会になぜ招いた(2020年9月19日配信『神戸新聞』-「社説」)
磁気ネックレスなど健康器具の預託商法を展開し、巨額の負債を抱えて破綻した「ジャパンライフ」(東京)が、顧客にうその説明をして資金をだまし取ったとして、警視庁などの合同捜査本部は、元会長山口隆祥容疑者(78)ら元幹部14人を詐欺の疑いで逮捕した。
2017年8~11月、債務超過と知りながら、購入した商品を周囲に宣伝すれば元本を保証し配当を支払う、とうそを言い、男女12人から計約8千万円をだまし取った疑いがある。合同捜査本部は、全国の延べ約1万人から計約2100億円を違法に集めたとみている。
同社は、購入した商品を第三者に貸す形にして、年約6%の配当を得られるという「レンタルオーナー制度」を売りにしていた。
だが商品はほとんど存在せず、実態は新規契約の代金を配当に回す自転車操業だったとみられる。破綻を回避するため、高齢者を狙って執拗(しつよう)な勧誘を繰り返していたようだ。
預託商法の被害としては11年に破綻した安愚楽牧場の約4300億円に次ぐ規模だ。国民生活センターに寄せられた相談は10年から今年8月までに3千件を超え、相談者の大半は70歳以上だった。
老後の資金や健康への不安に付け込み、交友関係も利用して、高齢者の蓄えを食い物にした手口は悪質というほかない。徹底した捜査で、巨額被害を生んだ手口や資金の流れなどの全容を解明してもらいたい。
ジャパンライフは、1975年の設立当初から強引な商法でトラブルが相次ぎ、80年代には国会でマルチ商法まがいと批判を浴びた。2016年以降、特定商取引法違反に当たるなどとして消費者庁から計4回の一部業務停止命令を受けている。
問題のある会社の延命に一役買ったとみられるのが、政官界との緊密なつながりだ。複数の政治家に献金していたほか、消費者庁や内閣府のOBを顧問に迎え入れていた。
15年には安倍晋三首相(当時)が主催する「桜を見る会」に山口容疑者が招待され、招待状を宣伝のチラシに使っていた。これで「信用できる会社だと思った」と証言する被害者もいる。
招待状は首相推薦枠だったとして野党は追及している。加藤勝信官房長官は、招待者名簿が廃棄されていることなどを理由に、従来通り再調査には否定的な考えを示した。
菅義偉首相は就任早々、桜を見る会の中止を決めた。だからといって疑惑の幕引きは許されない。
招待状が悪用され、被害の拡大につながったとすれば見過ごせない問題だ。政府は招待の経緯を明らかにし、国民に説明する責任がある。
うそぶき、もてあそぶ(2020年9月19日配信『中国新聞』-「天風録」)
風に嘯(うそぶ)き、月を弄(もてあそ)ぶ。まるで自然をからかっているようだが、嘯風弄月(しょうふうろうげつ)とは、景色をめで、詩歌を口ずさむなどして風雅に過ごす意味という。まことに四字熟語の世界は奥が深い
▲こちらの事件は、その闇の深さにおののく。磁気ネックレスのオーナーになれば高利回りの配当を得られると、全国の約1万人から2千億円以上も違法に集めたとされるジャパンライフ。詐欺の疑いで逮捕された元会長は半世紀近くも前から、マルチ商法に手を染めていたそうだ
▲なぜそれほどまでに悪事が長続きしたのだろう。元会長は政治家との付き合いを自慢することで客を信用させていたらしい。複数の元中央官僚を顧問に迎えたのも、客にうそぶき、その虎の子資産をもてあそぶ方便だったのか
▲だとしても、名前の挙がった政治家らの説明があいまいでは、被害者は到底納得できないだろう。元会長が見せびらかした「桜を見る会」の招待状も安倍晋三前首相の推薦枠だったよう
▲首相交代直後の逮捕だが、まさか捜査当局がいたずらに時間をもてあそんでいたわけではあるまい。元会長がいいかげんな供述でうそぶかないよう、政界とのつながりも、とことん調べていただきたい。
ジャパンライフ事件(2020年9月19日配信『宮崎日日新聞』-「社説」)
◆「首相推薦枠」の説明尽くせ◆
3年前に破綻した「ジャパンライフ」による高額な磁気ネックレスなどの預託商法を巡り、警視庁などは18日、詐欺の疑いで創業者の元会長山口隆祥容疑者や元幹部らを逮捕した。客が購入した商品を会社に預けて貸し出せば、預金より高い利回りの配当を得られるという「レンタルオーナー制度」を展開、高齢者を中心に契約を伸ばした。
しかし実際には客が購入したはずの商品は存在せず、新規の客からの代金を配当に回す自転車操業に陥り、行き詰まったとされる。山口容疑者らは配当の見込みがないのに勧誘を続け、代金をだまし取った疑いが持たれている。被害は約7千人、総額約2千億円に上り、70歳以上の契約が全体の7割を占める。
ジャパンライフは2015年に安倍晋三前首相主催の「桜を見る会」に山口容疑者が招かれた際の招待状をチラシにするなど勧誘に利用。さらに山口容疑者が「首相推薦枠」で招待された疑惑が浮上した。野党の追及に、政府は当時の招待者名簿を廃棄したため分からないとし、調査に応じようとしなかった。
事件の全容解明と被害回復を急がなければならない。加えて、桜を見る会が大々的に預託商法の宣伝に利用され、被害拡大の一因となったことを踏まえ、政府は首相推薦枠など山口容疑者が招待された経緯を巡り調査と説明を尽くすべきだ。
ジャパンライフは磁石を埋め込んだ100万~600万円のネックレスやベストなどを扱い、購入した商品を会社に預けレンタルオーナーになれば、年6%の配当が入ると宣伝。客が知人を勧誘すると報酬を得られるマルチ商法も取り入れ、44都道府県の高齢者ら延べ約1万人から計約2100億円を違法に集めたと捜査当局はみている。
桜を見る会を巡っては15年の開催時、山口容疑者宛ての招待状に招待区分の「60」が付され、野党は過去の例からみて、首相推薦枠だった疑いがあると追及。内閣府は昨年分は「官邸や与党の枠だった」としたが、招待者名簿が廃棄された15年については答えられないとした。
安倍氏は「桜を見る会が企業や個人の不当な活動に利用されることは決して容認できない」としながら「個々の招待者やその推薦元は個人情報のため回答を差し控えている」と答弁。野党が調査を要求しても「考えていない」と突っぱねた。
しかし招待状はチラシに印刷され、各地の顧客勧誘セミナーでプロジェクターに映し出すなど宣伝にフルに使われた。「初めて来た人でも信用した」と元社員は証言した。なぜ桜を見る会に招待されたのか。それをうやむやにしては、政治不信が尾を引くことになる。
ジャパンライフ(2020年9月19日配信『宮崎日日新聞』-「くろしお」)
ネットで見つけた映像に驚いた。きのう創業者の元会長らが逮捕された「ジャパンライフ」。そのテレビCMに映画「テス」などで知られるドイツ出身の女優ナスターシャ・キンスキーさんが出ていたのだ。
CM出演の数年前の1979年には、同作でゴールデングローブ賞新人女優賞を受賞するなど活躍していた女優さん。当時は日本の他企業のCMにも出ていたが、まさかご本人は、その中の一つの企業の代表が後に司直の手にかかるとは思いもしなかっただろう。
だれがその企業や製品をPRするかは、消費者にとっては信用する上での大きな判断材料になるだろう。企業ではないが、20年ほど前に巨額詐欺事件で代表が逮捕された宗教法人は、その代表がローマ教皇ヨハネ・パウロ2世らと撮った写真を、詐欺の活動に使っていた。
ジャパンライフの件は安倍前首相が図らずも、詐欺行為に”貢献”していたことになる。逮捕された元会長に送られた「桜を見る会」の招待状が、同社の預託商法の宣伝に利用されていたからだ。どうしてこんなことになったのか。政府は「招待者名簿を廃棄したので、分からない」の一点張りだ。
とはいえ招待状を見て同社を信用したという被害者もいるので、このままでいいわけがない。「安倍政権を継承する」と述べた菅首相。こうした「負」の部分の清算も負うことになる。若干気の毒ではあるが、菅首相自身も無関係ではない。しっかり後始末を。
[ジャパンライフ事件]「桜」は終わっていない(2020年9月19日配信『沖縄タイムス』-「社説」)
磁気商品の預託商法で多額の資金を集め、2017年破綻した「ジャパンライフ」元会長の山口隆祥容疑者ら14人が詐欺容疑で逮捕された。債務超過の実態を隠し顧客から金をだまし取った疑いだ。
山口容疑者らは、高齢者中心に訪問販売で磁気ネックレスやベストの購入を勧誘し、購入後第三者に貸し出す形で年6%の配当を得られるとの「レンタルオーナー制度」を展開していた。実際は商品はほとんど存在せず、当初から新規契約代金を配当に回していたとみられる。被害は44都道府県の延べ約1万人、計約2100億円に上るという。
預託商法ではこれまで和牛を商品として扱う事業などが問題となり、詐欺や出資法違反で立件されてきた。ただ、ジャパンライフの場合「政官界との関わり」を積極的に求め、利用したことに特異性がある。
同社は05~17年度まで、内閣府や消費者庁の元幹部らを顧問に迎え多額の顧問料を払っていた。15年には、安倍晋三首相主催の「桜を見る会」の招待状をチラシに印刷し、勧誘セミナーで使用した。
野党などは、招待状が同社の宣伝に利用され、被害の拡大につながったと批判する。また03年のレンタルオーナー開始から15年の消費者庁立ち入り検査まで、同社には行政の指導や規制が事実上行われず被害を防げなかったのも、こうした政界との関係が影響したと指摘されている。
今後類似の事件発生を防ぐためにも、ジャパンライフと政治・行政の関わりをきちんと解明する必要がある。
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菅義偉首相が来年以降「桜を見る会」を中止すると表明したばかりである。政府が昨年11月から進めていた「招待基準の明確化やプロセスの透明化などの全般的な見直し」も中止とする今回の決定は唐突な印象を受ける。
加藤勝信官房長官は18日、安倍前首相の推薦枠で山口容疑者が招待されたとの疑惑について、招待者名簿再調査に否定的な考えを示した。公文書管理法に違反して名簿が廃棄されたためというが、本末転倒というほかない。
税金で開く行事に安倍前首相が地元支援者を多数参加させた問題、発覚後に名簿の保存期間を1年未満とした経緯なども未解明のままだ。
会は「各界においてさまざまな功績、功労のあった」人たちを慰労するためという。桜の会が中止されても、誰が何の功労を理由に山口容疑者を招待したかが明かされない限り再発は防げない。
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菅政権は、疑惑にふたをする前政権の体質も引き継ぐつもりなのだろうか。
元法相の河井克行被告と妻で参院議員の案里被告による公職選挙法違反事件で、自民党資金が買収の原資に充てられたとの疑惑に、党総裁でもあった安倍前首相は正面から答えなかった。統合型リゾート(IR)を巡る汚職事件では、政府の施策に与えた影響は検証すらされていない。
どの事件も「前政権の出来事」で終わらせていいものではない。菅首相は名簿の再調査を行い、国会の場で説明すべきである。
税金で悪徳商法の代表をもてなし(2020年9月19日配信『しんぶん赤旗』ー「潮流」)
専門家のお墨付き、俳優のだれだれさんもご愛用――。テレビやネットの通販でよく使われる宣伝文句です。権威付けと呼ばれる手法で、相手の不安をとり除く効果があるといいます
▼もしそれが一国の首相だったら。うさん臭さを感じながらも、つい信用してしまった…。そういう人も多いでしょう。実際、安倍首相が招待した人だからと大金を投じた被害者も少なくありません
▼布団やネックレスなどの磁気商品を高額で買わせ、商品を渡さずオーナーにならないかと誘い、現金をだまし取る。そんなあくどい商法で全国約1万人から2100億円もの資金を集めたとされる「ジャパンライフ」の山口隆祥(たかよし)元会長らが詐欺容疑で逮捕されました
▼すでに債務超過に陥りながら、もくろんだ最後の荒稼ぎ。最大限に利用したのが山口元会長に届いた安倍首相からの「桜を見る会」の招待状でした。同社のあるセミナーでは招待状とともに首相の顔写真が大写しされるほど
▼税金で悪徳商法の代表をもてなし、そのことがさらに被害者をひろげた。二重に罪深い「桜」の私物化を解明することは国の責任です。しかし、官房長官として招待者をとりまとめていた菅首相は、検証もせずに、ただ中止したいと
▼お年寄りたちが老後の蓄えをだまし取られ苦しんでいるのに、これでよく「国民のために働く内閣」などといえたものです。どんな権威付けもそうであるように、一時的に効力があったとしても、道を踏み外したままではいずれ信用を失います。
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