[「夫婦別姓」後退] 社会の要請に逆行する
( 12/26 付 )

 政府がきのう閣議決定した第5次男女共同参画基本計画から「選択的夫婦別姓制度」の文言がなくなった。
 働く女性が結婚後の改姓で仕事や暮らしに支障を来すことがないよう、制度の導入を求める声は増えている。5年ごとの基本計画にも毎回、導入の検討が明記されてきたが、今回は大きく後退する書きぶりになった。
 政府がまとめた計画の当初案は、国会の速やかな議論を期待するとした上で「政府においても必要な対応を進める」と踏み込んだ内容だった。
 これに自民党の保守派が猛反発。選択的夫婦別姓制度は「夫婦の氏に関する具体的な制度」に置き換えられ、その在り方は「さらなる検討を進める」という表現にとどめるなど、導入に前向きな文言はことごとく削られた。
 保守派の議員らは「家族の一体感に配慮すべきだ」と主張する。だが、家族のありようは多様化している。
 働く女性が増え、改姓が仕事の支障になるケースも多く、希望すれば結婚後も夫婦がそれぞれの姓を名乗れる選択的別姓導入を支持する世論は高まっている。
 こうした現状で、今後5年間の政策の指針となる計画の中身を後退させるのは、社会の要請と逆行すると言わざるを得ない。積み上げられてきた議論の停滞を招かないか気掛かりだ。
 政府は、女性が輝ける社会づくりを政策の柱の一つに掲げる。菅義偉首相もかつて自身が夫婦別姓に前向きな発言をしており、野党の指摘に「申し上げたことには責任がある」と答弁。閣僚や自民若手議員からも制度導入に積極的な意見が相次いだが、結果的に保守派に押し切られた格好となった。
 公明党も夫婦別姓への国民の理解は年々広がっているとし、選択的夫婦別姓を容認する姿勢だ。
 夫婦の姓について、明治民法は「家の姓を名乗る」と規定。戦後は結婚時に定めた夫または妻の姓を名乗ると改められ、現状は約96%(2019年)が夫の姓を名乗っている。
 ただ、法務省によると、夫婦同姓を法律で定めている国は日本以外に把握できないという。
 15年の最高裁判決は夫婦同姓規定を合憲としたが、同時に制度に関しては「国会で論じられるべき」と制度の是非を検討するよう促した。しかし、具体的な議論の進展が見られない。
 17年の内閣府調査では選択的夫婦別姓制度導入を容認する人の割合が過去最高の42.5%で、反対の29.3%を大きく上回った。とりわけ、女性の若年層で過半数が賛成と答えているのが際立っている。
 現に不利益や不便を訴える多くの声がある。誰もが活躍できる社会づくりのため、政府と自民党は世論を直視した取り組みを進めてもらいたい。