新型コロナウイルスで揺れた2020年は、大ヒットとなったドラマやアニメが生まれた年でもありました。「鬼滅の刃」をはじめ、放送中は毎週話題になった「半沢直樹」。そして、Netflix (ネットフリックス)では「愛の不時着」にのめり込んだ人も。ドラマやアニメの感想をSNSなどで発信することが当たり前になった時代、3作品はネット上でどのような存在感を示したのでしょうか。検索量やツイート数など、それぞれの特徴から、多メディア時代のエンターテイメントについて考えます。
話題が途切れなかった「鬼滅の刃」
週刊少年ジャンプで2016年から連載が始まった「鬼滅の刃」ですが、グーグルトレンドによると、「鬼滅の刃」の単語の検索数が伸び始めるのは2019年3月に入ってから。アニメの放送が始まる時期でした。
2019年8月にファンの間で「神回」と呼ばれるほど好評だった第19話「ヒノカミ」が放送されると、ツイッターのトレンドワードにも入ります。その後、アニメの最終回が放送された2019年9月末に向け検索数は急激に伸びていきます。
そして、年が明けると、「鬼滅の刃」の単行本は、オリコンの週間コミックランキング(1月27日~2月2日)で、1巻から18巻が1位から18位を独占するという史上初の記録を達成します。この時点で累計発行部数は4千万部超と、見たことのない勢いになっていました。その盛り上がりは、2020年5月の週刊少年ジャンプにおける連載最終回まで続きます。
人気作品の〝長寿化〟が続く中、絶頂期に完結にまで至った「鬼滅の刃」でしたが、2020年6月以降、いったん、検索量は落ちます。それでも、一度、盛り上がった検索量は大きくは変わらず、2019年10月のアニメ最終回と同程度のボリュームは保っていました。
「鬼滅の刃」の話題が再び盛り返すきっかけとなったのが映画です。2020年10月16日、「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」の初日は多くのメディアでニュースになりました。1日40回を超える上映に踏み切る映画館も表れ、その上映スケジュールは電車やバスの〝時刻表〟にしても違和感がないとツイッターで話題になるほどでした。
興行収入日本一を巡って「千と千尋の神隠し」との〝デッドヒート〟も注目された「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」。2020年の「#Twitterトレンド大賞」の「アニメトレンド2020」では、「煉獄さん200億の男」(興行収入が200億円を突破した際、主要人物である煉獄杏寿郎とかけた言葉)がトレンドワードに入ったことも取り上げられました。
/
— ツイッタートレンド大賞🏆✨ (@TrendAward) December 12, 2020
2020年アニメトレンド
10月、11月
\
今年を代表するアニメのトレンドが並んでいます👏 #Twitterトレンド大賞#アニメトレンド2020 pic.twitter.com/8zQO9CSHJd
映画公開の初日にピークを迎えた検索量ですが、さらにもう一度、〝山〟が生まれます。それが12月4日の単行本の最終巻発売です。
アニメ開始とともに人気に火がついた作品が、その勢いを維持したまま映画公開につながっていった「鬼滅の刃」。その軌跡を振り返ると、定期的に話題となる〝きっかけ〟が用意されていたことがわかります。
2019年9月:アニメ放送終了
2019年12月:紅白歌合戦でLiSAがアニメ主題歌「紅蓮華」で登場
2020年1月:単行本1位から18位を独占
2020年5月:雑誌での連載完結
2020年10月:映画公開
2020年12月:単行本最終巻発売
9月6日を乗り切った「半沢直樹」
2020年、話題をさらったドラマが「半沢直樹」です。7年ぶりの続編は20%を超える高視聴率が続き、最終回の平均視聴率は32.7%でした。
「半沢直樹」で見逃せないのは、9月6日の回です。新型コロナウイルスの影響で、9月6日に放送予定の回が急きょ、翌週の9月13日に変更になる事態になります。
そこで、TBSは堺雅人氏や香川照之氏らが、視聴者の質問に答える形で、生放送の番組として撮影の秘話を披露。俳優同士のトークでは、ドラマに出てくる「おねしゃす」という台詞をめぐるこだわりが明かされ、次の週への効果的な〝つなぎ〟として機能しました。
9月6日(日)に予定していた日曜劇場『半沢直樹』第8話の放送ですが、急遽、翌週の9月13日(日)に延期させていただくことになりました。
— 半沢直樹【応援ありがとうございました‼︎】 (@Hanzawa_Naoki) September 1, 2020
これに伴いまして、9月6日(日)は『半沢直樹』のキャスト・スタッフが一丸となって、1時間の生放送をお届けします。#半沢直樹 #tbs
TBSテレビの佐々木卓社長は、この時、別の番組のチームが「自主的に申し出て」乗り切ったと明かしています。
検索量を見てみると、9月6日は放送日の中では一番低かったものの、ピーク時を「100」にした場合、「46」に踏みとどまり、9月13日は「57」に復活しました。
ツイート数でも、9月6日週の1週間の投稿数(「半沢直樹」が含まれるツイートの数)が「5万6141件」だったのが、9月13日週は「7万2462件」へ。そしてピークとなる9月20日週の「17万4179件」につながっていきます。
SNSで姿が見えなかった「愛の不時着」
最後に考えたいのが「愛の不時着」です。2020年2月からネットフリックスでの配信が始まったドラマですが、日本で話題になり始めたのは、5月の連休からでした。
背景には、新型コロナウイルスによる外出自粛があります。ネットフリックスは1~3月に世界全体の有料会員数が1570万人増え、この時点で計1億8300万人超になっています。増加は同社が当初見込んでいた2倍以上にのぼるといいます。
「巣ごもり需要」をとらえファンを伸ばした「愛の不時着」は、「2020ユーキャン新語・流行語大賞」のトップ10にも入りました。
そんな「愛の不時着」ですが、実は、その知名度ほどにはSNSに姿を現しません。
日本での「愛の不時着」の配信が始まった2020年2月第1週のツイート数は「1千件台」にとどまります。過去の総集編や新シリーズのキャストが発表された同じ時期の「半沢直樹」のツイート数に比べると、3分の1から5分の1程度です。
5月に入るとツイート数は拡大し、5月17日週は、1週間あたりの最大ツイート数である「1万990件」に。以降、1週間あたり「数千件台」を維持しますが、「1万件」を超えることはないまま12月に入っています。
一方の「半沢直樹」の場合、9月20日週に「17万4179件」を記録しており、これは「愛の不時着」のピーク時(1万990件)の約16倍になります。「鬼滅の刃」にいたっては、映画が公開された10月11日週のツイート数は「47万920件」に達しています。
三者三様だったヒット作
ネットから見える「鬼滅の刃」の姿からは、途切れることなく話題を提供し、10月の映画公開のピークに持っていった〝戦略〟が見えてきます。特に映画から単行本最終巻への〝コンボ〟は、圧倒的な話題の拡散力を見せつけました。
「半沢直樹」の場合、1クールというドラマの短期決戦の中、ツイッターで最大限の盛り上がりを引き出すことにこだわった姿勢が伝わります。見逃し配信などのサービスは最終回直前の限定配信以外は取り組まず、本放送に絞って視聴者との一体感を生み出しました。致命的になりかねなかった「穴」を、俳優たちのトークで乗り切り熱を冷ましませんでした。ドラマを見ながらツイッターで感想を言い合い、同じ時間を過ごす〝共時性〟を重視した姿勢が見て取れます。
「愛の不時着」は、会員向けサービスの中で完結しているという点がネット上の〝見え方〟にも表れました。
ツイート数は、「ロングテール型」とも言える振れ幅の少なさを示しています。長編ドラマを初回から最終話まで一気に公開するネットフリックスのスタイルと、視聴者が好きな時間に見られるオンデマンドの特性が組み合わされた結果といえるでしょう。
瞬間風速的な話題性は狙わなかった「愛の不時着」。SNSなどで感想を言い合うよりも、一人でじっくり楽しむという、「鬼滅の刃」と「半沢直樹」とは別の楽しみ方を提供していると言えます。見てない人にはついていけないという点からも、「愛の不時着」は、趣味趣向の多様化と、それを楽しむ場所であるプラットフォームの存在が大きくなっているという時代の特徴をあらわしたドラマだったといえそうです。