2020年10月、防護服に身を包んだ乗員が、MSCグランディオーサ号のプール周辺で消毒液を散布している。世界最大級のクルーズ船であるこの船は、通常6000人超の乗客を収容できるが、COVID-19のパンデミックの最中は、概ね定員の60%で運航している。(PHOTOGRAPH BY DAVIDE BERTUCCIO)

 パンデミックが続く中、ヨーロッパやアジアでクルーズ船が運航を再開しつつある。

 その旅の日常は、コロナ以前と大きく様変わりしている。朝は体温チェックの後、社会的距離を保ったテーブルで朝食を取る。夜にはクラブでダンスができるが、参加者はマスクをして、ほかの人たちとの間にたっぷりと距離を取ることが必要となる。プールも開いているが、フェイスシールドと防護服に身を包んだスタッフが清掃し、ラウンジチェアに消毒液を吹きかけている。

 以前なら、防護服を着込んだ乗員は、まるでホラー映画の登場人物のように見えたことだろう。それでも、乗客たちはこうした予防措置を心強いと感じているようだ。

「船が健康管理に真剣に取り組んでいることが目で見て確かめられるので、安心感がありました」と、ビクトリア・バラバエバさんは語る。バラバエバさんは9月、故郷のイタリアで何カ月も続いたロックダウンの後、3000人ほどの乗客と一緒に、MSCクルーズ社のMSCグランディオーサ号で8日間の旅に出た。船はジェノバを出航し、ナポリやマルタなどへ向かう。パンデミックが始まって以来、いち早く実施されたクルーズの一つだった。(参考記事:「新型コロナ、感染爆発した街はこうなる、イタリア・ミラノの例」

MSCグランディオーサ号の屋内ジムは、即席の新型コロナウイルス検査所に作り変えられていた。(PHOTOGRAPH BY DAVIDE BERTUCCIO)

 今年初め、クルーズ船は大勢の人に感染を広げたことで、大いにメディアに取り上げられた。乗員乗客は治療、退避、隔離を余儀なくされ、米国だけで3689人の感染者と、少なくとも41人の死者を出した。(参考記事:「9万5000人が今も米国海上で待機、船内感染の脅威」

 現在、新たな安全規定を導入し、乗客数を大幅に減らしたうえで、MSCグランディオーサ号やロイヤル・カリビアン・インターナショナル社のクァンタム・オブ・ザ・シーズ号などのごく一部の大型クルーズ船が、ヨーロッパや東南アジアの港から出航を再開している。1500億ドル規模のクルーズ船業界はこれからどこへ向かうのだろうか。現在のクルーズ船の状況、乗客の思いを聞いた。

2020年10月、MSCグランディオーサ号のミニゴルフ場で、マスクをつけ、社会的距離を保ってパットの順番を待つ乗客たち。(PHOTOGRAPH BY DAVIDE BERTUCCIO)

大型クルーズ船、徐々に再始動

 米国では2020年末時点で、クルーズ船はまだ出航していない。米国疾病対策センター(CDC)は11月22日、「クルーズ船はCOVID-19の感染リスクが非常に大きく、河川クルーズを含むクルーズ船での旅行は、世界中すべての人が避けるべきである」と警告している。

 しかしヨーロッパとアジアでは、今年の夏に、いくつかのクルーズ会社が運航を再開した。ドイツを拠点とするハパック・ロイド・クルーズ社もいち早く再開した会社の一つで、7月からハンブルク出航の船を出している。船内では新たな安全対策として、健康アンケートを義務化する、乗船時間をずらす、毎日体温チェックを行う、乗客数を60%減らすなどの措置がとられた。

 乗船の前に、乗客(ドイツ、オーストリア、スイス在住者限定)は全員、陰性証明を出さなければならない。同社はまた、船内にも検査室を設置し、旅に同行する医師と看護師も雇用している。キャビンや公共エリアの清掃には、抗ウイルス消毒剤を吹き出す噴霧器が使われる。これまでに30回のクルーズを終え、4000人以上が参加したが、陽性者は報告されていない。

グランディオーサ号の乗客が浴槽を使う際は、使用する時間帯を予約する必要がある。(PHOTOGRAPH BY DAVIDE BERTUCCIO)

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