「……先ずは、本日の反省会をしようと思う。アインズ様のお部屋には声が届かないよう、<静寂>は掛けてある」
悟が寝室に入って一時間後。デミウルゴスは悟の部屋の前に本日警護担当をしていた八肢刀の暗殺蟲を集めてそう言った。
「申し訳ありません、デミウルゴス様。我らも気を緩めておりました……」
八肢刀の暗殺蟲の中の代表がそう言えば、デミウルゴスは大きく頷く。
「そうだね。私も、油断していたよ。全く悪意が無い相手だからこそ、事前に察知出来なかった。……今のアインズ様のレベルを考えると、幾らアウラとマーレ……子供が相手だったとしても、間に私が入るべきだった」
そう。今日の反省会とは、双子が悟に抱きついたのを防げなかった事について行われていたのだった。ちなみに、これは毎日行われている。アルベドの件は、既に悟自身に言われていたし低レベルのシモベも即時に配置した為今回の反省会には取り上げられていない。
「明日はコキュートスの階層だから、今日のようなことは起こらないと思うが……私かお前たちのうち誰か一体でも必ずアインズ様と他者の間に居るようにするとしよう。そして、それは今後も変わらない。……特に、女性守護者が相手の場合は、複数体が必ず間に入るようにしなければいけないね。アルベドは、私一人では止められないし……お前たちでも、二体では厳しいだろうから」
デミウルゴスは眉を寄せ、苦々しげにそう言う。今朝の失態を思い返してでもいるのだろう。その眉間の皺は、深く険しい。知略を行う者として創造されたため、デミウルゴスは男性体の悪魔ではあるが……女性守護者のアルベドやシャルティアよりも戦闘能力では劣る。その事が、今は悔しかった。
勿論、敬愛する創造主ウルベルト・アレイン・オードルにこの様に創造されたこと自体は誇らしく思っているが、創造主と同等くらいに敬愛するナザリックの主であるアインズの守護が全うできないことが彼を苦しめていたのだ。
「かしこまりました。本日は担当していなかった影の悪魔にもそのように伝達しておきます」
「そうだね。頼むよ。……コキュートスの守護する階層なら安心だと思うんだが、まぁ念の為だ。……問題点は、次だ。シャルティアの守護する階層と……あのアルベドの守護する玉座の間だ。物々しくなってしまうが、魔将も投入しようと思っている。そうでなければ、武闘派の彼女たちを止めることは出来ないからね。ほんの一瞬でもいい。足止めさえ出来れば、アインズ様を安全な場所へと転移させることは可能だからね」
欲に狂った女淫魔ほど、厄介な物は無い。デミウルゴスはそう理解していたからこそ、大きく溜息を吐いた。
(……シャルティアの方が受動的な分、まだマシではあるんだろうがね。椅子で満足してくれるのであれば、御身に彼女から触れることは無いだろうし……。だが、アルベドは……)
御身の子種を欲して、常にアクティブに行動している守護統括を思い出し、デミウルゴスはその眉間の皺を深めた。
「……彼女の愛が通常の女淫魔同様に、他の男共にも向けられていたのなら……こんな心配は必要なかったのだろうけどね……」
そんな仮定の話をしてもどうしようもないと理解していたが、愚痴らずにはいられなかった。……悟がモモンガであった頃に彼女の設定を書き換えてしまった事などデミウルゴスは知りようもないのだから、仕方の無い事と言えた。正直、悟の自業自得なのであったが。
「では、各員交代要員の者に本日の件を必ず伝えるように。今後もアインズ様をしっかりとお守りできるよう、各自きちんと休養を取る事も忘れないように」
「はっ!了解いたしました!!」
交代の時間は、24時。交代の人員が来までの数時間、八肢刀の暗殺蟲たちは廊下で目を光らせていたのだった。……休養を取るようにと御命じになったデミウルゴス様はお休みになっていないけれど、大丈夫なのだろうか?と思いつつ。