©1999 Masayasu AOTANI
檄 (もっと良い檄を書いて下さい。)
有志諸君!若き日の多様な経験を人生に役立てよ。海外で視野を広め、視点を変えるべし。二十歳を過ぎると革命的思考は困難である。新しい環境でこの壁を打ち破れ。学生の内に見聞を広めよ。21世紀は守備範囲の広い人間を求めておる。以上!
「ただ」で行くアメリカの理系大学院
京都大学留学生センター助教授
青谷正妥 (あおたに まさやす)
専攻分野の如何に拘わらず若いうちに様々な経験をする事は、その後の人生で大いに役立ちます。特に視野を広めるとか視点を変えるとかいう意味で、海外に出て異文化圏で異言語を使って学んでみる事は、自分自身の経験からしても、他に比べる物の無い程値打ちが有ります。如何に優れた頭脳の持ち主でも、二十歳を過ぎる頃には、「日本の常識」「大人の常識」とも呼ぶべき垢がシステムに滞積しており、幾ら力んでみたところで、革命的な考え方など容易には出来ません。この壁を打ち破るには、自分の周りの環境その物を変えるのが、最も効果的です。相対論が懐疑の目で見られた唯一の理由は、人間が人間であって、例えば宇宙線の中の粒子の様に、光速に近い速さで飛び回ったりしないからだ、と某物理学者が言ったそうですが、みんな自分の置かれている環境以外は、容易に理解し難いという事でしょう。大学院生のうちに見聞を広め、21世紀向きの守備範囲の広い人間になる様、心がけて下さい。
さて、一般論はこのくらいにして、次に理科系海外留学の特徴や利点について、米国を中心にお話ししましょう。
Universalな理系の学問
人文・社会系では、専攻分野によっては日本では出来ない物や、明らかに海外で学んだり研究したりすべきであると思われる物が多数有ります。これに比してサイエンスやエンジニアリングは、自分の専攻の数学に代表される様に、基本的には世界各国どこに行っても同じですから、所謂留学の必然性は有りません。しかし、この世界中どこでも基本は同じであるという理科系の学問の特性は、そのまま海外留学のし易さに直結します。その国の文化や風俗を強く反映する文科系の学問に対し、理科系の研究はつまるところ物の研究ですから、外国人でも殆どハンディキャップは有りません。この点一つを取っても、理科系の海外留学はお勧めです。尤もやり易さだけで事を決めるのであれば、ビールを飲みながらナイターを見ているのが一番良い、という事になり兼ねませんから、勿論これ以外にも理由は有ります。
丁寧な講義で基礎力の養成
先ず大学院レベルでも宿題が出、テストが有り、講義も非常に丁寧で、研究に進む前の所謂勉強の段階で、しっかりと基礎を身に付ける事が出来る事。アメリカの初等・中等教育は先進国の中でも最低レベルだが、その見事に整備された高等教育は、世界に類を見ないと言われています。高校までの勉強があまりにもいい加減であり、その埋め合わせを大学レベルでしないといけない為に、学部での教育内容は高く有りませんが、生徒に力が無いだけに、教官たちの講義は見事に準備且つ整備されています。これがそのまま大学院の講義にも反映され、特に理系の基礎科目については、講義内容その物のレベルは日本やヨーロッパより低いかも知れませんが、教科書に沿った緻密な講義で、勉強が非常にし易いのです。自分はアメリカの高等教育を「秀才を伸ばす教育」と呼んでいます。天才の域に有る人は、放っておいてもユニークな研究が出来ますが、才能がある程度有り、努力を惜しまない秀才達に異色の開花をさせるには、それなりの教育体制、時にはある程度の管理体制が必要で、残念乍らこれが今の日本には有りません。
世界の頭脳が集中
次に世界の頭脳の集結。第二次大戦前後から始まったと思われる、米国への有能な科学者の集団移民現象は、今世紀後半にも衰えを見せず、ソビエト連邦の崩壊や東欧圏での内戦等も触媒作用を果たし、21世紀に向かって加速する一方である様に見えます。元々はヨーロッパの学者が民族的弾圧を逃れたり、思想・学問の自由を求めたりして米国に移民していたと思うのですが、最近では中国等ヨーロッパ以外からの移民も多く、政治的理由よりも学問的理由、即ち研究環境の良さと世界の頭脳がアメリカに集結している事実を移民の理由とする学者が増えています。アメリカ国内の優秀な学者のコレクションは既に臨界点を越え、これから先アメリカへの爆発的なタレントの集中が起こるのではないかと懸念する知識人が、英語がbarrierとして働かないヨーロッパ辺りにはかなり居る様です。尤も、言語や文化の違いがdeterrentとして強く働く日本の場合でも、頭脳流出の例は枚挙に暇が有りません。最終的には日本に帰って来た人も含めると、ノーベル物理学賞の江崎玲於奈、ノーベル医学生理学賞の利根川進、ラスカー賞の増井禎夫(よしお:University of Toronto, Canada)、greenhouse effectの権威真鍋淑郎(しゅくろう)、フィールズ賞の広中平祐等がいますが、米国の大きな大学の理科系の大学院には、必ず何人か日本人が居ますから、その数は何百に上る筈です。Fundingや設備等の物的研究環境、そして優れた共同研究者や同僚という形での人的研究環境が共に揃っているのですから、成果が上がらない方がおかしいのかも知れません。若い人にしか出来ないと言われる数学等極例外的な分野を除き、大学院生が留学する時点で頭脳流出と騒がれる事も無いでしょうが、どの様な道に進まれるにせよ、米国に留まられるのであれば、retroactiveに人材の流出であったと言われる様な優れた業績を上げられん事を願って止みません。あの国にはその為の肥沃な土壌が有る気がします。
外国籍の人間を歓迎
そして、移民や留学生を歓迎する国柄。アメリカインディアン等の原住民は兎も角、そもそも国の起こりが移民であったアメリカは、現在に至るまで、永住であれ留学であれ海外からの移住者に大きく門戸を開放しています。特に理科や数学がそうですが、アメリカの小・中・高等学校の教育は最悪で、アメリカの大学院は優秀な留学生が来なくなったら立所に崩壊すると言われています。この言葉を裏付ける数字として、例えばStanford大学のEngineeringでは35%が、Princeton大学では文系・理系を合わせた大学院生全体の37%が、そして州外の授業料免除の資金不足で外国人が非常に取り難い州立大学のUC Berkeleyの数学科ですら20%以上が留学生となっています。しかも、“Admission to MIT is extremely competitive, particularly for citizens of foreign countries. ”とはっきりと謳っているMITの例で明らかな様に、入るのが難しい留学生の方が遥かに良く出来ますから、彼等を宝物の様に扱うのも肯けます。因みに、例えばPrinceton大学の学部生を見ると留学生は僅かに9%ですから、この数字からも如何に大学院にとって留学生が大切か分かります。数字は殆ど発表されていませんが、理科系の教官についてもこれは当て嵌まり、外国籍の教官や外国で生まれ育った教官が掃いて捨てるほど居ます。工学部の建物に足を踏み入れたりすると外国訛りの英語は当たり前、色々な外国語もあちらこちらから聞こえてきます。教官の公募書類等の雇用案内にも、日本では外国籍でも応募できる場合に態々「国籍を問わない」と書きますが、アメリカでは国籍は関係が無いのが普通なので、極例外的に市民権が必要な場合にのみ「米国籍を有する者」と明記します。移民が働いてくれなかったら経営が成り立たないカリフォルニアの農園、留学生が来なかったら崩壊する大学院、殆どが移民のマンハッタンのタクシー業界と、アメリカ社会はどこを見ても移民や外国人への依存度が非常に高く、必然的に彼等を社会の一員として受け入れています。三年ぐらい住んだら周りの人が自分をアメリカ人と見る様になったという経験は、正にアメリカならではの物でした。生まれと育ちが大阪の自分は、応仁の乱から住んでいなければ京都人ではないという土地柄の京都では、永遠の旅人ですから。
前置きが長くなりました。それでは愈々、こんな外国人にとって住み易い科学技術大国の大学院でただで学ぶ為には、どうすれば良いか説明したいと思います。
Financial Aid
学校を見付け願書を出すところから順序立てて話を進めて行くのも良いのですが、Internet等の普及でnonlinearなpresentationが大流行の昨今、その非線型スピリットに則って、先ず一番大切な金の話をしましょう。例えばSilicon Valleyのど真ん中に有り、electrical engineeringやcomputer scienceでは今を時めくStanford大学の工学系大学院の授業料は年間$23,595です。同じく工学系で世界的に有名な、MITの大学院の授業料は$25,000です。もっと安い州立大学の勇University of California at Berkeleyでも、州外からの大学院生の授業料は$13,800.50です(注:California州の住人の場合年間僅か$4,416.50ですが、留学生は何年州内に居ても、法的には州の住人と見なされません)。それでは、こんなに授業料の高いアメリカの大学にただで行くとはどういう事なのでしょう(行く時の飛行機代や船賃は自分持ちです。念の為)。その秘密はfinancial aid、しかも外国人でも容易に貰えるお金に有ります。大別すると、アメリカの大学院のfinancial aidには、fellowshipと言って所謂ただ貰うだけの典型的な奨学金と、assistantshipと言って形はpart-timeの仕事という事になっていて、教えたり研究の手伝いをしたりする事によって、授業料が免除される上に十分に暮らせるだけのお金が貰える物とが有ります。Fellowshipの中には、授業料と生活費が出る物も有りますが、授業料の一部だけが出たり、単に決まった額が貰えたりする物が多い様です。色々な種類の物が有り、学校に慣れない一年生の間は原則としてfellowshipという結構な学科も有るとは言え、一般的に言って二年目以降のfellowshipはアメリカ人でもかなり貰いにくい物なので、ここではassistantshipsと総称されるresearch assistantship とteaching assistantshipについて述べます。
Research Assistantship
Research assistantshipは、名目上は指導教官の研究の手伝いをし、それに対して報酬が出ると言う物ですが、理工系の場合実際には自分の学位の為の研究をするだけです。勿論、それが研究室全体で取り組んでいる大きなテーマに貢献するという点は、日本と変わりませんが。従ってこれがthe best scenarioという事になります。又外国人にとっては、高い英語力を要求されないという意味でやり易い仕事です。ただ研究をするだけですから。特に金の有り余っている有名大学の工学系等では、夏の間は倍額を支給してくれる事も有ります。尚、Research assistantshipはそれぞれの教授が自分の取ってきたgrant等から出すのが普通です。
Teaching Assistantship
Teaching assistantshipは、その名の通り教官のteachingの手助けをする物で、文科系ではコースを全て一人で教えさせられたりする事も有る様ですが、理科系の場合は、discussion sessionというある種の復習や演習の時間を受け持たされたり、大学院のコースの採点係を任されたりします。尚、discussion sessionというのは、授業で分かり難かった所や、時間的制約で本講義ではカバー出来なかった所を説明したり、宿題を含め色々な演習問題を解いたりする為の時間で、所謂debateを学生とやる時間ではありません。如何にdebate好きなアメリカ人といえども、数学や物理でdebateをしたりは、勿論しません。よく日本語のディスカッションと同じ意味に取り、とても自分には出来ないと思っている人が居る様ですから、念の為に申し添えておきます。とはいえ、research assistantshipより高い英語力が必要である事は確かで、自分の経験からしても、最初のうちはやはり大変でした。尤も、理科系の場合は知識さえしっかりしていれば、少し位英語が拙くとも何とかなる物ですから、しっかり準備をしても出来ないという程難しくはありません。Teaching assistantshipは学科全体で運用されるのが普通で、その資金も毎年学科の必要経費の一つとして計上されています。
Assistantshipで充分に暮らせる
殆どの大学のassistantshipが授業料免除と給料という形で与えられており、授業料免除については、制度化されている場合とfundが有れば与えられるという場合が有ります。しかし、良い学生を取る為に各大学が熾烈な戦いを展開しているので、有名大学の看板学科等の場合には原則として免除してもらえると考えて良いでしょう。給料については、既述の通り、贅沢さえ言わなければ学生一人が本代等も含めて十分に暮らせるだけの額が支給されています。因みに月給の目安としては、research assistant (RA)の場合Stanfordが$1330、MITが$1420、Berkeleyが最低$1149、teaching assistant (TA)の場合Stanfordが$1468、MITが$1650、Berkeleyが最低$1333となっています。大学により、Stanfordの様に仕事の種類によってほぼ一律に決まっている所や、Berkeleyの様にピンからキリまで有る所が有るので、どの大学のpayが一番良いかは決め様が有りませんが、Berkeleyの最低額でも暮らすのに十分と言うのはお分かり頂けたのではないでしょうか。最も基本的な食費や住居費が日本より高い地域というのはまず有りませんので、本代等もここから出す事が出来ます。
院生も労働者
Assistantshipはhalf time即ち週20時間の労働という仮定のもとに支払われていますが、自分の知る限りでは、自分自身も含め、本当に20時間働かなければならなかった理科系のTAは居ませんでした。それどころか四、五時間も働かないTAすら居ました。はっきりとそう言う人は居ませんが、大学側としては、研究の忙しい院生なので、少しだけ働いてもらってそれを20時間分の労働と見なす事によって、TAという名目上の仕事に奨学金的機能を持たせようとしているのかも知れません。これに反してRAは基本的に自分の研究ですから、何時間分がRAで残りの何時間が自分でやった分などと考えるだけ無駄。普通に研究をしているだけなのに20時間分は労働として給料が支払われると言う、正に笑いの止まらないeasy livingです。
先程から「給料」という言葉を使っています。それはassistantshipsが実際に雇用、それもF1 visaの留学生でも合法的に出来る大学によるon-campusの雇用だからです。例えばMichigan大学やWisconsin大学には、正式に認められたgraduate assistants達の労働組合も有り、「院生はどの様な仕事を受け持とうと、学生以外の何者でもない」という日本的な考え方とは、良きにつけ悪しきにつけかなり違います。学生達自身も、自分達は学生であると同時に労働者でもあると考えている様です。
あなたのチャンスは?
さて、assistantshipの貰い易さですが、大雑把に言って実験系・応用科学系・工学系の研究にはresearch assistantship、数学・理論物理等の純粋科学系の研究にはteaching assistantshipと言うのが相場であり、如何にresearch assistantshipが望ましいとはいえ、純粋科学の人はout of luckという事になります。しかし、teaching assistantとして教えた経験は非常に貴重な物であり、工学部等でも、research assistantshipが十分に有るのに、態々一度はTAを経験する事を義務付けているところが沢山有ります。更に、純粋科学系の人は将来大学に勤める可能性が高い訳であり、その際にも必ず教育経験が問われますから、進んで様々なコースのTAをするようにして下さい。ある程度のレベル以上に達している大学では、何らかの形で経済的に大学院生をサポートするのが方針で、その金が有る分だけしか入学を許可しないというのが殆どです。例えばUC Berkeleyの数学科の公式Web site (http://www.math.berkeley.edu/GradAnnounce97-98.html#Application)には“The Department's policy is that financial support for five years is guaranteed to all students making satisfactory progress toward the degree. This policy determines the level of admissions.”と明記されています。つまり、学生が辞退せぬ限り、大学院生は金銭的にサポートする物だという常識が浸透しているのです。まともな大学なら、入学許可は少なくともteaching assistantshipによるサポートを意味すると考えて下さい。院入試の無いアメリカでは複数の大学に願書を出せる為、水増しの入学許可と読み違いにより予想外の新入学者数となり、予定通りサポート出来なくなる事が稀には有ります。十年近く前にUC Berkeleyの数学科ででそういう事が有りました。30名程度を見込んでいたのに、何と90名も入って来たのです。自分はその時Berkeleyに居ましたから、どうするのだろうかと興味半分で見ていましたが、他学部のTAをさせたり、よその大学で教えられるアメリカ人の院生には、そうする事を要請したりして切り抜けました。例えばコンピューターサイエンスでは、research assistantshipsが有りすぎて、慢性のTA不足に悩まされており、窮余の策として四年生をTAにしたりしていましたので、数学科からの申し入れは渡りに船だった様です。兎に角入学許可とお金とがセットになっている国なので、特に有名大学ではその名前を守る為にも、学生のサポートを非常に真剣に捕らえている様です。これを志願者側から見ると、お金は非常に貰い易いという事になります。因みにfinancial supportの申込書は、application packageと言って、入学願書と必要書類一式の中に自動的に組み込まれています。
結論から言いますと、有名大学の多くの学科では、お金を貰う為には入学さえ出来れば良いという事です。しかしながら、日本ではアメリカの大学から学位を取った人も未だ少なく、日米間でのシステムの違いも有って、特に競争率の高い大学に入学する為のknow-howが分からない人が多いと思いますので、以下に詳述します。アメリカでは所謂入学試験は有りませんので、日本とは随分様子が違います。自分も実際に行ってみるまでは、アメリカは全てに合理的な国だと思い込んでいたのですが。このadmission processというやつは、どう考えてもexact scienceだとは思えません。それだけに色々なコツが有りますから、是非これを機にマスターして下さい。
入学選考の五条件
先ず、入学許可を受ける為に大切な物として、推薦状、英語力(TOEFL・TWE・TSE)、これまでの学科の成績、GRE等の標準テストの成績、そして「statement of purpose」と呼ばれるessayが有ります。この内statement of purpose、即ち何故その大学のその学科に入りたいかと言う作文、については、最も掴み所が有りません。これまでどういう勉強をして来て、それがその学科での勉強・研究にどう役立つか、その学科で何がやりたくて、それが将来自分のやりたい事や就きたい仕事にどう繋がるか等を、あまりドラマチックにならぬ様明確に書くとか、もし具体的にやりたい事が決まっているのであれば、それに付いて書き、その分野での自分の実力や適性をアピールするとか、必ず英語のnative checkを入れるとかいう以外のアドバイスは自分も思い浮かびませんし、所謂参考書の類にもあまり書いてありません。参考書類には、statement of purposeの例が出ていたりもしますが、様々な形態が有り過ぎてあまり役に立たないと思います。と言う訳で、statement of purposeに付いては、「Good luck!」という事にし、本稿では他の四つに焦点を絞ります。
Letters of Recommendation
先ず推薦状ですが、これが最も大切な提出物だと言っても過言では有りません。行きたい大学院が決まったら、推薦状を書いて下さる先生を探すのに全力を尽くして下さい。その際、言うまでもない事ですが、如何に日本で有名な先生でも海外で認知されていなければ意味が有りません。更に言うならば、如何に良く知られた先生でも、その大学の教官達に知られていなければ、推薦状には何の効果も有りません。自分は一度Shlomo Sternbergと言う有名なHarvard大学の数学の先生に、どの様にして院生の選考過程が進むのか尋ねた事が有りますが、先生は一言“It is just a matter of who we know can write a strong letter for that student.”、つまり「私達の知っている人のうち誰が、推薦状で強く推してくれるかだけが問題だ」、とおっしゃっていました。 常識で考えても分かるかと思いますが、アメリカ国内は固より世界中から志願者が願書を出してくるのに、入学試験は無く書類だけの選考ですから、全く海の物とも山の物ともつかない学生よりは、よく知っている高名な学者の推す人間の方を取りたがるのも理解できます。何れにせよ上述のinexact scienceで、かなり人間的要素の強いやり方が伝統的に行われている様ですから、是非ともその様な推薦状を揃えて下さい。普通は三通程要求されますが、一通スターの物が有れば十分かも知れません。Berkeley時代に友達から聞いた話ですが、彼はCaltechの物理に出した三通の推薦状の内、一通はあまりにも短く、一通は寧ろ悪い推薦状で、結局まともだったのはPrinceton大学の恩師の一通だけだったそうです。しかし、その先生が数理物理の分野ではあまりにも有名であったので、簡単に入る事が出来たそうです。自分の推薦状は見られない筈なのに、何故彼が知っているのかと不審に思って尋ねてみたところ、母校Princetonを訪れた折りに、その恩師が「どうしてあんな奴等に推薦状を頼んだのだ。それにしてもとんでもない事を書きやがって」と、笑って話してくれたからだそうです。このエピソードは教授達が自分達の学生の入学許可等に関して内部情報をかなり大っぴらに交換している事を示唆し、その倫理的正当性は兎も角、これは心得事だと思います。向こうの教官達が良く知っている先生に書いて貰う事の意義が、はっきりと現れている例ではないでしょうか。理想的には、志望校のプログラムや院生のレベルを知っている教官で、志望校の教官に良く知られている人に、「この学生はこうこうの理由で、そちらのプログラムに非常に相応しい人間である」とはっきり書いて貰えれば、一番効果が有ります。
Push and Pull
Internetのpush technologyとは意味が違いますが、自分は大学院入学に際し、日本の先生に推薦状で押し込んで貰うのをpush technology、これに対しあちらの先生にまるでファイルをダウンロードする様に呼び込んで貰うのをpull technologyと呼んでいます。フィールズ賞の広中平祐先生は、あまりにもずば抜けていた為に、向こうの教授が学者を招聘する様に手厚く大学院に迎え入れて下さったそうですが、そこまで優れていなくとも、研究分野が合致するなど、相手に取りたいと思わせる方法は幾らでも有ります。その為には平素からその教官の研究論文等を読み、学会や招待講演の折り等に積極的に質問をしたり、自分の成果を説明したり、emailを送ったりしてみると良いでしょう。自分の存在を先ず知って貰わねば、事は始まりません。アメリカには出来なくとも偉そうにしている学生が沢山居ますし、日本の学部生のレベルの高さはアメリカの比では有りませんから、学部生だからと言って気後れする必要は毛頭有りません。但し、日本と同じく向こうの教官にも色々なタイプの人が居ますので、あなたのapproachを歓迎していない様であれば、「俺みたいに偉い学生に興味を示さないなんて、馬鹿なやつだ」と潔く退却して下さい。そんな場合でも、自分の研究に興味を示されたり、自分の元で学びたいと言われて気を悪くする学者は稀少ですから、決してマイナスの要因にはならないと思います。向こうの先生に取りたいと思われたい一心で、つい勉強にも研究にも力が入ると言う結構な副次効果も有る様ですから、このpull technology試してみるだけの価値は有るのではないでしょうか。勿論、最も効果が有るのはpushとpullを合わせたpush-and-pull technologyであるのは言うまでも有りません。
英語
さて、その様に向こうの先生にcontactを取ったりする際にも不可欠なのが英語力ですが、理科系の人間にはこれがなかなか大変です。元々言葉などには興味の無い人が多いですし、自分自身も英語の勉強をしながらいつも「こんな暇が有ったら、研究をしなければ」と焦り、そのジレンマに悩まされていました。しかし、お互い受験生時代にはただ単に点を取る事だけが目的で、究極の必要悪だと腹を立てながら日本史の年号を覚えたりしたのですから、戦争にも負けたしこれももう一つの必要悪と考えるより他有りません。誇り高きフランス人でも、ビジネスでは英語を使う事を余儀なくされる様に、20世紀後半の英語のあらゆる分野への進出は目覚しい物が有り、英語力が身に付いていて損をする事は有りません。我々が生きている内に、この趨勢が大きく変わる事はまず無いでしょう。即ち、年号の丸暗記の様なその場限りの物ではなく、英語力は真に終生の財産となるのです。最近では邦文誌にpaperを出しても誰も取り合ってはくれませんし、理科系では学位論文等も英語で書くのが普通ですから、これはどうしても避けては通れない問題です。とは言え、お互い嫌いな物は嫌いですから、効率よく勉強するに越した事は有りません。勿論基礎的且つ総合的な英語力が先ず根底に無ければ、specialized Englishの力も付きませんが、自分は留学希望の学生さんの英語の勉強を、便宜上二つのaspectsに分けて考えています。一つは研究や勉強にそのまま役立つ英語、もう一つはTOEFL等で点を取る為の英語です。特に研究や勉強に役立つ英語は、留学希望でなくともしっかり身に付けて頂きたい物です。
研究や勉強に役立つ英語力は、学生さんにとっては生活英語の力ですから、その分野の英語のジャーナルや書物を毎日一時間は読み、研究室に有る物の英語名を覚え、ノート等も英語で取る等、普通の学生としての生活を英語で行う事によって培われます。特に実験ノートや講義ノートを英語で取るのは、普段必要とする実用英語力を身に付けるのに大変有効です。最初は何とも言えず苦しい物ですが、一月も経てば慣れてきます。尚、間違っても教科書指定の洋書の邦訳版を買ったりしない様に。邦訳版より高い事の多い英語原本ですが、それだけの値打ちは十分に有ります。
受験勉強に解法のテクニックや傾向と対策が有るように、如何に英語の実力のある人でもTOEFL用の勉強もなさる事をお勧めします。具体的には過去の問題集を買い、tapeを聞き、単語を覚えるという単純な作業ですが、この単語が大変な曲者で、例えば「pirouette」(バレリーナの爪先旋回)という単語を見た時には、開いた口が塞がりませんでした。アメリカ人でも知らない人が沢山居ましたし、出題者は一体何を考えて居たのでしょうか。この例からも分かる様に、残念ながらTOEFL用の勉強を避けて通る事は出来ません。尚、必要以上に神経質になる必要は有りませんが、単語と言い文の内容と言い、明らかに人文・社会系の人間が有利になる様な内容です。例えば新聞や雑誌の記事等も、殆どが人文・社会系ですから仕方が無いのかも知れませんが、受験者の専門的知識ではなくその英語力を純粋に測る様なテストに是非変えて貰いたい物です。これは自分が学生の頃から言い続けている事で、皆さんにも御賛同頂き、理科系留学希望者の間で、それこそ一種の社会運動にして行ければと思っております。最後に一言、TWE (Test of Written English)という作文力の試験も課されている場合も有り、TWEは限られた日程でしかoffer されていないので、その点の下調べを十分にして下さい。
御存知の様に実務的な理由も有ってTOEFLにはspeakingのsectionは有りませんので、TOEFLの高得点がそのまま話す力の証明にはなりません。このギャップを埋める為の試験がTSE (Test of Spoken English)です。TSEはrecommendされる事は有ってもrequireされる事は少ない様ですが、自信のある人はこれを受けられる事を、個人的には薦めています。日本人の英語力、特に会話力、の無さはアメリカでも有名ですから、日本人らしくなく会話も出来、最初からTAも出来るとなると、admission committeeに与える印象も随分違って来ると思います。繰り返し述べている様に、これはexact scienceでは有りませんから、印象も大切にすべきです。
相対的英語力
自分もそうですが、理科系の人間は豊かな言語感覚という意味では、文科系の人達に太刀打ち出来ません。しかし絶対評価は兎も角、相対的英語力は理科系人間の方が有ると自分は何時も言っています。その意味は、理科系の方が伝えなければならない情報が遥かに単純である為に、英語力は文科系の人間より低くとも、専門における情報伝達力では彼等に勝ると言う物です。文学や社会学を英語で論ずるなんて、考えただけでも身の毛が弥立ちませんか。我々は基本的には物に付いて話が出来れば良い訳ですので、そんなに難しく考えず、正しく表現する事だけを努力目標にされては如何でしょうか。そして読み・書き・聞き・話す力を必要な範囲で総合的に見に付けて行けば、かなりの相乗効果が期待できると思われます。日本人は聞き話す力は無いが、読み書きは出来るというとんでもない神話が、日本のみならずアメリカでも広まっている様ですが、これは真っ赤な嘘。英語のemailのメッセージを読み違えたり、短い研究報告を書かせても、間違いだらけで何が言いたいのかまるで分からぬ様な人が殆どです。学会等でも用意した原稿は読むが、後は黙り込む人が多く、主催者側を大いに困らせています。何れにせよ、即効性のあるやり方は存在しないので、気合いを入れて、しかし気長にやる事です。自分も渡米前後の四年間程で漸く英語が何とか使える様になりました。この世の中には、たとえ英語が出来ても単純な微分すら満足に理解出来ない恵まれない人達も沢山居るのですから、英語が難しくとも自信を失わずに頑張って下さい。
下手な英語に慣れているアメリカ人
毎年100万程帰化申請が有ると言う移民の国アメリカでは、英語が第一言語でない人が国中に溢れています。ニューヨークのタクシー運転手達の様に、貧しくて教育レベルが低かった為に、英語が旨く喋れないという人も多いですが、有識者の中にも、顕著なドイツ訛りのノーベル平和賞受賞者、元米国国務長官Henry Kissingerに代表される様に、英語が完全だとは言えない人が沢山居ます。特に理科系の教官には海外育ちが非常に多い為、ひどい英語の人が多数居ます。この様な環境である為に、アメリカ人は下手な英語に慣れっこになっており、余程ひどくない限り真剣に聞いてくれます。特に理科系の学生にとっては、外国人教官や外国人TAの英語の理解はsurvival skillとまで言われ、外国人TAの英語workshopの裏として、学生の為に外国人の英語理解の為のworkshopを開いてはどうかと冗談が出る程、理科系学部では外国訛りが横行しているのです。周りを見て安心するのも考え物ですが、peace of mindという意味では、持っていて悪くない情報ではないでしょうか。
GPA
日本の成績表も問題です。日本では院への進学は入学試験によりますから、学部の成績は普通であれば問題有りませんが、アメリカではGPAという平均成績の指標が非常に大切です。A(優)が4.0、B(良)が3.0、C(可)が2.0、D(可の下)が1.0、そしてFが0.0というスケールで、学部で取った全クラスの平均が4.0に近い人がひしめいていると言うのが、トップクラスの大学の志願者の現状ですから、GPAというコンセプトすら無く、平均成績など気にも留めなかった日本の学生は、いざapplyする段になって面食らう事が有ります。これなどは、アメリカのアカデミアの国際性の欠如の典型的な例で、世界中からの留学生を歓迎すると言いながら、自分達の尺度を全てに当て嵌めようとするあたり、アメリカの国際化もhalf-bakedであるとニューヨーク市立大学の恩師がいつも言っていました。20年前に自分がapplyした時にもこれに悩まされたのですが、日本人留学生の数は増えても、事態は一向に改善されていない様です。この対策ですが、アメリカの大学教官達の間に日本の現状に対する理解が少しずつ浸透するのを待つより他は無いかも知れません。しかしそのプロセスを少しでも早める為、例えば多くの学生が必要以上に単位を取っていると言う事実(時には200単位とか300単位とか)を指摘したり、日本の大学の入学試験問題を見せ、そのレベルの高さを示す事によって、事実はどうあれ、学部で良い成績を取るのが非常に大変であると言う事をアピールしたりするのが良いと思います。アメリカは、特に学部レベルでは出来る人が必ず所謂有名校に行くとは限りませんから、トップレベルの大学への秀才の集中度も日本程では有りません。HarvardでもStanfordでも入れたが、金銭的理由等で近くの州立大学に行ったとかいう人は幾らでも居ます。日本では、東大に行けたがそれでも地方の大学の方を選んだなどという人はまず居ませんから、例えば東大や京大の学生のレベルの高さは知る人ぞ知るで、現状はどうあれ、そんな凄い所なのだから良い成績を取るのも大変だろうと向こうが思ってくれればしめた物なのですが。もう一つの逃げ道は最初に強調した推薦状です。Specialistの国アメリカでは、それが正しいかどうかは別として、ずば抜けて出来る事が有れば弱点は無視してくれますから、専攻分野では非常に優れているとの御墨付きが貰えれば、GPAは低くとも目をつぶってくれるでしょう。何れにせよ、平均成績が優と良の真ん中ぐらい(GPAが3.5)にはなる様に、そして専攻分野では殆ど優になる様に、普段から心掛けて下さい。
GRE
最後に標準テストですが、殆どの大学がGREを要求して来るので、ここではGREに話を限ります。GREにはgeneral testとsubject testが有り、全てmultiple choiceで行われます。Subject testは何故か16分野でしか用意されておらず、例えば工学関係ではcomputer scienceとengineeringしか有りません。これでは専攻分野の知識が正確に測れない事も多いので、受けなくとも良い場合も多いですが、general testは大抵要求されます。老婆心ながらapplication packageに「strongly recommended」と書いてあれば「required」と同じだと考えて下さい。
General testはverbal、quantitative、analyticalの3 sectionsからなり、verbalは英語の試験、quantitativeは算数の試験、そしてanalyticalは論理的思考力の試験です。Verbalはnative speaker用の英語の試験である為に、日本人ましてや理科系の日本人には難し過ぎ、admission committeeも殆ど考慮しませんので、英語力を証明する為には、このsectionの勉強よりはTOEFLに全力を尽くした方が良いでしょう。但し自分の知っている人で、このsectionで高得点(690)をあげた為に、理科系の日本人としては非常に珍しい例だとしてall aroundな力を持っている新入生だけに与えられる特別なfellowshipまで貰った人も居ますので、我こそはと思われる方は少なくとも一年ぐらい前から猛勉強してチャレンジしてみて下さい。Quantitativeは理系・文系を問わず日本人にはまるでジョークです。特に理科系で大学院に進もうという人達にとっては、あまりにも問題が初歩的で、選考の役に立たないとして槍玉に挙げられる事がまま有ります。理系の日本人はほぼ全員が満点か満点に限りなく近い成績ですから、英語の算数表現などに良く慣れ、それが理由で間違ったりする事が無い様にして下さい。内容は中学の算数です。最後のanalyticalですが、強いて言えば知能テストにこんな問題が有った様な気がしないでもないのですが、普通の日本人にとっては見慣れない問題が多いと思います。又ある種のパズルと言うか頭の体操なのですが、条件設定が全て言葉でなされている為に、外人にはかなり厳しいのではないでしょうか。1970年代に自分が受けた頃には、このsectionはexperimentalと言われ、考慮されなかったのですが、最近はこのスコアに重きを置く場合も有ると聞きますので、過去の問題等にあたり、しっかり解法のテクニックを身に付ける様にして下さい。Verbalは難し過ぎ、quantitativeは特に理科系の学生にはやさし過ぎるという事になると、差が付くのはここだけと言うケースも考えられますから。
Subject testに付いては、上述の如く16種類しか無い為に自分の専攻が含まれていない場合も多く、必ずしもこれを要求されるとは限りませんが、純粋科学系の化学・生物・物理・数学等ではほぼ定番となっています。UC Berkeleyの数学科でもそうでしたが、多肢選択の試験である事も有ってGREのsubject testが一人歩きする事はまず無く、幾つかのindicatorsの内の一つという程度です。但し、非常に点数が良かったり、逆に非常に悪かったりすると選考委員達も気が付き、fellowshipの選考に有利になったり、所謂足切りに引っ掛かったりする可能性が出て来ます。この極端な例として、一時CaltechのApplied PhysicsがGREのphysicsのsubject testが95%以上であった学生にspecial consideration(それが実際に何を意味したのかは不明だが、紹介書類にそう書いてあった)をしていた事が有ります。尚、GREは飽くまでもアメリカの平均的な大学で学んだ学生を対象とした物であり、日本のcurriculumで学んだ人は特別な点取り勉強が必要となると思います。但し、過去の問題等を見れば分かりますが設問のレベルは高くないので、どんな内容がカバーされるかさえ掴めれば、試験準備はそれ程大変では有りません。
出来の悪い参考書類の中には、GREを院生用のセンター試験になぞらえたりしている物や、全国統一の院入試などと紛らわしい表現を使っている物が有る様ですが、GREはあくまでも幾つか有るfactorsの一つに過ぎず、推薦状や普段の成績より大切という事は普通は有りません。ただ、様々な国の様々な大学から様々な学科に願書を出して来る学生の中から大学全体で出しているfellowshipを誰に与えるか決める様な場合には、他に何も拠り所が無いので、便宜上GREのスコアがdiscriminatorとして使われる事は有ると言うのは既述の通りです。最後にgeneral test用の勉強は英語の良い訓練にもなるという事を一言付け加えておきます。
ここを狙え
純粋科学系なら数学・物理・化学・生物、工学系なら電気及び電子工学・機械工学・土木工学・コンピューターサイエンス等、所謂「正統派」の学科は競争率も高く、requirementsも厳しい物です。学科によっては毎年十人位しか取らない所も有りますし、そうなると如何に成績や語学力が完璧でも空きが無いと言う理由だけで刎ねられる可能性も出て来ます。そこで自分の目で見た独断と偏見に満ち溢れた穴場情報を御送りしましょう。自分の穴場の定義は単純にレベルの高い研究は出来るが入り易くてお金も貰い易い所ですが、そういう場所を探す際に心得ておくべき事が二つ有ります。一つ目は最初に述べた様に、例えば「正統派」の学部・学科はhighly visibleで目立ちますが、そこにだけ有名な先生やfinancial aidが集中している訳ではないと言う事。日本でも学部の方に院生の希望が集中し、研究所に行きたがる学生が少なかったり、学部内でも一部の講座や先生に人気が集中したりする事が有りますが、このあたりの学生気質は日米に共通している様です。二つ目はアメリカのacademiaの層の厚さで、有名大学ではなくとも実力の有る教授が沢山見つかると言う事です。学生が、出来るからと言って必ずしもトップクラスの有名大学に行く訳ではない、という話は既にしましたが、これは教官にも当て嵌まり、例えばoil moneyで懐具合の良いテキサス大学がハーバードから現役のノーベル賞学者を引き抜いたなどと言うのは、日本だとどこか地方の県立大学が東大の教授を引き抜いたというぐらいshockingな出来事ですが、アメリカでは時々有る話です。更に日米両国共に大学関係の職が激減しており、特に純粋科学などでは、余程のスターでない限り地方の大学等にしか職が見付かりませんので、有能な人間がどんどん中堅どころの地方大学に奉職しています。
ねえねえ、こんな学科知ってた?
日本より学科の数が遥かに多いアメリカでは、必然的に学科間で教育・研究内容に重なりが有ります。例えば生物学関係の統計学はDepartment of Statisticsでも、Department of Biostatisticsでも学べますが、name recognitionだけの問題で、Biostatisticsの方が入り易くなっています。又、無理をしてComputer Scienceに入らなくとも、興味の如何によってはInformation Management and Systemsという様な名前の学科で同じ研究が出来るといった例も有ります。固体物理を専攻していた友人は、学部時代の専攻は物理学でしたが、大学院はDepartment of Applied Physicsに進み、その理由として研究内容は変わらないのにfellowshipやresearch assistantshipが遥かに貰い易いという事を挙げていました。理論系だったので、物理に居たらTAを余儀なくされていたのでしょうが、engineerの方が多い環境に入った為、理論家の存在が却って重宝がられ、fellowshipやresearch assistantshipを貰い続けて4年程でPh.D.を取ってしまいました。自分より一年遅れて大学院に入ったのに、2年程先に卒業してしまったのです。お金を貰った上に、ただ単に理論が分かると言うだけで皆に賢いと感心され、“It is perfect for my ego.”と冗談半分とはいえ、御満悦の態でした。
学際的専攻
上記は賢い学科の選択の例でしたが、利口な専攻の選択と言うのも有ります。Interdisciplinary、つまり学際的な物も含めると、Illinois大学では専攻の種類が200を超えるそうですが、これは決して例外では有りません。Communication Disorder Management等訳の分からない専攻が参ったかこれでもかと言う程有るので、当然の事ながら専攻間に研究内容の重なりが出ます。Interdisciplinaryであるが故に高い人気と競争率を誇っている物も勿論有りますが、中にはただ単に研究費の取り分を増やすだけが目的で作られた物も有る為、お金持ちの先生が折角居るのに閑古鳥が鳴いている事もまま有ります。勿論そんな事はどこにも書いてありませんので、ある程度自分でresearchをする必要が有りますが、幾つかのプログラムに問い合わせると、向こうの応対で大体様子が分かる様になります。この際、必ずfinancial supportに付いても尋ねてみて下さい。学生を欲しがっている専攻は、5年間は必ずサポートするとかはっきりと言う筈です。又、例えば「Physicsと比較してApplied Physicsを専攻した方が良い理由が何か有るか」とか、かなり不躾に聞いて見て構いません。Interdisciplinaryな専攻は学科ではありませんから、指導教官はそのプログラムに参加している様々な学科の教官の中から選ぶ事が出来ます。数多くの学科が共同運営しているのが普通で、例えばHarvard大学のChemical Physicsという専攻はDepartment of Chemistry and Chemical Biology、Department of Physics、Department of Astronomy、Division of Engineering and Applied Sciencesの有志がやっています。まるで選り取り見取りのbuffet(バイキング)の様だと思いませんか。
研究所
日本でも例えば京都大学理学部化学教室は化学研究所より学生の間で人気が高いですが、アメリカでも研究所勤めの先生方が学生集めに苦労されている事が有ります。殊に実験系の研究所では兵隊が必要ですから、金銭的な面も含めて学生が厚遇されている事も良く有ります。日本でもある程度そういう事は有りますが、アメリカの大学では入ってからどこに配属して何をしたいかが、入学許可の大きなファクターになる事が有りますから、研究所関係の教官をわざと希望してみるのも一つの手です。勿論、その際に既述のpull technologyを併用して下さい。学生が欲しくて仕方が無い教官なら、大いに後押しをしてくれるでしょう。余談になりますが、大学付属でない独立した研究施設でも、教育や研究者養成というmissionを達成する為、また学生を確保する為にわざわざ大学とtie-upして院生用のプログラムを運営したりします。例えば、海洋学関係ではアメリカ最大の非営利研究施設であるマサチューセッツのWoods Hole Oceanographic InstitutionはMITとのjoint programを持っており、年間140人もの院生の教育に寄与しています。MIT程の大学でなくとも、又正式のjoint programでなくとも、近隣の研究施設との行き来は概して盛んであり、学生にとって色々な意味で大変有益です。University of Marylandの院生がすぐ近くに有るNASAのGoddard Space Flight Centerや生物関係であればU.S. Department of Agricultureの研究プロジェクトに参加するなどしているのがこの好例です。
田舎のプレスリー
最後に地方大学に居るスターですが、まるで満天の星の如しでとてもここでは書き切れませんので、日本の先生に尋ねたり、様々な賞の受賞者を調べたりしてこれぞと思う人を見付けて下さい。ノーベル賞受賞者だけに限っても、日本と大違いで実に様々な大学や研究所の人達が取っているのが分かる筈です。自分も1979年に初めてアメリカに渡った折りには、大学の名前よりも教授や研究室の名前をというので、University of Marylandに有ったCyril Ponnamperumaという教授の率いるLaboratory of Chemical Evolutionに行きました。この研究所は全米でただ一つchemical evolutionをやっていた所で、大学その物は大した大学ではないので、京大と言うだけで優遇され、10月にapplyしたのに1月に入学させて貰ったうえ、いきなりteaching assistantにもして貰いました。懐の深いアメリカのacademiaでは、こんなユニークな研究施設があちらこちらの大学に有り、所謂御買い得となっています。
以上が穴場情報です。繰り返しますが、金銭的サポート、研究レベルと内容、入り易さ等、ストレートな質問をどんどんして下さい。丁重である限りいくら尋ねても大丈夫です。そういう質問への応対でプログラムの品定めをするのは、アメリカでは普通ですから、向こうもそれを十分に心得て対応する筈です。対応が悪い様なら、学生を欲しがっていないか、プログラムの運営に問題が有るかどちらかでしょうから、そんなプログラムは無視して下さい。自分が日米教育委員会(フルブライト)のpre-departure orientationに参加した折り、東京アメリカンセンターのdirectorのBrooks Spectorさんが、日本人の場合には自分でこんなに失礼な事をしてと思うレベルよりもう一歩踏み込んだぐらいの積極性が丁度良いとおっしゃっていました。勿論「失礼な事をせよ」と言うのは言葉の綾ですが、積極的に質問をする姿勢が無いのは、確かに日本人学生の最大の欠点の一つです。
わいど・わーるど・うぇぶ
World Wide Webは別名Wide World Webとも言われ、あなたと広大な世界を結ぶパワフルなツールです。何百と有る大学の何千というプログラムの情報を、限られた誌面で網羅したりする事など到底不可能ですから、この記事をspring boardとして自分で留学情報の海へ飛び込んでみて下さい。岸からは見えなかった面白い物が見付かるかも知れませんよ。Bon voyage!