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没落予定の貴族だけど、暇だったから魔法を極めてみた 作者:三木なずな
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151.知のレイナ

 あくる日の昼下がり。

 王宮の中庭で、俺はガイ、クリス、レイナの三人と向き合っていた。


「では、まいるでござる」

「手加減しないからね」

「いきます」


 三者三様の言葉を発しながら、一瞬で臨戦態勢に入る。

 それぞれの魔力が渦巻いて、人間の子供くらいならそれだけで吹っ飛ばされるほどの暴風を巻き起こした。


 同時に、三人とも魔導戦鎧を纏った。

 ハイ・ミスリル銀製の、本来の魔導戦鎧。

 それにより、三人から発している力が更に倍増した。


 先陣はクリスだった。

 同じタイミングで飛びだしたガイよりも、人狼のクリスの方がスピードが圧倒的に勝ってて、先に俺に肉薄してきた。


 魔導戦鎧を纏ったクリスの両腕には、手甲のような形で、補助的な「爪」が伸びている。

 その爪はクリスの力を受けて、灼熱の赤に色を変えた。


 目の前に迫ったクリスは、交互に「×」の軌道で両腕の爪を振るった。

 俺は地面を蹴って、数歩飛び下がって爪をかわした。


「おおっ」


 完全にかわしたはずなのにもかかわらず、爪が通り過ぎていった熱風だけで、全身の産毛がチリチリと焼けるのを感じた。


「アイスニードル・41連」


 熱には氷を。

 そう思った俺は飛び下がりつつ、無数の氷の針をクリスに向かってはなった。


「なんの!」


 まるで雨の様に降り注いでくる氷の針を、クリスは笑顔のまま全部爪で弾いた。


「ぶわっ!」


 灼熱の爪と無数の氷がぶつかり合ったせいで、爆発的な水蒸気が立ちこめて、クリスは顔を押さえながら若干咳き込んだ。


「これだからイノシシ女はダメでござる!」

「げほっ――うるさい脳筋!」


 水蒸気の壁をぶち破って突撃してきたのはガイだった。

 ガイの魔導戦鎧は、真っ赤な全身鎧だった。

 そして右手に持っているのは片刃の大太刀。


 3メートル近くあるギガースの身長とほぼ同じくらいの太刀だ。


 ガイはそれを振るいながら迫ってくる。

 長さ故に鈍重そうにみえた大太刀だが、ガイはそれを実に軽やかに振るっている。


「アブソリュート・フォース・シールド――41連」


 体術ではかなわず、俺は対物理用の障壁を張った。


 一枚につき、あらゆる物理攻撃を防ぐ魔法障壁。


 それはガイの暴風の様な連撃でもまったく同じく防げた。


 一方で、ガイはそれを一枚ずつ剥がしていった。

 連撃で「ガガガガガ――」って感じで障壁を剥がしていく。41枚あっても、全部剥がすのに5秒もかからない勢いだ。


「『スターマイン』」


 俺は新しい魔法をくりだした。

 魔晶石から始まる、一連の自動魔法の副産物として編み出した新魔法。


 ガイのまわりで爆発が起きた。


「なんのこれしきでござる!」


 小さな爆発故に、ガイは気にせず更に大太刀を振るってアブソリュート・フォース・シールドを砕いた。

 瞬間――爆発。


 シールドを砕いた瞬間に、ガイの元でそれなり(、、、、)の爆発が巻き起こった。


「くっ! まだまだでござる」


 爆発にもめげず、ガイは更にシールドを割った。

 しかし割るごとに爆発が起きる。


 自分の攻撃の一つ一つが、まるでカウンターのようにガイに襲いかかり、結果ガイは全部の障壁を破れず、ザッ、と一歩後ずさりする事になった。


「その魔法はなんでござるか」

「空中にあぶれた(、、、、)魔力を使って爆発を引き起こす。新しい魔法だ」

「なるほどわからんでござる!」


 ガイはそう言って、タン! と地面を踏みしめて体勢を立て直した。

 さっきから爆発をがっつり受けているが、どうにもダメージを受けた様子はない。

 魔導戦鎧がすごいのか、ガイがタフなのか――両方か。


「あたしに偉そうな事言った割りにはあんたも猪突猛進じゃん」

「何を言う、それがしは主に二つの魔法を使わせたでござる。イノシシ女は一つだけであしらわれたでござるよ」

「ムッキー! 魔法の数じゃないわよ! 数じゃなく質!」

「それでもそれがしの勝ちでござる。主の絶対防御と新魔法を引き出したでござる」「ムッキーーーー!」


 いつもの二人の言い合い、今回はガイが優勢だった。

 ガイに挑発されて、クリスの「力」が膨れ上がる。


 それにつられて、ガイも全身から見えるほどの闘気があふれ出した。


 なんだかんだいって二人はやっぱりいいライバルだな。

 こうして、互いに影響し合って高め合っているんだから。


「本気で行くよご主人様」

「それがしも手加減はしないでござる」


 この国の戦闘力トップ2、ガイとクリスが全力で飛びかかってきた。


 さすがにこの二人を真っ向に回して、無傷(、、)で切り抜けるのは難しい。


 だから、俺は――


「タイムストップ」


 編み出したばかりの切り札、時間停止のタイムストップを使った。

 九割近い魔力を一瞬で持って行かれて、世界が静止した。


 世界は止まったが、悠長に構えている暇はない。

 なにせたったの三秒だ。


「アメリア・エミリア・クラウディア」


 俺は詠唱して、出せる魔力を瞬間的に高める。


「リリースアロー・101連」


 光の矢を、二人に向けてはなった。

 勢いよく撃ち出された矢は、二人の前後左右――全方位を包囲して、途中で止まった。


 そして、三秒が経過して時が動き出す。


「うわっ!」

「いつの間にでござる!?」


 二人からすれば、いきなり目の前に予兆無く光の矢が現われた。

 そのため二人は盛大に驚いたが、それでも光の矢に対処した。


 クリスは爪で、ガイは大太刀で。

 それぞれ光の矢を弾こうとした――が。

 時間停止でほぼ目の前に迫った50を越える矢を完全に防ぎきることは難しく、二人は何発か光の矢をくらってしまった。


「あれ? なんともない」

「はずれでござるか――むむむ」


 光の矢があたった数秒後、不思議がる二人から、魔導戦鎧が勝手にパージされた。

「あっちゃ……これは負けた、かな」

「うむ、武装解除されたのだ、それがし達の負けでござる」


 クリスとガイはあっさりと負けを認めた。

 状況が状況だというのもあるが、それ以上に相手が俺だって言うのが大きいだろうな。

 これが互い同士に――それかちゃんとした敵だったら。

 二人はもっともっと、しぶとく戦っていただろう。


 そしてしぶといと言えば。


「レイナはいいのか? ずっと俺の隙をうかがっていたみたいだけど」


 俺は離れたところにいる、魔導戦鎧を纏ったままのレイナに聞いた。


 そう、三人と対峙したが、レイナは襲いかかってこなかった。

 彼女はずっと、俺と彼女の射程ギリギリの所で、手を出さずにチャンスをうかがっていた。


 ガイとクリスが俺に迫ってくる間も、ずっと虎視眈々と俺を狙っていた。


「はい、ご主人様に隙はありませんでした。いたずらでもできないかとチャンスをうかがってましたけど、どうにもなりませんでした」


 レイナはそう言って、実にあっさりと白旗をあげて、自ら魔導戦鎧を解除した。

 いきり立って暴風の如く襲ってきた二人とは違う怖さを、レイナから感じた。


 その事は間違ってない。

 ガイとクリスに対処しながら、俺はずっとレイナの動きにも気を配っていた。

 視線とか、魔力とかで、牽制をしていた。


 俺自身、隙は見せていないつもりだ。

 だからレイナが「隙が無い」というのは正しい。


 正しい、が。

 それで隙が無いと判断して、最後まで手を出さなかったのは恐ろしい。

 レイナも、ガイやクリスと同じように、ファミリアで種族進化した一人だ。

 ピクシーからエルフに進化したレイナは、並みの魔物よりも遙かに強い。


 その強さを持ちながら、あっさりと引き下がれるレイナ。

 ある意味、ガイやクリスよりも恐ろしいと俺は思った。


「それよりご主人様、最後のヤツ、あれ何をしたの?」

「うむ、それがしもそれが気になったでござる。主を追い詰めたと思ったら次の瞬間それがしが追い詰められてた。何をいってるのかわからんと思うでござるが」

「うーん」


 俺は少し迷った。

 ガイとクリスに話していいものかと、迷ってしまった。


「レイナになら教えられるんだけどな……」

「なんと!」

「ええっ! あたしたちじゃダメってこと? なんで」

「いやあ……だって」


 俺は苦笑いして、二人をみた。


「お前達だと、知ったら自慢するだろ」

「むむっ!」

「自慢しちゃダメなの!?」


 ガイは痛いところを突かれたって顔をしたけど、クリスはもっとストレートにそんな事を聞いてきた。


「わるいが、これは自慢されたらあまりよくない」


 そう言われると、ガイとクリスは不満げな顔をした。


 これはラードーンからのアドバイス――命令に近いアドバイスだ。


 ラードーンは、自分から伝授されたタイムシフトのことを、誰にも教えないようにと言った。

 時空間魔法はその存在を知られたら大きな騒ぎになる、無用な敵とすり寄ってくる人間を作ってしまう。

 だからそれをマスターしたことは秘匿しろといってきたのだ。


 ラードーンに言われたのはタイムシフトだけだが、話の本質的に、タイムストップも同じことだった。

 だから、俺は二人に教えられないと思った。


「えー」

「そ、それは殺生でござるよ……」


 クリスとガイ、二人が泣き(、、)をあげていると。


「私にはわかります」


 ふと、レイナがそんな事を言ってきた。


「レイナ? 分かるって何を?」

「ご主人様はきっと、新しい魔法を生み出したのです。それも、今まで誰にもできなかったような、ものすごい魔法を。それは切り札になるから、今は誰にも教えられないのです」

「おおっ!」

「そうだったでござるか!」


 一変、レイナの推測――正しすぎる推測に、二人は納得して、更に目を輝かせてきた。


「さすがご主人様だね!」

「うむ! まさしくそうでござる」


 納得してもらったのはいいけど、俺からすればもっとすごいのはレイナだ、とおもうのだった。

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